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夢迷宮のフェアリー・フォレスト

<オープニング>

●夢迷宮のフェアリー・フォレスト
 愛らしさ殺人級!
 愛らしさで人が殺せる!!
 一部のひとびとが熱狂的にそう絶賛する悶絶級にプリティな虫がいる。
 その愛らしさときたら、予備知識なしにその虫の細密画を見た者がことごとく、
「何コレぬいぐるみ!?」
「こいつ虫じゃねぇだろ、ってかゴマフアザラシの赤ちゃんじゃねぇのこれ!?」
 なんて口走ってしまうほど。
 ふわもこほわほわな毛並みに包まれたまるっこい体に、愛嬌たっぷりの黒くて大きな瞳。
 けれどもゴマフアザラシではない証に、透ける翅と針金みたいに細い脚、そして花の蜜を吸うためのちっちゃな針みたいな口がある。ほわほわプリティなその姿が花の合間に舞う姿はまさしく昆虫界のふわもこフェアリー、一目見ただけで思わずこっちがほにゃっと笑顔になってしまうとっても可愛らしいこの虫は――その名をトラツリアブといった。
 ふわもこフェアリー・トラツリアブたん。
 その凄まじい愛らしさに悩殺され、
「ふおお! 可愛すぎるぞトラツリアブたん!!」
 と地面をごろごろ転がりたくなったり、
「思いっきり抱きしめたい! そしてめいっぱい頬ずりしたい……!!」
 と恋い焦がれるような熱望を抱いたりする者もいるが、地面を転がるのはともかくトラツリアブたんを思いっきり抱きしめたりするのは叶わぬ夢。
 何故ならトラツリアブたんは、人間の指先ほどしかないちっちゃな虫さんだからである。
 だが、世界の大きさとその懐の深さを侮ることなかれ。
 実はあるところに、おっきなトラツリアブたんがいる。
 夏の緑と木漏れ日が綺麗な森の奥、薄紫や淡桃色のラベンダーが咲き溢れる花園で、ぎゅうっと抱きしめるのにちょうどいい大きさのトラツリアブたん達がほわほわ平和に戯れているのだ。
 夢のようなふわもこフェアリーの園、それは三塔戒律マギラントの一角、緑の塔主の領地にあった。そう、アサルトバグの森である。
 おっきなトラツリアブたんはつまりトラツリアブ型の魔術強化昆虫、アサルトバグ。
 だが悶絶級の愛らしさはそのまま――と言うか、寧ろ大きくなることでパワーアップした感さえある。
 ああ、そんなおっきなふわもこフェアリーの楽園がマスカレイド化したコガネムシ型アサルトバグに奪われただなんて聴いてしまったなら、黙って座ってるなんてもう出来ない!

●さきぶれ
 ずっと、ずっと夢見てた。
 世界のどこかにいるかもしれないあなたにもし逢えたなら。
 思いきりぎゅうっと抱きしめて、この狂おしいほどの愛しさを伝えるの。
「やっと、やっと逢えたね。もう離さない……!!」
 まるで千年ぶりにめぐり逢えた前世の恋人にするかのように、楽園の狩猟者・アンジュ(cn0037)は蕩けるような笑顔で愛しい相手を陶然と抱きしめた。もう離さないとか無茶なこと言う娘の腕の中では仔ブタさんサイズのトラツリアブたんがおぶおぶしている。
 そう、この虫こそは緑の塔主に今回のマスカレイド事件を報せたトラツリアブ型のアサルトバグ。
 おっきなトラツリアブたんをぎゅーできる日がくるなんて! と感激にぷるぷるしながら、アンジュは酒場に居合わせた同朋達を見回した。おぶおぶしていたトラツリアブたんもはたと皆を見回した。
 どうかお願い、みんなの力を貸して。
「アンジュと一緒に――マスカレイドになっちゃったコガネムシのアサルトバグ達を倒しにいこうよ!」
 まんまるふわもこボディをぷるっとさせて、トラツリアブたんもぴょこんと頭を下げた。

 向かう場所はもちろん、三塔戒律マギラントの一角、緑の塔主の領地にあるアサルトバグの森。
 森の奥のとある場所、木立がとぎれてぽっかり開いた空間にラベンダー咲き溢れる自然の花園がこのトラツリアブたん達のお気に入りの場所だったのだけれど、ある日そこへマスカレイド化によって狂暴化したコガネムシ型のアサルトバグ達が襲いかかってきたという。
 仮面を認識できるわけではないが、トラツリアブたん達も彼らの様子がおかしいと察したのだろう。反撃せず逃げに徹したためトラツリアブたん達に大きな被害はなかったが、コガネムシマスカレイド達は今もラベンダーの花園に居座っているのだとか。
「今までにもマスカレイドになっちゃったアサルトバグの事件が幾つも報告されてるよね? どうやらシャルムーンの戦いの時に逃走した原初のスタッガーの影響がこっちにもでちゃったってことみたい」
 討伐依頼そのものは緑の塔主からのもの。
 だが、マスカレイドが現れたとなればエンドブレイカーが放っておけるはずもない。
「ってなわけで、即行で現場に向かってがつーんと倒してこようよ! 花園にはねトラツリアブたんが案内してくれるから直行できるよ! できるよ!」
 薄紫や淡桃色のラベンダーが咲く花園に居座っているコガネムシマスカレイド達は総数四体。
 いずれも金緑色に光っているが、金色が強めの個体と緑色が強めの個体がいるという。
「んとね、金色っぽいのが城塞騎士みたいな感じ。英雄っぽいコガネムシの幻影を纏って攻撃したり城壁っぽい大樹のオーラと一緒に突撃してくるんだって」
 何それちょっと見たい!
 とアンジュがぎゅむっとした拍子にその腕からぽふっと逃れるトラツリアブたん。
「んでね、緑色っぽいのが魔獣戦士みたいな感じ。クワガタみたいな角を生やして突撃してきたりね、猛獣みたいな勢いで噛みついてきたりするんだって」
 金の子と緑の子、どっちのが強い?
 とアンジュが訊けば、トラツリアブたんは『きゅ?』とでも言うように小首を傾げ、翅をぴるぴるさせた。
 おんなじくらい! と言っているらしい。ちなみに『きゅ?』はアンジュの脳内音声です。
 花園はかなりの広さがあり、木など障害物となるものもない。
 戦闘の際には、森に住む他のアサルトバグが巻き込まれたりしないようトラツリアブたんが対処してくれるというから、存分に戦って勝つことだけを考えれば大丈夫だ。
「ただ、花が荒れちゃうのがトラツリアブたん達に申し訳ないけど……」
 暁色の娘がそう言いかければ、トラツリアブたんは翅をぴるぴるさせ、『大丈夫!』と言いたげに脚を広げてみせた。『花は次々いっぱい咲くから大丈夫だよ!』といったところか。
 多少花が荒れてしまったとしても、マスカレイドを倒してトラツリアブたん達の平和な楽園を取り戻すことが何よりも肝心なこと。
 なるべく早く終われるよう全力全開でいこうね、と暁色の娘は笑みを燈した。
「あのね、そうやって楽園に平和を取り戻せたなら、また逢おうね」
 だってきっとトラツリアブたんのことを思い出すたび、その愛らしさにぷるぷるしちゃう。
 どうせなら、みんなで一緒にぷるぷるしたいと思うから。


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参加者
花紺青・ユウ(c01588)
魔剣・アモン(c02234)
夢壌の壁・エルヴィン(c04498)
退かない媚びない顧みない・エレノア(c04817)
トランジットパッセンジャー・ピノ(c19099)
路傍の緑柱石・ベリル(c32593)
棍の自由農夫・ベルトラント(c34094)

NPC:楽園の狩猟者・アンジュ(cn0037)

<リプレイ>

●夢迷宮のロマンティック・フォレスト
 夏の緑滴る森は瑞々しい生命の息吹に満ちていた。
 艶やかな夏緑の合間に鮮やかな朱紅の花を咲かせる柘榴、朝露の煌き残した若いマルメロの実、深い緑陰に翠玉を思わす燐光を舞わせる揚羽蝶のアサルトバグ達。そして――透ける翅を一生懸命ぷるぴるさせて道案内をしてくれるふわもこフェアリー・トラツリアブたん!
「緑の塔の領地って色んな誘惑がたくさんで困っちゃうよね! 夢とロマンが一杯だなー」
「地上の楽園でありますよ、緑の塔の領地は!」
 隠し切れない興味と憧憬に満ち充ちたトランジットパッセンジャー・ピノ(c19099)の声と眼差しに、棍の自由農夫・ベルトラント(c34094)は木漏れ日に煌くメイガスの中で破顔した。
 霊峰天舞に地位を得た今も緑のメイガス騎士としての誇りや塔主への忠誠を変わらず抱き続ける彼にとって、ピノの言葉は嬉しい限り。風防の中にまでふんわり漂ってくるラベンダーの芳香を感じ、着いたようでありますねと皆に声をかけたなら、
「何、もう着いたのか? 途中の記憶が飛んでるぞ!」
「だってこのトラツリアブたん、か、可愛すぎる……!」
「ってか何なの、おしりまで可愛いんだよこの子!!」
「森の妖精ってか天使だよね! 守ってあげなきゃ!」
 緑の領地の夢とロマンの結晶・トラツリアブたんに夢中になっていた仲間達がはっと我に返った。
 何せ道案内をしているだけでもその愛らしさは悶絶級。
 虫払いは頼んだぞと夢壌の壁・エルヴィン(c04498)に撫でられ、『任せて!』と言うようにふわもこぷるぴるする姿に花紺青・ユウ(c01588)は再びめろりんきゅー。
 脇目も振らずにトラツリアブたんの後に着いてくる間に新たなチャームポイントを見出した退かない媚びない顧みない・エレノア(c04817)にも撫でくり回され、ふわもこボディを嬉しげにぷるぷるさせたトラツリアブたんが『皆も頑張ってね!』とばかりにエンドブレイカー達を見回せば、天使と瞳が合った魔剣・アモン(c02234)の胸がきゅうんと鳴った。
 ――大人の男性達もめろめろ、ならばオレっちがトラツリアブたんにめろめろなのも自然なこと!
 世界の真理を改めて悟った路傍の緑柱石・ベリル(c32593)は、黒曜石のガントレットに覆われた拳を握りしめ、周辺の虫払いをすべく飛び立ったトラツリアブたんを見送って、
「キミもかっくいーとは思うけど、ふわもこの神域犯す不届きな行為! 虫の風上にも置けねぇわ!」
「――御免!!」
 緑の機体に棍を構えたベルトラントとほぼ同時、緑深い森にぽっかりと開けたラベンダーの花園で我が物顔にぶいぶいする仮面憑きのコガネムシ達めがけて突入した。
 深い緑陰と木漏れ日がモザイクを描く森の中とは打って変わり、燦々と降りそそぐ夏の陽射しの中、金緑の甲殻がギラリと光を弾く。だが彼らが迎撃態勢を取るより速く、胸と腹の間を突き上げるように金の蟲を穿ったベリルの盾槍と緑の蟲の上段から振り落とされその足を払ったベルトラントの棍が、蟲達それぞれの動きを鈍らせた。
 次の瞬間メイガスの装甲を喰い破った緑の蟲の噛みつきの力もなかなかのもの、けれど皆の目を奪ったのは、金の蟲とともにベリルへ襲いかかった城壁のごとく重厚なオーラの大樹だった。
「ほう、これは――面白い!」
 反撃の弩砲まで備えたそれに口の端を擡げたエルヴィンは一気に距離を詰め、花園へ叩き伏せた金の蟲に跨り鋭く閃かせた爪でもって弩砲つき大樹を粉砕する。間髪いれず迸ったのは大剣を携え馳せたユウの刃に凝った眩い陽光。
「アンジュも前でガンガンお願いするよ!」
「はーい! アンジュ、ベルトラントさんのお手伝いに行くね!」
 花園を取り囲む森の緑陰すら灼く光の一撃が金の蟲に制約を刻みつけると同時、光の竜に跨った楽園の狩猟者・アンジュ(cn0037)が緑の蟲へと翔けた。金の輝きが強いコガネムシ達から優先的に撃破するのが皆の策だが、それまで前に出て緑のコガネムシ達を抑えるのがベルトラント一人ではいささか危うい。力量の問題ではなく、緑二匹が持つ吹き飛ばし攻撃の問題だ。
 大樹のオーラと突撃せんとした蟲が広げた金の翅めがけて輝ける戦闘光輪が翔け、緑の蟲が対の角を生やした瞬間、その先端にマジックマッシュが突き刺さる。
「君達も綺麗だと思うけど、その仮面で全部台無しだね!」
「まったくもって同感、どんだけ輝かしかろうがふわもこかわいこちゃんへの狼藉は見逃せない!」
「え? ってか意外とみんなコガネムシも好きなの!?」
 白金に輝くアモンの光輪が黄金の翅を斬り刻み、ピノが打ち込んだマジックマッシュが脱力の煙で緑の蟲二匹を呑みこめば、彼らの言葉にエレノアは大きく瞬きをした。
 トラツリアブたんの愛らしさは議論の余地なくロマンだが、甲虫系のメタリックな輝きもロマンらしい。
 成程、こういうのが格好いいってひともいるんだね、と呟いたエレノアの歌が荘厳な死の響きで金の蟲二匹を抱きすくめれば、緑の蟲の突撃を回転棍撃で迎え撃ったメイガスの中、ベルトラントの眦が微かに震えた。
「彼らももとは――緑の領地の民の良き隣人でありますから!」
 たとえ棘に侵され倒すべき存在となったとしても、彼にとってはコガネムシ達もまた、幼い時分から親しんできたアサルトバグに変わりなかった。

●夢迷宮のメタリック・フォレスト
 薄紫や淡桃色の花霞で大地を包み込むようなラベンダー、その花穂が倒れ花弁が舞い散るたびに辺りの花の香が濃さを増す。多少は仕方がないとはいえ、愛らしいトラツリアブたん達のことを思えば花園への被害が拡大する前に戦いを終えたいところ。
 頭上へ掲げた剣の先に輝く光の環が生まれれば、アモンは迷わずそれを解き放った。
「――切り裂け!!」
 振り下ろされた刃が示すまま翔けた戦闘光輪が二匹目の金の蟲の片翅を斬り飛ばし、頭を掠めて制約を刻めば、金のコガネムシはぶるりと大きく身を震わせる。――瞬間、その体内から黄金の光が膨れあがるようにして、燦然と輝く勇壮なコガネムシの幻影が顕現した!
「あれがコガネムシの英雄でありますか……!!」
「うっわ、やばい何アレ幻影ってか錬金術士の赫奕たる不滅の何ちゃらみたいで凄いかっこいい!」
「ねー! すごいよねかっこいいよねときめくよね!!」
 神々しいまでに凛々しい黄金の英雄コガネムシ、その幻影降臨に大いに盛り上がったのは何故か緑の抑え組たるベルトラントやピノにアンジュ達、その途端に突っ込んできた緑の蟲の角をまともに喰らった暁色の娘が吹き飛ばされたが、難なくアモンにキャッチされた彼女と入れ替わるようにピノが前へと馳せる。
「君達ほんとかっこいいけど、ラベンダーの花園はかわいこちゃん達に返してもらうよ!」
 葡萄樹の杖から抜き放たれた刃が緑の蟲へ放つは冴ゆる三日月の剣閃、けれど、
「いやかっくいーけど、こーなると強いよ困るよ!?」
 神々しい幻影纏った金の蟲めがけて繰り出されたベリルの盾槍は英雄コガネムシの加護を受けた金の両前足にはっしと受けとめられた。何この真剣白刃取りみたいなポーズ!
 続けざまにもう一匹の金の蟲が英雄コガネムシの鉄拳とばかりに頭突きをかましてくる。だが骨を軋ませるような痛みは、ふわもこふんわり降ってきた光の羽が消してくれた。
 これはもしや、トラツリアブたんの贈り物……?
 胸高鳴らせて花園の隅を見たベリルの瞳に映ったのは、虫払いを終えてきたらしいトラツリアブたん――を抱きしめつつエンジェリックウイングをぷるぷるさせる某農園主の姿。
「ちょ、ずるい! オレっちもまだ抱きしめてないのに……!」
「くっ、早いとこ決着つけて私達もぷるぷるさせてもらわなきゃ!!」
 瞬時にベリルの気迫が燃え上がるのを感じつつ、ユウも大剣の柄をぐぐっと握りなおした。なんだかこんな展開、ゆずひよこの時にもあった気が……!
「よし、ここは確実に当てにいくぞ!!」
「わかった! 崩すよ!!」
 苦笑しつつもエルヴィンがその手に顕した蒼く輝ける戦旗が雄々しく翻る。戦歌とともに戦場を切り開いた彼の戦旗の軌跡に力を得て、ユウが渾身の力で振り下ろすのは大岩をも断つ巨大な刃。
「というわけで、コガネムシたん、ごめん!」
 英雄の加護が切り崩された途端、金の蟲達へエレノアの歌が降りそそいだ。蟲達の魂を黄泉路へ送る厳かな歌声に導かれ、仮面を砕け散らせた金の蟲一匹が花園に沈む。
 夏風に舞い上がるひときわ深い花の香に金の眼差し強め、残る蟲達を見渡したアモンが己が裡の魔力を瞬時に凝縮した。
「剣と魔法、一気にいくよ!」
「オレっちの竜も一気に炸裂するっすよ!」
 力爆ぜると同時に顕現したのは彼の分身、寸分違わぬ漆黒の剣が揮われれば、剣風と魔法炎が金と緑の蟲達めがけて迸る。勢いに乗ったベリルが地を蹴ればその刹那、千の竜が乱舞するのにも似た蹴りの驟雨が金と緑の蟲達へと襲いかかった。
 猛然と反撃に出た緑の蟲達の攻勢をピノとベルトラントがその身に引き受ければ、英雄の構えから弾丸の如く飛び込んできた金の蟲を、硬質な音を打ち鳴らしたエルヴィンの爪が叩き落とす。
 解き放つのは先の戦歌で漲らせた力。
「お前達に恨みはないが……」
「わるーい虫は私が一刀両断! しちゃうんだからねー!!」
 大きな金の甲殻すべてを粉砕せんばかりの勢いでコガネムシを滅多刺しにした爪が、白き仮面にも当然の如く派手な亀裂を奔らせる。次の瞬間金の蟲の上に巨大な影を落としたのはユウが思いきり振りかぶった大剣の刃。
 エルヴィンが身を引くと同時に落とされた重い斬撃が、金の蟲とその仮面を両断した。

●夢迷宮のフェアリー・フォレスト
 夏の花園に蔓延る仮面の蟲も残るは二匹、しかもその両方が麻痺で動きを鈍らせているとなればもう勝敗は見えたようなもの。それを識ってか識らずかなおも怯まず突っ込んできた緑の蟲がピノの脇腹を遠慮なく喰い破ったが、すぐさま響き渡ったエレノアの力強い凱歌が彼に痛みを忘れさせる。
 ふわもこフェアリー・トラツリアブたんは文句なしに可愛いし、このコガネムシ達も見るひとが見れば格好いいらしい。虫好きな誰かさんを連れてきたら喜んだろうにな、なんて思いがエレノアの脳裏を過ったのも戦いの終わりが見えてきたがゆえ。
 彼女自身は特に虫好きでも虫嫌いでもないけれど、
「足がないヤツと多すぎるヤツはちょっと苦手かな。でも、普通そうじゃない?」
「アンジュはダンゴムシとかなら結構好きー!」
「ま、懸命に生きてる命はすべからく可愛くて格好いい……ってことでいいんじゃない?」
 扇の風と翔けた暁色の娘の旋風が緑の蟲を弾き飛ばせば綺麗に纏めたピノが軽く笑み、追い風に乗せてマジックマッシュを叩き込む。だよねと不敵な笑みひとつ、ベリルは緑の蟲二匹を呑みこんだ深い幻覚の煙の中へと飛び込んだ。
「そんなわけで! この花園は懸命にふわもこしてるトラツリアブたん達のものだかんね!!」
 棘に侵されさえしなければ、コガネムシ達とも花の恵みを分かち合えたのだろうけど。
 熱い思いを凝らせ、爆ぜる勢いで放った拳の連打が緑の蟲を蝕んだ棘と仮面を打ち砕いた。
 仮面の割れる音が響くと同時、ざっと辺りを見回したアモンが再び戦闘光輪を召喚する。
「この調子なら花園を大きく荒らさずに済むかな。このまま終わらせよう!」
「うん、トラツリアブたんのためだものね!」
 最後の蟲めがけて宙を翔ける光の環を追いかけるよう、ユウも駆けるのではなく跳躍で緑の蟲へ肉薄した。光輪が斬り裂いた蟲の首元めがけ、陽光の一撃が振り下ろされる。
 血肉を喰らわんと闇雲に揮われた蟲の牙を弾き飛ばしたのは、緑のメイガスが揮う棍の障壁。
 牙の一撃を完全に防いだ機体から苦悶の声が洩れた気がして、エルヴィンは僅かに瞳を細めた。
「――辛いか?」
「自分は……緑のメイガス騎士でありますから」
 零れたベルトラントの声は小さく、けれど深い。
 彼にとってアサルトバグは良き隣人であり、ともに緑の領地の民のために戦う同志であるのだろう。ならばコガネムシ達も、彼には戻れぬ道に迷い込んでしまった憐れな盟友。
「なら、自分の手で送ってやれ」
「――はい。今の自分の、全力で!!」
 棘を殺ぐとともに彼を鼓舞する心地で揮ったエルヴィンの戦旗の軌跡がベルトラントの力になる。
 全身全霊こめて打ち込んだ棍撃でその命を終わらせることで、緑のメイガス騎士はアサルトバグを忌まわしき棘から解放した。

 花園が優しい静けさを取り戻し、薄紫や淡桃のラベンダーが夏風に揺れれば、周りの森の木陰からぴょこり、またぴょこりとトラツリアブたん達が顔を出す。
 もう大丈夫だよとアモンが手招きしてやったなら、嬉しげにぷるぷるっとしたトラツリアブたんが彼へふわもこまっしぐら! まっすぐ受けとめもふっと抱きしめれば、
「おひさまと森の匂い……!!」
「ちょ、ちょっとどなたかふわもこさせて貰っていいっすかね……!?」
 そんなこと聴いたらもう我慢できない!
 翅をぴるぴるさせて寄ってきたトラツリアブたんをそうっと抱きしめれば、ベリルの腕の中にふわっともこっと至福のしあわせが収まった。そう、ずっと、ずっとこの時を待っていた……!
 幸せに溺れゆく少年の背後には、折れたラベンダーをせっせと集めるエレノアの姿。
「持って帰ってポプリにしようと思って。いいかな? ……って、手伝ってくれるの!?」
 こくんと頷いたトラツリアブたんが一生懸命お手伝いしてくれれば、その愛らしさにはもうエレノアも撫でくり回さずにはいられない。ぐりぐりされて嬉しげにぷるぷるするトラツリアブたんの姿を見れば、僕も一度くらい、とピノの心も揺れたが、
「いや……うん、平和にふわもこしてね」
 瞳を隠すよう深く帽子を被り直してぐっと我慢の子。
 ちゃんとお別れできるアンジュの理性はすごいや――と思ったが、
「アンジュは帰るの忘れないようにな」
「きゃー大丈夫忘れてないよほんとだよ!」
 倒れた花を直しつつふわもこを撫でていたエルヴィンが声をかけてやれば、何もかも忘れたような至福の笑みでトラツリアブたんと花に沈んでいたアンジュが慌てて跳ね起きた。
 その拍子にぽふっと彼女の腕から逃れたトラツリアブたんが、ふわふわとベルトラントに寄っていく。
 メイガスから降り、花の香の風を全身で楽しんでいた彼は、そっとトラツリアブたんを撫で、
「……ふわもこでありますなぁ」
 ほんわり柔らかな感触とふんわり溢れだす幸せな香りに頬を緩めた。
 愛するゆずひよこを想って必死に自制していたユウも、周りでふわふわぴるぴるするその愛らしさに負け、一回だけ、とぷるぷるするトラツリアブたんを抱きしめる。
「また絶対に会いにくるからね」

 瑞々しい緑と生命に満ちたこの森すべてが平和を取り戻したなら――きっと、また。



マスター:藍鳶カナン 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:7人
作成日:2014/07/17
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