ステータス画面

春のフラワーパフェ攻略戦!

<オープニング>

●春のフラワーパフェ攻略戦!
 明るい春の空にそびえる永遠の森の大樹たち。
 大樹と大樹をつなぐ空色スイートピーの蔓花絡まる吊り橋を渡ったさきに可愛らしいツリーハウスを見つけたなら、それが近頃人気のパティスリー『トゥルペン』だ。
 朝から甘い匂いをふわり漂わせる『トゥルペン』が開店時間を迎えれば、辺りにはバニラたっぷりの焼き菓子の匂いと一緒に春の花の香りも溢れだす。
 何故なら、パティスリー『トゥルペン』を彩るのは硝子のショーケースに並ぶ菓子ばかりではなくて、季節の花々も一役買っているから。
 桜色に咲き零れるスイートピーは甘く透明に香り立ち、陽だまり色に咲き誇るフリージアは何処か桃やレモンを思わすフルーティーな香りを優しく溢れさせ、焼き菓子の匂いと溶けあい店をこの上なく幸せな香りで満たしていく。
 甘い幸せいっぱいの『トゥルペン』に開店と同時に飛び込んできたのは、華奢なエルフの少女。
「やあいらっしゃい! 今日も来たねリゼット嬢、御注文はお決まりですか?」
「スイートピーマカロン詰め合わせと苺のシフォンケーキを自宅用に包んでくださいませ! それからそれから、今日もこちらで春のフラワーパフェを頂いていきますの……!」
 きらきら輝く瞳で硝子ケースを覗きこんだ少女リゼットは、すっかり馴染みになった『トゥルペン』の店長にぐぐっと拳を握って答え、パティスリーに併設されたティールームへ飛び込んだ。
 春の空と永遠の森を望めるテラスが『トゥルペン』のショーケースに並ぶ菓子や店主特製スイーツを楽しめるティールーム。一番乗りしたテラスの中央のテーブルについたリゼットの前に、春らしい彩り溢れるパフェが運ばれてくる。
 春らしい彩りもさることながら、何より大きさが圧巻だった。通常の三倍から五倍はあるだろう。
 リゼットは銀の長い柄が美しいパフェスプーンを握りしめた。
「人生は七転び八起き! 今日こそこのパフェを攻略してみせますの……!!」

 硝子で百合の花を咲かせたようなパフェグラスの上部を彩るのは、やっぱり花咲くようにたっぷりと飾られた苺とオレンジ。その中心には雪のように冷たい生クリームが美しく渦を巻き、そっと寄り添うまぁるいバニラアイスにはラベンダー風味のミニマカロンが蝶のようにとまる。
 バニラアイスの奥に飾られているのは綺麗な扇型にカットされた桜のバウムクーヘン。まるで春の虹みたいな桜バウムは優しい甘さだけど、生クリームとバニラアイスの下で層を成す桜のムースは、蕩ける甘さの中に細かく刻んで混ぜ込まれた桜の塩漬けの風味が利いた大人の味だ。
「く……! いつも思いますけど、この桜のムースが曲者なんですわ……!!」
 美味しい。飛びきり美味しいムースだ。
 しかし、ほんのり塩味が利いているため、食べているうちにどうしても喉が渇いてくるのである。
 春のフラワーパフェ攻略に七度失敗し、これが八度目の挑戦であるリゼットは既に『苺やオレンジを残しておいて一緒に食べる』という桜ムース攻略法を編み出していたが、
「まさか、それすらも瑞々しい苺やオレンジを消費させる罠だったなんて……!!」
 桜ムース攻略を終えたリゼットを待っていたのは、厚い厚いコーンフレークの層だった。
 これといった特徴のない、プレーンなコーンフレーク。
 厚い厚いコーンフレークの層は食べても食べても底が見えない魔の層である。
 もちろんこれだって極上のコーンフレークなのだけれど、武器を使い果たしたリゼットには難易度が高すぎた。いくら極上でも、味が単調すぎるのだ。
「ここを、ここを突破すれば、『トゥルペン』の至宝こと薔薇のシャーベットに辿りつけますのに……!」
 店長が七十年の修行(エルフだからね!)の末に生み出した至高の薔薇シャーベット。
 華麗にして官能的な冷たい薔薇の香はパフェグラスの底から溢れんばかりに昇ってくるというのに、いくらコーンフレークを食べても食べても麗しき薔薇の輝きは見えてこない。
 至高の薔薇シャーベットは溶けることなく待っていてくれたのだけど。
 本日リゼットは、八度目の挫折を迎えた。
「ふ、ふふ……」
 テーブルに倒れ伏した少女の唇から昏い笑みが洩れる。
「これはもうお店の陰謀に違いありませんの。許しませんわ、店長……!」

●さきだち
「最近評判のパティスリーでこれを買った時に、そんなエンディングが視えちゃったんだ」
 永遠の森エルフヘイムの酒場のテーブルで披露されたのは、春めくパステルカラーのマカロン達。
 春咲きスイートピーの花で色と香りをつけているのだというスイートピーマカロンを皆に振舞いつつ、大梟の樹に住む・レムネス(c00744)は少女リゼットがマスカレイドと化し、パティスリー『トゥルペン』の店長を殺めてしまうという終焉を語る。
 パフェ攻略に失敗し続ける間に忍びよった棘が、八度目の挫折でとうとう芽吹いてしまうのだ。
 けどまだ大丈夫、と溌剌とした声で続けたレムネスの顔には明るい笑み。
 何故なら、少女には棘を拒絶できる可能性があるからだ。
「今なら店長は勿論、リゼットさんも救えちゃうよ。どうせなら完全なハッピーエンドにしてこようよ♪」

 春のフラワーパフェ攻略失敗が店の陰謀だというのは当然リゼットの思い込み。
 その誤解が解ければ彼女は棘を拒絶できるだろうけど、言葉で納得させるのはきっと難しい。
「ならいっそ皆でリゼットさんに力を貸して、パフェ攻略を成功させてあげればいいんじゃないかな」
 過去七度すべて開店同時に一番乗りし、他の客が誰もいない状態でパフェに挑んでいたリゼットは知らないことなのだが――実は他の客達は皆、ドリンクやトッピングを色々追加で頼んで難攻不落のコーンフレーク層を突破しているという。
 アイスミルクやブルーベリーソース、キャラメルシロップに蜂蜜ヨーグルト。
 追加するのは皆様々で、コーンフレーク層を自分好みにアレンジするのが通の楽しみ方だとか。
 店長がアドバイスしてやれば良さそうなものだが、店長はリゼットの華奢な容姿から『パフェの量が多くて食べきれないのだろう』と思ってしまっているらしい。
 が、何度も挑むからにはリゼットも量を食べきる自信はあるのだ。
 敵は量ではなく、コーンフレークの単調さである。
「つまりアンジュ達も一緒にパフェ食べて、追加注文で攻略するところを見せればいいんだね!」
「そうそう、そんな感じ♪ ついでに『君も何か頼まない?』ってリゼットさんを誘って、皆で力を併せて攻略できたらきっと素敵だよね」
 暁蝶の狩猟者・アンジュ(cn0037)にパステルピンクのスイートピーマカロンを手渡してやりながら、レムネスは春空のパステルブルーを手に取った。挟まれているのはホワイトガナッシュだ。

 そうして楽しく美味しく春のフラワーパフェを完全攻略できたならリゼットと一緒に店を出て、「流石は『トゥルペン』のパフェだ、美味しかったね」とでも笑いかけてやれば、彼女は棘を拒絶できるはず。
「そうなるとリゼットさんは拒絶体マスカレイドになるから、戦って倒せば彼女を無傷で助けられるよ」
 パティスリーのすぐ傍、大樹の幹を少し回ったところには他の場所からは見えない大きな枝があり、街の大通りくらいの幅を持つその枝の上でなら戦うのに丁度いいと続けたレムネスは、後ひとつだけ問題があるんだけど、と言を継いだ。
「他のひとに気づかれる心配はないと思うけど、パティスリーには物音が聴こえるかもしれないよね」
 店長が見にきたりすれば少々厄介なことになる。が、
「はいはいはーい! ならアンジュがお菓子買ったりして店長の足止めするよ! するよ!」
「あ、それなら安心だね♪」
 そちらはあっさり解決した。
 戦いとなれば棘はリゼットの身体を操り、パフェスプーンやパフェグラスで錬金術士を思わす攻撃をしてくるというが、
「でも配下はいないし、皆で力を合わせればきっと勝てるよね」
 迷わず晴れやかな笑みを浮かべて、レムネスは話を締めくくった。
 だってきっと、ここにいる皆が完全なハッピーエンドを望んでいると思うから。


マスターからのコメントを見る
参加者
大梟の樹に住む・レムネス(c00744)
漆黒ノ竜・リューウェン(c02487)
ハニーフィンチ・アレンカレン(c03179)
勿忘草・ヴリーズィ(c10269)
紡ぐゆびさき・リラ(c14504)
冱てる音吐・フォシーユ(c23031)
雷光戦鬼・アカツキ(c30989)

NPC:暁蝶の狩猟者・アンジュ(cn0037)

<リプレイ>

●春のフラワーパフェ前哨戦!
 桜色に咲き零れるスイートピーは春の風に香りを乗せて、陽だまり色に咲くフリージアは春の陽射しを浴びて香り立つ。花々の合間から明るい春の空に映える永遠の森が望めるテラス席を満たすのは花の香りだけでなく、朝の開店を迎えたばかりのパティスリーから溢れくる甘いお菓子の匂い。
 熱されたバターにカスタード、バニラの香り。甘いもの好きの心を擽ってやまない幸せを胸いっぱい満喫する漆黒ノ竜・リューウェン(c02487)の前に、本日の攻略目標が運ばれてきた。
「これが春のフラワーパフェ……!」
 テーブルに聳え立つ特大パフェグラスに、溢れんばかりの甘い春の彩り。
 甘味をしっかり楽しめる機会は久々だと彼は顔を輝かせたが、冱てる音吐・フォシーユ(c23031)は己がテーブルにも運ばれてきたパフェの偉容に圧倒された。
 ひとめ見ただけで朝食を半分で済ませてきたはずの胃が重くなる。しかもこれは。
 ――人命のかかった、かつてない食事……!
 のしかかるプレッシャーに思わずごくりと息を呑んだ。が、
「ステキ! ステキなの! おっきいパフェは皆の夢よね……!」
 春の陽浴びた新緑よりもきらきらと瞳を輝かせたハニーフィンチ・アレンカレン(c03179)が小さくも熱烈な拍手で難敵を歓迎すれば、彼の緊張もいくらか軽くなる。
 一人では難しくとも、彼女と二人がかりでなら、きっと――。
 硝子で大輪の百合を咲かせたような特大パフェグラスが、トップを飾る苺やオレンジで果実の花を咲かせるのはちょうど大梟の樹に住む・レムネス(c00744)の目の高さ。
 春の果実は春色のバウムクーヘンやマカロンに彩られ、真白な生クリームが更なる高みを目指す。
 パティスリーの店主の瞳に視えた終焉でも見た姿だけれど、いざ自分の眼前に現れれば圧倒的なその存在感にレムネスも気圧された。けれど勿論、怯んでなんかいられない!
「折角だし、僕はひとりで1パフェグラスに挑戦しようかな♪」
「アンジュもひとりで1パフェグラスするー!」
 何時の間にか定着しているパフェグラス単位。
 時には激しい戦いもこなすエンドブレイカーたる暁蝶の狩猟者・アンジュ(cn0037)はともかくとして、華奢なエルフの少女リゼットもひとりで1パフェグラス仕様な光景に、雷光戦鬼・アカツキ(c30989)はひっそり戦慄した。
「ごく普通の女性がこれを平らげるというのか……」
 生まれて初めて食べるパフェの巨大さと併せ二重のカルチャーショックを受けていると、
「実はわたくし、まだ全部食べきれたことがないんですの。これが八度目なのですけど……」
 先程の言葉が聴こえたらしい彼女がはにかむように微笑み返す。
「八度目? すごい、わたしは今日が初攻略なの。ね、姉さま?」
 春風めいた笑みを零した紡ぐゆびさき・リラ(c14504)が内緒話をするようリゼットに話しかければ、暁色の娘をテーブルに手招いていた勿忘草・ヴリーズィ(c10269)も妹分の言葉に頷いた。
「完全攻略を目指したいよね。あ、わたしはヴリーズィだよ」
「私も初めてなの、一体どんな美味しさなのかしら……!」
 アレンカレンも加わり皆で自己紹介をし終えたなら、リラは高鳴る胸の前でそっと手を合わせ。
 硝子に咲く、甘くて冷たい春の花を――。
「いただきます」
 雪のような生クリームにふんわりかかった桜バウムクーヘンの虹、丸いバニラアイスの丘にとまったラベンダーマカロンの蝶。どれもこれもに胸弾ませたアレンカレンはすっかりパフェに夢中。
 ほら食べてみて! と苺を乗せたマカロンをフォシーユに差しだしたところではっと我に返れば、もうそれが最後のフルーツだった。
 現れた前哨戦、桜のムースを掬ったスプーンに最後の苺を乗せてもらって、
「追加、どうする?」
「え? トッピングや飲み物を頼めるの? アイスミルクお願いしてもいい?」
 微かに緊張気味だった瞳を和らげたフォシーユが訊けば、アレンカレンが驚いたような声をあげる。勿論リゼットに聴かせるためだ。
「飲み物があると素敵だよね♪ 僕はカモミールティーにしようかな、ここなら春咲きのがあるかも」
「蜂蜜入れても美味しいよレムネス! ね、リラは何にする?」
「わたしは春摘み紅茶がいいな、なんて。リゼットさまは?」
 重ねてレムネスがオーダーすれば、ヴリーズィとリラが流れを加速させる。
 俺も紅茶を、とリューウェンが流れに乗れば、そこに新風が吹き込まれた。
「我はコーヒーを一杯もらおうか」
 この桜の塩気で友人が好んでいた塩コーヒーを思い出してな、とアカツキが呟けば、
「塩コーヒー!? 何それ何それ気になります先生……!!」
 珈琲を探究中だというアンジュが思いきり瞳を輝かせて食いついた。
 濃い目の珈琲に僅かな塩を加えることで、苦味が抑えられ味に深みが出るのだと解説してやって、この桜ムースの仄かな塩気を塩代わりにしてみるつもりだと続けたアカツキがふと気づけば、リゼットまでもが興味津々な様子で聴き入っている。
「パフェは冷たいんだもの、飲み物でおなかを温めれば乙女は無敵なの!」
 ぐぐっと拳を握ってアレンカレンが後押しすれば、
「わたくし、温かいカフェオレをお願いしてみますの……!」
 リゼットも新たな世界へ足を踏み出した。

●春のフラワーパフェ攻略戦!
 優しく甘酸っぱく香り立つカモミールティーは胃にも優しい頼れる味方。ヴリーズィおすすめの蜂蜜で優しさを増した花茶を片手に桜ムースを突破したレムネスは、難攻不落の砦に到達した。
 豊かな陽だまり思わす色合いのコーンフレークが降り積もる、春のフラワーパフェ最大の難関だ。
 ここで彼が投入した新兵器は。
「よし、オレンジソース一本に絞るよ!」
 夏の夕陽を甘く蕩かしたようなオレンジソース。
 濃厚なベリーの誘惑も捨て難いけど、なんて思えば顔に出たらしく、フォシーユとリューウェンが顔を見合わせて笑み交わす。
「レムネスさん、ラズベリーのコンポートはいかが?」
「俺のヨーグルトとラズベリーのコンフィチュールも良ければ。リゼット殿もいかがだろうか?」
「よろしいんですの!?」
 分け合える相手が増えれば楽しみも増すもの。リューウェンがそう微笑めばリゼットはヨーグルトをもらって、皆に倣って頼んだキウイのコンフィチュールをお裾分けした。
 桜ムースの下層をコーンフレークに混ぜ込むフォシーユの作戦に舌鼓を打っていたアレンカレンは、深い夜のように艶めくラズベリーや明るい木漏れ日めいて煌くキウイに手をぱたぱたさせて大感激。
「どれもこれも美味しそう! ね、アカツキのそれは何?」
「これか? これはぜんざい――と注文したら通じなかったが、砂糖で煮た小豆だ」
 東方風の小豆の甘煮と言いかえればすぐに出てきた。
 軽やかさくさくのコーンフレークと柔らかな小豆の食感の違いがなかなか楽しい。
「小豆なら生クリームも合うんじゃないかな、どう?」
「ふむ、ではありがたく」
 とろりと緩めにホイップされた生クリームと塩キャラメルを絡めたクラッシュアーモンドがヴリーズィの秘密兵器。同じパフェをシェアして攻略するリラがふるふるのカスタードを重ね、きらきら降らせる銀色アラザンの雪。そして体の芯にまで瑞々しい春を呼びこむアーリーファーストフラッシュで喉を潤せば、もう負ける気がしない……!
「アンジュはヨーグルトとレモンピールを頼んでる気がするよ!」
「半分当たり! ヨーグルトとマンゴーピューレだよ!」
「アンジュさま、どれが合うか一緒に色々試しませんか?」
「きゃーするするー!!」
 甘いものには欲張りになってしまうのが乙女、チェリージャムにチョコレートソースなんて隠し球まで頼んだリラの用意周到ぶりに感嘆しつつ、ヴリーズィは難攻不落をひと崩し。
「リラにもアンジュにもあーんしたげる」
「ならわたしも、姉さまとアンジュさまにあーん、です!」
「アンジュもリラちゃんとリズちゃんにあーんしたいー!」
 嬉しげに言ってはたと瞬き、暁色はもうひとつ幸せ見つけたように笑みを燈した。
 ――リラちゃんリズちゃんって呼ぶと、二人はまるでほんとの姉妹みたい。
 続けられた言葉に、姉妹のような二人からきゃーと歓声の花が咲く。
「姉妹で一緒にパフェなんて素敵ですの……! 一人っ子なわたくしには憧れですわ……!」
「もちろん姉妹もステキだけれど、ね、パフェ大好き同盟仲間なんてのもステキだと思うの!」
「まあ……!」
 羨ましげなリゼットにそう持ちかけたのは、ホットレモンで乙女無敵作戦を敢行中のアレンカレン。皆でパフェ大好き同盟を結べばもう怖いものなしだ。
 嬉々としてコーンフレークを攻略する皆の様子にフォシーユも相好を崩した。いつしか最初の緊張も忘れ、このコーンフレークは火を使うだけでなく天日で丁寧に乾燥させてあるんだな、なんてゆっくり味わいつつ分析する余裕まで生まれてくる。
「こうやって皆で食べてると、コーンフレークが終わるのも名残惜しくなってきちゃうよね♪」
 楽しげにそう笑いながら、レムネスは遂に難攻不落を越えた。
 皆も、そして勿論、リゼットも。
 そうして辿りついたのは極上の春の楽園、『トゥルペン』の至宝こと薔薇のシャーベット。
 遮るものもなく溢れくる華やかで官能的な香りはそれだけで頭の芯まで眩ませるよう。深く冷たい薔薇の煌きを口に含めば、凍れる至宝はしゃらりと溶けながら広がって、
「――……!!」
 極上の薔薇水に心のまま溺れるような陶酔を齎してくれた。
 最後のひとしずくまで食べ終えても、体の奥ではひとつ、またひとつと薔薇が咲き初めていく。
 至宝の余韻に浸りながら皆が達成感を噛みしめる中、特大パフェを完食してもなおまだ余裕のあるリューウェンは吐息の笑みを洩らす。甘味に耽溺するひとときは喩えようもない至福。
 おかわりも出来そうだ……なんて呟いた、その瞬間。
「ねえねえリューウェンさん、樽――」
 どきーん!!
 突如耳に入った言葉に甘党剣士の口から心臓が飛びだしかけた。
「――の形のウイスキーボンボン売ってるんだって! 一緒に買おうよ!」
 暁色の娘の話がそう続けば心臓でなく安堵の吐息が口から洩れたが、胸はまだどきどきしている。脳裏にこだまするのは『樽になる気か、リュー』といつか誰かに言われた言葉。
 何となく察して微かに笑み、アカツキは厳かに手を合わせて瞳を閉じた。
「ご馳走様」

●春のフラワーパフェ追討戦!
 憧れ続けた春のフラワーパフェ完全攻略を成し遂げたリゼットは、皆様のおかげですわ……! と、熱く瞳を潤ませ感激にふるふると身を震わせた。
「パフェ大好き同盟の仲間だもの! ね、食べ過ぎちゃったからちょっとお散歩しない?」
「素敵! お天気もいいですから、少しぶらりしましょうか」
「ぜひ御一緒させてくださいませ!」
 すっかり打ち解けたアレンカレンやリラの誘いに迷わず頷く少女と皆が席を立てば、少し離れた席で白銀の髪の娘が店長を呼ぶ。
「お茶が冷めてしまったの。替えて下さるかしら」
 それから刻んだナッツとドライフルーツを、と手間のかかる注文を足す。
 この場は任せて、と言うように柘榴の瞳に目配せされて、暁色の娘も皆を追った。
 パティスリーを出る頃には陽射しもすっかり真昼の明るさ。明るい春空へ向け大きく張り出す巨大な大樹の枝へと向かい、ヴリーズィが笑いかけたなら、
「流石、春のフラワーパフェは絶品だね」
「ええ、全部食べられて本当に幸せですの……!」
 満面に笑みを咲かせたリゼットは自分でも知らぬまま、己が裡の棘をきっぱりと拒絶した。
 棘が弾け散るような感覚を少女本人以外の誰もが知覚したその瞬間、
「――来る!!」
 大樹の木漏れ日踊る中空に、巨大なパフェグラスが現れる。
 一気に膨れ上がったパフェグラスが呑み込んだのは、声をあげたフォシーユと傍らのアレンカレン。だが早春の煌き纏う剣を抜き放った彼は即座に硝子を貫き、砕けた硝子の雨に青灰色の春コートを踊らせ瞬時にリゼットへと距離を詰めた。
 現れた仮面を狙う切っ先につどうは凛冽な凍気。
「甘いのとしょっぱいのに、冷たいのと温かいので最強なんだっけ?」
「そうなの、乙女の最強仕様なの!」
 じゃあこの子で行くよ、と笑ってレムネスが手招けば、黒猫の星霊がぽんと彼の肩を蹴って大樹の枝に降り立った。尻尾から熱い火炎弾が撃ち込まれたなら、これで乙女は無敵よ、とアレンカレンも強気に笑って魔道書の頁を風に踊らせる。
 今のリゼットの状態は、拒絶されて体内から弾きだされた棘が身体の表面に必死でへばりついて無理矢理彼女の身体を動かしているようなもの。棘を滅ぼせば彼女を無傷で取り戻せる。
 頁から溢れた紫の輝きが棘の広がりを封じれば、続けてリラも祈典の書を木漏れ日に翳した。
「姉さま!」
「ねえリゼット、またあのパティスリーで逢えたら嬉しいんだよ!」
 金糸の詞を煌かせて迸ったのは不可視の衝撃、けれど妹分が描いた力の軌跡を迷わず読み取り、蜜の色に春薔薇咲く扇を舞わせたヴリーズィが黒雲から雷を奔らせた。
「……!!」
 棘を打ち据えた閃光が雷鳴を轟かせればその直後、狙いをつけ損ねてかあらぬところから現れた巨大なパフェスプーンがリューウェンを突き上げた。
 腹への一撃は厳しかったが即座に吹き寄せたアンジュの癒しの風で衝撃を拭われ、苦悶ではなく笑みを洩らして剣士はそのまま宙に身を踊らせる。
「また何度でもパフェに挑戦したいものだな、リゼット殿!」
 そのために――マスカレイドには退場していただく。
 夜風が吹き下ろす様にも似た斬撃が、リゼットの脚に絡みついた棘を霧散させた。
 宙から襲い来るパフェグラス、足元の樹肌から突き上げてくるパフェスプーン。
 大きさは違えどそれらは『トゥルペン』のものそっくりで、フォシーユの眦を微かに緩ませる。菓子は食べた人を笑顔にしたいという、作り手の願い。
「完全攻略したパフェの味、どうだった?」
「……最高……!」
 凍れる刃とともに問えば、リゼットには陶然たる笑みが咲き、仮面には大きな亀裂が咲いた。
「ならばまた挑もうではないか、幾度でもな!」
 突如足元から突き上げてきたパフェスプーンを朱の旋棍で打ち払い、その柄を蹴りつけて跳躍したアカツキの脚に竜が宿る。流星のごとく落とされた蹴撃が爆発を生んだなら、砕け散った棘も仮面も、春の陽射しに溶けて消えた。

 戦いの最中に投げ出されてしまっていた『トゥルペン』の包みを拾い上げ、フォシーユはその感触に口許を綻ばせた。流石は人気店の菓子箱、中身はちゃんと無事らしい。
「……わたくし、一体……?」
 やがてリゼットが意識を取り戻せば穏やかに微笑んで、その手に甘い春の幸せを返してやる。
「悪い夢は覚めたよ」
 満ち足りた幸福を識った彼女がまっすぐに、菓子の作り手の願いを受けとめられるように。



マスター:藍鳶カナン 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:7人
作成日:2014/04/26
  • 得票数:
  • 笑える1 
  • 怖すぎ1 
  • ハートフル14 
冒険結果:成功!
  • 生死不明:
  • なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。