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ガルシェン防衛戦:擾乱の乙女

<オープニング>

●ガルシェン防衛戦
 若草の香りを孕んだ風が荒野を渡る。
 伝説の勇者たる若草の乙女が、骸殻荒野に擾乱を呼ぶ。

 砂月楼閣シャルムーンに飛び込んできたのは、荒野と血の匂いを孕んだ風と、危急の報。
 若草の乙女こと勇者アリッサムを追って薔薇の痕へと向かった探索隊の帰還が、風雲急を告げる事態を終焉に抗う者達に報せた。
「ね、みんなもう探索隊のひと達の報告書は読んだ?」
 酒場のテーブルにざっと報告書を広げて、扉の狩猟者・アンジュ(cn0037)が切迫した瞳で同胞達を見回す。砂月楼閣と薔薇の痕の間に位置する都市国家『骸殻荒野ガルシェン』の存在、そこに住まう巨人との出逢い。
 そして、勇者アリッサムがガルシェンの巨人達を利用し、薔薇の痕に住まう『ならず者』を掃討して、薔薇の痕に残された『何か』を手に入れたと思われること。
 この辺りの詳細は報告書を読んでもらうのが確実だと思う、と続けたアンジュが本題に入る。

 勇者アリッサムはこれで『骸殻荒野ガルシェン』に別れを告げたわけではなかった。
 ――世界王都の秘宝の守護騎士達よ。
 伝説の勇者がそう呼びかけたのは、薔薇の痕に残されていた守護騎士ゴーレム。
 世界王都とは、すなわち人類がひとつの国家に統一されていた伝説の時代の『人類王都』だろう。永い間眠っていたゴーレムの軍勢を起動させた彼女の次なる目標こそが『骸殻荒野ガルシェン』だ。
 守護騎士ゴーレムの軍勢をもって『骸殻荒野ガルシェン』への侵攻を目論むアリッサムが狙うのは、『創世巨獣ガルシェン』の心臓の奪取。それがいかなるものかは不明だが――。
「ひとつ言えるのはね、その心臓――彼女が大魔女スリーピングビューティーみたいな『魔女の力』を得るために必要なものみたいってこと」
 ならば、みすみす奪われるわけにはいかない。

 本来ならば勇者アリッサムとゴーレム軍勢の侵攻に呼応し、既にマスカレイド化していた巨人達が都市国家内部で破壊工作を行うなり騒乱を起こすなりする作戦であったろう。
 だが、薔薇の痕で戦力を整えるアリッサムに先行してガルシェンへと戻るはずだったマスカレイドの巨人達へ決死の覚悟で挑んだ探索隊がこれを撃破。アリッサムの思惑を崩したことで、ガルシェンの即時陥落という事態は恐らく避けられたはずだ。
「んでも伝説の勇者が恃みにするゴーレムだもの、そりゃもう絶対強力な軍勢だよね……!」
 都市国家を速攻で陥落させるとまではいかずとも、創世巨獣の心臓の奪取なら為せてしまうはず。
 新たな魔女誕生を防ぐには、薔薇の痕からガルシェンに向かうアリッサム軍を迎撃するしかない。
 伝説の勇者アリッサムと、人類王都の遺産たる守護騎士ゴーレムの軍勢。
 相手取るのは、その戦闘能力こそ不明なれど、紛うことなき強敵達だ。
 その上――戦いを目にした『骸殻荒野ガルシェン』の巨人達がどう動くかもわからない。
 けれど、それでも。
「どうかお願い、みんなの力を貸して」
 勇者アリッサムが招かんとする擾乱に抗うために、ガルシェンに向かって欲しい。
 行く先が危地だと告げながら、暁色の娘は同胞達へと切に願った。

●さきぶれ
 危急の報せを受けて挙げられた迎撃作戦は二通り。
「ひとつはね、アリッサム軍がガルシェンに到達する前に迎撃する作戦」
 この作戦は都市国家『骸殻荒野ガルシェン』への侵攻そのものを食い止めることで、ガルシェンへの被害を軽減でき、そして、アリッサムが戦いの混乱に乗じて心臓を奪取し姿を消すといった可能性を小さくできるのが利点だ。
 だが、巨人達に好意的に受け入れられているらしいアリッサムが攻撃されている状況を見たなら、ガルシェンの巨人達がこちらに攻撃をしかけてくる可能性は否定できない。
 勇者アリッサムとゴーレムの軍勢、そして巨人達に挟撃されれば――苦戦は必至だ。
「もうひとつはね、ガルシェンに侵攻したアリッサム軍と巨人達の戦いが始まってから乗り込む作戦」
 この作戦の場合、戦場となるのはガルシェン内部。
 巨人達とアリッサム軍が戦っているところへ乱入するため、戦力的にはかなり有利になる。
 だが、アリッサムが戦いの混乱に乗じて心臓を奪取し、姿を消してしまう可能性も高い。
 創世巨獣ガルシェンの心臓。その所在もそれがいかなるものなのかすらも不明とくれば、対応策も取りようがない。
 二通りの作戦はいずれも一長一短。
「だからね、どっちの作戦でいくかはみんなの判断に任せたいの」
 メリットもデメリットも良く考えてみて、と神妙な顔つきでアンジュは告げた。

 決して平坦な路ではないと解っているのに、それでも自分達は歩みを止められない。
 ――否、止まらない。
 だって、平坦でない路にある理不尽な終焉も、この手にそれを覆す力があることも識っているから。
 ――だよね? と改めて同胞達を見回したアンジュが笑みを燈す。
「あのね、また逢おうね」
 若草の乙女が招かんとする擾乱を覆した、その先で。


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参加者
バーガンディランス・ティアナ(c01457)
ハムスター・シシィ(c03556)
夢壌の壁・エルヴィン(c04498)
踊る光影・ロゼリア(c05854)
霧氷の蒼剣士・ポウ(c07468)
白影虎忍・ゼロ(c08351)
蓮泉の水精・ニンフ(c13873)
瞬風駘蕩・キサイ(c31703)

<リプレイ>

●擾乱の邂逅
 勝利を祝う宴とその喧騒に酔う骸殻荒野ガルシェンで第二の戦端が開かれたのは、酒宴の熱気が最高潮に達した深夜過ぎのこと。地底の夜闇と街灯りに彩られた市街を吹く風に血と騒乱の気配を感じつつ、巨人の街並みの上から白影虎忍・ゼロ(c08351)は鷹の眼で辺りを見渡した。
「先手はアリッサムが取ったかもしれんが、後の先まで読めてはいまい!」
 荒野の勝利は譲っても、必ずここで彼女の野望を挫く。固くそう決意しているのは皆も同じ、やはり建物の上から鷹の眼差しを注いでいた瞬風駘蕩・キサイ(c31703)が鋭く声を張る。
「この先で巨人がゴーレム達と戦ってる! 左腕がカニの鋏みたいな巨人だ!!」
「それって……!」
 彼の示す方へ真っ先に駆けだしたのはバーガンディランス・ティアナ(c01457)、薔薇の痕探索隊の一員たる彼女の脳裏をよぎったのは無論のこと――。
「これってやっぱり……おでのピンチ?」
 皆で駆けつければ大きな地響きが轟いた。
 斧も鋏の腕も振り回して大立ち回りを演じていた巨人が、盾持つ守護騎士ゴーレムに吹き飛ばされ何体ものゴーレム達によって壁際に追い込まれる。だが、
「短長髭腕鋏! 助太刀するわ!!」
 屋根上を馳せ来たティアナが騎士槍携え迷わず跳躍、残像と共に背後からゴーレム達を急襲した。
 見覚えある小さな姿に巨人の顔に喜色が浮かぶ。
「助かるだよ! けど一体どうなってるんだべ、おでには何がなんだか……」
「アリッサムが巨人さん達を攻撃するようにゴーレムに命令したんだよ!」
 今回復するねと声を張り、ハムスター・シシィ(c03556)が掲げた魔鍵が彼へ楽園の癒しを呼んだ。
「話は後だ、まずは速攻でこいつらを片づけるぞ!」
「ああ、手間取ってはいられないからな!」
 深夜の街に楽園の陽光射す中、夢壌の壁・エルヴィン(c04498)も輝ける戦旗で闇ごと守護騎士を薙ぎ払う。続け様に吹き荒れたのは霧氷の蒼剣士・ポウ(c07468)が招来した冬の嵐。
 もしや巨人がマスカレイド化されてはいないかと彼は瞳を眇めたが、
「大丈夫、心配ないね!」
 ざっと見ただけだが、短長髭腕鋏に仮面は見当たらない。蓮泉の水精・ニンフ(c13873)は自身の感覚を信じ、腕鋏に片腕を叩き折られたゴーレムへ猛毒の針を撃ち込んだ。
 巨人よりは小柄だが、それでも守護騎士達は普通の人間の三倍はありそうな巨大ゴーレム。
 その力は生半なものではなかったが、短長髭腕鋏に八名の精鋭エンドブレイカーが加勢すれば、劣勢は完全に覆された。
 薔薇の痕からアリッサムが連れ帰った守護騎士ゴーレムに襲われ、そこを救われたとなれば――流石に腕鋏も此方の話を信じる気になったらしい。
「アリッサムはガルシェンの大切なものを奪いにきたらしいの、護るのを手伝わせて!」
「街を、仲間を助けるために……彼女を探して倒すために、力を貸してちょうだい!!」
 まっすぐ彼を見上げた踊る光影・ロゼリア(c05854)とティアナが真摯に願えば、
「おう。こうなったら、おではお主等と一緒に戦うぞ!」
 迷わず腕鋏も頷いた。
 狙うはアリッサムの心臓奪取の阻止。 
 だが遅れて宴会に加わるはずだったという腕鋏はアリッサムの行方を知らず、彼女の目的が創世巨獣の心臓と言われても、そもそもそれが如何なるものなのかがピンと来ないようだった。都市の心臓部と言い換えても結果は同じ。
「おでにはややこしいことは分からん、心臓だとか何だとかは長長髭の鯨髭に訊くのがいいと思うぞ」
「鯨髭は賞金稼ぎの酒場? 一緒に行きましょ、ついでに私達を運んで!」
「がはっはははぁ! 任せろ、おでが運ぶほうが速いからな!」
 頼もしい味方を得て余裕が出来たのか、腕鋏は豪快に声をあげて笑った。
 巨人の肩に乗り、あるいは腕に抱えられて駆ける巨人の街。
 流れる街並みを童話の世界の小人になった心地で眺めていたロゼリアは、夜の街中でもひときわ黒々と屹立する巨大な管を指して腕鋏を振り仰ぐ。
「ねえ、街から天井まで繋がってるあの管はなぁに?」
「ん? ありゃ昔からあるもんらしいが、煙突として使ってるだよ」
「煙突かぁ」
 だが、その煙突に目を付けたのは間違いではなかったとロゼリアが識るのはもう少し先のこと。
 次の瞬間、
「何か様子がおかしいね〜!」
 鷹の眼差しで目を凝らしていたニンフが酒場らしき建物を見て声を上げた。
 何がどうとは巧く言えないけれど、妙な違和感がちりちりと肌を灼く。――そうだ。賞金稼ぎ、つまり戦える者が集まる酒場なら、こんな事態に巨人達の出入りが途絶えているはずがないのに。
 周囲に目を向ければ別の建物の陰に巨人達の姿、あっちに向かって欲しいね、とニンフが願うまま腕鋏がそちらへ向かえば、巨人達の足元から声があがる。
「短長髭腕鋏殿!」
「あれは……!」
 知った声にティアナが腕鋏の肩から身を乗り出した。探索隊で一緒だった魔獣戦士の娘だ。
 どうやら別チームの同胞達がそこで巨人達と様子を窺っていたらしい。
「あそこが賞金稼ぎの酒場なんだよね? 何かあったの?」
 腕鋏から飛びおりたシシィが訊けば、同胞達の口から状況が語られた。
 酒場にいた鯨髭や賞金稼ぎ達は宴で油断しきったところを奇襲されて倒されたらしく、中には今も十数体の守護騎士ゴーレム達が残されているという。現状の戦力では厳しいと判断した同胞達は、酒場奪還の策を練っていたが――。
「俺様達が加われば戦力倍増ってわけか」
 にやりと笑みを覗かせ、ゼロが重量級のバトルガントレット纏う右拳でぱしりと左掌を打った。
 これだけの数のエンドブレイカーが揃い、巨人達とも共闘できるとなれば勝率は跳ね上がる。
「まずは、俺達のほうから仕掛けよう!」
 橙に近い金の髪の青年が力強く告げた言葉に、エルヴィンも口の端を擡げて頷いた。
「ああ、目に物見せてやるとするか」

●擾乱の奪還
 酒場入口から離れた夜闇で、幾本もの魔法のロープが宙に舞った。 
 二階の窓辺に先端を貼りつかせたロープは仲間へ譲り、ロゼリア自身は積まれた木箱や壁自体を足がかりとした跳躍で酒場の二階を目指す。
 同胞達の作戦はエンドブレイカー達が二階からの侵入で騒ぎを起こし、敵の注意を惹いたところで一階入口から巨人達が突入するというものだ。如何に人類王都の遺産といえども相手はゴーレム、主がおらねば柔軟な対応などできはすまい。巧くいけば敵勢を分断できるはずだ。
 勿論、二階と言ってもガルシェンのそれは人間にとっては相当な高さ、だが半数がスカイランナーと忍者であるこのチームは機動力もロープの数も充分に備えている。巨人達の手助けもあれば別班の同胞達と二階の窓辺に取りつくのもそう難しくなかった。
「そんじゃ、いっちょ派手にいきますか」
 僅か一瞬、瞳に剣呑な光を閃かせたキサイの手には術式籠めた手裏剣、渾身の力で打ち込めば、二階の窓が盛大な爆発とともに弾け飛んだ。破片の雨とともに突入したそこは宿屋部分ではなくて、一階を見下ろせる形になった酒場の二階席。
 唐突に起きたそれに守護騎士達が一斉に二階へ眼を向けたと同時、
「おで達の酒場を取り返すぞ!」
「うおおぉおお!!」
 気勢をあげた腕鋏を先頭に、鬨の声を轟かせた巨人達が一階入口から酒場へ雪崩れ込んできた。
 一気に分断された敵勢の手近な方を狙い定め、
「ふふん、突撃なら負けないわよ!」
「ボク達も思いっきり行くんだよ!」
 言うが早いか残像と共に宙に舞うティアナ。空駆けの身ごなしには及ばずともシシィにとっても高い処は愉しい遊び場、迷わず跳んだ少女は巨顎化した棘の腕で頭上からゴーレムへ喰らいつく。
 その肩を蹴りつけテーブルに着地したシシィめがけ巨大な盾が振り下ろされんとしたが、
「そうはさせないね!!」
 二階席からニンフが撃ち込んだ毒針が鋭い雨となって牽制した。
 態勢を整え盾や剣で応戦してくる守護騎士達のうち、ひときわ目立つのは漆黒のマントを纏い大鎌を携えた一体。その黒き外衣が翻った瞬間、白き仮面が覗く。
「その黒マントのゴーレム! マスカレイドだ!」
「成程、このゴーレム達のボスってとこか? ――行くぜ!!」
 階上から戦況を見渡したポウが揮うは一角獣抱く氷剣、氷柱の嵐が漆黒のマントごと仮面の守護騎士を貫く同時、二階から着地した酒場のテーブルを馳せたゼロが死角から斬撃を叩き込んだ。
 直後に襲いきたのは首を刈るどころか全身を叩き潰さんばかりに巨大な大鎌の一撃。だが、
「今度はおでがかっこいいとこ見せるだよ!」
 間一髪で腕鋏がその巨躯をもって盾となってくれる。
 守護騎士より大きな巨人、守護騎士より小さなエンドブレイカー。まったく体格の違う両者の連携が融通効かぬゴーレム達を翻弄し圧倒していく様が、皆を勢いづけ高揚となって背筋を昇る。
 頭上から振り下ろされた巨人の拳を盾で防いだ瞬間、無防備になった下から突如湧きたつシシィの鴉の群れが守護騎士を呑み、重い唸りをあげた腕鋏の斧が空を切ったと思いきや、巨大な斧を盾に守護騎士の懐へ飛び込んでいたゼロが高速の斬撃を放つ。
 たちまち追い込まれた一体が顕現させるのは不動城壁、けれど。
「これくらい! 軽く越えて見せるわ!!」
 羽ばたく鳥より軽やかに跳躍したロゼリアが、城壁の護りも越え表情のない顔に蹴撃を見舞えば、
「その城壁、基礎がおろそかなようだな!」
 酒場の床を一気に駆け抜けたエルヴィンが光の戦旗で城壁ごとゴーレムの脚を薙いで粉砕した。
 脚を失ったゴーレムがどうと倒れた途端、仮面の守護騎士が揮った大鎌から幾重にも迸った紅の真空刃が二人を切り刻む。
 だが、爆ぜるように噴出した血は即座に吹き下ろされたニンフの癒しの風が痛みごと浚っていった。
「二人とも、一旦後ろに下がるといいと思うね〜!」
「代わるぜ、任せろ!」
 月の刃を抜き放ち二階席から跳んだのはポウ。
 こうしている間にもアリッサムが王手をかけているかもと思えば焦燥が心を灼いたが、他に有力な手掛かりがない以上、ここで鯨髭を救出するのが一番の早道だ。
 それに、巨人達の信頼と協力を得られれば、今この地で戦っている同胞全ての力となれるはず。

●擾乱の帰趨
 賞金稼ぎの酒場という名の戦場に吹く風は、今や完全に此方側のものだった。
 蒼き戦旗が雄々しく翻るのは巨人達の視線よりも随分と低い場所、けれどエルヴィンが全身で揮う光の軌跡は巨人達のため確実に戦場を切り開く。一気に脚を薙ぎ払われどうと床へ倒れた守護騎士二体へ叩き込まれるのは、重い巨人の拳と、磔にせんばかりの勢いで撃ち込まれるニンフの毒針。
 溌剌と笑みを咲かせた娘が皆を鼓舞する言葉を響かせる。
「これで敵は後二体なのね〜!」
 鮮烈な水平の軌跡描いて放たれた剣の一閃を、鋭く回転させたキサイの棍が頭上に跳ねあげた。
「悪いが、あんた達ほど背は高くないんでね」
「ぶはっはははぁ! 確かにお主等はちっこいからのう!」
「ああ、だが心の大きさでは引けは取らんぞ!」
 守護騎士を見上げたキサイの言葉に爆笑した腕鋏が斧の一撃で守護騎士の片腕断ち落とせば、眩く輝くバトルガントレットで残る腕を掴んだゼロがそれを粉砕して見せる。
「ボクはもうちょっと背が高くなりたい、かな!」
 両腕を失った守護騎士を覆い尽くすのはシシィの声が響くとともに飛び立った漆黒の鴉達。
 膨れ上がった鴉の群れは深手の守護騎士を倒し、仮面の守護騎士へも襲いかかった。
 自分達だけで相対していたなら恐らく苦戦を強いられた敵だったろう。
 だが、巨人達とともに戦っている今、負ける気など微塵もしない。
「往生際が悪いぜ!!」
 大きな酒杯転がるテーブルを駆けたポウの正面には巨大な大鎌が成す旋風で護りを固めた仮面の守護騎士、刃に赤き月の力を凝らせて、ポウは守護騎士の護りを断ち切った。
 次いで揮われた荒ぶ風のごとき大鎌の軌跡から迸った紅の刃が彼とティアナの腹を裂いたが、
「この程度で私の突撃を止められると思ったら大間違いよ!」
 熱い痛みを堪えて巨大なテーブルを蹴りつける。
 勇者の歩みすら止める気概で今ここにいるのだ。これしきの傷で止まってなどいられない。
 駆けて駆けて何度だって突き進む。天槍模したこのナイトランスが、アリッサムへと届くまで。
 銀の穂先が今穿ったのは守護騎士の身体にある仮面。
 亀裂が奔ったそれを見上げ、そのまま守護騎士の顔も見上げて、ロゼリアは言の葉を生んだ。
「おはよう守護騎士、そして――おやすみなさい」
 棘に冒されてしまった守護騎士は、本当に護るべきものを思い出すことは二度とないのだろう。
 そして。
 ――ねぇ、アリッサム。
 あなたも、世界を、皆を愛して、護りたいと願った先で、棘の枷を背負ったのよね。
 ほんの少しだけ眦歪めて微笑んで、背に光の翼咲かせたロゼリアが翔ける。
 仮面ごと深く身体を斬り裂かれ、守護騎士はその稼働を永遠に止めた。

 分断された戦場の片割れで戦っていた同胞達も勿論勝利。宴の最中に奇襲され倒された鯨髭や賞金稼ぎ達は壁際に集められており、守護騎士ゴーレム達を倒して駆けよってみたなら、何とか全員生きていた。
 安堵にシシィが顔を綻ばせる。
「巨人さん達が殺されちゃってなくて、本当に良かったんだよう……!」
「アリッサムのことだ、戦闘不能にして後で纏めてマスカレイドにするつもりだったんじゃないのか」
「だとしてもニンフ達がそれを阻止すればいいだけのことね〜。絶対アリッサムを止めてみせるよ!」
 戦い終えても警戒を怠らないエルヴィン同様、ニンフもむんと拳を握って気合を新たにする。
 長長髭の鯨髭にアリッサムの狙いがガルシェンの心臓であると告げたなら、このまま皆で心臓へと向かうことになったのだ。鯨髭にも、最早エンドブレイカー達の話を疑う理由はなかった。
 意識ははっきりしているが、満足に動けぬ様子の長長髭の鯨髭。巨人としては小柄なその身体を腕鋏が背負えば、ティアナはその正面でまっすぐ彼らの顔を見上げた。
 二人に逢えたなら、必ず伝えようと思っていた言葉。
「賞金稼ぎのルールを破ったこと、本当にごめんなさい!」
「騙すような形になって、すまなかった」
 白キャスケットを取ったティアナが勢いよく頭を下げれば、探索隊の日々を共にした魔獣戦士の娘も深々と頭を下げる。
 ずっとずっと胸を刺し続けていた針。
 けれど、心からの謝罪を真摯に伝えたティアナ達に、頭なんか下げなくていいと腕鋏の声が届く。
「そんなことはもう気にしなくてもいいべ、あの娘っ子のこと止めようとしてくれてたんだろ」
 顔を上げれば、謝るのはおで達の方だと続けた短長髭腕鋏の背で、長長髭の鯨髭も頷いた。
「お前さん達は、アリッサムちゃんが悪人じゃってちゃんと言っとってくれたんじゃしのぉ……。だのに信じてやれんで、わしらの方こそ本当にすまんかった」
 暖かな声音と言葉に、瞳の奥へ込み上げる熱。
 けれどそれを瞬きひとつで払い、ティアナは勝気に笑ってみせた。
「彼女のふざけた目論見、壊してやりましょ!」
 巨人の肩に乗り、あるいは腕に抱えられて、エンドブレイカー達はガルシェンの心臓を目指す。
 アリッサムが創世巨獣の心臓を求める様は、ポウに禁断の果実を齧る乙女を連想させた。
 麗しき乙女が赤き果実に唇を寄せる――脳裏に浮かぶ光景は実に絵になるものだったけれど。
「ひとかけらだって喰わせてやる気はないぜ!」

 巨人達と駆けた先――創世巨獣の心臓の許で、きっと若草の乙女の野望を挫いてみせる。



マスター:藍鳶カナン 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2014/04/30
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