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甘い誘惑のその先に

竪琴の魔曲使い・ミラ

<甘い誘惑のその先に>

■担当マスター:紫尾小羽


「それでは、物は明日、必ずお届けしますので」
 金糸が織り込まれた帽子を取って挨拶すると、商人は薄暗い街路を歩き出した。
 懐の暖かさももちろんだが、難しい商談に挑んでそれをまとめあげた達成感は格別だ。ついゆるみがちになる頬を引き締めて、商人は帰路を急いだ。
 この辺りはそれほど治安が悪くは無いはずだが、だからといって安心できる街でも無い。早く懐の物を家にしまって、商談成立の祝いに飲みにでも繰り出そう。
 そんなことを考えながら、せかせかと歩いていた商人だったが、そこに声を掛ける者がいた。
「あら、いい男がこんな時間に独りきり?」
 艶のある声に振り向けば、長いまつげに縁取られた目、色白の肌にくっきりと赤い唇。派手な顔立ちの美人が立っていた。
「良かったら、あたしに付き合ってもらえない? どうやら同伴相手に約束をすっぽかされてしまったみたいなの」
 ほらこんなに冷え切っちゃったわと、女は商人の腕にもたれた。コート越しに豊かな膨らみが押しつけられる。
「勤めてるバーにさんざん自慢して、いい男を連れてくるって言っちゃったの。今日はあんたみたいないい男同伴じゃないと、恥ずかしくってお店に出られないわ。ね、お願い。あたしのお店はすぐそこなの。ほんの少しだけでいいから……」
 女の声は甘く掠れ、商人の色心を直撃する。
 どうせ、家に帰ってから飲みに行くつもりだったんだから、その予定を少し早めた処でどうということもあるまい。いつもの女将につぎ込むよりは、こんな美人と一緒に飲んだ方が楽しいに決まっている。商談と同じで、女は落とすまでが一番楽しい。
「ああ、それなら」
「ほんと? 嬉しいわ」
 一層密着してくる女と連れ立って歩き出した商人は、前方からやってくる少女と危うくぶつかりそうになった。
「あっ……」
 少女は立ちすくむが、既に女の色香に囚われている商人は気にも留めずに女に導かれていった。

●その先に
「酒場で殺人事件が起きるようです……」
 竪琴の魔曲使い・ミラは、胸の前でぎゅっと本を抱え、硬い表情で告げた。
「マスカレイドか?」
「いいえ、違います……。酒場のトラブル……のようなものです」
 問いかけたエンドブレイカーに首を振り、ミラは言い辛そうに続けた。
「ある商人さんが……誘われた酒場で、えっとその……楽しい時間……を過ごすのですけれど、いざ会計の時になって法外な料金を要求されてしまうのです……」
 商人が誘われたのは、客寄せ担当の女性が街角で裕福そうな男性に声をかけて店に誘導し、会計の時に屈強な用心棒に力を振るわせて無理矢理金を奪い取る、という手法を使うバーらしい。
 用心棒が出て来た時点で素直に払えば良かったのかも知れないが、支払いをしぶった商人は、用心棒と店員達に殴る蹴るの暴行を受けた末、打ち所が悪く不幸にも命を落とすことになってしまうのだ、とミラは告げた。
 どこの街にもありそうな悪徳バー。そんなものに引っかかった商人の運が悪かったのか、うかうかと乗ってしまった好色さが災いしたのか。
「商人さんにもうかつな処はあったと思います……けれど、こんな理不尽な事で命を落とすのはあまりにお気の毒です。マスカレイドが関わっているのではありませんがどうか力を貸してもらえませんか」
 ミラはそうエンドブレイカー達に頼むと、自分に見えたバーの様子を説明した。
「事件が終わるまでの間、狭いお店の中にいるのは、商人さんとバーの女性、そして男性の店員が2人……です。商人さんが料金を請求されてもめると、裏の控え室から男性の店員がもう2人と大柄な用心棒が1人出て来ます。この3人はナイフで武装しています……」
 相手にしなければならないのは、店員4人と用心棒1人。女性は商人が暴行される様子を怖々と見ているが、荷担も制止もしなかった、とミラは言う。
「どうか商人さんを助けてあげて下さい……」
 だが、事件が起きる前にバーの店員達を懲らしめてしまえば、エンドブレイカー達はいきなりバーで騒ぎを起こした迷惑な余所者、となってしまう。
 そうならない為には、商人がバーとトラブルを起こした処に割り込み、事件を止めることが必要だ。そうすれば商人も甘い誘いの危険が身に染みるに違いない。
 商人にも自業自得な部分はあるが、好みの異性に誘われればつい心が動いてしまうのも人というもの。これ以上犠牲になる人を出さない為にも、バーの店員達を懲らしめておくのも悪くないだろう。
「……まだ『その時』まで時間はあります……どうか気を付けて」
 ミラはそう言って、バーへの道順をエンドブレイカー達に教えた。

●マスターより

 皆様はじめまして。紫尾小羽(しび・こはね)と申します。
 オープニングをお読み頂きありがとうございます。世界への第一歩。仄暗い酒場にふらりと踏み出してみませんか。
 これから皆様と『エンドブレイカー!』の世界を駆け回るのを楽しみにしています。皆様の冒険の一端、是非お手伝いさせて下さいね。

 今回のシナリオはぼったくりバーが舞台です。NPCのミラは同行しません。
 その時を待つ間は、酒場にいても外で待機していても構いませんが、20歳未満の方は飲酒禁止ですので、酒場内でも飲むふりまでに留めて下さいね。
 では。皆様のご参加を心よりお待ちしております。


<参加キャラクターリスト>


<プレイング>

プレイングは1週間だけ公開されます。

● 太刀のスカイランナー・マチルダ(c00245)
カナタちゃんとヴィヴィアンさん、ヴァラフェーユさんと一緒にバーに行くわ。
武器もちゃんと持って行くけど、戦闘帰りで疲れてるって感じにすれば大丈夫かしらね。
レジの近くに4人で座って待機、裏から用心棒達が出て来て、ヴィヴィアンさんが酒瓶を割ったら戦闘開始よ。

前衛として敵と接近して戦うわ。
基本は居合切りを使って攻撃、スカイキャリバーは天井が邪魔にならなさそうなら使うわ。

戦闘が終わったら、お説教ね。
お店の人ももちろんだけど、お色気に簡単にだまされちゃう商人さんももう騙されて欲しくないですもんね。
カワイイ女の子はいっぱいいるけど、見る目がないオトコはシアワセになれないのよ!

● 暗殺シューズの星霊術士・カナタ(c01429)
マチルダさん、ヴィヴィアンさん、ヴァラフェーユさんと一緒に酒場へ。
自然な仲良し4人組を装って事が起きるまで待ちます。
装うというか、素ですごすだけでも十分楽しい気がするけど。

商人さんが暴力を受けた場合はすぐに駆けつけ、怪我の具合を確認するよ。
ヴィヴィアンさんが酒瓶を割る合図で戦闘が始まったら、商人さんを比較的安全そうな部屋の隅に引っ張るなりして連れて行き、「ここでじっとしていてくださいね。」と伝えます。
怪我が酷い場合は星霊スピカで商人さんの回復をします。

戦闘中は絶対に商人さんの側から離れず、後方からソニックウェーブで味方の攻撃に合わせて攻撃するよ。
味方が大ダメージ(あと2、3発でやられそう)を受けた場合や、集中攻撃を受けそうな場合(囲まれてるとか)は星霊スピカで回復を行います。

戦闘が終ったら、味方の回復を。
お説教等は皆がこれでもか!というほどすると思うので、今日はこの辺にしとこうよと言う係を。

● アイスレイピアのスカイランナー・ヴァラフェーユ(c02099)
●事件発覚前
「すいませんおにーさん、何か辛い味のおつまみとかないの?」
店員の男性に質問しつつ、カナタ、マチルダ、ヴィヴィアンとカウンター席へ。
アルコールとおつまみを適当に注文。
商人の方はあえて見ない。
皆と雑談しながら、店員やバーの女の方を時折見て、変に思われたら追加の注文を出すようにするわ。

●事件発覚後
「ちょっと、他人が聞いてもおかしい金額よそれ!こっちも同じ、いいえそれ以上の額払わされるんじゃないの?」
事が起きて、ヴィヴィアンからの合図があったら、アイスレイピアを抜き放ち、自分に最も近いナイフを持っているヤツにアビをバンバン使用して倒して行くわ!

「あれ〜?このお店はお客様にナイフを振り回すのかしら?」
一度狙った相手を、倒れるまで集中して攻撃するわね。

無事に戦闘が終わったら、女も含めて縛って自警団に出したいけど、どうかしら?
黙ってるとまた繰り返すわ。

●その他
一人称:あたし
他の人は呼び捨て

● 鞭のデモニスタ・オセロ(c02104)
女に目が眩んでぼったくられて自業自得だろ阿呆が、という態度をとっている。
が、実は不幸な人を見逃せない。

酒場に入ったらザクロディア(c03330)ランディ(c04722)イデア(c02560)と一緒に商人の近くの席に座る。
この時、ざっと店内の構造(扉、テーブルの位置、広さ)を見ておく。

適当に雑談をしながら、商人と女の様子に意識を向ける。
この後に起きることを知らないで、女とよろしくやっている商人を鼻で笑いながら「めでたい奴だ。」と呟き酒に口をつける。
ちなみに、店員と戦う時に影響が出ないようグラスの半分ほどでやめておく。

ヴィヴィアン(c04921)の合図で立ち上がり、店員・用心棒から距離をとる。
基本は遠距離を保ちつつ、デモンフレイムを敵全員にまんべんなく使用。
もし、自分に敵が近付いてきたら捕縛撃を使用。

店員を片付けたら、さっさと外に出て壁に寄りかかりながら仲間が出てくるのを待つ。
商人のことは面倒なので関与せず、みんなに任せる。

● ナイフの群竜士・イデア(c02560)
・作戦
オレはオセロ達と入店
商人の近くのテーブルに陣取り、つまみとか食えるものメインで注文。育ち盛りデスカラ
ま、酒は飲む振り…だけどよ
商人と店員が揉めて、一発でも商人が殴られたら行動開始
客殴って、ンな額払わせるなんて怖いねぇ。それ平気な顔で見てる女はもっと怖ぇ
・戦闘
ヴィヴィアンの酒瓶叩き割る合図で戦闘開始
一番近い戦闘態勢の店員から。相手の出方を見て「切り裂き」で対応
相手もナイフ使いだし、反撃には注意しねぇとな
その後は「龍撃拳」も交えて攻撃して、不利になったら一旦下がるぜ
皆の動きの邪魔にならねぇように見ながら調整
わざと女の近くで戦ったりして、脅しておくかね
勿論、店員も女も死なねぇ程度に
・戦闘後
そんな、金糸の帽子なんつーあからさまに金持ちな格好してちゃ、カモにされても仕方ねぇぜ
んで、飲み食いした分は、ちゃんと支払わねぇとな
ま、当然迷惑料は差し引かせて貰うぜ
とか言ってみたけど、オレ金持ってねぇや

● 鞭のデモニスタ・ザクロディア(c03330)
やれやれ…お金が欲しいのは理解できますけど、頭のネジの抜けたやり方しか出来ない愚劣さは理解しかねます。
あまり会話もしたくない方々ではありますが、人の生死に関わるそうなので致し方ありません。
少々邪魔をさせて頂きましょうか。

商人が誘惑されて店に入ったのを影から確認してから数分後に何気なく立ち寄った感じでオセロ、ランディ、イデアと共に入店。
素早く商人の位置を確認し、彼の近くの席を確保。
折角ですので強めの酒を注文して4人で会話しつつ時を待ちます。
商人が会計を渋って一発殴られた瞬間に行動開始です。

商人が殴られバランスを崩した時は4人の中で一番近くにいた人が彼を支えます。
私は自分の一番近くにいた相手に捕縛撃を展開し、動きを封じましょう。
彼らの何が起こったのか判らないといった表情が非常に愉快ですよ。

余裕があれば誘惑していた女性を捕まえて説教をしたいところですが、お酒を飲み直した方が有意義でしょうかねぇ…?

● 大剣の魔獣戦士・ピピィ(c03788)
酒場のお客として、潜入しますっ。大剣は警戒されないよう、布にくるんで大きな荷物として持ち運びます。小柄童顔なのを利用して、重い荷物を持て余してよろよろしたりする演技をして、武器とは思われないように工夫しますね。
お酒を注文して、事件が起こるまでは飲みながら待ちます。合図があったら、すぐさま戦闘に。前衛に出て、後衛の人や非戦闘員の方を守るのを最優先で行動します。相手の移動を大剣の長さとリーチを活かして邪魔をしながら、敵に斬りかかりますね。一応、殺してしまっては困るので刃を返して闘いますけど、それ以外は手加減抜きで。

商人さんに対しては同情的に接します。客引きに応じるのは悪い事ではないですし。
ただ、いくら誘惑されたからってボッタクリに引っかかるのは商人としてどうかと。相手の真意を見抜くのも仕事の一つですよね、とは突っ込んでおきます。甘い誘惑に乗るのは問題なくても、慎重さは忘れちゃいけませんよ。

● 槍のスカイランナー・シャーネ(c04719)
まずはバーの外で待機。人と待ち合わせするフリをしつつ店内の様子を観察(普段の覗き修行成果を発揮してバレない程度に)「…やっぱり人間って…面白い」

店内から合図の音がしたらバーの扉を蹴っ飛ばして(出来るだけ大きい音を出す)飛び込みます。「…イジメカッコカッコ悪いです(棒読み」店員達と用心棒の注意を引こう。何者だとか聞かれたら「…ただのしがない運び屋ですことよ」
戦闘になったら疾風突きを主体で戦う(スカイキャリバーは酒場の高さが行動に支障を与えない場合のみ使用、主に決め技)攻撃アビだけ持ってるので積極的に攻める。ただし包囲されないよう立ち位置に注意。
エンディングで見た時女の人は何もしなかったが、介入のせいで何か妙なことをする可能性があるから一応注意する
戦闘が終わったら商人を家まで送ってあげたい。運び屋ですし、それに男の人ってあんなことが起ったらどんな顔で家族の人と会えば良いかに興味深々ですから(にや

● 太刀のスカイランナー・ランディ(c04722)
【心情】
ぼったくりなんて主犯格の奴が一番悪いに決まってるけど悪い事と分かっているだろうにそれに従う奴も気に入らないぜ

何か事情があるのかもしれないがそれで正当化される訳じゃない

ま、そういう意味では俺も力技で解決しようとしてるんだし偉そうな事は言えないか…

【事前準備】
予め目的の店の周りを歩いて裏口や窓など入口以外に出入り出来そうな所や面積を確認

【店内での行動】
商人の近くの席を取る

注文した料理が出来る前に便所に行くとして席を立ち間取りを確認

商人が殴られたら即座に割って入る
「手前ら!黙って聞いてりゃやって良い事と悪い事の区別もつかねえのか!」

【戦闘時】
前衛役

可能な限り用心棒やナイフを持った店員の前に立ち戦う

相手を殺害したり重傷を負わさないように注意

【戦闘後】
どちらに非があるにせよ物を壊したり店員を殴ったりした以上騒ぎが大きくなる前に壊した物や注文した食べ物の代金を置いて速やかに退散

● 扇の群竜士・ヴィヴィアン(c04921)
【準備】
商人が到着する頃合を見て、酒場に待機しておきますわ。
出入り口に近いカウンター席を、メンバー数人で確保いたします。
怪しまれないよう、お酒をいただきますわ。
ボトルも数本頼んであけちゃいましょう。
ついでに、商人の様子も伺いますわ。
【会計】
商人さんがお会計を行い、言い争いが始まったら警戒態勢。
申し訳ございませんが、反省の意もこめて、商人さんには一発殴られていただきます。
暴行が始まった瞬間に、手に持ったボトルを思いっきり叩きつけて、戦闘の合図ですわ!
【戦闘】
戦闘合図と共に商人の元に駆け寄り、多少乱暴でも用心棒から遠ざけるように引きずり倒しますわ。
その後、仲間が商人を移動させるのを確認しつつ、竜撃拳と通常攻撃で用心棒を先にやっつけちゃいましょう。
仲間にも、そう声をかけますわよ。
店員さんも、逃げ出すようならとっ捕まえて、拳骨を一発ずつお見舞いして差し上げますわ。

<リプレイ>

●千客万来の裏酒場
 古ぼけた扉にくすんだ看板。
 客引きでもしなければ客が来ないのも肯けるようなうらぶれたバーだった。
「裏に通用口があったぜ。控え室にでも続いてるんじゃねえのかな」
 一渡り周囲を確認してきた太刀のスカイランナー・ランディ(c04722)が皆に報告した。バーは表と裏に出入り口があり、両隣を別の店に挟まれた細長い店らしい。
 細く灯りがもれている扉に向けて、鞭のデモニスタ・オセロ(c02104)はふんと息を漏らす。
「女に目が眩んでぼったくられ、か」
「……若さ故のあやまち、っていうやつ?」
 これも勉強かもと言いながら、槍のスカイランナー・シャーネ(c04719)は中が覗けそうな隙間に顔を寄せた。シャーネはここで人間観察しながら待機するつもりだ。
 一度に押しかけては店側に警戒される。大剣の魔獣戦士・ピピィ(c03788)は皆より先に、布にくるんだ大剣を重い荷物か何かのように偽装して、よろよろとバーに入っていった。
「なんだ子供1人か?」
 怪訝そうな顔の店員に、また年下に見られてしまったかとピピィはがっくりする。
「これでも20歳なんですけどねー」
 訂正しながら椅子に座ると、ピピィはそこそこ良いワインを注文した。
 ピピィがワインを飲み始めた頃合いに、今度はナイフの群竜士・イデア(c02560)、鞭のデモニスタ・ザクロディア(c03330)、オセロ、ランディの4人が入る。
 ザクロディアは素速く店内に目を走らせた。カウンター5席と、ボックス席3つ。商人の隣のボックスを選んで座り、強めの酒を注文する。
 ランディは注文の品が来る前に小用と称して席を立ち、店の造りをチェックしておいた。一番奥に関係者以外立ち入り禁止の扉がある。ここが用心棒のいる部屋だろう。
「なんかうまいつまみも出してー」
 時を待つ間にしっかり腹ごしらえもしてしまおうとばかりに、イデアは料理をどんどん頼んで腹におさめていった。酒は飲む振りしかできないが、食い気なら人一倍だ。
 談笑し始めた4人を、商人は幾分迷惑そうな顔つきで眺めた。せっかく甘い言葉をささやきささやかれしていたのに、こんな一行が近くにいてはムードも台無しだ。
 けれどその膝にバーの女性がそっと手を置き揺らせば、商人はたちまちやに下がり、2人だけの世界へと入って行ってしまう。
「めでたい奴だ」
 どんな運命が待っているのかも知らず、女性と戯れている商人を鼻で笑い、オセロはグラスに口をつけた。未来を知れば、平和な顔をして女性に酒など注がれているまいに。
 そこにまた扉が開いて、アイスレイピアのスカイランナー・ヴァラフェーユ(c02099)が顔を出した。バーの中を一瞥して、ほら、と背後を振り返る。
「こういう汚いような店こそ穴場だって言ったでしょ? 人が入ってる店なら間違いなしよ。さ、入って入って。お姉さんが酒場でのふるまいってものを教えてあげるわよ」
 ヴァラフェーユに促され、暗殺シューズの星霊術士・カナタ(c01429)と太刀のスカイランナー・マチルダ(c00245)がバーに足を踏み入れ、最後に入ってきた扇の群竜士・ヴィヴィアン(c04921)は、真っ先にカウンターに並ぶ酒瓶のラベルをチェックする。
「なかなかの品揃えですわね」
 商人の会計がどの位置で行われるか不明だった為、席でする場合を考えた位置にザクロディアたち、カウンターでする場合を考えた位置にヴァラフェーユたちが着く、と決めてあった。4人は先に入っていた者たちとは目も見交わさず、カウンターに座った。
「今日はえらく客が多いな」
 店員の1人が眉をしかめると、もう1人がにやりと笑う。
「誘わずとも入ってきてくれりゃ、マリーに払う分が節約できるってもんよ」
「だが多すぎやしないか」
 そんなささやきが耳に入ってきたけれど、知らん顔してヴァラフェーユは声を掛ける。
「すいませんおにーさん、何か辛い味のおつまみとかないの?」
「わたくしはそこのボトルをいただけます? いえ、その隣のお酒と2本飛んだその隣……ええ、それですわ」
 三度の飯より酒が好き、のヴィヴィアンは偽装を盾にがんがんと酒を頼んでゆく。
「マスター、リンゴジュースとフライドチキンお願〜い! もう、疲れてくたくた。何か食べないとやってられないわ」
「それれじゃ、ボ……私もリンゴジュースをお願いしようかな」
 マチルダとカナタもそれぞれ注文を済ませ、話に花を咲かせ始めた。
「それにしてもマチルダさん、どうしたらそんなに可愛くなれるの〜?」
 自分と同い年でかつ男の娘なのに、と思いつつカナタが尋ねる。
「まあ、嬉しいこと言ってくれるのね。でもカナタちゃんだってとっても可愛いわよ〜!」
 マチルダはカナタをぎゅっと抱きしめた。
 どこからどう見ても、仲の良い顔ぶれが揃ってバーに繰り出した、という様子にしか見えない。常に無い客入りに警戒を見せていた店員も、その様子、そして注文に追われて警戒を忘れたようだ。
 談笑する声とグラスの音、食器が皿に当たって立てる音。
 酒場では良くあるざわめきに包まれて、時は流れてゆく。来るべき『その時』に向かって。

 均衡を崩したのは商人の声だった。
「そろそろ帰るよ。また寄らせてもらうから」
「本当かしら?」
 くすくす笑うマリーの声にはわずかに毒が混じる。ぼったくられても寄ると言えるのかしらと、思ってでもいるのだろう。
 店員が伝票を見せた。途端、商人は仰天して立ち上がった。
「何だこの料金は! こんなの払えるはずないだろう」
「お客さん、困りますねぇ……」
 予想していた展開に、店員はパンパンと手を鳴らす。と裏の扉から体格の良い用心棒と店員が2人やってきた。
 払え、いや払わない。そんな不穏なやり取りが始まる。
「すみませんねぇ。たまにいるんですよ、料金を払う段になって難癖を付けるお客が」
 他の客を警戒させまいと、店員がいかにも困った様子で言い訳を口にする。
 そして遂に。
「帰る!」
「踏み倒ししようってのかい、いい度胸だ」
 店を後にしようとした商人の首筋を用心棒がひっつかむ。引き寄せざまに拳が突き出され、衝撃で商人の身体はボックス席へと吹っ飛ばされた。

●そのエンディングを打ち砕け
「手前ら! やって良い事と悪い事の区別もつかねえのか!」
 テーブルに頭を打ち付ける前に商人を受け止め、ランディが怒鳴った。
「うるせぇ!」
 2撃目をと振りかぶった用心棒の腕は、ザクロディアの鞭に妨げられて不発に終わる。
「そこまでにしておきなさい。貴方も痛い目に遭いたくないでしょう?」
 警告でやめてくれれば無益な戦いなどせずに済む。けれど相手は懐から出したナイフを構えた。
「まったく……限度を知らない愚者には吐き気がしますね」
 うんざりしたようにザクロディアは溜息をついた。
「ということは……開始ですわね!」
 ヴィヴィアンが叩き付けた酒瓶が割れる音が響く。戦闘開始の合図だ。
 戸口の外で様子を窺っていたシャーネがバーの扉を蹴り飛ばし、騒々しい音と共に入ってくる。
「……イジメカッコ悪いです」
 妙に棒読みの口調に店員は呆気にとられた。
「何だお前は」
「……ただのしがない運び屋ですことよ」
 そんなやり取りの隙に、ヴィヴィアンがランディの手から受け取った商人を店の奥へと放り出し、それをカナタが受け止めて戦闘の場から遠ざける。
 用心棒が反射的に追おうとするのを、ピピィが通路に立ち、その進路を塞ぐ。牽制をこめて大剣を薙いだピピィから用心棒は1歩飛び退いた。
「その用心棒を先にやっつけちゃいましょう。わたくしに楽しくないお酒を飲ませるなんて、絶対に許しませんわ」
 ヴィヴィアンはくいっと酒をあおると、呼吸を整え、用心棒へとまっすぐに拳を繰り出した。
 これなら自分は武器を使わずとも決着はつけられるかと、ランディは敢えて素手で用心棒に殴りかかった。武器持ちの相手と比すれば戦力差は歴然だが、仲間と共にならばこれでもいけるだろう。
 さすがの用心棒も3人がかりでは分が悪すぎる。たちまち倒されて床に転がされることとなった。

「あれ〜? このお店はお客様にナイフを振り回すのかしら?」
「随分乱暴な商売をするバーもあったものね」
 ヴァラフェーユとマチルダは、ナイフを持つ店員を左右から挟み撃ち。ヴァラフェーユの氷の刃は店員の腕を凍り付かせ、横一文字に払われたマチルダの太刀はかえされて、今度は斜めに店員を斬り下ろす。
 店員も不自由になった腕を無理に振るって応戦し、マチルダに傷を負わせることには成功したが、そこまで。ヴァラフェーユの氷に閉じこめられることとなった。
「竜の型!」
 シャーネの槍は自在に操られ、素手の店員の急所を串刺しにして戦闘不能に追い込んだ。次の相手に向かうまでの間に、シャーネの目は席に座ったままでいるマリーを観察した。介入によってその行動がどう変化するのかと危ぶんだのだけれど、マリーはやはり息をひそめて戦闘を眺めているだけだった。
「あーあ、ガキ相手に本気って恥ずかしー」
 ナイフ持ちの店員を相手にしていたイデアはわざと下がり、マリーの近くへと戦いの場を変えた。
 相手のナイフがイデアの脇から腹へ傷を負わせ、しぶいた血にマリーは思わず身体を引く。そのマリーのすぐ傍らをすり抜けるようにオセロの放った黒炎が店員へと命中する。
「……っ!」
 さすがに顔色を変えたマリーにオセロは口元を歪める。わざとではないが、少しは怖がらせて灸を据えておいた方が良いだろう。
「おや、失礼。大事な大事な商売道具が使えなくなるところだったな」
 嫌味な口調のオセロにマリーは蒼白な顔で、だが気丈ににらみ返してきた。悪事の片棒を担いでいるだけあって、度胸は据わっているらしい。
 そのマリーの前にイデアはぬっと手を突き出し、テーブルに残っていた料理をつまむ。
「あ、これうめぇ♪ やっぱ、カモには美味いもん食わせるんだなー」
 もう1口、と急いで口の中に料理を押し込むと、イデアは拳で店員にとどめの一撃。倒れた店員をマリーの方へと押しやって、すぐさま次の相手へと走った。

「これは……」
 にわかに起きたバーでの戦闘に、商人は殴られた頬を押さえながら呟いた。カナタの星霊スピカによって、受けた傷は回復したものの、そのショックと続くこの騒ぎに呆然としているようだ。
「とんでもないバーに来てしまったようですね。でも大丈夫。皆も……ボクも頑張りますから安全ですよ」
 動かないで下さいねと商人に念を押し、カナタは後方からの支援を行う。かかとを鳴らしてナイフを飛ばし、傷が深そうな仲間には星霊スピカを飛ばして回復する。
 回復の手段もなく武装しているのは3人のみ、という店員たちでは、エンドブレイカー10人に対抗することなど不可能だ。
「これしきの腕で力ずくしようなんて、ムリありすぎるんじゃねーの?」
 はん、と馬鹿にしきった口調でイデアが叩き込んだ拳が、最後の1人を殴り倒した。

●新しい未来
「俺は先に出ているからな」
 店員を片づけ終えると、オセロは後は仲間に託して外で皆を待つことにした。ぼったくられた商人に関わるのは面倒だ。
「店の関係者みんなまとめて縛って、自警団に出したいんだけどどうかしら?」
 黙っているとまた繰り返しそうだから、とヴァラフェーユは提案したが、彼らエンドブレイカーの訴えと、地元の店の店員の申し開き、どちらを自警団が信用してくれるものか分からない。
 商人が訴えてくれればあるいは……とも思ったが、商人はこれ以上関わるのはごめんだとばかりに、強く首を振る。
「まあ無理もないわよね。お色気にだまされてぼったくられそうになりました、だなんて堂々と言えやしないし。ねぇ、商人さん。カワイイ女の子はいっぱいいるけど、見る目がないオトコはシアワセになれないのよ」
 マチルダは商人の鼻先に人差し指をつきつけ、にっこりと笑った。
「そうよねぇ。いくら誘惑されたからってぼったくりに引っかかるのは、商人としてもどうかと思うわ。相手の真意を見抜くのも仕事の1つよね」
 ピピィにも指摘され、商人は恥じ入ってうつむいた。
「面目ない……。助けてくれてありがとう。あのままだったら、幾らふんだくられたことやら」
 そう言う商人は、自分の生命が土壇場で救われたことは知らない。彼が暴行で生命を落とす未来は打ち砕かれ、無い物となっている。
「そんな金糸の帽子なんつーあからさまに金持ちな恰好してちゃ、カモにされても仕方ねぇぜ」
 イデアは金があるらしき場所に見当を付けて、ぽん、と商人の懐を叩いた。耳元に口を寄せ、そっとささやく。
「仕事上手く行ったんだろ? 美味い飯、奢って♪」
「な……」
 何故それを知っているのかと絶句した商人に、内緒話に気づかなかったシャーネが家まで送っていこうかと申し出た。
「いや、そこまでしてもらっては申し訳ない」
「ああ気にしないで。わたしは運び屋だし、それに……どんな顔をして家族と会うのか見てみたいから」
 また絶句した商人を連れて、シャーネは店を出て行った。
「十分反省しましたか?」
 カナタは店員たちに確認してから、傷を回復させた。余程こりたのだろう。怪我が回復しても店員たちはもう戦意を失っており、力無くその場に座り込んでいる。
「もうこんなことはやめて下さいね。お金も大事だけど……もっと大事なものがきっとあると思います」
 そう言ってカナタは微笑んだ。
 痛い目にあった店員たちは身体で感じただろうが、1人、マリーだけは無傷だ。ザクロディアとピピィがとっくりと説教すると、マリーは殊勝な態度でごめんなさいと詫びた。
「あたしだって好きでこんなこと、してたんじゃないのよ。でも、怖いヒトたちに脅されたら、か弱いあたしに抵抗なんてできないわ」
 上目遣いの甘えにピピィは思わず、飲み直さないかとマリーを誘った。
「……怖ぇ」
 用心棒が客を殴って金を奪うのを平然と見ていたというミラからの話、そしてこんな時でもしたたかなマリーに、イデアはそう呟いて肩をすくめ。
「オレたちが飲み食いした分はちゃんと支払わねえとな。当然迷惑料は差し引かせて貰うぜ。……あ、でもオレ、金持ってねえや」
 イデアが空手を広げて見せると、
「注文したものの代金はこれくらい、だよな?」
 どちらに非があるにせよ、バーで大暴れした以上、騒ぎが大きくなる前に退散するのが吉、とランディが代金をカウンターに置いた。出て行く前にちょっと思い直して酒瓶を持ち上げたが、
「わたくしのお酒に手を出さないでくださる?」
 ヴィヴィアンにたしなめられ諦めて店を出て行った。

 商人本人も知らぬ間に、理不尽な運命はブレイクされた。
 その事実を自らの胸に納め、エンドブレイカーたちは静まりかえったバーを出、夜の闇へと消えてゆくのだった。
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2010/02/16
  • 得票数:
  • カッコいい10 
冒険結果:成功!
  • 生死不明:
  • なし