ステータス画面

怒りの食事

<オープニング>

「あ〜食った食ったわ。いい気持ちね。もうあんなバカな男のことなんて忘れて、このままずっとおなかいっぱいのまま寝てしまいたいわね〜」
 これはエルフへイムにあるとある飲食店の閉店間際の光景である。女の子の前のテーブルには皿やドンブリが山のように積まれている。それらは彼女が全部ひとりで食べたもののように見える。
「クスクス。あんなに食べても部分的に肥えるだけで、胸は全然大きくならないのね〜」
「おいばかやめろ聞こえるじゃないか?!」
 心ない声と制止する焦った声の方に視線を向ければ、そこにはかつて愛を誓い合った男とその腕に大きな胸を押し当てるようにして腕を女の姿が見える。
「……こんちくしょー!!」
 直後、怒りを爆発させた女の子の意識は同時にマスカレイドのそれに塗り替えられる。
「おい、やめろ、ヘレナ! 何をする!! ぎゃあああ〜!!!」
 ヘレナと呼ばれる女の子の凶行によって、お店は瞬く間に阿鼻叫喚の地獄絵図と化すのであった。
 
●酒場にて
「……という感じで、配慮に足りない言葉に反応して激昂した女の子がマスカレイドになろうとしています」
 赤の魔曲使い・アンナ(cn0055)は、同情を込めてしんみりと口調で話を始めた。
 言われなくても分かってるよ。ということを鬼の首を取ったように指摘する人がたまに居る。
「分かっていてどうにもできないのに、それをわざわざ口に出して嫌みを言うなんて非道いことと思いませんか?」
 思うこと自体は自由だが、口に出す場合は人に与える影響は配慮されるべきだ。そして敢えて口にだすと言うのであれば、その報いは受けなければならない。
「女の子の名前はヘレナ。おつきあいしていた男性と別れたばかりで、やりきれない思いをやけ食いで忘れようとしていました」
 そんなただでさえ情緒が不安定なタイミングで男を寝取った女に、やけ食いの現場を見られたうえに、嘲笑までされれば、黙っているほうが普通は難しい。同じ場面に於いて、自らの非を悔い、謝罪と反省の気持ちを抱く女性が居るとすればお人好しというよりどえむである。
 ただ、ヘレナにも問題が無いわけでは無い。彼女が男に求めていたのは「ありのままの自分を愛して欲しい」ということ。恋愛とは互いに我慢するところは我慢して、――互いに譲歩し、歩み寄り、相手に合わせて変わることが出来るから成り立つものである。
 その意味ではヘレナも例えば料理が上手になるように努力する姿勢を見せるとか、男の趣味を理解できるようにしてみるとか分かれる前にすべきことはあったかもしれないが、見える状況だけから判断すれば彼女に男を見る目がなかったと同情してもよいだろう。
「胸の大きな子が好きだというなら、そこは譲歩してもらわないといけませんけど」
 笑みに凍てつく気配を含めながらとアンナは話を続ける。
「ヘレナさんの説得は、相手の男がバカだったことを告げれば、彼女にも心当たることは多々あるでしょうから難しくはないでしょう。あと新しい恋を勧めるなら、彼女はバイセクシャルですので、勘違いで惚れられないように注意して下さいね」
 無論、彼女にも好みや家庭の事情などもあるため、見境無く惚れると言うことはありえないが、うっかりでもそういう事態が起こったら逃げるにしても責任を取るにしても後味が悪くて大変だから注意が必要だ。
「さて、マスカレイドとしてのヘレナさんですが、大量の食器を投げつけたり、テーブルをまるで盾のように自在に操って攻撃をしかけてきます」
 投げつけられる食器は砕けて鋭利な刃物と化しますし、大きなテーブルで押しつぶされればダメージも大きなものとなるだろう。
「日用品が凶器になってるので一見弱そうに見える攻撃ですが、そう見せかけて、かなり強力な攻撃ですので、くれぐれも油断しないで下さい」
 戦いの場所はお店の中になる可能性が高い。閉店間際あるいは閉店後の時間帯なら、お客も少ないか全く居ないだろう。もし戦いの際に店内にお客が居たとしても、逃がすことは難しくないだろう。
 あとテーブルや椅子が壊れることもあるだろうが、新たなマスカレイドが引き起こす事態と天秤にかければ些細なことだ。
「説得が成功しても失敗しても戦いは起こります。ただ説得が成功していれば、マスカレイドのみを倒し、ヘレナさんは助けることができます。だからお願いします。ヘレナさんを助けましょう」
 アンナはそう話を締めくくると、共に現場に向かってくれるエンドブレイカーたちを募り始めた。


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参加者
茨十字ノ黒キ鬼・シャルシィリオ(c01478)
薔薇園の守り人・バジル(c12095)
紫水晶の涙・アキナ(c12140)
日晴猫・ファミリア(c14712)
豊穣の舞姫・マリーリナ(c20431)
マリヤ・ルア(c28515)
蒼空望む神楽巫女・シフィル(c36149)

NPC:赤の魔曲使い・アンナ(cn0055)

<リプレイ>

●食べて元気になれる店
「いらっしゃいませだよ〜」
 お客が入店するたびに、店主ともに日晴猫・ファミリア(c14712)の声が響く。どうしてこんなことをしているのかというと。接客の挨拶は心の礎というお店の方針。一日限りの吟遊詩人として、雇用された彼女にとってもそれは仕事とされた。

「胸も小さいし、料理だってヘタクソだし……私っていったい」
 明るく楽しげな雰囲気のお店の片隅で、ネガティブなことをブツブツと呟きながらひたすらに食べ続けている女の子がいた。誰も近づいてはいけないオーラを放っているようなその子こそがヘレナである。
(「お説教に思われないように、気をつけなきゃ」)
 蒼空望む神楽巫女・シフィル(c36149)は深呼吸して呼吸を整えると、覚悟を決めて声を掛けた。
「あ、あの、その食べっぷり、本当に素敵ですね!」
「へ……?」
 料理を口に運ぶ手が止まり、ヘレナは鋭い表情で睨み返してくる。しくじった。シフィルは直感した。失恋のやけ食いの食べっぷりを褒められるなんて、年頃の女性にとって屈辱のはずだ。
「胸のある人しか愛せないとか、馬鹿なんです! こほん……」
 思考が真っ白になりかけながらも、シフィルは懸命に続けた。
「きゃはは。あなたが言うと説得力あるわね。まったくその通りよね」
 それは彼女にとって自虐的とも取れる内容ゆえにヘレナは笑った。複雑な気持ちになりそうな笑いではあったが、今は気にしている場合ではない、気にしていないことにしてシフィルは笑顔で空いている席に着く。この好機を見逃さない手はない。続けて声を掛けて来たのは、茨十字ノ黒キ鬼・シャルシィリオ(c01478)。そして自然に話の流れに乗っかる、豊穣の舞姫・マリーリナ(c20431)。
「美味しそうに食事をする可愛い子だね。どこか浮かない顔をしているけれど、どうしたのだろう」
「本当です。食べてる様子を見るだけで、癒やされるといいますか、和むといいますか」
「そ、そうなの? なんだか今日はおかしなことを言い出す方が多いわね。……ぐすん」
 やけ食いを褒められるなんて恥ずかしいことと思っていたが、2人、3人と同じことを言う者が現れたことで、見え透いたお世辞が本当のことように思えてくる。
 ヘレナの態度が前向きになりはじめたところで、シャルシィリオが畳みかけるように甘い言葉を紡ぐ。
「悩みを抱えているのでしたら、どうぞ私に聞かせてくれないかな。可愛い子は放っておけないんだ」
 思いも寄らなかった自分を肯定してくれる者たちの出現に、ヘレナはこれまで誰にも言えずに、蓄積させていた切ない思いを語り出す。

「商売でなんだから、もっと明るくて元気なのを頼むよ」
 失恋を嘆くお客がいる。だからそれを慰める恋歌を奏でたいとファミリアは思っていたが、彼女が心の赴くままに歌うことを店主は認めない。店全体に失恋の暗い雰囲気漂わせれば、関係の無いお客の気分も沈んでしまう。それではお店の利益にはならないからだ。
「あ、はい。わかったんだよ」
 店主からのリクエストに合わせてファミリアが歌を変えた瞬間、ダンッ! と盛大にテーブルを叩く音とともに立ち上がったのは、マリヤ・ルア(c28515)。一瞬で店中の耳目を集める中、吠えた。
「彼は、あんな女のどこがいいのよー!!」
「男に裏切られたのは、それは災難でしたね」
 迫真の演技を見せるルアとは対照的に、冷静かつ穏やかな口調で、薔薇園の守り人・バジル(c12095)が同情を込めた言葉を掛ける。
「今夜はもういっぱいたべちゃうわ。えっと、ダイナマイトチキン? それに甘エビのクリームパスタも美味しそうね」
「わかるわ……今日は、もう私の奢りだから好きなだけ食べなさいな」
 紫水晶の涙・アキナ(c12140)はバジルとは対照的に大げさに相づちを打ちながら、気前よく言い放つ。
「え、本当に。それじゃあ私……。まずは蟹の生春巻きサラダから!」
 同席していた、赤の魔曲使い・アンナ(cn0055)も、一応振られた女の子を演じているつもりだから手当たり次第に注文を開始する。
「いいのよ。私も彼の為にこの格好して幾星霜……今頃きっと他の女の所へ行ってるのでしょうね、やってらんないわ」
 そんな2人の様子に動じること無くアキナは、ふわふわのつけ尻尾と狐耳を軽く撫でながら、自身はボトルで注文した酒を豪快に呑み干した。
「そりゃあ、胸だってぺたんこよりも、多少はあったほうが、かわいらしいと私だって思うわよ」
「だからといって、胸がすべてのようにいうのも変よね」
 ハイペースで飲酒するアキナに、競うように食べまくるルアとアンナ。飛び交う話題は迫真のリアリティがある。
「それはきっと、男の方が馬鹿だったんですよ」
 慎重に言葉を選びながら、バジルはマイペースを保つ。普通の男が置かれたら即座に逃げ出してしまう状況で、聞き役に徹しジュースを飲む姿は19歳の青年とは思えない貫禄を感じさせる。

 ここまでは目論み通り、演技班の様子は店内でとても目立っており、同じような境遇の女の子が何人も居ることで、ヘレナの気持ちも少しだけ楽になったようだ。

「ふうん、料理もできない、胸もない。どうせやけ食いしても胸以外が肥えるだけなのにね?」
 そんなタイミングで窓際のテーブルの方から耳に入ってきたのは、見過ごすことのできないヘレナに向けられた中傷。
 幸い歌ってるファミリアの声と混じっているため、すべての内容がヘレナの耳に届いた訳ではないが、彼を寝取った憎い女が同じ店内に居て、自分が悪口を言われていることには気づいた。
「悪い、少し離席する」
 ――フォローしないと拙い。瞬時に判断して、シャルシィリオは窓際の席に向かうと不快感を込めて言い放つ。
「俺はそこの男と違って、外見だけ立派な造花は嫌いなんだ。食事が不味くなる、退席をお勧めする」
「きゃははは、あんた、あの女の新しい男なわけ?」
 売り言葉に買い言葉であったが、同性でありながら、シャルシィリオを男性と間違えるがさつさに加え、後先も考えずに喧嘩腰というのも見苦しい。
 とは言え双方が引くに引けない状況となっていた。事態を察知したアキナ、アンナ、ルア、バジルがやってくる。
「見せつけてるの? それなら二人で仲良く氷漬けになってみる?」
「ちょ〜っと調子に乗ってるみたいですし、……お灸を据えてもかまいませんよね」
 心底うんざりしたような表情を浮かべたアキナは男と女を交互に見つめながら、酒瓶を持つ反対の手で、装飾の施されたアイスレイピアの柄に手を掛け、アンナも胸の前で鞭を引き延ばしながらどす黒い表情を浮かべると、強硬な姿勢を見せる。
「あなたは、ヘレナさんの辛さを分かっていないわ」
 そしてルアは男の顔を睨み据えながら言い放つ。破局に至った原因はヘレナにもあったのは確かだが、別れを現実として受け入れるために、懸命に藻掻いている者を笑うことなどあってはならない。
 険悪な雰囲気が漂う中、衝突の危機は思いがけない形で回避された。
「おい、頼むから、危ないことはやめよう……だから逃げるぞ!!」
「あ、逃げました……」
 突然に立ち上がった男が、敵意を露わにしている女の手を引っぱって店の外へと飛び出したのだ。
 つまり男は自分の力を弁えていたのだ。話してはいけないような、他人の秘密を喋ってしまう軽率で、救いようのない馬鹿ではあったが、好いた者を守りたい気持ちだけは本物だった。

 かくして問題の男と女は立ち去り、多くの人の前でヘレナが暴れ出す状況も回避された。
 アキナのソーンリングの効果により、新たに店に入ってくるお客は居らず、店内を賑わせていたお客も櫛の歯が抜けるように去ってゆく。いつしか店内にいるお客はヘレナとエンドブレイカーたちの他には誰も居なくなっていた。

●避けられない戦い
「すっかり忘れてたけど、いっしょに居ると楽しい。好きになるってそういうものよね。あなたたちはそれを思い出させてくれたわ」
 そう言って、ヘレナが吹っ切れたようにパスタの大皿平らげた瞬間、唇の周りにソースがついたままの笑顔がマスカレイドの仮面に覆われた。
 それは彼女の中に居場所を失った棘の最後の抵抗。マスカレイドに意識を奪われたヘレナは禍々しい笑い声を上げながら持っていた大皿を壁に投げつけた。
「お客さまどうか落ち着いて……ひいっ!!」
「ひゃはははー。酒もってこいよ、酒だよ! 酒!!」
「大丈夫ですか? ここは僕たちに任せて隠れていて下さい!」
 バジルは凶暴化したヘレナに恐怖して、立ちすくんでいる店主に駆け寄ると励ましつつ避難を促す。
「どこを見ているのですか?」
 そしてヘレナの注意を自分たちに向けるように、戦端を開くのはルア。
 引き金を引くと、片手で構え狙い定めた長身の紫煙銃の先から放たれた紫の光条がヘレナに命中する。
「傷心の女の子に憑くなんて無粋ね。あなたのようなマスカレイドには消えなさい!」
 アキナが魔獣の革で編まれた長鞭を振り上げる。振り上げた鞭の軌跡を毒蛇と変えて、マスカレイドとなったヘレナに差し向ける。毒蛇が持つ恐るべき猛毒がヘレナに注入される。
「あなたはいい人です! 新しい、素敵な恋を掴んでくださいと!!」
 次いでヘレナの側面に位置するシフィルが、清らかな雪のような白を持つムーブレイドに銀月の魔力を纏わせて切り込んだ。
 淡い光とともに飛翔する純白の刃が、毒の影響に囚われたままのヘレナの脇腹を割く。
 拒絶体になってもならなくともマスカレイドは討たなければならない。いずれの結果であったとしても精一杯の対処はしたはずだ。橙色に熟れて膨れ上がったカボチャを、マリーリナはヘレナ目がけて投げつけた。
 直後、鼓膜を破るような大音響とともに、凄まじい大爆発の炎がヘレナを包み込む。
「やりましたか?」
「いいえ、確かにすごい爆発ですが、そんなにヤワな相手のはずがありませn」
 爆風が過ぎ、爆煙が薄れて、間もなくメチャメチャになった店内が露わになってくる。そして爆心地には煤まみれのヘレナが呆然と立っている。
「……よくもやったわね! こんちくしょー!!」
 直後、怒号とともに、ヘレナは超高速で食器を投げ始める。
 空気を裂く高音を立てながら、まず少数の食器が弾丸のようにエンドブレイカーたちの間を飛び抜けて行った。そして一瞬の後、暴風と共に無数の食器類が飛来した。掴んで投げるに止まらずテーブルごとぶん投げたのだ。飛来した無数の食器を避けきれずにマリーリナが溜まらずに膝をつく。
「マリーリナさん!」
 大丈夫未来に向かって進みましょう――煌きとともに戦歌が響く。光を帯びたリズムと暖かい気配が訪れて、無数に刻まれたマリーリナの傷は急速に癒やされて行く。

「さあて、やっとお楽しみの時間だな」
 指に嵌めたシルバーリングが淡く煌き、握ったナイフの慣れ親しんだ重みが、シャルシィリオの心の内に、無軌道な怒りと斬殺衝動を呼び起こす。と、同時に胸に去来するのは、戦いを欲する衝動と矛盾するかのような使命感。
「さっさと助けてやるから待ってな」
 そう小さく呟き、二つの思いを刃に込めて、シャルシィリオはマスカレイドの女を睨み据える。
 状況が不利とみたヘレナは一歩後退して、一瞬店内を見渡した。そして気づいたのは、無造作に見えるが、出口を遮るように位置取るといった隙の無い布陣。
(「こいつら手慣れていわ……」)
 繰り返し受けた攻撃にダメージは蓄積し守りに徹しようにも体力に余裕は無い。打って出ようにも、有効な手段の多くが封じられており、逃げる以外に生き残るすべは無かった。
「逃がしませんよ! 鎖よ、かの罪深き者を拘束したまえ!!」
 ヘレナの心境の変化を素早く察知したバジルが白銀の鎖を放つ。継いで流れるような連携で発射されたルアのデモリッションブラストの光が鎖で封じられたヘレナを焼く。
「そろそろおしまいかしらね」
「いやよ。生き延びてみせるわ!」
 アキナが実体化させた棘が、身を穿つ豪雨となって襲いかかる。だがヘレナは倒れない。
「ヘレナさん、帰って来て下さい!」
 必ず助けます。シフィルは懸命に呼びかけ、ムーンブレイドで空間を斬り裂く。直後宙に現れた裂け目から吹き出した光の帯に撃たれて、ヘレナは溜まらず膝を着き、それを好機とみたマリーリナは戦いに終止符を打つべく前に躍り出る。
「これで終わり……にしましょう」
 何かを言いたげに口を開いたヘレナを黙らせるように、振り上げたバイオレットスモークツリーの苗木を叩き込む。直後、急激な成長を開始した樹の幹に飲み込まれてマスカレイドのヘレナは消滅した。

●戦い終わって
「あれ? いったい私、どうしてたの?」
 それが意識を取り戻したヘレナの驚きの第一声であった。
「気にしなくても大丈夫。あと女は胸じゃなくてハートよ!」
「!?」
 無いものを嘆くより、強みを伸ばした方がより魅力的な女性になれる。ルアはそう励ましたつもりだったが、思わぬ形で胸談義が始まる。
「胸の大小は女性の魅力とは全く無関係だと思いますが、その辺アンナさんはどう思います?」
「全く……ってことは無いと思います。大きすぎるのは羨ましくないですけど」
 アンナは即答した。当然胸だけが女性の魅力の全てであるはずがない。
 話が曲折するなか、黙っていれば誰も気づかないことではあったが、自身のけじめとしてルアは失恋を演じていたことを詫びる。
「……そうだったのね。でも全部私のためにして下さったことなのよね」
 落ち着いて考えれば、やけ食いする姿が可愛らしいはずなんて無い。ルアの演技だけではなく、一連の出来事の全てが自分を慰めるために為されていたと理解し、ヘレナは「私こそすみません」と頭を下げる。
 優しさを受けるだけでは優しい人にはなれない。優しさを受けていることを心で知るから、優しい心を持った人になれるのだ。

 一方、被害を受けた店主を気遣うのはアキナ。
「迷惑かけちゃったわね……悪いけど今晩貸し切りでもいいかしら? 片付けは勿論こちらでやらせて貰うわ」
 そう穏やかに告げながら、持ってきた大量のダルクを差し出す。命を守って貰った上にダルクを貰い、しかも片付けまでしてくれるだから、店主は喜んで申し出を受け入れた。
「ありがとうございます。本当に商売はお客さまあってものですから」
「話を分かってくれて嬉しいわ。そうと決まれば景気よく行くわよ」
 金を失うのは小さく、愛を失うのは大きい。そして勇気を失えばすべてを失う。
 この単純な真実が知っていれば、未来の希望を失うことは無い。
 もうしばらくして出来上がる新しい店は前よりも、ずっと良い店になるはずだ。
 夜が更けて行く中、エンドブレイカーたちは後片付けをしている。それは単なる片付けでは無く、たくさんの人が楽しくなる、おいしいお店の歴史の始まりである。



マスター:もやし 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:7人
作成日:2014/11/13
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冒険結果:成功!
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