ステータス画面

魔女通りのシュガー・レイン

<オープニング>

●甘い夢の先
 甘いお菓子が大好きだった。
 幼い頃。悲しい時も甘いお菓子を食べれば、元気になれた。
 だから私は、お菓子で人々を笑顔にしたいと考えた。
 精一杯お菓子の勉強をして、自分の店を持つ事が出来た。華やかさは無いけれど、女の子の好きな物を詰め込んだお菓子達。特に、蜂蜜を使ったキャンディーは自信作。
 このお菓子で、私を幸せにしてくれたお祭りに参加する人々を、今度は私が幸せに――。

 その願いが、潰えた。
 条件を満たしていないから。
 そんな、今年から出来たルールで。私の夢を破られるなんて。
 幼い頃から抱いていた夢が、砕かれたような想いだった。
 まるで今までの私の生き方を嗤われているような――その感覚は錯覚だろうか。

●レイン&レイン
 魔女通り――そう名付けられたのは、アクエリオにある1つの通り。
 住居の並ぶその通りは、何の変哲もない街並み。けれど、この時期にだけ別の姿を見せる。
 街中に南瓜のランタンが吊るされ、道行く人々は不思議な装いに溢れる。黒やオレンジ、紫と云ったどこかサイケデリックな色合いや、白やピンクと云った甘い色合い。様々な色と装いで溢れかえる。

 生花を纏う事の許されなかった魔女へ、住民が花をプレゼントした。
 お礼に魔女は、得意のお菓子を住民へとプレゼントした。
 ――そんな古い言い伝えから生まれた、甘いお菓子と薫る花々に溢れた賑やかな一夜。

●魔女の作るお菓子
「まあ、要はお祭りだよ。観光都市アクエリオらしく、盛大なね」
 『レイン』と名付けられたお祭り――お菓子や花の降り注ぐ様が、まるで雨のようだから――その伝承を語ると、鞭のソーンイーター・ユリウス(cn0182)は酒場に集うエンドブレイカーをじっと見る。
「けれど、そのお祭りが原因でマスカレイドが現れる」
 ――それが、ユリウスの視た終焉だった。

 現れるマスカレイドは、お菓子屋の店主である女性のフィナベル。
 素朴で家庭的な味わいで、女の子が好きそうな花や動物を模したお菓子を作っていた。
「このお祭りのお菓子はさ、街のお菓子屋から提供されているんだ」
 それはひとつの、お菓子屋のステータスでもあるらしい。この街のお菓子屋ならば、誰もがお菓子を提供したいと思う。そしてある程度の人気があれば、それは受け入れられていた。
 だからフィナベルも、それを夢見た。今年の春に、お菓子屋をオープンさせここまで頑張っていた。
「けれど今年から新たなルールが加わってね。オープンから3年以上、経過している事」
 突然の改革。街からすると、何か譲れない事情があったのだろう。
 ――けれど、その夢を目標に頑張っていた彼女は。それが原因で棘に囚われてしまった。
 だから彼女が狙うのは、祭りの主催である男。
 男が1人になるのを、彼女はどこからか伺っているだろう。
「その姿を見つけるのは、難しいだろうね。何せ街中が仮装をした人に溢れている」
 だから男が襲われる時に、間に入るしか方法は無いだろう。彼の命が危ないが、それしか方法が無いのならば仕方が無い。素早く間に入り、彼を逃がせば良いだろう。
 男の保護の方は、僕がやるから。とユリウスは言葉を添える。――よって、敵と対面してからは相手と戦う事だけを意識すれば良いだろう。
 彼女は魔女の仮装をし、キャンディのようなステッキを用い杖のアビリティを使う。ただ、相手は1体。複数人のエンドブレイカーならば、さほど苦労する相手では無いだろう。周りに気付かれないように、素早く倒せばエンドブレイカーの任務は終了。

 お祭りの中から敵を伺い、撃破し、逃げる――。
 いつもと変わらぬ、エンドブレイカーの仕事。
 けれどその仕事にプラスを添えるように、ユリウスは口を開く。
「少し早く行ってさ。お祭りを楽しんでみるのも良いんじゃない?」
 そうすれば、フィナベルに掛ける言葉や彼女の想いが分かる事もあるかもしれないから――。
 勿論敵を倒した後は、騒ぎを起こさずにすぐ撤退する必要がある。
 故に、お祭りを楽しめる時間と云ったら事前しかないのは事実。
「君達が楽しんでる間、僕が男を見ているしさ」
 お祭り自体にはさほど興味はなさそうに、ユリウスは零した。――そんなに注意しなくても、上を見れば視界に入る位置に男はいるのだけれど。
 まあ、だから。心配せずに仕事の前に楽しんできたらどう? と。
 ユリウスはいつもと変わらぬ、淡々とした口調で言葉を添えた。


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参加者
ハニーフィンチ・アレンカレン(c03179)
うるわしの帽子家・ジョージ(c06040)
放浪パティシエ・アミュグデール(c18191)
冱てる音吐・フォシーユ(c23031)
マイペースエルフ・ラヴィア(c34422)
仮面の偽シスター・ジェリー(c34543)
静夜・アルフレッド(c35692)

NPC:鞭のソーンイーター・ユリウス(cn0182)

<リプレイ>

●パレード
 揺れるランタンが街を照らす。
 普段ならば静けさを作り出す夜も、今日だけは別の姿に変身。輝く星々だって、特別な日を演出する一部のような気がする。
 降り注ぐ花から芳しい香りがし。カラフルなお菓子は心を軽やかにする。
「素晴らしい祭りだな!」
 賑やかなその光景を見て、弾ませた声で仮面の偽シスター・ジェリー(c34543)はそう語った。
「沢山のお菓子に包まれて、幸せだな」
 彼女の言葉に同意を返すマイペースエルフ・ラヴィア(c34422)。甘い物が好きな者としては、心躍るお祭りだ。2人は視線を合わせると――足早に中央へと。
 両脇から降り注ぐ為、そこが1番お菓子が貰えそうだから。両手を伸ばし、1つでも多くの美味しい物を――そう語るように必死なジェリーの仮装は、手近にあった魔女っぽい帽子にマントを羽織り、手軽に済ませている。けれどマスクがあるだけで仮装らしさは十分。
 同じように魔法使いのような仮装をしたラヴィアの顔を照らすのは、彼の持つ南瓜のランプ。
 降り注ぐ花を無視してお菓子を次々と受け取るジェリーの横で、彼は美しい光景を見つめていた。

「仮装素敵だね、良く似合ってる」
 微笑み放浪パティシエ・アミュグデール(c18191)がそう言えば、嬉しそうに笑ううるわしの帽子家・ジョージ(c06040)。――否。今宵の彼女はジョージア。
「私は魔女よ。アミュグデールとアルフレッドも素敵ね」
 パチンとウィンクをして、ひらりロングドレスの裾を揺らしながらジョージは語った。その言葉に反応した静夜・アルフレッド(c35692)は、外套の襟を正しながら2人の姿を興味深げに見る。
 くすりと笑みを返し――ジョージは人混みの中に飛び込むと、空に向かい手を伸ばした。
「こっちこっちー、私に頂戴な☆」
 帽子のツバから赤茶の瞳を覗かせる。いつも飾る帽子花も、今日は手製のリボン花。南瓜バスケットの中にぽろりとキャンディーの包みが入れば、嬉しそうに笑う。
 長い金の髪を揺らす彼の姿はすっかり女性。――テンションの上がった住民も、むしろ楽しそうな様子にお菓子を分けてくれる。
 そんな姿を見て。自分も楽しもうと1つ頷き、笑顔を浮かべるアミュグデール。兵隊のような大きな帽子を外せば、くるりと逆さにした。
「丁度御誂え向きだね」
 大きな帽子を天へと上げれば、自然と中にお菓子が入る。嬉しそうに笑い、一緒に歩こうと彼はアルフレッドにも声を掛けた。頷いた彼は、空から降る真白の秋桜を受け止めると――。
「……何?」
 進む3人を見送ろうとしていた鞭のソーンイーター・ユリウス(cn0182)の、藍色の髪に花をこっそり飾る。少し驚いた様子に、満足気にアルフレッドは笑い。
「……せっかくのお祭りなんだからさ、皆と一緒に楽しもうよ。ほらほら〜」
 傍観に徹しようとしていた少年の手を引き、祭りの渦中へと連れ出す。
「ちょっ」
 驚きつつも王冠が落ちないように押さえ。引かれるままにユリウスは共に祭りの中へと飛び込む。すると、アミュグデールとジョージも嬉しそうに手を振った。
「もらった生花を飾るのは大丈夫かしら?」
「それなら大丈夫じゃない? そこにも」
 受け取ったクレマチスの花を手に、ジョージがふと疑問を零せばユリウスがそう返す。彼の言う通り、目の前の恋人もお互いに花を贈りあっていた。――それなら、と。嬉しそうにジョージは花を帽子へと飾る。やっと、何時もと変わらぬ帽子に。
 倣うようにアルフレッドとアミュグデールも頭に花を飾り。降り注ぐお菓子に夢中になる。――お祭りの中ならば、性別など関係無い。楽しいと想う心があれば、それで良い。
「大好きな花やお菓子が雨のように降ってくるお祭りなんて。興味無い訳が無いよ」
「本当。お花が降るだけでも嬉しいのに、お菓子付だなんてなんて幸せでしょう」
 マシュマロが頭に当たり、それを手にアミュグデールが零せばジョージも頷く。吸血鬼の装いに似合いそうな、真っ赤なグミを手にしたアルフレッドも、言葉を零さないながらも楽しそうに口元を緩める。
 手を振り、帽子を掲げ――幻想的な景色の中、お菓子や花が降り注ぐ光景を満喫する。

 お揃いの装い――翻る冱てる音吐・フォシーユ(c23031)のマントの裾を掴みつつ、ハニーフィンチ・アレンカレン(c03179)は瞳を見開いた。
「お菓子の雨なんて素敵なお祭り……!」
 ぱらぱらと零れるお菓子はクッキーやマドレーヌ等々。痛くないように工夫はされているけれど、この光景は驚きで。彼女の大きな緑の瞳がきらきらと輝く。
 そんな彼女を隣で眺め、こっそりと人混みから庇いつつもフォシーユは降り注ぐお菓子を見つめた。落ちてくるマカロンを受け取ろうとしてみたけれど、ぱっと隣に立つ男性に先を越される。むっと眉をしかめ、もっと貪欲にいかないとと想い――彼は爪先立ちをし、手を精一杯伸ばす。
 人の流れに乗りながら歩けば、アレンカレンの腰のリボンがふわふわと揺れる。何かを誘うように揺れるリボンの下で、とんがりブーツがカツリと音を立てれば、輝く飴が沢山降ってきた。
「きゃっ……!」
 驚きと共に声を零し、アレンカレンはとっさにお気に入りのとんがり帽子で顔を隠す。ぽとぽとと粒の落ちる衝撃と音を感じた後――。
「ほら、どうぞ」
 聞こえるフォシーユの声に顔を上げてみれば。お揃いの帽子の下で、微笑むフォシーユの姿があった。よく見れば少しずれた帽子。けれど、彼が差し出すのは飴の入った包みに青い花。
「……もらっていいの?」
 口元を緩ませつつそう尋ねれば、彼は頷く。その返答に幸せそうな笑みを咲かせると、アレンカレンはお礼を告げつつ受け取った。
 ――潰さないように、彼女が両手で包み込んだ花はブルースター。天に輝く星のような、青い花。

 笑顔の溢れる魔女通り。
 ――お祭りは中盤に差し掛かった頃合いだろうか。全てを見通せる高い塔に居る男が、立ち上がったのが見えた。下へ降りようとする彼の様子に気付くと、近くにいる者同士で目配せを行う。
 一瞬にして彼等を包む空気が変わる。
 人の波を掻き分けて、目的の路地へと急いだ。
 カツン――彼等の居た場所に、落ちるお菓子の音は人の声に掻き消されていく。

●未来
 遠くから聞こえる人々の喧騒。その渦中に先ほどまで居たとは、思えないような不思議な感覚。どこか遠い世界のような気さえする。
 闇に紛れるような黒のマントを翻し、フォシーユは菩提樹緑の瞳を前に向け路地を見つめた。
 微かに漏れる灯りに浮かびあがる人影は1つ。そして、闇の中から現れる存在に気付く。
 ――っ。
 鈍い音が路地に響いたかと思えば、ジョージが男の前に立った。彼の目の前には1人の女。その音を合図にするように、アミュグデールがランタンに火を灯す。
 照らされる路地。とんがり帽子の影が2つ、壁に伸びる。
「何だ……!?」
 照らされる路地の光景に狼狽えるように、男は手にしていた煙草を地に落とした。
「ご覧のとおりあなたは狙われているわ。私たちが食い止めるので今のうちにお逃げなさい」
 背後の男に、ジョージはフィナベルと対面したまま言葉を零す。
 男を庇うように、布陣するエンドブレイカー。
「お祭りまで、送ります」
 動揺する彼へユリウスが言葉を掛ければ――。
「ユリウス、信じているからな」
「……ここはよろしく」
 背後を振り返りラヴィアが笑顔で語る。――俺達を信じてくれ。その言葉への返答を少年は零すと、男の手を引き狭い路地を去っていく。
「あっ……!」
 一瞬の出来事。フィナベルは追おうと一歩足を踏み出すが、それを食い止めるように、腰の灯りを揺らしながらフォシーユは冷気纏う一突きを繰り出す。
 交わる視線。
「……エンドブレイカーね」
 邪魔する存在を認識した彼女は、可愛らしい仮装には似合わぬ笑みを浮かべステッキを突き出す。
「いいわ、私の夢を邪魔するなら容赦はしません」
 甘い蜂蜜色の髪を払い、語る彼女。そんな彼女の頭には、帽子からはみ出るマスカレイドの仮面。
「数年後の祭りまで我慢していれば良かっただけだろうに……」
 ランタンの灯りに輝くその仮面を見て、ジェリーは独り言のように言葉を零す。
 愚か――その想いと、同情の想いが心を交差した。

●甘い夢
「素敵なイベントを3年待てないからって台無しにされちゃ大変ね」
 去る足音に耳を傾けつつ、ジョージは微笑み目の前の彼女へと語る。
 その言葉にきゅっと唇を結びフィナベルがステッキを振れば、生まれる雲。段々と大きくなるその雲が、アレンカレンの身を包んだのは一瞬だった。――どこか甘い香りがするのは錯覚か。
 眠気が巡るが、振り払うように首を振ると彼女はフィナベルを真っ直ぐに見る。
「貴方を止めに来たわ、フィナベル」
 先ほどのお祭り中とは打って変わり、どこか曇った彼女の顔。目的地を奪われたような、彼女の気持ちは分かる気がする。けれど、幸せにしてくれた人達を否定するような真似はしてはいけない。
 だから、彼女を止めたいと――アレンカレンは想いを込めた一撃を指先から放つ。
 紫色の光線が彼女の身を包む。直ぐにジェリーが続き、靴に仕込んだナイフを取り出せば――普段と同じマスクへと付け替えた彼女は、ドラゴンを作り出す。
 咆哮と共に生み出される小さな鉄竜。連携するように、アミュグデールは顔のある南瓜を取り出す。
「ねぇお菓子の魔女さん、甘いお菓子を頂戴。苦い棘入りのは嫌だよ」
 お菓子をくれなきゃ爆発するよ……その呟きと共に放たれた南瓜はまるで兵士のよう。――南瓜の爆発と共に、地へと落ちるアルメリアの生花。それは先ほどまで、彼の頭を飾っていたもの。
 けれど彼女が、その花に込められた想いに気付く事は無い。怒りに身を任せ、ステッキを振るう。可愛らしい魔女の仮装も、今の彼女には禍々しい魔女のようで――その姿にラヴィアの口元が笑む。
「とんがり帽子の魔女、俺と同じ仮装だな。どっちが本当に強いか勝負だ」
 自身の帽子をくいっと上げ、新たに手に入れた力を使う――戦場に響き渡る歌声。神のような音色を耳にしつつ、アルフレッドは彼女が逃げないようにと移動しつつ斧を振るう。
「貴方が今まで頑張ってきたのは、誰かが喜ぶ顔が見たかったからなんでしょ?」
 改革は残念だけれど、探せば他にも方法はあった筈。何故、怒りに包まれてしまったのか――もう、戻る事は出来ないけれど伝えたい想いを、彼は強く語る。
 その言葉に、苺色の瞳に怒りを浮かべるフィナベルはアルフレッドを睨んだ。
「目標だったの。その目標が消えて、私の未来が閉ざされてしまったの……!」
 強い口調と共に、巨大化した斧をひらりと避ける。けれど直ぐにフォシーユの放つ氷の戦輪が戦場を掛け巡る。――彼が素早く動いた事により、南瓜の飾りが付いた帽子が落ちた。
 ――狭い通路。その場で敵を挟むのは不可能だった。そのうえ前衛が2人と云うのは些か心もとない。けれど、たった1人を相手するのに遅れを取る事は無い。
 仄かな灯りに照らされる路地。
 お菓子で人々を笑顔にしたいと云う気持ち。それは、菓子職人のアミュグデールは痛い程分かる。
「甘いお菓子が大好きな君が何故。苦い棘を受け入れてしまったのかな」
「その姿じゃもう誰も笑顔にする事も、大好きなお菓子も作れなくなっちゃうのに」
 添えるようにアルフレッドも問う。――その言葉に、彼女は浮かべるのは歪んだ笑み。
「未来が消えたら、もう全てが消えてしまえば良いと思ったんです」
 絶望した故に至った今回の事件。棘に囚われた彼女のこの言葉が、本当の気持ちかはもう分からない。けれど、血を零しながら語る彼女の瞳は真剣だった。
 ギリギリの状況でも、夢を語るフィナベルの姿。
 流れるままに生き、目標も曖昧な自分が命を絶つ事しか出来ない事が、歯がゆい。フォシーユの心を包む、悲しみと苦しみ。彼の瞳は陰るけれど――彼女に掛ける言葉が思いつかない。
 だから彼は、白い息を零しながら冬の嵐を召喚する。その嵐に金の髪を揺らし、ジョージが悲しそうに笑みを浮かべ紋章を描く。
「あと3年、よりおいしい店になってから意気揚々と参加すれば良かったのよ」
 ここまで頑張ったのだから、更に上を目指して――そう語るように。その言葉の後に放たれるステッキは、お菓子では無く毒をばら撒いた。
 苦しげに咳をする彼女。続き、ジェリーの忍犬が駆け勢いよく突撃する。すると彼女は血濡れた長い髪を宙に泳がせながら、ぐらりと身体を傾がせた。
「魔女さん……」
 悲しげに瞳を潤ませ、倒れ行くフィナベルに向かいアレンカレンが零す。
 お菓子が美味しくなるのは、作り手の魔法が掛かっているから。だから、彼女にはこの呼び名が相応しいと想う――その真意は、伝わっただろうか。

●夢の結晶
 路地に広がる血の海。その中心に倒れる女へ刻印を刻むアルフレッド。
「お休みなさい、魔女さん。貴方のお菓子を食べてみたかったわ」
「人を笑顔にしようとしたあなたは、尊い。ごめんよ」
 悲しげに瞳を伏せるアレンカレンの横で、金の十字架を握りつつフォシーユは言葉を零す。手を合わせたジェリーは瞳を開けると――。
「人の幸せを願う者が人を傷付けてどうするんだ。全く……」
 どこか苛立ったかのような口調で、小さく零した。――祈りと共に彼女に送ったのは、次に生まれ変わったらもう少し我慢の出来る子になっているように、と。そうすれば、大好きなお菓子で悲しむ事は無かったかもしれないから。
 そんな彼等の様子を見つつ、ラヴィアが想うのは一番の被害者は彼女なのかもしれないという事。精一杯の努力が報われなかった苦しみは、棘に囚われる程のものだったのだから。
「さて」
 小さく言葉を零し、フォシーユは身体の向きを変える。――彼女の愛した祭りが末永く続くようにと、祈りも込めて――その拍子に、隣に立つアレンカレンの手を引く。
 それは、行き場の無い悲しさや無力感を埋めたいからか。彼の行動に少し驚いたように大きな瞳を見開いた後、頬を染め彼へと着いていくアレンカレン。
 それに倣うように、仲間達も撤退するべく足を踏み出す。ジョージは祭りに戻りたそうにしていたが、戦闘で荒れた身なりで戻るのも無理だろう。
 同じように、名残惜しそうに喧騒が聞こえる方角を振り向くアルフレッド。
「……もっと遊びたかったな」
 言葉を零しつつも歩き出す。
 共に立ち去ろうとした時、血の海に何かが落ちているのにアミュグデールは気付いた。
 それはお菓子の入った包み紙。恐らく、彼女の作った自慢のキャンディ。すっかり血塗られている為食べられはしないか――。
 けれどお菓子を愛した彼女は、大好きなお菓子を最後の時まで持っていた。
 棘に囚われなければ――このお菓子は、数年後に人々を甘い幸せへと導いていたのだろう。



マスター:公塚杏 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:7人
作成日:2014/11/10
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  • ハートフル1 
  • せつない16 
冒険結果:成功!
  • 生死不明:
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