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歓喜のめざめ

   

<オープニング>

●歓喜のめざめ
 薄らと大地を覆う雪の合間からは明るい萌黄色した春草が芽吹き、雪解け水が集まって生まれた清流が軽やかに楽しげにせせらぎ唄って木々の合間を戯れながら駆けていく。森成す木々の樹皮もまるでほんのり雪化粧を施されたような白。すらりと伸びて天を目指す白樺の木々は深く澄みきった空へいまだ冬芽を抱いたままの梢を広げているけれど、新芽が目覚めるのも、もうすぐのこと。
 揺りかごの森ナナユーラというのがこの白樺の森の名前。
 けれど近隣に住むひとびとは皆、ナーナユーラと唄うような響きで森に呼びかける。

 ねえナーナユーラ、あなたのめざめを、少し分けてね。

 前日には揺りかごの森の奥深くに抱かれた大きな大きなログハウスにお泊りするのがお約束。
 二つ名の由来となった、白樺の樹皮で編まれた大きなゆりかごめいたベッドで眠りについたなら、朝にはきっと雪解け水のせせらぎの音や、窓の隙間からそうっと部屋へ訪れてくれる朝霧の匂いで目が覚める。
 雪解け水を汲んでもらった飛びきりの清水で顔を洗ったなら、さあ、ナーナユーラに逢いにいこう。
 大きな大きなログハウスから出る頃には不思議と朝霧は晴れていて、白樺の森には思わず笑みが零れてしまいそうに柔らかな朝の光が射しこめている。
 朝の光を細やかに散らして弾ませる雪、朝露や雪解け水の滴を飾ってきらめく春草、凛と涼やかな佇まいを見せる白樺の木々。朝と森の清涼さだけで織り上げたような爽やかな朝風の中を歩めば、足取りは自然と雪解け水のせせらぎが唄うリズムに添っていく。
 目指すのは前日に仕掛けを作っておいた場所。
 白樺の幹に穴を空け、溢れだしてくる樹液を硝子瓶で受ける仕掛けを作った木へ辿りついたなら、硝子瓶には透明な樹液が溢れんばかりにたまっている。
 それは明るい萌黄色の新芽を芽吹かせるため、白樺が吸い上げる森の大地の息吹。
 青よりも群青や瑠璃に近い、深く澄みきった高原の青空へ、明るく鮮やかな新芽の模様を描きだすためのめざめの滴。
 今はまだ芽吹きを迎えていない梢が広がる空を仰ぐよう、森へ射しこめる朝の光を硝子瓶の底から受けとめるよう、朝の空へと向いて白樺のめざめの滴を飲んでみたなら――ひんやり冷たくほんのり甘く、そしてすっきりした森の清涼を秘めたそれが、舌の上から喉へ、そして身体の芯へ滑り落ちた途端に、自分の奥底から眩い光が爆ぜるような歓喜が溢れだしてくるはず。
 世界のすべてがひときわ透きとおって鮮やかになるような、この感覚。
 瞳を閉じれば春の森と一体になって、身体の隅々、指先にまで春が芽吹くような、この感覚。
 冬から目覚めきっていなかった心と身体が目覚めるんだよ、と近隣のひとびとが言う。

 ねえナーナユーラ、あなたのめざめを、少し分けてね。

●滴のめざめ
「ね、ナーナユーラのめざめを分けてもらいに行かない?」
 水神祭都アクエリオのとある高原に広がる、揺りかごの森ナナユーラ。近隣のひとびとは唄うようにその名を呼ぶのだと続けて、夏空の狩猟者・アンジュ(cn0037)は内緒話めかして誘いを向けた。
 芽吹きの瞬間を迎えるための力をたくわえるこの時期にだけ、白樺の木々からは溢れんばかりの樹液を採ることができるのだという。
 森の大地を薄ら覆っていまだ白銀にきらめく雪、雪の合間から明るい萌黄色を芽吹かせた春草達、軽やかに楽しげにせせらぎ唄う雪解け水の清流。柔らかな朝の光が射しこめ、爽やかな朝風流れる白樺の森を歩んで、前の日に仕掛けておいた硝子瓶に白樺が分けてくれためざめの滴をいただきにいこう。
 幹に空けた穴は白樺の木片から作った詮で塞げば、ゆっくり時間をかけ、やがてその詮ごと新たな樹皮に覆われていくから大丈夫。それだけじゃ申し訳ないと思うなら、感謝の気持ちをこめて癒しの術をそうっと贈って。
 朝の森を歩いて満ちた幸せな心地、樹液を分けてくれた白樺への感謝の気持ち。
 優しい何かで胸をいっぱいにして飲むめざめの滴は飛びきり美味だけど。
「それをね、朝の光に向かって飲んだなら――もうねもうね、何て言ったらいいんだろ!」
 透明な硝子瓶の底から射した朝の光が、透明なめざめの滴を光で満たす。
 ひんやり冷たくほんのり甘く、そしてすっきりした森の清涼を秘めた滴が、優しくきらめきながら喉を滑っていく様は――まるで清冽な光そのものを飲み干す心地。
 そうして、身体の奥から目覚めた歓喜が溢れだす。

 ひんやり冷たくほんのり甘く、そしてすっきりした森の清涼を秘めた、めざめの滴。
 白樺の幹から溢れだすそれは、不思議なことに木によって少しずつ風味が異なるのだという。
 だからね、と暁色の娘が嬉しげな笑みを燈す。
「あのね、めざめの滴を味わったなら、また逢おうね」
 あなたのめざめの滴の味を、いつか聴かせて欲しいと思うから。

 ねえナーナユーラ、あなたのめざめを、少し分けてね。


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参加者
NPC:夏空の狩猟者・アンジュ(cn0037)

<リプレイ>

●曙光のめざめ
 朝の森は透明感に満ちていた。
 春を迎えた白樺の森の大地ばかりでなく、大気そのものが清冽な雪解け水で濯がれたかのよう。雪の白銀と春草の萌黄に彩られた森の大地を奔る雪解け水の流れ、軽やかなそのせせらぎ掬って白樺の木々の合間を渡る朝風は、飛びきりの瑞々しさと清涼感でマシュハティク・スラク(c01308)の頬を撫でていく。
 洗いたての肌に雪解け水が弾けるみたい。
 お化粧なしは些か心許なかったけれど、この朝風を素肌で味わわないなんてきっともったいない。ふふ、と笑みが零れるままに瞳を細めれば、傍らを歩む大好きなひとの金の髪が朝の光に溶けた。
 優しいせせらぎよりも快く耳を擽る傍らのひとの笑みに眦緩め、霧氷の蒼剣士・ポウ(c07468)は、薄ら雪化粧を施したような白樺の木々の間にしっくり馴染むスラクの装いと、汚れても構わない己の装いを見比べ溜息ひとつ。
 ――俺もおしゃれになりたいんだが、どうすればいい?
 なんて言葉が口をつきかけたけれど、此方を見つめる漆黒の瞳の優しい甘さに彼の笑みも綻んだ。
 ほら、と差し出した手には冗談めかした口実を添えて。
「俺に見惚れて転ぶといけないからな」
「まあ、すっかりお見通しですね」
 瞬きひとつ、けれどポウはどんな格好をしていても素敵ね……なんて思っていたのは事実だから、スラクもはにかむように微笑んだ。だけど彼の手に己のそれを重ねることはもう自然にできるのに、胸奥の泉に次から次へと浮かんでくる幾つもの気持ちは上手く言葉にならないのが不思議な心地。
 何時の頃からか、長くしなやかな指先から伝わる震えが消えていたことにはポウも気づいていた。自分でも身勝手だと思う想いを、あるがままにスラクが受けとめてくれていることも。
 ――俺の好きと、スラクの好きは、同じものなのか?
 けれど、泡沫のように浮かんでくる疑問を掴んだら今ここにある心地好さまで弾けてしまいそうで、深くは踏み込まずに蓋をする。
 白樺に抱かれた硝子瓶に満ちる輝きを見つけた二人は顔を見合わせ破顔した。
「ポウ、一口ずつ交換しませんか?」
「いいな。春の森の輝きも甘さも分かち合おうぜ」
 弾む声音にスラクが忍ばせた心には気づかずに、けれどポウの声音も自然と弾む。
 朝の光を透かしためざめの滴を呷ればきっと、冷たく清しい森の風味の中に朝摘み苺を思わせる、この胸に秘めたものにも似た甘さが味わえるはず。
 春の朝のめざめを抱く森に響く言葉は、澄んだ水面に落ちた滴がつくるウォータークラウンみたいに楽しげに跳ね、透明な世界に踊る。
「泊まりがけのお誘いだなんて、おにーさん、最初に聞いた時はびっくりしちゃったっ」
「ビスさん……っ!」
 ――なぁんて、ね♪ 
 と続いた魔法剣士・クロービス(c04133)の言葉に太陽と月の輪・クローディア(c00038)の声音も跳ねて、雪解け水のせせらぎに掬われ彼の笑声と一緒に弾けて踊った。
 白樺は光をいっぱい求め育つ樹だから、と言う彼と選んだ樹なら、きっと滴まで瑞々しい香り。
 仕掛けた硝子瓶を二人で受けとって、森のめざめを大切に戴く心地でゆっくりと呷れば、朝の光がめざめの滴に煌いて溢れくる。
 仄かに甘く、それでいて冷たく清らに喉を滑り落ちた光の滴が体の芯に届いたなら、遥か高い梢に芽吹く明るい黄緑色の若葉が、ひとあし先に己の芯で芽吹いたかのよう。
 生命の瑞々しさが裡から溢れ、身を包む桜色のストールにまで満ち充ちて。
 体中を震わせるこの感覚が――きっと、歓喜。
 芽吹いた歓喜を取りだす心地で、クローディアは己が裡からめざめの矢を生みだした。
 ――私の創も、あなたたちと同じ優しいものになりますように。
 彼女の胸から生まれた優しい癒しの矢が、溶けこむように白樺へ吸い込まれていく。
「……春みたい、だね」
 知らず溢した言葉に、いや、今は春なんだけどさ、と笑って、そっとクロービスも白樺の幹に触れた。癒すのは不得手だけど、せめて『ありがとう』と伝わればいい。白樺にも――彼女にも。
 冷たく蕩ける微睡に搦め捕られそうな心に、冬も夜も振り払う、あたたかな風を運んで来てくれる。
 万感こめて口にする言の葉は。
「おはよう」
 雪解けを迎えたような藍の瞳を見返して、おはよう、と紡いだ娘が思案気に瞬きをした。
 ナーナユーラの春の白樺は美味しいものって覚えてしまいそう。そして。
「……最近ね、時々ビスさんもおいしそうに見えるの。不思議」
「ええっと……もしもーし、そこの狩猟者さん?」
 深い樹の色の瞳に獲物を見定めた狩人の気配が覗いた気がするのは――気のせいにしておこう。
 今は、まだ。

●至福のめざめ
 艶めく夏夜の煌き、透明な春の朝の光、続けて呷れば身体の裡で季節が廻る心地になれるはず。きっと素敵、と声も足取りも弾むアップルバスカー・マニート(c13989)の後を追い、きっと光の螺旋が生まれる心地だなと笑った砂鷲の魔想紋章士・ナルセイン(cn0172)も白樺の仕掛けを目指す。
 今の時期はね、すごくおはようって言いたくなるのよ、と秘密めかして語った娘が、
「きっと白樺もそうだと思うの。――ほら、言ってる」
 白樺の幹に耳を当てて見せれば、へぇ、と面白がるよう瞳を瞠った男が倣う。
 すかさず声色を作ったマニートが、
 ――オハヨウ。
 なんて囁いてみれば。
「あんたこういうの上手いよな」
 樹の中にペンギンがいるかと思った、と冒険商人が爆笑した。
 硝子瓶にたっぷり湛えられためざめの輝きを口にすれば、優しい甘さと森の朝の清しさそのものが喉から身体の芯へ滑り落ち、煌く光があちこちでおはようと囁くよう。
 今耳を当ててみたなら彼の肩からも――なんて思ったけれど、気になる事柄がひとつ。
「……肩こり、大丈夫?」
「お蔭様で、絶好調」
 再び爆笑した男が、おはようと囁き返した。
 揺りかごみたいな寝台でめざめ、飛びきり清冽な水で顔を洗って踏みだした朝の森の瑞々しさは、婚姻の約束を結んだあの二月の夜が明けた朝の、凛と鮮やかで幸せな清々しさを思い起こさせた。
 冷涼で、けれどほんのりと和らいだ春の森の大気を満たせば、雪下山水・ソフィア(c02845)の胸に僅かばかり残っていた不安も憂いも、輝く朝の世界に溶けていく。
 白樺のもとまで二人繋いできた手にめざめの滴を得たならば、
「貴方との、新しい幸せの始まりに」
「一緒に築いていくこれからに」
 花咲くようなソフィアの笑みに瞳を和らげながらも、真摯な声音で応えた灼撃の・リョウ(c11025)と硝子瓶をこつり鳴らして乾杯を。
 求婚を受け入れてもらった歓びも未来に待つ幸せも、彼の胸で輝きを増すばかり。けれども二人で一緒に家庭を築いていく責任もしっかり自覚していたから、唯浮かれてばかりはいられない。
 何処か敬虔な心地で呷れば、澄んだ朝の空を輝かせる光がめざめの滴をも煌きで満たす。
 清冽な光の滴を飲み干せば、心からの言葉にひときわ誠実な誓いの力が宿った。
「俺はソフィアを幸せにしたい。愛しているよ」
 春のナーナユーラの森が分けてくれためざめそのものの笑みを燈したリョウに抱きしめられたなら、白樺の滴の清冽さも彼からの約束の言葉も、新たに生まれ変わったような瑞々しさでソフィアの心に身体に染み渡る。
 自分の中から、二人の間から歓喜の光が溢れて広がって、幸せな光の繭に包まれるかのよう。
 私もです、と愛おしさのまま抱きしめ返し、滴を乗せた指先で己が唇に触れた彼女は、
「これからも、改めて……ずっと、一緒に」
 透きとおる滴のほのかな甘さごと、その指先で彼の唇に触れた。
 この朝のようにいつまでも瑞々しい、幸せの約束を。
 砂の気配と夜の彩。
 夜の砂漠の星辰みたいなひとだから、朝になったら薄らいで消えていそう――なんて胸によぎった勿忘草・ヴリーズィ(c10269)の心持ちを察してか、たとえ薄れて見えなくなっても、間違いなくそこにあるのさと冒険商人が嘯いてみせる。
 思えば『初めまして』も初夏の朝だった、と気づけば自然と娘の顔も綻んだ。
 ――ねえナーナユーラ、あなたのめざめを、少し分けてね。
 呼吸するようにするりと溢れた言の葉は、歌の音律で朝風に踊った。
 幸せの音色が響きあうよう硝子の中で唄った歓喜の滴からは、昨春萌した椿姫の滴を想起させる馨り。夢を再び芽吹かせた滴を想い、朝の光満たした滴を喉に落とせば、体の芯から命の瑞々しさと眩く透きとおった歓喜が溢れくる。
 瞳の奥に燈る熱。
 芽吹いた夢をまっすぐ育てている――自分が嬉しい。
 天槍の都で劇場が本格稼働するのももうすぐのこと。
「ルセにもお世辞抜きで素敵だって言わせてみせるんだから!」
「本気のヤツには世辞なんて言わないさ」
 挑むように、奮起するように宣言しつつ白樺へ贈るのは、世界樹の祝福を咲かせる幻の花。
 期待してる、と続いたナルセインの言葉が薫風と舞った。

●歓喜のめざめ
 瑞々しい朝の空気を胸いっぱいに吸い込めば、春森と雪解け水の香が喉を潤し肺へと満ちていく。聴覚まで透きとおった心地になれば、冱てる音吐・フォシーユ(c23031)の耳に届く声。
「おはようフォシーユ、素敵な朝ね!」
 森の小鳥達みたいに幸せな挨拶すれば、彼からハニーフィンチ・アレンカレン(c03179)へ返るのは柔らかな微笑とおはようの声。手を繋いでもいい、と訊けば彼の手が差し伸べられて、
「転ぶと危ないからね」
 冗談めかした言葉に、ほんとね、と神妙な顔で頷きかけた娘は、重ねた手が握り返された嬉しさに思わず笑みを咲き綻ばせた。
 朝の光に涼やかに映える白樺達、春の気配を抱いてひんやり透きとおる大気に、傍らの温もり。
「おはよう、おはよう、ナーナユーラ」
「――ナーナユーラ」
 愛しさに咲いた笑みのまま歌うように世界へ告げるアレンカレンの挨拶につられ、フォシーユもまたひとびとが親愛をこめた名を唇に乗せた。掌に伝わるのは小さな手の感触、無邪気な小鳥のように正直で可愛らしいこのひとは、いつだって多くのものを与えてくれる。
 遠く聴こえた小鳥のさえずりよりもそっと、すぐ傍で小鳥の娘が呟いた。
 ――この時間が続いたらいいな。
 軽やかに唄うせせらぎ、足元でさくりと鳴った雪。それらの中から拾い上げた声が胸裡でかたちを結んで、彼女の瞳のきらめきを眼にすれば、フォシーユの心に光が湧きあがる。
 芽吹いた言の葉は。
「……あなたが望むなら、いくらでも」
 そばにいるよ。
 耳に、心に響いた声が芽吹かせた彼の願いに触れれば、アレンカレンは瞬きひとつ。幻かと思った言の葉が現だと気づいた途端、掌から伝わる温もりが満ちて溢れるように頬や瞳の奥に熱が燈る。胸奥からは眩い光が膨らんで、はちきれてしまいそう。
「――うれしい」
 優しい熱で潤む視界。
 探して確かめるように、大事に大事に握り返してきた彼女の手から感じる心に、彼の心にも更なる歓喜の光が燈る。やがて辿りつくのはすらりと朝の空をめざす白樺の樹。
 目覚めゆく白樺から二人で分けてもらう恵みの滴は。
 きっと、眩い光の歓喜の風味。
 春森の朝にそそがれる、淡く柔らかな金に透きとおった光を浴び、雪解け水と朝露に潤う森の馨で胸を満たして、樹々の合間を吹き渡る風を心と身体で受けとめれば、戯咲歌・ハルネス(c02136)の唇から吐息のごとく自然と言葉が溢れきた。
「まるで――森の植物になったような気がするね」
 んじゃ二人で白樺になろうよ、と嬉しげに応えた夏空の狩猟者・アンジュ(cn0037)の眼差し追って振り仰げば、朝の空に映える白樺の梢が蒼穹に透かし織を描きだす。
「んでね、一緒に空へ透かし織りを織るの!」
「私も織るの?」
「織るの!」
 目元が和むままに訊いたなら、二人で経糸にも緯糸にもなろうね、と声を弾ませた娘が指を絡めて笑みを燈す。白樺からめざめを受けとれば、再び仰ぐ朝の空。
 世界から滴るきらめきごと、喉を伝い落ちた光の滴は、体の芯に透明な音と波紋を生み、緩やかに響きあいながら浸透していく。
 朝のこない夜はない。
 瑞々しく鮮やかに身体で識る、歓喜のめざめ。
 ――おはよう、ナーナユーラ。めざめをありがとう。
 柔らかに囁いた唇で彼女に本日のおはようのキスを贈れば、潤うめざめを受けとった娘は、きらきら幸せの味がする、と彼が誰より良く識る笑みを燈し、ハルネスの唇にもめざめのキスを贈った。
 ――おはよう、アンジュ。今日も君が大好きだよ。
 ――おはよう、ハルネスさん。昨日よりもっと、貴方が大好き。
 朝の光を抱いてどこまでも透きとおる風に促され、春のめざめ萌す白樺の森を渡る。
 清冽な世界の先に飛びきりのわくわくが待っていると思えば、万華響・ラヴィスローズ(c02647)の足取りも軽やかに唄って弾けるせせらぎみたいに弾んでしまいそう。
 振り返れば起きぬけの雪解け水にも開ききらない眸を擦る牙靂の・ジェイ(c00883)の姿。
「……夜型なの知ってンだろ」
「だからこそ、なのじゃよ!」
 夜どころか長い冬眠からめざめたばかりの兄貴分を引っぱるように、天へと枝を伸ばすしなやかな白樺の大樹へ辿りつく。妾もいっぱいもらえたのじゃよ、なんて妹分の言葉にジェイが寝ぼけまなこを瞬けば、少女の手にはその薔薇色の瞳にも映る朝の光を溶かした輝きが揺れた。
 二つの硝子瓶を陽に透かせば、透明な硝子瓶の中で硝子よりも柔らかに透きとおるめざめの滴がきらきら光を弾き、この朝に乾杯すれば、光の滴はたぷんと揺れて煌き踊らせる。
 ――大切にいただかなくちゃ。
 まるで森の宝石みたいな滴をそっと両手で戴いて、煌くめざめをひとくち飲めば、ラヴィスローズの芯に落ちた清涼な滴から朝の光そのものみたいな幸せが溢れ身体中をめぐりだす。
 冷たくて優しくて、何処か懐かしい――透きとおる、歓びの味。
 磨きぬかれた水のようにも、幾度も蒸留された酒のようにも思える透明な光のゆらめき。
 迷ったのは一瞬のこと、ひと息に乾せば澄みきった冷たさが喉を滑り落ちて、ジェイの唇から自然と吐息が零れた。硝子瓶の滴に呼気に融ける、初めてのはずの馨が、魂の芯の記憶を呼び覚ます。
 森の、息吹。
 合点がいったと朝靄纏ったような樹肌に触れれば、琥珀の双眸が自ずと和らいだ。
 枝に空を、根に地を抱いた、樹々に流れる命の清流。
 思いきって仰いだ朝の陽は眩く清冽で、大きく伸びをすればナーナユーラに恵んでもらった光ごと、指の先まで漸く朝が満ちていく。
「おはよう、ジェイ殿」
 そして、ナーナユーラ。
「おはようさん、ラビ」
 すっきりしたように透明な、輝く笑みを咲かせたラヴィスローズへ、ジェイも瑞々しい朝を映した瞳を緩めて笑み返した。ふふ、と笑みを零した少女が続けて紡ぐ。
 ――めざめの気分はいかが?
「妾はね、最高じゃ!」
「ああ、飛びきりの目覚めだな」

 指先にまで春が芽吹くような――歓喜のめざめ。



マスター:藍鳶カナン 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:13人
作成日:2014/04/13
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  • ハートフル11 
  • ロマンティック1 
冒険結果:成功!
  • 生死不明:
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