ステータス画面

ガルシェン防衛戦:魔女の糧

<オープニング>

●旅人の酒場
「『薔薇の痕探索隊』が帰還したことは、もう聞いたか?」
 告げるトンファーの群竜士・リー(cn0006)の声は、探索隊の無事を喜び、労をねぎらうだけではない。危機を前にたかぶっていた。
 勇者アリッサムを追って『薔薇の痕』に向かった彼らは、驚くべき情報をたずさえて帰還したのだ。
 砂月楼閣シャルムーンと薔薇の痕との間には、巨人の住まう都市国家『骸殻荒野ガルシェン』があるという。
 アリッサムは巨人たちを利用して薔薇の痕へ侵入、そこに住む『ならず者』を掃討し、そして残された『なにか』を手に入れたようだ。
 さらにアリッサムは、かつての人類王都である薔薇の痕に残されていた守護騎士ゴーレムを動かし、骸殻荒野ガルシェンへの侵攻を企てている。大魔女スリーピングビューティーの持つ『魔女の力』を新たに得るべく、『創世巨獣ガルシェン』の心臓を奪うつもりなのだ。
 アリッサムの命令を受けガルシェンに向かおうとした巨人マスカレイドたちは、探索隊の奮闘により撃破された。ゆえに内部からの破壊工作などでガルシェンがすぐさま陥落することはない。
 だが、アリッサムの魔の手は刻一刻とガルシェンに迫っている。ただ手をこまねいているわけにはいかない。アリッサム軍を迎え撃ち、新たなる魔女の誕生を阻止するのだ。
「危険な任務になる……それでも、行ってくれるか?」

 続きをうながすエンドブレイカーたちに力強く頷き返し、リーは話を続ける。
「敵は『勇者アリッサム』、それと人類王都に残されていた『守護騎士ゴーレム』の軍勢だ」
 戦闘能力などは不明だが、強敵であることは間違いない。
 迎撃作戦は、二通りある。
 まずは、アリッサムがガルシェンに到達する前に迎撃を行う方法。
 利点は、ガルシェンの被害が抑えられること。それに、戦闘の混乱に乗じてアリッサムが『目的の物を奪って脱出する』といった可能性を減らすことができる。
 ただ、ガルシェンの巨人の動向が懸念される。アリッサムを攻撃したエンドブレイカーを敵と見なし、攻撃を仕掛けてくる可能性があるのだ。アリッサム軍と巨人たちに挟撃されれば、苦戦は免れない。
 もうひとつは、アリッサムがガルシェンの巨人に戦闘を仕掛けるのを待ってから、乗り込む方法だ。
 巨人とアリッサム軍が争っている状況であるため、戦力的にはかなり有利になる。しかし、戦闘中のどさくさに紛れてアリッサムが『目的の物を奪って脱出する』可能性は無視できなくなる。
 アリッサムの狙い――『創世巨獣ガルシェンの心臓』については、どこにあるどんなものなのか、まるで情報が無い。ゆえに守りようもないのだ。
 どちらの作戦を選ぶは任せるぜ、とリーは言い添えてから、威勢良く拳を振り上げた。
「探索隊が命がけで手に入れた情報だ――さあ、高く買ってくれよ!」


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参加者
毒芹の粮・ラグランジュ(c02051)
風を抱く・カラ(c02671)
瑠璃夜蝶・セレン(c02756)
新樹の歌姫・フェイラン(c03199)
灰皓の衛・エルンスト(c07227)
白詰の庭・プティパ(c13983)
右胸の虜囚・グリーフ(c15373)
紫刻の幻影・クトラ(c16568)

<リプレイ>


 輝かしい戦利品を従えて凱旋した勇者を迎えたのは、歓呼でなく敵影であった。
 『骸殻荒野ガルシェン』の目前、荒野に布陣するエンドブレイカーの大部隊に、若草の乙女は眉根を寄せる。使いに出した巨人からの連絡は途絶えたまま。ならば、薔薇の痕へ赴いている間にガルシェンは陥落したか。
 だが――と前を見据える双眸は揺るがぬ。さざ波ほども。
「その程度の人数で、私を止められると思うな」
 ――蹂躙せよ。
 あるじの号令に、人類王都の秘宝たる『守護騎士』の軍勢がいっせいに轟いた。

 荒野に風が吹く。すべてを焼き尽くす熱風が。
 地平は鉛色に塗り潰されてゆく。地を踏み鳴らし押し寄せる鋼鉄の軍勢によって。
「こっちのゴーレムは我々に任せろ!」
 エンドブレイカーの間に声が飛び交う。足並みを揃えて迎撃する彼らに、騎士鎧の巨大ゴーレムどもが波濤さながら押し寄せ、激しくぶつかり合い火花を散らす。
 ――怖い。
 激突は、まだここまでは及んでおらぬ。陣の中ほどに位置取るこの隊には。
 けれど鷹の眼に映る前線の、あまりの壮絶さ生々しさに白詰の庭・プティパ(c13983)は唇を噛みしめた。剣の柄を握る手は白く、剣先は震え定まらぬ。喉元までせり上がった悲鳴をなんとか飲みくだし、柄に口づける。騎士が姫に誓うがごとく。
「敵に巨人はいないわ。けれど、マスカレイド化した守護騎士が混じってる」
 告げた声音は、当人の望んだ通りに滑らかなもの。隣にて同様に鷹の眼をこらす風を抱く・カラ(c02671)が、こちらは真に気負わぬ声で続けた。
「小隊ごとに行動してるね。六体編成、うち一体がマスカレイド。すべておなじ。指揮官っぽいのは見当たらない。つまり――」
 まぶたを閉じる。耳をくすぐるは快い剣戟の音。唇に浮かぶは笑み。ふたたび開いた瞳に映るは――もはやひとの眼にも鮮明な、鋼鉄の巨躯。
「コレが、あたしらの相手だ!」
 しなやかに地を蹴る。迫り来るゴーレムの一隊へ向け。風を切って腕をしならせ、蟷螂の鎌と変じたそれを最前の守護騎士に叩き付ける。並び駆けたプティパも、突破口を開くがごとくもう一撃。
 鎧がゆがむが、切断には至らぬ。おなじ傷を抉るよう、漆黒の槍と牙が鋼の皮膚を穿つ。右胸の虜囚・グリーフ(c15373)の放った影槍、紫刻の幻影・クトラ(c16568)の喚んだ魔犬だ。
「カッコイイね。何を食べたら、そんなに大きくなれるの?」
 筋骨逞しき戦士に並び立つ、少女とも見紛う華奢な少年が、巨兵を仰ぎ無垢に微笑む。ガルシェンの巨人にはいささか劣るものの、ゆうに彼の背丈の三倍はあった。
 目前にそびえ立った守護騎士は四体、すべてが盾を構えていた。巨体の合間からのぞく後衛には、剣を持つ騎士の姿、そしてもう一体――。
「あれが隊長のマスカレイドね。見苦しいこと」
 銀鎖を繰る瑠璃夜蝶・セレン(c02756)に嫌悪が滲む。さもあらん。『それ』は醜悪の一語に尽きた。
 もとは凛々しき騎士の姿であったろう。けれどいまや見る影もない。ひしゃげた鎧の継ぎ目から臓物のごとき金属片を撒き散らし、ねじれた手足でぎくしゃく動く、つぎはぎの化け物だ。
「あれのどこが『騎士』だというの」
 セレンが一瞬だけ向けた視線に、はたして気づいたろうか。傍らの灰皓の衛・エルンスト(c07227)は指輪に伏した眼差しを上げ、ハルバードを振るい気刃雪崩を放つ。
 残酷な子供に弄ばれた人形のような、おぞましくも滑稽な姿。なれど見くびる者などこの場にはおらぬ。歪んだ形貌は棘によるもの。その強さは頭に浮く仮面が、なによりも凄まじい攻撃が証した。
 巨体が身を震わせば、剥げ落ちた鉛が掃射のごとくエンドブレイカーらに降り注ぐ。さらに相対する騎士より盾の殴打を受け、プティパの小柄な体がよろめいた。
 重ねて繰り出された攻撃は、毒芹の粮・ラグランジュ(c02051)が代わりに浴びた。どす黒い大鎌を振りかぶり突進し、黒旋風に護られた自らをもって盾となす。
「俺が立ってるうちは、先に女子供を倒させやしねえぜ?」
 男が茶目っ気たっぷりに片目を瞑ると同時、戦意を鼓舞するがごとき行軍歌が戦場に響き渡った。新樹の歌姫・フェイラン(c03199)が歌う雄壮なる戦歌だ。
「回復が追いつかないだなんて、言わせない」
 言葉通り、強大な治癒は瞬く間にプティパの傷を塞いだ。跡形もなく。だが裏を返せば、早くも回復の必要に迫られたということ。姿に違わぬ剛力であった。体力の半ばをたやすく奪うほどの。
 このさきの戦闘の過酷さを思えば、瑠璃鳥の柄を握る手に力がこもった。


 荒野はいまや混沌の渦中にあった。
 あらゆるところで鉄と肉がぶつかり砕け、怒号と血飛沫が飛び交う。
 この凄惨な戦を、勇者アリッサムは高みから睥睨しているのだろうか。氷の眼差しで。あるいは己が野望の成就を前に昂ぶって。
「奴が魔女に成り、何を成すか? ……知ったことか!」
 目前の悲劇を防ぐのみ、とラグランジュは禍々しき大鎌をひたすらに振り回し、並ぶカラもまた己が腕の変じた鎌を荒々しく叩きつける。鋼鉄の壁へと。
「でかい図体して、目障りったらないね」
 敵の前衛は、まさしく彼らを取り囲む厳めしい壁であった――プティパが閃火のごとき蛇王の瞳にて睨みつけた一部のみは、煌びやかな宝飾と化したが。ともあれ、四体もの巨大ゴーレムを、たった三人で押し留められようはずもない。
 側面からフェイランを押し潰さんとした騎士の盾を、受け止めたのは赤鉄鉱のナイトランス。
「いいえ、抜かせませんから」
 情に欠けたグリーフの横顔は鋼鉄の騎士さながら。巨大な鋼の盾を身ひとつで抑え込んだとは到底思えぬ。その体躯を幻の城壁が覆い、反撃の弩を備えた。
 極めつけの死地ですか、と誇り高き騎士は――あるいは罪深き囚人は思う。
 ――望むところです。いずれにせよ魔女が生まれれば、行きつく状況は同じなのだから。
 かくて押し寄せる壁には支えが立ったが、なお厳しい戦況であることは明白。
 前に立つ者は目前の敵を抑えるのみで手一杯、攻撃を集める余裕などありはせぬ。しかも騎士のすべてが癒やしの術を備え、後方からはマスカレイドが凄惨な鉛の猛雨をまき散らす。
「回復は任せて頂戴」
 荒野に美声が響く。フェイランが朗々と歌いあげる凱歌は、猛攻を耐え凌ぐ者をどれほど励ましたことか。なればこそ、歌姫の声が絶えたときがすなわち終幕となり得る。
「さぁ、疾っておいで。お残しはダメだよ」
 鈴の声音でクトラがささやいた。昏血の猟犬がゴーレムの足元をくぐり抜け向かうさきは、剣を携えた騎士。前衛の被害は分散し、傷は浅い。まずは回復の要を潰す狙いだ。
 群がり貪る犬どもに間髪入れず、セレンの生み出した白銀の鎖が、エルンストの放つ光輝の刃が、次々と剣の騎士を襲う。隣り合う化け物をも巻き込んで。
 騎士は左腕を吹き飛ばされ傾いだが、むろん痛がりも怯みもせぬ。ただ己が身に癒やしを施す。決められた作業をこなすがごとく。
 しばし膠着が続いた。陣と策は双方とも持久戦に近い。ゆえに内から精神を削りあう戦でもあった。耐えきれず崩れたのは、集中砲火を浴びた剣の騎士だ。
「聞き苦しい悲鳴をあげないだけ、マシかしら」
 慈悲を露ほども感じさせぬセレンの微笑。鎖に絡め取られ、地に崩れ落ちる巨体が舞い上げた土煙は、反撃の狼煙に他ならぬ。
「もう終わり? 簡単に倒れちゃったらつまらないよ」
 クトラの従える獰猛な魔犬の牙と、エルンストの撃ち出す光刃は、いまや盾もつ騎士へと向けられた。猛攻にぐらついた鉄の腹にグリーフが深々とランスをうずめれば、ゴーレムは錆びついたように動きを止めた。いともたやすく。たび重なる攻撃と修復とが鋼鉄の身を脆くしていた。
 だが、極限はこちらとて同じこと。敵を減らすまでに手間取り、いまだ天秤は定まらぬ。
 雨が降る。棘に蝕まれた化け物の肉片ならぬ肉片、ひときわ激しい鉛の雨が。
 ぎり、とグリーフの歯が軋む。言葉はない。ただ獣じみた唸りが、噛みしめた歯の間から漏れた。血塗れた顔はなお鋼さながら。
 鉛の雨を耐え抜いた男は、続けざまの打撃を受けてくずおれた。回復を差し挟む余地はなかった。不運であったが、必然ともいえた。運命の回転盤は必ずどこかに止まるもの。赤か黒に。
 ――エヴァ、と呼ぶ女の声が、闇に沈む意識のなかに泡立ち、はじけた。


 カラの動揺はほんの一瞬。
 幾度も戦場をともにした戦友の体を身軽く跳び越えた女は、腕の鎌を力任せに薙ぎはらう。よくも、とも、許さない、とも叫ばぬ。唇に浮かぶは変わらず笑み。やるべきをやる――今更確かめるまでもない。己が挑んだのはそういう戦と知っていた。
 鎌の余波を受け転がった騎士に、すかさずプティパが躍りかかる。喉に食らいつく獣のごとく、剣を突き立てた。幾度も。もがく獲物が絶命するまで。奪った命を糧とするのも獣とおなじ。ゴーレムに命があるものならば。
「待っていてくれる人達がいるのだもの。絶対に全員で戻るのよ」
 土埃舞う荒野にフェイランの歌が響き渡る。此度は凱歌でなく、猛き自然に捧ぐ歌だ。熱き焔の歌に煽られ、ラグランジュの鎌が勢いを増す。遠心力を乗せた斬撃を守護騎士に叩き込めば、鋼の胴が真っ二つに割れ落ちた。
「人類の遺産だか知らねえが、邪悪な精霊建築はぶっ壊す!」
 いまや守護騎士を一体とマスカレイドを残すのみ。そこでようやく――配下の失態に苛立ったわけでもあるまいが、化け物が前へ歩み出た。鉛の腸を引きずりながら。
 間近く見れば耐えがたいほどの醜さ。そして攻撃の苛烈さもまた増した。鉛の肉片は鋭利な槍ともなった。雨としてばらまくのでなく、狙いを定め射出するのだ。
「下がれ!」
 凄まじい威力であった。脇腹を穿たれ飛び退るカラにエルンストが取って代わり、翼のごとき刃を薙ぐ。化け物はガラクタをまき散らしながら荒れ地を転がった。
「アリッサムは魔女になってなにを為すというの。殺戮はなにも生まない。日々を生き、育んでこそよ」
 そのためなら血肉を削ることすらためらわぬ。フェイランの決意は雄々しき旋律となり響き渡る。カラの深傷を塞ぐにはなお足りず、クトラが黄昏の魔鍵にて楽園の黒き門扉を開けた。
 守護騎士のほうはすでに満身創痍。ゆえに攻め手はこちらへ集まった。
 セレンの放つ白銀の鎖が、蜘蛛の巣を描いて四肢に絡む。プティパの奪命の剣とラグランジュの大鎌が同時に繰り出され、鉄にまざまざと裂傷を刻む。
 後方より疾駆したカラが、突き出された盾に勢いのままひらりと跳び乗った。鉄の肩へ脚をかけ、頭めがけ刃の腕を打ち下ろす。硬い音が三度鳴り響いたあと、首が落ちた。
 配下を失い唯一残ったマスカレイドに、対するはハルバードを構えたエルンスト。
「ここで止める」
 化け物のねじ曲がった脚に渾身の一撃を叩きつける。鎧を貫く確かな手応えがあったが、胸を満たすは喜びよりもやるせなさ。
 なぜ戦わねばならぬのか。守護騎士ならば、ひとを守るため作られた存在であるはずだ。
 ――蹂躙せよ。
 そんな命令を遂行するためでなく。
 エルンストの苦い胸中を知るよしもない鉄の化け物は、ただ無造作に腕をあげ、鉛を撃ち込んだ。百発、千発と。
「く……ッ!」
 強烈な連射であったが、万全の状態ならば耐えうる攻撃でもあった。噴きこぼれる血とともに倒れたのは、これまで惜しまず仲間に施した回復術の反動ゆえ。
 薄れゆく意識のなかで彼は悔やんだろうか。否、なにひとつ。正しいと信じたものを選んだのみ。
「マスカレイドは弱ってるわ。畳み掛けるわよ」
 白銀の鎖を放ち、セレンが毅然と声を張る。もとより歪な姿ゆえ損傷は判別しがたいが、揺るがぬ確信があった。そうでしょう、と女は優雅に微笑む――他ならぬあなたの斧槍を受けたのだもの。
 掃射の間隙を縫うように懐へ飛び込んだのはプティパだ。仲間が命がけで切り拓いた好機を、けっして逃すものか。その一心に突き動かされ剣を振るう。
 堪えきれず傾いだゴーレムに、魔犬の軍団が群がる。次々と鎧によじ登り牙を立てる犬どもは、もはや巨体を覆い尽くさんばかり。――さようなら、とクトラは告げた。空虚な声で。
 とうとう怪物は崩れ落ちた。盛大な轟音と土埃をあげ。血ならぬ血を撒き散らし。
 土煙が晴れたとき――そこに在ったのは、新たな守護騎士の姿であった。


 勝ち目などあろうはずもない。
 現れた増援は、無傷の六体が揃った小隊。対するこちらは二人を欠き、残る者も疲労著しい。事実、周囲では撤退する部隊が後を絶たぬ。
 なれど彼らは抗戦を選んだ。能う限り、敵の戦力を削ぐべく。
「私、欲張りなの。ちょっとやそっとじゃ満足できないわ」
 可憐な唇に獰猛な笑みを浮かべ、プティパは突く剣を通じ命をねだる。舞うがごときクトラの斬撃を、フェイランの歌が彩った。セレンは最後まで優雅に立ち振る舞い、カラの笑みもまた咲き続けた。
 カラは信じて疑わぬ。後に続く仲間が必ずや勝利することを――それはきっと、未来に希望を託した過日の英雄とおなじように。
 彼らは勇敢に戦い抜いた。残る力を振りしぼり、そして力尽きた。守護騎士を二体道連れに。
 歌声が止んだ。絶えず戦場に響いてきた戦歌が。それが終幕の報せであった。
「俺が残るとはなぁ、まったく人生は理不尽だぜ」
 取り囲む巨兵を仰ぎ、ラグランジュは嘆いた。笑おうとしたが、絶え絶えの息が漏れたのみ。全身の傷は灼けつくよう。地に伏した仲間達の姿を見れば、背の傷痕がなにより痛んだ。
 からん、と音が鳴る。大鎌を投げ捨てたのだ。降伏のしるしであろうか――否。かわりに懐から取り出したは紫煙銃。銃口が狙うは、真正面――黒光りする体に銀面のマスカレイド。
 響いた銃声は、突風に掻き消されて途切れた。

 部隊は全滅した。ひとりとて残さず。
 鋼の騎士達は場を去った。他への追撃に移ったのであろう。戦の音はいまだ続いていた。かなり小さくなってはいたが。遠くで、あるいはすぐ近くで。
 音に歌が混じった。きれぎれの歌声は伝令であり、内容は聞き取れぬが凶報であることは明白。急ぎ撤退を呼びかける声が続いた。
 置き去りにされたとて、無理からぬところであった。引き際を定めなかったのは彼ら自身。
 だが、駆け寄る足音を聞き、助け起こす手を感じた。
 まずは雅やかな着物を纏う紅の少女。異なる方角から黒白の双剣を携えた黒衣の剣士も。そして彼らの仲間に次々抱えられ背負われ、からくも窮地を脱したのであった。
 もしも彼らの救いの手がなければ、どうなっていたことか。アリッサムの目こぼしを期待するのは、分の良い賭けとはいえぬ。おそらくは捕虜とされ、悪しき企ての手段とされたやも知れぬ。

 かくて決戦の舞台はガルシェンへ移る。
 打ち捨てられた荒野には砂塵の風が吹きつけ、散らばる鉄くずを虚しく鳴らすばかり。



マスター:白木文香 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2014/04/30
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