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林檎の花迷宮へようこそ!

<オープニング>

●林檎の花迷宮へようこそ!
 新緑の木漏れ日きらめく大樹の森に、純白と淡桃の花吹雪が舞い踊る。
 橄欖石の輝きめいた木漏れ日の世界を瞬時に花で満たしたそれは、桜吹雪ならぬ林檎の花吹雪。柔らかな花弁の嵐と花から溢れる甘酸っぱい林檎の香りの中をきゃあきゃあと笑いさざめきながら、金の髪踊らせた乙女達が大樹の枝から枝へと跳び渡る。
 永遠の森エルフヘイムの懐深く抱かれたこの林檎の大樹の森は、もちろん永遠の森らしい大きな大きな樹々の森。天を突かんばかりの林檎の大樹達は街の通りほどもある大きな枝を幾重にも広げ茂らせて、瑞々しい新緑とともに桜によく似た花を満開に咲き溢れさせていた。
 きゃはは、と高く楽しげな笑声響かせ、乙女達は再び林檎の花々を舞いあげる突風を生みだした。
 途端に木漏れ日の世界を染める、純白や淡桃の花弁や鮮やかな桃色の蕾の嵐。
 だが乙女達からひときわ高い歓声があがったのは、全身を花吹雪に包まれたからでもなく、果実のそれと同じ甘酸っぱい香りが胸を満たしたからでもなく、花吹雪の中を翔けた乙女達の長姉が両腕で大樹の枝を抱え込むようにして、たやすくそれを圧し折ったからだ。
 華奢な乙女達の何倍もあろうとかいう太さのそれを圧し折ったのは、甲殻の腕だった。
 金の髪きらめく頭にクワガタの角を持ち、それとよく似た甲殻の腕をそなえた乙女達は、クワガタのピュアリィ――スタッガー達。
 ――姉様、素敵ステキ!
 ――私達だって、姉様みたいに強くなってみせるんだから!
 胸に白い仮面を現す姉同様、肩や腹部に仮面を現した妹達は、花を散らすと言うより引きちぎると言うのが相応しい突風を巻き起こし、ある者は背に咲かせた光の翼で、ある者は甲殻の腕を鋭利な大鎌のごとく揮って、巨大な林檎の樹々を大きく深く斬りつけていく。
 仮面を得たスタッガー達は大樹の花を散らし枝を落とし、幹を抉るのに熱中していた。
 広大な森の奥深くで暮らしていた彼女達は、同じこの森の中に湖があることを知らない。
 湖をとりまく大樹の枝々に埋もれるような、美しい村のことも。

 大きな大きな林檎の大樹の森の中に、ひっそりと星霊アクアの力が息づく小さな湖があった。
 碧く澄んだ湖をとりまく林檎の大樹にはいくつものツリーハウス。
 湖を見下ろすよう造られたそれらはこんもり茂る枝々に埋もれるような佇まいだったから、その村は何処か村全体が隠れ家のような雰囲気を持っていた。
 そんな村の雰囲気と、永遠の森エルフヘイムらしい林檎の大樹たちの中にひっそりと隠れるように生えた小振りなザクロの木々から取って、その村は『林檎隠れのポムグラニット』と呼ばれていた。
 美しい村だ。
 春には林檎の花、夏にはザクロの花が咲き溢れ、秋には鮮やかに色づいた果実を皆で楽しんで、冬には雪を冠った樹々の中、湖にかかる朝靄が曙光で金色に染まる様に息を呑む。
 ――ささやかで、だからこそ愛しい幸せに満ちた村。

●さきがけのさきぶれ
 永遠の森の奥に住むスタッガー達が突如マスカレイドと化し、森の巨木に襲いかかって暴れ回る。――最近いくつも報告されているマスカレイドスタッガーの襲撃の矛先は、エルフでも人間でもなく、常に森の自然へと向いている。
 ゆえにこの光景は、エルフヘイムの代理者たる槍の狩猟者・クライブ(cn0156)が世界の瞳の力で捉えたものだった。
「クライブの話じゃマスカレイドスタッガーはとにかく林檎の大樹を傷つけるのに夢中で、同じ森の中にエルフの村があることには気づいてないらしい。聴いた限りじゃ、気づいてもわざわざ村を襲撃しようとは思わないかもしれないが――」
 大樹を斬って伐って斬りまくった先に新たに見つけた大樹にエルフのツリーハウスがあったとして、マスカレイドスタッガーが『じゃあこの大樹を攻撃するのはやめようっと』などと思うだろうか。
「って、どう考えてもそんな遠慮深いヤツらじゃないよな」
 軽く目蓋を伏せて苦笑し、砂鷲の魔想紋章士・ナルセイン(cn0172)が話の先を繋ぐ。
 差し迫った危機ではないとしても『林檎隠れのポムグラニット』の村に縁深いこの男には見過ごせる話ではなく、また、マスカレイドが現れたとなれば聞き捨てにできるエンドブレイカーはいない。
「となれば、今のうちにこっちから出向いてヤツらを倒すしかない。――だろ?」
 男は銀の瞳を細め、酒場に居合わせた同胞達を見回した。

 大きな大きな林檎の大樹の森。桜に似た花が満開に咲き溢れるその森の奥で好き放題に大樹を傷つけているマスカレイドスタッガーは総数四体。ひときわ大きなクワガタの角と甲殻の腕をそなえた長姉はそれらをバトルガントレットの巨大鋏のごとく揮い、妹達は甲殻の腕を大鎌のごとく揮う。
「この角やら腕やらの威力も侮れないが、何より厄介なのは、ヤツらがスカイランナーめいた体術も得意らしいってことだ」
 そちらの威力も油断ならぬもの。
 けれど最たる問題は、彼女達のスカイランナー並みの身軽さだ。
「クライブの話通り、スタッガー達は地上じゃなくて樹上で暴れ回ってる。林檎の大樹は新緑と満開の花でいっぱいだからな、地上からじゃヤツらを捕捉しきれないだろうから、こっちも枝から枝へ翔けて跳び渡るように接近して戦う必要があるぜ」
 しかも、捕捉すればそれで終わりというわけではない。
 大樹を傷つけるのに夢中な彼女らも、攻撃を受ければ逃げるなり迎撃するなりするだろう。
 自由自在に枝を跳び渡る彼女らの動きを封じるのは至難の業。何しろ包囲したとしても上の枝へと跳躍されれば簡単に抜けだされてしまう。ゆえに、新緑と花に満ちた枝から枝へと互いに翔けて跳び渡り続ける戦いとなるだろう。
 鍛錬を積んだエンドブレイカーであれば、彼女達に引けをとることなく枝から枝へと翔けて跳び渡ることが可能な程度の身体能力は備わっている。だが――。
「何が一番問題かって言うと、枝葉やら花やらで遠距離攻撃の射線がしょっちゅう塞がれちまうって辺りだな。枝から枝へ翔けて跳んで、そのまま近接技で攻撃ってのが理想的なんだが……」
 ――俺じゃ足手まといになりそうだ。
 どちらかと言うと後方支援を得意とする男がそう続ければ、
「はいはいはーい! アンジュそういうの得意だよ! 得意だよ!!」
 傍のテーブルで話を聴いていた飛翔演舞大好きっ娘こと暁蝶の狩猟者・アンジュ(cn0037)が扇をひらひらさせて熱烈にアピールした。
 アンジュが行く! と勢いこむ彼女の様子に苦笑して、ナルセインは再び同胞達を見回した。
「これひとりじゃ返り討ちされて終わりだが、あんた達が一緒なら――きっちり勝って来れるだろ?」
「ね、アンジュと一緒に、このスタッガー達を倒しにいこう?」
 自分ひとりでは敵わぬ相手とはもちろん彼女も承知。
 続きはどうぞ、と肩を竦めた男に頷き、暁色の娘は同胞達へと笑みを向けた。
「あのね、無事に勝って来られたなら、また逢おうね」

 大きな大きな林檎の大樹の森。
 その森にひっそり息づく、愛しい幸せに満ちた村で――いつか、また。


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参加者
奏燿花・ルィン(c01263)
戯咲歌・ハルネス(c02136)
蒼空奏想・パルティナ(c03293)
靡く千の藁・ヨゼフ(c04167)
陽凰姫・ゼルディア(c07051)
勿忘草・ヴリーズィ(c10269)
アップルバスカー・マニート(c13989)

NPC:暁蝶の狩猟者・アンジュ(cn0037)

<リプレイ>

●林檎の隠れ家へようこそ!
 大樹の森の樹上を翔ける風は地上のそれよりもダイナミックに世界を変える。
 風に大きく波打つのは視界一面の新緑と満開に咲き溢れる林檎の花々、塔のごとき林檎の大樹の枝から枝へと翔けて跳び渡るたび、勿忘草・ヴリーズィ(c10269)の足を林檎の花吹雪と甘酸っぱい花の香含んだ風が掬って背を押してくれるかのよう。
 大樹が根を下ろす大地は幾重もの緑と花々に遮られた遥か下方、空仰ぐまでもなく純白と淡桃の花々は奏燿花・ルィン(c01263)の全身を取り囲む。風とともに枝から跳躍すれば橄欖石の煌きめく木漏れ日と純白と淡桃の花々で創られた樹上世界そのものが大きくうねって躍動し、新緑と花々の切れ間に甲殻の角と腕持つ娘達の姿を見せた。
「さて、行くか!」
「ハルネス様!」
 踊る木漏れ日をルィンの右手が裂くと同時、蒼空奏想・パルティナ(c03293)も碧樹の腕輪閃かせ、彼と同じ透きとおる魔法印を仲間へ貼りつける。これは溢れる新緑と花々で分かたれても間違いなく仲間と合流するための導、林檎の木々へ暴虐を揮う仮面の娘達へ真っ先に突撃したい衝動を抑え、アップルバスカー・マニート(c13989)も導となる赤き実を放った。
「ヨゼフさん!」
「任せて! ばっちり受けとめ――ちゃダメなんだっけ!?」
 格好良く片手でキャッチしようとした靡く千の藁・ヨゼフ(c04167)は一瞬ためらった隙に見事顔面でチェイストマトをキャッチ、弾けた実の果汁を滴らせながらも、天誓騎士は棍を撓らせ跳躍する。
「はーいお姉さん達ちゅーもーく!」
「え? 何!?」
「赤いエルフ……じゃなくて赤い人間よ!」
「赤人間だわ姉様!!」
 予想以上の大注目を浴びつつ狙うは、スタッガー達の中でもひときわ大きな角と腕を持つ長姉。
 鋭い気魄を乗せて打ち下ろしたヨゼフの棍は巨大鋏めいた甲殻の両腕に受けとめられた――かに思えたが、のしかかる勢いで鍔迫り合いに持ち込めばその刹那、
「私達とやりあう気!?」
「勿論。土地や作物を荒らされた農夫の怒りは少しおっかないよ?」
 新緑と花々の波を突き抜け一気に距離を殺した戯咲歌・ハルネス(c02136)が、長姉のガラ空きの脇腹に紫煙樹の苗木を突き立てた。
 瑞々しい緑と純白と淡桃の世界をたちまち紫に染める大樹、急速成長するそれが長姉を呑み込み傍の妹娘をも呑まんとする。咄嗟に跳び退った妹娘は辛うじて紫煙樹から逃れたが、
「逃がしません! アンジュ様!!」
「大丈夫、パルティナちゃんについてくよ!」
 妹娘が花々を踏みつけて降り立った瞬間、舞いあがった花浚う涼風一閃。
 青き風詠むパルティナの扇が少女の狙いそのままにスタッガーの脚を薙げば、加速した勢いのまま跳躍した暁蝶の狩猟者・アンジュ(cn0037)の光の竜が体勢を崩された仮面の蟲娘を踏みつける。
 揺れた木漏れ日裂くように光の翼を現したのはその下で交差する枝にいた妹娘、
「姉様!」
「させないよ!!」
 けれど光翼が加速を得るより先にヴリーズィが妹娘の眼前へと舞い降りた。甘やかな蜜色の扇に涼やかな妖精の輝き融かし、円舞めいた斬撃で虚無を刻み込めば、続け様に飛び込んだマニートがその勢いを殺すことなく槍を揮う。
 花の香に混じるのは折られた枝や抉られた幹から感じる生木が裂けた匂い、呼び水のごとくそれが故郷を喪った日の記憶を胸に描きだすけれど――今の自分は、戦うすべを識らなかったあの小さな少女じゃない。
「あなた達の好き勝手も、ここまでよ!」
 声と同時に爆ぜたのは妹娘の足元から生えた無数の槍の煌き、柔らかな娘の乳房も硬い甲殻も構わず穿つそれがもう一体の妹娘も貫いたなら、己が身を裂きつつ速贄状態から脱したその一体を追ってルィンが跳んだ。四体の敵其々に二人一組で張りつくのが今回の策だ。
「よぅ、俺と遊ぼうぜ?」
 身を翻した蟲娘を覆い隠した花々の紗幕を開いたのは黒漆艶めく鋼一条、敵の気を惹かんと蜜の誘惑を乗せた声音に斬撃重ね、純白と淡桃の花に埋もれた世界に鮮麗な魅惑の薔薇色を咲かせた途端、すぐ傍でものすごく剣呑な気配が膨れあがった。
 ――もう! ルィン君たらピュアリィときゃっきゃうふふ続きなんだから……!!
 心配的中、とばかりに陽凰姫・ゼルディア(c07051)の胸裡で荒ぶ風、
「違う! 違うぜゼルディア、ピュアリィは俺の好みじゃねぇからな、な!?」
 疑惑の眼差し感じたルィンは考えるよりも先に必死で本心を訴えたが、にっこりと微笑んだ乙女はふいと彼から蟲娘へ視線を移す。
 これは理解してくれたのかくれなかったのか、どっちだ!?
 彼の焦りをよそに月の刃を抜き放ったゼルディアが肉薄するのは光の翼で反撃に出た妹娘、
「私の月の煌きと、貴女の光の翼……どちらがきれいかしら?」
 翠玉の瞳に挑戦的な煌き覗かせ、幻月纏って剣舞のごとき斬撃を放つ乙女は――困ったことに、ぞくぞくするほど綺麗だ。

●林檎の花迷宮へようこそ!
 瑞々しい緑と爛漫と咲き溢れる林檎の花々で迷宮めく世界を創りだすのはいかにも永遠の森らしい大樹達、街の通り程もある桁外れに巨大な枝々を跳び渡るスタッガー達との樹上での戦いは、当然平面ではなく空間戦となってくる。
 痛烈に胸元を蹴りつけてきた長姉が宙返りを打った瞬間、息を詰まらせんばかりの痛みを押し返す勢いで空を裂いたヨゼフの棍が蟲娘の上体をかちあげた――と思えば、確かに喰らったその強打で仰け反るままに彼女は再び宙返り、大樹の幹を蹴って上方の枝へ跳躍する。
「そうくると思ったよ! ハルネス!!」
「こういうのは慣れっこだよ、伊達にアンジュと一緒に過ごしてないからね!」
 即座に頭上を振り仰いだヨゼフの声が響いた時にはもう、丘のごとく盛り上がった巨大な枝の瘤を蹴りつけたハルネスも上の枝へ跳び移っていた。
 大樹も断崖も駆け回る暁色とともに翔けるからにはこれくらいは朝飯前、更なる跳躍は許さず鋭い苗木を打ち込んで、仰向けに倒れた長姉を紫煙樹の苗床として縫いとめる。
 だが、腹に潜り込んだ根が侵食でなくギアスを注げば単体攻撃しか持たぬ蟲娘はそれに構わず、遥かな空ごと彼を抱き潰すよう、甲殻の両腕を大きく掲げた。
 天よりも近く、けれどルィンが馳せる枝よりも高みで、激しい雷が轟いた。
「姉様!」
「っと、遊びの途中で抜けてもらっちゃ困るぜ!」
 枝先へと逃げていた妹娘が長姉のもとへ跳躍する寸前に、ルィンが幻の薔薇を叩き込む。連なる真紅と幻華の舞踏に蟲娘が圧倒された隙に飛び込んできたのは泪月の扇で舞ったゼルディアの風、
「貴女の起こす風と私の舞でうまれる風の、どちらがより強いのか――勝負してみない?」
「そこまで言うなら受けて立ってやるんだから……って、やばっ!」
 神風の突撃と挑発をぶつけられた妹娘はゼルディアに向き直ったが、己が風の術を編むためには足をとめねばならぬと気づけば風でなく光の翼を生んだ。けれどその一瞬の逡巡を突き、
「隙あり♪」
「助かるぜ、ロゼリア!!」
 蟲娘の背後に舞い降りた夜明け色の娘の蹴打が甲殻の角を砕き頭蓋への衝撃で鼓膜をも破る。すかさず放たれた薔薇咲く一閃でルィンの力が満ちたと見れば、
「さあルィン君、とっておきをお見舞いしてあげて!」
 己を斬り裂かんとする光翼にも怯まずゼルディアが真っ向から風を舞った。
 踊る木漏れ日、さざめく花波、そして彼女の追い風がくれる高揚のままに、爆発的に膨れあがった魔力が初夏の陽射しより眩い輝きで儀式魔法陣を展開する。幾重にも織り重ねられた重厚な魔力は仮面ひとつを容易く圧し潰した。
 純白と淡桃の花々にひときわ華やかな光と影映し、絶大な威力を乗せて展開された儀式魔法陣の領域がパルティナ達のもとへも届いたのは、彼女達が追う妹娘がアンジュの旋風を跳ね返した直後。
「わあいルィンさんのすごいの来たー!」
「ありがとうございます、ルィン様!!」
 荘厳にして精緻な魔法陣が妹娘を幾重にも叩き伏せ、破魔の陣に奔った剣閃が卵の殻を思わす光翼の護りを砕けば、淡い光の粒子となって消えゆく魔法陣めがけてパルティナが翔けた。
 舞えば優雅に翻る少女の扇も今は迅風めく刃。
 部位破壊で幾度も脚を打たれた妹娘は跳躍でなく光の翼に望みを託したが、軽快な跳躍ふたつで距離を詰めたルィンの斬撃がそれを押し留める。昇る風にも似たゼルディアの凱歌で高揚の笑みを燈したアンジュと眼差し交わし、パルティナは彼女の追い風に身を躍らせた。
 花々の合間に空色の衣が翻ればひときわ花の香が深くなる。
 争いに胸痛める少女も美しい森を穢す相手となれば迷わない。
「森は、貴女達だけのものじゃありません」
 烈風となって飛び込むのは蟲娘のもと、鋭く薙いだ扇がその腹部に見えていた仮面を打ち砕いた。
 磁器が砕けるような音が響くと同時、それを掻き消すかのごとく鋭い唸りをあげた甲殻の腕が首を狩る勢いでマニートへ襲いくる。
「く……!」
 反射的に翳したのは初夏の森より緑鮮やかな柊の刃、首への直撃こそ防いだが、大きく裂かれた腕と肩の傷の深さ、そして僅かな違和感に顔をしかめた。
 大鎌の呪詛攻撃を警戒していたが、妹娘が大鎌のごとく揮う腕の技は、死の一撃――魂が肉体を凌駕する力を断ち切る技に酷似したもの。間髪いれずヴリーズィが咲かせた世界樹の花があらかた傷を癒してくれたが、戦いは思うようには進まない。
 地の利を活かして戦えればと思ったが、この地に関することならこの森の村へと居を構えて半年の自分よりこの森で生まれ育ったスタッガー達の方が勝る。林檎の森という共通点はあれど、
「……ここは、私の故郷じゃないものね」
「これから故郷になるんだよ!」
 眉を曇らせたマニートへ明るく一声張って、ヴリーズィは下へ逃げた蟲娘を追って跳び降りた。
 小細工を弄すれば相手に逃走の隙を与えるだけと識るから、止まぬ風となって攻め立てる。颶風で加速すれば初夏の緑と林檎の花の香を突き抜けた。それらに胸洗われれば、終の棲家にと望んだ林檎隠れの村への愛おしさに胸が詰まる。
 ささやかで、だからこそ愛しい幸せに満ちた村。
 そこへ棘が触れる可能性があるのなら、
「――退けない!」
 想いごと叩きつけるのは鮮烈な神風、至近で咲いた翼に裂かれた脇腹から血が溢れても勿忘草の風は止まらない。
「援護する、攻撃を優先してくれ!」
「フランさん!!」
 力強い騎士の声と光の拳の癒しに破顔し、癒しの果実を放つことなくマニートも枝から跳んだ。
 強大な癒しに包まれたヴリーズィと気丈に笑み交わし、迷わず仮面を狙い打つ。

●林檎の夏休みへようこそ!
 透きとおる木漏れ日に三度閃いた雷が、長姉の背に咲く巨大な光翼として解き放たれる。
 瞳を射らんばかりの輝きが世界を染めるが、目蓋を伏せればハルネスの眼裏に映るは暁の地平に棚引く光思わす剣閃のみ。冴ゆる刃の一閃は限界超える威力の翼を己で引き受けるためのもの。
 襲い来たのは凄まじく苛烈な斬撃、深く鋭く裂かれた腹から雷のごとき熱と夥しい血が溢れたが、持ち前のタフネスで凌ぎきる。
 これくらい、林檎隠れの村に仲間と作った秘密基地を護るためなら安いもの。
「俺が追うよ!」
 彼の手に癒しの果実を見ればヨゼフは迷わず枝を蹴った。翼で斬り抜けた勢いのまま枝々を翔け抜けんとする蟲娘を追って跳躍すれば、忽然と現れたのは漆黒の剣士の姿。
 魔法の分身らしきそれが長姉を羽交い締めにした瞬間、彼方から迸った魔法炎が直撃する。
「こりゃ、リュー君も打ち上げに誘わなきゃね」
「さんせーい! きっと美味しいお菓子もって来てくれるよ!」
 助太刀せずとも大丈夫だっただろうが――と言うように微笑して消えた彼の分身へハルネスと二人笑み返し、蟲娘に追いついたヨゼフは猛然たる棍撃で挑みかかる。そこへ、
「グラ充なヨゼフ君とアンジュさん充なハルネス君は敵ときゃっきゃうふふとかしてないわよね!?」
 威勢の良い颶風とインパクト満点な呼び名とともにゼルディアが飛び込んできた。
「当然! ピュアリィなんかリサと比べるまでもないね!」
「私も、大切なものに虫がつくのは堪らなく嫌な性質でね」
 ヨゼフ最愛のグランスティード・リサは本日お留守番。けれどもいつだって心はリサと繋がっている。好戦的な光覗かすハルネスの瞳にもスタッガーは秘密基地の森を荒らす害虫としか映らない。
 それに――と彼らは夏を待ち侘びる少年めいた笑みを交わした。
 林檎の隠れ家のツリーハウスから湖面に張り出すウッドデッキで仲間と釣り糸を垂れるひとときが、今は何より心を躍らせる。
「ちょ、あんた達なんでみんなこっちに来るの……って、まさか!」
「そのとおりです。貴女の妹さんは倒させて頂きました」
「ま、遊びは終わりってこったな!」
 一気に蒼白になったスタッガーの長姉をめがけてパルティナが翔けた。天空へと吹きあがる勢いで馳せた少女の扇が尖鋭な軌跡を描けば、それと十字を描く薔薇の剣閃で斬り込んだルィンの口許に愉しげながらも挑戦的な笑みが覗く。
 翼の加速で突破せんとした蟲娘の前に立ち塞がったのは枝々を駆けあがって跳躍したマニート、
「もう、あなたで最後よ!」
「そんな……!!」
 揮った槍が生んだのは数多の煌き、足元から突きあげてきた無数の槍に足を貫かれれば蟲娘の動きが鈍る。その隙に包囲を試みるが、
「――上まで完全包囲は至難の業だったかしらっ!?」
 退路を塞がんとしたゼルディアを蹴りつけた蟲娘はその反動で大きく宙返り、麻痺からも包囲からも逃れて更なる高みを目指す。けれど、
「大丈夫だよ、飛翔演舞揃い踏み! さ、一緒に踊ろう翔けよう!!」
「リズちゃん!」
 旋風連れて飛び込んできたヴリーズィがくるり回って追い風を生む。舞いあげられた暁色が招くはゼルディアを誘う風、花の天蓋へ翔けた月の風が花々を震わせ蟲娘を叩き落としたなら、その落下地点にはルィンの薔薇の剣戟が待ち構えていた。
 鮮やかに吹きあがる風、吹きおろす風。
 初夏の緑に純白と淡桃の花々をそれらが掻き混ぜ、鮮やかな薔薇色が躍って消える。
 ――ああ、誰も彼もが風を起こして花嵐だ。
 眩しげに瞳を細め、ヨゼフが揮った棍が大きな甲殻の腕を叩き折り、長姉の胸の仮面をも打ち砕く。
 澄んだ音とともに仮面が砕け散れば、大きな大きな林檎の大樹の森は優しい平穏を取り戻した。

 最後のひとかけらが淡く煌き木漏れ日に消えたなら、この後林檎の隠れ家に寄っていかないかいと皆にハルネスが誘いを向ける。
「リズ君の誕生祝いを兼ねて打ち上げってのはどうだろう?」
「うん、御馳走めざしていっぱい魚釣るよ!」
 思わぬ誘いと続いたヨゼフの言葉にぱちくりと瞬きをして、ヴリーズィは幸せな笑みを綻ばせた。
「――ありがとう」

 林檎の花迷宮を越えて、皆で行こうか。
 ささやかで、だからこそ愛しい幸せに満ちた――あの村へ。



マスター:藍鳶カナン 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:7人
作成日:2014/06/05
  • 得票数:
  • カッコいい5 
  • ハートフル5 
冒険結果:成功!
  • 生死不明:
  • なし
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