ステータス画面

夏空のペンギンストリーム

<オープニング>

●夏空の街ラーラマーレ
 世界のすべてが鮮やかに輝くこの季節、遥かな星霊建築の天蓋は眩い夏空の青を映しだす。
 夏の煌きをぎゅっと詰め込んだみたいな青空のもとに広がるのは、夏空の青をそのまま映しとって輝く広大な湖だ。大地に落とされた夏空の滴を思わすこの湖の名はマーレ、明るい紺碧に透きとおる波寄せるマーレの湖畔には、緑鮮やかな街路樹と白く輝く街並みが印象的なラーラマーレという街が広がっていた。
 夏空の街と呼ばれるラーラマーレの住人は、夏の陽のように明るく陽気なひとびとと、人懐っこくて愛嬌たっぷりのペンギン達。黒と白のコントラストが鮮やかなペンギン達は、真っ白な胸元にひとすじ夏空色のラインを持つ夏空の街の鳥、マーレペンギンと呼ばれる彼らは、街路の植え込みの中や、民家の庭先、果ては毎晩賑わう酒場のカウンターの下――と、街の様々な場所に巣を作り、人々の営みにしっかりばっちり溶け込んでいる。
 眩い陽射しに照り映える白の街並みに緑鮮やかな街路樹達が色濃い影をくっきりと描きだす街に網の目のごとく張りめぐらされた運河も夏空の青。夏空をそのまま透きとおらせたような鮮麗な青に澄み渡る水の流れは、夏空の街ラーラマーレを抱く広大な湖、マーレへと流れ込んでいた。
 街から湖へと運河の水が流れ込む箇所は数十を数え、そのすべてに水門が設けられている。
 常に開放されている水門がほとんどだが、大型のゴンドラが通る際にのみ開放される水門や、街に市が立つ日にのみ開放される水門など、特別な時にのみ開かれる水門も幾つかあった。その特別な水門のうちのひとつ、蒼穹の門と呼ばれる水門は――夏のある日にのみ開かれる。

●夏空のペンギンストリーム
 夏空色の水面を透かして更なる青に染まる蒼穹の門が開かれる瞬間を、街の人々やペンギン達は今か今かと待っている。普段は閉じられているこの大きな水門が開かれれば運河の流れが変わり、流れ込む先の湖底の地形が関係するのか、勢いのある複雑な流れが生みだされるのだ。
 光の波紋が揺らめく水の中、ゆっくり蒼穹の門が開かれれば――水の流れが一気に勢いづいた。
 緑鮮やかな街路樹と白く輝く街並みの合間を流れる夏空色の水面が、眩くきらめく水飛沫を幾つも幾つもあげる。この日ばかりは遥かな星霊建築の天蓋から夏空の青が消えるまで運河のゴンドラは通行止め、鮮明な青を真白に砕ける波飛沫で彩る運河の流れは、楽しく勢いよく流れる水を全身で感じたいという人々とペンギン達だけのものだ。
 運河の岸から橋から飛び込めば清冽な水が全身を抱きとめてくれる。肌に感じるのは冷たい水の流れや大量に生まれた気泡のヴェール、けれど思わず笑みを零してしまうようなくすぐったい気泡のヴェールはすぐに勢いある水の流れに攫われる。瞳を開けばそこは鮮やかな夏空の青に透きとおる水中世界、気を抜けばすぐさま押し流されてしまいそうな水の流れは夏空の青を深く淡く変化させて、透明な白群から深く潤んだ瑠璃までと様々な青の濃淡で水中世界を華やかに彩っていた。
 振り仰げば眩い光と何処までも淡く透明な青が揺らめく水面、勢いのある流れに身を任せれば眩い水面から透かしみる緑鮮やかな街路樹や白く輝く街並みに、遥か彼方に広がる真青な夏空までもが流れゆくように瞳に映る。それはとても心浮き立つ眺めだけれど、すぐにもっと心が弾む楽しい眺めが視界に飛び込んできた。
 光を流したような眩い水面の向こうに見えるのは運河に架かる橋、そこから何か黒い影がぽーんと跳んだかと思うと、一気に水中へ潜り込んだそれはオールみたいな黒い翼を広げ、青い水中世界を飛ぶように泳ぎ始めた。瑠璃色たゆとう水底から仰げば瞳に映るのは真白なおなか、そして真白な胸元にあるひとすじの夏空色。そう――マーレペンギンだ。
 愛嬌たっぷりで人懐こい彼らは呼べば一緒に泳いでくれる。急流に押し流されながらくるくるくるくる水中で回ったり水流に翻弄されてみたり、複雑な流れを読むのが得意な彼らのあとにつき、この夏の日の遊びのために沈められている不思議な形の岩の迷宮の間を泳ぎぬけてみたり、深い瑠璃色の水底から眩い光に満ちた水面まで浮上し、煌く水飛沫を派手に跳ね上げ一緒に水面に顔を出すのもきっと楽しい。
 思いきり笑ってぎゅっと抱きしめれば、水を弾く羽毛はなめらかでぽってりした身体はあたたかで、そして、街路の植え込みの中に巣を作ることも多い彼らは、夏に純白の花を咲かせるガーデニアの甘い香りを淡くほんのりと纏っている。

「年にたった一度だけ蒼穹の門が開くその日はね、勢いよく流れる街の運河で思いきりペンギン達と泳いで遊べるお祭りなの……!」
 弾けるような歓喜と愛おしい感慨もあらわに、夏空の狩猟者・アンジュ(cn0037)が声を弾ませた。
 今年の水神祭都アクエリオの夏は初めて訪れたあの夏と同じく激動の夏。
 あれやこれやでラーラマーレでも蒼穹の門が開かれるのが先延ばしになっていたけれど、やっと、やっとこの日がやってきた。
「流れに思いっきり身を任せちゃうのも流れに乗ってぎゅんぎゅん泳ぐのも、マーレペンギンと一緒に泳ぐのもすごくすごく、物凄く楽しいの! んでね普通ペンギンの雛って泳がないんだけど、街にいる野良猫から逃げるためかな、マーレペンギンはねほわほわの雛っこ達もぎゅんぎゅん泳ぐんだよ!」
 黒と白のコントラストが鮮やかな成鳥は真白な胸元にひとすじ夏空の青。
 そして、曇り空みたいな優しい灰色のほわほわ産毛に包まれた雛達も、胸には夏空の青を抱く。
 気を抜けば押し流されてしまいそうな水の中を、自由自在に飛ぶように泳ぐペンギン達。
「飛ぶようにっていうか……飛ぶんだよね。ペンギンは水中を飛べるんだってアンジュ聴いたのね。ほんとに、ほんとに飛ぶんだよ」
 最初の夏に誰かが言ったこの言葉は、アンジュにとってとても愛しい言葉になった。
 一緒に行こう、と暁色の娘が誘う。
 蒼穹の門が開かれる夏の日に、夏空色に透きとおる運河の水の流れはその流れを感じたい人々と水中世界を飛ぶペンギン達だけのもの。
 彼らと一緒ならきっと、水の中で夏空を飛べる。
「あのね、夏空の水の中を思いきり楽しめたなら、また逢おうね」
 世界の愛しさ、愛しい世界ですごす日々の愛おしさ。
 それらを胸いっぱいに抱いて、私達はまた激動の戦いに赴くのだから。


マスターからのコメントを見る
参加者
NPC:夏空の狩猟者・アンジュ(cn0037)

<リプレイ>

●ディープブルー
 世界のすべてが鮮やかに光輝く夏空の街ラーラマーレの夏、誰もが思わず瞳を細めてしまうのは夏の陽射しの眩さゆえか、胸いっぱいに吸い込んだ夏陽の匂いと澄んだ水の香ゆえか。それとも、どうしようもなく躍る心のまま破顔せずにはいられないからか。
 夏空の青をそのまま落として透きとおらせたような水の中、深い青と光の波紋が彩る蒼穹の門が開かれれば、高まる皆の期待が迸るよう、夏空の街をめぐる運河の流れが一気に加速した。
 眩く弾ける飛沫、夏空の青に白銀の疾風を混ぜたよう迸る水の流れに眩暈の尾・ラツ(c01725)の心も一気に逸る。
「勢い余って衝突事故にはならないでくださいよ!?」
「アクシデントも楽しんでみせるさ」
「もう、お二人とも子供に戻ったみたいなお顔ね!」
 愉しげな彼の声音も輝く水飛沫もナイトランスの自由農夫・ベネディクト(c34979)の胸に弾けて煌き踊る。前のめりはお互い様と男達が悪戯な視線交わせば新樹の歌姫・フェイラン(c03199)の顔にも弾けるよう笑みが咲く。勿論めいっぱい遊び倒したい気持ちは彼女だって負けてない。
 翔ける風さえ加速したかのよう、輝く光と水の粒をたっぷり浚う夏風にそれぞれ身を躍らせたなら、思いきり爆ぜた水飛沫と気泡のヴェールと一緒に水の夏空へ呑み込まれた。
 肌を擽る水の冷たさ気泡の流れ、胸躍るまま瞳を開ければ世界のすべてが鮮やかに揺らめく青の濃淡で彩られ、迸る水流とぎゅんぎゅん翔けるペンギン達の勢いに呑まれくるりと一回転したなら、宙に放り出されたような解放感と爆ぜるような歓喜が一気に胸奥から溢れだす。
 さあ、もっと深く、もっと先まで飛ぼう!
 深い瑠璃たゆたう水底から仰げば水面の薄藍が眩い光に融け、射し込む光の紗と翔ける鳥達の影が忙しなく交錯する。けれど誰も仲間の瞳の輝きは見逃さない。
 すぐ傍を翔けた雛っこのほわほわ灰色の翼に擽られればほにゃっとフェイランの頬が緩み、懸命に水の夏空で羽ばたく小さな命をベネディクトも眦緩めて追いかける。二人ともやっぱりメロメロだ、と言うようウインクすれば、ラツの視界の端に夏空の狩猟者・アンジュ(cn0037)の姿。
 手を振れば彼の隣を指した娘の手が水を噛むようぱっくんちょ。
 三人が首を傾げたその瞬間、水中で揺れるラツの髪の先を雛っこペンギンがぱっくんちょ!
 弾ける笑みに溢れる気泡、昇る煌き追って夏空の水面へ顔を出し、
「まさか雛っこが釣れるとは!」
「ラツの後ろ髪がお魚みたいって私も思ってたのよ……!」
「そうそう! 揺れる様子が尾びれみたいだって僕も思ったね」
 残った息を弾ける笑声と吐き出せば、皆の胸へ一気に瑞々しい光と水の匂いが流れ込んだ。
 ラツの胸にも満ちる、夏空の青。
「雛ッこくん、君も楽しかった?」
『くえっ!』
 小さな命をベネディクトが抱き上げれば、切ないくらいの温もりにほんわり甘いガーデニアの香り。空と水の夏空に抱かれ、フェイランの笑みも絶えぬまま。
 ねぇ何度でも言うわ。
 すべての命がその生を謳歌する――こんなに愛しい季節はないのよ。
 奔流となって流れる夏空色の水面は時に荒々しく波立ち激しく渦を巻く。そう、それは波乱に満ちた人生そのもの! 齢八歳にして人生の何たるかを悟った弓の狩猟者・ルル(c36499)は波にも怯まぬ勇ましき背面飛び込みで雛っこ達のハートを鷲掴みにせんとして、
『くえっ!』
「バカなぁーーー!!」
 雛っこが足元を駆けぬけた拍子に足を滑らせた。
 頭からスライディング着水したルルの瞳に輝く水飛沫と眩い夏空が映った途端、小さな体は急流に攫われぐるんぐるん。曲がり角で勢いよく打ち上げられれば、またひとつ人生を学べた気がした。
「これもまた人生……しばしここで休もうか……」
『くえ……』
 陽射しを浴びて横たわり、手を伸ばせばぺちりと重なる小さな翼。
 少女と雛っこの人生は、まだまだ始まったばかりだ。
 漸く訪れることが叶ったひと夏ぶりの街の眩さも風の匂いも夏空の青も何もかも瞳に焼きつけて、恋焦がれ逸るような心地のまま飛び込めば、緑青の獣・オズヴァルド(c31692)の身も心も思いきり水の夏空に浚われた。
 予想以上に速い水流、明度も彩度も飛び去るようにくるくる変わる夏空の青。
 流れに怯まず翔けるペンギン達を瞳にすれば、俺だって去年より泳ぎは巧くなってるつもりだぜと競争心に火が燈る。強い水流を蹴りつけ飛び出せば、水の夏空を翔ける流れに乗って水中世界を飛ぶ心地好さと、競うよう隣に並んだ雛っこの愛らしさに堪らず破顔した。
 夏が来るたび溢れるこの街への愛おしさ。
 ――ただいま、ラーラマーレ!!

●スペクトラムブルー
 嵐の前触れの雲より速い夏空色の水の流れに、蒼龍幻想・リウェス(c11531)はぐぐっと拳を握る。
「じつはあんまりおよいだことないけど、たぶんなんとかなる!」
「……ああ、そんなところだろうと思ってた」
 義弟の物言いが何処か舌足らずに聴こえるのは気のせいか、それとも童心に返っているからか。盈月の咆哮・ゼルアーク(c03348)はいつもより数段危なっかしい義弟の頭をくしゃりと撫でてやり、
「ペンギン先生おねがいします!」
『くえくえっ!』
 誇らしげに胸を張る雛っこと意気投合する様子に肩を震わせた。
 勇んで飛び込む義弟を追えば眩い光と跳ねた水飛沫の鮮烈な爽快感がゼルアークを水の夏空へ迎えてくれる。勢いある水の流れに昇る気泡の渦、射し込む光が描く波紋を全身で感じて、思うさま四肢を伸ばせば彼の心も幼き日に還るよう。
 流れを翔ける黒白のペンギン達に黒獅子が混じる様に頬緩め、流れに攫われるままくるりと水面を仰いだリウェスの瞳に映るのは、眩い光を孕んで透きとおる水面の青の彼方、陽炎みたいに揺らめく夏陽の耀き。
 蕩ける光と青にゆうるり笑んだ、瞬間。
 強引に引き上げられた水面でぷはっと息を継いだ。咽返るような陽と水の香。
 ――夏の、匂い。
「息するの、忘れてた」
「全く、お前は相変わらずだな」
 瞬きする龍の額を軽く弾いて、一緒にいくぞと眩い波飛沫跳ねる流れの先を黒獅子が指し示す。
 一緒にいこう、夏空の青きらめく波と輝く陽射しの、その先へ。
「いこうよルセ、小鳥さんが水中を飛ぶところを見てみたい! よね!?」
『くえっ!』
「そう言われちゃ後には退けないな。高くつくぜ?」
 弾む声音で囃し立てれば何か楽しそうとばかりに便乗するペンギンの声。面白がるよう笑って嘯く砂鷲の魔想紋章士・ナルセイン(cn0172)の背を促すように押し、勿忘草・ヴリーズィ(c10269)は胸に夏空の青抱くマーレペンギンと一緒に水の夏空へと跳んだ。
 空と水が翻る。
 鮮やかで心地好い水の冷たさに迎えられた青の世界、眦緩めてペンギンと頬を寄せ合ったなら、思うまま自由に飛んでいいんだとこの街の輝きすべてに教えられた夏の眩さが胸奥から溢れだす。翔けていこうよと誘う微笑みが気泡を生み、伸びやかに翻す手足が泡のヴェールを踊らせた。
 了解、と言うよう敬礼してみせる彼と翔ける水の夏空。
 ――あなたの瞳に映る夏空はどんな物語なのかな?
 どうか教えてねと願う想いは、光に融ける青のあわいのなか。
 眩い夏空の青も威勢よく跳ねて砕ける光の飛沫も、まるで枷から解き放たれたような勢いで迸って翔けてゆく。楽しげな水の調べに心は弾むけれど急流にはちょっぴり腰が引けてしまいそう。
 だけど微笑む彼が差し伸べてくれる手を取れば世界は何処までも広がってゆくと識っているから、万華響・ラヴィスローズ(c02647)は迷わず笑みを咲かせた。
「一緒に水の流れに任せてみるのはどうだろう?」
「妾ね、いってみたい! とびきり素敵な水の世界へ連れていって!」
『くえくえっ!』
 姫君と手を取り合えば漆黒ノ竜・リューウェン(c02487)は、当たり前のような顔して一緒に飛び込む相棒ペンギン家族も連れにして、水の夏空へ旅立った。
 溢れる泡のヴェールに包まれ水の勢いのまま押し流されれば、瑠璃に紺碧、浅葱に薄藍、夏空の青が眩くめくるめくよう変幻しながら飛び去っていく。頭上を仰げばぎゅんぎゅん翔ける相棒の真白なおなかと耀く水面の彼方にも、夏空の青。
 急流に呑まれて揉まれて、それでも決して互いの手は離さずに。
 やがて二人水面に顔を出したなら、ラヴィスローズは同時に顔を出した雛っこを抱きしめた。水滴纏う羽毛から弾ける夏の香り。
「――ね、妾も今、飛べていた?」
『くえっ!』
「俺も飛びたいところだが、勝負してもらえるだろうか?」
『くえくえっ!』
 俺が負ければ海老をプレゼント、というリューウェンの申し出にひときわ張り切る雛っこの声。
 さあ、再び飛び立とう。まだまだ遊び足りない水の夏空へ。
 馥郁・アデュラリア(c35985)の胸で今にも弾けんばかりの期待を代弁するかのように、水の夏空に麗しきアーチを描く橋の頂からマーレペンギンがぽーんと飛んだ。親の思いきりよさに勇気をもらった雛っこが続けば、水の夏空の耀きが眩い飛沫になって世界に鏤められる。
 呼吸も瞬きも忘れて見惚れた眩さが胸の奥まで射した瞬間、
「ねえナルセイン様、逢いにきてくれるかしら」
 ――深い瑠璃たゆたう、水底まで。
 悪戯なことのは宛てて、アデュラリアも躍るように跳んだ。
 水の夏空に呑まれてくるり身を翻し、背から瑠璃の褥に沈む心地で潜る水中世界。
 花の馨を抱く気泡が融ける青の彼方に雛招く親鳥まねて伸ばした手は気泡の紗を抜けてきた彼の手に触れ、流れに踊る髪ひとすじが戯れに指先で絡めとられる。
 愉しげに口の端擡げる男と眼差し絡めば、ひそり携えてきた術に気づかれた心地で女も笑んだ。
 何処まで翔けよう。
 ――何処まででも、見てみたい。

●サマーシャワー
 夏空の青が耀きの奔流で彩られれば、もう居ても立っても居られない。
「さあ、一緒にラーラマーレの鳥になりにいこうか」
「なるー! 水の夏空の涯ても越えていこうね!」
 手を繋いで二人分広がる両の腕がハンサム狩猟者・ハルネス(c02136)とアンジュの翼、夏空ごと抱きしめる勢いで身を躍らせれば、泡の紗に包まれる間にもぎゅんぎゅんペンギン達に追い越され、彼らにも激しい水のうねりにも負けじと翔けて、比翼の鳥のごとく青の世界へ飛びだした。
 世界に満ちる、夏空の青。
 泣きたくなるような青に目元を和ませれば、あのね、と形作った娘の唇が彼の唇に触れる。
 伝わるのは歓喜と幸せと、どうしようもなく暖かで愛しい何か。
 二人自然に笑みが零れ、大きな気泡が幾つも水面へ昇るけれど、蒼穹の門が開くこの日ばかりは彼も彼女と同じ狩猟者、呼吸を操るすべは互いの掌のなか。
 この青が、この街のすべてが、そして何より君が大好き。
 ――どんな激流も、君と一緒なら越えていける。
 眩く透きとおる夏空の青を白銀の風が翔けるよう。いつも以上に楽しげに波立ち水飛沫と光弾ける運河の煌きに誘われ、冱てる音吐・フォシーユ(c23031)も水の夏空へと跳んだ。
 衝撃に思わず瞑った瞳を開けば、そこは明るく透きとおる青の世界。
 瞬く間もなく水に押し流されたなら、大いなる奔流に流されるばかりだった過去が呼び覚まされる。けれどすぐ傍を力強く翔けてゆく黒い翼に倣い、伸ばした指先で思いきり水を掻いた。
 確たる自信はいまだ持てずとも。
 せめて、光を目指していたい。
 一方、深山の渓流にも似た急流は霊峰天舞の風物詩をハニーフィンチ・アレンカレン(c03179)の胸によぎらせた。流れに乗って鳥達が翔ける光景は、
「流しペンギン!?」
『くえぇっ!』
 流れてないよ泳いでるよ! と抗議したのか違うのか、耀く水面でぱしゃんと跳ねた翼に誘われて思い切って跳ぶ。心地好い冷たさに沈めば世界がひっくり返ったみたい。流れのままくるくる回って深く鮮やかで明るく透明な夏空の青に瞳を輝かせ。
 けれど、片手がただ水を切るのが寂しい――と、波間にぷかり顔を出す。
 光の水面へ羽ばたくよう辿りつけば、菩提樹緑の瞳に蜜色の光が映った。胸を満たした輝く夏空の風で彼女の名を響かせる。
「カレンさん!」
「フォシーユ!」
 弾かれたように顔をあげた蜜色の少女に笑みが咲く。水飛沫を上げ手を振る彼に手を振り返す。
 優しい彼の手に――早く触れたい。
 水の夏空の深みを目指すマーレペンギンを追いかけて、深い瑠璃たゆとう水底へと至る。
 迷宮成すのはまるで庭石のように運河の底に配された数多の岩。アーチを潜り列柱をすりぬけ、人魚の踵・ファラーシャ(c29228)は金の髪踊らす優美な人魚姫へ手を伸ばす。
 水奏戯曲・アクアレーテ(c09597)は躊躇わずその手を取ったけれど、
 ――泡になって溶けちゃわないでね、お姫様。
 なんて言いたげに手を握られたから、眦緩めて手を握り返した。
 ――泡になんかなれないの。この手は桃色の人魚と繋がれているのだもの。
 瞳が合えば微笑み交わし、雛っこや水の流れと戯れるよう踊るように泳ぐたび、撓やかに水に踊るファラーシャの足は人魚の尾びれに変わっていくみたい。金の人魚姫もきっと同じはずだから、眼に見えずとも心に視える優雅な尾びれを二人並べて翻し、水底まで届く迎えの光を彼女が指したなら、水の夏空の頂めざして昇る。
 眩く蕩ける光と水の膜を破り、水飛沫をあげれば、ひときわ鮮明な世界が瞳に飛び込んできた。
 あぁ、世界はこんなにも綺麗だったかしら。
 生まれたての心地で世界を眺め、アクアレーテは傍らの友の笑顔を見つけて囁いた。
「ねぇ、これからはファラって呼んでもいいかしら」
 もちろん、と頷いたファラーシャの声が秘密めきながらも嬉しげに弾む。
「わたしばかりがレーテと呼ぶのは、ずるいですもの」
 咲き綻ぶ、二人の人魚姫の笑みの花。
 ……――ありがとう、ファラ。

 耀く夏空の風を胸いっぱいに吸い込み、狩猟者娘達はブリージングで全力全開。急流を追い越しペンギン達に追い越され、奔流に呑まれたなら水の夏空で宙返り。
 おなかの底から弾ける楽しさに絶対自由・クローディア(c00038)もアンジュもめいっぱい笑い合い、それでもまだ眩くめくるめく夏空の青を翔けぬけて。新鮮な空気を求めてあえぐ感覚さえも愛おしく、息継ぎした瞬間にも声をあげて笑う。
 幸せ満ちれば、自然と決意が口に出せた。
 ――来年は水着を着るの。
「一番にアンジュさんに見せるよ。勇気が欲しいから、約束させて」
 幾度も瞬いた娘が両手でクローディアの頬を包む。
 彼女の胸元の創を識るから、瑕は光で埋められると識るから、瞳を覗いて笑みを燈す。
「あのね、アンジュも真っ先に抱きしめにいく」
 新しい扉を開く、あなたを。
 先に零れたのが笑みだったのか涙だったのかクローディアにもわからない。
 けれどきっとどちらでも、心が解き放たれた証。

 水の夏空を翔け、扉を開けてさあいこう。
 何処までも、限りなく自由に。



マスター:藍鳶カナン 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:17人
作成日:2014/09/30
  • 得票数:
  • 楽しい1 
  • 怖すぎ1 
  • ハートフル6 
  • ロマンティック2 
冒険結果:成功!
  • 生死不明:
  • なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。