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アンジュの誕生日 〜虹色竜の帰還〜

<オープニング>

●時の栞フェルトフェルタ
 深い紺瑠璃の夜空には淡金を甘く暈した春の月、甘い月と瞬く星の夜空を背にして咲き誇るのは桜ではなくて、桜とよく似た純白と桃色の彩を咲き溢れさせるプラムの花々。森梟を意匠したランプに照らされ、まるで我々が街路樹の代表格ですみたいな顔して豊かに花枝広げるプラム達に彩られ、童話の世界を思わす可愛らしい三角屋根連なる街並み息づく――時の栞フェルトフェルタ。
 幾つもの物語降り積もるこの街で語られる物語のひとつ、夢屋の物語の一節にこんなものがある。

 ――明け初めてゆく空があれほど彩り豊かに鮮やかに色を変えてゆくのは、虹色の竜が夜明けの空を渡っているからだ。

 時の栞フェルトフェルタのひとびとは幻想の世界に虹色竜を夢見るだけでは飽き足らず、春の朝に幻想を現実へと描きだす幻想展覧会という祭りを創りだした。
 暁風に舞い上がる銀色硝子の鏡の蝶を追いかけて、時計塔広場で待つ虹色竜に逢いにいく。
 時計塔広場で待っているのはもちろん本物の竜ではなくて、虹色に煌くオパールグラスのパーツを組み合わせて作られた、竜の骨格標本みたいな大きなオブジェ。
 淡い乳白色に七色の遊色踊る虹色硝子、それがオパールグラスだ。
 優しいオパールの煌き秘めた骨の竜は、彼方の空を見上げて翼を広げた姿を取っている。曙光を受けた竜が広場に柔らかな虹色の輝きを広げる様、暁風に乗って翔けてきた鏡の蝶達が虹色竜の周りで風とともに渦を巻く様は荘厳で幻想的――だけれど、ひとの手で創りだされた祭りである以上、その虹色竜も祭りの朝に忽然と、魔法の幻想のように現れたわけじゃない。
 時の栞の何処かでひっそり眠り、幻想の虹色竜は現実世界に還る日を待っている。

 柔らかな夜風が純白と桃色に咲き溢れるプラムの花々に細波を生む春の夜、優しい肌触りの水の流れを泳ぐ心地で夜風を渡って、童話の世界みたいな時の栞の街を探し歩いて、暁色の娘はついに虹色の煌きを見つけだした。
「こんなところにいたんだ。――また逢えたね」
 二年前の春に初めて逢った虹色竜。
 一年前の春には虹色硝子の竜の骨持つ扇を誕生日の贈り物として贈られて、次の春には絶対に虹色竜に逢いにいくのだと心に決めた。
 それも彼方の空を見上げて翼を広げた虹色竜ではなく、『この状態の』虹色竜に。

 それは時の栞フェルトフェルタと呼ばれる街で語られる、夢屋の物語のひとかけら。
 来たる特別な朝のため、フェルトフェルタの街の何処かで虹色竜が目を覚ます。
 さあおいで、柔らかな水流めく夜風と虹の煌きに誘われたなら、君が虹色竜のめざめを呼ぶ証。
 春の夜の深みには暁色の娘がやってきて、あなたを生まれ変わる世界へと連れていくよ。

●虹色竜の帰還
「ね、あのねあのね、虹色竜の帰還を手伝って!」
 紫煙群塔ラッドシティの夜、旅人の酒場に飛び込んできた扉の狩猟者・アンジュ(cn0037)は何やら巨大生物の骨のようなものを抱えていた。けれどそれは本物の骨ではなく、淡い乳白に七色の遊色踊る虹色硝子で何か大きな生き物の骨を模したオブジェの一部。
 陽に透かした蜂蜜色の瞳に飛びきり嬉しげな光を燈し、アンジュが見つけたの、と娘は大きく優美な弧を描く虹色の骨を誇らしげに披露した。虹色竜の肋骨! と歓喜に弾む声。
 それは時の栞フェルトフェルタという街の、幻想展覧会にて披露される虹色竜。
 祭りにのみ姿を現すその巨大オブジェは普段、パーツごとに分解されて街の何処かに眠っている。
 年ごとに変わる隠し場所。それを探しあてた者にはある権利が与えられるのだとか。
 それはつまり――。
「あのね今年はね、アンジュが虹色竜を組み立てることになったの!」

 深い紺瑠璃の夜空には淡金を甘く暈した春の月、朧で柔らかな月あかりと森梟を意匠したランプに照らされた時の栞の街の時計塔広場で、優しい肌触りの水の流れにも似た夜の風が吹く中で、虹色硝子でつくられた竜の骨格標本みたいな巨大オブジェを組みあげていく。
 虹色竜の骨を模したパーツは小指ほどの大きさのものから成人の腕ほどもあるものまで、サイズも形も様々で、無数といっていいほどに数がある。完成するのは見上げるほどに大きく勇壮な竜一頭、それを深夜のうちに組み立てるのが慣例だというから、アンジュひとりでは当然手に余る。
 それでね、と暁色の娘が面映そうに笑んだ。
「アンジュね、誕生日なの」
 だから、もし良かったら。
 虹色竜の帰還にどうかあなたの力を貸して。

 誰もいない深夜の時計塔広場をみんなでひとりじめ。
 月あかりやランプのあかりに煌く虹色硝子のパーツを手にとって、時には組み合わせに悩み時にはお茶で一息ついて、みんなで力を合わせて大きな大きな虹色竜を組みあげていくひとときは、きっと合宿みたいな、とてもとても楽しいひとときになる予感。
 そうして、みんなの手で。
 幻想の中にしか虹色竜のいない世界を、現実に虹色竜に触れられる世界へと変えるのだ。
 呼吸を整え、晴れやかな笑みを燈して、暁色の娘は愛してやまない言葉を口にした。
「だって世界は必ず、自分の手で変えられるんだもの」

 ――世界は必ず自分の手で変えられる。
 ――本当に手が届かないものなんて、限りなく少ない。

 何度も何度も繰り返す、愛しい言葉。
 ともすれば自分でも『己が挫折を知らない子供だから言える綺麗事なのかも』と思ってしまいそうな言葉達。確かに私は大きな挫折も塗炭の苦しみも識らないままに生きてきた。
 けれどそれは、縁を繋いで絆を結んでくれたみんなが、心に触れてくれたからこそ。

 泣きたい時は泣いても良いと言われて泣いて、アンジュがちゃんと泣ける場所があって安心したと言われてまた泣いて、あなたには影も見えているんですねと言われて、アンジュの招く風が好きだと言われて、とてもとても嬉しくて。
 渇望の先、楽園の扉に触れた私を、大人になったと、立派に大人だと言ってもらってまた泣いて。

 大人に手が届かない絶望に沈みかけた時にはこっそり暖かに掬いあげてもらって、不安で心配でどんな顔をしていいか判らなかった時には抱きしめてもらって、茄子が苦手なひとへと願った一緒に茄子食べようよなんて望みを叶えてもらって、心のささくれで棘みたいに鎧ってしまった時には案じる眼差しをもらって、君自身の嵐からも、君を守ると言ってもらった言葉を思いだした。
 覚悟と責任を、まっすぐな心と瞳で教えてもらって。
 互いの時に互いに刻まれて、紡いでいく時を縒りあわせて。
 幾人ものひと達から、幾度も、幾度も。
 まだまだたくさん、全部言葉にしようとするならそれこそきっと、一晩中だって足りやしない。

 十八の歳に大家族みたいな部族を離れてひとり世界に飛びだして。
 二十二の歳を迎えた今も迷わず愛しい言葉を口にできる、そんな自分にみんながしてくれたから、アンジュは迷わず前を向いてこう言える。
「あのね、みんなで世界を変えて、また逢おうね」
 いつだって世界は必ず自分の手で変えられて。
 本当に手が届かないものなんて、限りなく少ないから。


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参加者
NPC:扉の狩猟者・アンジュ(cn0037)

<リプレイ>

●虹色竜の臥所
 深い紺瑠璃の夜空には淡金を甘く暈した春の月、蕩ける朧月の夜には純白や桃のプラムの花々が咲き誇る。満開の桜思わす花々をゆるり波打たせる、優しい肌触りの水の流れみたいな夜風渡って駆けるのは、博士帽を被り夜色ガウンを翻す若き学者のごとき姿の誰か。
 春夜の時計塔広場へ飛び込めば、
「さあ、夢屋の店開きだ!」
「きゃーリズちゃんかっこいいー!!」
 夢屋を気取るのはヴリーズィ、夜風に颯爽とガウンを翻せば現れた大きな硝子瓶の蓋がぽーんと弾け、溝入りのながーいギモーヴが飛びだした。鋏を踊らせれば扉の狩猟者・アンジュ(cn0037)の掌に次々と、淡いマーブル模様煌くギモーヴの蝶が舞い降りる。
 大好き、と思いきり抱きつく暁色を抱き返し、その耳許に。
 ――お誕生日おめでとう。
「アンジュ親方と、どきどき虹色竜組み立て隊のスタートさね」
「わあいわあいよろしくお願いしまーす!」
 森梟のランプに煌く蝶をアンジュと一緒に口の中へと踊らせ、夜の広場にこんもりと積み上げられた虹色硝子の宝の山からユリウスは、優美に撓りながらもどっしりとした、竜の脚の骨を担ぎ上げた。
 隣で暁色が胸に抱くのは足先らしき骨、ひとつひとつのパーツを集めて虹色竜を組み立てる様は、まるで想いを紡ぎ直していくかのよう。
「経糸と緯糸を通す、機織りにも似てるよな」
「成程、想いを紡いだ糸で織るのさね」
「ねー! 生まれ変わる世界を織るみたい!」
 親友と笑い交わしたフランもごろりとした大きな煌きを手に取った。淡い乳白の中踊る虹の遊色は、あかりの許でくるり角度を変えるたびに新たな彩を覗かせる。
 初めまして、そうかお前も虹色か。
 大きなオパールの原石みたいなそれにそっと額を当てたなら、
「それユリウスさんのに嵌まると思う〜!」
「じゃあ、これも脚の骨か」
 虹色竜が時の栞の地を踏みしめるための礎をまずひとつ。
 竜にも彼女にも、力強く飛び立つための支えとなれるよう。
 巨大な虹色真珠が融けだしたように混沌と、けれど優しく広がり煌く虹色の輝きの中から、丸っこい形に歪な突起を持つ骨を選びだす。
「ほら姉さん、これもだよ!」
「ありがとですよイーツァちゃん、ちょっと上から見てみてくださーい!」
 両手に背骨! と御機嫌で脊椎を繋げていく姉に笑って彼はエアクッションぽーんと蹴りつけ夜空にひらり。皆でひとつの大きな何かを作りあげるのは、誰かと一緒に歩いていくのと同じ。
 綺麗に並んでるよと空から降る声にニッタは満足げに頷いて、
「はっ、もしや背骨をうねらせてのポージングもカッコイイのでは……!」
「そり返る姿とかきっとかっこいいよ!」
 硝子の骨は決まった型にしか組み立てられないけれど、アンジュと笑い合えば胸の中の虹色竜が自由気侭に空を渡る。
「そら、背骨をもひとつ足しますよ」
 楽しげな娘達に声一つ、木材組んだ足場を軽快に跳んだセイイチロウは空へ差し伸べるよう虹の欠片をかちりと嵌めた。まるで船を建てるよう。竜骨を確り組めば荒海も悠々と越えられる。
 翼も帆を風を捉えて翔けるなら、竜もまた空を渡る船。
 アンジュ達も船だねと扇の翅と帆で夜風を受ける扇使い達に笑ってカラが嵌めこむのは、確り地を捉える逞しい竜の足。
 翼があっても地を蹴りつける足がなきゃ飛べないよ、と頭上を振り仰ぎ、
「結局どこを組み立てるにも気が抜けないってことだね」
「うん、こころもからだも全部使って翔けてくんだもの!」
 興がるよう瞳を煌かせれば、嬉しげに笑んだ娘が降ってきた。
 今年の展覧会は幻想が現実に、願いは確信に、そして――確信は当然に変わりますよ、と傍らに降りた男が嘯く言の葉を、今夜はそのままカラも受け容れる。
 たとえ綺麗事だろうと、暁色が愛しい言の葉を変わらず紡いでいけるよう。
 ――誕生日おめでとう。
 同じくめざめを言祝いで、セイイチロウは新たに掬いあげた虹を暁色の掌に乗せた。
 ――夜の中にあるものを、見付け、拾って、光の中に出す事が出来たんですね。

●虹色竜の胎動
 乳白に数多の虹色遊ぶ煌きが沈む夜の底、甘い星の煌き詰めた硝子瓶を暁色の掌に躍らせる。明けを待つには明星が必要だろう、なんて笑って金平糖を手渡せば、
「今夜のお父様特別かっこいい……!」
 かくべつとくべつ! と満面に笑みが咲いた。
 思わぬ感激ぶりにアンブローズも上機嫌。肩にどかりと巨大な虹の肋骨担ぎ、寝ると俺の子守唄が待ってるぞと宵菫の娘へ声一つ。
 おじさんの唄は結構よと返してラカは、小さな骨の欠片をランプに煌かす。けれど確かに、甘い香を焚いたように煙る乳白の虹は微睡みへ誘うよう。
 眠りの淵で見る夢と遥かに臨んで望む夢は違うもの――なんて誰かは言うけれど。
「似た色を抱いてるよね」
「ねー!」
 仔猫の戯れめいて囁き交わす宵と暁がかちりと併せた虹の煌きに、男が眩しげに笑う。
「世界は変わったかい?」
 俺は世界を見る目が変わったぜと嘯く男に今から変わるわと笑み、菫の娘が虹を翳した。
「竜と貴女が遠く飛べるよう、お祝いとお祈りこめておいたよ!」
「わあいわあい怖いものなしだよ!」
 弾む暁色の声の先、明け待つ空に煌く夢の虹。
 鋭い爪とも角とも思える小さな煌き抱いて、アレンカレンは暁色へと駆けだした。
「アンジュ、お誕生日おめでとう! 夜通し一緒に頑張るのよっ!」
「……この人は後でちゃんと寝かしつけますんで」
 金色の頭に兄が手を置けば、朝になったらギィさんが先に寝ちゃうかもよ、なんていつかの七花の朝を思い出したらしい暁色が楽しげに笑みを零す。
 きっとそうよと頷く妹の手を見遣れば、
「それ、翼の骨じゃないか?」
「え? ……ほんと、ぴったり!」
 力強く広げられた翼の先端に新たな虹の煌きひとつ。
 かちりと嵌めこめたならアレンカレンも笑み咲かせ、きっと私達も虹色竜と同じねと暁色へ囁いた。出逢いも交わす言葉も温もりも、全て自分を形作るひとかけら。
 貴方も大切な欠片のひとつ、と微笑む妹が暁色と抱きあえば、ギィも眦緩めて巨大な翼を振り仰ぐ。
 痛みも喜びも全て翼にして飛んでいくのだろう。
 暁色の娘も春陽に囀る妹も、その道先が幸福満ちるものであるように。
 巨大な肋骨に抱かれ、竜の体内から嵌める虹ひとつ。
 明け空染め織るのはもう少しだけ待っていて、と竜の裡に軽く触れ、クロービスは虹の足元に座る娘達の傍に腰を下ろした。虹の欠片繋げる暁色の手は、皆からたくさんの心を添えられながら世界を変えていく。
 世界を必ず変えるその手はきっと、必ず誰かを幸せに出来る。
「……例えば今は、僕とかね♪」
「んじゃね、二人一緒にもっと幸せ!」
 二つ瞬いた娘は飛びきり嬉しげに破顔して、隣のクローディアの手を彼の手に重ね、二人の掌上に金平糖の星を降らせた。自然と零れる心からの言葉。
 ――誕生日おめでとう。
 幸福を、ありがとう。
 明け空に眩い光を描くだろう鋭い尻尾の先端繋いでいたら、掌にきらきらと星屑達が降って来た。淡い紗にも似た眠気も綺麗に消え、鮮明な世界と心にクローディアの笑みも咲く。
 一緒に刻んだ全てを噛みしめれば、胸に光も咲く心地。
「私、唯の獣に成らずに済んだ。私の世界に、貴女が居て良かった」
 三つ瞬いた暁色が笑みを燈し、深い樹の色の髪に触れた。
「あのね、アンジュのお姫様になってくれてありがとう」
 ほらと彼女が摘まむのは、夜風に乗って来た、桜に似た花ひとひら。
 親鳥が雛へそうするように、皆で暖め想いをそそぎ、虹色竜のたまごを孵す。幻想と真実の巣へと暁色を迎えれば、今夜の月あかり思わす笑みで問いかけた。
「ねえ、この子は男の子かな? 女の子かな?」
「んとね、きっと男の子!」
「なら――」
 この虹色竜は君の子供のよう。
 囁けば幾度も瞬いた娘が彼の肩にぽてりと額を寄せ、幸せな笑みを胸に直接響かせた。
 アンジュの子供なら、ハルネスさんの子供だよ。
 面映く微笑み合って、懐に忍ばせていた鏡の蝶を彼女の指先にとまらせる。翅に乗せる言の葉は。
「誕生日おめでとう、アンジュ」
 ――誰よりも君をあいしてるよ。

●虹色竜の螺旋
 先入観は栞を挟んで記憶の波間、新たな気持ちで向き合う虹色竜の欠片はラツに飛びきり愉しい手応えをくれる。虹の呼び声と直感が今夜の導、思わぬ処で足を掬われても溢れくるのは笑い声。
 心の深みから浮かびくるそれが再び息衝くのを、肌で感じるこんな時には、
「何て云えばいいかな?」
「んとね……」
 廻りくる新たな世界へ、ようこそ!
 温かなココアも無花果とマンゴーの干果も虹の欠片も、欲張りに抱えたアンジュが輝くように笑う。
 ――私も君が、大好きですよ。
 満面に笑みを咲かせた暁色が「はい、あーん」と差し出す無花果は親友の差し入れ、干果の甘さも見知った顔がある安心感も噛みしめ、皆で独り占めした深夜の広場でフェイランは、生まれつつある虹色竜を仰ぎ見る。
 なんて素敵な、夜。
「アンジュ、アンジュ、これはどの辺りのものかしら」
「きっと喉! 素敵な声で唄うんだよきっと!」
 集うひと達、綾なす言葉、身にもつ全てがそのひとの本質を示すから。
 皆の手も借り暁色と笑い合って巨大な首まで登ればほら、虹色竜の唄に手が届く。
 大好きとありがとうをめいっぱい籠めたぎゅうぎゅうのまま、互いに手にした虹を併せればかちりと小気味良い音が鳴る。暁色と繋いだ靭く撓やかな風を思わすそれを薔薇色真珠の少女が伸べれば黒き剣士の手で煌く虹とまたかちり。
 お任せを、と足場からリューウェンが跳んだなら、その腕の先で虹色竜が空へ更に翼を広げた。
 光を虹色の未来へ繋げるよう。
 揃って歓声あげて、手も打ち鳴らせば、
「ラヴィスローズ殿と二人で作ってみたのだが、ご一緒に如何だろうか?」
「ゆずひよこさんもいるのじゃよ! どこに隠れているでしょ〜か?」
「この宝箱の中に更なるお宝が……!?」
 漆塗りに螺鈿の桜咲く重箱の御開帳。
 温かなお茶をこぽこぽ唄わせ、白餡に薄ら赤が覗く苺大福に白に桃と緑の花見団子、桜の塩漬け乗せた桜餅。春色湛えた霊峰天舞風の甘味の苑に暁色を誘い込む。
 もしいつか悲しみに逢ったら、きっと力になりにいくから。
 甘味のお裾分け頬張れば鼻先擽るお茶の湯気、ほなこれもとヴァレリーが蒸篭開けば、ほかほか饅頭の湯気が溢れだした。肉まんに栗入りあんまん、角煮にクリームに、
「アンジュにはでっかい柚子入り白餡のあんまんな!」
「きゃー此処にも柚子の幸せー!!」
 幸せいっぱい頬張る娘の頭をぽふぽふ撫でる。綺麗事だろうが言い続けられるのが大事。
 言葉には力が宿り、想いは力を招くから――アンジュの煌々したトコはどうかそのままで。
 温かな手も言葉も擽ったくて、娘は掌でこっそり眦を擦った。
 角煮まん半分こしたなら暁色の手にポケットサイズの包みいっぱいゆずひよクッキーを乗せてやる。温まった指先でロータスは、微細な虹をかちりと嵌めた。
 なあアンジュ、大人になるって何やと思う?
 まだ探してるの、と話に聴き入る彼女に柔く笑み返す。変化を理由に諦めることだなんて思わない。大人になるということは。
 ――誰かの心を思いやれるようになること。
 手を伸ばす先に誰かの笑顔を思い描ける、
「あんたみたいな大人でありたい」
 まっすぐ伝えれば、幾度も瞬いた娘の眦から、ぽたぽたと涙が零れ落ちた。
「そんな風に言ってもらったの、はじめて」
 暁色は掌で何度も眦を擦って泣いた。
 お互い手を伸ばしていこうなという言葉に頷き、とめどなく溢れくる嬉しさのまま、いっぱい泣いた。

●虹色竜の帰還
 還ってくるんだね、この美しい世界へ。
 また逢えて嬉しいよと囁きかければ淡い乳白の中、さざめき笑うよう遊色が踊った心地。見惚れて微笑し矯めつ眇めつじっくり眺め、何時しか没頭していた己にまた笑う。
 ふと見遣れば、ゆるゆるめざめゆく虹色竜と、乳白の虹の光の繭に包まれる皆と暁色。
 ――愛されているんだな。
 吐息で笑ってルカノスも、虹の尾の付け根を繋げに向かう。
 生まれ変わる世界でどうかきみが、新しい何かを識れますように。
 あったか夕陽色にお野菜たっぷり、ひよこ(豆)もひよひよいっぱいのミネストローネに歓声あげる暁色におまけしてやる取っておきは、柚子ピールを包んだシガレットチョコ。
「アンジュ、ゼルディアちゃんだけのだんでーになる……!」
「まだまだ一緒に頑張りましょうね、私の素敵なだんでーさん♪」
 大感激で抱きついてきた娘の背をぽふりと撫で、竜のめざめのためにもうひとふんばり。
 あの幻想と真実溶け合う朝は今も心の宝箱で大切に煌くから。
 もらった愛しさ繋げて伝えて――今年の煌きも、誰かの大切なものになりますように。
 空いた小腹にミネストローネの幸せ分けてもらったなら、マニートは再び元気いっぱい巨大な角の一部を持ちあげる。運ぶ先は少しずつ形を現しつつある大きな大きな虹の頭蓋。
 あの中にすっぽり納まったら……。
 なんて呟けば、入るなら今のうちだよと暁色が唆す。
 虹の頭蓋に入って再び外へ出たなら、きっと生まれ変わった心地。
 夜に燈るあかりに欠片を揺らせば、乳白の虹が溢れて遊ぶ。
「虹色竜は骨にまで、こんなに遊ぶ光の彩に染まるように生きてきたのね」
 惹かれて羨ましくて憧れて。
 私も――と続けた言の葉に、隣に座る暁色がぎゅっとロゼリアに身を寄せ頬も寄せた。アンジュが見てるのと同じ色見えるかな、と重なる視線の先でくるり欠片を踊らせる。
 世界の数多の彩あつめ、きらきら踊って煌いて。
「アンジュにはロゼリアさんがこう見えてるよ」
 笑顔も言葉も、歓びも痛みも抱いて夜明けへ翔ける、その命も。

「エアさぁん、このパーツってここでいいのかなぁ?」
「ああ合ってる」
 巨大な頭蓋の裡から声だけ届け、竜のあぎとへ潜ったエアハルトは眼孔のパーツ調整に没頭中。おろおろしていたモニカは愉しげな細工師の姿に頬緩め、何か察した彼がポットを指せば、任せてと声を弾ませた。
 ――翔ける暁風のお出ましだ。
 皆からの想いも差し入れもめいっぱい味わった娘が、彼の淹れた珈琲の香に誘われ翔けてくる。
「おはようアンジュちゃん!」
「おはようモニカちゃん、匠いけめん先生!」
 翻る虹色の羽根見ればモニカも笑み咲かせ、薫り高い珈琲注いだ三つのカップの許へ暁色を招く。細工師が誇らしげに撫でた頭蓋の眼孔皆で覗けばそこは、闇も光も虹も硝子の空洞に幾重にも映す涯てのない宝箱。
 竜がその眼で見る世界も、きっと。
「んでもね、手の届かないものなんて限りなく少ないんだよ」
「探求すべき事は無限に溢れてる、だろ?」
 暁色と彼が悪戯な瞳交わせば、
「込められた意味はきっと同じだよね!」
 光咲かせるよう笑った花売り娘が二人をぎゅうっと抱きしめた。
 珈琲で乾杯したなら――まだ見ぬ朝へ、さあいこう。



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参加者:26人
作成日:2014/04/29
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