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愛という名の罪

<オープニング>

 魔獣の大脚が詰所の門を蹴り砕く。突然の襲撃に飛び出した城塞騎士たちを迎えたのは異形の踊り子だった。
「その節は世話になったわね」
「その姿……シャル……ッ」
 斬撃がひらりと舞い、驚愕の声も半ばに先頭の騎士は崩れ落ちる。返り血に染まる舞台衣装、肌も露な衣装からすらりと伸びる下半身は勇者シャルムーンの異形を彷彿とさせる魔獣のそれだった。
「もう前のようにはいかない……私は力を得た。あの方と同じ力を……!」
 恍惚とした表情で踊り子が手を上げれば、なだれ込む仲間たちが殺戮を開始する。
 血に染まる詰所をゆっくりと進み、彼女は一人の男を捉えた。かつて自分の愛に辛酸を舐めさせた者。愛を侮辱したもの。
「まだ亡霊に捕われ続けるのか、お前は!」
「よく覚えているわ。あの時も同じように、あなたはあの方を辱めた」
 決死で振るう城塞騎士の剣が、魔力のカーテンに弾き飛ばされる。切り裂き、蹴り潰し、踏みにじる。転がる剣の音が消える間もなく、騎士の身体が肉塊と化していく。
「その侮辱だけは、決して許さない」

 砂月楼閣シャルムーンで、勇者シャルムーンの狂信者が事件を起こそうとしている。
 集まったエンドブレイカーたちにソードハープの魔曲使い・ヴィーナ(cn0017)は沈んだ表情で話を始めた。
「狂信者たちの事件は今まで何度も起きているけどねぇ……今度はちょっと違うの。その狂信者の子たちが、マスカレイドになっているわ」
 シャルムーンに新たな動きがあったのかもしれない。ともあれ、マスカレイドになってしまった以上、狂信者たちを止めるには倒すしかないだろう。
「主犯の踊り子の子は以前にもシャルムーンへの行き過ぎた愛情で事件を起こして、城塞騎士団に捕まっているわ。罪自体は軽くてすぐ釈放されたようだけど……マスカレイドになった彼女は、城塞騎士たちに復讐しようとしているみたい」
 彼女は他にも似たような経歴の信奉者を従えている。早く止めなければ、詰所はヴィーナが見たというエンディングのように壊滅してしまうだろう。
「踊り子の武器はムーンブレイド。それに勇者シャルムーンとよく似た魔獣の脚の異形……本人は無邪気に喜んでいるようだけど、どちらも強力で攻防とも隙が無いわ」
 また配下マスカレイドもムーンブレイド使いで、異形の部位こそないが粘り強い戦いを見せてくる。こちらもすばやく撃破する算段を考えておかないと、踊り子までたどり着けなくなりかねない。
「まぁ幸いというか、場所は城塞騎士団の詰所よ。事前に踏み込む余裕はないけど、避難はそう苦労せず済むはずだわ」
 手が足りなければ自分も手伝いにまわる、皆はマスカレイドたちの撃破を優先してくれとヴィーナは皆を見回した。

「本当、愛というのも厄介なものよねぇ。それを利用してる人がいると、なおさら……」
 説明を終え、ふぅとヴィーナはため息をつく。
「今回の事件。さっきも話したけど、シャルムーンのマスカレイドに新しい動きがあったのかもしれないわ。新しい指導者や目的が出てきたのかも」
 狂信者たちがシャルムーンへの想いから動いているのは変わらないようだが、少し注意が必要かもしれない。
 厄介なことになる前に、願わくば手がかりを見つけたいものだと、彼女はゆっくり腰を上げた。


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参加者
星霊と共に舞う星霊建築家・トーヤ(c03439)
熊殺しの・リゼルグ(c03551)
火喰・ウィル(c04091)
薔薇の牆・アナム(c06804)
虚空のナイフィスト・ユラ(c10324)
無垢なる漣・ナナミ(c34823)
不死鳥の天剣騎士・レオンハルト(c35756)

NPC:ソードハープの魔曲使い・ヴィーナ(cn0017)

<リプレイ>

●狂信の襲撃
 争乱の詰所に薔薇の牆・アナム(c06804)は狂信者を押しのけて飛び込んだ。手近な騎士の元へ駆け、迫る刃を騎士槍ではじく。
「あんたらは!?」
「エンドブレイカーのものです。奴らはマスカレイドだ、ここは僕たちが引き受けますので避難を」
 熟練の戦士らしい、落ち着いた声でアナムは避難を促す。既にエンドブレイカーの名声はシャルムーンデイの一件で砂月楼閣にも広まっている。
 その単語と、狂信者たちと互角に戦う熊殺しの・リゼルグ(c03551)や火喰・ウィル(c04091)の姿は、言葉以上の説得力をもって城塞騎士たちを決断させた。
「守るべき我々が守られるとは、口惜しいことだが……頼む」
「分担のようなものだ、気にするな。ヴィーナ、頼む」
 ちらと振り返るリゼルグにソードハープの魔曲使い・ヴィーナ(cn0017)は頷き、確保した裏口へと騎士たちを誘導する。
 手伝いに駆け付けたフォルティやミューティアも彼女に敵が向かわぬよう気を引いてくれているし、心配なのは戦意に溢れすぎた若い騎士くらいか。
「熱意のある奴は嫌いじゃないんだが……」
 そう、不死鳥の天剣騎士・レオンハルト(c35756)のように……狂信者たちに立ちはだかる若い天誓騎士を見やり、彼は思う。
 熱意のあることは成長していけるということだ。このようなところで命を落とさぬよう、守り、ともに戦ってやれればと。
「我は盾、我は剣、我は炎! 我は貴様らを滅するために目覚めし獅子!」
 レオンハルトは名乗りを上げ、狂信者たちを威嚇し自らを鼓舞する。
「シャルムーン様に仇なした罪敵め!」
「貴様等の行いそのものが勇者シャルムーンを辱める愚行だ! 痴れ者共が!」
 まさに獅子が乗り移ったかのような気迫。負けじと切り込む狂信者だが、振るわれるムーンブレイドを紅炎揺らめく剣で跳ね除けたレオンハルトの咆哮は、完全に戦闘態勢に切り替わっていた。
「一歩もひかず、か。狂信者がマスカレイドになるのは必然だったようだな」
 彼らの戦いぶりに星霊と共に舞う星霊建築家・トーヤ(c03439)はぽつりと漏らす。
 扇より放つ熱気を向けようと、隣に立つ虚空のナイフィスト・ユラ(c10324)の棘に囲まれようと、信者たちは一切の恐怖を見せない。
 これも棘(ソーン)の力によるものなのか、それとも狂信という愛のなせるものなのか。
「もう私達に出来る事は、これ以上被害を増やさない事だけ、だね」
 紋章を描く無垢なる漣・ナナミ(c34823)の声はどこか物悲しい。声に覚悟を決め、ユラは具現化させた棘(ソーン)の檻をぐいと引き絞る。
「亡者にとらわれた貴方たちに引導を渡します。ご覚悟を……!」

●愛と拳
「シャルムーンはもはや誰も救ってはくれないよ。信仰するだけ無駄な物だよー」
「お前たちがそうさせた! お前たちに何がわかる!?」
 ナナミの挑発に狂信者たちは予想通りの反応を返す。それは元々のものか、マスカレイドの力が歪めていったものなのか。戦い易くはあるが、その情熱は複雑な気分にさせてくる。
「そうだ。戦うべき敵は僕たちだよ」
 迫る曲刀を流し、かかってこいと煽るアナム。それに守られながら、ナナミの描いた紋章が魔力を発動する。
「忌まわしき力だけど、今だけはその力を私に貸してね」
 放たれるのは忌まわしきランスブルグの狂王の力。殺戮を誘う呪力の衝撃が信者たちへと襲い掛かり、幻影をともなってなぎ倒す。
「こ、この程度ぉーッ!」
 それでも狂信者たちは前進を止めない。月の魔力を宿した曲刀が妖しく輝き、ある者は月光の盾で受け流す。そしてそれを更に後押しする月の輝き。
「そうよ、それでいい。この力ある限り、決して負けはしない!」
「しかし、あまり余所見をされるのは好きじゃあないな」
「それはそれは光栄だわ。背教者!」
 切り結びながらも支援に余念のないマスカレイド、魔獣の半身を手に入れた踊り子にウィルはぼやきながら、逆手にぬいたカマキリの大鎌を一閃した。
 棘の連なる刃は周囲の狂信者を巻き込み、癒しを拒む呪詛を打ち込む。ムーンブレイドの魔力ならば回復できる程度のものだが、それでも一手を潰されるのは痛いことだろう。
「させないッ!」
 勇者シャルムーンを彷彿とさせる魔獣の連脚が飛ぶ。鎌を砕き、防御を潰す恐るべき膂力。狂信者との乱戦をかいくぐったリゼルグは、蹴り飛ばされるウィルを庇うように突っ込んだ。
「次の生贄は、あなた?」
「……もう、何を言っても無駄か」
 駆け付けざまに振るった骨斧の弧が魔力のカーテンにはじかれる。仮面の下で満足げに笑う踊り子に、リゼルグはかつて懲らしめた狂信者と同じ……だが、より強く引き返せぬ狂気を見た。
「マスカレイドには、容赦をするつもりはない」
 断じたトーヤの扇が熱波を放ち、カーテンを焼き消していく。消えかけのそれを突き破るように突進した踊り子とリゼルグ、拳と脚が交錯して激突した。

●決する時
 駆け付けざまにソードハープの弦をはじき、ヴィーナは雄大な魔曲を演奏する。
「こっちはもう大丈夫よ。後は……」
「あぁ。連携して蹴散らすぞ。リオ、みんなに癒しを!」
 頷き、トーヤは相棒たる星霊の名を呼ぶ。重ねての癒しが戦線を一気に立て直す。
「信者に自分の真似させる事しかできない時点でいろいろダメなんだよね!」
「貴様、調子にのって!」
 挑発的に歌うフォルティの声が狂信者たちをひきつけ、集中させる。合図とともに身を引く彼に代わり、炎の剣を構えるのはレオンハルト。
「貴様等を排除する。一片残さず!」
 振り下ろされた剣が光の剣の雨を生む。
 磨き抜いて得た技は狂信者たちには過ぎたものかもしれないが、挑むべき目標であったアリッサム、その友たる勇者シャルムーンの悪しき残滓を払うことになるのならば、奇妙な縁かもしれないと若獅子は思う。
「レオンハルト、来るぞ!」
 ウィルの警鐘が思考を引き戻す。飛び込んでくる魔獣の脚に彼は咄嗟、身を固めた。激しい衝撃。踊り子は赤獅子の甲冑を蹴り、再び空中へ飛ぶ。
「まだよ。まだ負けたわけじゃない」
「その想いの強さ、嫌いじゃないな」
 その動きはまるで宙を舞うようだ。再び強襲する蹴りに立ち直ったウィルは鉄塊の如き槌を構える。
「バカにしているのか!」
「いいや、本音だ。いい女は好きであるし、よくない女もそうだ」
 戸惑いという人間の顔を見せた踊り子に、ウィルは淡々と言ってのける。彼にとって戦は命を懸けた博打で娯楽だ。
 思想だの意義など抜きにみれば、度の過ぎた執着も、歪んだ方向性すら考慮して尚、その想いを好ましいと思えてしまう。
『要するに、余所様にケチを付けられる程、出来た人間ではないのだ、己は』
 彼は自身をそう分析している。藪をつつかぬよう、黙って働いた方がいい性分と。
「訳の分からぬことを!」
 迷いを払うように放たれる再度の連脚。しかしそれは思わぬ方向から阻まれる。
「聖なるオーロラよ!」
 遮断する光幕は踊り子の操る月光の魔剣と同質のもの。月影の妖刀を操るユラは、包み込むように月光のカーテンを展開させていく。
「お仲間は全て倒しました。ゆっくりとおやすみなさい、あなたも」
「皮肉なことを、してくれるわね……」
 安らかな誘惑にぎり、と踊り子は歯をかみしめる。血が一筋、マスカレイドの仮面下から零れ落ちる。
「恐るべきは人の執念か……」
「それにしても、シャルムーンに心奪われて」
 光幕を裂き、熱波をかいくぐる。限界を凌駕する魂にトーヤが思わずと声を漏らす。この想いを悪しきに利用されなければどんなによかったか。弾かれたユラは踊り子の跳躍を悲しく目で追う。
「終わりにしよう」
 守りの水晶群が必殺の蹴りを受け止める。瞬間、アナムは鋭く仮面へと騎士槍を突き込んだ。
 仮面が割れ、穂先の残像が消え、後には力尽きた踊り子だけが残った。

●その罪への救いは
 動かなくなった狂信者たちを確認して回り、リゼルグは安堵ともつかぬ溜息をついた。
「どうしたの?」
「いや……この間のことを思い出してな」
 首を振り、見開いた瞳をそっと閉じてやる。詰所の片づけを手伝うナナミの声に、彼は二人が以前に戦った狂信者のことをぽつりと呟く。
「あぁ。この中には、いなかったみたいだね」
「だが、このようなことが続くなら……」
 人の善性を信じないわけではない。しかし棘(ソーン)の誘惑は時にそれさえも嘲笑うように、マスカレイドという怪物へと人々を変えてしまう。
 長い旅の中で何度もそれを見てきたから、エンドブレイカーたちには安堵と共に不安がよぎる。
「狂信者もある意味、被害者なんだよね」
「そして俺たちにできることはただ、触る者を傷付ける事しか出来ない茨の茂みを刈り取ることだけだ」
 マスカレイドしかして救えないという現実はひどくもどかしい。うつむくナナミに、リゼルグは自分に言い聞かせるように呟いた。
 アナムもまた思う。マスカレイドになってしまえば倒すしかない、ならば早期にその根源を取り除く必要があると。
「つまり、マスカレイドの出現には裏で何らかの動きがあると?」
「ええ。突き止めるのは難しいかもしれませんが、なにかしら違和感を感じることがあれば教えてください。逮捕した狂信者たちへの注意は厳重に。それと……遺体はできれば埋葬を」
 城塞騎士はアナムの言葉に注意しようと頷く。あいまいなところだが、事件を起こしそうな黒幕に彼は心当たりがあった。
「ガロウマルの件で復活したマスカレイド……シャルムーンに縁のある者か、流れ着いたか」
「たしか、第三者の示唆を得たようなことをいっていたな」
 拳を交えた感覚を思い出し、ウィルとレオンハルトが推理に頷く。恐らくそこは間違いではないだろう。問題はどう証拠をつかみ、追い詰めていくか。

「皆さん、ご助力感謝いたします。ありがとうございました」
 兜を脱いだレオンハルトは育ちを感じさせる上品さで城塞騎士に頭を下げる。そしてお疲れ様と微笑みかけるヴィーナに、今度は少し恐る恐る、問いかける。
「その……ボクの戦いぶりは如何でしたか?」
「……ずるい言い方するわよぉ?」
 つまり、それは自分が一番よく知っているのではないかという答え。
「ずるい言い方、ですね」
「わたしは語り部だもの」
 少なくとも口ではまだまだ叶わない、というところだろうか。今日の戦いを振り返りながら、若き獅子は思う。まだまだ、精進だ。



マスター:のずみりん 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:7人
作成日:2014/07/27
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  • カッコいい6 
冒険結果:成功!
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