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天空のヒーロー

<オープニング>

●天空のヒーロー
 麗しき天槍の輝きと夏空の青さが眩い、山斬烈槍ランスブルグの夏。
 華やかな賑わいと活気に満ちた第二階層・鉄壁街の外縁近くのとある広場で、眩い天槍と夏空を仰ぎ見たひとびとは、鮮やかな青と輝く天槍の蒼銀に彩られた夏空に突如現れた禍々しい赤の影に恐怖の声をあげた。
「怪鳥だー!」
「ダブルレッドコンドルが飛んできたぞ!!」
「飛んできたってか魔法みたく突然ぱっと現れたぞアレ、いやそれはともかく、皆逃げろー!!!」
 あっという間に恐慌状態に陥り逃げ惑う市民達。それもそのはず、突如空から襲いかかってきたのは二階建ての民家ほどもあろうかという巨鳥、双頭と赤い羽毛が特徴的なダブルレッドコンドルだ。
 時折山脈からやってくるこの巨大な猛禽は獰猛な上に常に飢えており、この鉄壁街外縁に甚大な被害をもたらすことも珍しくない。
 餌と見做した人間をおぞましい鳴き声ですくみあがらせ、凶暴な爪や嘴で引き裂きにかかる巨鳥。凄惨なその光景を細い路地の物陰から見つめつつ、ぐぐっと拳を握る青年がいた。
 行け! 頑張れボクたんのダブルレッドコンドル!!
 この広場に阿鼻叫喚の地獄絵図を描きだすんだ……!!

 一人称ボクたんのこの青年、そこそこ裕福な家に生まれ先日紋章院のアカデミアを卒業し、晴れて紋章官の肩書を得たマルタンという名の若者である。
 だが彼の未来は前途洋々とはいかなかった。
 紋章官の肩書は得たが得たものは本当にそれだけ。そのまま紋章院に勤務するエリート街道には乗れず地方領主のお抱え紋章官となる道も得られなかった。つまり就職口がなかった。
 ――くそう! 教授に媚び売ってクチきいてもらったヤツらめ!!
 ――あんなヤツらがいるからボクたんみたいな真面目で優秀な人材がこんな目にあうんだ!!
 憤懣やるかたないと言った風情で拳をぷるぷる震わせるマルタン。
 もちろん実際は媚びだのコネだのそんな問題ではなく、教授陣は単に成績優秀品行方正な生徒を先方に紹介しただけなのだが、それを認めると自分が優秀ではないという結論に達して心がポッキリ折れてしまうので、マルタンは全力でその事実から目をそらした。
 こうなったら自力でボクたんの優秀さを世間に知らしめてやる!
 固くそう決意したマルタンはさくっとマスカレイドになった。
 そう、広場上空に忽然と現れたダブルレッドコンドルは、彼が召喚した配下マスカレイドなのだ。

 彼の計画はこうだ。
 ダブルレッドコンドルの襲撃でほどよく死者が出て、皆が絶望にうちひしがれたところに!
 颯爽と現れ超ハイセンスな紋章術を駆使してダブルレッドコンドルを撃退してみせるボクたん!!
 皆を絶望から救ったボクたんは一躍鉄壁街のヒーローとなり、誰もがボクたんを褒め称えるなかであちこちの貴族から『ぜひ当家の専属紋章官に!』『いや、ぜひとも当家に!!』とかかる声!!!

 そう、ボクたんの薔薇色の人生は、ここからあの天空へと羽ばたくんだ……!!

●さきがけ
「羽ばたくかー!! って、誰かヤツに突っ込んで欲しいんだが」
 ぷるぷる震える小鳥さんのように控えめな俺にはとても出来ない――と棒読みで寝言をほざいて、砂鷲の魔想紋章士・ナルセイン(cn0172)は旅人の酒場に居合わせた同胞たちへ厚い信頼と熱烈な期待を込めた眼差しを向けた。愉しげな眼差しとも言う。
 もちろん最重要事項はツッコミではなくマスカレイド討伐である。
 が、如何なる時もツッコミ魂を忘れないのが人生を豊かに生きるコツなのだ。多分。

 現場となる鉄壁街外縁近くのその広場に到着できるのは、ダブルレッドコンドル召喚とほぼ同時。
 となれば広場のひとびとの避難に手を割くより、ダブルレッドコンドルが一般市民に目をつけるより先に強烈な先制攻撃を喰らわせ、巨鳥の注意を此方に惹きつけるべきだろう。
「幸いそのダブルレッドコンドルは単純な知能しかないし、一度に複数を狙うこともできない。俺達が相手してやれば鉄壁街の一般市民の皆さんに手を出すことはないさ」
 だが、巨鳥と普通に戦うだけでは、物陰からその様子を見ているマルタンが、
『ボクたんは寛大だからね! 今日のところはあの貧相な冒険者達に花を持たせてやる!!』
 なんて上から目線な独り言を吐いて途中で姿を消してしまう。
 かと言って、一般市民の皆さんの目の前でマルタンと戦い彼の存在を大っぴらにしてしまえば、
『アカデミアで落ちこぼれたヤツはマスカレイドになるぞ! 今のうちにみんな処刑しろー!!』
 的な騒動に発展しかねない。
 ならどうするかと言うと!
「マルタンがやろうとしてたことを、俺達でやればいいのさ」

 つまりこうだ!!
『鉄壁街の平和は俺達が護る!!』
 的な格好いいセリフとともに颯爽と現れ、凶暴なダブルレッドコンドルに勇ましく立ち向かい!
『さあ、私の必殺技、とくと味わうがいいわ!!』
 的に凛々しく言って超ハイセンスな必殺技(キャッチーな技名があればなおよし!)をぶちかまし!
『大丈夫かい? 可憐なお嬢さん』
 逃げようとして転んだ少女に優しく手を差し伸べ、爽やか笑顔で白い歯キラッ☆ と決めてみたり!
 そんな感じで超格好良く戦っていれば、マルタンは物陰から立ち去ることなく、
 ――あいつら、ボクたんの超ハイセンスな計画を横取りしやがって……!
 と悔しさにぷるぷるしているだろう。

「で、俺達が超格好良くダブルレッドコンドルを倒せば、そこでようやくヤツは我に返るはずだ」
 我に返ったマルタンは、『うわああんボクたんの薔薇色の人生計画練り直しだー!!』と泣きながら路地裏に逃げていくに違いない。そうしたら、
『はっ! 向こうにも危険な気配が! 危ないから君達はここにいてくれ!!』
 と格好よく一般市民の皆さんを制してマルタンを追いかけるのだ。
 彼はひとけのない路地裏に逃げていくから、そこで彼を倒せば一般市民の皆さんに知られることもない。ソーンリングがあれば完璧だが、なくとも余程戦闘が長引かない限りは問題ないだろう。
「マルタンは魔想紋章士で、棘で力を強化された紋章術を使ってくるんだが――元がヘタレすぎるんだろうな、攻撃の威力のわりにはかなり打たれ弱い」
 油断さえしなきゃ短時間で決着がつけられるだろうさ、と告げた男に更に愉しげな笑みが覗く。

「さあ御照覧。鉄壁街の夏空に双頭の巨鳥が現れる」
 皆の超格好良くて超ハイセンスなヒーローぶりを見せてくれ、とナルセインは同胞達に厚い信頼と熱烈な期待を寄せた。まるっと投げたとも言う。


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参加者
エンジェリックふわもこ妖精・ロータス(c01059)
花紺青・ユウ(c01588)
翠狼・ネモ(c01893)
メテオリックオペラ・ヒカタ(c11770)
トランジットパッセンジャー・ピノ(c19099)
水天の妖剣・クリム(c20805)
我が道こそ黄金・イシュトヴァーン(c35666)

NPC:砂鷲の魔想紋章士・ナルセイン(cn0172)

<リプレイ>

●コンドル襲来!
 麗しき天槍の輝きと夏空の青さが眩い、山斬烈槍ランスブルグは鉄壁街の外縁近くで仰ぐ蒼穹に、突如現れる巨大かつ禍々しき赤の影!
「怪鳥だー!」
「ダブルレッドコンドルが飛んできたぞ!!」
 実はコンドルは飛んできたわけではないが、恐慌状態に陥りかけた市民達の許へ、森色の双眸を秘密めく丸ゴーグルに隠した謎のヒーロー、翠狼・ネモ(c01893)が街の上を飛ぶ勢いで駆けつける。
 口上は仲間に任せたいところだったが、一番手となってしまっては致し方ない!
「……この街の空と平穏を護るわしらが居る限り、易々と手を出せると思うな」
「そのとおり! さあ、私にも付き合ってもらおうか!」
『クキェー!?』
 眩い天槍の煌きとオーラの翼を背負って超加速、蒼穹へ跳躍したネモが鋭い蹴撃叩き込むと同時、輝ける妖精の碧羽を現した水天の妖剣・クリム(c20805)も広場周りの建物の屋上から飛翔した。
「乱舞せよ! 紅妖剣『エアヴァルトゥング』!!」
「おお!」
「か、かっこいい……!!」
 それは恐慌状態に陥りかけた市民達も思わず見惚れてしまう超格好良い戦いの開幕!
 蒼穹に輝く翠翼と碧羽で天翔けたヒーロー達が巨大な赤き猛禽を広場へと撃墜した瞬間にはもう、一般市民の皆様をばっちり背に庇う体勢でトランジットパッセンジャー・ピノ(c19099)がスタンバイ! 派手な地響き立てて墜落したダブルレッドコンドルへ、葡萄樹の杖から抜き放たれた刃が弦月の斬撃を刻みつける!
「やー色被りって困るんだよね、鮮やかな血潮の赤はやっぱ燃える正義の赤でしょ」
「ふっ、赤ばかりが正義じゃないわ! 燃える正義の黄金ここにあり!」
 円月の構えに納まったピノが夕焼け色した頭の上の帽子を深く被り直せば、広場に凛然たる少女騎士の声が響き渡った。
「『我が道こそ黄金』――イシュトヴァーン・オルバーン! 推して参る!!」
 颯爽と吹き込む風は燦然と輝く黄金の疾風! 翻るマントの下に黄金の装甲を、手には眩い金の月光思わす騎士槍を携え、我が道こそ黄金・イシュトヴァーン(c35666)が超輝かしい名乗りとともに勇ましく吶喊する!
「なんと眩い……!」
「これぞ騎士だ、素晴らしい!」
 だが騎士はイシュトヴァーンのみにあらず!
「ランスブルグに舞い降りし、天誓騎士クールビューティユウ――ただいま参上」
「あー! 天誓騎士様だグランスティードだー!!」
 星霊グランスティードを駆って登場した麗しの女騎士、花紺青・ユウ(c01588)が凛々しく涼やかに巨鳥へ大剣を突きつけてみせれば、流石は天誓騎士の本場ランスブルグ、子供達が大喜び!
 大剣の切っ先を星の如く煌かせ、襲いくる巨大な嘴を派手にかち上げた瞬間、
 棒読みでもええから! と誰かにカンペを渡された砂鷲の魔想紋章士・ナルセイン(cn0172)がイイ笑顔でさむずあっぷ。棒読みどころか超ノリノリで台詞を読み上げた。
「ロータス君、エンジェリックふわもこフェアリーに変身だ!」
 眩いくらいの輝く笑顔で応え、エンジェリックふわもこ妖精・ロータス(c01059)が舞台、もとい広場に舞い降りる。オーロラめいた輝き(ナルセインがコンドルにかましたムーンカーテン)に照らされ、くるり軽やかに舞った彼の背で歪な翼が美しく透きとおり――、
「困った時の妖精さん、今日は涼やかフローズン! エンジェリックふわもこフェアリー参・上!」
『ク、クキェー!?』
 きらり輝く氷の翼を大きく広げて変身完・了☆
 ついでに強烈な凍気の凝るその先端でダブルレッドコンドルをぶっ刺した!
 広場に沸き立つ一般市民の皆様の熱狂、路地の物陰から突き刺さる紋章官っぽい青年の嫉妬の視線、それらを感じつつ、メテオリックオペラ・ヒカタ(c11770)は皆様に爽やか笑顔を大盤振舞い、
「すぐに終わらせるから、まあ見てて。巻き込まれない場所でね!」
 帆船刻まれし竪琴を奏で、目も眩まんばかりの輝きと鮮やかな幻の色彩の乱舞も大盤振舞い!
 双頭の猛禽に襲いかかる色彩の渦は、
「さあ輝け! これが私の、正義の光!!」
 それに迫るイシュトヴァーンも輝かせる!
「黄金の(ゴールデン)――月光(ムーンロア)ッッ!!」
 熱狂呼ぶ色彩の嵐を全身の黄金で反射し、虹色に煌く黄金の騎士槍から激しいオーラを噴射して、神々しい光の奔流となったイシュトヴァーンが赤き巨鳥の腹部を貫いた――!!

●ヒーロー無双!
 最早恐怖などすっかり吹き飛んでしまった一般市民の皆様の熱狂の渦、そして、路地の物陰から聞こえる(気がする)嫉妬と羨望の歯ぎしりの音! 色々な意味で熱い感情渦巻く広場の真ん中で、超格好良いヒーロー達が超ハイセンスな猛攻でダブルレッドコンドルを押していく。
 だが、勿論コンドルも押されるばかりではない!
『グギエェェェエー!!』
 双つの嘴から迸る、身の毛もよだつ悍ましい声!
「身体が動かない……それでも、指一本でも動く限りは、相手になるよ!」
 凄まじく気持ち悪い声に苦悶の声を洩らしつつ、ヒカタは腕の痺れを堪え更なる熱狂を呼ぶ旋律で光と激情を生みだしていく。
 農夫ってのは常日頃害鳥との戦いにも明け暮れてるのさ、なんてちょっぴり遠い目になったピノはふと目が合ったナルセインと目と目で語り合った。多分。
 そう、自分で格好良く決めるより、格好良い仲間の支えでありたい。
 繋がれることで初めて生まれるものもあるのだから――って、なるちも同意してた! 気がする!
「本当のマヒってのを魅せてあげるよ!!」
 誇らかに高らかに夏空へ響かせて、巨鳥に叩き込むのはマジックマッシュ!
 紫のキノコってちょっと正義っぽくない気もしたけれど、
「おお、高貴なる紫……!」
「うむ、やはり気高きヒーローは違いますな!」
 超前向きに解釈してのける一般市民の皆様! 早めの印象操作って大事ですね!!
「ほな俺はふわもこ天使の抱擁で骨抜きにしてやんよ!」
 高貴なる紫から溢れる惑わしの煙に紛れて一気に肉薄するのはロータス、二階建ての民家ほどもある巨鳥をも覆うべく広がった氷の翼がその脚に凍気の痺れをそそげば、鈍ったそこを更に貫かんと勢いよくイシュトヴァーンが突進した。だが、
『グギエェェェエー!!』
 苦し紛れに羽ばたいた巨大な翼が騎士槍を払いのける。
「もう一丁! 私は……正義は! 止まらないわよ!!」
「ああ、私達の正義を止めることなど、誰にもできはしない!!」
 無論イシュトヴァーンもこれしきで怯んだりしない! ずざあっと石畳に土煙をあげて方向転換、再び巨鳥に挑む少女騎士の頭上へ妖精の翅で飛翔し、妖精騎士クリムは赤き猛禽を更に鮮やかな紅の剣閃で縦横無尽に斬り裂いた!
 仲間の攻勢が描く様々な彩の中、ネモも光の翠翼と真白な長マフラーで気紛れに舞う疾風めいた軌跡を描きだす。けれど、
『グギエェェェエエェェエ〜!!』
 赤き猛禽の悍ましい鳴き声に眉顰めればその動きは一転、彼の挙動を察したヒカタが遥か頭上の麗しき輝きを振り仰ぎ、芝居がかった声を張り上げた。
「天槍……どうか僕に、力を!」
 星の楽曲が紡がれた瞬間、輝く天槍の更に上空から燃え盛る隕石が降り注ぐ!
 眩く降り注ぐ星々を遡るように跳躍し、麻痺を吹き飛ばしたネモが放つは燃える星の狭間を翔けて炸裂させるサマーソルト、鮮烈な衝撃にのけぞった巨鳥が仰向けにひっくり返った!
「きゃあ!」
 地響きが轟いた拍子に老婦人が転んだが、即座に彼女を抱えたネモが安全な場所まで跳躍する。
「あ、あの、お名前を……!」
「――天空を護るもの、とでも呼ぶが良い」
 謎多きヒーローっぷりをばっちり決めて、天空を護るヒーローは再び戦場へ舞い戻った!

●ドラゴン爆誕!
 戦いのクライマックスは間近だぜ! とばかりに広場を席巻する一般市民の皆様の大歓声、路地の物陰から恨みます憎みますと言わんばかりに向けられる(気がする)嫉妬、そして二重の麻痺に鈍る巨大な猛禽の攻撃!
 このまま押し切れる――誰もがそう思った、瞬間。
『クキエエェー!』
 絶叫と繰り出された巨大な爪がユウの身体を大きく抉った。
 渾身の一撃とはいえ、あまりにも深すぎる痛手。激しく溢れる鮮血が彼女のみならず星霊の馬体もしとどに濡らす。
 そう。キャバリアなしで騎乗戦闘を続けていたため、通常の倍のダメージを受けたのだ。
 だが! 天誓騎士クールビューティユウに! グランスティードから降りるという選択肢はない!!
 二倍ダメージを堪えつつ、ユウはきりりと気丈な眼差しで巨鳥を見上げた。
「くっ、流石はダブドラさん……!」
「なぁユウ、もしかしてダブルレッドコンドルがダブルレッドドラゴンに脳内変換されてないか?」
「……はっ!」
 物凄くナチュラルに変換してた。
 だが! 超格好良いヒーロー達に心酔中の一般市民の皆様は、華麗でスタリッシュな天誓騎士がそんなお茶目な間違いをしたなどとは夢にも思わない!!
「ダブドラ……そうか、クールビューティユウが敵の正体を見破ったんだ!」
「何ということだ! あれはコンドルの皮をかぶったドラゴンだったのか……!!」
 えらいことになった。
 騒然とする一般市民の皆様。だが誰も、ヒーロー達の勝利を信じて疑わない!
 彼らの信頼に応えるべく、ロータスが夏空へ溌剌たる声を響かせる。
「今こそ俺らで世界に愛を咲かせるんよ、クリム!」
「ああ、合わせるぞエンジェリックふわもこフェアリー! 咲き誇るは大輪の双華!!」
 仲間の超ハイセンスなヒーローネームも躊躇いなく口にしてこそクールなヒーロー!
 瞳を見交わした妖精騎士二人が其々の相棒を羽ばたかせた瞬間、千年に一度の奇跡たる美しき世界樹の花の幻が、広場の真ん中に大きな双子花のごとく咲き誇った。
 騎士と愛馬を包んでなお余りある鮮麗な桃色の大輪花、馨しき薫風に天上の光よりも優しい慈愛に満ちた癒しと祝福。勿論ユウの傷もばっちり全快したが――更にヒカタが翼のメロディを響かせる。
 狙うはクライマックスのための超格好良い演出。
 力強い音色が天空へ翔けあがれば、ばさりと風を打つ音と共にユウの背に翼が生えた。が!
「さあ、グランスティードが天馬になったよ!」
「す、すごい!」
「あれが……物語にとかに出てくる天馬!!」
 天誓騎士様の一言で脳内補正をかけてくれる一般市民の皆様!
 盛り上がり最高潮を迎えつつあると察し、不敵な笑みを浮かべたイシュトヴァーンが黄金の穂先をダブルレッドドラゴン(仮)に突きつける!
「正義は……負けない。負けないから――正義なのよ!!」
「何と勇ましい! 騎士の鑑だ……!」
「感動の涙で前が見えないわ……!」
『クキエエェー!』
 爆ぜんばかりの大歓声を掻き消すよう絶叫したドラゴン(コンドルです)めがけ、全身全霊を乗せて突撃するイシュトヴァーン! 黄金の烈風となった彼女の吶喊は唸りをあげて揮われた巨大な翼ごと敵を貫き、仲間のための道を創る!!
「今よ、合わせて!」
「任せて! 天を守護する翼の騎士の力を――とくと見よ!!」
 天馬(仮)がユウの声に呼応するよう嘶き、皆の期待と翼(つきのユウ)を背負って駆けた。
 華々しい突撃で赤き巨体が広場に沈み、一般市民の皆様には見えない仮面が砕け散れば、
「うわああんボクたんの薔薇色の人生計画練り直しだー!!」
 路地の物陰から何者かが逃げだした。

●マルタン強襲!
 超格好良く一般市民の皆様に別れを告げ、路地へ飛び込み紋章官っぽい青年を追うヒーロー達! 疑う余地もなく、あれがダブルレッドコンドルに広場を襲撃させたマスカレイド・マルタンである。
 彼が戦うのに十分な広さのある路地裏に駆け込んだと見るや、
「さあっ、断罪の時間よ! 観念しなさい、落ちこぼれの丸太!!」
「……気に入ってもらえたようで何よりじゃ」
 間髪いれずネモ命名の仇名で挑発しつつ、イシュトヴァーンがマルタンに殴りかかった。
 断罪の女神の紋章輝く懲罰騎士の拳は、
「ボ、ボクたんが落ちこぼれとか丸太なわけあるかあぁぁあ! ほげぇ!!」
 見事挑発にひっかかって振り返ったマルタンの顔面に炸裂する!
 親にも殴られたことない超エリートなボクたんに何をする! と泣きわめきながら描かれた紋章から唐突にびっくり箱が弾け、真白な鳩の群れが押し寄せた。成程確かに威力はかなりのもの。
 だが、恐るるに足らずとばかりにまっすぐ鳩の群れを貫いて翔けたネモが、護り紐と眩い光の軌跡を描く蹴撃でマルタンの腕を砕く。
「とんだ紋章使い……いや、妄想使いじゃな。その棘も刈らせて貰うぞ」
「何処が妄想なんだよう!」
「何処もかしこもだ! そこに座れ、矯正してやる!!」
「ふぎゃあ!?」
 既に矯正しようのない相手だと解ってはいるが言わずにはいられない! 蒼き盾を構えたクリムは憤怒を爆発させる勢いで突進するとともに、渾身の力で超ダメっこを殴りつけた。
 涙や色々でぐしゃぐしゃにした顔を上げれば、マルタンの瞳に寸分の歪みもない美しき女王騎士の紋章が映る。撃ち出された風槍が彼を貫くのは当然の理。
「基本を疎かにするなかれ、といってな?」
「流石、重みが違うね」
 先達からの助言だ、と壮年の魔想紋章士がかけた言葉にナルセインが口の端を擡げた。
 敵は一人。それも火力はあれど策はなく、打たれ弱いとくれば――こちらも火力と攻め手を緩めず猛攻をかけるのみ。
「格好よさってのは自分で決めるんじゃなくて、周りが認めてくれてのもんだと思うよ」
「痛くても辛くてもさ、誰かの為に頑張るのが、ヒーローなんだよ」
 濃密な幻覚の煙と眩い彩光でそれぞれマルタンを呑み、ピノとヒカタが感情を抑えた声で告げる。
 だが。
「へ? 肝心なとこはそこじゃないよ、超格好良い活躍でヒーローになったボクたんが引く手あまたになって、超エリートな紋章官として華々しく就職するとこなんだよ!!」
 敵は思っていた以上にダメっこだった。
「これならまだ『子供の頃からヒーローになりたかったんだ!』とか言われた方がマシだったな……」
 頭痛がすると言わんばかりに額に手をやるクリム。
 この都市で戦災孤児対策室長という立場にある彼としては、子供達の憧れのひとつ・アカデミアの卒業生にこんなヘタレがいるなどと、明日を夢見る子供達に知られるわけにはいかないのだ!
 矯正ではない、成敗してやる。
 冷えた声とともに石畳を蹴ったクリムの蒼き盾が、マルタンの仮面を砕いてすべてを終わらせた。
 そう、マルタンには初めから――ヒーローになる資格などなかったのだ。

 路地を抜ければ、頭上には再び麗しき天槍の輝きと夏空の青さが眩い天空が広がった。
「あ! エンジェリックふわもこフェアリーだ!」
「俺はヒーローやないよ、人違い」
 すれ違った子供にロータスはそう微笑み返す。
 けれど。
 お前が頑張って頑張った果てに呼んだなら、きっとまた――天空のヒーローが駆けつけてくれるよ。



マスター:藍鳶カナン 紹介ページ
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いまいち
参加者:7人
作成日:2014/08/31
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