ステータス画面

存在意義は何処ぞや

<オープニング>

●れぇぞんでぇとる
 ぽちゃん。
 橋の上から投げた石ころは、水面に波紋を広がらせる。やがて、それも消えた。
「もうすぐ俺も、とうとう三十路か」
 石を投げた主である、粗末な着物の男は、一つため息。
 良い結婚相手が見つかることもなく。
 職に就いて金を稼いでいるわけでもない。
「俺が生きている意味は何かあるのか……いや、何もないな」
 なんとつまらない人生だ、と。
 深く深く、再度ため息をつく。
「ねぇねぇ! ボクを使ってよ!」
 背後から聞こえた甲高い声に、男は気だるげに振り向く。
 そこには、黒い影がわだかまっていた。
「ボクを使って人を殺しなよ! その命を啜ってキミは強くなるんだ!」
「強く? ……ふぅん」
 男は、そこまではぼんやりと聞いていた。
 だが。
「強くなれば、このアマツカグラの王にだってなれるんだよ!」
 ぴくり、と。
 影が続けた言葉に、男の身が震える。
 彼はわずかな逡巡の後、意を決して影へと手を伸ばした。

 しばし物陰に隠れて息を殺し、人が通りかかるのを待つ。
 気配を感じ、飛び出した。
 ぎょっとした通行人が彼を見る。
 ――俺は王になる。
 ――王になって、人に価値を認められる存在になる!
 彼が決意と共に突き出した黒い槍は、いとも簡単に通行人の胸をずぶりと貫いた。

●あなたはどうしますか?
「事件です」
 虫好きの錬金術士・バズ(cn0142)は真剣な表情で言う。
「もうご存知かもしれませんが、大地の扉から、悪しき力がアマツカグラに漏れ出してきています。扉に刺さった戦神斧の影響かもしれませんね。……その悪しき力によって現れた喋る武器に、アマツカグラの一般人の方が取り込まれて事件を起こしてしまうようなんです」
 エンディングの辻斬り事件が起こる場所は、とある町にある赤い橋の近くだとバズは言う。そこに行けば、目的の人物は自ずと物陰から姿を現し、喋る武器を手に襲いかかってくるだろう。そこで戦い、武器を破壊すれば、彼は人を殺めずに済む。
 ただし、大人数で武装して向かったら、相手は警戒し、姿を現さない可能性があるので、そのことも考慮に入れた方がいいかもしれない。
「取り込まれた一般人の方は、名前をクヌギさんといいます」
 バズは、続ける。
「クヌギさんに戦いを放棄させることができれば、彼を保護して喋る武器だけを破壊することができますが……」
 辛そうに、表情を歪めて。
「……それができなければ、彼を殺してから、喋る武器を破壊することになります」
 もし、だ。
 もし最初から彼を殺すつもりで向かうなら、考えるべきことは比較的少ないだろう。
 クヌギが喋る槍を使って繰り出してくる攻撃は、槍地獄、麒麟撃、活殺退魔突きの3つだという。
「説得は、もしかすると難しいことかもしれません。彼が喋る武器を望んだ目的を解決することができるなら、あるいは……とは思うんですが」
 自分の人生はつまらない。
 生きている意味などない。
 存在価値などどこにもない。
 そう考えていた彼にとって、『王になれる』という言葉以上に魅力的な説得ができない限り、クヌギが槍を手放すことはないだろう。
「……いずれにせよ、マスカレイドである喋る武器のせいで起きる悲劇は、決して見過ごせるものではありません」
 バズはキミ達を見据え、深くお辞儀をした。
「どうか、よろしくお願いします」


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参加者
驟雨・キシス(c05687)
駆逐系女子・ニーナ(c12571)
ウインディソニック・ジェノス(c25922)
灰色の旋風・アイゼ(c34897)
緋炎の獅子・レオンハルト(c35756)

<リプレイ>

●それはまるで終焉のような
 微笑を浮かべた女が、灰色の長い髪を風になびかせながら、一人、しずしずと歩みゆく。
 白地に、黒百合と紫紺の華の図柄が描かれた着物を身に纏った女だ。
 そんな彼女目がけて、物陰から飛び出し突進してくる人影が一つ。
 黒い槍を手にした男。クヌギである。
 女は悲鳴を上げる。
 クヌギが持つ槍は、そのまま女の身体の中心を貫いた。

●棘の誘いは甘く甘く
 傷を受けた女は怯むことなく、自分の着物の袖に手を差し入れた。
 中から、折り畳まれた斧剣が取り出される。ハイドウェポンだ。
「何……!?」
 クヌギは驚愕に目を見開く。
 女、すなわち、駆逐系女子・ニーナ(c12571)が繰り出した攻撃を、クヌギはすんでのところで槍で受け流した。
「とても戦い方が上手いですね」
 ニーナとは別の方向から声がかけられる。灰色の旋風・アイゼ(c34897)だ。
 気づいた時には、クヌギは武器を持った5人の人物に取り囲まれている。
 ニーナの他の4人のエンドブレイカー達は、ステルスやシノビムーブを使うなどして、周囲に隠れていた。彼らは、囮となったニーナの悲鳴を合図とし、ただちにこの陣を敷いたのだ。
「ななな、なんだー、お前ら!?」
 クヌギが手にした槍が甲高い声で問う。
 それに答えるのは、獅子を模した兜で素顔を隠した少年。
「我は盾、我は剣、我は炎! 我は貴様らを滅するために目覚めし獅子! 我が名はレオンハルト――推して参る!」
 鈴を思わせる澄んだ声で、彼、緋炎の獅子・レオンハルト(c35756)は名乗りを上げた。それとともに、レオンハルトはクヌギの持つ槍にチェイスをかける。
 アイゼはクヌギに向け、パッションを込めた言葉を続ける。クヌギは何も悪いことはしていないのだから、できることなら命を助けたいと、そう心から願って。
「その腕があれば、戦いにおいて王になれると思います」
「それは……」
 黙り込むクヌギ。
「きゃはは! あのねあのね、こいつ自身に戦う力なんてないよ。戦えてるのはボクのおかげ!」
 槍が楽しげに笑った。
「黙りなさいな! 急かさなくてもゆっくり殺してあげますわよ!」
 ニーナが怒声でもって槍を沈黙させる。
 だが、クヌギが戦闘力を持たない一般人だったことはおそらく事実なのだろう、と、アイゼは苦い思いを噛み締める。それでも、彼はさらに言葉を発した。
「その武器は人の弱みにつけ込むんだ。武器が喋ること自体おかしいし、人を殺したら王になるどころか捕まってしまう。惑わされないでください!」
「喋ること自体が、この武器が奇跡を起こせる証拠なんじゃないのか」
 クヌギは言う。
「王になったら俺がアマツカグラの法を変えられる。だから捕まりはしない!」
 彼の心は、喋る武器の甘言に囚われたままだ。
「貴方は今まで自分自身のために何か努力をなさったことはお有りかしら?」
 そこで口を開いたのは、ニーナだ。
「……何が言いたいんだ」
「この世界は全てのものを比べて計ろうとするクソみたいな世界ですわよ。だからこそ生きる価値を自分自身で見出さなければならないですの」
「要するに、俺が、どうせろくに努力をしていないクズなんだろう、っていう話か?」
 クヌギの問いを涼やかな笑顔で受け流し、ニーナはこう言った。
「もし貴方が、私が今言ったことすら知ろうとしないで今日を生きてきたのなら、今ここで消えてくださいな」
 だん、とクヌギは地面を踏みしめた。額には青筋が浮かんでいる。
「馬鹿にするな! この世界がクソだってことぐらい、ずっと前からわかってる。そんな世界でも他人に認められるようにする、俺自身のための努力だって、散々してきた! けど、何をやっても駄目だったんだよ!」
 目を血走らせながら、血を吐くように、クヌギは叫ぶ。
「だから俺は、王になって、このアマツカグラを変えるんだ。そうすれば、俺は認められて、生きる価値のある人間にもなれる!」

●光明
 ウインディソニック・ジェノス(c25922)は、小さく溜め息をついた。
(「こういうのって、子供とか成熟してない人の悩みだったりするのかもね。すでに成人してる彼が、喋る武器に弄ばれていることに同情できるか、っていうのはやや議論のあるところだけど」)
 ジェノスにとっては、クヌギの生死は強くこだわりのある事項ではなかった。
 それでも、他者の説得の妨げにならないように留意しながら、彼もまた説得を試みる。
「日々をつつがなく生きていくっていうのも存在意義ってあるよね。しっかり日々を送ってる人は、悩んでるヒマもないわけだし……」
「ああ、そうだな。俺はしっかり生きることすらできていない、そのくせいつも悩んでる、ゴミみたいな暇人だってことだな!」
 ジェノスの言葉を最後まで聞かず、クヌギはますます怒りを露わにする。
「いいや、自分の存在価値に悩むぐらいの人間なら、その時点で生きる価値はあるさ」
 説得を受け継いだのは、驟雨・キシス(c05687)だ。
「え……」
 クヌギの表情が、戸惑いへと変わった。ジェノスの意見と真逆のことを言われたと感じ、驚いたようだ。
 キシスはクヌギの目を真っ直ぐ見つめ、言葉を伝える。
「君はその喋る武器に利用されているだけ。その武器は人を惑わす狂気そのものさ。使ったところで、誰かに認められることなんてない」
「……っ」
 クヌギの視線がわずかに泳いだ。
「だけど。それを捨てる勇気があれば、誰にでも認められるし、何にだってなれる」
「……この武器を捨てたところで、なんだって言うんだ。元の、何もできない俺に戻るだけなんじゃないのか……?」
 はっきりと紡がれるキシスの言葉。それを聞いたクヌギの声が震え始めた。
 そんなクヌギに、レオンハルトが声をかける。
「貴方の存在価値を決めるのは、貴方自身です」
「……俺自身が、決める?」
 はっとした表情を浮かべるクヌギ。
「実を言うと、ボクも以前は引きこもりでした。そんなボクが変われたのは、ボク自身が、自分の意志で、一歩前へ進めたからです」
「……自分の意志で、か」
「ええ」
 レオンハルトは一つ頷いて、最後にこう言った。
「王になれなくても、自分が変われば存在意義を見出せるんです」
 クヌギは沈黙する。代わりに、槍が喋り出した。
「大丈夫だよ、キミは変わったじゃあないか! 人を殺す覚悟をしてまで、自分を変える勇気を出したんだよ!」
「そうだな、俺は勇気を出した……」
 クヌギは目を閉じる。
「うん! だからボクの言うことに従ってれば――」
 ガラン。
 槍が、地面に叩きつけられる。
「……勇気を出した、つもりだった」
「え? え?」
 槍は、何が起きたかわからない様子だ。
 目を開けたクヌギは、言い放つ。
「俺が間違っていたよ。『俺は』、人殺しをすれば存在価値のある人間になれると思っているわけじゃない。仮にそんな手段で王になったとしても、『俺自身が』納得できない」
 キシスが、柔らかな笑顔を浮かべた。
「それでいいんだ。誰が何と言おうと、俺が認めるよ。君は、悪魔の誘惑にも負けない勇者だってね」

●悲劇の終わり
「くっそー! ボクを邪魔しやがって! お前ら、絶対絶対許さないぞ!」
 槍は悔しがりながら、ふわりと宙に浮いた。
「物の怪が喋るな! 貴様の声には虫唾が走る!」
「そっちこそ黙ればぁ!?」
 レオンハルトと槍が言い合いを始めている、その間に。
「少しの間、離れていてください」
「わかった」
 アイゼの呼びかけに応じ、クヌギは戦場から離脱する。
「大方ジュウゾウのモノだろう? 貴様の『兄弟』はあと何人いる!?」
「答えると思った!? あっかんべー!」
 槍はレオンハルトに対して、舌を出す代わりに、穂先を地面に向ける。
「一つ残らず滅するのみ!」
 レオンハルトは、フレイムソード『熾炎』を構えた。
「吹き荒れろ! 暴風の刃よ!」
 ジェノスが振るった『Windy Sonic』の剣閃がタイフーンを起こし、槍を巻き込む。
 キシスが手にした紫煙銃の、紫紺の帯が揺れる。槍へと放たれた魔力弾は十字星を描き、キシスに力を与えた。
「行きますわよ!」
 ニーナは英雄騎士の幻影を纏い、槍に鉄拳制裁を加える。直後、アイゼが具現化した麻痺短剣と朱き妖刀が、黒き槍をがりがりと傷つけた。
 レオンハルトは、後方から電撃の網を放ち、槍を包む。
「痛いなー! こっのおおお!」
 槍がオーラの麒麟を生み出し、ニーナへと突撃させる。麒麟は高らかに声を上げ、槍が受けた痺れを除くとともに、蹄でニーナを蹂躙した。
「くっ」
 ニーナは痛みをこらえる。囮として最初に受けた一撃もあって、傷は深い。
「ニーナ! ……清浄と癒しの風よ……」
 ジェノスが柔らかな風を呼び、ニーナを回復する。それでも足りず、キシスが治癒弾を撃ち込んで傷を癒した。
「助かりますわ」
 ニーナは礼を言い、再度グロリアスファントムを纏う。槍を殴りつけながらとった英雄騎士の構えにより、ニーナは力を得た。
 アイゼは絶対典範で具現化させた凶器を、レオンハルトは雷の檻を、それぞれ生み出して槍にぶつけていった。
 その後も、槍は執拗にニーナを狙い攻撃を行った。1人でも倒せば包囲に穴が開き、逃げられるかもしれないと考えたのだろう。
 それでも、ジェノスやキシスが回復を行ったため、ニーナが倒れることはなかった。
 槍による攻撃の標的が、度重なる回復により気力の削れたジェノスに変更された際は危機と言えたが、彼はかろうじて踏みとどまることができた。
 幾度も攻撃を受けた槍は、やがてひび割れ、ボロボロになっていく。
「……塵に返れ」
 呟いたレオンハルトが、槍に自分の武器をぶつけてかち上げ、空中に弾き飛ばす。とどめこそ刺せなかったが、これでもう、槍は次なる一撃を防げなくなった。
「くっそー! お前なんか! お前なんかー!」
 槍はヤケ気味に攻撃を発動。レオンハルトの胴体が、地面から生えた大量の槍に貫かれる。しかし、その傷もまた、ジェノスが起こした風によってただちに癒された。
「……王に、なるなんて」
 キシスが槍に銃口を向け、狙いを定める。
「魅力的過ぎて、眩暈がするよ」
 弾丸を連射。
 かしゃん、と音を立て、槍は粉々に砕けた。

●未来へ
 ジェノスは、武器の破壊が成功したのを確認し、よし、と一つ頷く。
「戦神斧がなくなれば、喋る武器も絶滅するのだろうか……」
 風に溶けるように消えてゆく槍の残骸を見ながら、アイゼは呟いた。
 それからやがて、離れていたクヌギがその場に戻ってきた。
「……終わったんだな」
 安堵の色を帯びた言葉を発したクヌギに、つかつかとニーナが近づいていく。
 ぐにー。
 ニーナはクヌギの頬を思いっきりつねった。
「いででででで、何すんだ!」
「通りすがりの女にここまでリキ入れてもらえることを感謝なさい。後にも先にもこんな機会ないですわよ」
 そう言って、ニーナは、ぱっと手を放す。クヌギは、ニーナをじろっと見て、頬をさすりながら言う。
「……あんたのことは、正直、嫌いだ。けど」
 5人全員を見渡して、クヌギは言った。
「感謝は、してる。すまなかった、ありがとうな……」
 キシスは、ふわりと笑った。
「君は生きる価値がある。だから俺は、君を殺さないで済んで、とても嬉しいよ」
「……ああ」
 この時クヌギは、この日初めての笑顔を見せた。
 レオンハルトが、クヌギに歩み寄る。
(「……自己暗示は、やめよう」)
 臆病な、人間不信の自分。それを封じる象徴たる兜を、レオンハルトは脱いだ。
 幼さの残る、中性的な素顔が露わになる。
「……こんなボクに言われっぱなしで悔しくない? 悔しいなら、最初の一歩を踏み出そうよ」
「最初の一歩、か。まだ間に合うよな、きっと」
 レオンハルトは、クヌギの言葉に頷いて、言う。
「その代わり、何か困ったことがあったら遠慮なく助けを求めて欲しい。だから……頑張って」
「そうだな。……頑張ってみる」
 決意を口にするクヌギに、レオンハルトは微笑みを向けた。
 ニーナは、にこにこと笑顔を浮かべ、提案する。
「さて、皆さんで一緒にうどんを食べに行きません?」
 クヌギが、俺もか? と自分を指せば、ニーナは頷く。
 クヌギは、言った。
「悪いが、俺は蕎麦派だ。行きつけの蕎麦屋を紹介しようじゃないか。値段は安いのに、とても美味いんだ!」

 クヌギの表情は、とても晴れやかだった。
 きっと彼は、歩んでいくだろう。自分自身の足で、未来へと。



マスター:地斬理々亜 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:5人
作成日:2014/04/27
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