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夜明けの晩に

<オープニング>

 アマツカグラ。
 ある街にある剣術道場。その庭には、大きな蔵がある。重い扉には錠が掛かり、限られた者しか、扉を開ける事が出来ぬようになっていた。
 その、蔵の中。
 高い位置にある小さな窓から入る微かな陽と、それが沈んでから灯される蝋燭の火だけが、そこに住まう女の見る光であった。
 女は子守唄を歌い、腕に抱いた我が子を揺らす。
 男児用の着物に包まれているのは、白骨の、赤子の亡骸。
「お夕飯ですよ」
 扉が開いて、老婆が入って来る。
 蔵の中、牢屋のように填められた木の格子。その下の、少しだけ開けられるようになった箇所から、盆に乗った食事を滑らせ入れた。
「ばぁやさん……」
 女は顔を綻ばせ、盆の前に座り込む。
 浮かぬ顔の老婆へと不思議そうな顔を向け、首を傾げた。
「ねぇ、ばぁやさん。この子のミルクが無いわ」
 私のお乳も出ないし、と呟いて、女は椀を手に取る。
「飲めるかな? ジン?」
 白骨の口に運び味噌汁を注いだ。そのまま零れ落ちてゆくのも気にせずに、「そう、美味しかったの」と白骨を揺らして微笑む。
 聞こえてきた赤子の泣き声に、女の動きが止まった。
「……どういう、こと?」
 見開いた目が、老婆を見つめる。
「仕方が……ないんだ。カヨさんの子は死産だったし、この道場には、跡取りがいる。シンヤ様も、苦渋の選択だったんだよ」
 解ってさし上げとくれ、そう言った老婆の声すらかき消すように、今産まれたばかりの赤子の声が、大きく響いて聞こえた。
「抱いて、おられるのかしら……シンヤ様。ジンの事は、1度も抱いて下さらなかったのに。あの子の事は、抱いておられるのかしら」
 ――見に、行かなくちゃ。
 呟いた女に老婆が首を横に振り、後退る。
「出すわけには、いかないんだよ。カヨさん、せめてあんたが狂ってしまわずに、次の子を産んでくれていたなら……」
 背を向けた老婆へと、1本に束ねられた女の黒髪が伸びた。手のように、老婆の首を締め付ける。
「鍵を、開けて」
 苦しさのあまり鍵を開けた老婆が気を失うまで締め上げて、カヨは開いた格子の扉から、老婆を中へと入れた。
「ばぁやさん、ジンを抱いていてあげて下さいな」
 その腕に抱かせ、女は蔵から外へと出る。
 胸に邪悪な仮面を貼り付けて、カヨは長く伸びた爪で壁を傷付けながら廊下を進んで行った。
 角の先に感じた気配に、壁に背をあて身を潜める。
 門人が角から出てきた途端、爪を突き刺し大量のオーラを流し込んで爆砕した。
 女は赤子の泣き声を頼りに進む。気配のある襖は開けて、寝ている者達は自らの血を猟犬に変え、襲わせた。
「待っていてね、ジン。もうすぐ父様があなたを抱いてくれるから」
 爪で壁へと線を引きながら、女は進む。自分に不当な扱いをした、この家の人間達を皆殺しにする為に――。

「皆さん。アマツカグラで、1人の女性がマスカレイドとなってしまったわ」
 剣の城塞騎士・フローラ(cn0008)は、そう言ってエンドブレイカー達を見回した。
「彼女の名前は、カヨ。自分の子が死産だった事に耐えられず……その、心のまま。次に産まれた子がいる事を許せずに、邪悪と知っている力を自ら求めてしまったの」
 憂いを帯びた瞳で、フローラは言葉を続ける。
「急ぎ皆さんに向かって貰えれば、カヨが蔵から出てくる前に現場へと着く事が出来るわ。けれど、ばぁやさんは、もう気を失った後。蔵の中で戦うのは難しいから、外で待ち伏せてもらう事になると思う。敵と知った途端、彼女は攻撃を仕掛けてくるわ」
 カヨはデモニスタの能力を使い、爪でも攻撃してくる。呼び出してくる配下は3体。庭のどこからか毒蛇達が迫るから、注意が必要だ。
「彼女を、もし、逃がしてしまったならば。ばぁやさんに預けている我が子より、新しく産まれた子を、その母を、殺す事を優先するわ。だから決して、逃がさないでね」
 説明し終えたフローラは、僅かに微笑む。
「産まれた子が死産だった事、すでに死んでいたからとは言え、父親にその子を抱いてもらえなかった事。同じ女性として、彼女の気持ち、解る部分もあるわ。狂わずに、いられなかった事も含めて。けれど、マスカレイドと化してしまったからには、倒す他はない。せめて、誰も殺める事なく、ジンと同じ場所へと、向かえるように――」
 よろしくお願いね、そう思いを託し、フローラは頭を下げた。


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参加者
燈し羽・リシフィア(c16309)
ルナウィアートル・ステラ(c19796)
廻るセントウレア・ナギサ(c21540)
菩提樹の灰・ジィリオ(c35020)
不死鳥の天剣騎士・レオンハルト(c35756)
執事・ヴィクトル(c35987)
切り開く一振りの刃・ルギット(c36026)
花言の瑞香・ツェツィーリア(c36229)

<リプレイ>


 蔵から家屋へと続く空間。
 その周りの藪や木の陰には、6人のエンドブレイカー達が潜む。
 灯を置いたルナウィアートル・ステラ(c19796)は、邪魔にならぬ小振りのものを腰に下げ、花言の瑞香・ツェツィーリア(c36229)と共に蔵の前でカヨを待ち受けた。
 蔵の扉が開けば、女は出てくる前に足を止める。そのまま警戒の瞳を、2人へと向けた。
「ご機嫌よう、可哀相なレディ。薄幸の美女に一目お逢いしたくて夜目を忍んで参りました」
 見えた2つの明かりのうち、ランプが掲げられる。
 照らされたツェツィーリアの笑みは優しい。物腰柔らかく、お辞儀をした。
 コトリと首を傾げた女は笑みを浮かべ、長き爪を己の腕へとあてる。そうして躊躇い無く、白い肌を切り裂いた。
 大量に落ちた血液からは赤黒き猟犬達がムクリと起き上がる。すぐさま扉から飛び出し、2人を蹂躙した。
 笑いながらのカヨが蔵から出てくると同時、両側から出てきた3体の毒蛇達に気付いた仲間達が飛び出す。
 右手で回していた串を棍へと持ち替えた廻るセントウレア・ナギサ(c21540)は、暗い夜空高くへと飛び上がる。頭上より、カヨを攻撃した。
「還れ、始まりの炎に」
 木の陰から姿を見せた燈し羽・リシフィア(c16309)が神火を宿した符を蛇へと放ち、守り符を己が身へと貼り付けた。
 カヨに迫るは菩提樹の灰・ジィリオ(c35020)の棍。
「貴女のこれまでを否定はしないわ。でも貴女のこれからは別」
 高速で回転し発生させた暴風と共に、カヨを打ち据える。
 その後ろでは右手の手袋を外したツェツィーリアが、賢者の石の埋め込まれた掌を毒蛇へと突き出していた。
「イレーネ」
 彼女の呼びかけに応えるように、解き放たれた暴食の使徒は大口を開け、2体へと噛み付き血を吸う。
 駆け寄った切り開く一振りの刃・ルギット(c36026)の振り下ろす大剣の刃はカヨが防ぎ、ステラの薙いだナイフは庇った蛇が受けた。
 ポタリポタリと爪から血を滴らせる女を凝視したまま、不死鳥の天剣騎士・レオンハルト(c35756)は躊躇いを見せていた。
(「あの姿は……まるで『魔女』アリッサム様じゃないか!?」)
 彼には、そう見えてしまったのだ。
 その様子に気付き、隣にいる執事が叱咤する。
「坊ちゃま! シャルラッハロート家三訓をお忘れですか?!」
 声にハッとし、一瞬執事・ヴィクトル(c35987)を見た少年は、茂みから立ち上がる。
「我は盾、我は剣、我は炎! 我は仮面を滅するために目覚めし獅子! 我が名はレオンハルト――推して参る!」
 炎翼の羽ばたきと共に駆け出したレオンハルトは、不死鳥の炎を身に纏う。
「亡き盟友よ。我等に加護を!」
 ヴィクトルがカヨへとチェイスを付け、しかし毒蛇が少年の行く手を阻んだ。
 突撃の炎を受けた蛇は牙を剥き、猛毒をレオンハルトの肩口に注ぐ。更にもう1体がその体で締め付けようとするのを、ヴィクトルが身を躍らせ代わりに受けた。
 カヨの傍にいる1体は目を光らせ、ジィリオとステラを睨みつけていた。

 扉を開けて人がいれば、当然カヨは警戒する。ばぁや以外、この家の者を皆殺しにしようとしている彼女は、彼等の姿を見止めた途端、敵と見なすだろう。
 毒蛇達を中に入れずカヨを囲む作戦を取るならば、他の仲間達同様、2人も隠れている必要があったのだ。
 そして少しの躊躇いは、ボスに近付くのを遮る時間を、配下達へと与えてしまっていた。


 ずっと聞こえ続ける赤子の泣き声に、カヨが家屋へと顔を向ける。
「退いて下さる?」
 足を踏み出そうとするのを、屋敷を背にしたルギットが大剣を構え威圧した。
 シャーッと、カヨを庇うように傍にいる蛇が毒の滴る牙を剥く。
「ここは通せない、あんたに言ってももう通じないと思うが」
 カヨの悲しみ、わからなくもないのだ。
 例え恨んだとしても、すぐには事実を受け入れなかったとしても、仕方のない事なのかもしれない。
 けれど、その為に誰かを傷つけるなど――。
 彼女だって、元はそんな事願わなかった筈だ。
 もう手遅れであるのなら、せめて眠らせよう。今は己の血のみに染まるその手が、血に汚れたりしないうちに……。
 首を傾げた女は、ゆっくりと手を上げる。ルギットの頭上に現れた黒き闇のオーラが、彼へと降り注ぎ闇気を侵食させた。
 同時に、毒蛇が体を締め付ける。笑いを零し抜けようとする女へと、ナギサが飛び上がった。
(「子供をまだ生んだことも無い私には、イマイチ実感が伴わない話ね」)
 それでも。
 狂うほどに悲しいのは、わかるから――。
 急降下と共にカヨを突くと、トンッと再び夜空へと舞い上がる。傍にいる毒蛇へも、頭上より棍を突き刺した。
「だからちゃんと、息子と一緒の場所に送ってあげる」
 ナギサへと気を逸らせたカヨに、ルギットが大剣を振るう。火柱を伴う強烈な斬撃は、彼女だけではなく毒蛇をも斬り上げていた。
「悲しみと恨みを、ここで払わせてもらう。あんたには申し訳ないが」
 仮面が砕け地へと沈んだ毒蛇を、カヨが見下ろす。
(「下らない理由でのマスカレイド化が多い中、少し……いえ、半分程度は同情もするわ」)
 嘸かし世を恨んだことでしょう、とジィリオは己の前で回転させた棍越しに女を見つめる。静の心のまま想いは出さず、カヨを攻撃した。
「仇なす者は殺す、それだけよ」
 目を剥いた女へと、ステラが迫る。
 ――愛しく過ぎて狂うのも、そもそも興味がないのも、どちらも行き過ぎてる……。
 迎撃の構えから腹を突き、刃が何度も腹部を抉った。
 血の滲む腹部を押さえる女にレオンハルトが近付こうとするのを、毒蛇が邪魔をする。
「目障りな! 大人しく逝けばいいものを」
 言葉と共に精神を統一したのは彼の執事。だが月の如き緩やかな弧を描き攻撃出来たのは、主の前にいるのとは別の蛇だった。
 レオンハルトへと牙を剥く毒蛇には、神火を宿した符が放たれる。浄化の霊気を注ぎ込むリシフィアに礼を告げ、赤き獅子は前へと出た。
 攻撃を受けた2体は、それぞれを攻撃した敵を狙う。ヴィクトルへと噛み付いた蛇は毒を注ぎ、睨んだ蛇の視線を防いだリシフィアの前で、ルギットが攻撃を受けていた。
「……失った者への愛情は理解できる。――だが! 愛しき者の死ではなく『棘』を受け入れたのが、貴女の過ち!」
 飛翔突撃した体は、カヨの爪が止める。己を不死鳥の炎で包んだままで、レオンハルトは女へと言葉をかけていた。
「故に貴女を……排除する!」
 自身も過去に道具扱いされた事のあるツェツィーリアは、解る気持ちごと、辛そうな視線をカヨへと向ける。憂いを帯びる紫色の瞳を毒蛇へと移し、白銀の鎖を創造した。
 浄化の光を放ち毒蛇へと迫った鎖は、幾重にもその体に絡み付き縛ってゆく。締め付ける中で仮面が割れ、ドシャリと蛇が崩れ落ちた。


「細やかな灯火よ、今1度燃え上がれ」
 声と共にリシフィアはフレイムソードを抜く。
 放たれた尽きざる聖炎はルギットへと向かい、彼の傷を焼き浄めていった。
「イレーネ」
 ツェツィーリアが解き放ったクラビウスは、腐食唾液を垂らしながら残る1体の毒蛇へと大口を開ける。避けた毒蛇へは、ヴィクトルのマジックカードが飛んだ。
 カードは次々と爆発し、毒蛇がヴィクトルへと頭を擡げる。光り見開かれた目は、彼だけを鋭く睨み付けた。
「……申し訳……ありません……」
「爺や!」
 力尽き倒れた執事に振り返ったレオンハルトは、兜の中で目を見開き息をのむ。悔しげな表情は獅子の顔に隠れて見えず、拳を握るとカヨへと向き直った。
 『弱きを守る盾であれ』――それが、我が家訓。
 これ以上の攻撃が彼へとあてられる事を避ける為、射線を遮る形で前に立つ。そうして、もう1人。彼女を威圧したが為に標的にされ、何度も攻撃を受け体力の減っている仲間を回復する事を、攻撃よりも優先した。
 レオンハルトが召還した癒しの星霊フェニックスが、浄化の炎を纏い飛び立ってゆく。燃ゆる不死鳥の羽がルギットへと舞い落ち、不滅の炎で浄化していった。
「邪魔を……しないで」
 あの子を父親に抱かせたいのよ、そう言って女は再び己の腕を傷付ける。
 大量の血から出現した猟犬達が、レオンハルトとルギットへと群がり血を啜った。抜けようとする女を、邪魔するように大剣が斬り上げられる。
「恨みは何も生まない、残念だけどな」
 ルギットの振るう刃から上がる火柱を避ける為、女が退がる。しかしその背後には、編んだ長い漆黒の髪をふわりと揺らし、ステラが潜んでいた。
「悲しみを広げても、虚しいだけ……」
 淡々と、紡がれた言葉にカヨは振り返ろうとする。それよりも、繰り出される刃の方が早かった。
 死角からのナイフは背中を深く突く。肩越しに振り返った女の目を、長めの前髪から覗いた白銀の瞳が見返した。
 オーラの翼で、超加速したナギサがその脇を駆け抜け、一瞬のうちに斬り裂く。
「新しい子供、生めばよかったろう……」
 俯き加減の横顔がぽつりと零し、顔を上げ、よろめくカヨを振り返った。
「……ダメだったの? その子の分まで、次の子供、愛しては、あげられなかったの……?」
 それがきっと、全て上手く行く方法だった。
「出来ないわ」
 不思議そうに、カヨは首を傾げる。そうして首を傾げたまま、壊れたように歪な笑顔を浮かべた。
「……だって、ジンは物じゃないもの」
 カヨの腹の中で、赤子は死んだのだ。自分が、この体が、我が子を殺した。
 父親にも抱いて貰えない――そんな子に、己がしてしまった。
 そんな思いが、悔しさが、後悔が、哀れみが、彼女を狂わせたのだ。
「死んで産まれたから、じゃあ次……なんてね」
 ふふっ、ふふっ、と壊れて笑う女は、よろめきながらも家屋を目指そうとする。その女の頬を、踏み込んだジィリオが力一杯打った。
 衝撃に回転した女の前で、その行動の意図に気付いたステラがそっと横へと体をずらす。
「分かる、なんて言わない。けれど、知って、そして覚えておく。貴方のこと、貴方が産み落とせなかった子のこと。だから……どうか安らかに」
 訥々と、プロミスを用いてリシフィアは誓う。声に振り返ろうとする女の顔がこちらを向く前に、両手を突き出した。
「散れ、彼方の光に」
 放つは、清浄なる輝き。蒼白き光から逃れるように、女が顔を背けた。
 妖精のジュリアが舞う中、ジィリオの棍がカヨを攻撃する。そしてジィリオの腹部へは、敵の爪が喰い込んだ。
 後ろ手にオーラが注入される。その痛みに耐え、棍が女を弾いた。
 地面へと前向きに倒れたカヨの、その背に棍を突き立てる。下で、仮面の砕ける音が聞こえた。
「これで終わり。せめてあっちを向いて死になさい」
「あ……ジ……」
 家人を殺すため外へと出た女は、最期の最期、家屋ではなく蔵の中へと手を伸ばし、息を引きとっていった。
「……マスカレイドへの慈悲なんて、この程度しか持ってないわ」


「せめて安らかにというのはおこがましいか」
 大剣を納めたルギットは、カヨの遺体に一礼する。
「なかなか苦いな、こういうのは慣れちゃいけない気がするけど、どうなのかな」
 片膝を付くその傍らで、ステラが小さく呟く。
「骨になっても愛してるって、つくづく母親ってすごい、な」
 それは誰にも聞こえない独り言。そしてその瞳は、誰かを思い出すように、細められていた。
「爺や、大丈夫か?」
 差し伸べられたレオンハルトの手に、とんでないというように首を振り、ヴィクトルは1人で立とうとする。
「無理するな」
 両手が腕を支え、木に凭れさせるように座らせた。
 皆様に申し訳ない、と繰り返す執事に、レオンハルトは周りの仲間達へと目を向ける。足を引っ張ったなどと思っている仲間は、この中に1人もいないだろう。
「私は執事ですから……」
 まだ自分のサホートに回ろうとする男に、「大丈夫だから」と伝えた。
 蔵の中。ばぁやを優しく抱き起こしているのは、ツェツィーリア。首を絞められ気を失っただけの彼女に、回復は必要ないようだった。
 ハッとした老婆は「カヨさんッ」と声を洩らす。起き上がろうとして、横たわる彼女に気が付いた。
「……突然の事で信じられないでしょうが、カヨさんはようやく息子の元へ帰っていったのです――空の向こうへと」
 心配し中へと入って来たレオンハルトが、事情をゆっくりと説明する。
「なんて事……」
 腕にある赤子の白骨を抱きしめ、憐れ過ぎると幾つもの涙を流し、老婆は咽び泣いた。
 家人に彼女の埋葬を頼みたい旨をエントブレイカー達が告げると、「それならばシンヤ様に」と涙を着物の袖で拭う。
 老婆が案内したのは、庭から回り込んだ縁側沿いにある1つの部屋。
 障子が開け放たれたままの部屋は、途中で足を止めたエンドブレイカー達にも中の様子が窺えた。
 大きな声で泣く子を、母親らしき女が抱いて揺らしている。時折シンヤだろう男に向け差し出すが、男は困ったように微笑むだけで、手を伸ばそうとはしなかった。
 抱けずに、いるのだ。
 この男にも、傷が残っている。
 ギリッと歯を食い縛ったツェツィーリアは、ジンを抱いたまま庭を進み部屋へと上がっていく。
 驚く男に、着物に包まれた小さな白骨を押し付けた。
「貴様の子供だろう」
 彼女が手を離すと、反射的にシンヤはジンを抱き留める。今の言葉で、誰の骨かは判っただろう。
「軽い……」
 小さく言葉を落とし、男は目をきつく瞑って体を震わせた。
 見ていられずに、ナギサがその横っ面を殴る。それでもジンを手放さなかった男に、思わず眉根を寄せた。
 今、そうなら――。
「……抱いてやればよかったろ。バカ」
 僅かに震えた声が、庭を向き「せめて、ジンと一緒に埋葬してやって」と伝えた。
 えっ、と呟いた男がルギットに抱えられたカヨに気付く。呆然と腰を落とした男の横で、妻が訳が解らず困惑していた。
「カヨは自分の子がシンヤに抱いてもらえなかったことを悔やみ、新しく生まれた子を妬み、マスカレイドになった」
 自分達がエンドブレイカーである事も伝えたステラに、カヨの存在自体を知らなかったろう女は目を見開き、夫を見つめる。
「死産で気が狂ってしまったとはいえ、彼女だって辛かったんだ。そこは分かってあげてほしい」
 リシフィアの声には、同じ母親としてだろう。口を片手で覆って涙を流した。
 自分達にその権利は無いからと、ジィリオはシンヤを責める事も逆に慰める事もしない。「ただ、そうね」とひと言を伝えた。
「……今の奥さんを大事にしなさい、ってことかしら」
「カヨも、ジンも、私達が、手厚く……」
 言った男のもう一方の腕に、今産まれたばかりの赤子が母親より乗せられる。
 少し笑って、男が両腕を揺らした。
「お兄ちゃんのジンだ」
 一瞬泣き止んだ赤子は、再び激しく泣き声をあげる。
 その小さな手はぎゅっと、ジンの着物を掴んでいた。



マスター:小沢望朱 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2014/08/30
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