ステータス画面

朝露の森のミューズリー市

<オープニング>

●朝露の森のミューズリー市
 清麗な朝の光がきらきら零れてくるトゥリンクルの森では、瑞々しい緑の葉の先から滴り落ちてくる朝露だって飛びきり綺麗。何処までも透明に透きとおり煌いて、朝の光も森の緑もきらりと映したその水の宝石は、澄みきった水と涼やかな緑がすうっと香る。
 そんな朝と森の息吹を抱いた朝露を新鮮なミルクに落とし、次の朝まで待てば雪のように真っ白な瑞々しいヨーグルトのできあがり!
 極上のミルククリームみたいにまろやかで、清々しい朝にぴったりの軽やかで爽やかな酸味を持つそのヨーグルトは、それだけで勿論とっても美味しいけれど、何よりも朝食用のさくさくミューズリーに乗せるのにうってつけ!
 そんなわけで、いつしか朝露の森と呼ばれるようになっていたトゥリンクルの森では、いつしか毎週一回休日の朝、朝食用の色々なミューズリーやグラノーラや、それらにトッピングする食材などを売る店がいくつも集まるミューズリー市が立つようになっていた。

 基本中の基本、燕麦のオートミールやコーンに玄米のフレークは勿論、様々な穀物や個性豊かな風味で焼き上げられたグラノーラ。
 好きな店々をめぐってそれらを好きなだけ買って、さらには甘酸っぱい朝摘みベリーに森の恵みがぎゅっと詰まった何種類ものナッツ、きらきら色鮮やかな宝石のかけらを集めたようなドライフルーツ達が所狭しと並ぶ店々をめぐって好きなものを買い足して、朝露の森のミューズリー市特製ぽってりまぁるい硝子瓶に詰めてシャカシャカ振り混ぜたなら、オリジナルブレンドシリアルのできあがり!
 ――勿論、朝露のヨーグルトも忘れずに買って帰らなきゃね!
 なんて両親が子供達に片目をつむって見せる光景もよく見られる大人も子供も楽しめる市だから、ある朝小さな少女プルムが市の入口に現れても誰も不思議に思わなかった。
 何処か生意気な笑みを浮かべた少女が、こんなことを言い出すまでは。
「さあ行っくよー! ジェノサイドインコたん、あたーっく!!」
 楽しげな声が響き渡った途端、誰もが仰天した。何故なら、
『チュピ!』
『チュピピ!!』
『チュピピピー!!!』
 彼女の頭上に突如現れたセキセイインコの大群がミューズリー市に襲いかかったからである!!
「ぎゃー! うちの定番商品・安定の美味しさブランフレークがー!!」
「待って待ってそれは入荷したばっかりの最高級ピスタチオなのよやめてー!!」
「ぬおおお! 渾身の新商品・さっくりドライアップルだけは守ってみせうわああぁあ!!」
「それだけは! 今年最後の夏季限定ココナツグラノーラだけは許してイヤああぁぁああ!!」
『チュピピピー!!』
 明るいグリーンにレモン色、パステルブルーにライラック。
 美しい羽色と愛らしい姿を持つセキセイインコの大群が、ミューズリー市の店先に飢えた狼のごとく襲いかかって情け容赦なく商品を食い荒らす!!
 それは店の人々の心をごりごり抉る恐るべき精神攻撃であった。
「きゃははは! 気力が尽きたとこで皆殺しにしてやるわ! どう、プルム? これでもうあんたも毎朝オートミールばっかりのつまんない朝食から解放されるのよ!!」
 嬉々としてそう言い放つ少女の胸にある仮面は、誰にも見えない。
 瞳を輝かせてインコたんの大群を操るのは、プルムの体に憑いてプルム本人の意識を封じ込めたマスカレイドだ。
 ――え。ちょっと待ってオートミールはもうプルムもヤなんだけど、お洒落なミューズリーとかだったら一回食べてみたいなぁって、プルムずっと思ってたのに……!!
 体の奥で必死に抗うプルムをマスカレイドが嘲笑う。
「ばーかばーか、プルムのばーか! もう遅いわよ、あんたの身体は私がもらっちゃうんだから!」

●さきぶれ
「アンジュだって空気読めてるもん読めてるもんほんとだもん……!」
 朝露の森のミューズリー市でジェノサイドインコたん。
 そんなエンディングを語った暁蝶の狩猟者・アンジュ(cn0037)は全力でそう主張した。
 世界がこんな時だからこそ!
 混乱に乗じて悪しき棘が蔓延ろうとするのを見逃すわけにはいかない!
 たとえそれが、こんなジェノサイドインコたん的マスカレイドであろうとも!!
「しかもねプルムちゃんはまだ拒絶体マスカレイド! これはもうね全力で駆けつけてプルムちゃんを封じてるマスカレイドを全力全開でぶっ倒して、完全無傷でプルムちゃんを助けるっきゃないよね!」
 ってなわけで! と暁色の娘が更に熱い気勢をあげた。
「アンジュと一緒に、ジェノサイドインコたんなマスカレイドを倒しに行こうよ!!」

 恐るべきジェノサイドインコたんの脅威に見舞われるのは、永遠の森エルフヘイムの一角にある、朝露の森のミューズリー市。
 今から駆けつければマスカレイドが市に現れる直前に到着できる。
「ってことは、ミューズリー市の入口で迎撃するっきゃないよね!」
 朝露の森のミューズリー市は盛況で、この日も店はたくさん、客も大勢。
 けれど店の人々や買い物客を避難させる必要はない。というか色々無理がある。
 何故ならマスカレイドが真っ先に標的にするのは店の商品! 飢えたインコたん達に商品を襲わせ店の人々に精神的ダメージを与えるわけだが、商品を隠したり避難させる時間はないのだ!!
「ってなわけで! ここはもうアンジュ達が壁になりながら戦うしかないと思うの!!」
 自分達がジェノサイドインコたんに襲われたなら、自慢の髪とか自慢のヒゲとか自慢のアクセとかをむしられたりして心を抉られるだろうが、ここは耐えて速攻でマスカレイドを倒すのだ!!
「あとインコたんの大群の嵐で朦朧とさせられる『テンペストインコたん』って技もあるみたい!」
 こちらは魅了攻撃らしい。恐ろしい敵である。
「んでも! アンジュ達が勝てばプルムちゃん本人を無傷で助けられるの! 頑張ろうね!!」
 そして、終わったら朝露の森のミューズリー市を楽しんでいこうね、と暁色の娘は笑みを燈した。
 毎朝オートミールだけの朝食にうんざりしていた小さな少女の心に棘が忍び寄って、マスカレイドに身体を乗っ取られそうになったけれど、エンドブレイカーが棘を消滅させたからもう大丈夫。
 そう説明すれば、人情厚い市の人々が、
「なんということだ! うちのドライフルーツもっていきな!」
「私がグラノーラの美味しさを教えてあげるわ!!」
 と、よってたかってプルムの面倒をみてくれるだろう。
「だからアンジュ達は好きなようにミューズリー市を楽しんじゃっても大丈夫だと思う」

 さあ、どんなオリジナルブレンドを作ろうか。
 常夏の甘さ香るココナツ風味のグラノーラに、マンゴーやパパイヤ、パイナップル辺りのトロピカルなドライフルーツとココナツフレークを混ぜて、まだまだ夏を満喫するのも素敵。
 それか、基本の燕麦にシナモン風味のグラノーラを加え、さっくりドライアップルやサクサクさつまいもチップに干し柿のピューレ、パンプキンシードを混ぜて秋を先取りするのも楽しそう。
 濃厚なダークチョコのグラノーラに、甘酸っぱさぎゅぎゅっと凝縮されたドライラズベリー……なんて組み合わせもきっと大人の味で面白い。
「あのね、そんな風に無事ミューズリー市を楽しめたなら、また逢おうね」
 毎日のささやかな幸せ。
 きっとこれからも続くだろう激動と戦いの日々に、それは絶対に必要なものだと思うから。


マスターからのコメントを見る
参加者
花渫う風・モニカ(c01400)
漆黒ノ竜・リューウェン(c02487)
万華響・ラヴィスローズ(c02647)
陽凰姫・ゼルディア(c07051)
蜻蛉・セイイチロウ(c08752)
冱てる音吐・フォシーユ(c23031)
蒼空望む神楽巫女・シフィル(c36149)

NPC:暁蝶の狩猟者・アンジュ(cn0037)

<リプレイ>

●朝露の森のジェノサイドインコたん
 聖堂のステンドグラスから零れる光は森の木漏れ日を模したものだと言ったのは誰だったろう。
 瑞々しい森の緑の合間から射し込める清麗な朝の光を伏せた目蓋に感じながら、明るい緑と金の煌き纏ったロザリオを額に戴いた冱てる音吐・フォシーユ(c23031)は心からの祈りを捧げた。
 ――主(あるじ)よ、僕は少女を心から許したい。
 少女プルムの単調な朝食に思い起こすのは俗世を離れ神への祈りの日々を送っていた頃のこと。修道の誓願を立てる前に還俗した身ではあるけれど、
 そう!
 あの日々の沈黙の食事、そして清貧の粥がどれほど憂鬱だったことか……!!
 誰より強い少女への共感をぐぐっと握りしめたフォシーユが前を見据えたのと、仮面をあらわにした少女が市の入口に現れたのはほぼ同時。少女プルムの身体を操るマスカレイドが市を見渡し、
「さあ行っくよー! ジェノサイドインコたん、あたーっく!!」
「お待ちなさいっ!」
 愉しげに声をあげれば、それを遮るように陽凰姫・ゼルディア(c07051)の声が響き渡る。
 きゅっと小指を立てた乙女感満載スタイルで魔法のスティック握り、きらきらビジューの煌き波打つ舞台衣装を翻した歌姫が堂々たる宣戦布告を、
「ふ、美味しい市を荒らさせる訳にはいかないのよ! いざ勝負……って、きゃー!?」
『チュピ!』
『チュピピ!!』
『チュピピピー!!!』
 決めた瞬間、朝の空に突如湧きだしたインコたんの大群がゼルディアを呑み込んだ!
 明るいグリーンにレモン色、パステルブルーにライラック。ほわほわ綺麗な色彩の怒涛となって押し寄せる羽毛の波から容赦なく襲いかかる無数の爪と嘴!
「ここを通るのは僕らを倒してからになさい、この自慢のぴるぴるアホ毛はそう簡単にあ痛ー!」
「ミューズリー市も妾唯一のちゃーむぽいんとなこの眉も好きにはさせな……ひにゃああぁっ!?」
 彼女ごと市を蹂躙せんとしたインコたん達を身を挺して食いとめたのは、皆と市の壁になっていた蜻蛉・セイイチロウ(c08752)と万華響・ラヴィスローズ(c02647)、
「唯一じゃないよラヴィスローズちゃんは何もかも可愛いよ!」
「アンジュ殿の仰るとおり――いやその話はまたいずれ! 今は何よりまず早期の決着を!!」
 金の竜と跳躍した暁蝶の狩猟者・アンジュ(cn0037)に反射で同意した言葉に微かに赤面しつつ、漆黒ノ竜・リューウェン(c02487)が喚ぶのは戦闘光輪、やはりほんのり頬を染めたラヴィスローズの星霊ジェナスが津波と共に躍りかかったなら、彼の光輪とセイイチロウの突風が巻き上げた砂塵が左右から少女を襲う。
「みんなが楽しみにしていたミューズリー市をめちゃくちゃにしないで!」
「インコたん達はとっても情熱的だけど、食い荒らさせるわけにはいかないの!」
 確実にギアスが刻み込まれたのを見れば、蒼空望む神楽巫女・シフィル(c36149)が撃ち出すのは神鏡の光でなく魔力の月輪、月の輝き追って放たれた花渫う風・モニカ(c01400)の魔鍵が少女の影を縫いとめれば、
「一緒に市を楽しむために――まず、棘を落とそうか」
 この場は任せて欲しい、と騒ぎに驚くひとびとへエンドブレイカーと名乗って告げたフォシーユが、少女でなく棘への葬送歌でマスカレイドを包み込んだ。
「折角プルムの身体を頂くチャンスなのに、邪魔しないで!」
『チュピ!』
『チュピピ!!』
「そうはさせないんだよ! って、いやああぁー!?」 
 幼い顔を苦々しげに歪めたマスカレイドが再び放つ怒涛のインコたん!
 気丈に声を張ったシフィルが市を背に護るけれど、華奢な身体を呑み込んだ大群が柔らかな髪や空色の花飾りへ一斉に襲いかかればたちまち逃げ出したくなってしまう。
 ――だめ! お兄ちゃんからもらった髪飾りだけは……!
 だが固く目を瞑りそうになった瞬間、シフィルに群がるインコたんを跳ね返すように、通りすがりの城塞にゃんこ騎士の不動城壁が聳え立つ!
 勇気づけられたシフィルはぐっと月の剣を握り込み、
「プルムちゃんはもっといい子のはずだもん! 助けるからね、ぜったい!!」
 ここで逃げたらお兄ちゃんに笑われちゃうと仮面を見据え、輝ける月の魔力を解き放った。

●朝露の森のテンペストインコたん
 明るいグリーンにレモン色、パステルブルーにライラック。インコたん達の大群は優しい春を描いたパステル画の彩のよう。けれどインコたん達は本物の鳥ではなく、あくまで精神を攻撃する魔法だ。ゆえに――囮の飾りではなく本当に大切なものへ容赦なく襲いかかった。
 猛攻に晒された外套の銀刺繍のほつれに心痛めつつもリューウェンが挑発すれば、
「この市を襲うと却ってオートミールの朝食から抜け出せぬかもしれないな」
「きゃはは、それって素敵! 悪いことした挙句それでもオートミールから逃げられないってなったら、もっとプラムが傷つくもの!」
 子供っぽい残酷さで笑った敵が叩きつけたのは愛らしき嵐!
『チュピピ!』
『チュピピピ〜?』
 剣士を呑み込んだテンペストなインコたん達はほわほわの羽毛で頬や心を擽って、あまつさえその肩や手にちょこんと止まって小首を傾げ……!
「く……! 俺には相棒ペンギンと相棒家族が――!!」
「そうよ耐えてリューウェン君! ダメダメ浮気だめ絶対!!」
 何て恐ろしい魅了の嵐!
 これがオカメインコたんだったら私一撃で悩殺されてたわ、とぷるぷるしつつ、彼の十字の斬撃に続いたゼルディアが銀月の一閃でマスカレイドを押し返せば、次は彼女が嵐に呑まれる番だ。
『チュピ、チュピピ?』
「いや、ダメ! 耳とか指とか優しく啄んじゃダメー……!!」
 嗚呼、描き出されたのは極楽浄土か地獄絵図か。
 文字通り全身全霊でもって、終焉に抗う者達はミューズリー市の盾となって戦い続けた。
「市の平和とアンジュは私が守る! って、いやーっ!? 一瞬にしてアフロがー!!??」
「うわああん! アンジュのはんさむだんでーさんのアフロがー!!」
 自慢のアフロと共に盾となり、壮絶な出オチを果たした某農園主が頽れる。
「なんとまぁアグレッシブなインコたん……ってあ痛っ! 髪はやめて髪は!!」
「毛は、髪はまた生えてきますよ大丈夫――って、待ってお気に入りのメガネは持ってかないで!!」
 尻尾めく漆黒の髪を犠牲にした知己(次は衣服の裂け目から覗く紅椿が狙われそう!)とアホ毛を犠牲にした自分を慰めながら宙に舞い、梢の合間の高みから鮮烈な一撃を見舞ったセイイチロウが頭突きを追加すれば、いったぁーい! と涙目になった少女が放つインコたんが彼の眼鏡や鼻先をもみくちゃにした。こっちも涙目になりそう。
「それでも! 僕の誇りは折れません……!」
 凄まじい棘と心の削り合い!
 ごりごり抉られていく皆の心そのものは癒せずとも、せめて気勢を満たせるようと喉も心も震わせ、力強い凱歌を歌い上げたフォシーユが、仲間だけでなく棘の奥にいるだろうプルムへも瞳を向け、
「あなたの本当の願い、ここで叶えよう」
『チュピピピー!』
「ふぎゃあー!!??」
 誓いの言葉を紡いだ途端にインコたんに呑み込まれた!
 嗚呼、木漏れ日煌く金髪や肩の華やかな金モールがぶちぶち千切られる音が心に痛い。けれど、
 ――真っ先にロザリオを仕舞い込んでて、本当に良かった……!
 広がるのは惨憺たる(主に心象)風景。だが夥しい犠牲を払いつつも、その甲斐あっていまだ市の被害は皆無!
 このまま棘を狩りつくせば――完全勝利だ!!
「ちょっと痛いかもしれないけど、我慢してねプルムちゃん!」
「んもう、ほんっと邪魔なんだからあんた達!」
 棘に囚われた少女を救うべくシフィルが放った月の円刃が棘を斬り裂けば、いよいよ切羽詰まったマスカレイドが破れかぶれで突っ込んできた。しかし、
「先へは行かせぬ!」
 縺れた髪にちょっぴり涙目なラヴィスローズを乗せた星霊ノソリンの尾が思いきり敵を打ち据える。仮面に罅が奔る音に笑みを綻ばせ、モニカが狙い撃つのは少女の影。
「ね、わかるよプルムちゃん。毎朝同じ朝食じゃ飽き飽きしちゃうよね」
 ――満ち足りた一日は、幸せな朝食を摂るところから始まるんだもの。
 朝の光柔らかに弾く真鍮の鍵が影を穿てば仮面は粉々に砕け散り、棘から解放された無傷の少女プルムがぽふりとモニカの腕の中に倒れ込んできた。

●朝露の森のミューズリー市
 透きとおる朝露が梢の葉先から今にも滴り落ちそうだ。
 きらり光を弾くそれを覗けば、くるり丸めたような森と澄んだ朝の空が透明な水滴に映り込む。
「わあ……!」
 歓声あげるシフィルの姿に笑み零し、ラヴィスローズは用意してきた櫛でインコたんの犠牲になったリューウェンの髪を丁寧に梳いた。勿論自分の髪もつやつやさらさら元通り。
 彼の髪を後ろでひとつに編み込めば、
「出来上がり! ほら、お似合いじゃよリュー殿」
「これは……我ながらとても新鮮だな」
 薔薇に彩られた手鏡を借りたリューウェンが面映ゆそうに微笑する。
 いつもよりもっと優しげな感じ! と彼の姿に笑んだアンジュの髪にはラヴィスローズが編み込んだインコっぽいレモン色のリボン。まだいくつもリボンはあるから、ラヴィスローズは年下の少女達にも呼びかけた。
「良かったらシフィル殿も如何じゃろう? プルム殿も!」
「わ、お願いします! プルムちゃんも行く?」
「行くー!」
 頭を撫でれば小さな少女が飛びきり嬉しげに笑ったから、シフィルはその手をきゅっと握り、一緒に仲間の許へと駆け出した。
 お揃いのリボンを飾ってもらったなら――さあ、ミューズリー市めぐりの始まりだ。
「わーんどうしよう、これ絶対硝子瓶足りなくなっちゃう……!」
「大丈夫だよ硝子瓶買い足すのは朝乙女の宿命だよ!」
 ぽってりまぁるい硝子瓶はまるでハニーポットのよう。煌きいっぱい詰め込まれるのを待つ硝子瓶を胸に抱えたモニカとアンジュの眼前に広がるのは、森と大地の恵みたっぷり抱いた幸せの宝箱。
 黄粉を塗した黒糖グラノーラの香りは甘く香ばしく、甘味濃厚なレーズンとは好相性間違いなしで、軽やかなバニラ風味のコーンフレークに木苺やチョコチップを混ぜるのだって飛びきり素敵!
 ひと抱えはありそうな木の大皿に山盛りの食材達、きらきらと輝く桃やキウイのドライフルーツ達を大きな木匙で掬って硝子瓶に入れるたび、モニカの心にも煌く幸せ降りつもる。
 先程の騒動の事情を語ればミューズリー市のひとびとは勿論プルムを大歓迎。
 シフィルやラヴィスローズと手を繋ぎ、様々な食材に瞳を輝かせる少女の様子に眦緩め、
「オートミールのポリッジなんかもトッピングを工夫すりゃ美味いと思いますが――」
 綺麗な砂丘のように盛られたオートミールを指してセイイチロウが言ってみれば、
「粥……」
「プルム煮込むのはもうヤかも……」
「あの舌触りとか私もちょっと苦手なのよね、わかるなぁ……」
 遠い目になるフォシーユに、顔を曇らすプルムとその頭を撫でてやるゼルディア。
 ポリッジ、つまり粥。伝統的な調理法である以上、きちんと作れば美味しいはずだけど。
「折角これだけあるんだ、他も色々試すといいですよ」
 やっぱり不評ですかと笑ってセイイチロウも数多溢れる宝物へ瞳を向けた。
 胡麻風味の玄米フレークにさくさくのライスパフ、香ばしい東方的な香りが鼻先擽れば心が和む。
 そう!
 ぴるぴるしてた辺りがちょっぴり涼しいこの心の傷も、きっと買い物で癒される! はず!!
 駆けて来た娘が「すぐまたぴるぴるできるよ!」と彼を慰め、柑橘仲間の姿に声を弾ませた。
「ゼルディアちゃん! あっちにクレメンタインがいたー!」
「アンジュさんナイス! 待っててすぐ行くわ!!」
 ミニチュアのオレンジや蜜柑思わすその果実のスライスドライはさながら宝石細工、オレンジの煌き好きなだけ硝子瓶に詰めたなら、続いてゼルディアを誘惑するのは甘くて苦いチョコレートやココアを纏ったグラノーラ。
 おうちで待ってる桃色オウムやゆずひよこには極上のオートミールも忘れずに!
 嗚呼、オリジナルブレンドが作れるって本当に素敵――!!
 淡く蜂蜜を纏ったブランフレークにさくさくバナナチップ、彩と味のアクセントには甘酸っぱさぎゅっと詰まったドライストロベリー。
 製菓の素材としてでなく食事としてシリアルを食べるのは初めてだというリューウェンは、市の皆に勧められるままいかにも朝食らしい組み合わせを硝子瓶に詰めていく。
 傍らのラヴィスローズの心を捕えたのはとろり艶やかなミルクショコラのグラノーラ。
 蜜漬けオレンジピールに蕩けるように甘く香るココナツも加え、
「……もう少し何か入れたいのう。アンジュ殿へるぷなのじゃっ!」
「はいはいはーい! アンジュならパイナップルとクラッシュピスタチオ足すよ!」
 夏陽の煌きと鮮やかな緑が加わる様にリューウェンも瞳を細め、
「ラヴィスローズ殿、俺のに足すとすれば何が良いだろう」
「シナモン風味のグラノーラや干し林檎! リュー殿がお好きな紅茶にも合うと思うの」
「そうだ! モニカはミルク派だけど、シリアルにチャイやココアを注ぐのも美味しそう……!」
「美味しいと思います! ぜったい!」
 訊けば途端にシフィルにまで話が広がっていく。
 秋の先取りブレンドにはヨーグルトは勿論、ココアだってきっと美味しい。
 パンプキンチョコ風味のグラノーラにさつまいもチップやドライアップル、
「あとは、えーと……」
「ほら、こいつもなかなか美味そうですよ」
 辺りをきょろきょろ見回すシフィルにセイイチロウが勧めたのは、ふっくら蒸して乾燥させたさくふわ食感の干し小豆。己の東方ブレンドにも当然小豆を迎え、後は干し柿や林檎とホワイトチョコを加え、目指すは自家製グラノーラ。
「仕上げにゃ抹茶を塗したいとこですが……そっちは製菓市で買うのが良さそうですね」
 名案だね、と微笑したフォシーユの硝子瓶には、ほんのり黍砂糖を纏った玄米フレークにさくさくの南瓜やさつまいもチップ、香り豊かなヘーゼルナッツ。
 実りの季節を先取りした瓶を抱えれば暖かな幸せを抱いたよう。林檎に苺、メロンにパイナップル、宝石の詰め合わせめいたダイスカットのドライフルーツも揃えれば――蜜色の小鳥みたいな彼女を朝食に誘う理由になるだろうか。
 誰かのいる食卓を想像すれば、思った以上に心が弾んだ。

 真っ白な朝露のヨーグルトも買ったから、きっと明日もまっさらな朝がやってくる。
 素朴なミューズリーに蜂蜜とヨーグルト、そして一晩ヨーグルトに漬けたぷるぷるのドライフルーツもたっぷり乗せて、モニカの明日の朝食の仕上げは冷たいミルク!
 今日の終わりにベッドに入ったら、そんな幸せを胸に描きながら眠りにつこう。
 それは明日を生きるのが何倍も楽しみになる、飛びっきりのおまじない。



マスター:藍鳶カナン 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:7人
作成日:2014/09/18
  • 得票数:
  • 楽しい6 
  • 笑える66 
  • 泣ける16 
  • 怖すぎ25 
  • ハートフル7 
冒険結果:成功!
  • 生死不明:
  • なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。