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ナハト・ケルツェの夜行会

<オープニング>

●水灯
 流れる水。静寂の空間に水音が響き渡る。
 涼やかで、心に沁み渡る様なその音は人々の心を癒すように。
 流れに合わせて数多の光りが流れていく。
 心落ち着く薫りに包まれて。
 テーブルの上の炎がゆらゆらと揺れる中。その光の流れを眺めるのがこの場の過ごし方。

 それは静かな、大人の嗜みのように。
 ――邪魔する影だって、闇に隠れるように静かに、静かに現れる。

●灯火揺れる水辺で
「アクエリオのイマージュマスカレイド事件」
 勿論知っているよね? そう、鞭のソーンイーター・ユリウス(cn0182)はちらりと藍色の瞳を向け、酒場に集うエンドブレイカーに向かって言葉を掛けた。
「今回もその話なんだ。水神アクエリオから、話があったよ」
 外海に異変を感じているアクエリオ様。彼が語るには、アクエリオの市街地。1つの喫茶店近くの水路に、そのイマージュマスカレイドは現れるようだ。ある程度人通りのあるその区域。放っておけば、怪我人や死人が出る可能性は十分にある。――幸い、まだ被害は無いけれど。
「何か起こる前にさ。それ、解決しに行こう」
 早く行けば、それだけ被害が増える可能性は減らせるから――。

 現れるイマージュマスカレイドは、たったの1体。人形のような姿を作り、泣き叫ぶような不思議な音を上げ攻撃する。運が悪ければ大きなダメージを負ったり、冷静さを奪われる事もあるだろう。
「数が少ない分体力は高いかもしれないけど、君達ならさほど苦労しない筈」
 今まで現れた水イマージュと同じように、一度でも攻撃されるとその対象を死ぬまで追い続ける習性を、この個体も持つようだ。よって相手が逃げる心配は無いだろう。
 なので求められる事は、敵を逃がさない注意よりも早々に倒す事。
「ゆっくりしてると誰か通るかもしれないからね。まあ、そっちは僕のほうがどうにかするよ」
 近くにあるカフェ――主にここに訪れる為人は通り掛かるのだろう。店主に何か音がしても外に出ないように口添えをし、人が通り掛からないか見張っておくと少年は語った。
 それ故に戦闘は参加出来ないけれど。君達だけで十分な筈だから、と彼は添える。

「まあ、敵はさほど強くないしさ。終わったらそのカフェに行っても良いんじゃない?」
 手元のアイス珈琲にささるストローで氷をいじりつつ、ユリウスはそんな提案をする。
 ――丁度夏に差し掛かるこの時期。カフェ近くの水路では、数多のキャンドルを浮かべ水の上を流しているらしい。水の上を滑るゴンドラにもランタンが吊るされ、遠目からは光が流れて行くように見えるだろう。ゆっくり、ゆっくりと――。
 店内も、視界が不便にならない程度の、極限まで灯りを落としている。テーブルから覗く微かな光のお陰で、店内を歩いて転ぶような事は無いけれど、夜の時刻を楽しめる程度の光源。
 テーブル内を照らすのは、中央に置かれたキャンドルの灯りのみ。
 ゆらゆらと揺れるその炎に照らされて。珈琲の豊かな香りに包まれるのは、少し大人の楽しみ方。
「基本的には珈琲が美味しいお店なんだけどさ。カフェオレなら、飲める人も多いよね」
 勿論ストレートでも美味しいし、ホットもアイスも楽しめる。薫りの豊かさ、後味、酸味など。様々な銘柄から選ぶのも楽しい。夜の間ならば、色鮮やかなカクテルも提供しているらしい。その種類も様々なので、きっと気に入るモノがあるだろう。
 珈琲やカクテルだけでなく、このお店は焼き立てのスフレも絶品。ふわりとしたその生地にスプーンで穴を開け、その中にとろりとした各種ソースを流し込み頂く――口に広がる、ちょっぴり熱くて柔らかな舌触りは焼き立てならでは。
 何を頼んで、何を楽しむか。それは君達に任せるよ。
 そんな風に何時もと同じく淡々とした物言いで、ユリウスは語った。

 ――夜の時刻を外でゆっくりと楽しめるのは、身の凍えない夏の季節ならではかもしれない。


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参加者
星蝕・ロットバルト(c01303)
花暮・ハル(c02018)
藤弦の楽師・シリル(c03560)
赤錆の鬣・ジグ(c06896)
冰霄・セラ(c07574)
皎漣・コヒーレント(c12616)
燈し羽・リシフィア(c16309)

NPC:鞭のソーンイーター・ユリウス(cn0182)

<リプレイ>

●水姫の幻
 さらさら水の流れる音が耳に届く。
 柔らかな灯りがぽつりぽつり。水面をゆっくりと、流れるように動く景色を眺めつつ。エンドブレイカー達は夜の街を歩き、1つの水路へと辿り着いた。
「星を映したような夜の水路。とっても綺麗、ね」
 暗闇の中灯る炎が星空のよう――そう想い、花暮・ハル(c02018)はその瞳を細め微笑んだ。
 すると直ぐに水音が聞こえ、ぼんやりと虚空に水の塊が浮かび上がる。ざわざわと水流の音が響いたかと思うと、透き通るそれは人の形を成す。――否、生を持たぬソレは人形。
 エンドブレイカー達は配置に着くと、攻撃の機会を伺い呼吸を合わせる。
 静寂の中。呼吸の音のみ響く空間に。響き渡ったのは皎漣・コヒーレント(c12616)の作り出した刃の音。漆黒の5本爪から生み出されたその刃は、水人形を切り裂くように襲っていく。
 空を斬られ、相手は反応する。ふわりと浮かぶ身体の位置を調整すると、真っ直ぐにコヒーレントを見て口を開けた。――叫ぶ声は、まるで超音波のようで。
「泣き声で呼ぶのは、誰だろうね」
 銀灰の瞳を細め、その拘束を受けつつもコヒーレントは小さく呟く。
 攻撃が繋がる事は無かったが、それでも相手は1体だけ。初撃が終わり、相手のターゲットが固定されたのを確認した赤錆の鬣・ジグ(c06896)が、水路から上がった敵へと銃口を向ける。
「御機嫌よう水のマドモアゼル」
 優雅な言葉が紡がれる。灰色の瞳に映るのは水の塊――君も灯火と珈琲の薫りに誘われたのか。そう語り掛けた後、彼の口元に笑みが浮かぶ。
「生憎この地上に君の予約席はないのよ」
 それだけを零し、彼は紫煙の弾丸を次々に放つ。息を合わせるように、彼の攻撃が終わったそのタイミングで、敵へと迫っていた冰霄・セラ(c07574)がその水塊へ向け重い気を叩き込んだ。
 揺らぐ水の姿を、鋭い鋼の瞳で見つめる星蝕・ロットバルト(c01303)。彼は重い溜め息と共に硝子の書物の頁を捲り、禁断の呪文を唱える。――無彩色の中に浮かぶ水に向け。
 水路を照らす灯りが、宙に浮かぶ人型を照らす。
 普通とは違う異質な景色に、燈し羽・リシフィア(c16309)はその赤い眼差しを向ける。
「この綺麗な光景に、お前の存在は少し無粋だよ」
 彼女の握る炎剣が更に強く、人型を照らす。直ぐに敵の足元から炎の柱が次々と現れると、その身を浄化させるかのように燃え上がらせた。
 ――熱を感じるのか。否か。それは分からない。
 けれど水人形は、悲鳴を上げるかのように超音波の音色を奏でる。
 それは思わず耳を塞ぎたくなるようなそんな音色。――その音をかき消すように、藤弦の楽師・シリル(c03560)は竪琴に添えられた藤飾りを揺らしながら、子守唄を奏でる。
「微睡みの淵へ誘いましょう……宵寝藤」
 紡がれる言葉。それはイマージュであろうと、眠りへと誘う不思議な言葉と音。その幻が消えるように、一瞬揺らいだのをハルは見逃さなかった。追い打ちを掛けるように、夕色交じりの柄を握り無数の残像と共にランスで敵を突く。――その動きに合わせて舞う花びらは、ひらりと地に落ちた。
「優しい灯火に導かれて、在るべき場所へ、お還り」
 優しい眼差しで水人形を見つめ、彼女はそう語る。
 先ほどまでよりも強く、はっきりと揺らぐ姿が見える。セラは漆黒の鞘からナイフを抜くと、その幻目掛けて次々と投げ放った。1つ、2つ――的確に当たるそのナイフは水の身体を引き裂くよう。
「招かれざる姫君はどうかお引取りを」
 静かな声色で、セラはそう囁くように語る。
 その言葉が終わった途端、水人形の幻影はその身が壊れたかのように広がる。そのまま雨が降り注ぐかのように地に落ちるかと思えば――その前にふっと、姿が消えた。
 その場にはもう、水の跡が残る事無く。

●薫りと甘味の縁
 夜闇の中の灯りを頼りに。彼等はそのまま1つの店へ向かうと、店の扉の前に鞭のソーンイーター・ユリウス(cn0182)が佇んでいた。
「よーユリウス、そっちもお疲れ!」
 手をひらりと振り、ジグが声を掛けると少年は顔を上げる。
「そっちもお疲れ。……何事も無く、終わったみたいだね」
 無傷の面々を見て微かに頬を緩めるユリウス。そのまま彼等は店の扉をくぐり店内へと足を踏み入れる。――そこは光源の抑えられた大人の雰囲気。店員が案内するのは、水路の見えるテラス席。
「ふふ、デート、デート」
 楽しげな軽い足取りで、ハルは掌に温もりを感じながら着席する。
 同時に渡されるのはメニュー。細かな字で書かれたその紙には、様々な名が連なる。
 見た事も無い名前もいくつかあるのだろう。あれもこれも、色々と悩む中――コヒーレントは香り豊かな温かい珈琲を、と告げる。それだけで店員は察したようで、さらさらと名前を記した。
 そんな隣の彼の言葉に、セラは一瞬考え込み。
「ホットの珈琲を」
 つい、意地を張ってそう注文してしまう。――本当は珈琲を飲めた事が無いのだけど。銘柄も詳しくない為、そっと店員に苦みを抑えたものでと付け足した。そう云う内緒の客は珍しくは無いのか、特に気にした様子も無く対応する。
「……あの、あまり苦くなくて飲みやすい珈琲をお願いします」
 何時もは甘いカフェオレのハルも、今日は少し大人の気分を味わいたい。飲みやすい物なら平気だろうか……? 少し勇気を振り絞って、彼女は1歩を踏み出す。
「私はカフェオレ」
 遠慮がちにリシフィアが注文をする。ブラックでも飲めるけど、と付け足しつつ。彼女曰く、口にする事が出来て偏食したりしなければ、好き嫌いは有っても良い。
「……まあ、好みはそれぞれだね」
 彼女の言葉には概ね同意を示しつつ、ユリウスはメニューを示し注文を告げる。
 ――そんな珈琲を頼む言葉を聞きつつ、ジグは少し困り顔。いつもは普通の珈琲しか飲まないけれど、折角の専門店。ちょっと変わった物に挑戦しても、と云う冒険心が溢れ出る。
「んー……珈琲カクテルを」
 悩んだ末、彼が導き出したのは大人の飲み物。数人は口にする事が出来ないけれど、夜景の中この味を楽しめるのはやはり大人の特権だから。合わせて面々は膨大なスフレメニューから気になる物を注文し、1つ1つ書き連ねる店員。終わりを確認すると、一礼して彼は立ち去る。
 その姿を見送ってから――シリルはハルを見て、ほわりと微笑む。
「ハルさんとは数年ぶり、ですね」
 変わらず元気なようで何より。そう言葉を添えれば、ハルは感動したように瞳を潤ませた。
「ハルもまた、お話しできて嬉しい」
 久々の再開が、酒場からのご縁と云うのもなんだか不思議な心地。お互いの元気な姿を見れてはしゃぎ合う彼女達を、テーブルの真ん中のキャンドルが照らす。

 ――そんな仲睦まじい仲間を見やりつつ。ロットバルトは1人夜景へと視線を送った。
 若いモンは若いモン同士で楽しんでいるほうが、楽しめる。それは少し年の離れた大人の意見。

●幸せの分け合い
 目の前で揺れる灯り。遠い水路で流れる灯り。――それはまるで、地上に星が零れたよう。
 そう想いシリルが溜息を零すと同時、コヒーレントがカップを持ち上げる音が響いた。
「ん、良い薫り」
 ふわりと漂う芳ばしい薫りは、やはり温かな珈琲ならでは。胸いっぱいに薫りを吸い込んだ後一口飲めば、口の中に薫りが広がり……心を落ち着ける。
「ユリウスはどんな珈琲にしたのかな」
「僕はすっきりとしたものを」
 普段と変わらぬ表情で珈琲を口にする少年へ尋ねれば、彼はカップから口を離し淡々と語った。果実のようなフルーティな味わいは、あまり経験の無い味。これも飲んでみる? とコヒーレントが尋ねれば、一瞬考えた末手を伸ばす。カップを受け取りつつ、僕のも興味があればと差し出した。
 そんな彼等の様子を眺めつつ、ハルはショコラスフレの中に熱々のチョコレートソースを垂らし一口。ふんわり香る甘いショコラの香りに包まれてついつい笑みも零れる。
「ああ、でも他のも美味しそうっ。分けっこしようね、ね」
 並ぶスフレに視線を泳がせ、ハルが提案すれば――直ぐに乗ったのはシリル。
「分けっこなら喜んで! ささ、お早く味わってご賞味下さいな」
 ずいっとスフレの乗る器を差し出して、2人はそれぞれのフォークを入れた。シリルのスフレは爽やかでマイルドな果実の甘味に、ふわりとお酒の香りが漂う大人の味。
 同時にシリルも自身のスフレを一口。
「ま、意外としっかりお酒、ですね」
 ふんわり香るその味わいに、口元を手で押さえ瞳を瞬く。甘味と大人の味の、絶妙な塩梅が美味。
「私は未成年だから、お酒のは貰えないね……」
 その様子を見て少し羨ましそうにリシフィアは零す。けれどお酒以外なら――ハルが自分のショコラを差し出して、コヒーレントもフランボワーズとレモンをテーブルの真ん中へと寄せた。
「わけっこするのは、一緒に行った時の醍醐味だよね」
 柔らかに笑い、コヒーレントはリシフィアにそう語る。
 そんな和気藹々と交換する仲間達を見て、幸せそうに笑うジグ。
 自身はキッシュにフォークを入れつつ、モヒートと珈琲が2層になったロックグラスを手に。――カランと鳴るグラスは、ライムの輪切りの緑が映え美しい。
 楽しそうな真正面の彼をちらりと見つつ、セラは慣れぬ珈琲を一口。苦みが強いその味を体験した後、バニラスフレに手を伸ばす。まろやかで上品な、けれど甘みの強いバニラと合わされば、珈琲の味も尚楽しめるもの。とろりと零れるようなアングレーズソースが、更に相性を極めていた。
「スフレ美味い? 一口頂戴」
 幸せそうな彼女を見て、ジグは頬杖を付きながらそう零す。まるで女子のようなその発言に、少し呆れ混じりにセラはお皿を差し出した。
「いや皿ごとじゃ無く出来れば『あーん』で」
 照れる事無くそう語るジグに、ついつい溜息を彼女は零す。けれど要求通り、とろり零れるソースを絡めたスフレをフォークに差し、彼の口元へ――のはずが、少し逸れて鼻の頭に。
「すみません、暗くて顔がよく見えず」
 淡々と語る彼女に向かい、ジグは絶対分かってやっていると零した。

●包む温もりと香りに
「こういう、しっとりした雰囲気っていいものだね」
 まろやかなカフェオレを口にしつつ、リシフィアが言葉を零す。
 ユリウスは楽しんでいる? そう尋ねれば、彼はまあねと頷いた。――その表情は何時もと変わらないけれど、彼が席を立たずに珈琲を飲んでいるのは心落ち着いている証拠でもある。
 果実とお酒のスフレを口にするラツと、未成年であるリシフィアとユリウスはスフレの交換は出来ないけれど。先日雨の中の事件を解決した者同士、再びの縁は不思議な心地。
 芳しい珈琲の薫りが包む。
 この薫りは、きっとこの日の記憶を呼び覚ます薫りになるだろう。
「ありがとう、シヴァンくん」
 ぽつり――小さな声でハルが零したのは、隣に座る大切な夫に向けて。
 貴方のお陰で、夢が叶った。誰かの還る場所で在りたいと云う夢が。
 それを語るとミウシヴァンも、同じ言葉を返す。還る場所をくれた事に対して――此れからもおかえりなさいと言える、そんな関係であるように2人は誓う。
 ――大好き。
 その想いは触れて、口にして、しっかりと相手の心に伝わる。

 楽しそうに語る春色の彼女の姿を見て――元気そうな姿を拝見出来て良かったと、シリルは嬉しそうに笑いコヒーレントに語り掛けた。
「うん、続く縁もこうしてまた会うと深まるね」
 頷き、彼は珈琲の豊かな薫りを楽しむ。
 カチャリ。響くのはカップとフォークの音。大人の世界では、小さな音も響くもの。
 分けっこしよう。注文時にそう話していた事を想い出し、コヒーレントは口を開く。
「シリル、俺も、それ、欲しいな」
 彼女の手元にある爽やかな果実酒薫るスフレを示す。代わりにと、彼はアイスに焼き立てパイ、フォンダンショコラ、ババロアの乗るデザートプレートを隣へと寄せる。
 嬉しそうに自身のスフレを寄せつつ、パイへとフォークを刺すシリル。美味しさを分け合い、幸せそうに笑いつつ彼女は流れる灯を見ながら口を開く。
「ふふ、一曲セレナーデでも作れそう、ですわ」
 ――こんな幻想的な夜に出会えたことに感謝をして。
 ――美しい音色が、今なら奏でられそうだから。

 キャンドルの灯火の下では、夜空は普段よりも明るく感じるとジグは想った。その温かな灯火は見ていると心が落ち着くような気がする――それは帰路へと続いている気がするからか、と考える。
 耳に届くせせらぎの音は心地良く。囁くような話し声もまた耳に心地良い。
 くるりとカップの中の珈琲を傾けながら、瞳を閉じてセラはそのひと時に浸る。
 ――独りの時間が最も心地良かった。けれど何時の間にか、変わっていた。口数は多くとも、決して踏み荒らしたりはしない彼が、肩を貸してくれるから。2人の時間が心地良いと、思うようになった。
「光る心臓を擁す魚が游いでいるみたい」
 ぽつり……言葉を零し正面を見れば、彼はじっと自分を見つめていた。私じゃなくて灯を見なさい、と言えばジグは素直に水面へ視線を映すけれど――その瞳に宿るのは、水面に映るセラの姿。
 そしてセラも同じく、水面に映るジグの姿に魅入っていた。
 流れる水。その流れに合わせるように、光が流れる。
「ああ」
 つい、ジグが吐息交じりに声を零した。――それは光が、セラの心臓に留まった瞬間。
 闇を抱える人ほど温かな光がよく映える。君の心臓が俺の意の寄る辺だったらいいのに、なんて心に想うけれど――言葉を耳にし、顔を上げたセラに向け彼は。
「いいや、何にも」
 首を振り、それだけを返した。

 皆の時間。それぞれの時間。
 大切なひと時を過ごす若人の姿を見つつ、ロットバルトはゆったりと珈琲を口にしていた。
 豊かな薫りに包まれつつ、1人で静かに過ごす。けれど視界の端に映るのは、楽しそうな今日出会った仲間達の姿。その光景に、ついつい彼の口角も微かに上がる。
 和やかな彼等を見ると、心が安らぐと同時に心に湧き上がる。疑問と自嘲。
 仕事終わりに此処に居る事。すっかり変えられた自分。そして、家族への愛おしさ。
 ――共に居たならば、幸せそうに笑うのだろう。
 手元の珈琲の薫りと共に、湯気がロットバルトの顔にふわりとかかる。頭を過ぎる想いの欠片。土産を買って行けば喜びそうだと……。
 土産にするならば柔らかなスフレ。果実を使ったものが好きだから、酒入りのものと一緒が良い。
 けれどスフレは焼き立てこそが美味しい品物な為、それは難しい。――ならばまた、来れば良い。今度は彼女も伴って。この夜景と、薫りと、甘味に包まれに。

 ――薫る珈琲と闇の中の灯りは、何時だって人を受け入れる。



マスター:公塚杏 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:7人
作成日:2014/07/02
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