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裏切ノ指

<オープニング>

●絡む小指
 ――約束を交わした。
 私の小指と、彼の小指を絡め。約束を交わしたのは何時の事だったか。
 そんな事は忘れてしまったけれど、約束の事はよく覚えている。指を絡めた感触も、未だ小指に熱く宿る。今も尚、彼の小指が私の指に寄り添っている……そんな感覚。
 ああ、けれど彼にとってあの約束は。既になかった事になっている。
 先ほど見かけた、寄り添うあの女はなんなのだろう。仲睦まじげに歩く、菖蒲の着物を纏う女の事を私は知らない。彼女の髪に揺れる牡丹の髪飾りは、私が先日欲しいと語っていた物だった。
 似た瑠璃紺色の瞳が4つ。交じわう姿を見て、私の心が揺らぐ。
 想いが余所へと移ったのだろうか。私の事などもう、忘れてしまったのだろうか。
 約束を、交わしたのに。
 彼を想い、醜い心が私を満たしていく。残る気持ちは嫉妬、憎悪、苛立ち――そんな不の感情。それが悪しき力であろうとも、私は私の手で。契りを交わしたこの手で。彼との関係を断ちたい。

 契りと誓いの証の指切り。
 ――私達は、婚姻の契りを交わしたのだ。
 ――だからその小指、私に頂戴。

●契り言葉
「……約束か」
 手袋に覆われた掌を見つめ、鞭のソーンイーター・ユリウス(cn0182)はぽつりと言葉を零した。
 ――彼は視線を上へと戻し、酒場に集うエンドブレイカー達を見回す。
「約束を破られた女性が、嫉妬に支配され殺しに行く」
 そんな、よくあるお話。そうユリウスは冷静に零す。
 指切り。それは約束を交わす1つの手段として用いられるもの。その行動に拘束性等無いが、それを信じる人がいるのも事実。――だからこそ、今回のような事件が起きる。

 事件が起きるのはアマツカグラの繁華街。華やかな街の中には、影となる裏道も多数存在する。
「その裏道で、スオウとトキが出会ったところ位に、辿り着く事になるね」
 それ以前に接触する事は不可能だし、接触してしまっては今後どのような事件に発展するか分からない。だから彼等が遭遇したところで、どうにかトキを保護するしかない。
 エンドブレイカーが狙うのはスオウただ1人。配下等はいない為、十分足止めは可能。
 けれど一般人である彼は、棘に支配された見知った顔を見て冷静ではいられない。だから――。
「彼の避難は、僕のほうでやっておくから。君達はマスカレイドの事、お願い」
 初撃さえ注意して足止めしてくれれば、十分逃げる余裕はあるだろう。そこは君達に任せるから、逃げた後は戦闘に集中して。そう言ってユリウスは説明を続ける。
「スオウが使うのは異形化した手の爪。毒や異空間を引き裂く攻撃を使うよ」
 どちらも対象は近接のみ。比較的、足止めもしやすいだろう。威力はそこそこあるようだが、体力は低いので長期戦になる事はよっぽどこちらの火力が低くない限り、まず無い。
 戦闘自体はそこまで大変では無いだろう。あとは彼女に対して、何を想うか――。

「約束が嘘か真か。それは当人だけが知っている。けれど、トキが本当に裏切ったかは……」
 それは彼の視たエンディングからは読み取れなかった。ユリウスの感じるトキの人間像は、そのような事をする人物では無かったと。それだけを添える。
「まあ、その真偽が分かるとしたら戦闘後、彼と話してみてかな」
 ――その頃には、恐らく彼女はこの世からはいなくなってしまっているけれど。
 戦後、トキと話すか話さないかはエンドブレイカーの自由。ユリウスは君達が決めた流れに沿って動くと、言葉を添えた。そう、彼をどう幸せに導くかを含め――。
「……もしかしたら、苦しい話になるかもね。けれど、マスカレイドになってしまったら後は1つ」
 エンドブレイカーがその棘を破壊するだけ。
 どのような結末になろうとも、この道筋だけは変わらない。
 だから協力をよろしく――それだけを、ユリウスは藍色の瞳を真っ直ぐに向け語った。

 この物語が醜い話になるか。それとも悲恋になるか。
 それはエンドブレカーの行い次第。なのかもしれない。


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参加者
眩暈の尾・ラツ(c01725)
野生の戦士・マークス(c03816)
キララ・サヤ(c23230)
マイペースエルフ・ラヴィア(c34422)
いつか空も射抜いて・リリウム(c35470)
沈丁花・ステルラ(c35778)
揺蕩う狂愛・デルタ(c35857)

NPC:鞭のソーンイーター・ユリウス(cn0182)

<リプレイ>

●朱と瑠璃
 溢れる光と人の声――それは遠く遠く。その空気は微かにしか届かない。
 表の華やかな空気は人の手により作られた物。人の手の介入しない裏へと入り込めば、その景色は同じ街とは思えない程違う姿を見せる。
「あ、あそこです!」
 帽子の下から覗く瞳で捉えた人影。いつか空も射抜いて・リリウム(c35470)が仲間へ報告をすれば、皆急ぐ脚に力を込める。
 漏れる光も届かない、暗がりの中。
 闇深くなり顏は分かりづらいが、着物に描かれた牡丹の赤が、妙に瞳に焼け付く。揺れる花模様。その色に、沈丁花・ステルラ(c35778)は穏やかな瞳のまま、そっと自身の髪飾りに触れる。
 2人は言葉を交わしている――急がなくては――。
 逸る心を抑えるように胸に手を添え、揺蕩う狂愛・デルタ(c35857)の鮮やかな羽織が闇に流れる。
 ――きらりと爪が煌めいたかと思うと、金属の音が路地に響く。
「お話中失礼! お嬢さん、我々とダンスでも如何ですか?」
 男を背にするように、間に入ったのは眩暈の尾・ラツ(c01725)。彼は輝くナイフで、鋭い爪を受け止めていた。予想外の感触に、目の前の女性は朱色の瞳を見開く。
 ――交じわう、男と女の朱と橙の瞳。
 そのまま彼女が距離を置くのと同時に、カチャリと金属音が小さく鳴る。――キララ・サヤ(c23230)が手にしていたランタンを床に置いた為、辺りはぼんやりと微かに灯された。
 その光は外には漏れない程の光量。けれど、この場を照らすには十分だろう。その灯りを頼りにするように、次々とエンドブレイカー達は前に出る。
「あんた達、何を……!?」
 突然現れた人影に、真っ先に声を上げたのは男――トキだった。その声を背から耳にした野生の戦士・マークス(c03816)は、ちらりと一瞬視線を映す。
「スオウの腕を見れば分かると思うが、彼女は棘霞の魔物になっている」
 棘霞。魔物。聞き慣れぬ言葉に、男は眉を潜めその顔に疑問の色を浮かべる。けれど今、説明をしている場合では無い事は明白。ランタンの灯りに煌めく爪は、確かに彼を狙っている。
 そっと一歩踏み出したステルラは、彼の手を取り。
「わたし達はエンドブレイカーです。事情説明は後で必ず、どうか今は逃げてください」
 そう言葉を掛け、鞭のソーンイーター・ユリウス(cn0182)へと引き渡す。彼はその手を取り、ステルラと視線を交わす。――簡単に説明はしておくから。少年の呟きに、彼女は頷きを返す。
「とりあえず、今はこっちへ来て下さい」
 ユリウスの言葉に戸惑うトキ。追うようにマークスが「ここから逃げろ」と紡げば、足音がゆっくりと響き――段々と早くなり、そのまま2つの足音は遠のいていく。
「待って……!」
 その足音を追うように、荒い声を上げスオウは足を踏み出すが――。
「――だめ、スオウ」
 きらり、揺れる金星。その道を塞ぐように、サヤが大鎌を手にしていた。強い想いを語っても、完全にマスカレイドへと慣れ果てた彼女へは伝わらない。それは解っているけれど……声を掛けたい。だから彼女は、天に浮かぶ月と同じ色の瞳を真っ直ぐに彼女へ向ける。
 トキを保護している間に生まれた隙を使い、彼女を囲うように既にエンドブレイカー達は陣取っている。その陣形に穴があればここで彼女は彼を追いかけていただろうが――。
「裏切られて恨めしい気持ちは分かるが、それでも命の重さは量りに掛けてはいけないんだ」
 抜ける道は無いか。探すように辺りを見回すスオウ。
 そんな彼女に向けて、マイペースエルフ・ラヴィア(c34422)は静かに言葉を零す。
 彼が手にする魔道書を開けば、闇に溶ける純白のマントが揺れ動いた。

●愛情の表われ
 ――ふわり。戦場に舞う冬吹雪が、更に視界を塞ぎ逃げる2人の姿を消す。
「貴方達は、私の邪魔をするんですね」
 リリウムの作った冷たい空気の中、風に舞うスオウの漆黒の髪。長いその髪の下から覗く朱色の瞳は鋭さを帯び、ギラリとエンドブレイカー達を睨んだ。この包囲を振りほどいて、彼を追う事は出来ない。ならば目の前の者達を殺さなくて――そう、思ったのだろう。
 伸びた小指の爪が輝く。
 爪を鳴らす音の後。真っ直ぐに振り下ろされた爪の一撃を受け、マークスは顔を微かにしかめた。けれど彼は反撃をするように、獣化した腕を振り下ろし相手の腕を切り裂く。
 鋭い攻撃に、慌てて距離を置くスオウ。
 はらり――彼女の立っていた所に、闇に溶けるような着物の黒が落ちる。
 着物の袂が破れ、腕が露出する。けれど彼女の瞳には、嫉妬や憎しみと云った負の感情のみが帯びている。その強い感情は、後ろ姿しか見えないデルタでも感じる事が出来る。
 心が揺さぶられる。その姿が昔の自分に少し重なって見えるから。眼鏡を外し銃口を向ければ、更に彼女の姿が鮮明に見える。心が微かに乱れる気がするが、情で動いてはいけないと彼は解っているから――瞳を細め引き金を引き、真っ直ぐにその身を撃ち抜く。
 弾丸を受け身体が傾ぐ隙を狙い、サヤの持つ小枝がその身を打つ。援護するように届くのは、ステルラの紡ぐ封印の魔術。ラツが魔方陣を籠めたButterfly effectで斬撃を繰り出せば、続きリリウムはレイピアに光を纏わせる。
 目の前に居る彼女を見て、リリウムの心境は複雑だった。――真意は今は解らない。けれど、スオウに悪い事は無い筈。棘の力が無ければ、まだ幸せの未来が残されていたかもしれないから。だから、闘う事も。言葉を交わす事も出来ずに終わる終焉も。認めたくはない。けれど。
「どうあっても、スオウさんをトキさんの元へ行かせる訳にはいかないんです……!」
 真剣な青の瞳を彼女に向けつつ、光輝くレイピアを振るう。
 外には漏れないように。そう気を付けつつも、スオウの心に問い掛ける言葉が紡がれる。リリウムの言葉を聞いて、ラヴィアを言葉を添えるように口を開いた。
「御前の相手は俺たちがしてやるよ、お前には誰も殺させやしない。それがせめてもの敬意だ」
 ――そう、まだ彼女は棘に囚われただけ。その手を溢れる血に染めてはいない。
 この段階なら、まだ救いはあると。
 そう、エンドブレイカーならば信じたい。
 けれど――。
「敬意なんてどうでも良いです。私はただ、私の想いを果たせれば!」
 血の零れる爪先を鳴らし、叫ぶように語るスオウにその想いは伝わらない。
 ただ。ただ。彼を殺したい――。それが今、棘に囚われた彼女の強い、そして唯一の意思だった。
 それはトキへの強い想いの証でもあるのだろう。だからこそ、既にその身がぼろぼろになろうとも、彼女は彼の逃げた方へと背は向けない。ただ真っ直ぐに――彼を追おうとするだけ。

●絡む想い、約束
 ふらり――揺れる身体を見て、ラツはナイフを握る手を強める。
 彼女が悪い訳でも。彼が悪い訳でも。誰かが悪い訳でも無い。誰かの責任では無い。それはラツには解っている。何が悪かったのかを挙げるならば『間』が悪かっただけ。
 何か1つでも歯車の巡りが変われば、この物語は別の物へとなったのだろう。
 ――そう感じるからこそ、目の前の苦しそうな彼女の姿が痛々しい。
「けど! 身を任せた以上、行き着くは一つ。御案内しますよ!!」
 勢いよくナイフを振るい斬撃痕を刻めば、黒地から覗く肌に鮮血が走る。腕を伝う鮮血は真っ直ぐに地へと落ち、ぽたりぽたりと血の水溜りを形成していく。
 伝う血を視線で追いつつ、マークスは淡青色の大剣を握り彼女に迫る。
「本当にマスカレイドになるしかなかったのか? 綺麗になって見返してやるとか出来なかったのか?」
 視線が交わされる。涙の滲んだ瞳が直ぐ近くに――マークスの言葉に、鋭い眼差しが和らぐと。
「少しでも彼と離れているのが苦しい気持ち、分かりませんか?」
 乱れた髪を整える事もせず、悲しげに笑い問い返すスオウ。この姿になった彼女に、既に後悔などと云う感情は存在しないのだろう。きつく唇を噛むと、マークスはそのまま獣の手を振り下ろす。
 約束を破られた恨み。
 けれど尚、愛しているから棘に憑りつかれた。
 そのきっかけは解らない。けれど、せめてすれ違いであって欲しいと。そうデルタは望む。勘違い故の死は悲しいかもしれない。しかし、彼等の交わした約束に嘘偽りがあるよりは――彼は願い、鮮やかな瞳で定め、引き金を引く。その銃音を傍で聞きつつ、ラヴィアもまた約束の重みを感じていた。
 もう、あと数回の攻撃で彼女は倒れるだろう。
 数多の経験を積んだ身ならば、それが分かる。そっと慣れぬ鞭を持つ手を下ろし、ステルラは後方から透き通る海の瞳で真っ直ぐ彼女を見つめた。
 悲しげな笑みの奥に潜む、トキへの深く、歪んだ愛情。
「どうして信じられなかったのですか?」
 するり、彼女の口から零れるのは同情では無い、素直な気持ち。
 ステルラ自身、無理な願いをした事がある。彼の微笑みを頼りに、ずっと長い間約束を信じ続けた経験がある。逢えない時間は、気が狂いそうな程に悲しい気持ちは分かる。分かるからこそ――彼女は疑問に思うのだ。貴女は間違っている。だって――。
「殺すなら、彼女の方ではなくて?」
 どんな結果であろうと、『愛しい人』を害するのが分からない。
 上品な顔立ちからは想像もつかない言葉が零れ、スオウの表情が揺らぐ。暫しの沈黙の間は、誰も攻撃をする事が出来なかった。
「……私はね。彼との約束が無くなるのが怖かったんだと思います」
 女を消しても、彼の意思は変わらないかもしれない。約束は、私だけが信じたのかもしれない。
 それが怖くて。逃げたくなったのかもしれない。だから――。
「約束を永遠のものにする為にも。私は彼を殺して、彼の小指が欲しいんです」
 くすりと、不気味な笑みを浮かべるスオウ。――どこまでが素の彼女の想いで、どこからが棘による歪みなのか。それはもう分からない。けれど、今の彼女の本心である事は確か。
「……でも、その願いは叶いそうも無いわね」
 頬を伝う血を拭っても、次々と流れる。もう駄目だ……それが分かっているからこそ、彼女はただただ愛しい人がいるであろう方角を見つめる。
 既に立っているのがやっとなスオウ。そんな彼女に。瞳を伏せつつ、唇を結び、サヤが星々を揺らしつつ銀の大鎌を振るうと――1人の命を、奪った。
 傾ぐ身体。パキリと彼女の爪が割れる音が響いたかと思えば、仮面の落ちる音が続く。
 武器を地に投げ、サヤは倒れる彼女を抱きとめる。掛ける言葉は想いつかない。けれど。
「あなたの、想い……トキに、届ける」
 絶対に――そう伝える為にも、サヤは彼女の手を取り、爪の折れた小指を絡め約束をする。
 2つの瞳が閉じられる間際。彼女の唇が和らいだのは気のせいか。
 けれど、絡んだ指から伝わったのは。確かに温かな人の温もりだった。

●夢の牡丹を
「スオウ……?」
 彼女が事切れてどれ程の時間が経過したのか――エンドブレイカー達には分からない。けれど耳に届いたトキの声で、元の世界へと意識を引き戻された。
 丁度倒れる彼女へと、ラヴィアが花を添えているところだった。駆け寄るトキ。
 その姿を見送ったユリウスは、戦いを終えた仲間達へ労いの視線を送る。
 ――路地に響くのは、微かな泣き声。
 その姿を見てしまっては、もう誰も彼が悪いとは思えなかった。……元から疑ってはいなかったが。
 けれど……そんな彼に掛ける言葉は思いつかない。重い空気を破ったのは、マークスだった。
「スオウのことは気にするな。彼女が自分で選んだことだ」
 自分を責めないように――そう言い聞かせるように、彼は紡ぐ。けれどトキは、顔を上げない。
 彼の隣りにしゃがむサヤ。説明したのは事件の表面だけ――そうユリウスが零せば、頷き少女はゆっくりと語り出す。スオウがどれだけ、貴方を愛していたのか。どんな想いだったのか――。その語りに乗せるように、ステルラも口を開く。
「髪飾りを他の方がつけていたのが耐えられなかったようです」
 それだけ深くあなたを愛していた。
 そう伝えれば――勢いよく顔を上げたトキの表情には、動揺が見えた。
 今回の事件の真相が知りたい。それは皆の想いだったが、その切り出しは難しい。彼も混乱して説明は難しいだろう。皆が戸惑いの表情を浮かべる中、ラツが口を開く。
「トキさん」
 座る彼の耳に届くようにと、ラツは膝を付くと緩やかに言葉を零す。
「菖蒲の着物に牡丹の髪飾り。貴方と同じ――瑠璃紺色の眼をした女性」
「彼女は、血縁者……?」
 紡がれるラツの、続くサヤの言葉に、はっと瑠璃紺の瞳を見開く彼。そのままくしゃりと笑うと。
「……エンドブレイカーって人は。何もかもお見通しなんだな」
 そう、1言零した。
 それからゆっくりと、彼は語る。血の繋がった実の妹で、最後の1つだった髪飾りを彼女が買ったから、それを譲ってくれと頼んだ事。その代わりを買う為に、一緒に店に訪れた事。
「それを見られたんだな……。驚かせようと思ったのが、逆効果だった」
 笑いながら頭を抱えるトキ。それはどう見ても強がりで……彼自身が壊れてしまいそうな程、痛々しい。だからステルラは零す。――貴方に罪は無いと。
「お話する前に疑心に捕われ彼女自ら堕ちてしまったのですから」
 棘に囚われるか否かは、本人の心次第。それは、エンドブレイカーならば痛い程解っている。けれど、それを一般人に理解して貰うのは難しい。それでも罪の意識を少しでも軽くしたいから。
 小指に纏った赤い糸にすがり付いた彼女。そんな彼女を憶えていて欲しい。
 そうラツが紡げば、静かにトキは頷いた。
 ――そう、だから亡骸だって。きちんとした手段を使いたい。
 彼は胸元に手を入れると――彼女が焦がれた牡丹のかんざしを手に取り、そっと掌へと乗せた。
「スオウ……スオウ……!」
 血に汚れた真白の顔。愛しい人にすがるように、再び涙を零す。
 ――後はもう、出来る事は無い。首を振るとエンドブレイカー達は、静かにその場を立ち去った。

「憎悪は愛情の双子ですよ」
 激しく愛した証拠――そうラツは語ると、ユリウスへと問い掛ける。
「……想いが深いほど、突発的な事に対する対処は衝動的だよ」
 いつもと変わらぬ瞳を見返し、少年は瞳を逸らすと静かに口を開いた。
「なんだか、やるせない感じだよな」
 人に憑りつくマスカレイドの事件は、悲劇を生む事もある。それを目の当たりにし、ラヴィアは瞳を伏せつつそう語った。そしてそれは、リリウムとデルタも同じ想い。
「二度とこの様な出来事に出会いたくないですね……」
 胸元が疼くような気がして、そっとデルタは触れる。天を見てリリウムは、早く棘と魔女を滅ぼそうと。そう誓っていた。

 ――微かだった泣き声はもう聞こえなくなっても良いはず。
 ――けれどその声は繁華街を離れるまで。彼等の耳に届いていた。



マスター:公塚杏 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:7人
作成日:2014/05/27
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  • せつない27 
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