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いとし、恋しき

<オープニング>

●いとし、恋しき
 これは、いつか覚める夢だ。
 商家の跡取りである自分と、音楽家の彼。自分達でも分かっていたのだ。いつか覚める夢だと。けれど恋をした、好きになった。幸せな時間はそう、あと少しは続いて行くのだと思っていた。あの日、彼を失うまでは。
「……、ごめんなさい。私、結婚なんて……そんな気になれなくて。ニコルのこと……」
「あぁ、あれは本当に……ひどい事件でした」
「事件……?」
 問いかけたエーヴァ・グラッセルに青年は答えてしまった。自警団につながりのある己だから知り得たのだと胸を張り、エーヴァの『お気に入りの楽士』の死に、彼女の婚約者が関わっていること。事故とされているが、その事故を引き起こした者達がいること。盗まれたものがあること。それを隠匿した者がいることを。
「そんな、ことが……」
「えぇ。ひどい話です。エーヴァ様のお気に入りだと知って、嫉妬したのでしょう。小さな男です。そんな小さな男は貴方には相応しくない。そうでしょう? エーヴァ……」
 エーヴァ様? と呼ぶ青年の声が掠れた。聞いた話の恐ろしさに震え、己に縋ってくると−−そう、青年が思っていた娘が立ち尽くしていた。
「私……私の所為で、ニコルは死んだの? 私なの? 私がいたから、私が、好きだって言ったから?」
「エ、エーヴァ、様何を言って……」
「私が……」
 私が、私が、とエーヴァは繰り返す。あの日、待ち合わせの場所に彼は来ず、事故の知らせだけが届いた。走って、走って行った娘の目に映ったのはニコルの死の瞬間。こちらを向いた彼の唇は何か言おうとして−−そのまま途切れた。
「私の所為で、ニコルは殺された」
 ふいに、エーヴァの声が低くなる。殺されるだなんてあってはいけなかったのに。
「ひどいわ。……ねぇ、許せないと思うでしょう」
 怒りと、悲しみの中エーヴァは問う。揺れる金色の髪、ルビー色の瞳が涙を流す様を青年は初めて恐ろしいと思った。
「ねぇ教えて。他に誰が関わったの?」
 恐怖の中、全てを話した青年は最後恋した娘の放った茨に貫かれて死んだ。

 最初の一人は、屋敷に出入りしている商家の青年、次は青年が告げた関係者達。そうして最後の一人、婚約者の男をエーヴァ・グラッセルは屋敷の庭へと招いていた。
「ぐ、ぁあああ! やめ、こ、殺さないでくれっニ、ニコルのことだろう!? 事故だったんだ。俺達だって死ぬだなんて思ってなくて……! そ、それにニコルだって君のそんな姿望んじゃいない筈だ!」
「私のこと……? 話していたっていうの?」
 一縷の望みを託し、男が口にした言葉にエーヴァはその腕を下ろす。茨の拘束が緩む。あぁこれならば逃げられると、そう思った男は「あぁ」と力強く頷いた。
「ニコル君は、君のことを−−!」
 だが、次の瞬間男の体は茨の槍に貫かれていた。
「ずるいわ」
 声を上げることもできないまま、男は血溜まりに倒れ込む。ひくひくと揺れる体を視界に、エーヴァは呟いた。
「私は……ニコルの最後の言葉も聞けなかったのに。あの人の声も、思い出せないのに……。どうしたら……ねぇどうしたら聞こえるかしら。嘘をついてる人を探して、もっともっと真実を知れば……ねぇ声をきかせてくれるかしら。ニコル」

●寂しいの、と娘は泣いた
「この後、嘘をついてた人を捜す。そう言って……彼女は屋敷中の人間を殺してしまんだ」
 二つ夜のデモニスタ・ニヤはそう言って、顔を上げた。
「アクエリオで事件が起きるんだ。恋人の死の真相を知って、悲しみの怒りの中で復讐を選んでしまった人がいる。マスカレイドになってしまったその人は、恋人の死に関わった人たちを殺して回っているんだ」
 真実を知らなかった自分を恨み、恋人を殺した者達を、自分に嘘をついた者を恨んだのだ。
「彼女……エーヴァは、恋人を失ったショックで少し混乱してる。最後に会う事は出来たんだけど、言いかけた声を聞けなくてね、声が思い出せないんだ」
 エーヴァは、ニコルの死に関わった人間を全て殺せば、その声を思い出せるんじゃないかと思っているのだとニヤは言った。
「声が、思い出せないのは怖いって……うん、オレもそう思う。泣きそうになるかなって。……でも、だからって関わった人を殺してしまっても、だめなんだ。彼女が大好きだった人も、返ってこない」
 だから、せめて、とニヤは集まったエンドブレイカー達を見て言った。
「これ以上、殺させちゃ……駄目だって思うんだ。エーヴァを止めたい。でも、オレ一人じゃ無理だから……みんなの力、貸してほしい」
 寂しくて悲しくて、どうしようもないくらい泣いてた彼女に、もう終わりにしよって言う為に。

 今から行けば、エーヴァが最後の一人を襲う前に彼女の元に辿り着く事が出来る。
「最後の一人……エーヴァの婚約者は、彼女の家で行われているパーティーの夜に殺されてしまう。婚約者を殺した後は家の人間を殺してってしまうんだ」
 きゅ、と拳を握って、ニヤはエンドブレイカー達を見た。
「パーティーは、婚約者とエーヴァのお披露目もあるから沢山お客さんを呼んでるんだ。お客だって言って堂々としてれば問題なく入れるよ」
 エーヴァが婚約者の男を連れ出すのは、パーティーが始まってしばらくした後。会場の外にある庭に呼び出すのだ。
「彼女は庭園の一角で婚約者の男を待っている。婚約者の男をエーヴァと合流させるかどうか、その辺りの作戦はみんなにお願いしたい。ただ会わせないんならどっかで捕まえて気絶させといた方がいいんじゃないかなーって思う」
 戦場となるのは、庭園の一角。薔薇の咲く丘だ。
「結構広いし、戦うには問題ない場所だよ。……戦いになれば、マスカレイド・エーヴァは二体の配下を喚ぶ。彼女は自分の復讐の邪魔をする者には容赦ない。気を惹くことができれば、婚約者の男を捜しに行くことはないよ」
 戦いが長く続くことがなければ、誰かが来る事も無いだろう。
「彼女が先に侍女に人払いをしているから、その点は大丈夫。全てを終えた後はパーティーの客に紛れて脱出する形になるかな」
 後は、と言って、ニヤは一つ息を吸い、エンドブレイカー達を見た。
「終わりにしよう、彼女の復讐を。事件の関係者を殺したって、彼女の恋人は帰ってこないし。それに、彼女が自分を責め続けても、きっと、声は思い出せないから」
 力を貸して欲しいんだ、と言って、ニヤは真っすぐにエンドブレイカー達を見た。


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参加者
茨十字ノ黒キ鬼・シャルシィリオ(c01478)
恋を嘯き死を屠る・ソウシ(c02860)
ナイトランサー・セス(c03671)
水奏戯曲・アクアレーテ(c09597)
大鎌の自由農夫・リドル(c18813)
夜が訪れる刻・シキミ(c32374)
ナイトストーカー・グレ(c33978)

NPC:二つ夜のデモニスタ・ニヤ(cn0185)

<リプレイ>

●祝いの中で
 屋敷の天井に、光が揺れていた。
 シャンデリアの作る光だ。細かなカットの施されたガラスは、天井に拡散する光を生む。贅を尽くしたパーティーは、商家にとっては多くの意味を持つのだろう。水奏戯曲・アクアレーテ(c09597)がヒアノイズによって聞いたのは祝いの言葉だった。婚約披露パーティーだからだろう。
 何度目かの賛辞を耳に、アクアレーテは殺された青年の話を思い出していた。
(「盗まれた物って何かしら……。それを隠匿した者……隠した理由」)
 繋がればそれが死の真相に近づく鍵かもしれない。
 今の段階では、良い情報はなさそうだ。小さく息を吐いて、顔を上げる。二つ夜のデモニスタ・ニヤ(cn0185)が言っていた通り、屋敷の中には簡単に入ることができた。パーティー客らしい服装で来たのも良かったのだろう。探し人は、今日の主役の一人という事もあって簡単に恋を嘯き死を屠る・ソウシ(c02860)の目に映った。ニヤに事前に聞いていた通りの男が、中庭を気にしていた。挨拶を断ったその男に茨十字ノ黒キ鬼・シャルシィリオ(c01478)は声をかける。
「こんばんは」
 エーヴァの知人と名乗って、シャルシィリオはにこやかな笑みを浮かべた。
「エーヴァについてお話ししたいことがある」
「エーヴァのこと、ですか?」
 自らを婚約者と名乗った男が驚きを見せる。えぇ、とシャルシィリオは頷いた。
「大きな声では話しにくい事なのでこちらへ」
「……では、少し、でしたら」
 ややあって、レオンは頷いた。内心、卑怯な手で女を手に入れようとしたこの男には苛ついているが、今はそんな心情を微塵も外に出さずに―空き部屋の扉を開いた。
「それでいったい、どんな話を知っているというんだい?」
 窓越しに見えた男に、それまでの友好的な笑みを捨ててシャルシィリオは振り返る。
「俺はエンドブレイカーだ。死にたくなければここにいろ」
「お、俺が? どうして……!?」
 何故、と言うレオンをシャルシィリオは見下ろし――口を開く。
「お前はニコルだけじゃなくエーヴァも殺したんだ」
 告げる声は低く、ひゅ、と息を飲む男に続けて言った。
「満足か、下衆野郎?」
「な……んで、その名前をっお、俺はエーヴァを殺してなんて……ただ、彼女の幸せを考え……」
 考えて、とレオンが言い切るよりも先に、顔の横に拳が叩き込まれた。
「てめぇ最低だな……」
「ひっ」
「自分の都合で人の命奪ったんだ」
 ナイトランサー・セス(c03671)だ。
 レオンの顔の横に、拳を叩き込んだ青年はレオンを睨みつけた。
「次は俺の都合で殺されたって文句ねぇよな?」
「ひ」
 怯える男の背が、壁につく。レオンにはこの部屋に他の人間がいることに、驚く余裕も無いのだろう。
「死にたくなかったらニコルの最後言った言葉、教えろよ」
「し、知らない……俺はその場にはいなかった! あのガ、ニ、ニコルが死ぬ時にはもうその場にいなくて……俺は別に殺すつもりなんか、なくて」
 脅せればいいと思ったのだとセスの言葉にレオンは言った。
「退かないとか、エーヴァのこと愛してるから、とか言いやがって……その上、指輪なんか用意して……!」
「それが、盗まれたもの?」
「!」
 アクアレーテの言葉に、レオンが顔を青くした。
 疑問に思っていたのだ。盗まれたものが、何なのか。指輪であれば、隠匿したのは、恐らくこの男だ。
「指輪、……教えて、どこにあるの?」
「す、捨てた! ほ、本当だ!」
 レオンは逃げたのだろう。エーヴァが辿り着いた時、ニコルは一人だったという事だ。指輪は水路に捨てたという男にセスは息を吐き、拳を振り上げ――
「こ、殺さないで……」
 殴った。
 今度こそ一発、顔面をぶん殴ればレオンが気絶する。
「流石に殺しはしねぇよ、お前と同じになりたくはねぇからな」
 言い切って、セスはレオンに背を向ける。気絶した男に、シャルシィリオは言い捨てた。
「お前を助けるんじゃない。エーヴァを楽にするためだ。そこで反省してろクズ」
 気絶した男に猿轡を噛ませて、一行は空き部屋を出た。会場へと戻れば大鎌の自由農夫・リドル(c18813)と夜が訪れる刻・シキミ(c32374)の姿が見えた。レオンは、席を離れる事を言っていたらしく、探している人もいないようだと、と見張りをしていたリドルは言った。
 後はもう、薔薇の咲く丘に行くだけだ。

●薔薇の丘
 庭園へと続く道すがら、リドルは生け垣から武器を回収する。見事に隠れるもんだね、と瞬くニヤの前に、足音も無く、ナイトストーカー・グレ(c33978)が姿を見せた。
「こっちは、特に人の姿もありません」
 客としてパーティーに紛れ込んだ後、ステルスを使って薔薇の庭園近くに身を潜めていたのだ。
(「レオンは外道ではありますが、言いたい事は特に無いです。報いは他の人が与えるでしょうし、彼が死のうが、改心しようが、私の金にはなりませんしね」)
 丘までの小さな道は、よく整備されていた。吹く風は、薔薇の匂いがした。頬を撫でる風は冷たく、垣根から武器を回収したグレの瞳に揺れるスカートが見えた。
 踏込んだこちらの足音に気がついた娘が振り返る。長い、金色の髪が揺れていた。ルビー色の瞳は瞬き、不思議そうに細められる。
「貴方達、誰かしら」
「貴女が待つ殿方には、ちょっと寝込んで頂きました♪」
 笑顔で、ソウシは告げる。
 目を瞠るエーヴァから視線を外さずに。
「私が呼んだのは、レオンよ。貴方達は、呼んでいないの。……どいて」
 そう言ったエーヴァの周りに、風が生まれた。
 来る、とリドルは思った。
 丘の上の薔薇達が一斉に揺れ、強く香る芳香の中で娘は姿を変える。腕には茨が這い、指先まで肌を隠す。同時に、二体の蝶がエーヴァの周りに生まれた。
「ひどいわ……私の、邪魔をするなんて……!」
 最後に、仮面を浮かべた娘――マスカレイド・エーヴァは吠えた。
 その声に呼応するように、二体の蝶が羽ばたいた。羽ばたきは、マヒの鱗粉を生み――光が、戦場に降り注ぐ。
「――っ」
 肌を焼く痛みが、エンドブレイカー達を襲った。その隙に、エーヴァの一撃がソウシに向けられた。
「邪魔を、したのね!」
 茨の槍がソウシの腕を裂く。痛みに、だが笑顔のままソウシは腕を引く。カマキリの鎌が、腕に生えた。
「あの男性を手にかけても、貴女の望みは叶いません、残念ながら」
 振り上げる一撃をエーヴァが避ける。距離を取った娘をシャルシィリオは見据えた。
「俺が相手だ」
 言葉と共に、己の中にあった殺戮衝動を解放する。
「いやよ……邪魔を、しないで!」
 振り下ろされた腕から生えた茨が、地面を張った。
 身を横に振り、前に身を飛ばし、避けながらも決して距離を大きく取らない二人を視界に、グレは紫煙銃・カチューシャを構える。
 パン、と素早い射撃が、羽ばたく蝶を射抜いた。
 蝶が、蹌踉めく。肌をなぞる殺意に、武器を片手に横に飛べば、もう一体の攻撃が空を切った。その隙にリドルが前に出る。大きく、振り上げられた鎌が緩やかな斬撃を生んだ。
 キィ、と鳴くような音が耳についた。斬撃に、びくりと身を振るわせた蝶に、リドルはギアスを刻んだのを確信する。反撃でも狙うように、大きく、広げられた羽から、身を横に飛ばす。大鎌の柄で地面を叩き、飛ぶように避けた少年の動きは――軽い。と、と着地の音さえ軽く、エーヴァを抑え込む仲間達の声と、剣戟を耳に、セスはナイトランスを構える。
 祈るように、立てた騎士槍を青年は掲げた。
 瞬間、稲光が戦場に落ちた。雷光は蝶を撃ち、セスの足下に陣を描く。
 迎撃の雷は青年の腕に宿り、行くぞ、の言葉の代わりに身を前に倒し――駆ける。
 二体の蝶が舞う戦場は、光と熱に包まれていた。エーヴァを抑え込む二人の周りには茨が踊り、引き裂かれ、血を流しながらも彼女を止める二人を視界に、アクアレーテは歌う。
 竪琴の澄んだ旋律から、姿を見せたのは幻の獣であった。ニヤの連携を受け、その力を増した旋律似よって生まれた獣が、駆ける。幻獣が最初の一体を切り裂いた。
 キン、と硬質な音がした。赤い蝶は砕けて消え、残る一体を視界に、シキミは妖精を纏う。先に受けたマヒを振り払うように、駆けた娘の一撃が蝶を切り裂く。ギイィ、と軋む音が丘に響いた。

●茨の舞
 駆ける、足音が加速する。舞い上がる蝶は、時にエンドブレイカー達の刃を受け止め、弾いた。それでも、押し込むように刃を、力を、叩き込む。
 指先の痺れを払うように、グレは射撃を行った。あと少しだ、とグレは思った。既にリドルのマヒを受けた蝶の動きは鈍い。エーヴァを抑え込んでいる。回復が必要な状況にはまだなっていないが、エーヴァもいずれ劣勢を悟るだろう。
(「その前に」)
 蝶を仕留め、短期決戦を目指す。
 駆ける、足音がまた一つ力強く響いた。振り下ろす、エーヴァの腕を受け止めながら、ソウシは顔を上げる。耳に届く、仲間の動きが加速したのが分かる。
「どうして邪魔をするの」
 距離を取ったエーヴァの瞳が突き刺さる。私は行かないといけないのに、と呟く彼女の茨が不気味に揺れる。
(「エーヴァさんは、聞けなかった最期の言葉を、必死に探しているんでしょうか」)
 だとすれば、それはソウシにも覚えのあることだ。
(「けれどソウシは、言葉も、声も聞くことが出来ました」)
「邪魔を……邪魔をしないでよ、笑いながら!」
 振り上げられた茨の槍が、ソウシを穿った。衝撃に身を振るわせながらもソウシは茨姫を手にした。己の武器、茨の名を持つ武器を手に、振り上げる。
 浮かべた笑みを、絶やさぬまま。迷いなく。
 それは、ソウシなりの愛情。
 嘘吐きと己を言う娘は、どんなに罵倒されてもへっちゃらですぅ、と笑い――全てを、受け止める。
 背後で、最後の蝶が砕かれた。抑えにあったシャルシィリオのナイフが、攻撃に出る。
「もういい、一人で悩む必要はない。今、側に送ってやる」
 腕を切り裂き、ナイフ使いは告げる。
 ルビー色の瞳に涙を浮かべ、暴れる娘へと。
「私、私は殺さないといけないの……! 嘘をついた人をみんな!」
「もう止めろよ、そんな事したってニコルは帰って来ねぇし、何にもなんねぇだろ」
 声を上げながら、セスは戦場に駆け込む。振り返ったエーヴァの瞳に見える殺意に唇を引き結びーーだが、言った。
「……悲しいからって自分も誰かを殺したって、悲しい奴が増えるだけじゃねぇか!」
「でも、私は……!」
 吠える、エーヴァの声に呼応するように茨が動いた。セスの一撃を、茨が防ぐ、それでも前に出た仲間を視界に、シキミは回復を告げる。
「皆様、頑張って下さいませ。私もサポートしますわ」
「援護するよ!」
 ニヤの連携を受け取り、シキミは妖精と共に癒しの輪を描く。抑え役の二人をメインに描き上げた回復の中、言の葉と共に皆が駆ける。エーヴァを終わりに、する為に。
(「恋人を殺された悲しみは、さぞかし大きいものでしょうけど復讐は更なる悲しみを生みだすだけ……、もう此処で終止符を打ちましょう」)
 唇を引き結び、シキミは戦場を見た。足を休める事無く、動き続けるエンドブレイカー達の周りに、熱を帯びた風が舞う。刃を受け止め、時に弾くエーヴァの茨は薔薇の匂いを纏いながら、エンドブレイカー達の腕を裂いた。流れる血を今は放って、薔薇香る戦場でアクアレーテは告げた。
「わたし達は復讐の邪魔をしているの……なぜって? ……真実をあなたに伝えるためだわ、エーヴァ」
「何か、知っているって言うの? ニコルが、私の所為で死んだってこと以外に。私の、私の、所為で……!」
 真実を未だ知らない娘は叫ぶ。髪を振り乱し、また最初の邪魔をしないで、に返った彼女へとグレは銃口を向けた。
「知り合いの少女が言ってました。"王も家来もその馬も、彼を元には戻せません」
 前へと、出たエーヴァにチェイスを刻む。銃撃はエーヴァに弾かれ、だがその一瞬の間にリドルは距離を詰めた。
「貴方の中に絡みついた棘を刈り取らせて貰います」
 刃は、舞うように娘を斬る。喉を震わせ、どいてという彼女に、リドルは言った。
「ニコルの声を思い出せないのは、貴方が彼とつきあった事を後悔しているせいでしょう? そうやって、ニコルと過ごした時間を否定し続けている限り、彼の声は思い出せないですよ?」
 あ、とエーヴァが声を震わす。ルビー色の瞳を見ながら、リドルは言った。
「最後の哀しい姿だけを思い出さないで、一緒にいた楽しかったときの姿も思い出してあげてください」
「でも……私は……!」
 叫ぶ、エーヴァの一撃が、セスに砕かれた。
「……本当はお前も救ってやりたい。でも、ごめん…謝ったって、俺がお前を殺す事に変わりはないんだ」
 せめて、ちゃんと、ずっと、背負っていくから。忘れないから。
 いやだと零すエーヴァに、踏込む。グレの援護の中、獅子のオーラが茨を打つ。踏鞴を踏んだ娘の前、仲間を癒すようにシキミとアクアレーテが癒しを紡いだ。どいて、と暴れる娘の茨と、武器とがぶつかり合う。光と薔薇の舞う中で、回復したソウシが一気に、エーヴァの間合いに踏込んだ。
「大丈夫、ニコルさんと同じ場所に、連れて行ってあげますぅ」
 薙ぐように素早く、振るわれた斧に防御の為に伸ばした茨が千切れ、娘の仮面を貫くようにシャルシィリオはナイフを突き立てた。
「ぁ」
「今度は誰にも邪魔されずに、ずっとニコルと一緒にいれるさ」
 びくり、と体が震える。エーヴァの腕に絡み付いた茨が、枯れ落ちた。

●いとし、恋しき
 ぐらり、とエーヴァの体が崩れ落ちる。その体をセスが支えた。
「ニコルの、最後の言葉さ、愛してる、だったよ」
 ルビー色の瞳が見開かれ、あぁ、と娘は声を振るわせた。
 それは、真実最後の言葉では無いけれど、事件の時にレオンが聞いた言葉。彼女に言うのなら『愛してる』だとアクアレーテも思った。
「ニコ、ル……ニコル」
 エーヴァは泣く。恋人の名を呼びながら、その体から力が抜けてゆく。
「あり、が……」
 最後の最後、彷徨う瞳はセスを、エンドブレイカー達を見て――閉じられた。
 マスカレイドの仮面が砕け散る。
 薔薇の丘にあった気配が、完全に消えた。

 きつく手を組み、祈るニヤを背に、セスは呟いた。
「あっちで二人が無事会えてるといいなぁ」
 薔薇の丘は柔らかな風が吹いていた。甘い香りのする風に息を吐き、立ち上がる音を聞く。
「終わったよ」
 目を伏せ、告げたニヤの後ろで薔薇が揺れていた。
「……行きましょう、長居はあまりしない方が良いですから」
 シキミのその言葉に頷き、一行は薔薇の丘を去る。甘い香りに足を止め、ソウシは言った
「……さようなら」

 娘は消える。祝いの夜に。
 婚約者であった男はその理由をしゃべらず、拐かしを問われるより早く、祝いの夜に流れた噂で男はその地位を追われたという。



マスター:秋月諒 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
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いまいち
参加者:7人
作成日:2014/07/15
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