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絶叫ロックンロール!

   

<オープニング>

「いい加減にしろ、この馬鹿野郎!」
「もう、お前とはやってらんねぇぜ!」
 その日、酒場での興行を終えたヘドリックが聞かされたのは、仲間達からの辛辣な絶交宣言だった。
「お、おい……。いったい、何だって言うんだよ! 今日の演奏で、俺は何もミスなんかしてねぇぞ!?」
 まったくもって、訳が分からない。両目を丸くして尋ねるヘドリックだったが、しかし仲間達からの冷たい視線は相変わらずで。
「お前、今日も演奏の最後にギターを床に叩き付けてブッ壊しただろ? 明日からの興行、どうするつもりなんだ?」
「なんだ、そんなことかよ。それだったら、また新しいギターを買えば済むだけの話さ。そうだな……今まで買っていた店の物は飽きたから、今度はもっと凄ぇド派手な高級ギターを……」
「……っ!? ふざけるな!!」
 楽屋に響く乾いた音。言いかけた言葉を遮るように、仲間の痛烈な平手がヘドリックの頬を打つ。
「俺達が一回の興行で稼げる金よりも、お前のギター代の方が高いんだぞ! おまけに、店から床の修理代まで請求されて、積もり積もった赤字が数万ダルク! 毎日忙しく働いてるのに、借金しなけりゃ、明日のパンも買えやしねぇ!!」
「そ、そんなこと言ってもよぉ……。客だって過激なパフォーマンスを楽しみにしてんだし、今更止めるわけにもいかねぇぜ」
「やり方ってもんがあんだろ、やり方ってもんが! とにかく、これ以上お前と一緒にいたら、俺達は全員飢え死にだ! 悪いが、お前と組んで演奏するのも、今夜限りにさせてもらうぜ」
 だから、後は自分で好きにしろ。ついでに、今まで肩代わりしていたギター代は、きっちり利子を付けて請求するからそのつもりで。それだけ言って、楽屋を出て行くヘドリックの仲間達。
 普通なら、ここで少しでも反省して、仲間の後を追うはずである。が、自分の才能に自信のあるヘドリックは、むしろ恨みの念を膨らませ。
(「畜生……。大した才能もない癖に、俺をクビにするだと?」)
 誰もいなくなった楽屋で、独り心の中で呟いた。
 これは何かの間違いだ。あいつらは、きっと自分の才能に嫉妬して、こんな仕打ちをしたに違いない。そんな歪んだ感情から、いつしか彼は禁じられた力へと手を伸ばし。
「あいつら……今に見てやがれよ。死ぬ前に、どっちが正しかったのか、徹底的に後悔させてやるぜ! ヒャッハァァァッ!!」
 そう言って笑うヘドリックの顔は、いつしかマスカレイドの白い仮面に覆われていた。

「演奏会の度にギターをブッ壊すって……さすがにそいつは、赤字が嵩んじまうってもんだぜ……」
 酒場に集まったエンドブレイカー達の前で、跳ね馬の群竜士・エスカ(cn0166)が呆れ顔で告げる。どうやら今回も、歪んだ想いから棘の力に手を伸ばした人間が現れてしまったようである。
「ラッドシティの酒場で、マスカレイドになった男が暴れようとしてるエンディングが見えたぜ。名前はヘドリック。元々は、近所の酒場で仲間と一緒に興行してた男らしいな」
 だが、そんな彼は、ここ最近になって楽隊の仲間から追放宣言を食らってしまった。理由は彼のパフォーマンス。過激な物を見せた方が客も喜ぶはずという彼なりの美学から、随分と無謀なことをやっていたらしい。
「ヘドリックの野郎は演奏の最後に、必ず持ってたギターを床に叩きつけて、盛大にブッ壊すってパフォーマンスをやってたらしいな。そのせいで、スペアのギター代やら床の修理代やらが嵩みまくって、大赤字を作っちまったらしいんだ」
 なんというか、これは無茶苦茶な話である。確かに、そんなことをしていれば、収入より支出が大きくなるのは当たり前。しかし、ヘドリックは何ら反省することがなく、呆れた仲間達の方から彼の元を去ってしまった。それらの仕打ちを逆恨みして、マスカレイドへと堕ちてしまったのだとか。
「マスカレイドになったヘドリックは、自分の元同僚達が演奏するのを嗅ぎ付けて、そこへ襲撃に現れるぜ。棘に憑かれる前は爽やか系のイケメンだったんだけど、今じゃ完全に頭のネジが吹っ飛んじまってるからな。頭はモヒカン、服装は棘付きアーマーって格好で……手にしたロックギターをぶん回して、観客や元仲間を叩き殺そうと襲って来やがるんだ」
 ちなみに、彼はギターを武器にするが、音を利用した技は使って来ない。ギターは鈍器と言わんばかりに、もっぱら振り回して殴るのみ。
 しかし、今のヘドリックにとっては、人間の悲鳴や身体が潰れる音こそが至高。完全に棘の力に魅入られてしまっており、もはや救う手だては存在しない。
「今から行けば、ヘドリックが現れる前に酒場に客として潜りこめるぜ。配下に鎧コウモリのマスカレイド連れてるみてぇだけど、個々の強さは大したことねぇな。全員で取り囲んでボコボコにすりゃ、まあなんとかなるだろ」
 本当に音楽を愛する者なら、歌や演奏そのもので勝負するべきだ。最後に、それを頭のイカれたマスカレイドに教えてやって欲しいと。
 そう言って、エスカは改めてエンドブレイカー達に依頼した。


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参加者
凍翼の騎剣士・ハイド(c01339)
空の宅急便・カナタ(c01429)
鈍骨喰・サンディ(c02629)
退かない媚びない顧みない・エレノア(c04817)
虚空のナイフィスト・ユラ(c10324)
嫉妬の移動爆弾・クレア(c31055)
蒼き弥生は四季を往く・カゲツ(c35292)
エンヴィートゥモロー・レイン(c35432)

<リプレイ>

●帰ってきたアイツ
 酒場に流れるギターの音色。鼓膜を震わせるような激しい曲も、慣れれば心地よく聞こえるから不思議なものだ。
 もっとも、周りで聞いている客達は、どこか不完全燃焼な感じではある。いつもはもっと、激しく過激なはずなのに。誰も口にはしなかったが、顔で、身体で、そう叫んでいるような気がしてならない。
「あん? ヘドリックどうしたよ!? 何か新手のパフォでもやんの? ヘドリック! ヘドリック!!」
 パンク風のメイクをした嫉妬の移動爆弾・クレア(c31055)が、観客の言葉を代弁するかのように囃し立てた。果たして、そんな彼女の声に呼ばれたのか、酒場の扉が唐突に開かれて。
「あれは……」
 その場にいた者達の目が、一斉にそちらへと向かう。ギターを片手に殴り込むようにして入ってきたのは、棘付アーマーを纏ったモヒカン頭。周りには鎧コウモリを従えており、誰が見ても危険な香りがプンプンしている。
 間違いない。あれはマスカレイド化したヘドリックだ。が、楽隊も客も当然のことながら仮面など見えておらず、それ以前に、あまりの豹変ぶりにヘドリックだとさえ気付いていなかった。
「ハッ……! どいつも、こいつも、シケた面してやがるぜ! 今から俺が、本当のロックってやつを聞かせてやるから覚悟しな!」
 ギターを構え、観客を嘗め回すようにしながらヘドリックが叫ぶ。最初に誰を殺すのか、それを品定めでもするように。
 このままでは、近くにいる観客に被害が出る。早く避難を促さねばと誰もが思ったが、クレアの行動は他の者達の上を行っていた。
「何だテメェー! そんなんじゃ全然濡れねぇ〜んだよ!! このファッキンのくそビッチがぁ!!!」
 そう叫ぶが早いか、近くに置いてあった酒瓶を取り、ヘドリック目掛けて投げつけたのだ。
「……っ!? テメェ、なにしやがる!!」
 さすがにこれは、ヘドリックも早々にブチ切れた。楽隊のメンバー達はともかく、観客には認められていると思っていた彼にとって、この行動は冒涜以外の何物でもない。
「こうなりゃ、予定変更だ! 最初からフルマックス、絶叫フルコースで行かせてもらうぜ!」
 割れた酒瓶の破片が頭に刺さったまま、ギターを振り回しながら突進して来るヘドリック。だが、そこはエンヴィートゥモロー・レイン(c35432)がさせはしない。同じくロックギターを構えると、振り下ろされた一撃を正面から受け止める。
「腕が良ければ何をしても許されるってのかァ? 演奏家として、こいつだけは認めるわけにゃいかねェ!」
 ギターとギターの鍔迫り合い。単純な力だけならヘドリックが上だが、レインとて引けない理由がある。
 ここは任せて、皆は先に観客を避難させろ。後方に控える者達に、軽く視線で促すレイン。
「ひゅー! イカれたアイツが、モヒカンになって帰ってきたんよ……!」
「あいつが帰ってきた? いや、殴り込みに来たんだわ!」
 空の宅急便・カナタ(c01429)と退かない媚びない顧みない・エレノア(c04817)の二人が、これみよがしに驚いて見せた。
 ここは危険だ。だから、少し下がっていて欲しい。なにより、今の彼は尋常ではないと、戸惑う観客達に告げ。
「僕達がなんとかしますので、慌てないでこちらに!」
 蒼き弥生は四季を往く・カゲツ(c35292)が、手近な出入り口に観客を誘導しようと試みる。
 もっとも、観客達は普段の過激なパフォーマンスに慣れていたためか、これも何かの催し物としか思っていなかった。そのため、どうにも逃げ足が遅い。本当に逃げ出して良いのかどうか、未だに迷っている者もいる始末。
「逃げてください……逃げて……」
 鈍骨喰・サンディ(c02629)も、慣れないながらも誘導を試みる。しかし、それでも逃げない者がいるのを見て、とうとう彼女の方が先にキレてしまった。
「……逃げろっていってんだろ!」
 轟く咆哮。獰猛な野生動物も裸足で逃げ出すそれに、さすがの観客達も我先にと出口目指して逃げ出した。どうも、ヘドリックではなくサンディの方を恐れているような気もするが、この場合は気にしたら負けだ。誘導には成功したのだから、結果オーライである。
「なっ……! テメェら、どこ行きやがる!」
 観客が逃げ始めたのを見て、ヘドリックが再び慌てた様子で叫んでいた。観客の悲鳴を至高の音楽とする彼にとっては、犠牲者がいなければ演奏が成り立たないのだ。無論、そんなふざけたコンサートなど、決して許されるはずもなく。
「さて、あなたの相手はこちらです」
 虚空のナイフィスト・ユラ(c10324)が退路を塞ぎ、凍翼の騎剣士・ハイド(c01339)もまた立ちはだかる。観客と、それからステージにいる楽隊のメンバー。そのどちらも守れるように、ヘドリックと鎧コウモリ達の周りを取り囲む。
「無茶なパフォーマンスで赤字を出した末に逆恨みでマスカレイド化か。今まで戦った中で、一、二を争う下らない理由かもしれん」
 軽く溜息を吐きながら、ハイドは白銀の刃を引き抜いた。正直、あまりに馬鹿馬鹿しくて戦う前から頭痛がして来たが、しかし放っておける手合いでもないわけで。
「来い、暴れたがり! 音楽と暴走を履き違えたお前のその欲望、僅かな時間だが受け止めてやろう」
「上等だぁっ! 貴様らの頭をブッ潰して、最高の悲鳴を上げさせてやるぜぇっ!!」
 互いに対峙する騎士とモヒカン。今までになく過激な本気のデスライブが、この瞬間に幕を開けた。

●絶叫ボイス
 酒場に響く不協和音。鎧コウモリ達の超音波攻撃に合わせ、ヘドリックが豪快にロックギターを振り回す。狙いなどまともに付けていないが、当たれば致命傷は確実だ。
「ヒャッハァァァッ! 泣け、叫べ、この世の最後に最高の音色を奏でて逝けぇっ!」
 振り下ろされた強烈な一撃が、近くの床をブチ砕いた。あれを食らったら無事では済まない。おまけに鎧コウモリ達の放つ音波も、耳障りなだけでまったく心地良くなどない。
「……いや、見た目は兎も角として」
 雑音に不快を示しつつ、カナタが静かに杖を構える。
 あの恰好は、まあ問題ない。派手なパフォーマンスも、時には仕方がないだろう。もっとも、自分はそれに痺れないし、憧れようとも思わないが。
「床をぶち壊すなんて、内装も手掛ける職人としては認めない!」
 重要なのは、物を大事に扱うか否か。そう叫んで、容赦なくディスインテグレートをお見舞いする。無論、酒場の椅子やテーブルは避けて放つのがお約束。狙いはギターを振り回して暴れるヘドリックのみ……の、はずだったのだが。
「あっ……あああ……! 球体大き過ぎて、床まで消し飛ばしちゃった。てへっ♪」
 いや、『てへっ♪』じゃないでしょう、お嬢さん。結局、あなたも店を壊しているじゃないですか。それもギターで叩き壊す以上に、修復が難しいような損害与えて。
「まったく、何をやっているんだか……」
 早くもハチャメチャな展開になっていることに、溜息混じりに顔を抑えるハイド。
 このままでは、マスカレイドを倒しても店が破壊されてしまう。喧嘩に勝っても勝負に負けては意味がないし、なによりそれでは、本当に不幸な終焉を破壊したことにならないと。
「どこを見ている? 我々以外を攻撃できるとは思わんことだな」
 包囲網を抜けようと隙を窺うヘドリックを、光輝の一閃で斬り伏せた。
「やってくれるじゃねぇか! 面白ぇ!!」
 光を振り払うようにして、懲りずに立ち上がるヘドリック。やはり腐ってもマスカレイド。ふざけた理由で悪に堕ちたとはいえ、タフさは並みの一般人のそれを凌駕する。
「気の毒と言えば、気の毒なんだけどなあ。でも、芸術と金勘定は相容れないのよ。ま、棘に取り込まれた以上、手加減はしないけどね」
 エレノアがにやりと笑った。魔曲使いである彼女からすれば、ヘドリックの気持ちも解らないではない。が、それでも人に仇成す存在とあれば、放っておくことなどできはしない。
「あんたのやり方、嫌いじゃないよ。だけど独りよがり過ぎだろ? この……」
 そう、彼女が叫ぶと同時に、奏でられた魔曲が幻の獣を形作る。幻獣の咆哮に混じり、なにやら最後に凄まじく下品な言葉が飛んできた気もするが、それはそれ。
「やれやれ……。これもきっと、雑音なんでしょうね」
 エレノアの魔曲に重ねるようにして、カゲツもまた竪琴を奏でた。先の音色が凶暴な野生を体現するならば、次なる音色は友情のビート。力で屈服させるだけが戦いではない。時に魅了し、時に心を震わせる。それこそが、音楽を武器にする者達の戦い方。
「今ですね。出でよ、我が眷属!」
 様々な音色を立て続けに聞かされて、感覚器官がおかしくなったのだろうか。
 半ば混乱した様子で右往左往するコウモリ達に、ユラがアイアンドラゴンの一撃をお見舞いする。遠方から闇のオーラを降り注がせ、クレアもそれに続く。
「ぬぁぁぁっ! なにやってんだ、コウモリども! もっと叫べ! 暴れ回れ! テメェらの声を、あの馬鹿どもにも聞かせてやれぇっ!」
 一匹、また一匹と落ちて行く鎧コウモリ達を前に、再びヘドリックがギターを振り回しながら叫ぶ。
 だったら、お前が前に出て歌ってみろよ。周囲から降り注ぐ厳しい視線。しかし、今の彼にとってギターは鈍器。観客の悲鳴が歌の代わりと言わんばかりに、八つ当たり気味に床を叩くだけだ。
「片方しか使えないの? 下手糞……。私も、ギターで殴るけど……殴るだけじゃ、ない……」
 同じギターを使う者として、さすがにこれは見苦し過ぎる。ならば、本当の使い方を見せてやろうと、サンディがぽつりと呟いた。
 奏でられる激情の旋律。狂騒の音色の前には、鎧コウモリとて敵ではない。最後の一体が落ちた瞬間。そこを逃さず、ヘドリックへと斬り込んだのはレインだった。
「人前で演奏をするのはよォ、自分も、仲間も、客も、全員が楽しむためだろうがァ! ただ、自分本位でやるだけなら、鏡でも見て一人で演奏してりゃよかったんだよォ!」
 闘気放出、スタンインパクト。脳髄を震わせるような衝撃が、ヘドリックの頭に正面から襲い掛かった。

●魂を震わせろ!
「ぐぅ……。テメェら……やってくれるじゃねぇかよ……」
 酒場の床に膝を突き、ヘドリックはギターを杖のようにして踏み留まった。
 気が付けば、辺りには一匹の鎧コウモリもいない。頭のモヒカンはボロボロになり、棘付アーマーも、あちこち破壊されて酷い姿だ。
 絶叫こそが真の音楽。そう信じて暴れようとしたが、待っていたのは返り討ち。それでも辛うじて立ち上がり、ハンマー代わりにギターを振るうが、それは空しく宙を切るだけだった。
「さっきは失敗しちゃったけど、今度はしくじらないよ!」
 まずはスポットライトの代わりにと、カナタが杖から無数の魔力体を解き放つ。空中を漂うそれらは一斉に光を発射して、ヘドリックの身体を四方八方から貫いて行く。
「うぎゃぁぁぁっ! 痛ぇっ! マジで痛ぇぇぇっ!!」
 腕を、脚を撃ち抜かれ、ヘドリックが叫び転げ回った。それはさながら、自分が観客に行おうとした所業を、丸ごと返されているに他ならず。
「次は頭を冷やしてやろう」
 光線の雨が止んだところで、すれ違いざまに斬り付けるハイド。白銀の氷刃は見事にヘドリックのモヒカンを捕え、氷の中に閉じ込める。しかも、続けて襲い掛かったサンディが、豪快にギターを叩き付けたのだからたまらない。
「ぐぁぁぁっ! お、俺のクールでイカしたモヒカンがぁぁぁっ」
 ハンマースイングの一撃を食らい、ヘドリックの凍ったモヒカンが粉々に砕け散ってしまった。こうなってしまうと、もはや完全に戦意喪失。スキンヘッドではなく、根本だけモヒカンが残っているのが却って哀愁を感じさせる。
「さて……そろそろ仕上げね。準備はいい、野郎ども!」
 これでフィナーレだ、覚悟はいいか。エレノアの言葉に、その場にいた者達が無言で頷く。ある者は武器を構えてにやりと笑い、またある者は真剣な表情でヘドリックを捕え。
「ちょ……待て、待て! 絶叫すんのは俺じゃねぇ! 俺じゃねぇんだ!!」
 ここに来て、追い詰められたヘドリックが急に命乞いをし始めた。なんというか、往生際が悪い。無論、そんなことで攻撃の手を休めるエンドブレイカー達ではないので、彼の行く末は既に決まったも同然だが。
 再び奏でられるエレノアの魔曲。幻の獣が舞う最中、カゲツもまた竪琴の弦に指を伸ばし。
「芸術は爆発。否定はしません」
 凝縮した音の爆弾をばら撒いて、ヘドリックの鼓膜を破壊する。それらの音色に重ね合わせるようにして、レインが激しく愛用のギターを掻き鳴らす。
「奴の魂を震わせろォ! メタルデモニックカイザーレボリューションMK−2!」
 重なる音階。熱狂の渦が広がって、ヘドリックの周囲を包み込む。三者三様の歌と音は、凄まじい速度でヘドリックの心を侵食するように満たして行く。
「うぉぉぉっ! な、なんだこの音は!? この俺が、こんな音に魂を震わされているだとぉ!?」
 仮面に亀裂が走る中、ヘドリックが信じられないといった様子で震えていた。こんな、どこの誰とも知れない者達の奏でる音色に、自分が負ける理由が解らないと。
「残念ですが……」
「これで、終幕なのですよ」
 まあ、解ってもらえなくとも構わない。特別ステージは、ここまでだ。
 ユラの放つムーンカーテンと、クレアの放つダークネスフォール。光と闇の緞帳が降りたところで、狂った絶叫ライブもまた終わりを告げた。

●終幕
 熱狂が過ぎ去ってみれば、そこはいつもの酒場だった。
「突然のことに迷惑をかけたな」
「床とか壊れちゃってたら、修理代置いてくよ!」
 これはあくまでゲリラ演奏会なのだと、謝罪を交えて説明するハイドとカナタの二人。そんな二人の後ろでは、サンディが静かにギターを弾いている。
「認められたいがために、焦り過ぎたようなんです。あまり、彼を悪く思わないでくださいね?」
「あ、このお騒がせ野郎は、責任持ってあたしらが引き取るから! 騒がせて悪かったね。演奏続けて、盛り上がって行こうぜーっ!」
 今回の件は、できれば大事にせず水に流して欲しい。楽隊のメンバー達にカゲツとエレノアが告げたところで、酒場には再び陽気な音楽が流れ出した。
「全く……今日は全然濡れなかったけど……汗臭いから、早く風呂に入らないと……」
 レインのローズリチュアルによって、薔薇にされたヘドリック。それを片手に、最後に何やら呟きながら、酒場を後にするクレア。
 そんなものを持ち帰って、いったい何に使うつもりなのだろう。その答えは、当の本人だけが知っている。



マスター:雷紋寺音弥 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2014/06/15
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  • カッコいい8 
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