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アクエリオ迎撃戦:スペクトラム・ブルー

<オープニング>

●ディープ・ブルー
 昏い深海の奥底で巨大な魚が蠢いた。
 恐らく原始の頃から変わらぬ姿をしているだろう厳めしい姿の巨大魚は、ニニギアメツチの配下たる海の魔物。数多のひれを大きく揺らした巨大魚は、時が至ると同時に遥か彼方へ向け一気に深海を加速した。
 ――破壊セヨ、殺戮セヨ……!!
 海流のうねりを生みながら深海を突き進む巨大魚、唯ニニギアメツチに従うだけの自我した持たぬこの魚を狂える悪意と妄執を核にした何者かの残留思念が乗っ取ったのと、巨大な魚の躯に異変が生じたのはどちらが先だったろう。
 前肢じみた胸びれが大きく羽ばたく黒鳥の翼へと変わる。
 全身を覆う鱗が、重厚な鎧を纏うかのごとく硬質化していく。
 見る者が見れば魔王ゼルデギロスの部位所有者であった黒鳥コゼットを彷彿とさせただろう大きな翼が羽ばたけば、巨大な海水のうねりが凄まじい奔流となって深海を揺るがせた。
 極限まで硬質化した全身の鱗は黒玻璃――否、漆黒のダイヤモンドのごとく深く冷たく煌めいて、その奥に膨大な魔力を凝縮した禍々しい光を覗かせる。
 いまや巨大魚のすべてを支配するに至った残留思念は、殉教したウルカンダール教団の狂信者。
 狂える悪意と妄執を核にしたそれは、更に歪み狂った夢を見る。

 ――破壊セヨ、殺戮セヨ。
 都市ヲ破壊シ、愚民ドモヲ殺シ尽クシテ、水神アクエリオヲモ滅ボシテシマエ。
 サスレバ我コソガ、新タナル神トシテ蘇ルノダ――!!

●さきぶれ
 霊峰天舞での戦いから姿を消した教主槍ウルカンダールが、水神祭都に潜伏している――。
 昨今のアクエリオで頻発していたウルカンダールに酷似した水のイマージュマスカレイド事件から、この推論に至った者は一人や二人ではあるまい。
 彼らの推論は正しく、そして、その事件のエンディングで散見されていた怪しげな儀式めいた行動も決して無意味なものではなかった。
「その教主槍ウルカンダールの目論見ってのがね、この水神祭都アクエリオにニニギアメツチを呼び寄せてアクエリオを滅ぼすことだったんだよなんてことなの……!!」
 夏空の街から旅人の酒場へすっ飛んできた夏空の狩猟者・アンジュ(cn0037)が切迫した声でそう告げる。教主槍ウルカンダールは、水神祭都を破壊すれば魔王ゼルデギロスの復活が叶うと頑なに信じているらしい。
 既に外海から水神祭都へ向け、ニニギアメツチの配下たる海の魔物達が向かってきている。
 強大無比なるニニギアメツチの配下となれば、無論もとよりそれぞれが強力な魔物。それらが更に魔王ゼルデギロスの力を受けて力を増しているというから、その力量は推して知るべし。
 水神祭都アクエリオの深海は外海と繋がっているため、従来ならばこの海の魔物の侵攻の阻止はおろか市街を護りきることすら叶わず、都市の被害は覚悟の上で『アクエリオの水瓶』に籠もって水瓶内部で迎撃するしかなかった。それほど厄介な敵だ。
 だがアンジュは「んでもね!」と嬉しげに声を弾ませる。 
 盟約の地で万能宝石にかけられた、大星霊アクエリオの完全復活の願い。
 それが事態を大きく好転させた。
「水神アクエリオ様が華麗なる完全復活を遂げた今なら、都市の外で迎撃できるよ! できるよ!」
 陽に透かした蜂蜜色の瞳を煌かせ、どうかお願いみんなの力を貸して、と暁色の娘が願う。
「あのね、アクエリオの外の海で――巨大な魚の魔物をがつんと迎撃してきて欲しいの!!」

 華麗なる完全復活を遂げた水神アクエリオ様が、迎撃に向かうエンドブレイカー達に強力な加護を与えてくれる。その加護は水神によって特別な力を与えられた星霊ディオス。
 この星霊と行動することでエンドブレイカー達は海上を高速移動することが可能となり、更には敵を察知次第、星霊ディオスが海中から敵を引っ張り上げ、海面を厚く平らに凍結させて足場の安定した氷の戦場を創りだしてくれるという。
「しかもね何か結界っぽい効果もあるらしくってね、『エンドブレイカー諸君がいる限り、敵は戦場から離脱することもできないのさ』ってアクエリオ様がウインクしてくれたよ! くれたよ!」
 お膳立ては華麗に完璧というわけだ。
 だが、このお膳立てをもってしても敵はまったく油断できる相手ではない。
「強いの。すごく強いから、絶対に気は抜かないで」
 強大無比なるニニギアメツチの配下にして、魔王ゼルデギロスの力をも受けた海の魔物。
 黒鳥の翼を得て硬質化した鱗で全身を鎧う巨大魚の力のうち、恐らくもっとも警戒すべきは全身の鱗から放たれる魔力の光だろう。強力な光は広範囲に拡散し、大いなる脅威となって襲いかかって来るはずだ。
 羽ばたきで状態異常を払い落とし、術力を強め海水の奔流を生む翼の攻撃、そして、巨大な体躯と硬質化した鱗を活かした攻防一体の突撃も侮れない。
「んでね、サイズは小さめだけど、この巨大魚と同じ姿をした配下も四体いるの」
 当然ながら、配下達は技の威力も体力も主たる巨大魚には大きく劣る。
 けれど、スカイランナーがオーラの翼で加速する様を思わす技や、星霊フェニックスのごとく味方へ力や癒しを送る技で巨大魚を援護するだろうこの配下達も無視するわけにはいくまい。
 舐めてかかれば敗北は必至。そして敗北は、水神祭都の被害に直結する。
「んでもね、みんなが全力全開でいけば――きっと」
 勝てるよ、と暁色の娘が笑みを燈した。

 さあ、深海の闇の奥から侵攻してくる敵を鮮やかな夏空の青のもとへ引きずりだしてぶちのめせ。
「あのね、そうしてがっつり凱旋して来たなら、また逢おうね」
 何より鮮やかな、あの夏空の青のもとで。


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参加者
黎旦の魔女・イリューシア(c00113)
奏燿花・ルィン(c01263)
ラピュセル・アルトリア(c02393)
静謐の花筐・サクラ(c06102)
霧氷の蒼剣士・ポウ(c07468)
蓮泉の水精・ニンフ(c13873)
鴬花の導・ロレッタ(c18045)
瞬風駘蕩・キサイ(c31703)

<リプレイ>

●ホライズン・ブルー
 夏の輝きに満ちた世界に広がるのは涯てなき空と海の鮮やかな青、光と青の世界を潮風となって翔ければ遥か彼方、空と海の境界まで行けそうな心地。
 けれど――この深淵で蠢くものが居るのを識っている。
 鴬花の導・ロレッタ(c18045)が灰桃の双眸細めた刹那、足元からにわかに噴きあがる凛冽な風、特別な星霊ディオスによって見る間に創りだされる海上の氷舞台。
「アクエリオ様にここまでして頂いたからには、絶対にエンディングを打ち砕いてみせます。必ず!!」
「水神祭の邪魔は許さないのね〜! って、来たよ!!」
 凛然たる決意でラピュセル・アルトリア(c02393)が氷上に立てば、蓮泉の水精・ニンフ(c13873)の声と同時に氷舞台の端で巨大な水柱が爆ぜた。
 降り注ぐ海水の幕から現れたのは、星霊ディオスによって深海から招かれた巨大な漆黒の魔物。
 黒き宝玉で身を鎧った巨大な古代魚がこれまた巨大な黒翼を羽ばたかせれば、零れた水飛沫が輝きの雨と降る氷の舞台に主と同じ姿なれど小ぶりな従僕の魚達が現れる。
「――ようこそ、舞台は鮮やかに開幕するものでしょう?」
「なかなか壮観だよな。けど、さっさと片付けようぜ!」
 薔薇の月たる剣をすらり抜き放つロレッタの言葉に口の端擡げ、奏燿花・ルィン(c01263)が肩掛けの羽織派手に翻した――瞬間、華やかに躍った錦の陰を抜け黎旦の魔女・イリューシア(c00113)の深紅の猟犬が飛び出した。
 巨大魚が従えた従僕の魚を熱烈に歓迎した猟犬達が爆ぜて粘血の雨降らせれば、かんらかんらと豪快に笑うルィンが零距離から従僕の翼を捌いて銃撃を叩き込む。
 使命感とも正義感とも無縁に凪ぐ静謐の花筐・サクラ(c06102)の心も仲間と共に戦う高揚感には抗えない。戦う理由づけも簡単なこと。
 水神祭都。良い水が流れる土地は、良い酒を造るもの。
 理由なんて、それで充分。
「……邪魔、させない」
 氷上渡る夏風掬う指先が一気に棘を紡ぎあげれば、瞬く間に巨大な古代魚を封じ込めた檻がその巨躯を押し潰す勢いで収縮した。
 翼持つ魔魚を全方位から穿った棘が確かに刻んだギアス。
 だがそれには構わず黒き鱗に更なる硬質な輝き纏わせて、巨大魚は棘の檻突き破って吶喊する。巨岩を叩きつけるのにも似た突撃に真っ向から立ち向かったのはアルトリア。
 肋骨から背骨まで粉微塵にされそうなその威力に歯を食いしばり、
「く……! さあ、勝負です!!」
 気丈に声を張ると同時に咆哮した獅子の威風で押し返した。間髪いれず閃く赤光はロレッタの月、赤き月の斬撃は黒き鱗の護りに弾かれたが、今最も肝要なのは巨大魚に肉薄することだ。
 巨大魚に接近戦を挑み、皆が従僕を殲滅するまでの抑えとなるのが彼女達の役割。
「路をこじ開ける……までもなかったな」
 従僕達が主の壁となるなら何とかして穴を穿つつもりだった瞬風駘蕩・キサイ(c31703)は、手間が省けたとばかりに笑みを刻んで、黒と稲妻の彩荒ぶ回転棍撃で従僕の魚を打ち据えた。夏空のもと続け様に吹き荒ぶのは霧氷の蒼剣士・ポウ(c07468)が喚んだ凍れる嵐。
 だが激しく攻め立てられた従僕は己が敵でも己自身でもなく、主へ向けて黒翼を翻した。
 夏空の青に舞う、漆黒の羽。
 降り注いだ羽が癒しの炎へ変われば、巨大魚の傷が癒えその鱗に限界超えるための力が宿る。
「――!!」
 真っ先に息を呑んだのは誰だったろう。
 黒い羽が生む限界超える力はその癒しと共に、術者でなく術の対象――すなわち、彼らの主たる巨大魚へと齎される。力や癒しを送る技。酒場でもそう聴いていた。
「ああ〜! 巨大魚を援護ってそういう意味の援護だったのね〜!」
「くそ、初っ端から全力で暴走を狙っていくべきだったか……!!」
 ひときわ鮮烈な潮風でアルトリアを癒すニンフの声に焦燥が滲み、苦渋に顔を歪めたポウが即座に妖精を召喚する。
 彼が操るのは冬の嵐と妖精の嵐。
 麻痺を狙うか暴走を狙うかは戦況を見て判断する心積りだったが、現場で判断となれば最善手が後手に回ってしまう確率も高くなる。事前にもっと策を練っておくべきだったか。
 月光結界が巨大魚を呑めば途端に虚空からも闇の瀑布が襲いかかり、儀式魔法陣を明滅させた斬撃が巨大魚ごと従僕も呑む領域を展開したが、四体の従僕が次々に主へ浴びせる羽が巨大魚の痛手も縛めも消しさり限界超えるための力も積み重ねていく。
 限界超える力を得た敵は最優先で集中攻撃と皆で決めてはいた。けれど。
「それが配下じゃなくて、巨大魚のほうだなんて……」
 誰も想定していなかった。
 固く唇を引き結んだサクラが撃ち出した破魔の棘が巨大魚を鋭く貫く。
 だが、硬質な鱗の護りは破砕できても、蓄積された限界超える力を打ち消すすべは――ない。
 複数の従僕が羽を舞わせれば痛手も状態異常も打ち消され、恐ろしい速度で力が完成する。
 誰もの背筋が凍った、瞬間。
 夏空の青も氷の煌きも凄絶な漆黒の輝きに呑みこまれた。

●ブルー・アシード
 夏空から降る陽射しを眩く散乱させる蒼海の波に氷の舞台。限界超える力を解き放った巨大魚の全身から撃ち出された魔の光は波に氷に乱反射するよう拡散し黒き光の暴威となって襲いかかる。
 瞬く間に前衛陣が薙ぎ倒された。
「……やって、くれるぜ」
 満身創痍ながらも真っ先に血の海から立ち上がったのは精度を高めた予測防御で幾許か痛手を軽減させたルィン。荒い息をするたび血が溢れるのを堪えつつ身を起こしたアルトリアとロレッタは、後ひとつ掠り傷が増えただけでも倒れかねない極限状態だ。
 倒れるのは怖くない。
「けれど今はまだ……その時ではないよね、アルトリア」
「ええ。私もロレッタさんも、まだ戦えます!」
 強い意志の輝き失わぬ灰桃と青の瞳を見交わし、二人は万一の切り札たる癒しを互いに注ぐ。
 従僕達が前衛陣に襲いかかるより速く、夏空と氷の間にサクラの扇が花鳥風月を映しニンフの風が血の臭いを浚って瑞々しい生命の息吹で満たす。
 だが、前衛陣で最も耐久力の低いキサイは――巨大魚の漆黒の光を堪えきれずに力尽きていた。
 恐らく力より何よりも、強敵に臨む覚悟と気構えが足りなかった。
 氷上に倒れた彼の姿がポウの脳裏で故郷の氷原で命を落とした仲間の姿に重なる。
「――これ以上仲間を倒れさせて、たまるか!」
 皆の深すぎる傷でギアスの使い手達が回復に手を取られるうち再び乱反射した漆黒の輝きの中、最早動けぬキサイを後方へ避難させるルィンと入れ替わるようにポウは前へ出た。
 もう一人分の前衛の穴を埋めるべく馳せるのはイリューシア、
「無茶すんなよイリュー!」
「無茶しない。防御しながら古代魚ズとイチャイチャする……」
「イチャイチャはもっとダメー!!」
 案じるルィンの声に軽口で応じたけれど、己が耐久力の心許無さはイリューシア自身も十分承知。それでも退きたくなどないと心が叫ぶから、翼で加速した従僕の魚の一撃を漆銀の旋風生む大鎌で真正面から受けとめる。
 心から信頼しながらもサクラとイリューシアに関しては保護者モード炸裂するらしいルィンの様子に、ワームパイプ・ホロウでもこんなやりとりありましたね、と思わず笑んだアルトリアが刃を構え直す。
 彼女の大剣が冠する銘はデ・ホープ。
 ――希望。
 敵数を減らせぬうちに此方の戦力が欠けてしまった現状はあまりに痛いけれど。
 そう、勝利の希望はまだ潰えてなんかいない。
 大剣の唸りに重なる獅子の咆哮とその牙に抗う巨大魚へ向け、私も抗うよと柔く笑んだロレッタが甘やかなれど強く撓やかな月光結界を織り上げる。けれどすぐさま従僕の魚が黒き羽を降らせる様にほんとハイパーつき回復は厄介ね〜とニンフは眉を寄せたが、
「そうだ! ポウさんそこからフェアリーストームぶちかまして欲しいね〜!!」
「よっしゃ了解、景気よく頼むぜ!!」
「任せて!!」
 ちょうどすぐ前に位置取っていたポウが意を汲んでくれると同時、溌剌たる笑みを咲かせたニンフは彼の肩越しに閃光手榴弾を叩き込む。
 頭上で爆ぜた派手な音と閃光に従僕の魚が怯んだ瞬間、範囲攻撃陣形を組んだポウの妖精達が淡青に煌く嵐となって従僕達を呑みこんだ。暴走齎す嵐の領域から外れていた魚を見遣った柘榴の双眸がすっと細められる。
「……見た目より消耗してる。潰すわ」
 言うが早いか迸るのはサクラの棘、従僕を貫いた棘は裡からアザミのごとく花開いて、その命ごと仮面を粉砕した。
「そうか、小さいの達は癒した分だけ己の身を削っているのだものね」
「ハイパーさえなければ巨大魚は私達で何とか抑えてみせます! その間に!!」
 ふわり笑み深めたロレッタの眼前で巨大魚が鱗の奥に禍々しい光を生む。
 けれど薔薇の月揮った娘の誘う蜜色の月光が黒き鱗を侵蝕し光の拡散を封じこめ、撃ち出された漆黒の輝きに負けじとアルトリアが呼び覚ました輝ける獅子が巨大魚の翼を引き裂いてみせる。
「ああ、今度はこっちが薙ぎ倒すぜ!」
 高らかに響くは前線へ舞い戻ったルィンの声、長い銃身に凝った魔法陣が一気に広がり展開され従僕の魚達を叩き伏せたなら、夏空と氷の狭間を翔ける戦場の風も加速した。
 暴走し闇雲に突っ込んでくる従僕達は次々氷上に沈められ、どうせ食べられないもんねと容赦なく打ち込まれたニンフの毒針が最後の従僕の魚を仕留めて仮面を砕く。
 骸がどさりと落ちれば跳ねる氷舞台のかけら。
 配下すべてを失ってもなお悠然と宙を泳ぐ巨大魚へ、ニンフはびしりと指を突きつけた。
「ににぎ何だっけ、にぎにぎ? とにかく! おにぎりあめつちの好きにはさせないんだからね〜!」
「随分美味しそうな名前になったな……。さぁ、私と踊ってくださる? 新世界のカミサマ」
 勿論――信仰する側にも選ぶ権利はあるけれど。
 おにぎりあめつちの響きに知らず零れたイリューシアの笑みが、巨大魚に宿る残留思念へ向けた冷笑に塗り替えられた、刹那。
 魂をも貪る昏い闇が巨大魚の背に落ちた。
 氷の舞台へ強かに叩きつけられた魚が広げたのは黒き翼、闇も縛めも押しのける羽ばたきで再び宙へ躍った魚が怒涛の海流で反撃せんとする。だが、
「イリュー!!」
 憤怒が迸るかの如き海流に呑まれたのは射線に割って入る形で儀式魔法陣を叩き込んだルィン、濁流に呑まれた命を掬い上げるような力強いニンフの癒しの風がすぐさま吹けば、敵の真正面から迷わずアルトリアが踏み込んだ。
 真っ向から激突した蒼き獅子と黒き巨大魚、両者の拮抗が崩れるその寸前に、
「横っ腹がお留守だぜ!!」
 機も動きも完全に妖精と重ね合わせたポウが横合いから襲いかかる。巨大な黒翼の付け根を貫き痛打を与えたのは一角獣の刃、だがその刀身が深々と埋まった鱗から――強烈な光が放たれた。
 けれどそれすらも策のうち。
「今度は前がお留守よ? カミサマ」
 巨大魚の意識が彼に向いた隙、イリューシアが先程の闇とは比べ物にならぬ壮大な暗黒大瀑布を連続で叩き込んだ。
 脚も腹も胸も光で貫かれたポウが口から血反吐を吐いて不敵な笑みを刻む。
 これ以上仲間が倒れる姿を見ずに済むなら、身体なんて幾らでも張ってやる。
 それくらいは、と胸裡の面影に囁いた。
 ――なあ、許してくれるだろ?

●スペクトラム・ブルー
 夏空の青も氷の煌きも呑みこんでしまうほどでなくとも、乱反射しながら襲いかかる漆黒の輝きは充分すぎるほどの脅威だった。従僕達の援護がなくとも――この巨大な古代魚は、強い。
 誰かが蹂躙されるたび迷わずサクラが夏風に墨染桜の扇を舞わせる。花の加護はあれど度重なる花鳥風月の癒しは確実に彼女の力を削っていく。けれど。
「……出し惜しみは、しない。弱腰では押し負ける」
「押し負けるのは、イヤだな」
 光に全身を撃ち抜かれ、癒しの追いつかぬ分を闇で敵から貪ったイリューシアも小さく笑う。消耗の避けられぬ癒しの風を幾度も招いてサクラ以上に疲弊したニンフを背に庇ったルィンが眦を緩めた。
 今の二人に「無茶すんな」とは言えないけれど。
「な、ちゃんと一緒に帰ろうな」
 聴こえた言葉に、そうだね、とロレッタも吐息で笑んだ。
「抗い尽くして……皆で一緒に帰ろう」
「破壊と殺戮なんて終焉、ぶっ壊してな!」
 氷の煌きも蜜色に染め上げたロレッタの月光が漆黒の鱗の光を封じ込める様に眩しげに瞳を細め、妖精と一気に仕掛けたポウの斬撃が巨大な黒翼を断ち落とす。
 翼で飛翔しているのでなく、翼の魔力で宙に浮遊しているというのが正しいのだろう。大きく体勢を崩しながらも宙に留まった巨大魚が――鱗に硬質な光を纏わせポウに吶喊した。
 彼が直撃だけは凌いだと見るや即座に指先で棘を絡めとり、サクラは一瞬の躊躇もなく巨大魚へと解き放つ。だが今や片翼となった魔魚は、翼を失った側面の鱗だけで破魔の棘を弾き飛ばした。
 それならまたこれね〜と再びニンフの手に握られる閃光手榴弾。
「行くねルィンさん、あの鱗ぶち破っちゃって〜!」
「ばっちり行くぜ! ついでに仮面にも罅入れてやる!!」
 彼の背に庇われたニンフが長身のルィン越しでも問題なく射線の通る巨大な敵めがけて擲てば、炸裂した閃光そのものはやはり硬質な鱗に弾かれたものの、ルィンが巨大魚の懐へ飛び込むには十分すぎるほどの隙が生まれる。
 氷上に閃いた黒漆の長い銃身に凝る、破魔の魔法陣。
「さぁ、思いっきりぶちかましてくれ!」
「ふふ、御期待に添えると良いけれど」
 幾重にも打ち込まれた儀式魔法陣の奥で響いた鱗の護りと仮面に罅が奔る音で、ロレッタの瞳に何処か甘やかな光が燈る。繋がれた心と信のまま巨大魚に反撃のいとまも与えず揮う、薔薇の月。
 信を預ける仲間が居るなら、護るべきものが心に在るなら、
「ね、私達はもっとずっと強くなれると信じてる」
「その通りです!!」
 歌うように紡ぐと同時、圧倒的なまでに溢れだした蜜の月光が巨大魚の何もかもを覆い尽くす。
 ロレッタに繋がれたものをアルトリアも確り受けとって、月光の余韻が消えるより速く刃を揮った。
 信を預ける仲間が居るなら、護るべきものが心に在るなら、もっとずっと強くなれる。
 だからこの先で、どんなに強い敵とまみえようとも諦めない。
 幾度悲劇を紡がれようが、必ず打ち砕いてみせる。
「私達の戦いを見ていなさい、ウルカンダール! そして――ニニギアメツチ!!」
 夏空に希望が閃いた。
 全身全霊を乗せたアルトリアの希望の刃が、遥か古から生きてきただろう巨大魚の命も、巨大魚を支配した残留思念が抱く狂える夢も、棘ごと断ち切ってすべてを終わらせる。
 力尽きた巨躯の墜落ゆえか戦いの閉幕ゆえか、氷舞台が震え周囲の波が砕けて飛沫を撒いた。
 眩く煌き舞った数多の水飛沫が治まれば、頭上には何より鮮やかな夏空の青。
 この上なく満ち足りた心地でルィンは瞳を細めた。

 ――あぁ、いい空だ。



マスター:藍鳶カナン 紹介ページ
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いまいち
参加者:8人
作成日:2014/08/13
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