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ガロウマルの挑戦:鋼語りのジュウゾウ

<オープニング>

「負けたな……まあ、最後の一戦としては悪くは無い」
 決戦を終えた剣狼剣聖ガロウマルは、命の火を尽きかけさせながら言った。
「何か言い残す事はあるか」
「『此華咲夜若津姫』を、悪しき棘(ソーン)から解放しろ」
 淡々と問うジョルジュに、ガロウマルはそう告げる。
「何……?」
 微かに眉を寄せるジョルジュに、自身も悪しき棘(ソーン)から解放されたガロウマルは、続けた。
「『ニニギアメツチ』と『大空を覆うもの』は、必ずやお前達の障害となる。
 それを阻止するには、『此華咲夜若津姫』の助力が必要だろう。エンドブレイカーならざる俺には、できなかったことだが、お前達ならば……」
「だが、解放された『此華咲夜若津姫』が私達の味方をしてくれるとは限らないだろう」
 ジョルジュはそう疑問を口にする。
 かつて海賊の本拠地があったニニギア島を破壊したニニギアメツチなどは、たとえ棘(ソーン)から解放されたところで味方をしてくれるとは限らない。
 かつて『大地の扉』に大きな崩落をもたらした『此華咲夜若津姫』の力が敵となれば、脅威に他ならないだろう。

「その心配はない」
 ガロウマルは言いながら、刀を杖代わりに立ち上がった。
 その身体から、砂のようなものが零れ落ちる。長き時を戦い続けた勇者の肉体は、もはやその存在を保てず、かたちを崩しつつあるのだ。
 死を間近とした剣聖は、『此華咲夜若津姫』の正体を告げる。

『此華咲夜若津姫』こそは『人類の魔女』。人類全ての遥か遠き母。
『大魔女』を僭称する、スリーピング・ビューティなどとは違う……真の『魔女』の一人だ」
「……!?」
「ジュウゾウを倒せ。地獄に未だ兵力を保持している奴さえいなければ……お前達ならば必ずや『此華咲夜若津姫』を棘(ソーン)の呪縛より解放できるだろう」
「だが、ジュウゾウは……」
 既に戦場から逃亡し、その行方は杳として知れない。そういうエンドブレイカーに、ガロウマルは言う。
「案ずるな。俺はもう消えるが、俺の武器が、お前達をジュウゾウの元へ導くだろう。倒していなければ、奴の元には『喋る武器』が居るだろうが……それぐらいは何とかしろ」
 愛刀を地面に突き立てたガロウマルは、その刀に向けて最期を発する。
「閻魔牙(やまきば)よ、永い間ご苦労だったな。最期の役目だ。エンドブレイカー達を、ジュウゾウの元へ導け」
 ガロウマルの刀が一瞬光り輝いたかと思うと、刀がいた場所には巨大な老いた狼の姿があった。
 その顔に、先程自分が潰した狼と同じものを見て取り、少女蒼騎・アリーセ(c34080)は僅かに目を見開いた。
「これ、あの刀の……? さっきまでのガロウマルの姿は、これと混じっていたの?」
「往け、エンドブレイカー。俺達が為せなかったことを為し遂げ、その先へ進め」
 最後の言葉と共に、剣狼剣聖ガロウマルの姿は砂のように微塵に散る。

 巨狼が地面に伏せ、エンドブレイカー達に背に乗るように促す。
 『此華咲夜若津姫』を悪しき棘(ソーン)から解放するという難事を果たす上で、彼女の周辺に兵力を維持しているジュウゾウの存在は確実に大きな障害となる。
 エンドブレイカー達は強敵の待ち受ける場所へと向かうべく、狼の背へと乗り込んでいった。
 巨狼が地面に伏せ、エンドブレイカー達に背に乗るように促す。
 『此華咲夜若津姫』を悪しき棘(ソーン)から解放するという難事を果たす上で、彼女の周辺に兵力を維持しているジュウゾウの存在は確実に大きな障害となる。
 エンドブレイカー達は強敵の待ち受ける場所へと向かうべく、狼の背へと乗り込むのだった。


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参加者
雪消初花・スーリア(c00156)
鋼鉄の孤狼・リュウキ(c00349)
紅蓮鳳蝶・シャホン(c00357)
獅子星・ウセル(c00535)
黒い剣の担い手・イグニス(c00889)
世界を駆け巡る萬屋・ジョバンニ(c00896)
幻奏調律士・サクラ(c01323)
虚ろの従者・ゼフィリス(c01487)
阿頼耶の狩手・ルーン(c01799)
翠狼・ネモ(c01893)
狂獣縛鎖・クロード(c02208)
黒き雷神・ライズ(c02228)
天狼の黒魔女・サクヤ(c02573)
星輝穿雲・ディーア(c02611)
白狼紅盾・ライナス(c03263)
祀火の覡・ラグナ(c05813)
絶壁冥土・アリッサ(c05846)
焔棘・ケーナ(c10191)
灼撃の・リョウ(c11025)
ダルデレニスタ・ヴィンスレット(c12779)
朱華の鋼拳・メアリー(c13758)
戦神竜皇・ウォリア(c17006)
闘星鳳・ナティウス(c17965)
花守鴉・ステファノ(c23888)
チェシャ猫・メルキオス(c29199)
デモン機巧少女・ルミティア(c30986)
灘の鬼将・マサヨシ(c32163)
危険なモブ・イザボー(c33892)
いばら姫・チサカ(c34909)
空ばかり見てる・ルスラン(c35273)

<リプレイ>

●閻魔牙
 仲間達が背に乗ったことを確認し、翠狼・ネモ(c01893)は古狼の背を叩いた。
「頼む」
 その言葉に応じ、30名のエンドブレイカー達をその背に乗せた古狼は猛烈な速度で走り出す。
 『大地の扉』に繋がる洞窟を飛び出すと、放棄領域をひた走っていく。
「勇者達に託された使命、何としても果たさないと……」
 強烈に揺れる狼の背の上で、首の辺りの毛を掴んでいた空ばかり見てる・ルスラン(c35273)は、そう言いながら古狼の毛皮の感触を味わっていた。ガロウマルの愛刀、閻魔牙の変じた狼の身体は獣特有のしなやかさを有しているが、一方で獣につきものの毛皮に巣食う虫の気配もない。
「刀が狼になったのか、それとも狼が刀になっていたのか……どっちだったのかなー?」
 いばら姫・チサカ(c34909)は万が一負けた時のことを考え、目印になる石を閻魔牙の背から撒きながら首を傾げる。とはいえ、どちらが正しいのか、ガロウマルが死んだ今となっては、その疑問の答えを知る由もない。
 高速で移り変わっていく景色をホークアイで眺めながら、獅子星・ウセル(c00535)は周囲の状況把握に努めていた。
「思い出してみれば、都市国家の混乱の多くが喋る武器によって齎されてきたものだよな」
 ウセルの脳裏を過ぎるのは、エンドブレイカー達が訪れた都市国家の多くで事件を引き起こして来た『喋る武器』達のことだ。
 今回のガロウマルの挑戦の前兆として事件が起きていたアマツカグラはさることながら、その他の都市国家においても数々の悲劇を生んでいる。
「思えば、色々振り回されて来たもんだな」
「喋る武器とは随分長い付き合いになったが……そろそろ終わらせよう」
 鋼鉄の孤狼・リュウキ(c00349)の呟きに、黒い剣の担い手・イグニス(c00889)が同意を示した。
「仇討なんてのは俺の柄じゃないが、人生を狂わされた連中の借りはきっちり返さないとな」
「ですが、この人数でも楽に勝てる相手ではないですからね。気を引き締めてかかりましょう」
 リュウキの決意、幻奏調律士・サクラ(c01323)の警告、その双方に周囲にいたエンドブレイカー達が頷き返す。
 状況の助けもあったとはいえ、ジュウゾウは今年のはじめ、今と同じ30人のエンドブレイカー達を『大地の扉』での戦いで退けているのだ。
「ある意味、半年前の戦いのリベンジだからね〜」
 チェシャ猫・メルキオス(c29199)は軽い調子で、しかし真剣な眼差しで言った。
「ここで撃破できなかったら、きっと次なんて機会は無い……」
 自分達がジュウゾウを逃せば、彼がどこに逃げるか分かったものではない。
 そうなれば、倒すための困難は今回とは比較にならないだろう。
 『此華咲夜若津姫』を悪しき棘(ソーン)から解放するという難事を果たす上で、地獄に兵力を持つジュウゾウの存在は確実な障害となる。

「しかし……この音は」
「大丈夫なのかしら?」
 闘星鳳・ナティウス(c17965)と雪消初花・スーリア(c00156)は、自分達が乗っている古狼を見下ろす。
 聞こえて来る古狼の息遣いが、次第に荒くなっているのをヒアノイズを活性化している者たちは気付いていた。
 全速力でエンドブレイカー達を老人の元へと運ばんとする大狼は、ガロウマルと同じように次第にその存在を薄れさせていく。
「まさか、着く前に消えるなんてことが無いといいけれど……」
「その心配は無さそうだよ。ほら、あれ」
 前方を注視していた朱華の鋼拳・メアリー(c13758)が前方を指し示す。そこに広がっているのは、既に滅びた街並みだった。エンドブレイカー達を乗せた閻魔牙は、明確な意図を持って、その街並みへと足を踏み入れていった。
 紅蓮鳳蝶・シャホン(c00357)は警戒しつつも周囲を見回す。
「この街にジュウゾウが……?」
「鉱山街……それに鍛冶場でもあるのか」
 街の光景に、阿頼耶の狩手・ルーン(c01799)は滅ぼされた自分の故郷を思い出す。鉱山を掘り尽くしたことで誰も住まなくなったのであろう街並みの最奥に見えて来るのは古びた錬鉄場だった。
 閻魔牙の姿に応じてだろう、こちらを迎えるように屋敷から現れるのは、長い剣を背負った老人の姿だ。その周囲には、『喋る武器』を手にした人影が控えている。
 戦神竜皇・ウォリア(c17006)が吼えるような声を上げる。
「いたぞ、鋼語りのジュウゾウだ!!」
「背負っているのは大剣……でしょうか」
 遠目に見えるジュウゾウの姿を観察し、ルスランが皆に告げる。
「みんな、打ち合わせどおりにいくのよ!!」
「よっしゃ、気合い入れていくぜ!」
 世界を駆け巡る萬屋・ジョバンニ(c00896)を先頭に閻魔牙の背から飛び降りたエンドブレイカー達が、デモン機巧少女・ルミティア(c30986)の指示に従い散開していく。
 それと時を同じくして、狼の姿は完全に掻き消えていった。
「良くここまで導いてくれたな」
 地面に降り立った黒き雷神・ライズ(c02228)が閻魔牙の頭をそっと撫でる。
 応ずるように小さく吼えた閻魔牙のいた後に残ったのは、古び、朽ち果てた太刀の残骸だ。それも主と同じように、風に吹かれて砂のように散っていく。
 ジュウゾウはふむ、と小さく仮面の向こう側で呟いた。
「閻魔牙……どうやらガロウマル殿は、私を倒すことをあなた達に命じられたようですな。一時は手を結んでいたとはいえ、所詮は同床異夢の間柄。当然の流れということですか」
「ここで逃がしたら、また面倒なことになるだろうしな。この場で倒させてもらうぜ」
 大鎌を構えるダルデレニスタ・ヴィンスレット(c12779)。
 それに応ずるように、『喋る武器』を持つ者達が前に出る。
『創造主よ。後ろへ』
『前衛は私達にお任せでございますネ〜』
 ジュウゾウを守るべくエンドブレイカー達の前に立ちはだかるのは、『軋る剣ガルヴァルド』と『踊る盾槍ザングルム』を、それぞれ手にした『喋る武器』使いだ。
 『喋る武器』を召喚できるジュウゾウの能力を考えれば、撤退中にジュウゾウが身を守るために召喚したのかも知れない。
 海賊群島で使っていたものと同様と思しき金属で覆われた身体。彼らもまた侮れない実力を有していることを、エンドブレイカー達は知っている。
「……めんどくせぇ奴らがいたもんだ」
 ヴィンスレットの視線が厳しくなる。
 ジュウゾウは落ち着き払って言った。
「私の手管は知られていますからな。状況的には厳しいでしょうが……あなた達を倒し、ここを突破すると致しましょうか」
「我らの野望のために、ここで塵となれぃ!」
 悪役然とした表情を作ると、危険なモブ・イザボー(c33892)は銀色の仮面を装着した。

●『喋る武器』3つ
 ガルヴァルド、ザングルム、ジュウゾウという3体の強敵に対し、エンドブレイカー達もまた部隊を大きく3つに分けて応じた。
 ザングルムにはイグニス、メアリー、花守鴉・ステファノ(c23888)、ルミティアの4人、ジュウゾウには絶壁冥土・アリッサ(c05846)、狂獣縛鎖・クロード(c02208)、ジョバンニ、ネモ、白狼紅盾・ライナス(c03263)、焔棘・ケーナ(c10191)の6人と、彼らを支援するイザボー、ルーン、祀火の覡・ラグナ(c05813)の3人が向かう。
 残る者達は、ほとんどがガルヴァルドへの集中攻撃を加えるつもりでいる。
『随分と買い被られたものだ』
「お前は前座だよ」
 天狼の黒魔女・サクヤ(c02573)がガルヴァルドにそう応じる。
 そして戦いは、ジュウゾウの言葉と共に始まった。
「こちらも負け戦でしたからな。出し惜しみはせずにいきましょう」
 その言葉が何を意味しているのか、即座に理解できた者はジュウゾウと相対していた者達の中にはいなかった。
 次の瞬間、ジュウゾウが背負っていた大剣が唐突に自分達の方に向けて飛来するのを、エンドブレイカー達は見た。
「あれは……対多人数用の武器か何かでしょうか?」
 これだけの人数を相手にする以上、相手も勝機を見て取っているはず。
 ライナスはいぶかしげにその剣を見る。
 自分達をマスカレイド化しようとする企てと見たか、幾人かがゼンカイオーラによって武器を弾き飛ばそうとする。だが風はそよとも起こらず、彼らの顔色を変えることとなった。
「ええい、壊せば良いのだ! 我らはマスカレイドにはならぬ!」
 イザボーが放った裁きの車輪が、飛来しつつあった剣に向けて転がっていく。
 だが、その車輪が当たる寸前、剣は自らを加速させることでそれを回避した。
 一瞬目を疑い、次の瞬間にエンドブレイカー達は事態を理解する。
「増援です!」
「いきなりですか!?」
 ナティウスの警告に、灼撃の・リョウ(c11025)は内心の動揺を抑えつつもガルヴァルドへと光り輝く棍を振るった。
 敵増援への危惧を抱いてはいたものの、いきなり投入して来るというのはリョウの予想の外だ。
「茨太刀(うまらだち)を持ってるわけじゃないのか……」
 当てが外れたとケーナが顔をしかめる。
『我が創造主が喋る武器を従えているなど、お前達にとっても既知の情報であろう』
「ああ、その通りだな」
 エンドブレイカー達の熾烈な攻撃に晒されつつも当然のように言うガルヴァルドに、ルスランは苦渋を滲ませる。
 かつて大地の扉で交戦した際、ジュウゾウは3体の『喋る武器』をエンドブレイカー達と戦わせている。
 件の戦いでジュウゾウがエンドブレイカー達を退けた最大の要因を場の状況とするならば、第二の要因はそれらの『喋る武器』との交戦による消耗、そして第三の要因はジュウゾウ自身の強さだ。
「とにかく、やるしかないな……ハァちゃん!」
 呼び出した星霊ジェナスが波に乗り、ガルヴァルドへの体当たりを仕掛けていく。初撃の成功を目にしながらも、サクヤの表情は険しい。
 ガルヴァルドやザングルム以外の『喋る武器』出現の可能性はサクヤも警戒していた。
 だが、警戒に留まり、十分な対策を講じていたとは言い難い。
 ただでさえ、現れた3体の中でも最強と目されるジュウゾウ相手の戦いに、さらに侮りがたい敵が加わったのだ。
 たとえ予期できていたとしても、ジュウゾウと相対していた者たちにとって、その出現は明確な悪材料だった。対応を講じていなければ猶更だ。
『猛る剣オリグラム、ピンチですから、あなたも頑張って下さいでございますネ〜』
『フン……真打などと言っても、どうせクソジジイにとっては我らも使い捨てに過ぎんだろう』
 ザングルムの声に応じる聞き覚えの無い声は、飛来する大剣の鍔についた顔のような部品から響いていた。
「そいつは頼むぞ!」
 背にオーラの翼を生やしたネモが、弾丸のように加速しながらジュウゾウへと光の軌跡を描く。ジュウゾウの足元を強襲するネモとすれ違うようにして、猛る剣オリグラムはエンドブレイカー達へと飛来した。
「クッ……!」
 響き渡る金属音は、ケーナが鏡面化させた武甲【朱雀】でオリグラムの剣の腹を殴りつけるようにして振り払ったがために生じたものだ。だが、それ以前に自らを宙に躍らせた刃は、ケーナの身体にくっきりと斬線を刻み付けている。
「この見落としはシャレにならんぞ……!!」
 イザボーが歯噛みする。ルーンの仕掛けた罠が作動し、飛来する編みを身を翻して剣は断ち切った。
『相応しき使い手も見つけぬうちに、この俺に戦働きを命じるとはな。耄碌したかクソジジイ』
『オリグラムは怠け根性が抜けないのでございますねぇ〜』
 からかうように言うザングルムの盾部分から、針状の弾丸が一気に放出された。
 イグニスとステファノの黒いロングコートの表面が針山のように銀色に濁るが、2人はそれを突っ切ってザングルムへと相次いで刃を繰り出していく。

「あれも、『真打』か……!?」
「弱い部類とは思い難いですね」
 ルーンの言葉に、ラグナが応じつつ前へ出る。
 イザボー、ラグナ、ルーンの3人はジュウゾウを抑えるルーン達が負傷するまで控えている予定だったが、もはやそれどころではなくなったと、その場にいる誰もが理解していた。
 さらにジュウゾウの背後に幾つもの武器が空中に浮かぶようにして出現する。
 その中に竪琴を認め、星輝穿雲・ディーア(c02611)は思わず声を上げていた。
「まさか、竪琴の『喋る武器』ですかぁ!? 全然ないと思ってましたが、竪琴でぃすってたわけじゃないんですかぁ!? っていうか私用に特製の竪琴用意してくれてたりしないんですかぁ!?」
「武器に貴賤はありませんとも。ご希望とあらば、一つ進呈しましょう」
「え、ホント? やりました、ジュウゾウさんから装備補充ゾウですぅ!」
 ジュウゾウに対抗するように銀の竪琴『インクレスパトゥーラ』をかき鳴らすディーア。
 その会話を、灘の鬼将・マサヨシ(c32163)とウォリアの怒号が断ち切った。
「おぬしの武器を受け入れる俺達ではないッ!」
「その通りだ! 我らは確固たる信念のもと貴様を討つ! 愚かな誘惑に乗ると思うな!」
 山斬烈槍ランスブルグに現れた『喋る武器』や、ジュウゾウ自身が与えた武器が、エンドブレイカーをマスカレイド化させている。冗談では済まされない。
 ウォリアが地面に突き刺した剣から強大な剣気が沸き上がる。それを牽制として、マサヨシはガルヴァルドへと愛用の黒砕破による連打を叩き込んだ。
「臨む兵闘う者! 皆、陣をなし列にて前へ在れ!」
 ナティウスの仕込み杖から引き抜かれた刃が、ガルヴァルドの腹部へと月弧の如き斬線を残した。
 ヴィンスレットは邪眼でガルヴァルドの腕を封じつつ、胡乱げな視線をディーアに向ける。
「どこまで本気なんだよ……?」
「え、何がですかぁ? それより、オルケルなんとかが危なそうですしぃ。わたし、あっちに回りますねぇ?」
「お、おう」
 そうする間にも、ジュウゾウの竪琴から響き渡る狂騒的な音色は、ジュウゾウに相対したアリッサとジョバンニの周囲に五色の光を乱舞させていた。膝をついたアリッサは、表情を変えぬままに空中を舞うオリグラムを見つめた。
「あれが、敵の奥の手ですか?」
「むしろ初手だぜ……参ったな」
 その初手で完全に意表を突かれる形となったジョバンニは苦笑を隠せない。
 第4の敵。その出現に、司令塔となっているルミティアも有効な指示を打ち出せずにいる。戦線崩壊の危険を悟り、後方支援に当たっていたディーアはオリグラムへの攻撃態勢に入っていた。
「だが……簡単にはやらせねぇぜ」
「その通りです!」
 鈍く輝く黒盾を手に疾走したクロードとライナスが、ジュウゾウへと相次いで飛び掛かった。
 ジュウゾウは竪琴を打ち捨てると浮かんでいた斧を振り抜くようにして2人を迎撃、反転して着地した2人はそのまま低い姿勢をとって防御を固める。
 アリッサは拳を強く握ると、無い胸を張ってジュウゾウへと打ちかかった。
「いずれにしても、私は敵の前に立ちはだかるのみです。絶壁の名に懸けて……!!」
「ここで負けるわけにはいかないんです!!」
 さらに虚ろの従者・ゼフィリス(c01487)の構築した棘(ソーン)の檻が、ジュウゾウの周囲を強固に覆い、広範囲への攻撃を封じ込める。
「俺も負けてられねぇな!」
 戦意を奮い起こし、駆け出していくジョバンニの背を英霊の幻影が覆っていく。
「『喋る武器』を生み出す……鋼語りのジュウゾウ、ある意味では六勇者以上の脅威ですね」
 勝利を掴むためには全身全霊をかけて挑む必要がある。
 霊力を秘めた紙を兜の形に折りながら、ラグナは改めてその認識を新たにしていた。

●斧剣と盾槍
 軋る剣ガルヴァルドが手にした斧剣を横薙ぎに振るうと、放出される衝撃波がメルキオスとシャホンを呑みこんだ。
 倒れ込みながらメルキオスがガルヴァルドへと打ち下ろした肘が、金属の肌にぶち当たった。痛みを覚えつつも、その反動で身体を振り回したメルキオスの爪が、斧剣の戻りを封じ込める。
「これ以上、あなた達に好き勝手やらせるわけにはいかないなのね!」
 衝撃を受け止めきったシャホンの両手の刀が神火に包まれ、薙ぎ払うようにして振るわれた。
 ガルヴァルドの使う金属の肉体に、また新たな傷が刻まれる。
 ガトリングアローで弾幕を張るウセルが敵の攻撃を妨害し、チサカのムーンブレイドが空間を断ち切り、黄金の祝福を仲間へと与える。サクラのクルセイドマーチとチサカの神楽舞がジュウゾウと戦う仲間達の傷を癒していく。
『流石に強い……いや勇者達との戦いをへて、ますます力を増しているようだな」
「我々は六勇者のように一騎当千ではない。だから力を束ねてお前を倒す」
『海賊群島で戦った時よりも、お前達はさらに強さを増している……飽かず力を求め続ける心、我らの使い手に相応しいのだがな』
 青髪をなびかせてライズはガルヴァルドへの距離を詰める。ガルヴァルドが反応する暇を与えずに紫闇の鞘を振り抜くと、勢いのままに仕込まれた刀が飛び出した。
「ライジング・デイブレイク」
 刀に宿るは太陽の輝きだ。
 静かに、しかし気迫のこもった声と共に、振り下ろしの一撃が繰り出される。
「急いでガルヴァルドとザングルムを倒さないと……!」
 スーリアはムーンブレイドを振り上げ、癒しをもたらす小さな月を現出させる。
 そこから降り注ぐ月光は、ジュウゾウとオリグラムに苦しめられるエンドブレイカー達を癒していく。
 オリグラムという想定外の存在によって、ジュウゾウを相手にしたエンドブレイカー達が苦戦を強いられる一方で、ガルヴァルドを相手取った者達は優勢に戦いを進めている。
「『喋る武器』よ! 貴様に我が秘剣、破れるか!」
 大きく両腕を広げたウォリアの大剣が、ガルヴァルドの本体であるアックスソードと噛み合った。
 武器の動きが封じられた瞬間、リュウキの身体が掻き消えたように加速した。
 身体を旋回させると共に、腰から伸びた魔獣の尾がガルヴァルドを持つ金属の身体へと打ちつけられ、その装甲が大きく歪む。
「使ってるのが人間じゃないとなりゃ遠慮は無用だ。纏めて叩き潰してやるぜ、ガルドヴァル!」
『ガルヴァルドだ』
「いちいち名前が面倒臭いんだよ……ワン、ライナスの治療を」
 戦場に目を走らせたサクヤが星霊オラトリオに言うと、その祈りがライナスの傷を癒していく。
 マサヨシとウォリア、2人の武芸者が競い合うようにしてガルヴァルドへと神火を宿した武器を繰り出していく。
『……やってくれる』
 エンドブレイカーの連携攻撃は、ガルヴァルドに反撃の糸口を見出すことを許さず、軋る剣を確実に追い詰めつつあった。

 一方、戦場の逆側、踊る盾槍ザングルムを相手にしている4人は厳しい戦いを強いられていた。
 ザングルムの強さは、ガルヴァルドと同等程度。
 だが人数比にすれば3分の1程度の人数で戦うハメになっているのだ。
 『喋る武器』……ジュウゾウの『真打』の強さは、4人のエンドブレイカーがそれを封殺することを許さない。
『ヒャッホーイ、でございますネ〜!!』
 踊る盾槍の名の通り、踊るように蠢いた盾槍の穂先が旋回しながらメアリーとステファノを吹き飛ばさんとする。
 咄嗟にメアリーとザングルムの間に割って入ったルミティアのメイガスの風防が易々と砕け、破片が飛び散る。既にルミティアのメイガスは、ザングルムの放った活殺退魔突きによって半ばを石化されていた。
 構えたアックスソードごと弾き飛ばされながらも、ステファノは声を飛ばす。
「メアリー!」
「任せて! 腕1本、もらうわよ……!」
 メアリーとステファノの額に生まれるのは宝石よりも美しいとされる魔獣バジリスクの瞳。
 その美しくも妖しい輝きが、ザングルムの操る金属骨格の腕と脚を封じていく。
『おおっと、これは少々踊り辛くなってしまったでございますネ〜?』
「まだ、しばらくは俺達に付き合ってもらうぞ、ザングルム……!」
 からかうように言うザングルムへと、イグニスは身を沈めるようにして接近、下段からすくい上げるような斬撃を放つ。
 ザングルムが剛破剣を受け止めた瞬間、黒き剣は盾槍の穂先から生命エネルギーを貪り喰らった。ザングルムがその場を飛び退き、取り繕うような声を上げる。
『おおっと。まぁなんていうか悪役っぽいでございますネ〜』
「そういう芸風はイザボーだけでお腹いっぱいだから!」
 ルミティアが背を向けながら数歩距離を取る。
 メイガスの風防から伸びた髪が紫煙銃の引き金を連射、ザングルムがそれを弾く間に、石化されつつあったメイガスの装甲を排除する。
『ちぃっとばかり分が悪いでございますネ〜』
 シールドスピアの『喋る武器』であるザングルム。
 その最大の弱点は、自分自身で状態異常を解除できないことだろう。
 とはいえ、彼を状態異常に陥れるまでの交戦で、4人もかなりの痛手を受けていた。
 回復を担当する者達が、ジュウゾウとオリグラムを相手取る者達の回復で忙殺されているのが大きな原因だ。
「みんな頑張ってるんだもん。負けない……!」
『そ〜んな悠長なこと言ってていいんでございますかネ〜?』
 とぼけた調子で言うザングルム。
 その盾部分に、音を立ててシールドニードルの射出口が開いた。

●戦線
 鋼語りのジュウゾウと猛る剣オリグラム。
 2体の強敵を相手にすることになったエンドブレイカー達が紛いなりにも戦線を保てていたのは、ゼフィリスのイノセントプリズンによるところが大きかった。
 結果として、ゼフィリスは最初の竪琴による攻撃の被害を半減以下に抑え込むことに成功していた。
 だが、序盤を過ぎ、ゼフィリスが回復に回るようになると、ジュウゾウの攻撃が次第に猛威を振るい始める。
 その対象となったのは、シールドプレスでジュウゾウにのしかかり、至近距離からの攻撃を引き受けているクロードとライナスだった。ゼフィリスとサクラによる強力な回復ですら追いつかないダメージが、盾使い2人には積み重ねられていく。
 2人の周囲には、ジュウゾウが使い捨てた武器による攻撃の痕跡がくっきりと刻まれていた。
 それでもライナスは血反吐を吐き捨てながら叫ぶ。
「今のうちです!!」
「……よっしゃ、合わせるぜ!」
 老人とは思えぬ強烈な力による振り払いは、ナイフによる刺突を伴っていた。
 甲冑の隙間から入った切っ先を渾身の力で抑え込みながらライナスが倒れた瞬間、鬼気すら漂うばかりの強烈な斬撃をジョバンニは叩き込む。
 さらにオーラの城壁と共に飛びこんだアリッサがジュウゾウへと追撃を加えんとする。
 だが、その一撃は彼女を縫い止めるように地面から噴出した気の刃によって遮られた。
 アリッサの繊細な身体が、メイド服ごと貫かれる。
「邪魔立てを……」
 無表情に言って動かんとしたアリッサの身体は、気の刃が消えると共に力なく地面に倒れ込んだ。イザボーの視線が、己の刀身を地に突き刺したオリグラムへと向けられる。
「貴様には死すら生ぬるい……!」
『我らには死などない。所詮は武器。壊れるだけだ』
 殴り掛かってくるイザボーをいなすオリグラムへ、ラグナの構えた鏡から光の奔流が撃ち出されていく。
「あの大剣を早くどうにかしなければ……」
 ラグナの額に汗がにじむ。だが、それを実現するには火力が不足していることをラグナ自身も悟っていた。
 ガルヴァルドに集中するはずだった攻撃がオリグラムの出現によって分散を余儀なくされ、さらにガルヴァルドの撃破が遅れるという悪循環だ。
「……こっちだ、ジュウゾウ」
 ライナスと入れ替わるようにジュウゾウへ接近したクロードが、斧を真っ直ぐに突き込んだ。
 不自然な一撃を身を捻るようにしてジュウゾウがかわそうとした瞬間、クロードは斧の軌道を唐突に変える。
 まるで防具のようにジュウゾウの身を覆った冶具や刃物に斧の刃を絡ませると、全身の力を振り絞り担ぎ上げるようにして持ち上げる。
「防ぎようがないってのは、どんな気分だ?」
 言い捨てながら、クロードは返事を待つことなく斧をジュウゾウごと振り下ろした。
 地響きと共に老人の身体が幾度も地面に叩きつけられる。
「なかなか……やってくれるではありませんか」
 巻き上がる砂埃の中で老人の口から苦痛を隠せない様子の声が上がる。
 しかし、攻撃の機を見計らいながら跳躍したネモは、ジュウゾウの手の中に矢をつがえていない弓が現れたのを目撃していた。
「危ない、離れるのじゃクロード!」
 だが、その言葉が届くよりも早く、天空から巨大な光の矢は飛来する。
 その矢の先端が貫いているのは、ジュウゾウを振り回していたクロードだ。
「……やってくれる……な……」
「いやはや、老骨を相手に好き勝手をしてくれるものですね」
 クロードの手が斧を取り落とすと共に、ようやく解放されたジュウゾウが大儀そうに首を振りながら身を起こす。飛来するネモはジュウゾウに蹴りを入れながら着地すると、クロードが戦闘に巻き込まれぬよう合わせて蹴り飛ばす。
「これで、2人……」
 ゼフィリスは緊張と共に、傷ついた仲間達を癒すように竪琴をかき鳴らした。
 ジュウゾウを相手にしていた前衛達が相次いで倒れたことは、仲間の消耗がいっそう加速していくことを意味している。
「ですが、限界まで抑え込んでみせましょう……皆は『喋る武器』を!」
 倒れたライナスとクロードに代わって前に出たラグナが声を張り上げる。
『さて、斬りやすいところを斬りに行くか』
 オリグラムの切っ先が、ザングルムを相手取るエンドブレイカー達へと向けられた。

●崩壊
 遊軍と化したオリグラムの動きが示す危険性に気付いたのは、後方支援に控えていたヴィンスレットとディーアだった。
「え、あれマズくないですかぁ!?」
「ええい、めんどくせぇ真似をしやがる……走れっ!」
 普段のダルそうな様子を振り捨てたヴィンスレットの言葉通りに、2人は走った。
 ヴィンスレットがザングルムに切り掛かろうとしていたイグニスを横合いから蹴り飛ばし、ディーアがルミティアのメイガスの背中にしがみつく。
「……!?」
 たたらを踏んだルミティアとイグニスが何を、と口にしようとした次の瞬間、イグニスが走り込もうとした場所へとオリグラムの刃が降ってくる。
 一瞬遅れれば自分達が切り裂かれていたと理解しながら、イグニスはオリグラムの動きが止まっていない事実に目を見張る。
「続けて来るぞ!」
 牽制とばかり、サクヤがオリグラムへと星霊ジェナスを向かわせるが、柄を中心に高速で回転しながらザングルムの周りを舞うように飛行した大剣が、メアリーとステファノを切り払ったのは、それより僅かに速い。
「おのれッ……!」
 アックスソードにすがりつくようにしてステファノが倒れ、辛うじて踏みとどまったメアリー、そしてルミティアへと、ザングルムの盾に開いた射出口が向けられる。
『しぶといでございますネ〜。これだからエンドブレイカーは油断ならないのでございますネ〜』
 針弾が放出された。
 全身を針弾に貫かれたメアリーが、軽い音と共に地に倒れ伏す。針弾はルミティアが己の一部へと昇華したメイガスをも貫いて、中の搭乗者を襲った。中から苦痛の呻きが漏れ、そのまま黒のメイガスは動きを止める。
「やってくれたな……!」
 いまだ戦う力があると示すように、イグニスは剣に巨大な外装を纏わせる。そのまま大鎌を構えたヴィンスレットやディーアと肩を並べるが、形成不利の感は否めなかった。
「『喋る武器』2体相手か。どこまで保つか……」
「すぐにそちらに援護がいく! 少しだけ耐えろ!!」
 ウセルが矢を射続けながらそう告げる。
『……ありゃ、マズいでございますネ〜』
『さて、次はどいつにするか』
 危険を悟ったのか引いた感を漂わせるザングルムと裏腹に、オリグラムは次に刃にかける獲物を捜すように剣身を翻した。

 エンドブレイカー達の集中攻撃を受ける軋る剣ガルヴァルドの刀身には、既に大きなヒビが入っていた。
「さぁ、とどめといこうか!!」
 メルキオスの腕が十字を描いて振るわれ、赤い十字の衝撃がガルヴァルドの操る金属の骨格を大きく揺るがせる。
 たちまちのうちに距離を詰めたリョウの灼星棍が、閃光と共に金属の胴を貫通した。
 だが、金属の人形がそれで痛みを覚えることは無い。棍を引き抜かせぬままにガルヴァルドは突き刺さった棍を支点にリョウの身体を振り回し、地べたに叩きつけんとする。咄嗟に手を放したリョウが距離を取り、入れ替わるようにして滑り込んだシャホンの双刀が、突き刺さった棍の傷口を広げるようにして、胴を深々と斬り裂いた。
 宙に舞い飛んだ棍をリョウが掴み取るのと、リュウキ、ウォリア、マサヨシの一斉攻撃が金属の身体を分断するのはほぼ同時だった。
『やはり、より相応しい使い手が必要だったか……』
 金属の骨格から舞い上がろうとするアックスソード。だが、その動きを飛来した捕縛網が封じ込めた。ルスランがガルヴァルドに敗北を突きつける。
「既に罠はしかけてある!」
「逃がしはしない。破壊と碧風と爆炎のトリプルコンタクト!」
 ナティウスの手が一瞬霞んだ。
 網に捕らわれたアックスソードに手裏剣が突き立つ音は、重なり合って一音として響く。
 そして一瞬の間をおいて、手裏剣は爆発した。
 ガルヴァルドの金属の刀身が、恨みの声すら上げずに崩壊していく。
「次はザングルムだ、急げ!」
 星霊オラトリオにジュウゾウと戦う面々を回復させながらサクヤが叫ぶ。
「逃がしはしない……雷龍よ、奴を撃て!」
 即座に近距離攻撃はできないと見て取ったライズが呼び出した雷の龍が、ザングルムの頭上で咆哮を上げた。
『ちょ、こっち来んなでございますネ〜!?』
「よし……後は、任せ……」
 ザングルムに貫かれ、辛うじて剣を支えに持ちこたえたイグニスが、そのままの姿勢で石と化した。満身創痍のディーアとヴィンスレットが飛び退るようにして距離を取り、ガルヴァルドを倒した者達が入れ替わりにザングルムとオリグラムに相対する。
『敵の数が多過ぎるな』
 舌打ちするように言うオリグラム。ザングルムと共にエンドブレイカー達を斬り裂かんとする『喋る武器』へと、熾烈な攻撃が加えられていく。

 ルミティアやステファノらによる攻撃を受けていたザングルムが、これまでの数倍の人数による猛攻を受けてそう長く保つはずも無かった。
『ですが、無傷というわけでもないでございますネ〜』
「察しが良くて困るぜ全く……」
 リュウキの大剣が、突き込まれて来るザングルムの穂先を受け止める。
 『喋る武器』たるガルヴァルドが、エンドブレイカー達に無抵抗でやられたはずもない。
 後衛陣からの支援もあって深手とまではいかないものの、マサヨシの赤い甲冑は彼自身の血で濡れていた。
「だが、それがどうしたというのじゃ!」
 神火を帯びた黒砕破を振り上げ、暴風の如きザングルムの槍の攻撃へとマサヨシは突入していった。
「奉勧請火那山津見御神……諸餘怨敵皆悉摧滅!」
『暑っ苦しいんでございますネ〜』
 すかさず槍が旋回し、
「乗り越える現在の傷、過去を越え未来を掴む為に!!」
 ナティウスの剣から、聖なる炎がマサヨシの傷を焼き清め、その出血を食い止める。
 気合いの叫びと共に振り下ろされた黒砕破は、ザングルムの柄をへし折り破砕した。
 本来ならば、ジュウゾウへと攻撃を繰り出せるようになるタイミングだ。
 既にジュウゾウと戦う者達は、交代した者達を含めて激しく消耗しつつある。
 だが、
「もう少し耐えてくれ!」
 弓の弦を引きながら、ルスランはそう仲間達に頼むしかない。
 想定の外にあった第3の『喋る武器』へと、ルスランは矢継ぎ早に矢を射掛けていく。
「好き勝手やってくれたけど、すぐにあなたも片付けちゃうなの!」
 シャホンの抜き打ちの斬撃が、オリグラムの刀身と噛み合い金属音を上げるのに続く。
「持ち手がいない分、落ち着いてみればガルヴァルド達より強くは無いな」
 ライズは冷静にそう判断しながら、地を蹴った。宙に舞ったオリグラムの顔を模した鍔部分へと、光輝を宿した一撃を叩き込む。

●鋼語りは語る
 ラグナの装束は、自らの血で重く濡れていた。
 新たに召喚した大鎌を振り回しながら、ジュウゾウの腕力は、その外観からは計り知れない程だ。
「マスカレイドは」
 クロードやライナスが倒れたことで、ジュウゾウは的確にこちらの数を減らしにかかっている。
 ジョバンニが割って入り、ジュウゾウをルーンが大量にマキビシをバラまいた一帯へと追いやる。敵の足が一瞬止まった隙に、ルーンは問うた。
「貴様にひとつ聞きたいことがある。私の故郷は天津神楽のはずれの鉱山に住む採掘と鍛冶の里だった……しかし、17年前に滅ぼされ鉄鉱石も玉鋼も根こそぎ奪われていた。貴様の真打の材料はどうやって調達してきた」
「私がその下手人だとでも? 馬鹿げていますね」
 ジュウゾウはルーンの問い掛けに失笑をもって答えた。
「どんな材料であろうと『喋る武器』になる。故に『鋼語り』です」
 そう自嘲気味に言うが早いが、彼の手の中に魔導書が現れる。
 開かれたページに書かれた呪文を詠唱するが早いが、地面に現れた石板から光線が乱舞した。
 その直撃を受けたルーンが倒れ、そして、その後方支援を務めるエンドブレイカー達へと光線は飛んだ。
「サクラさん!」
 誘惑魔曲を奏でていたスーリアが、咄嗟に扇をかざしながら身を躍らせた。
 スーリアのかざした扇を、緑色の光が貫通。光線の軌跡は僅かに逸れ、サクラは致命的な一撃を受けることを免れる。
「ありがとうございます……」
 疲労した顔に笑顔を浮かべるサクラだが、ウセルの巧みな支援を受けて消耗を抑えていた彼女でさえも、クルセイドマーチを歌い続けたことで明確に消耗しつつある。
「私の方も、これで打ち止めですね……」
「じゃあ、こっからはあたし達の番だね」
 サクラと同じく回復を行っていたゼフィリスの言葉に、チサカとスーリアが後を引き継いだ。
「私は、私なりにりにできることをします。全力で!」
 直接相対しない者達もまた、その全力を振り絞っていく。

 ケーナの振るった大鎌から、赤き衝撃の刃がジュウゾウ目掛けて撃ち放たれた。守りを破った一撃を追うようにして、ジョバンニが太刀を繰り出していく。それを受けてなお戦い続けるジュウゾウの力は、『喋る武器』使い達を上回っているだろう。
「勇者と絶望的な差って……あんな強いのにどうして?」
「彼らには伸びしろがあり、私には無い。その差ですよ」
 確かに先の戦いで倒した際のガロウマルは『大地の扉』の時よりも強くなっていた。他の勇者達も修行の時間を与えていれば同様だったのだろう。
「俺からも一つ聞かせてくれや。チサカの嬢ちゃんはあんたを火那山津見神つったら俺は武雄尊に賭けるってことになってな? どっちよ?」
「私はただの鍛冶師に過ぎませんよ。請われれば勇者であろうとマスカレイドであろうと武器を作りますとも」
(「あの言い様……やはり、過去の時代に勇者達に武器を提供したこともあるのだろうな」)
 その言葉にリョウは納得を得ながらオリグラムへと棍を振るう。ガロウマルとジュウゾウが協力関係にあったのも、納得がいくというものだ。
「大体、初代の帝が持つ霊刀は『茨太刀』でしょう……『茨を断つ』などと名を持つ武器の担い手など、限られそうなものではありませんか」
「……あん?」
 霊峰天舞アマツカグラの初代の帝である武雄尊は、霊山のふもとの大岩から生まれ、後に妃とした華玖那幸姫から『茨太刀』なる霊刀を授かり、霊山アマツを鎮めアマツカグラを統一したという。
 神楽巫女や武芸者、忍者たちを含め、アマツカグラを知る者ならば誰もが記憶している伝承だ。
「茨。薔薇。棘。太刀。断ち……ですか」
「まあエンドブレイカーだよね」
「何か、今さらな感が漂うな……」
 チサカとケーナが溜息をついた。
 もしそうだとすると、帝の血統はエンドブレイカーとしての資質を宿していたことになる。
 マスカレイドがアマツカグラを支配下に置いた際に、帝の血筋がご丁寧に抹消された理由は、支配の邪魔になるという以外にもあったのかも知れない。
 武雄尊が生まれた大岩というのも、『大地の扉』の存在を知れば十中八九それだと察しがつく。
 アマツカグラ戦勝祈願祭の存在などからも、『大地の扉』が歴史上のどこかまでは宗教的にも重要視されていたのは明白だ。
 勇者達の時代には既に封印されていたのだろうから、初代帝の出自は『大地の扉』を守る民族の出という辺りか。
「歴史の授業中悪いが、足許が御留守じゃぞ!」
 ネモの誇りとする脚が、力強く大地を踏みしめる。
 たちどころに衝撃が迸り、ジュウゾウを貫いた。
「くっ……流石にガロウマル殿を倒しただけのことはありますな」
 身を揺らしたジュウゾウは召喚したアイスレイピアから氷の戦輪を出現させるとケーナの喉笛を断ち切った。急速に氷に覆われていくケーナの横から飛び込んだジョバンニの斬撃を受け止めたアイスレイピアが、耳障りな音を立てて歪む。
 アイスレイピアからの冷気に傷ついたジョバンニを、即座にイザボーの銃から放たれたメディカルバレットが癒す。
「エンドブレイカーはまもなく大魔女を倒し世界を支配する。平和な武器のいらぬ世界をな。お前の役割など……とうに終わっておるのだ」
「役割など、私は求めませんよ。私は己が望むままに、ただ武器を作り続けるのみ。そして究極の武具に至りましょう」
「それが、あなたの望みだというのですか?」
 悲しみにも似た感情を抱きながら、ゼフィルスはそう問うた。願わくば、ジュウゾウを棘(ソーン)から解放したかった。だが、いつからマスカレイドだったのだろうか。ジュウゾウの言動に、助けられるだけの善性が残っているとは到底思い難かった。
「もっとも私の『真打』を長く所有した人は、皆マスカレイドになってしまいましたがね」
「多くの人間の人生を狂わせておいて、他人事のように言うものだな」
 ウセルの静かな怒りを、ジュウゾウは泰然と受け止める。
「私は武器を作り、世に送り出すのみです。一部には使命を与えたものもいますがね。武器をどう使うかは、それを手にした者次第でしょう」
 ウセルが眉をしかめる。
「それは、欺瞞だ……!」
「ウオオオオオォォォォーーーッ!!!」
 ウォリアの喉から竜の如き咆哮が上がった。そして咆哮に続くのは、金属の響きが起こる。
 背筋も凍るような雄叫びと共に振り下ろされた大剣が、猛る剣オリグラムを真っ二つに断ち割った音だ。
「ジュウゾウよ。嗤う剣も貴様の作品だったな……貴様は知らぬだろうが、我が貴様を斬る理由としては十分過ぎる!」
「はいは〜い、前衛交代だよん」
 軽快な足取りで、メルキオスがジュウゾウへの距離を詰めていく。
「さて年代物の大物マスカレイドの棘(ソーン)、どんな味がするのかな。たっのしみだな〜」
 身を捻り、幻惑するように爪の連打を撃ち込むメルキオスは、その欲望を隠さない。
「前みたく誰かを棘(ソーン)で味方に取り込んで、逃げられるなんて思うなよ!」
 ルーンの後を引き継ぐように、ルスランがトラップを敷き詰めていく。
「行きましょう! 私達の武器は、必ず応えてくれます!!」
 スーリアが彼女の原点とする魔曲を奏でながら叫ぶ。
 たとえ喋らずとも、各々の技と武器を信じ、エンドブレイカー達は残る力を振り絞り、ジュウゾウへの攻撃を繰り出していった。

「赤流の脈々と継ぐ命の鼓動は猛る猟犬の咆哮のごとく! クリムゾンハウンド!」
 ディーアの命令に従い、赤き猟犬達が次々とジュウゾウへ群がっていく。
 使い捨てられた無数の武器の残骸が、ジュウゾウの周囲には散らばっていた。ディーアがジュウゾウに造った武器への愛を感じない思うのも、もっともだろう。
 苦笑の混じった声がジュウゾウの仮面の向こうから漏れる。
「こうも壊されると流石にこたえますね」
「私は全ての敵を倒し、大魔女を討つ! この程度の数で止められると思わないでもらおう」
 瞳を閉じたライズの振るった刃が、召喚された斧を一閃し、新たな残骸が地に落ちる。
「ここだ……!」
 迎撃に放たれた矢に貫かれながらも、リョウは武器の墓場と化した大地を蹴った。
 その手にした真紅の棍は、マスカレイドの仮面を帯びたジュウゾウの頭部へと振り落ろされる。
 爆発的な闘気がジュウゾウを襲い、その態勢が大きく揺らぐ。
「どんな相手だろうと、ただ斬って捨てるのみだ!」
「我が獄界の刃にて、その命地獄へと消し飛ばす!」
 リュウキとウォリアの大剣が、ジュウゾウの胸を深々と斬り裂いた。そして黒い弾丸のように、ネモの姿が飛び込んで来る。
「わしにはこの脚こそが唯一の武器、そして誇りにして空を翔ける翼じゃ!」
 ネモの鍛練と熟練を宿した蹴りの一撃が、ジュウゾウの斬り裂かれた胸板に突き刺さった。
 たたらを踏むようにしてよろめいた鍛冶師の身体が、その傷口から鉄屑のように錆び付いていく。
「武器を……究極の、武器、を……」
 未練を口にしながら、血に彩られ、倒れ込んだ鍛冶師の身体は、既に黒ずんだ残骸としか呼べぬものと化していた。
「見るに堪えないね、こりゃ」
 メルキオスのローズリチュアルが、その屍を薔薇で覆っていく。
「世は真摯なるものを裏切らない──ならば、我らの『真摯』を以て、次なる一歩の為に道を切り拓き続けよう」
 おそらくはマスカレイドへと堕す以前の、ジュウゾウが伝えたとされる言葉。
 その真摯さを違えた鍛冶師への哀悼の念を籠めて、ナティウスは薔薇に包まれていくジュウゾウへと、手向けとして鉢巻を放り投げた。



マスター:真壁真人 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
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参加者:30人
作成日:2014/07/10
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