ステータス画面

白の娘

<オープニング>

 いびつな姿をした少女は二度、白い靴で地を蹴った。
 緩やかな動作で靴に手をかけするりと彼女は靴を脱ぐ。すると現れた白い靴下も、彼女は一息に脱ぎ去った。
 彼女は裸足で地面に降り立つ。白い花の咲き乱れる公園は、この村では一番の憩いの場であった。ほどよい木陰と、白い花の咲き乱れる道々。公園の中を通る小川からは、ささやかなせせらぎが聞こえてくる。……そんな場所を。
「……ね、ちゃんと見てた? ああ、もう見えないんだっけ。きいてた?」
 突如現れたその少女は、瞬く間に血で染めた。裸足の足で地面を踏むと、血で赤く染まった花が押し潰されて少女の足まで赤く染めた。
「ど……して」
 声をかけられた女が呟く。最初に少女に襲われた女だった。……死んではいないが声を発するのがやっとの状況であった。霞んだ目で女は辛うじて少女を見ようとする。
 最初は少女に見えた。長い髪の白い少女。けれど違った。彼女の身体はあちこちが人間にしては不思議にいびつで歪んでいる。
 その中でも目立つのが、白くて長い髪であった。彼女の髪は奇妙に変形し、彼女や、そして周囲にいる家族や老夫婦に食らいつき、倒し、そして周囲を血に染めた。
 そして話はそれだけに留まらず、殺戮は長く続いた。駆けつけてきた男達を、様子を見に来た女達を。微かでも少女の視界にうつった者は、少女と彼女の従えたもので叩き潰しすり潰し地に伏せさせる。小さな村の大半の人間を倒すまで、そう長い時間はかからなかった。霞んだ目で、その耳だけで、女達はその惨状を聞き続けた。
「さぁ、どうしてかしら。考えてみて? ……あぁ、でも」
 少女の声の端には、おかしくて堪らないというような色が混じっていた。
「そんなに待っていられないわ。ここに来ない、逃げた人を、狩りに行かなきゃね。……大丈夫、もうそんなに残ってないわ。子供はみんな、ここに連れてきて逆さに吊して泣きやむまで叩き潰してあげるから」
 女の悲鳴と、子供の名を呼ぶ声が、周囲に響き渡っていった……。


「世界革命……ですか?」
 群竜士・ベル(cn0022)は天誓騎士・カレン(cn0200)の怪訝そうな言葉に小さく頷いた。手元にあった小さな紙を手繰り寄せる。
「世界革命って言うのは……ええと、バルムントの鍵で37体のマスターデモンを地上に呼び出した、世界革命家『鉄の首・バルムント』によって引き起こされそうになった、世界の終焉の一つです」
 書いたメモを読み上げただけ、と言う有様に、カレンは首を傾げた。
「ベルさん……なんだか妙に棒読みですよ」
「まあ、読んでるだけだからね。まあ、そう言うことがあったんだって。それは昔、ラズワルドを始めとする七勇者とその仲間の勇者達によって阻止されたくさいんだけど、今の時代は勇者がいないので、僕達が頑張りましょうって話……みたい」
 そう言うと、ぱさりとベルは紙をテーブルに放り投げた。カレンはその紙を覗き込む。
「デモンと融合したデモン人間……ですか。影の中に身を隠して、ひょいっと現れるんですね。周囲の様子や音も確認できる……」
「うん。ただ隠れていた影が無くなったり、逆に周囲の光が全く無くなった場合は、影の中から強制的に外に出されるみたい。影から影へ移動も出来るけれど、影が繋がってないと移動できない」
「でもそれだと……危なくなったら影に逃げ込まれちゃうんじゃないですか?」
「それも平気。何らかのアビリティを使用したら、しばらくの間その力は使えなくなるから、その間に倒せばいい」
 成る程、とカレンは感心したように頷いたので、ベルは話を続ける。
「今回僕が話をしているのは、丁度お昼時の公園に現れて、その周囲の人間を倒した後、駆けつけてきた人間を倒して、最後は逃げる老人とか子供とかを追いかけて探して倒す……。そんな感じ。現れるのは今言ったデモン人間と、配下のレッサーデーモンが二体。どれもデモニスタのお兄さんやお姉さんみたいな力を持ってる」
 それと、と彼は続ける。駆けつけることが出来るのは周囲の人間を彼女が倒して次の被害者が駆けつけるのと同じぐらいだと彼は付け足した。
「彼女に襲われた人たちは、死んではない。けれど、頭の中に留めておいて」
 何らかの対処が必要になるんじゃないかな、と、彼はそう付け足した。
「デモン人間の目的は、世界を夜の闇に閉ざすことなんだって」
 それ以上、言うことがなかったのか。しばしの沈黙の末、ベルはそう言う。そう言えば綺麗な脚だったな、と割とどうでも良いことを呟いた後、
「彼等はマスカレイドじゃないけど、まあ、そう言うの放っておけないよね。昔勇者達が、鉄の首・バルムントの世界革命を阻止したのにならって、僕達も、何とか……出来たらいいね?」
 最後曖昧な感じになった。ベルは一つ首を傾げると、
「ま、僕も一緒にひっついていくから、どうぞよろしくお願いします」
 なんて言って話を締めくくるのであった。


マスターからのコメントを見る
参加者
天蒼牙・シャオリィ(c00368)
リヴフリーキー・アントワネット(c00856)
月氷の深海・セラフィーナ(c02496)
王道滅却紅蓮の炎・ファルゥ(c05128)
ごめんあそばせ・ウルル(c08619)
楓・ラン(c15073)
紫水晶の・オペラ(c34602)

NPC:群竜士・ベル(cn0022)

<リプレイ>

●闇の色
 彼女に何が起こったのか。それはもう本人にしか解らないことだ。
 けれども……。紫水晶の・オペラ(c34602)は現場を最初に訪れたときに思う。
 一歩間違えれば、この血の海の真ん中で、さもおかしそうに笑っていた少女は、
 もしかしたら……自分である可能性もあったのだと。
「……まあ、少女というには些かトウが立ちすぎているがの」
 独白に、リヴフリーキー・アントワネット(c00856)は微かに首を傾げる。そして己の胸に軽く手を宛てた。デモニスタとソーンイーターの女二人は、デモンの叛乱を経て胸に思うことがあったのだろう。
「なんにせよ、いまの私……いえ、私たちなら不思議と負ける気がしませんわ」
 己の胸の内のデモンに語りかけるようにして、アントワネットは小さく頷く。そして、
「行きますわよ、相棒!」
 その、紅い公園の中に足を踏み入れた。

「あら、新しい、お客さんだね」
 そして、予定通り。公園の中で白い娘は待っていた。足と髪の綺麗な娘だったけれど、身体の一部がデモンに融合して歪んでいる。
「いっぱい? でも大丈夫。一瞬で切り刻んで……」
「わたし達はエンドブレイカーです! 皆さんを助けに参りましたわ! 無事な方はここには近寄らないで。後は任せてください!」
 得意げな娘台詞をごめんあそばせ・ウルル(c08619)が大きく声を上げて遮った。公園内に立ち入ろうとする人を、止めるよう声を上げる。突入前にも声をかけながら進んできた。これ以上犠牲者は出さない。
 そしてウルルは即座に周囲を見回して、デモン……娘の配下のレッサーデモンが全て具現化していることを確認した。……逃がしはしない。
 血に倒れ伏していた人々の間から微かに呻き声が上がる。助けてと、小さな声がした。即座に月氷の深海・セラフィーナ(c02496)が駆け寄り抱え上げる。
「大丈夫。此処から離れて。……直ぐに終わらせるから心配はないよ。ベル君、ウルル、頼んだよ」
「ん」
 抱え上げた人を、群竜士・ベル(cn0022)に手渡す。娘はその様子に一瞬、呆気にとられて我に返り、
「私の邪魔、させないわ! 走って!」
 声に合わせてデモンを走らせた。影のようにデモンは滑り、人を抱えるベルの方へと走ろうとするも、
「ベルさんは私が守りますよぉ〜! そして〜!」
 赤い髪を翻し、王道滅却紅蓮の炎・ファルゥ(c05128)が燃えるような城壁のオーラと共にデモンへと突撃して阻んだ。
「これ以上の行動は〜許さないのです〜! 私達が来たからにはもう安全ですよぉ〜!」
 びしっ。とトンファー烈風霧空丸を娘に突きつけて高らかに宣言する。
「なんていうか……派手だな」
 その隣でもう一体のデモンに天蒼牙・シャオリィ(c00368)がハルバートを突きつける。獲物を回転させながら突撃し、確実に敵を切り裂いていく。
「シャオリィ君も何か格好の良いことでも言ったら?」
「言ってないで、早く」
 ベルの言葉にシャオリィは軽く手を振る。そして敵へと向き直り、
「……悪趣味だな。お前が何を考えているかなんて分からないけれど……俺達がいる限り、目的は完遂させないぞ」
 その言いように娘は一つ瞬きをした。しかし意外そうな顔はすぐに、笑みへと変わっていく。
「良いわ……。私に刃向かうとどうなるか、思い知らせてあげる!」
「お主の意識はデモンなのか? それとも元々の体の主なのか? まぁ、どちらにしろ止めるのに変わりはないが」
 そのさもおかしそうな笑みに、オペラが光の翼で風を起こしながら問いかける。娘は首を横に振った。
「どちらでも良いでしょう? ……どちらも一緒よ。遊ぶのは好きよ。この人達を仲間にしちゃうっていう、目的とは少し違うけれど……」
 言いながらも、娘の髪がするりと伸びる。足元に転がる女の胸にその刃のような切っ先を振り下ろす。
「遊んであげる!」
「……!」
 肉が割けるような音がして、血が落ちた。アントワネットは僅かに眉根を寄せる。庇うように出した腕に、娘の髪が突き刺さっていた。
「させません!」
 ウルルが即座に走って、アントワネットが庇う女を抱き寄せる。
「そうすると思った!」
 しかしそれを、再び娘の紫炎が襲おうとしたときに、
「……それは此方の台詞よ、お嬢さん」
 すっと一本の魔鍵が走る。娘の影を縫い止めて、楓・ラン(c15073)が静かにそう言った。不発となる紫の炎に、娘は舌打ちする。
「今の内に。……気をつけて」
「うん、お姉さんもね」
「善処はするわ、ご主人様」
 ベルの言葉にランは微かに頷いた。


「さあ、こちらですわ! 皆さん、元気を出し……きゃっ」
 女性を抱え走っていたウルルが重さに蹌踉ける。ベルがその手を掴んだ。
「いける?」
「失礼いたしましたわ。……大丈夫です!」
「よっしゃ、歩けない怪我人は俺に任せとけ!」
 娘の視界から外れた、安全そうな所まで怪我人を運ぶ。手伝いに来ていたジルが治療に当たっていた。
「ここのことは大丈夫だから、早く向こうに戻りな!」
「はい、ありがとうございます」
 ウルルも女性をジルに預ける。譫言のように彼女が、息子を、息子をと呟いていて、ウルルはそっと一度だけその手を握った。
「大丈夫。あのお相手はわたし達がきっちり倒してきますから」
「ベル、セラとファルのこと頼んだぜ! ……あ、そういう意味じゃないからな。そういう意味じゃなくて……!」
「解ってるって。大事にするよ」
 やらん、と言うジルにベルはまた意地悪く返して、そして二人は走り出した。


●白い娘
「ばさばさでカチカチにするですよ〜!」
「援護するよ!」
 ファルゥが氷に変化した翼でデモンを突き刺す。手伝いに来ていたアヤカの気咬弾が走った。
「黒の塔のレッサーデモンって確か能力の学習機能あったよな。デモニスタの技しか使わないのもデモンの影響なのかな……」
「わかりません〜……が!」
「が?」
「もうちょっとで〜倒せます!」
 ぐぐっ。と力説するファルゥに、シャオリィは小さく吹き出す。そうだな、と言いながら目の前のデモンにハルバートを回転させながら叩きつける。
「ちょっと、色々考える癖があるんだ。悪い癖かな」
「そんなことは、無いと思うわよ?」
 ランが流麗な動作で魔鍵を翳す。彼女は楽園の門を開く。その光によって傷を癒す一方で、余り表情を変えないまま小さく頷いた。
「若いときの苦労は、買ってでもしろって言うもの」
「なんだか妙に、年寄り臭い話じゃのぉ。わらわが言うものでもないが」
 何処か悟りを開いたようなランの言葉に、オペラが思わず呟いてデモン化した髪をファルゥの目の前にいるデモンへと叩きつける。
「倒しきれなんだ……。頼むぞ!」
「お〜ま〜か〜せ〜……です〜!」
 言うや否や、ファルゥが全力でオーラをデモンに叩きつけて壊す。
「次〜!」
「はい。さっさと片をつけましょう」
 アントワネットもすぐさまシャオリィの前の敵へと向き直り、衝撃波でデモンを十字に切り裂いた。
「貴女の言葉、捻じって返しますわよ。泣き疲れて、泣きやむまで、叩き潰してさしあげますわ……!」
 大鎌と共に振るわれた刃は、何処か普段の彼女とは違う手応えが感じられた。崩れ落ちるデモンを見届けて一度、アントワネットは己の獲物を握りしめる。
「私は、貴女とは違います……。この力、受け入れて。そして強くなってみせますわ……!」
 倒れるデモンに力強く彼女が頷いたとき、ウルルとベルが走ってきた。
「お待たせいたしましたわ! ここから先は、お任せ下さい」
「うん、じゃ、私も前に出るね」
「ん。行ってらっしゃい!」
 ランが太刀に手をかける。ベルがその背中を押して、ランは走り出した。

 その、少し前。
「もうちょっとでみんながこっちに来るから、頑張って!」
 手伝いに来ていたチサカの神楽舞に、セラフィーナは頷いて目の前の娘に向き直った。
「わたし程度も踏み潰せぬような”夜の闇”など、大したことはないね?」
 からかっているようにも、淡々と事実を述べているようにもとれるその口ぶりで、セラフィーナは惨劇を繰り返す。その攻撃によって徐々に身体が凍結していくのに気付き、娘は声を上げる。
「うそよ! 私が、こんな……!」
「これが、事実だよ。闇も絶望も全て浚ってしまおう。人々が憂いなく明日へ向かえる様に」
 セラフィーナの一撃一撃に、娘は悲鳴を上げる。応戦する髪の攻撃もすさまじく、セラフィーナの身体にもどんどん傷が刻まれていった。
「……”夜の闇”など、来させはしない。それよりも強い光で、わたしが、わたし達が、世界を照らそう」
 それでもセラフィーナは怯まずに表見を振るい続ける。娘は怒りに染まる目で天から無数の刃を召喚した。
「この……!」
「……其処まで」
 しかしその一瞬前、流れるような黒髪が娘の懐に潜り込む。そしていっそ緩やかで、しかし一瞬のランの斬撃が、娘の身体を更に紅く血で染めた。
「ここから先は、私達も相手になりますね」
 月のような一閃。言葉と同時に軽く刀を振って血を払い納刀する。
「ですよ! ですよ! ですよ〜! みんなみ〜んな、ファルゥが護っちゃうのです〜!」
 続けざまにファルゥも突撃した。オーラを伴う突撃に娘は歯を食いしばり一歩下がる。しかしその頃には、既にアントワネットの鎌が彼女を捕らえていた。
「ちゃんと見ていなさい。見えないのなら、聞きなさい。貴女がたがどこの誰であろうと、非道や不幸な結末は台無しにせずにはいられない、私たちの姿を。私たちの声を」
 十字に切り裂くような力強い攻撃の後にすかさずシャオリィが続く。一度くるりとハルバートを旋回させた。
「……許せない……。本当に許せない! 折角の、私の場所だったのに! せっかくの……私の景色だったのに!」
 血に染まりながら、唇をかんで娘は天から無数の剣を召喚する。
「その綺麗な場所を、血で染めたのはそっちだろ。どうして……」
 言いかけて、少し言いよどみ、シャオリィはやめる。彼には理解できない。白は好きな色なのに、それを赤く染めることも。自分の景色だと言いながら、其処を赤く染めるということも。
 問いかけても、納得いく答えが返ってこないことは解っている。そういうものだと思うしかないのだけれど。
「絶望させた人が夜、デモンになるのなら。もしかして、このひとも何かに絶望した人間なのかしら……」
 その心中を察してか、ウルルがぽつりと呟いた。舞で仲間の傷を癒しながらも、その目は娘の姿を捕らえていた。血塗れの姿でしかし、娘は笑う。
「何であんた達に、教えてあげなきゃいけないのよ。……私、は! 最後まで屈したりはしない!」
 無数の剣が降ってくる。それに身体を切り刻まれながらも、とっさにセラフィーナは瑠璃紺の扇を振るった。間を縫うようにして襲いかかる髪を、何とか受け止めようとする。
「あんた達とは……違う! この世界に、私が、わたし達が……!」
「く……っ」
「ダメです〜!」
 ファルゥが叫んで、氷の翼で黒髪を凍らせて壊す。ベルの援護する光と共に、セラフィーナの腕を貫いていた髪を引きちぎった。
「済まない。……ありがとう」
「いえいえ〜。ファルゥに、何でも、お任せあれ!」
 フォローするように立ち回るファルゥ。再び走った娘の髪を、シャオリィが叩き落とす。
「だったら、俺達も……負けてやるわけには、いかない!」
「醜い……ですね。そのような相手に、私達は負けません!」
 アントワネットが大鎌を振るう手に力を込める。
「貴女のような負けた者は……相応しい場所に送りましょう」
「私は、まだ、負けてない……!」
 泣き叫ぶような娘の言葉に、オペラが小さく息を吐いて、
「是非に及ばず……。と、いうことかのぅ。どうにもまともに、会話が出来る相手では無さそうじゃ。……もっとも」
 最初から、解っていたことなのだけれど、と。独白する。その表情は俯いていて解らないけれど、声は少し寂しそうにも聞こえた。けれども聞き間違いかも知れなかった。オペラは血の猟犬を作り出し、
「……喰らうがいい。あの叛乱を乗り越えたわらわとお主の格の違いを見せてやろうぞ」
 号令と共に、オペラの猟犬が走り出す。それは娘に食らいつき、血を啜る。悲鳴は暫くすると途切れ……そして、消えていった。


●陽光
 死体に刻印を刻みつけ、オペラは祈る。
 背後では、怪我人の治療が行われていた。
「随分と……派手にやってしまったようじゃのぅ」
 何処か語りかけるような口調は、やはり少し、思うところがあるのかも知れない。
「お疲れ様。本当に、皆無事で良かった」
 一人一人、セラフィーナが村人に声をかけて回っている。幸いなことに、怪我人は多いが死者は出なかった。
「……あの」
 何処か困ったようなランの声がする。どうやら子供に泣かれているらしい。子供は彼女の服の袖を握ったまま離さない。そして泣きやまない。
「ん、お姉さん、似合ってるよ」
「そういうことを言ってるんじゃないの」
 真面目くさった顔のベルに言われて、ランは困ったように子供を抱き上げる。シャオリィに目をやると、彼は彼で首を横に振るのであった。
「泣いてる子供の相手は、ちょっと……」
 苦手というか、どうしたらいいのか解らないと彼が言いかけたところに、
「あ〜! あそこです〜! お母さんが〜お迎えに来ましたよ〜!」
 ファルゥが手を引っ張って女性を連れてくる。ランが子供を地面に降ろすと、子供は母親に駆け寄っていく。
 再開を喜ぶ声を聞いて、何となく四人は顔を見合わせて息をついた。
「この景色を……闇に閉ざしてしまおうとするなんて、やっぱり、許すことは出来ませんね」
 それを見ていたウルルがぽつりとそう呟くと、皆も小さく頷く。
「まだまだ……これからなんだな」
 シャオリィがしみじみとそう言って、
「でも、少しずつ頑張りますよ〜」
 ファルゥがどんと胸を叩いたのであった。

 そんなやりとりを背中で聞いている間に、儀式は完成する。消えていく死体を見送って、オペラは息をついた。それを後ろで見守っていたアントワネットが天を見上げる。
「何とも……綺麗な空ですわね」
 眩しいぐらいに、と、アントワネットは呟いた。最後に口の中で発するのは、いつもの贈る言葉。それを聞き届けて、死体は消滅する。
 オペラはスカートの埃を払って立ち上がった。同様に天を見上げ、そしてなにやら騒いでいる仲間達を振り返る。
「もしかしたらわらわもこうなる可能性があったと思うと……ゾッとせぬな。だが、まあ」
 それほど気にすることもないだろう。とオペラは一つ、大きく頷いた。
 この明るい場所と、人を少しでも愛おしく思うから、
 世界の闇とやらに身をゆだねるのは、まだ早いと思えるのだ。



マスター:ふじもりみきや 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:7人
作成日:2014/09/09
  • 得票数:
  • カッコいい7 
冒険結果:成功!
  • 生死不明:
  • なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。