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大魔女の目覚め:カスティール・ゴールド

<オープニング>

●カスティール・ゴールド
 砂月楼閣シャルムーン。
 潤いよりも渇きに親しいその都市国家が抱く砂漠、渇いた金茶色の砂丘連なる砂の海の波間に、瑞々しい緑を豊かに生い茂らせたナツメヤシの森――否、森と見まがうほどの果樹園があった。
 天を目指し高く高く聳えるナツメヤシの樹々が椰子の葉独特の葉を広げて、地に柔らかな光と影の模様を描きだしている。木洩れ日揺れる森のようなナツメヤシの果樹園、それに囲まれるようにして村があった。その中央たる広場で涼やかに水を噴き上げている、ドローアクアによる大きな噴水が、この村の、ナツメヤシの森のごとき果樹園の、見渡す限りに渇いた金茶色の砂丘が連なるこの辺り一帯の――唯ひとつの、水源。
 昔、旅の自由農夫が砂の下にライブソイルを見出したのがこの村の始まり。
 希少植物の収穫を終えたこの地にはもう特別な力はなかったけれども、それでもナツメヤシは良く育ち良く茂って、森と見まがうほどの果樹園となって村に恵みを齎し続けている。今年もまた、豊かに実って熟した果実、デーツの収穫期がやってきた。

 美しい青空に緑の羽根のような葉を広げる樹々、暖かな色に熟した果実。
 振り仰いだ恵みの光景にある日突然現れた、輝く金色の『竜』。
 吉兆に見えた。祝福に見えた。
 けれどそれは、滅びを齎す災厄だった。

 輝く竜の姿が消えた瞬間、世界は傲慢なまでに鮮やかで眩い金の輝きに染められた。
 苛烈で熾烈で圧倒的な灼熱の陽射し。青空に浮かぶ太陽そのものは変わりなく思えるのに、村と果樹園に降る陽射しだけが強さも輝きも増した。
 灼けつく熱気で肌のみならず体の芯までも炙られるような、凄まじい渇きが襲いかかってきた。
 噴水が消えた。
 星霊アクアの力が消えたのではない。
 傲慢で支配的で苛烈な陽射しに圧倒されて抑えつけられ捻じ伏せられて、湧いた水がその瞬間に蒸発して眩い金の輝きと渇きに呑まれて消えるのだ。
 生きとし生けるものもまた、苛烈な陽射しに抑えつけられ捻じ伏せられた。
 村人達の多くは家の中で渇きに倒れ、噴水にすがろうとした何人かもその周りで倒れた。
 若いナツメヤシもあっという間に萎びて枯れ果てた。けれど高楼に匹敵するほどに大きく成長した成木は頑健にして渇きに強靭、実った果実こそ小石のごとく萎んでしまったが、樹々そのものはまだ生きている。
 樹液を得られれば、と這いずるようにして果樹園に入った数人も、樹液を得る前に倒れた。
 眩い金の輝きは暴虐な支配者だった。
 傲慢で苛烈な陽射しに抑えつけられ、圧倒的な渇きに押し潰されるような死は遠くない。
 村人達にも、ナツメヤシの成木達にも。

●さきぶれ
「――来たね、この時が」
 大魔女スリーピング・ビューティの目覚め。
 伝説の勇者達がその命も心も、魂すらも懸けて紡ぎだしてくれていた猶予がついに尽きた。
 今の大魔女は、普通の人間に喩えて言うなら、柔らかな褥で目覚めて、あくびしながら伸びをした、そんなところだろうか。
 けれどただそれだけのことが、かつて人類を滅亡寸前まで追い込んだ災厄の復活を招いた。
「大魔女スリーピング・ビューティ直属のイマージュマスカレイドの話、もうみんな聴いてるよね」
 災害竜。古の時代に数多の都市国家を滅ぼした強大なるマスカレイド。
 数多復活した災害竜のうち、『陽の災害竜』と呼ばれる一体が砂月楼閣シャルムーンの砂漠の村に現れたと扉の狩猟者・アンジュ(cn0037)が語る。
 陽の災害竜は己そのものを眩い金の輝き――傲慢で支配的で苛烈な陽射しと渇きと変え、凄絶な日照りとなって滅びを齎そうとしている。
 規模としては然程ではないが、威力は絶大なる災厄。
 このナツメヤシの村を滅ぼせば陽の災害竜はすぐさま次の村へ、街へと向かうだろう。待ち受ける未来はとめどない滅びの連鎖だ。
 どうかお願い、みんなの力を貸してと暁色の娘が願う。
「傲慢で苛烈で暴虐な眩い金の輝きを、この陽の災害竜を倒して欲しいの」

 凄絶な日照りそのものとなっている今の状態では、陽の災害竜と戦うことすらできないという。
「んでもね、災害による滅びを阻めば、災害竜は竜の姿になってその邪魔者を攻撃してくるんだって」
 幸いこの日照りによる滅びを阻むのはそう難しくない。幾らかの水とともに駆けつけて、倒れている村人に水を飲ませてやればいい。
 彼らには渇きの死が迫っているが、一刻一秒を争うというほどでもないから、屋外で倒れた村人に水を飲ませてあげて欲しいとアンジュは続けた。
「ナツメヤシの果樹園の中に三人、村の広場の噴水の傍に五人。このどちらかをお願い。どちらかの村人に水を飲ませてあげれば――そこに陽の災害竜が顕現して、日照りがやむの」
 己自身が日照りとなっている場所なら、陽の災害竜はどこにでも一瞬で顕現できる。ゆえに初手に災害竜からの奇襲を受けるのは必至で、奇襲を防ぐ手立ては皆無。
「だからね二手に分かれて果樹園と噴水の両方に行こうとか絶対やめてねやめてね! あのねこの災害竜ってすんごい強い上に狡猾なの! 戦力分散してたりなんかしたらがっつり各個撃破されるだけじゃなくて、とどめ刺されちゃうんだからね!!」
 確実に殺しにかかってくるの、と暁色の娘は強調した。
 相手は全員が一丸となってかからなければならぬ強大なマスカレイド。
 別行動をとろうものなら、紛うことなき死が待っている。

 竜となって顕現する陽の災害竜は、竜の名に相応しい力と体躯を持っている。
 十階建ての塔に匹敵するほど生長することもあるというナツメヤシの成木達には及ばぬものの、
「それでも、巨獣なみの大きさの敵と戦うって感覚で臨んだほうがいいと思うんだよ」
 ナツメヤシの果樹園の中の三人、村の広場の噴水の傍の五人。
 この災害竜は、あくまで『村人』には『日照り』で滅びを与えるつもりであるらしく、竜として顕現して直接戦うとなれば村人達を狙うことはない。だが、どちらの場所の村人に水を飲ませるかで、戦場と戦況は大きく変わるはずだ。
 陽の災害竜が戦いで放つのは、天誓騎士の陽光と扇の熱き輝きに酷似したもの。
 そして、眩い輝きとなることで状態異常を払い、輝きに敵を呑み込む技。
「勿論すべてが強力な技だし、状況次第で技を使い分ける狡猾さも持ち合わせてる」
 配下は持たない。
 持つ必要がないほどに強大な存在。それが災害竜だ。
「何処でどんなふうに戦うかよくよく考えてかないと危険なの。ほんとに危険なの」
 だが、今の自分達が仲間と協力しあって全力で挑むなら、勝ち目はある。

 伝説の勇者達がその命も心も、魂すらも懸けて紡ぎだしてくれていた猶予は尽き果てた。
 ――けれど、彼らの尊い決意の涯てに、自分達エントブレイカーが今この世界にいる。
 陽の災害竜の齎す滅びの終焉を打ち砕いて、越えていこう。
「あのね、また逢おうね」
 そして、一緒にいこうね。暁色の娘はそう続けて笑みを燈した。
 滅びの終焉にも抗って、きっとこの先も続くだろう平坦でない路をも越えていく。

 だって――私達は、そのために生まれてきたんだって思うから。


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参加者
命の騎士・ロータス(c01059)
花渫う風・モニカ(c01400)
昏錆の・エアハルト(c01911)
夢壌の壁・エルヴィン(c04498)
トランジットパッセンジャー・ピノ(c19099)
蒼銀の妖精騎士・アイリ(c20870)
天空に紡ぐ詩・シアン(c28363)
路傍の緑柱石・ベリル(c32593)

<リプレイ>

●カスティール・ゴールド
 渇いた金茶色の砂漠を馳せて見出した緑の楽園。
 外からは充分に瑞々しく見えたそのナツメヤシの果樹園に皆で一丸となって突入した瞬間、苛烈な金の輝きに視界一面が染められた。巨大な質量すら感じさせるほど圧倒的な熱と渇き。噴きだしたその瞬間に汗は消え、傲慢で支配的な陽射しが肌を、呼吸のたびに喉や肺腑を灼いていく。
 今越えて来た砂漠の熱射ですら星霊建築の優しい恩恵だったのだと花渫う風・モニカ(c01400)は思い知る。けれどこれが大自然の猛威だなんて屈したりはしない。
 これは、紛い物の太陽だ。
「今まで以上の強敵、かつ狡猾ときましたか……けれど、絶対に負けません」
「ああ、狡猾だと判っているだけでも上々だ。それすら俺達で乗り越えてやればいい」
 駆ける足を緩めず水筒を取りだした天空に紡ぐ詩・シアン(c28363)に頷き、同じく水筒を手にした夢壌の壁・エルヴィン(c04498)も瞳を射るほど眩い木洩れ日の合間に倒れた村人を抱き起こした。
 初手の奇襲が防げないなら受ける前提で臨めばいい。
 幸い此処の災害竜は数名の村人達を救助すれば顕現するというから、直接救助に当たる者も絞ることができる。その中でも最も打たれ弱い蒼銀の妖精騎士・アイリ(c20870)をボディガードの対象に定めたエルヴィンの目配せで、彼ら三人が一斉に村人へ水を飲ませた――瞬間。
 世界を支配していた金の輝きが凝縮し、凄絶な衝撃とともに爆ぜた。
 戦いの最中に竜は飛行しない。だが、初手の奇襲時、竜は『どこにでも』顕現できる。
「――上等じゃねぇか!!」
 脳髄まで灼きつくさんばかりの陽光がエルヴィンとシアンを叩き伏せたのと同時、彼らの『頭上』に顕現した輝く竜の巨体めがけて昏錆の・エアハルト(c01911)が跳躍した。仲間にのしかからんとした竜の首を締め渾身の力で巨躯を投げれば、地響きが轟くより速く路傍の緑柱石・ベリル(c32593)が危うく竜の陰に隠されるところだった村人を抱き上げる。
「ちょ、今の狡すぎ! けど、路傍の石っころの意地ってモンを見せてやろうじゃねーの!!」
「希望があるってんなら戦わへん理由はないよな、人間のしぶとさってのを証明してやるんよ!」
 極限まで研ぎ澄ませていた警戒。誰もが一瞬の惑いもなく動く、馳せる、力を放つ。
 命の力強さを証すよう命の騎士・ロータス(c01059)が咲かせた世界樹の花の癒しを受け、一瞬で聳え立った重厚な城壁ごとエルヴィンが吶喊すると同時、先の苛烈なものとは異なる、甘く瑞々しい黄金の輝きが世界に躍る。
「シアンは僕に任せて!」
「うん、お願い!!」
 トランジットパッセンジャー・ピノ(c19099)の黄金の林檎が彼女を癒す様を視界の端に捉えながら、モニカが、ベリルが、そしてアイリが、すぐには動けない様子の村人達を叶う限り遠くへ放り投げる。少々乱暴な手段だが、直接竜の標的にはならないとはいえ、このまま戦いに巻き込み続けるよりは余程いい。
「みんなに伝えて! こいつは絶対あたし達が倒すから!!」
「絶対戻ってきちゃダメですからね! さあ、創世神の力を、此処に……!!」
 這ってでも逃げて! と叫ぶアイリに続いて声を張るのはシアン。灰の瞳でまっすぐ金の竜を捉え描きだすのは赤き紋章、強大な威で迸った創世の輝きに続く大地母神の護りが、竜に抗うシアンの、ひいては彼女が護らんとするすべてのものの盾となる。
 巨竜の背後から後光の如き日輪の輝きが射した。
 続け様にシアンへ襲いかかった焔は赤き紋章が弾いたが、拡大された炎熱がモニカを呑み込む。
 ――けれど、
「隙ありっすよ!!」
 太陽の焔を吐きつくした竜のあぎと目掛けて黒曜石のガントレットが火を噴いた。
 燃え盛るベリルの火炎弾と催涙弾が竜の顔面を直撃、その狙いを乱す様に快哉あげてエルヴィンが地を蹴った。速攻で倒せぬ敵ならその力を抑えに抑え、自浄の技を誘って此方の被弾を最小限に留めて粘りつくすのみ。
「よし! このままその輝きも封じさせてもらおうか!!」
「あたしが真っ向から突っ込むね、エルヴィンさんはそっちからお願い!」
 一瞬ごとに高まる士気、徹底した策の共有が阿吽の呼吸を生む。
 巨竜の脇腹を城壁の衝角が抉るのと海鳥の羽を連れて跳んだモニカの蹴り上げが決まったのはどちらが先だったろう。だが勿論、重要なのは確実に制約が刻まれたということだ。
 眩い輝きと化した竜の、拡大を阻まれた渇きの呪詛を己一身に引き受けたロータスが不敵に笑う。
「生憎、喉の渇く生活なら場数が違うんよ!」
 怯まず挑むロータスの背から伸びゆく氷の翼、竜身に戻った瞬間に受けた一撃にあがった巨竜の咆哮に震わされ、遥か頭上から干からびたナツメヤシの葉がばさりとアイリの眼前に落ちて来た。
 退けない。
 凄絶な渇きに耐えた木々の声なき声、罅割れた唇を湿した途端に零れた村人の安堵の吐息。
 それだけで十分戦える。この苛烈なる太陽の前では自分がちっぽけな存在なのだと識るけれど、最後まで抗いつくして皆で越えてみせる。
 ――絶対あたし達が倒す。
 村人に叫んだ言葉はアイリの誓い。
「永遠の森の妖精騎士は誓いを必ず守るんだから!!」
 妖精へ捧ぐ祈りも絶対の誓いと成し、少女騎士の放った世界樹の弾丸が竜の脚を撃ち抜いた。

●パラダイス・グリーン
 一瞬でも気を抜けば誰かが倒れるだろう災害竜の猛威を、暴走で散らし制約で絞り麻痺で抑えて必死に凌ぐ。そして、戦場に選んだナツメヤシの果樹園が彼らに大きく味方した。
「……ありがとう!」
 咄嗟に身を隠したピノに代わって凄まじい陽光に薙ぎ払われ、塔の如き成木がゆっくり倒れてゆく。偉大なる先達に、このナツメヤシに感謝を。
 ――苛烈な日照りを生き延びた木を利用することを謝りはしない。
 この災厄を払うことで、恩を返す。
 そうすることで、きっとこの地は再び楽園の緑に満ちるはずだから。
「今だピノさん!!」
「うん、行くよモニカ!」
「ありがと、助かるよ!」
 常に竜の隙を窺い続けるベリルが連射するガントレットミサイル、横合いから撃ち込まれたそれに僅か竜の気が逸れた瞬間に躊躇いなくその腹を抉った苗木、巨竜をも凌ぐ勢いで急速成長を遂げたピノの紫煙樹が枝で竜を締めつける間に、天に掲げられたモニカの魔鍵が楽園の門を大きく開く。
 途端に辺りの焦げた臭いを駆逐する芳しき香り。
 渇きの戦場を染め変える麗しき楽園と柔らかな癒しとなって降る陽光、常に竜に肉薄するがゆえに最も傷が深いエアハルトが、優しき世界から暴虐の太陽めがけて跳ぶ。
「狙うぜシアン!」
「はいっ! これ以上強力な攻撃なんて、させませんから!!」
 両腕で思う様締めあげるのは暁めく輝き帯びて力を増した竜の首。無防備な姿を晒したその一瞬を逃さず撓るのは白花の鞭、金鱗の竜を鋭く打ち据え巨躯に巻きつけば、手応えに笑んだシアンが軽く柄を引いた。
 瞬間、暁めく輝きが弾けて消える。
 熾烈な攻防交わすたび意識の表層は沸きたち戦いの昂揚が背筋を翔け昇る。けれど意識の芯は氷の刃の如く冷たく研ぎ澄ませ。巨竜の挙動の、何ひとつとして見逃すものか。
 大きく唸りをあげた竜の尾がシアンへ振りあげられた刹那、エアハルトの声が迸った。
「尻尾はフェイクだ! 避けろアイリ!!」
「大丈夫、届かせへんよ!!」
 真っ先に地を蹴ったのはロータス、遥か高みに擡げられた巨竜の頭、その口から人間の頭越しに吐かれる灼熱は前後衛に布陣するだけでは遮れない。全身でアイリへと覆いかぶさったロータスの背を激しい太陽の熱風が灼き焦がす。瞳の奥で白焔が爆ぜた。
「ロータスくん!」
「平、気やよ。俺はまだ、翔けられる!」
 喋るだけで喉が血を噴きそうな熱も渇きも、即座にピノが投げ込んでくれた林檎の果汁で喉も命も潤される感覚も、今この瞬間を生きている己が命の証。
 移動直後に使えぬ技は捨て、再び竜のもとに舞い戻った彼の氷翼が金鱗の腕を凍らせたが、竜の眼差しはアイリに注がれる。少女は唐突に理解した。
「あたしが貯めきった力を温存してるの、見抜いてるんだ……!」
「けど力の蓄積を注視してるのはお互い様ってね。あちらさんのデカいの、来るよ!!」
 強気に笑んだピノが鋭く声を響かせた瞬間、ベリルの腕で巨大な熱が膨れ上がる。
「そうそう好きにはさせないっての!」
「ですよね!!」
 咆哮めく爆音とともに迸る火炎と催涙弾が竜の視界を掻き乱し鮮烈な風鳴りを響かせたシアンの鞭が巨竜を捕えて締めつける。迷わず伸べたアイリの手からは妖精が羽ばたいた。
「ラザリィ! みんなを癒して……!!」
 少女の胸で何より清冽に輝く宝石のように凝った、祈りの力。
 そのすべてを託された妖精の描く環がロータスを、シアンを、エルヴィンを、エアハルトを包み込み一気に深い恵みの輝きを噴き上げる。
 直後、巨竜が幾重にも日輪を重ねた凄絶な輝きとなって襲い来た。
 巨竜の質量をそのまま備えた圧倒的な輝きが身体を押し潰し呪詛を灼きつけ魂をも苛烈な輝きに融かして呑み込まんとする。けれど。
「エアさん!!」
「――ああ、俺は諦めちゃいねぇよ」
 誰より愛しいひとがいる、気心の知れた頼れる仲間がいる、志を同じくする頼もしい仲間がいる。
 ならば――翔けられぬわけがあるか!
 超えた限界など素知らぬ風で笑みを刷き、エアハルトは輝きと呪詛の支配から逃れて空を翔けた。暴虐な輝きを魔鍵で斬り裂いたモニカが楽園の門を開け放つ。
「こんなまやかしの光に呑み込ませやしないんだから!!」
 竜の輝きを掻き消す勢いで降る七色の虹、重ねてロータスが咲き誇らせた世界樹の花の祝福が、大きく彼の力を底上げする。形を取り戻す輝きを目掛けてオーラの城壁と突進するのはエルヴィン、竜の腹を衝角が穿つ感触に笑み、巨竜を振り仰いで不敵に声を張る。
「どうだ。自らが敗北する未来を否定して立ち上がれる、それがエンドブレイカーだ!」
「たとえ這ってでも、私達エンドブレイカーがこの終焉を打ち砕いてみせますからね!」
 切り札たる先のアイリの癒しがあったからこそ、凌駕直後のこの一瞬でここまで持ち直せた。
 確かな信頼で繋がれた仲間の誰もが全力を尽くす。揺るぎない皆の意志が勝利へと結実していく手応えを感じながら、シアンも容赦なく鞭を揮う。
 陽光を孕んだ巨大な尾が今度こそ彼女を地に叩きつけたが、
「大魔女の災厄なんかに、挫けてたまるもんですか!!!」
 金鱗の下から翻った白花の鞭が竜の腕を捕えて捻じ伏せた。

●ブライト・ゴールド
 大気も燃え上がらせそうな激しい炎熱に晒され、瞬時に幹を炭化させられたナツメヤシが倒れた。全身で感じる地響きにモニカの心が軋む。全員可能な限り果樹園の被害を抑える心積りでいるが、巨竜が猛威を揮い、時にその射線を木に遮ってもらう以上、果樹園も無傷ではいられない。
 誰ひとり欠けず立っていられるのは、この戦場だからこそでもあるはずだ。
 直撃を避けてなお眩暈がするほどの熱。怖くないなんて言わない。
「けど、絶対に跪いたりするもんか!」
「その意気だ!」
 即座に笑い返してくれる声。一緒なら何も怖くない、どんな苦境だって越えていける。
 脳天を砕かんばかりにエアハルトが地へ叩きつけた竜の喉元をモニカの連続蹴りが蹴り上げる。大きく仰け反った巨大な首を捕えたのはシアンの鞭、じわじわ締めつける鞭から逃れるよう眩い輝きと化した竜が狙いを乱したままアイリを呑み込んだ。
「負け、ない……!」
「アイリ!!」
「待った! そろそろロータスは控え気味にしたほうがいい気がする!」
 苛烈な輝きに耐える少女へ癒しを向けんとした妖精騎士を制してピノが黄金の林檎を放つ。薫風の後押しはあれど、積極的に世界樹の花を咲かせ続けたロータスの消耗は最早かなり厳しい域に達している。
 だが路の果てに勝利は見えている。立ち止まる必要など何処にもない。
「必ずみんなで倒すんだから!!」
 抑えつけ捻じ伏せんとする圧倒的な金の輝き、それそのものを覆いつくさんばかりに、柔らかに輝く世界樹の魂がアイリの声とともに降りた。金の輝きの中で唯一形を保っていた白き仮面に奔る小さな亀裂、けれどその微かな音が誰もの耳に確かに届く。
 恐らくここから削りつくさねばならぬ棘の量もかなりのもの。
 だが沸きたつ心、背筋を翔け昇る昂揚のまま、皆の攻勢は烈しい怒涛となって竜へ襲いかかった。瞳を喉を肺腑を灼き潰さんばかりの光と灼熱の反撃も此方の士気を鼓舞するばかり。
 陽光輝く巨大な尾で頭から薙ぎ倒されつつも、強気に笑ってベリルが嘯く。
「オレっちの回復は要らないよ! 攻めて攻めて攻めまくろーじゃないの!」
「俺の回復ももういい! 一手でも多く攻撃するか、シアンとエアハルトに回せ!!」
 大地に叩きつけられた姿勢そのままで翳す黒曜石のガントレット、膨れ上がって迸る紅蓮の火炎を追うよう馳せたエルヴィンも同様に声を張った。
 今此方の手にある最高火力がシアンの絞首鞭、それに次ぐのがエアハルトのロデオグラップルだ。
「ピノはシアンへ! エアハルトには俺がつくんよ!!」
「了解! 援護するから思いきりやっちゃって、シアン!!」
 巨竜を貫いたエルヴィンの盾槍を中心に広がる石化、そこを狙ってロータスは淡青に輝く妖精の嵐を解き放つ。シアンの傍に回り込んだピノが金鱗に苗木を突き立てれば、竜を苗床にたちまち大樹と化した紫煙樹の幹が竜身を押し潰した。
 どちらも純粋な攻撃力となるも良し、高火力を持つ隣の仲間の力となるも良しの布陣だ。
「これで首が狩れなきゃ嘘だよな!」
「確実にもらい受けますよ!」
 劈くような竜の咆哮、迸る陽の炎熱。腕と脇腹を焼け爛れさせたそれを笑い飛ばしてエアハルトは竜の首をとった。妖精から得た力のまま脳天に痛烈な二撃を浴びせ、巨大な首を締め更なる巨体を投げる。宙に舞った巨竜の首に絡まり締めつけたのはシアンの鞭。
 この場の誰よりも小柄なシアンが竜の巨体を振り回す様は圧巻だった。
 仮面が罅割れていく。伝説の勇者達も為し得なかったことが、自分達ならこの手で為せる。
「私達が、打ち砕きます!!」
 凛然と言い切って大地に竜を叩きつけ、その仮面が砕け散った瞬間、棘を滅ぼしつくされた巨竜が淡い光の粒子となって弾けて霧散した。
 古の災厄のひとつが、世界から消える。

 伝説の勇者達がその命も心も、魂すらも懸けて紡ぎだしてくれていた猶予は尽き果てた。
 途端に甦った強大な災厄。だがこれも始まりにすぎないのだろう。
「勇者達が作ってくれた揺り籠の中での時間は終わりだな」
 ここからは――と思考をめぐらせたところで、エルヴィンは一歩を踏み出した。
 そう、ここからは強い向かい風吹く世界を歩んでいく。
 きっとこれが、勇者達に温めてもらった卵から孵った自分達エンドブレイカーの、巣立ちなのだ。



マスター:藍鳶カナン 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2014/11/21
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