ステータス画面

空っぽカンパネッラ

<オープニング>

●空っぽカンパネッラ
 その鐘を鳴らそうとする人間は、そこにはいなかった。
 とろりと溶けるような夜の闇が、そこにはあった。
 星霊建築ドロースピカ。その力によって天井に広がるのは本物のそれと遜色ない星屑の光。地に住まう人々がいくら手を伸ばしてもそう簡単には掴めそうにない、かりそめの空。
 村はずれの影の中に、それは居た。
 影より出でたそれは、金色の瞳を爛々と光らせて周囲に視線を走らせる。
「……我らが『光』のため――『完全なる夜』の、ため」
 星霊建築の礎を前に、ぼそりぼそりと、影は呟いた。
 人影、なのだろうか。
 その背にあるのは異形の翼。その手足は獣のそれのよう。その影は大きく息を吸い込むように、腕を広げる。
 もしもこの場に他の誰かがいたのならば、この瞬間、夜の闇が濃くなったことを――知れたかもしれなかった。
「……我らが『究極の光』がため……!」
 額に捻じ曲がった山羊の角を生やした影は、そう呟き、口角をにぃと、吊り上げた。


 慌しく、情報屋達やエンドブレイカー達が酒場の中を行き来しているのを見て、月喰いデモニスタ・ワールドエンド(cn0190)はまず第一にほっとしたように表情を緩めた。
 小さな情報屋がデモニスタであることを知っていたらしい誰かが「起きたのか」と問えば、当人は苦笑して「おかげさまで」と肩を竦める。
「……よしっ」
 両の手で顔をぴしゃりと叩いて、ワールドエンドはすっと前を見据えた。そして。
「手のあいてる人は手伝ってほしい。もう聞いた人も多いと思うけど、デモン人間による事件が起こる!」
 その声に集ったエンドブレイカー達を見つめ頷き椅子に陣取ると、ワールドエンドは続きを口にする。
「一応僕からも話しておくね。『世界革命』を起こそうと、デモン人間達が動き始めたんだ」
 ワールドエンド曰く。
 世界革命とは、かつてバルムントの鍵で三十七体のマスターデモンを地上に呼び出した世界革命家――『鉄の首・バルムント』によって引き起こされかけた世界の終焉のひとつである。
「過去に起ころうとした『世界革命』は、勇者達の働きで阻止された。けど、今再び起こされようとしている終焉を阻止できるのは、僕らエンドブレイカーしかいない」
 話は続けられた。
 デモン人間とは、エンドブレイカー以外のデモニスタが、デモンと融合した存在であるということ。そしてその存在は最早、魔物と同等であるということ。
「デモン人間は、十秒くらい集中することで、影の中に潜むことができる。影の中から外を覗いたり、聞いたりすることもできる。隠れていた影がなくなったり、逆に周囲の光が全くなくなった場合は、影の中から強制的に外に出されるみたい。そしてその瞬間は……やっぱり十秒くらいかな。まったく行動がとれなくなる。だから影へ潜伏する件については、特別に対策を講じなくても大丈夫」
 ここまでは大丈夫? と問う情報屋に、周囲に集ったエンドブレイカー達が頷く。それを見て、ワールドエンドは再び続きを口にする。
「デモン人間が現れるのは夜、ラッドシティのとある村はずれ、鐘のある廃墟の近く。星霊建築を支えているドロースピカの力を、デモンの力で上書きしようとしてるんだ。ただ、この行動にはそれなりに時間がかかる。だから急いで向かって、破壊工作が成されてしまう前にデモン人間を倒さなきゃならない」
 現れるデモン人間は一体だが、配下が数匹いるようだ、とワールドエンドは言った。
「デモン人間は邪眼にデモンフレイム、デモンストリングスを使ってくる。配下は鳥の形をしたレッサーデモンで、こっちは広範囲に向けて攻撃をしかけてくる」
 デモン人間はそれほど強いわけではない、といった意味の言葉を付け加えて、ワールドエンドは一度息を吐いた。
「僕も一緒に連れて行ってほしい。……僕のデモンは僕と一緒にいてくれることを選んでくれた。……僕にもまだ、終焉を撃ち砕くための力がある。それなら僕はもう、戦うことを、迷ったりなんかしない」
 真っ直ぐに視線を上げて、ワールドエンドはその瞳に決意の色を燃やす。
「デモン人間の目的は、世界を夜の闇に閉ざすこと。彼らはマスカレイドではないけれど、そんな目的、果たさせちゃいけない。……巡り巡る世界を、壊させちゃいけない」
 そこまでを告げて、ワールドエンドは僅かに表情を和らげた。
「デモン人間を、レッサーデモンを討ったら、近くの廃墟のさ、鐘を鳴らしに行こう?」
 それはきっと、動き出したデモン人間達への宣戦布告。
 次々に叩きつけられる絶望の終焉を、幾度でも真っ向から撃ち砕くエンドブレイカー達の声、そのものに――なるだろうから。


マスターからのコメントを見る
参加者
裸の鎧を纏う男・ライデン(c04776)
白炎鬼・レイガ(c04805)
棺中諧謔曲・アリスティド(c11138)
凶夢の悪魔憑き・ロイ(c22673)
菫青石の魔法剣士・リデル(c26678)
久遠の残照・ロレンツォ(c31495)
不死鳥の天剣騎士・レオンハルト(c35756)

NPC:月喰いデモニスタ・ワールドエンド(cn0190)

<リプレイ>


 ランタンの灯が揺れる。
 裸の鎧を纏う男・ライデン(c04776)と棺中諧謔曲・アリスティド(c11138)の駆ける速度に合わせて踊るふたつの灯火は、暗い夜道を照らしていた。頭上には星と月が輝き、未だドロースピカの力が働いていることを知らせている。
「『世界革命』……昔話が蘇るなんて……」
 真紅の獅子の兜。その奥から不死鳥の天剣騎士・レオンハルト(c35756)が呟いた。だが、とレオンハルトは心に誓う。
(「相手が何であれ、それが『世界を終焉させる』存在ならば、悪を断つ剣たる我が家訓に従って滅するのみ!」)
 決意の色を滲ませるレオンハルトに、ライデンは駆けながら頷いた。
「この世の理を異界の理に描きかえらすわけにはいかんな」
「夜明け前が、夜の闇が一際濃くなると聞いたことがある」
 それなら、と続けるのは菫青石の魔法剣士・リデル(c26678)だ。
「この騒動が終われば、新しい未来の光が射すはずだから。……まずはこの終焉を叩き潰す」
 凛と響く声でそう告げて、リデルは真っ直ぐに前を見つめた。
 そしてその視界の中に入るのは、ひとつの廃屋。白い壁はところどころ崩れ落ち、正にそれは建物の残骸というべき様相であった。駆け抜けざまに振り返れば、寂しげな鐘が月光を照り返して光っているのが見えた。
「ワルド、あの建物――」
「うん。近いよ」
 久遠の残照・ロレンツォ(c31495)が気付き声をかければ、月喰いデモニスタ・ワールドエンド(cn0190)が答える。頷いたエンドブレイカー達は、駆ける速度をぐんと上げた。
(「光の強さでデモンの強さが決まる、か……」)
 マスカレイドとは違う、新たなる敵の出現。白炎鬼・レイガ(c04805)は、沸き立つような己の心を感じていた。
(「今回の相手はどのくらいなのか。――楽しみだ」)
 音を殺しながら駆けて、駆けて。エンドブレイカー達は、ついにドロースピカが描かれた場所へと辿りつく。現れたエンドブレイカー達の気配に、はっと振り向く影があった。
『よう、兄弟。首尾はどうだい?』
 凶夢の悪魔憑き・ロイ(c22673)が、どこかからかうような色を含めて、デモンワードでそう放った。
『……誰だ』
『エンドブレイカー。知ってるだろ?』
 影が誰何のために発した言葉は、奇怪なデモンのそれ。ロイもまた同じ言葉で返せば、影が短く舌打ちをしたのが聞こえた。
「夜は嫌いじゃないけどさ。絶望しかない夜は、お断りだよ」
 ロレンツォのその声に、禍々しい翼を背にしたその影が――デモン人間が動くのが、解った。


「我は盾、我は剣、我は炎! 我は悪を滅するために目覚めし獅子! 我が名はレオンハルト――推して参る!」
 澄んだ鈴の音が如く声で高らかに宣言し、レオンハルトは炎を纏う剣を構える。デモン人間が合図を送った鳥型のレッサーデモンが闇夜を劈くような鳴き声を上げた。レッサーデモンに戦場を任せ後ろに退こうとしたデモン人間だが、それを許すエンドブレイカー達ではない。
「光を望みながら世界を闇に閉ざす、というのも面白い話だな。『世界革命』だか何だか知らないが、好きなようにさせるつもりはないよ」
「さて、マスカレイドとどちらが強いのかね……」
 リデルとレイガがデモン人間の退路を断つ。
 蒼い刀身を、真紅の刀身をそれぞれがすらりと抜いて構えれば、逃走は不可能と判断したらしいデモン人間が、その背の翼を大きく広げた。
 一瞬にして灯った黒き炎が、レイガに向けて放たれる。真っ向から攻撃を受けながらも、レイガは一気に敵との間合いを詰めた。デモン人間の腹に軽く触れたレイガの掌から、爆発的な気が叩き込まれる。
 次いでリデルが動いた。闇の中に爛々と光る、敵の金色の瞳を真っ直ぐに見つめてから、リデルは青い双眸を僅かに眇めた。

「せっかく起きたのに、また夜だなんていやだよね」
 念には念をと辺りにソーンリングを展開し、冗談めかして告げるのはアリスティド。しかしその表情は至って真剣そのものだ。
「先生とだってわかりあえた。きみたちとだってと、ほんとは思うのだけどね」
 自らに宿るデモンを『先生』と呼びながら、眼前のレッサーデモンを見つめ、アリスティドは諦めたように笑う。
「先生、改めて一緒に――よろしく」
 ざらりとした夜気が、応えたような気がした。アリスティドが指揮するように指先を動かせば、具現するのは棘の群れ。痛苦と支配を齎す棘がレッサーデモンに突き刺さり、その動きを一瞬奪う。
 ばさりともう一羽のレッサーデモンが羽ばたいた瞬間、その翼から闇色の光線が放たれた。
 幾人かの身体を射抜いた光線を封じようとロレンツォは妖精を飛ばす。鴉のそれにも似た鳴き声が上がった。
「せぇいッ!」
 ライデンが動く。神火を降ろした柱を、動きが鈍ったレッサーデモンに向けて一息に振り下ろす。地へと叩きつけられたレッサーデモンの一羽が、よたよたと再び飛び上がろうとした。だが、その隙を逃すことなく後方からロイが放つのは血の猟犬。その牙でレッサーデモンの翼を喰いちぎれば、追撃とばかりにワールドエンドが放った猟犬の群れがその命を貪り喰らう。
 残されたもう一羽のレッサーデモンが、甲高く鳴いた。


 蒼き剣が空を舞う。リデルの操る飛剣は縦横無尽に空中を駆け、デモン人間の行動を阻む。
 しゅる、と絹が滑るような音がした。
 瞬間、奔流と化したデモン人間の髪がリデルを襲う。鋭い牙と化した髪の群れを切り払えば、再びかち合う視線があった。
 リデルは迷わない。例え相手がマスカレイドではなかったとしても、それが闇に閉ざされた世界を招こうとしている者ならば。例え絶望の終焉を何度見たとしても。
(「この手で切り開ける未来があるのなら」)
 リデルが立ち止まることなど、一度たりともないだろう。
「レイガ!」
「ああ!」
 風に乱れる銀髪など気にも留めずレイガは再び敵の間合いへと踏み込んだ。レイガの持つ刃が、強烈な火柱を伴ってデモン人間を斬り上げる。
 その時だった。
「デモンに負けた人に負けちゃわないようファイトー!」
 後方から、チサカ(c34909)が放つのは月光。二体のレッサーデモンを撃破した仲間達が加勢に参じる。
(「デモンに負けた人、か」)
 後方からの援護を受けながらロレンツォが一足飛びにデモン人間に肉薄する。
「あんたは……帰ってこれなかったんだな」
 決して容赦こそしない。だがロレンツォは思う。記憶に新しいデモンの叛乱。それにより失っていたかも解らない親友や知人達を思えば、胸の内にこみ上げるものがあった。
「――悪いけど、僕等は一夜一夜を過ごせれば十二分さ」
 魔道書の頁を魔力ではためかせ、アリスティドは言う。禁じられた術式は封印の力を得て、デモン人間を絡め取る。
 ライデンが後方から得物を投げつける。雷を宿したそれはデモン人間に衝撃を与え、その動きを更に鈍らせた。
「貴様のその行為、『世界革命』に何の関係がある?」
 その身を不死鳥の炎で包み、レオンハルトがデモン人間に斬りかかる。その言葉に、デモン人間は喉の奥でくつりと嗤ったようだった。
「……『完全なる夜』……」
 呟くように漏らされたその言葉に、ロイは僅かに目を眇めた。
「『デモンは究極の光を求める』……ね」
 それは自らに憑いたデモンが告げていた言葉。再び血の猟犬を嗾けながら、ロイはその言葉を思い返していた。


「『完全なる夜』など……明けぬ夜など、ない。人の心に希望が消えぬようにな」
 言葉の次に気魄を込めた声を上げ、ライデンが踏み込んだ。山神の祝福を受けた武器を、脳天目掛けて一息に振り下ろす。
 頭をかち割らんばかりの一撃に、デモン人間の身体がぐらりと傾いだ。
「やさしい夜にかえって」
 それはほんの小さな囁き。アリスティドの指先に合わせて、棘が舞った。
 そして敵は崩れ落ちる。
 狂気染みた笑みを、口元に浮かべながら。

 物言わぬ骸と化したデモン人間を見下ろして、ロイはひとつ息を吐いた。刻印を刻む手つきも、捧げる祈りも、慣れたものだった。
「オレも戻って来れなかったら、こうなってたのかね」
 独り言ちるロイの言葉は夜気に消える。
「で、ワールドエンド。鳴らしに行くのか? 鐘」
「あ、うん。行きたい」
 問いかけたロイに、ワールドエンドは頷いた。
「それなら俺は、ここで酒でも飲んでいようかね」
 鐘のもとへと向かう数名を見送って、レイガは持ち込んだ酒を呷る。
「それにしても、元の人間は――」
 運がなかった。そう言おうとして、レイガは口を噤んだ。
(「運がなかったと、言っていいのかね……」)
 塵一つ残さず消えたデモン人間のいた場所に、レイガは静かに数滴の酒を滴らせた。弔いの酒は、地面に吸い込まれてあっという間に消えていった。

「誰が行おうが、全く、革命はこりごりだ……」
 ぼやくライデンを先頭にして鐘のある廃屋を訪れた数名は、真っ直ぐに鐘の元へと向かった。修理が必要ならば、と考えていたライデンだが、様子を見てその必要はなさそうだと告げる。
「鳴らしたい人、いる?」
「よければ――、ボクが。……如何なる悪にも屈しない、ボク等の宣誓を」
 微笑み、どうぞ、と鐘の前から身を引いたワールドエンドに代わり、レオンハルトが前に出る。鐘からぶら下がった鎖を引けば、辺りに澄んだ鐘の音が響き渡った。
(「……何時か必ず、父上の汚名を晴らします」)
 レオンハルトは心に、新たに誓う。
「いい音だね。ずっと、ずうっと、響くといい、な」
 アリスティドが小さく微笑む。
「ワルド、」
「ん?」
 鐘の音に目を閉じていたワールドエンドは、己を呼ぶロレンツォの声にそちらを向こうとした。だがそれは、ロレンツォが片膝を折り、自らを優しく抱きしめたことにより阻まれる。一瞬何が起こったのかを理解できず、ワールドエンドは幾度か目を瞬かせた。
(「――オレは、きみを」)
 喉まで出掛かって、それでもまだ音にはならなかった言葉を一度飲み込んで、ロレンツォはようやく、今、一番伝えたかった言葉を口にする。
「おかえり。……おかえり、ワルド」
 デモンの叛乱を自らの意思で押さえ込み、戻ってきたデモニスタにソーンイーター達。ワールドエンドもまた、そのうちのひとりだ。そのことに対しての「おかえり」なのだと理解したワールドエンドはふわりと笑って、その腕をロレンツォの身体に回した。
 ぽんぽんと宥めるようにロレンツォの背を撫でて、小さな情報屋は告げる。
「――ただいま!」
 その様子を微笑ましく見守り、それから響き渡る鐘の音に耳を澄まして、リデルは空を見上げる。
 この辺り一帯の星霊建築の礎は、こうして守られた。
 今はただ穏やかな夜が、鐘の音の残響を吸い込んでいくようだった。



マスター:OZ 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:7人
作成日:2014/09/11
  • 得票数:
  • カッコいい6 
冒険結果:成功!
  • 生死不明:
  • なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。