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唯一の友だち〜隔絶村に忍び寄る影〜

<オープニング>


 戦神海峡アクスヘイム、イゾラメント村。
 様々な理由で人との交流を絶った者達が、降り止まぬ雨を隠れ蓑に隠棲している村だ。
 木造小屋の中で、じっと床を見つめている男が1人いた。
「……うーん、どれが良いんだろう」
 ぼそりと呟くメイスの視線の先には、剥き出しで無造作に並べられた宝石の数々。
 指輪、ペンダント、ブレスレット――とてもルイス自身が嵌めると思えない女性用アクセサリーに見えるそれらは、どこか年代物らしい気品に満ちている。
 メイスにとって、この宝石達だけが、幼い時分から唯一心を許せる友人であった。
 資産家の次男坊であったメイスは、子どもの頃から親族間の財産争いに巻き込まれ、成長するにつれて徐々に心を閉ざしていった。
 近づいてくる者、自分へ優しく手を差し伸べる者達からは皆、父や兄を蹴落とそうという野心が透けて見えて、メイスに人間そのものを嫌悪させていく。
 少年時代の遊び場は、直系の血族だけが出入りを許された宝物庫。
 人の心と違い、一点の曇りもなく輝きを放つ宝石達は、幼いメイスを魅了した。
 彼にとって、宝石は自らの心を浄化してくれる清涼剤であり、安らぎを与えてくれる友であった。
 その後、父の財産を相続する権利をきっぱりと捨てて、メイスは『友』と一緒に家を飛び出した。
 イゾラメント村へ流れ着いて隠遁生活を送るまで、彼は人の心の温かさを知る事がなかった。
 それでも、彼は今、自分へ温もりを教えてくれた女性のために、思案に思案を重ねてうんうん唸っている。
「イベリスに似合うのは赤だけれど……」
 柘榴石の指輪を手に取って、真剣に眺め眇めるメイス。
「アイツ、自分はもう歳だからって、あまり派手なの喜ばないんだよなぁ……どう思う?」
 そもそも贈り物自体、受け取ってくれるだろうか?
(「オレ達が初めて出逢ってから1年……その記念に、なんて言ったら」)
「笑われるかなぁ……」
 まるで幼い少女がお気に入りの人形で遊ぶ時のように、メイスは宝石達へ問いかけてから。
「……少し、雨で頭を冷やすかな……」
 と、おもむろに小屋の外へ。
 何も本当に宝石達が答えを返してくれるとは思っていないが、ずっと膝を抱えて悩んでいても思考は纏まらない、何かしら気分転換が必要だろうと思い至ったのだ。
 そしてしばらく後、メイスは小屋へと戻ってきて、想像だにしなかった事態へ驚愕する。
「誰だ!?」
 黒く大柄な人影が、メイスの宝石達を無遠慮に掴み取っていたのだ。
「返せよ、それは大切な……!」
 メイスは必死に男へ組みつくも、デモン人間へ敵うはずがなかった。


「世界革命は、かつて世界革命家『鉄の首・バルムント』によって引き起こされそうになった世界の終焉のひとつで、バルムントの鍵で37体のマスターデモンを地上に呼び出したそうです」
 バルムントの世界革命は、ラズワルドを始めとする七勇者とその仲間の勇者達によって阻止されたようだけど、今の時代には勇者はいません……。
「世界の終焉を阻止できるのは、皆様方エンドブレイカーをおいて他にはありませんでしょうね」
 深窓魔想紋章士・レフルティーヴァ(cn0144)は、沈鬱な表情で語り始めた。
「アクスヘイムのイゾラメント村で、男性――メイスさんの自宅へデモン人間が侵入して宝石を盗むというエンディングを見てしまいましたの……」
 デモン人間とは、一般人のデモニスタが特殊な能力に目覚めた姿で、『影への潜伏』を行う事が出来る。
 彼らは10秒程度集中する事で、人や物の影の中へ入り込め、その状態で影の外を覗いたり、周囲の音や声も認識できる。
 また、ゆっくり歩く速度で、影から影へと移動する事も可能だが、影が繋がっていない所へは移動できない。
「なんらかのアビリティを使用すると、暫くの間は影への潜伏を使う事ができませんので、戦闘中に影へ入り込んで逃げられる――という心配はご不要かと」
 レフルはデモン人間の能力を語った上で、今回の作戦を説明した。
「デモン人間は……恐らくメイスさんかイベリスさんの影を通って屋内へ侵入、メイスさんが家を空けたタイミングを見計らって、影の外へ出て宝石を盗みますの。そこで皆様方には、デモン人間が宝石の物色を終えて逃げ出すところを討伐して頂きたく存じます」
 今回遭遇するデモン人間は1人で、配下にレッサーデモンを2体連れている。
「デモン人間は、手にしたフレイムソードで緋牡丹斬りと、後はダークネスフォールを使ってきますの」
 レッサーデモン達は一様に、デモニックアルターとデモンストリングスを使い分けてくる。
「今回、メイスさんを家の外に連れ出せたならスムーズに事は進むでしょうが……何せ、彼はイベリスさん以外の人間へは心の深い部分で壁を作っています。説得には工夫が必要かと存じますわ」
 メイスの小屋の位置は、村の北に建つ宿屋の左隣。
 イベリスの小屋は村の東側である。
「デモン人間の目的は、世界を夜の闇に閉ざす事……彼らはマスカレイドじゃありませんけれど、そんな邪悪な目的を果たさせるわけには参りませんわ。かつての勇者達が、鉄の首・バルムントの世界革命を阻止したように、皆様方エンドブレイカーも、デモン人間達の野望を阻止なさってくださいましね」
 レフルティーヴァは同席者達へ激励してから、頭を下げた。
「今回は私もお連れくださいまし。どうか宜しくお願い致します……」


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参加者
山猫・リョウアン(c00918)
阿頼耶の狩手・ルーン(c01799)
絶壁冥土・アリッサ(c05846)
紅刃の・ミア(c25588)
アヴァルナ・ルーイン(c28973)
紫煙銃の忍者・ゲンジ(c34070)
杖の錬金術士・シャーリー(c34423)

NPC:深窓魔想紋章士・レフルティーヴァ(cn0144)

<リプレイ>


 戦神海峡アクスヘイム、イゾラメント村。
「宝石を盗むデモン人間がいるとは……宝石と闇には何か密接な関係があるのでしょうかね?」
 宝石と光と闇……だめだ判断に足る情報が足りない。
 阿頼耶の狩手・ルーン(c01799)が、降りしきる雨の中を思案顔で歩く。
 長い銀髪と切れ長の青い瞳を持つ美男子で、その身のこなしには一切の隙が無い。
「とりあえずは保険をかけておきましょう」
 それでも纏う空気は穏やかで、復讐者として生きてきた過去を感じさせないほど、ルーンの物腰は柔らかくて声音も優しく響く。
「……飲み込まずに咥えるのですよ?」
 考え事を中断した彼は今、喚び出したシルバーコヨーテに用意した宝石を咥えさせようと苦心している。
「……随分と偏屈な男が終焉を迎えるようだけど、とりあえず助けとかないとね」
 アヴァルナ・ルーイン(c28973)は、相変わらずの無表情で、メイスを偏屈の一言で断じた。
 どこか達観した雰囲気を漂わせており、人生の酸いも甘いも噛み分けた風情の彼女だから、そんなメイスへの評価も説得力がある。
 だが、実はルーイン自身、人と関わる事が好きではないため、メイスへの辛辣な言葉は同族嫌悪の表れなのかもしれない。
「スカートが雨を吸って、ますます重たいです」
 薄暗い空を見上げて、ふとそう溢すのは絶壁冥土・アリッサ(c05846)。
 ロングのメイド服と真っ黒いバトルガントレッドがトレードマークの、一見お淑やかなメイドさんである。
 だが、ひとたび戦闘が始まってもその雰囲気は変わらず、息をするように自然な顔で敵を葬り去る――ある意味で恐ろしい一面も持っている。
「何かすげぇ懐かしい気がするな隔絶も……」
 紫煙銃の忍者・ゲンジ(c34070)は、何度も隔絶村へ訪れているだけに、今回の依頼への思い入れも格別なようだ。
「ま……今回は絶対に盗みは許さねぇ」
 メイガス騎士としてではなく……良き相談相手のためにな。
 ゲンジは今回メイスの説得役を買って出たため、メイガスの紅月から降りて徒歩でメイスの家へと向かっている。
「私はこの村が好きだけど……本当に色んな災害に巻き込まれるわね」
 隔絶村へ特別な思いを抱いているのは、杖の錬金術士・シャーリー(c34423)も同じで、複雑そうな表情を浮かべた。
「ゲンジがメイスの方へ行くなら、私はイベリスの足止めに向かいましょう……万が一イベリスの影に居るかも分からないから」
「それなら私も……」
 そう言って宿屋の方へ向かうシャーリーを、深窓魔想紋章士・レフルティーヴァ(cn0144)も追った。


「お久しぶりねイベリス……何処かにお出かけ?」
 シャーリーは宿屋へ向かう途中といった振りで、イベリスの近くを通りかかって声をかける。
「あら、ご機嫌よう……ええ、ちょっと、ね」
 宿屋の前を横切ろうとしていたイベリスが、どこへ行こうとしていたかは明白。
 シャーリーは真剣な面持ちで、イベリスの肩へ手を置く。
「メイスさんの家へは、今は行かない方が良い……」
「え……?」
 その際に、手にしていたランタンでさりげなくイベリスの影を消そうと試みるも、特に変化はなかった。
「ここ最近……盗難や殺人を行ってるデモン人間がこの村にもいるの」
 私たちが倒すから、貴方は暫く家で待っていて貰える?
「メイスは? メイスは無事なの?」
「必ず2人とこの村を護る……だから今は待ってほしいの。私はこの村が好きだから」
 シャーリーの心からの言葉を、信用しないイベリスではない。
 彼女もメイス同様に心を閉ざしがちではあるものの、完全に俗世を捨てられない絆しがあるから、人間を信じる気持ちも同じように捨て切れない。
「……わかったわ。メイスの事、どうか宜しくお願いします」
 だから、素直に頭を下げた。
「任せて下さい。終わったら報告するわ」
 胸を張るシャーリー。
「……イベリスさんに、メイスさんの説得を頼んだ方が宜しいのでは?」
 こっそり耳打ちするレフルへも。
「そこはゲンジを信じましょう」
 事も無げに言ったものだった。
 その一方で。
 コンコン。
「久し振りだなメイス」
「アンタ……珍しいな。っつーか、また何か厄介事か?」
 メイスは顔見知りであるエンドブレイカーの訪問に面食らいつつも、そう尋ねた。
「いや」
 はっきりと否定してみせてから、声を落として続けるゲンジ。
 どうやら無策で乗り込んだわけではないらしい。
「あんた……確か凄い宝石に詳しいって聞いたんだが……悩み相談乗っては貰えねぇか?」
「誰がそんな事を……イワンの野郎か、全く」
 メイスは気色ばむも、渋々家の中へ入れた。
 この男はイベリスと顔見知りであるため無碍に帰す訳にいかないと考えたのかもしれない。
「実はな……宝石をプレゼントしたいんだが……俺ってあまり詳しくなくてよ……」
 とりあえず、これ幸いと上がりこんだゲンジは、持参した色とりどりの宝石を床へ無造作に置いて語り出す。
「あいつに……シャーリーに似合いそうな宝石とかアクセサリってどんなのがあるだろうか……」
「礼はするから、是非ともご教授願えないだろうか」
「あの青い頭の姉ちゃんだよな、胸のデカい」
 メイスは確認するように言ってから、床に散らばった宝石をひょいひょいと摘んでいく。
「ありきたりの助言しかできないけど、折角青い髪が綺麗なんだし、下手に赤とかの暖色系をぶつけて色同士喧嘩させんのは止した方が良いと思う。エメラルドとか緑系統の宝石に、金具はシルバーが似合うんじゃないか。もしくは茶色い宝石か……トパーズとかな」
 奇をてらうなら白だな、オパールなんかも清楚かつ華やかな雰囲気が出て良いんじゃね?
 そう告げて目の前へ差し出すのは、言葉通りの3色の宝石達だ。
「感謝するぜ……必ず参考にする」
 ゲンジは選定された宝石をぐっと握り込んで、笑顔になった。
「礼といっちゃなんだが……宿で飯を奢るぜ!」
「マジ? タダ飯なら有難く頂くとするかなー……」
 メイスも、最初の不機嫌さはどこへやら、やけにあっさりと腰を上げる。
 自分と同じ悩みを打ち明けて親近感を抱かせるという彼の作戦は、功を奏したようだ。
 ゲンジは、自分の持ってきた宝石を敢えて室内に散らかしたまま、小屋を後にした。
 そして。
「行ったわね」
 宿屋へ向かう男2人を見届けた紅刃の・ミア(c25588)が、小屋の裏手で呟く。
 赤茶のくせっ毛と魅惑的なボディーラインを持つお転婆な女性。
 赤と青、二振りのフレイムソードを折り畳んで懐に忍ばせ、小屋への突入の機会を窺っていた。
「後はデモン人間の動きを待つだけですね」
 山猫・リョウアン(c00918)も頷いて、息を潜めた。
「勝手に死なれても後味悪いから、どんな状況でも死なせないけども、説得が上手くいったなら一安心かしらね」
 微かに息をつくのはルーインだ。
「ええ、本当に何よりでした。一応保険はかけていましたが」
 静かにルーンが応じる。彼は研ぎ澄ました視力でゲンジ達が離れたのを見届けると、小屋の脇にぴたりと張りついて、気配を完全に殺し潜伏していた。
 ガタッ。
「現れましたね……」
 室内の微かな物音に気づいて、耳をそばだてていたアリッサが勢いよく扉を開ける。
 中には、ゲンジの宝石とメイスの宝石、両方を手に取って眺め眇めている男の姿が。
「その宝石を持ち逃げさせるわけには参りません!」
 絶壁冥土の名に懸けて!
 かつて絶壁が鉄血と呼ばれていたころの遺品を振りかざし、オーラの城壁を伴って突撃するアリッサ。
「うぐっ」
 重突進を喰らい、デモン人間は床へ倒れるも、すぐに起き上がってレッサーデモンを召喚する。
 だが、バトルガントレッド越しにデモン人間の肋骨を数本やった手応えを感じるアリッサは、薄く笑った。
 オーラの城壁には、いつの間にか弩砲が装備されている。
「手加減はしないわよ!」
 フレイムソードとブルーファイアを閃かせ、まるで舞のよいたな剣技を見せるのはミアだ。
 火剣錬成からの紅蓮百烈衝をまともに受けたレッサーデモンが、その灼熱と激痛にのたうち回る。
「マスカレイドといい、デモン人間といい、世の中面倒な奴ばかりね」
 アストラの刃先から影の腕を具現化して、ルーインはレッサーデモン達を引き裂かんとする。
 広がりを見せた連影刃に斬られて、レッサーデモン2体の腹部から夥しい血液が噴き出た。
 もっとも、身体が真っ暗な靄で構成された風なレッサーデモンだから、その体液も黒い霧以外の何物にも見えない――痛々しいというより異様な光景である。
「我が太刀に貫けぬ物無し、我が太刀を墓標にするがいい」
 ルーンは刃弓【天駆ける神速の螺旋】の弦を引き絞り、レッサーデモン達へ向かって矢を射掛ける。
 分裂アローに胸を貫かれた2体のうち、全身火傷を負っていた方がついに絶命した。
「デモン人間が揃いも揃って宝石ばかり盗むのは何故なんでしょう」
 リョウアンは猫の爪から虚空の刃を撃ち出すと同時に、そう問いかける。
 六連衝撃波に晒されて、デモン人間の全身を痛みが襲うも。
「…………」
 なかなかどうして口を割らない。
 それどころか、頭上から闇を降り注がせて攻撃してきた。
「そんなもの、私の黒さにはまだまだ及びませんね」
 すかさずバサッとロングスカートを翻したアリッサが、オーラの弩砲をぶちかまして反撃する。
「絶ぺ――コホン、城壁の威力、思い知るが良い……!」
 ドゴン!
 平たい胸を張り、どんな強敵へも毅然と立ち向かう意気で放たれたオーラの砲弾が、デモン人間の土手っ腹に風穴を開けた。
 レッサーデモンは、頭から髪の拳を伸ばして、ミアの胴体をギリギリと絞めあげる。
「ねぇ……貴方はそれを持ってどうするつもりなのかしら?」
 換金して生活を潤わせるの?
 そこへ、シャーリーとレフルティーヴァが合流した。
「それとも光るものが好き……?」
 淡々と詰問を続けながら、流星の槍を浴びせるシャーリー。
 七連流星槍がデモン人間の頭や肩に突き刺さった。
「凍えた心をご存じですか……?」
 レフルも氷翼でデモン人間の腕に触れ、冷気を注ぎ込む。
「悪い、遅くなっちまったかな」
 駆けつけ様に、レッサーデモンの腹部へトリプルショットをぶち込むのはゲンジだ。
「生命を育む風よ、癒しの息吹となりて、我が友の傷を治し賜え」
 ルーンは、草原を渡る風を呼び寄せて、ミアの傷の治癒に努める。
 ミアの全身についた圧迫痕や打撲痕が、清らかな風に撫でられる度にスッと消えていった。
「ありがとう!」
 ミアは元気良く礼を言うと、フレイムソードを手にレッサーデモンへ肉薄。
「トドメっ!」
 既に幾度も繰り返していた幻華舞踏から手応えを得て、乱れ緋牡丹を描く斬撃を見舞う。
 紅い華の形に斬りつけられたレッサーデモンは、その鮮やかな太刀筋を一瞬空気中に残して、そのまま崩れ落ちた。
「もっとも、面倒なのは人間も……なんだけどね」
 ルーインは、妖精ナビィと同化しての滑空乱舞を仕掛けて、デモン人間へ引導を渡した。


 メイスの小屋の中は、元々物が少ないだけに調度品へ被害はなかったものの、壁に幾つか穴が空いていた。
 早速シャーリーが工具を使わずにその技能でもって修理していく。
 ミアは床に飛び散った血液やらを丁寧に拭いていた。
「シャーリー……お前もやっぱりああいう宝石とか興味あるかい?」
 そこへ、デモン人間の埋葬を終えたゲンジが戻ってきて、話しかける。
「宝石? 私はあまり興味ないけれど……結局はデモン人間もそうなのかもしれないわね」
 それよりゲンジ、とシャーリーは婚約者の顔を覗き込んだ。
「メイスを上手く連れ出せたようだけど、一体どんな話をしたのかしら……?」
「うん? それは男同士の大事な相談だ。そうそう話せる事じゃねぇぜ」
 たった今宝石に興味ないと言われたばかりで、シャーリーへ贈る宝石の相談だなんて打ち明けるのも何だかバツの悪い気がして、思わず苦笑いするゲンジだった。
「……宝石を集めてどうするつもりなのでしょう?」
 仲間達の会話を聞くともなしに聞いていたアリッサは、窓から止まぬ雨を眺めて物思いに耽る。
「……これ、大切な物なんでしょう?」
 ルーインは、自宅へ帰ってきたメイスの姿を認めると、拾い集めた宝石を渡すついでに、そっと耳打ちする。
「誰かと関わりたくないというなら仕方ないけど、貴方、やってる事が矛盾してるわよ」
「……」
 メイスの顔色が変わる。
「女性と関わってるし、何より人間社会にいるじゃない」
 ルーインは続けた。メイスの態度に余程腹に据えかねるものがあったのだろう。
「嫌ならさっさと見限ればいい」
「やめて!」
 厳しい非難を聞きつけたレフルが割って入る。
「森の中に小屋でも立てて住めばそれで済む……甘ったれてるんじゃないわよ」
「ルーイン様やめて、折角助けた相手を追い詰めないで」
「違う。俺は……今は、ただイベリスの側にいたいだけで」
「彼女だけは特別? それが甘えだというの。自分の都合を周りに押し付けるのも大概にしときなさい」
「お願い……もう、もうやめて……!」
 ルーインの伝えたい事はよく解る。
 メイスが心底イベリスを愛しているのならば、自分の勝手でこの村へ閉じ籠るのではなく、彼女のためにも人間社会で生きていく努力が出来るはずだ。
 それが出来ないのならば、自分の身勝手な隠棲に彼女を巻き込むべきでは無い。イベリスの人間社会に根ざした生活を奪う権利は、メイスには無い。
「……う、うう、うううぅぅ……!」
 様子を見に来たイベリスも、ルーインの正論には返す言葉を持たず、床に突っ伏して泣き崩れた。
 イベリスの方が、メイスよりも多くの人間を――家族を実質的に巻き込んでいる。
 イワンのためのような顔をして、ただ自らに居心地の良い空間を拵えていただけに過ぎない。
「うう……」
 仲間のイベリスに対する思いやりも、メイスに対する叱咤もきっと正しい。だからこそレフルも無為な反論を諦めて、静かに打ちのめされた。
「…………」
 ルーインの言葉が堪えたのか沈鬱な表情になるメイスへ、宝石護ったぜ、とゲンジが肩を叩く。
「……ありがとうな……相談については……秘密だぜ」
 後は……俺も頑張るから……あんたも頑張れっ!
 ゲンジは、メイスとイベリスの関係が道ならぬ恋だと知っていて、それでもメイスを応援している。
 その力強い言葉は、メイスにとって何よりの励ましであった。
 そして、ルーンも、この人付き合いを苦手とする村人へ、親身になって助言を与えた。
「そういえば、宝石には宝石言葉というものがあるのをご存知ですか?」
「宝石言葉?」
「意匠だけでなく、宝石言葉で思いを伝えるという手段もあると思いますよ」
 ルーンの優しい提案に、メイスは幾分か明るさを取り戻した表情で、手の中の宝石達を見つめた。
「宝石言葉か……奥が深いんだな、宝石の世界って」



マスター:質種剰 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:7人
作成日:2014/10/04
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  • せつない3 
冒険結果:成功!
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