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夏迷宮のラーラマーレ・ディマーネ

<オープニング>

●夏空の街ラーラマーレ
 涼やかに透きとおる朝の風も、ふわり夏が息づくように淡やかな熱を帯びる。
 眩い曙光とほんのり夏が息づく涼風が吹き込む気配に小さく身じろぎをすれば、さらさらと肌触りの良いしとねからは香りづけに使ったオレンジフラワーウォーターが仄かに香り立つ。心地好い寝台から離れるたびに感じるのは後ろ髪引かれるのにも似た淡い切なさ。けれど半開きの窓を開け放てば、朝の夏空に映えるラーラマーレの光景が瞳いっぱいに映りこんだ。
「わぁ……!」
 夏の煌きをぎゅっと詰め込んだみたいな青空のもとに広がるのは、夏空の青をそのまま映しとって輝く広大な湖だ。大地に落とされた夏空の滴を思わすこの湖の名はマーレ、明るい紺碧に透きとおる波寄せるマーレの湖畔には、緑鮮やかな街路樹と白く輝く街並みが印象的な街が広がっている。
 夏空の街ラーラマーレ。
 毎朝この光景に出逢うたび、爆ぜるような歓喜が寝台への未練を吹き飛ばしてくれる。
 飛びっきり澄んだ水と華やかなジャスミンにひっそりと蜂蜜香るアーモンドオイルのソープでさっぱり顔を洗ったなら化粧水代わりにオレンジフラワーウォーターをたっぷり使って、ナチュラルな籠編みが可愛いマルシェバッグを肩掛けしたなら、さあ、朝のラーラマーレへ飛び出そう。
 眩い白の街並みは夏の曙光に輝くように照り映えて、滴るような緑を湛えた街路樹達は鮮やかな珊瑚色した柘榴の花と夏の夕陽みたいなオレンジの果実に彩られ、光と影が鮮烈な夏のモザイクを描く街路を駆ければ純白の花咲くガーデニアの植え込みの中からぴょこんと飛び出す小さな影。
 ぱたぱた動くオールみたいな黒の翼にぽってりした真白なおなか、そしてぴこぴこ動く小さな尻尾。黒と白のコントラストが鮮やかなその生き物は――そう、ペンギンだ。
 夏空の街ラーラマーレの住人は、夏の陽のように明るく陽気な人々と、人懐っこくて愛嬌たっぷりのマーレペンギン達。黒くてつぶらな瞳と目が合ったなら、どちらからともなく競争開始!
 言葉を交わすまでもなくともに目指すは白く輝く街並みの至るところに張り巡らされた運河の水面、夏空の青をそのまま映しとって煌く水面が見えたなら、顔馴染みのゴントラ乗りが手を振ってくれた。
「何処まで乗ってく?」
「あのねあのね、朝市の手前まで!」
 迷わずゴンドラに飛び乗ったなら一緒に駆けてきたペンギンも迷わず運河の岸を蹴って、何よりも鮮やかに煌く夏空色の水面へダイブ!
 輝く水飛沫が大きく跳ねて弾けて降りそそぎ、体の芯を目覚めさせてくれるように鮮烈な水飛沫の冷たさに声をあげて笑う。
 ねぇ、おいでよ。夏空の街ラーラマーレにすべてが鮮やかに輝く夏がやってきた。
 夏の輝くような歓びも幸せも、眩いくらいの愛しさも泣きたいほどの切なさも、全部全部ここにある。
 鮮やかに翔け去り、心に永遠を残す――ラーラマーレの夏。

●夏迷宮のラーラマーレ・ディマーネ
 ――ね、しばらく夏空の街に住んでみない?
 旅人の酒場で夏空の狩猟者・アンジュ(cn0037)に輝くような笑顔でそう言われ、気がつけばこの夏空の街ラーラマーレにやって来ていた。夏の風を感じながら朝の散策と洒落込めば、夏の緑滴る街路樹の木陰であの日と同じ笑顔にめぐり逢う。
「あのねあのね、一緒に一杯やってかない?」
 街路樹からもいだ完熟オレンジでマルシェバッグをちょっぴり膨らませたアンジュに誘われたのは、陽射しをきらきら反射する氷のかけらが舞い散る朝の市。
 眺めるだけでも涼しげな氷塊を豪快に砕いてみせるのは氷売り、冷たいきらめきのかけらは硝子杯いっぱいに詰められて、競うようにそれを買い求めたひとびとは街路樹からもいだばかりのオレンジをぎゅうっとひと搾り。きりりと冷えたもぎたてオレンジの滴をくーっと飲み干すのは、住人でも旅人でも誰でも街路樹のオレンジを採っていいというラーラマーレならではの楽しみだ。
 飛びきりの一杯を飲み干したなら弾けるように笑い合い、路が分かれるまで朝市めぐり。
 とんがり帽子みたいな蓋のある土鍋に小さな氷屑をいっぱい貰って行くひとの目当てはマーレから水揚げされたばかりの新鮮な魚介類。瑞々しいオレンジとレモンの薄切りで彩られた魚介を吟味するひとびとの足元では、野良猫とマーレペンギンが小魚のおこぼれを狙って微笑ましくも熱いバトルを繰り広げている。
 街の住人だけでなく観光客でも賑わうこの朝市では雑貨も豊富。
 夏空色の硝子瓶に揺れる薔薇やオレンジの花の蒸留水は思わず手が出る香り、オレンジオイルとオリーブをぎゅっと詰め込んだソープと合わせて買うのが人気で、その隣の店には陶器のモザイクで可愛いマーレペンギンを描いたソープディッシュが置いてあるのが心憎い。
 明るい彩で染められた硝子にエキゾチックな金彩が踊るミントティーグラスなんかもそうだけど、この夏空の街で暮らすならやっぱりこの街ならではの品が欲しくなる。
「ね、何処に滞在するかはもう決めた?」
 悪戯っぽい瞳でそう訊かれれば、
 ――まだ、数泊ずつでお試ししてるところ。
 なんて嘯き笑み返した。

 夏空の街での日々を飛びきりの異国情緒で彩るのなら、古い貴族の邸宅を改修して作られた宿がおすすめだというのが先日彼女から聴いた話。
 壮麗な漆喰彫刻の柱やモザイクタイルに彩られたエントランスに、オレンジの木陰に瀟洒な噴水が設えられた美しいパティオ。そして、ラタンの家具にコットン織りの絨毯、風を通す薄い紗で覆われた天蓋つきの寝台に、時に淡桃色の睡蓮咲く泉までをも備えた客室は、数日過ごす者にも、夏の間中過ごす者にも、まるで何年もここで暮らしているかのような居心地の良さを齎してくれるという。
 もっと日常らしい日常を過ごしたければ、小さなコテージを借りるのもいいし、ゴンドラ乗りや湖での漁の手伝いをして働くのもいい。色鮮やかな幾何学模様の花を咲かせるモザイク職人達も、雑用係兼弟子としてなら住み込みを受け入れてくれるのだとか。
 水神祭都アクエリオの一部たるこの街も交通の要はやはり運河だ。
 観光客の増えるこの季節、臨時のゴンドラ乗りは毎年ひっぱりだこだというし、酒場の手伝いなどの細々とした働き口にも、夏のラーラマーレなら困ることはないらしい。
 十字路でアンジュと別れたなら、さあ、何処へいこう。
 今教えてもらったばかりの、街の高台から夏空色の湖を望めるカフェテラスで朝食にしようか。
 薄切りバゲットにはぷりぷりの海老とアボカド入りのオムレツをひときれ乗せて、トマトとビネガーの冷製スープでさっぱりと。蒸したクスクスとミニトマトや胡瓜を混ぜ合わせ、オレンジを搾ったサラダも朝から食の進む味。デザートのオレンジカスタードプリンも魅力的だけど、何より嬉しいのはそこでもやはり、氷をたっぷり満たしたグラスに自分で搾るオレンジジュースが楽しめるというところ。
 弾む心のまま軽くなっていく足取りで坂道を上りながら、別れ際のアンジュの言葉を思い返して顔を綻ばせた。夏の眩しさに瞳を細めて笑う。
「あのね、この先もしばらく滞在するなら、また逢おうね」
 ――この夏空の街で、きっと、また。

 眩いくらいの愛しさと泣きたいほどの切なさを胸に心に灼きつけて。
 これほど鮮やかに翔け去る季節を、他に知らない。


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参加者
NPC:夏空の狩猟者・アンジュ(cn0037)

<リプレイ>

●ラーラマーレ・フェーリア
 眩い陽射し光る朝の風、夏めく涼風に瑞々しい朝露煌くガーデニアの花ともぎたてオレンジの香りを甘く踊らせ、両腕いっぱいの幸せの奥から取りだす光は飛びきりの幸せ繋ぐ鍵。
 自分のでないコテージの扉開ければ窓辺のレースを揺らす風よりも優しく静かに寝室へ滑り込み、夜明けを纏う娘は今日も出逢えた恋人の寝顔に、ふふ、と笑みを咲き綻ばせた。
 馴染んだ花の香、馴染み始めた果実の香。
 そして何より愛しい気配が、ふうわり彼の意識を浮かびあがらせる。寝乱れた自分が花や肌掛けで神殿の女神の壁画っぽく飾られているのに気づくのはもう少し後のこと。
 朝一番に恋人の笑顔を瞳に映し、ガルデニアは幸せいっぱいの笑みを蕩かした。
 一緒に朝食を調えて、今日の予定を語って笑って。そんな他愛ない日々が眩いくらい新鮮で、夢の続きみたいな一日の始まりに、愛しい笑顔へ手を伸ばして確かめる。
「――あのね、ロゼリア」
 大好き。
「私もよ。クレル」
 ――大好き。
 ほんとうの名前を呼んでくれる声が、これが夢じゃないと教えてくれる、しあわせ。
 明け方手伝った漁は上々、戦果を分けてもらって湖畔のコテージへ戻り、早速朝食の準備開始。
 芳醇なオリーブと獲りたてのエビが彩るサラダ、野菜とひよこ豆と白身魚をトマトで煮込んだスープ、ふわふわキッシュと擬態するゆずひよこさん達を添えたなら、夢の中にいる子を迎えにいこう。
 窓を開け、朝の光と風を部屋中に呼び込んで。
 ミニブタぷーちゃんの鼻でぷにっとすれば、夏空の狩猟者・アンジュ(cn0037)の寝顔がほにゃっと笑み崩れた。開いた瞳がハルネスを映せば、どうしようもないくらい幸せそうな笑みが咲く。
 おかえりなさいとぷーちゃんごと抱きしめられ、湖と朝ごはんの匂いがする、と甘噛みされる感触に息つくように笑って、毎朝かさねる幸せをまたひとつ。
「――おはよう、アンジュ」
「おはよう、ハルネスさん」
 目覚めたての陽の光に重い瞼をうっすら開けば、軽やかな籐の家具に彩られたいつもと違う部屋。外からは柔らかな水音と、コテージの専用桟橋に舫われた彼のゴンドラが揺れる音が聴こえ――。
 ごん、どら……?
「ラヴィスローズ殿、朝食をご一緒に如何だろうか?」
「い、いただくのじゃ……!」
 二階に声をかければベッドから飛び起きたような音。
 櫛が! 鏡が! と続く声に『くえっ!』と小さな雛の声が混じる様に微笑し、リューウェンは朝市のまぁるい薄焼きパンに蜂蜜を添える。思えば朝食の幸せも夏空の街に来て広がった世界のひとつ。瓶詰めツナをサラダに空ければ、
『くえっ!』
 既にテーブル下にスタンバイしていた相棒ペンギンが片翼をぴっとあげた。
 ぱたぱた階段を降りてきた少女の腕の中では今夏生まれた新しい相棒家族がほわほわしていて。
「リュー殿、おはようございます」
「おはよう、ラヴィスローズ殿」
 愛しい夏が、また始まる。
 夏空の青に塗られた窓枠と眩い白漆喰壁の対比が美しい邸宅の宿に、豪快な金属音が鳴り響く。
 壁を彩る絵皿も揺らすお玉と鍋の音に、もう少し優しく起こしてよ大体なんで寝室が別なんだ……と更に深く枕へ顔を埋めたジグを一瞥し、セラはくるりと踵を返した。
「朝食を作ったのですが不要でしたか」
「食うよ! 起きる起きるー!!」
 壮麗なアーチの扉を開けばそこは、目も覚めるような夏空と真っ青な湖を一望できるテラス席。
 朝の風に髪を遊ばせ輝く白の街並み見下ろして、夏空の街歩く彼女の姿を思い浮かべればジグもすっかり上機嫌。空豆とオレンジのライスサラダを取り分けながら話を振れば、
「梔子の花咲く抜け道の先に、硝子工房があったの見た?」
「……何それ、見てない」
 瑞々しい桃を剥いていたセラが弾かれたように顔をあげた。
 銀細工と白硝子の雲のランプ吊るした雑貨屋も、なんて続けられればオレンジの梢揺らして翔ける風より心が逸る。すぐ案内して、と急いた声音で返した拍子に、手許で桃の滴が眩く弾けた。
 さあ、夏の迷宮を巡る旅のはじまり。

●ラーラマーレ・アエリーノ
 眩い夏陽の輝きと濃い街路樹の影が描くモザイクに自分達の影も躍らせて、オレンジの木陰まで駆けたなら、クローディアの足元を追い抜いていったペンギンが夏空色の水面へぽーんとダイブ!
 弾ける水飛沫に弾けた笑顔でひときわ眩い木漏れ日仰げば、飛びきり艶めく太陽の果実。
「好きな人に出すものは、つい『おいしくなあれ』って念じながら搾っちゃうよね!」
「ねー! んじゃアンジュも、『甘い香りになあれ』♪」
 願うような心地で紡ぐ言葉は魔法みたい。暁色が胸元に飾ってくれるガーデニアの花の甘い香りに笑みつつ果実を搾れば、硝子杯いっぱいの氷にオレンジの滴も楽しげに弾けて躍る。
 瑞々しい果実の滴がきゅうっと冷えたなら、何より夏を感じる目覚めの一杯で。
 一緒に、幸せ。
「アンジュさん達も早朝ゴンドラツアーなんてどう?」
「きゃー乗るよ乗ります、クローディアちゃんも行こうよ行こうよ!」
 友の手を引く暁色が飛び乗ってきたなら、くるり軽やかに櫂を繰るエレノアのゴンドラが水の夏空を滑りだす。眩い朝陽を弾く鏡のかけらを振りまいたような光の水面を越えて、
「ほらあそこ、ゴンドラ乗りの間で評判の新しいデリカテッセンだよ!」
「わあい美味しそうな匂いがするー!」
 燻製魚のサンドイッチがイチオシだからね、と悪戯っぽく語るとっておきの観光情報。
 ああやっぱり、こうやって過ごす夏が一番!
 水面に踊る光、水上に踊る風、そして――夏空に踊るオレンジ!
「アルトリアちゃん差し入れもらってー!」
「わ! ありがとうございます!!」
 すれ違う舟からぽーんと飛んできた果実を受けとって、搾りたてのオレンジの味は格別です! と弾む声でアルトリアは己がゴンドラの観光客達に語る。
 運河に架かる橋を潜りぬければその途端、橋から水面へのペンギンダイブ!
 涼やかな水飛沫をあげた鳥が水の夏空をぎゅんぎゅん泳ぎ始めれば、わあっと上がる歓声の中、
「ね、ペンギンは水中を飛ぶ鳥なんです!」
 飛びきりの笑顔で、世界で一番眩い夏へ御案内。
 淡いクリーム色に木漏れ日揺れれば、金刺繍の襟元から入った風が袖からも生地そのものからもすうっと抜けていく。カフタンドレスの心地好さに瞳細めてヴリーズィは伸びひとつ、駆けてくる暁色を捕まえたなら、さあ、朝の市へ泳ぎだそう。
 撓やかなタッセル揺れるクッションの波間渡れば、色鮮やかな煌き溢れるミントティーグラスの園。
「金の模様が一等綺麗に見える、無色がいいかなって思うんだけど……」
「アンジュはリズちゃんの髪の色透かしたみたいなこれが好き!」
 流れるような金彩踊る無色透明なグラスを朝の光に透かせば、ミントグリーン透けるグラスが隣で澄んだ音を鳴らす。同じ模様の色違い。揃いで買ったらきっと、この夏もいっぱい幸せ。
 光と彩の洪水みたいな朝市を駆け抜ければ、水の夏空の煌きがオニクスの瞳に飛び込んできた。
 香ばしいパンに挟まれた具材が軽く躍ったクラブサンド入りバスケットと氷いっぱいの硝子杯抱えた彼女がひらりゴンドラに乗り込んだなら、破顔したヴフマルはゆうるり櫂を操って、今朝の朝食会場へ御案内。
 眩くも柔らかな木漏れ日踊るオレンジの木陰で舟に揺られ、まだ熱いクラブサンドを頬張って氷煌く搾りたてのオレンジの滴で喉を潤せば、すっかり馴染んだラーラマーレの夏が心に身体に染み渡る。
「あ、そうだエルディ、これ渡しとくな」
「ん? 何すか?」
 優しい水面の煌きが心に満ちた頃、オニクスが手渡したのは大地の扉の奥で誕生日を迎えるかもしれない彼への贈り物。眩しげに瞳を細めて包みを受け取り、ヴフマルが相好を崩す。
「きっと一緒にいるときに開けるから、ありがとうって一番に言わせてくださいね」
「――ん、楽しみにしてる」
 今年も来年もその先もまた、この眩しい季節を一緒に過ごしていけるよう。
 ――ラーラマーレと新しい夏に、乾杯。
 明るい色合いの籠から溢れんばかりの桃に無花果、眩いオレンジに、淡い薔薇色と金の影揺らす赤と白のワイン。甘い新婚旅行を美味しく彩るあれこれたっぷり積み込んだなら、ウミの操舵と唄で舟が夏空色の水面へと滑りだす。
 櫂を繰る妻の姿に眦緩め、荷物運びの役割しっかり果たしたニールは異国風の四角いクレープに真っ白なフレッシュチーズと蜂蜜たっぷり包んだ軽食を彼女のために半分こ。
「果物の一部は赤ワインにつけてサングリアにしませんか?」
「サングリア! いいですねぇ……!」
 朝の甘さ分け合って、語り交わすのは昼食に合わせるサングリアや午後の昼寝に宵の散策の話。贅沢ですねぇ、と幸せな吐息をウミが洩らせば、
『くえっ!』
 夏空色の波間から顔を覗かせたペンギンが相槌打ったから、朝ごはんにどうぞと微笑んだニールが小魚を投げてやる。新妻が焼きもちやいたのも一瞬のこと。
 見事なペンギンキャッチが決まれば、夫婦の笑みが水飛沫と一緒に眩く弾けた。
 輝く夏陽のひまわりに涼しげな淡青のブルーレースフラワー、鮮やかな真紅のグロリオサ。
 花の卸しと水上花売りを兼ねるモニカの舟いっぱいの花々は眩い夏空の街でもひときわ瑞々しく、鉄や真鍮を得手とする細工師の職人魂を硝子細工の花へ傾かせる。
「お客さん何処まで?」
「朝市の東側、照明扱う店へ行ってくれ!」
 花売り娘兼水先案内人が振り返れば誇らしげに返るエアハルトの声。
 数年師事したモザイク職人の工房を夏限定で継ぐことになったと聴けば、彼の作品が手の届かない処へ行ってしまう気がしたけれど、彼の創る光で救われるひとがきっと、たくさんいるから。
 だから我儘をひとつだけ。
 花舟の舳先に吊るせる灯りが欲しいと願えば手招きされて、身を寄せれば瞼に愛しい唇が触れる。その途端、モニカの瞼の奥に煌きが弾けた。
「――お前のこころと道程照らす灯りは真っ先に作ってる」
「エアさんは本物の魔法使いだったの……!?」
 彼の手に魔法みたいに現れたランプが葉先や風の影を踊らせる。
 燈す光に咲く花は、今まさにエアハルトの眼前で咲き綻んだ。

●ラーラマーレ・ディマーネ
 朝の涼しさに擽るような夏の熱を含み始めた、夏薫る風が女の心を浮き立たせる。
 艶めく夜闇が甘く溶けだす黎明も美しかったけれど、
「そのご様子だとそれどころではなかったかしら?」
「……何故そんなに元気なんですかヴィオラさん」
 明け方まで一緒に飲んでたと思うんですが……と語尾が萎れていくアンブローズにあでやかな笑み残し、ヴィオラは透ける夜の紗に金の花星舞うサマードレスの裾を翻す。
 嗚呼、眩い朝陽が眼に沁みる。
 瞼を押さえながら彼女を追って向かうは朝の市、けれど焼きたてパンの香りが鼻先掠めれば俄然男にも活力が漲った。
「パンも海老も買うぜ! ヴィーは何食う?」
「あたくしも海老と――この元気な夏野菜達も」
 たちまち籠に山盛りされる眩い赤と黄のパプリカ、緑艶めくズッキーニ。合間にみよんみよんと触角踊らす海老の活きの良さにアンブローズは得意満面、彼がオレンジに瞳を留めれば、酔い醒ましにも効きましてよ、と悪戯に瞳細めたヴィオラが氷煌く硝子杯を手に取った。
 眩い陽の滴を搾り、涼やかな氷の音を響かせて。
 夏の訪れと始まりに、乾杯!
 数日、また数日と夢見を延ばし、鮮やかな夏の朝をまたひとつ。
 明るいエクルベージュの石畳に躍る靴音に街路をてちてち横切るペンギンの足音重なれば、ころり笑みを転がすアデュラリアが夏空の街での日々をさざめかす。
 瑞々しくオレンジの花香る蒸留水に蜂蜜を垂らした香りが癖になりそうなんて紡げば、罪な香りだと笑った男が、これも中々罪深いねと甘い胡麻ペースト固めた菓子を女の手に乗せた。菓子から香る、罪なバニラとベルガモット。
 お返し、と茄子のディップと香ばしいバゲットが絶品のお店を明かせば、
「デートみたいね、ナルセイン様?」
「その『みたい』は自由に着脱可能だぜ?」
 戯れに注ぎ合う言葉も思わず同時に零れた笑みも、眩い夏のきらめきに呑まれてく。
 珍しい早起きにふわぁと零れるあくびがひとつ。
 両手を組み夏空へ伸びをすれば夏の朝独特の風がキヨカズールの眠気を鮮やかに浚ってくれる。釣られてあくびを洩らしたフランに差し出された手を取って、夏空目指して坂道を登ってく。
 飛びきり夏空へ近づいて、カフェのテーブルにつけば、眼下にも涯てなく広がる夏空の青。
「夏空色の湖とは聞いたけれど、本当に澄んだ空の色ね」
 柔らかな彼女の声と眩い青の世界に瞳を細め、
「風景も綺麗だけど、フランも綺麗だよ。……え? まだ言うの早い?」
 なんて続くキヨカズールの言葉にくすくす笑って、あなたのもふもふも素敵よとフランは彼のアフロをふわふわもふもふ。氷たっぷりの硝子杯にオレンジ搾れば、眩い滴がきらきら躍って弾けて跳ねる。
 冷製スープとクスクスのサラダで目が覚めたなら、買い物に行こうかペンギンと遊ぼうか。
 一緒ならきっと、何処でも幸せ。
 透明な煌き満ちた硝子杯にオレンジ搾る彼の手つきはすっかり慣れたもの。
 眩く弾ける滴と甘酸っぱい香りに瞳を輝かせ、そして何より彼と逢えたのが嬉しくて、アレンカレンは小さなコテージで星霊達と慣れない家事に奮闘する日々を弾む声音で語る。
「賑やかそうだね」
「そうなの! けど貴方がいないと寂しいわ」
 だから後でいっぱい遊んでね、と笑みが咲けば、料理修行を兼ねた街中のトラットリアの手伝いで毎日ヘトヘトなフォシーユも、そうだね、と結んだ紐がふわりほどけるような笑みを見せた。
 まだ仕事に慣れていっているところなんて彼は謙遜するけれど、とんがり帽子みたいな蓋つき鍋の話も山盛りのクスクスを蒸した話も魔法みたいにアレンカレンをときめかす。
 そうそう、ペンギンは見た? なんて訊かれれば、
「まだ見てない……って、きゃー!?」
『くえっ!』
 呼んだ? とばかりに足元からペンギンがご挨拶。
 光弾けるような彼女の笑顔に瞳を細め、フォシーユも柔らかに笑んだ。
 夏空も湖も目の前の笑顔も、何もかもが眩いラーラマーレの夏。

 軽やかに水を噴き上げる小さな噴水が涼しげな音と煌きを振りまき、高く大きく吹きぬけた天井が眩い夏空をフェイランのためだけに切り取ってくれるその部屋は、まるで秘密のパティオみたい。
 華やかにエキゾチックに香るソープで髪も身体も洗ってゆったり衣装に着替え、窓を全開にすれば飛びきり心地好い風が翔けぬけていく。
 準備万端とダイブするベッドは天蓋なしの贅沢クイーンサイズ!
「ふやあぁ……しあわせ♪」
 まっさらな光とさらさらケットの肌触りに溺れるよう瞳を閉じて。

 目が覚めたら真新しいオープントゥサンダルを履いて――さあ、ラーラマーレの夏を始めにいこう。



マスター:藍鳶カナン 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:25人
作成日:2014/08/10
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