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カナルグラスの黄昏

   

<オープニング>

●夏空の街ラーラマーレ
 眩い金の煌きと深いセピアと鉛色の影が、夏の黄昏の湖にきらきら踊る。
 甘く気だるい熱と水辺の涼やかさを抱く湖からの風、その風で生まれた細波に裸の足を柔らかに洗われながら、波打ち際の砂浜にセピアの足跡を記していく。手にはさざめく湖面や繰り返し寄せる波と同じ、眩い金色の煌き揺れるミントジュレップのグラス。
 砂糖と瑞々しいミントの葉に炭酸強めのソーダを注ぎ、ミントを潰しつつ砂糖を溶かし、たっぷりの氷を満たしてウイスキーを注いだ金色のミントジュレップで淡いほろ酔い心地になったなら、胸からはきっと泣きくなるくらい優しくあたたかな、愛おしさが溢れだす。
 夏の終わりの黄昏に感じる、胸塞がれるような切なさ。
 けれどきっとその切なさがきゅうっと胸をしめつけるからこそ――泣きくなるくらい優しくあたたかな愛おしさが溢れだすのだ。満ちて溢れて、どうしようもなくなるくらいに。
 爽やかなミントの香りと弾ける気泡、そして氷の冷たさを帯びつつ甘い熱を体に燈すウイスキー。歳が足りなければ砂糖とミントをぎゅうっと潰したソーダに、ウイスキーの代わりにオレンジの果汁を搾りいれて。
 夏の黄昏のひかりみたいな滴にふうわり酔って、どうしようもなく満ちて溢れる愛おしさに溺れて。
 さあ、夏空の街ラーラマーレの秘密の宝物を探しにいこうか。

 世界が甘やかな金とオレンジの滴に溺れるようなある夏の日の黄昏に、夏空の街ラーラマーレが面する湖、マーレの湖畔の浅瀬や波打ち際に、飛びきり優しいきらめきが幾つも幾つも顔をだす。
 眩い光と影踊る波のしたから拾い上げてみれば、それは時と運河の流れと湖の波と砂に磨かれ、優しいまるみとひかりを帯びた硝子のかけら――運河の宝石だ。
 カナルグラス。
 水神祭都アクエリオの至るところをめぐる運河に落ちた硝子が、運河の水に流され底を転がる内に角がとれたまぁるい姿になって夏空の街ラーラマーレへと辿りつき、湖の波と砂に磨かれ、ふんわり優しい磨り硝子のようなひかりを帯びたもの。
 けれど勿論、水神祭都の命脈にも等しい運河にごみを捨てる者などそうそういない。

 春風に誘われ窓辺から零れてしまった、柔らかな桜色の硝子の花瓶。
 夏の水遊びに夢中になっていた子供のもとから旅に出た、空色硝子のおもちゃのゴンドラ。
 収穫祭を盛り上げるシャンパンシャワーのつもりが自分が飛び出してしまったシャンパンボトルに、樹々が冠った雪と一緒に滑り落ちた鳥の巣に隠されていた、硝子のおはじき。
 ――あるいは、大きな戦いの折に傷ついた聖堂から零れた、色鮮やかなステンドグラスのかけら。

 そういった、ささやかな偶然や大きな運命のようなものに導かれた硝子が、水神祭都アクエリオをめぐりめぐって、角がとれたまぁるい姿となって夏空の街ラーラマーレへと流れつく。

 夏空の街ラーラマーレへと辿りつき、泣きたくなるほど優しいひかりを纏ってひかる。

●カナルグラスの黄昏
 それは夏空の街とマーレの湖を繋ぐ数十の水門のうち、硝子の門と呼ばれる水門が『閉じる』日の黄昏どきにだけ見つけられるという、ラーラマーレの秘密の宝物。
 いつも開かれている水門が閉じて流れが変わり、一時的に水位がさがって砂が波に洗われることにより、砂の奥深くに眠っていた飛びきり優しいきらめきが顔をだす。
「――ね、そのカナルグラスを、拾いにいってみない?」
 瑞々しい葉をいっぱい茂らせたミントの枝をたっぷり抱えて、夏空の狩猟者・アンジュ(cn0037)が誘いを向ける。
 だって、何だか少し似てる気がするんだよ。何にとは告げず、柔らかな笑みを燈してそう囁いた。
 角がとれ、まぁるい姿になったカナルグラス。
 夏空の街ラーラマーレへと辿りつき、泣きたくなるほど優しいひかりを纏ってひかる。

 夏の黄昏のひかりみたいなミントジュレップをつくるのは、砂糖にミントの葉に炭酸強めのソーダとたっぷりの氷。そして、オルトクラートという物語の王様の名を冠したウイスキーだ。
 深い琥珀色の十八年物ではなく明るい琥珀色に透けて甘いバニラやシナモン思わす香りを抱いた十年物で、眩い金色のひかりの滴を作る。歳が足りなければウイスキーの代わりにオレンジの果汁を搾りいれ、甘い夕陽の滴をどうぞ。
 夏の黄昏のひかりみたいな滴にふうわり酔って、どうしようもなく満ちて溢れる愛おしさに溺れて。
 さあ、ラーラマーレのカナルグラスを探しにいこうか。

 硝子のかけらは長い長い旅をして、きっと色んな形の、色んな色のかけらになっている。
 けれどそれらすべてが、裸足で触れても痛くない、角のとれたまぁるい姿に、泣きたくなるほど優しいひかりを持っている。

「あのね、どうしようもなく惹かれるカナルグラスを拾えたなら、また逢おうね」
 きっと手放せなくなるだろう。手に取るたび夏空の街を思いだすだろう。
 だから、めぐりめぐってやってくる、次の夏空の街の夏に、きっとまた。
 暁色の娘はひそやかに、大切な約束を紡ぐようにそう願った。

 めぐりめぐって角がとれ、まぁるい姿になったカナルグラス。
 夏空の街ラーラマーレへと辿りつき、泣きたくなるほど優しいひかりを纏ってひかる。


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参加者
NPC:夏空の狩猟者・アンジュ(cn0037)

<リプレイ>

●ラーラマーレ・インディメンティカービレ
 夏の黄昏に、幾千幾万の光と影が湖に躍る。
 光と寄せる波の下、深いセピアの影の中でひときわ眩しく輝くひかりを掬い上げれば、ヴフマルの掌でイブニングエメラルドの彩が煌いた。
 夜にも明るく輝くと思えるそれは星のよう。
 あの日の夜空には何処にもなくて、ずっと天を仰いで探していた緑の星。本当に欲しかったものは手に入らないなんて、大人の諦め覚えかけていたけれど。
 ――ここに、いたの。
 甘い夕陽と眩い金光をひとつずつ。杯ふたつを手にオニクスは、素足を波に洗われながら浅瀬に数多煌くカナルグラスの星空を渡る。
「良いもん、見つかった?」
 訊けば我に返ったように彼が頷いた。星の海から唯ひとつ、奇跡みたいに巡り会えたのかと思えば羨望も湧くけれど。
 彼に金の杯を手渡せば、視界の隅で柔いひかりが揺れた。
 優しい乳白。まぁるく磨かれた柔い彩は、何かの花か誰かの髪か、それとも――。
「オニクスさんは、いいの、巡り会えました?」
「俺も多分、巡り会えたと思う」
 形にならない懐かしさごと掬い上げた娘の掌にも、優しいまるみを帯びた星。
 掌に辿りついたそれは、こころに似ている気がした。
 光満ちるグラスを呷れば氷の音色。冷たい気泡が弾けて甘味とミントの清涼が躍り、初めて味わう酒精が淡く切なく、甘やかな熱をオズヴァルドにやんわり燈す。
 嗚呼なんだか、ラーラマーレそのものみたいだ。
 柔い笑み零せば頭に乗せた夢色の小鳥も鳴き歌う。拍子合わせた足取りで波を跳ねつつ見遣る湖は、空鏡のようで眩い光と影の舞踏会のよう。踊る光と影のなか、世界の夕暮れと夏空の青を抱く運河の宝石を探しにいこうか。
 甘く陽気で、撓やかで爽快。
 光の滴が喉を落ちれば、柔い酒精の熱と仄かな酩酊がケイの身体の芯に燈る。
 夏空の街で日々を過ごした者には殊更心に響くのだろう杯を手に歩めば、裸足で踏む濡れた砂と滑らかなカナルグラスの感触が、ほろ酔いに蕩ける夢現の境のように優しい。
 ふと眦緩めれば鼻奥にツンと感じた痛み。それはいまだ若さを残した酒香のせいにして。
 この胸の裡を灼く焦燥ごと、甘やかな琥珀で呑み下した。
 胸塞がれるような、不意に瞳の奥へ熱となって込みあげるこの感情は、何と呼べば良いのだろう。
 寂しい、哀しい、切ない。
 杯の気泡のように浮かんでは消える言葉は何れもしっくりこないまま、サクラの眼差しは眩い金に煌く波に攫われる。豊かな黄金の流れ、翻った下に覗く、砂に抱かれた青の煌き。
 黄金の髪と青の瞳。
 砂海を往くあの旅鳥の歌が胸に響くたび、どうして胸が締めつけられるの。
「……恋……?」
 波打ち際で掬ったカナルグラスを黄昏に透かせば、眩く瞳を射た金とオレンジの煌きが甘く切ない疼きをアイリーンに燈す。見て、と振り返れば、やはり煌きを掬ったらしい恋人が眦を緩めてみせた。笑み返せば、自然に言葉が溢れくる。
 数多刻まれた痛みも今は堪らなく愛おしい。
 削られ磨かれ、それゆえに優しいまるみを得た。
「……優しさって、強くなくては持てないの」
 彼女の言葉がヨイチの胸に光を燈す。
 与えられた痛みをも愛し、強さの中に優しさを望む娘。
「だから、これをあなたに。今日の思い出と……もっと優しい私になる。その誓いを込めて」
 差し出された黄昏色の煌き。
 白い掌ごとそれを包み込み、彼もまた彼女へ煌きを贈る。
「それなら、俺からはこれを。――君が優しく、そして俺が『強く』なれますように」
 強い意志を秘めた菫の眼差し。それと同じ、菫色のカナルグラス。
 いつも前を見据えるその瞳の傍らに、必ず自分が在れるよう。
 硝子の門が閉じた日の黄昏は、夏空の街で幾つも夏を過ごした二人にも初めての光景をくれる。
「すっごく、きれい……」
 楽しげに瞳を輝かせる恋人の姿にゼロの顔も自然と綻んだ。彼女が波間の煌きに手を伸ばせば、彼もふと惹きつけられた懐かしい色を掬う。
 めぐりめぐって、まるく変わったひかり。自分が歩いてきた道のりまで甦るよう。
 だからこそ、誓うならこの街で。
「――シャル。俺と、結婚してくれないかな」
 指輪も用意しているけど、ずっと傍にいる誓いには、きっと此方が相応しい。
 まっすぐ告げられた言葉。掌に贈られた、彼の瞳と同じ、黄昏色のカナルグラス。
 大きく鼓動が跳ねた途端、シャルロットの胸から今まで識らなかった歓喜が溢れ、眩い光みたいに爆ぜて世界を染める。返事したいのに言葉も光に融けてしまったよう。力を分けて、と掌の黄昏色を握り込んだ。
 彼の掌に、自分の瞳と同じ、優しい緑のカナルグラスを贈る。あのね、と耳元に唇を寄せる。
 今はまだ準備ができないけれど、もう少しオトナになったら。
「シャルのこと、お嫁さんにしてね」

●ラーラマーレ・アマーレ
 この夏最後の黄昏の滴が杯に躍った。
 跳ねる煌きごと含めば昇る清涼、冷たく甘辛い酒精を喉に落とせば身体の芯に優しい灯りが燈る。裡で息衝く熱も清涼も眩しく感じるのが不思議で、恋人達は瞳交わして微笑みあう。
 息するように自然と重なる手、絡めた指はそのままに、波の畔にしゃがみ込んでひかりを掬った。
 鋭く閃いた彩は太陽焦がす赤。
 何処かの荒野を思わす黄昏の黄金がエアハルトの記憶を灼くけれど、傍らの恋人の顔に翳せば、己にどうしようもないほど柔らかな笑みが燈るのがわかる。
 彼があんまり柔らかに笑うから、己が今にも泣き出しそうな顔をしていたのがモニカにもわかった。瞬き、笑って、彼の黄昏色に自分が救ったひかりを重ねる。夏空の、青。
「――ね、何色に見える?」
 金と青が融け合う、名前のない色。
 懐かしくも初めて出逢うひかりは、きっと。
「……名前はつけたくねぇな。将来ふたりで見つけられたらいい」
 息衝く熱と清涼を溢すような笑み。強く抱き寄せられた娘が彼の背に腕を回す。
 巡り巡る夏を、ずっと、一緒に。
 眩く跳ねる飛沫の間に白い踵が踊る様は夏の黄昏の気だるさに揺蕩う夢にも似るけれど、世界に色濃く伸びる影が少年の胸に現を挿した。
 夏が終われば、斧都へ帰る。
 だからこそ瞳に映るすべてを焼きつけたくて、踊るように波打ち際を歩んでいたアレンカレンは彼を振り返った。その声も表情も、ずっと胸に燈していたくて。
「フォシーユは何色が好き?」
「さあ……どうだろ」
 僅か間の空いた答えに首を傾げるけれど、私はね、と視線彷徨わせた娘はすぐさま小鳥のように砂浜を渡る。
 ただいま! と彼女が見せてくれたのは、ほんのり夕陽がかった金のひかり。
 傷ついた記憶も孤独な旅も語らずに。
 ただ、滑らかな曇りとまぁるい輪郭が優しくひかる。
「また、来よう」
 頑なに凍らせたはずの心にぬくもりが触れ、淡い雪解けめいてしたたる言の葉。
「うん……一緒に、ね」
 彼に燈った柔らかな笑みと言の葉ごと大切に掬うよう、小鳥の娘がその手を握る。
 眩い煌き、弾ける気泡。
 爽やかな涼も甘やかな熱もくれる滴で喉も心も潤して、エレノアは濡れたままの赤いひかりを杯に翳し見る。夏空の街のゴンドラ乗りとしての今年最後の休日に拾った、カナルグラス。
 この掌に辿りつくまでの浪漫に思い馳せれば閃きが降りてきた。
 無色透明な硝子の花瓶に沈めて、同じ色の花を飾ろうか。
 辿りついた先で慕わしい何かに出逢う、そんなハッピーエンドがきっといい。
 砂糖に溺れたミントが氷と光と酒香に溺れゆく。
 庭から暁色の許へ巣立ったミントのジュレップ。美味しくできたねと内緒話めいて囁き交わすのは、出逢った頃には歳が足りなかった同士の、お酒の話。
 親友と手を取り合って歩む波間に、ヴリーズィはふと煌きを見出した。
 掬うのは春薔薇めいた淡緑。一瞬閃いた彩は、陽と月のどちらだろう。
「……ねえアンジュ」
 真摯に向き合えば、ちゃんと人も世界も誠実に応えてくれるんだね。
 心に得た、この夏の結晶。
 そっと明かせば暁色が、まっすぐぎゅうっと抱きついてきた。
 遠のく夏の気配が寂しくて、滲む黄昏の向こうに誰かが見えそうで、夕陽の滴煌く杯を手に浜辺でゼルディアが膝を抱えれば、隣に暖かな気配が寄り添ってくれた。
 弛むことなく加速してゆく世界の流れ。
 夜に掻き乱されたままの彼女の心が追いつけずにいることが、ルィンには手に取るようにわかる。ぼんやり想いに浸る時間が、きっと彼女にも自分にも必要だから。
「もうちょっと……もう少しだけしょんぼりしたら」
 ――世界を越えてでも逢いに行くんだって、頑張るから。
 零れたゼルディアの声が続きを紡ぐ。
 けれどあの子だけじゃなく、もうひとり増えたらきっと頑張れないから。
「だからね、約束」
 ――逢えない遠くにいかないでね。
 濡れた緑の瞳に見つめられ、夜色に金銀の星を秘めた硝子を掌に乗せられ、ルィンは優しい光をそっと握り込んだ。彼女の胸に灯りを燈すよう暖かに笑む。
「約束、ちゃんと守れる様に帰ってくるな」
 だからまた、次の夏も。
 こうして一緒に、遊びに行こう。
 黄昏の金に人恋しさで胸を締めつけられる。
 無意識に彼女を求めた手。視界が滲むのは、絡められた指に瞳を細めた所為だけじゃない。
 夕陽に煌く数多のカナルグラスが、ここにいるよと囁きかけるよう。元の形を失っても、形を変えて寄り添っていられると教えられたみたいで。
「涙腺が緩くなったのは歳のせいかな?」
「心の扉が、開かれてるからだよ」
 独りなら幾歳を経ても開かれることのなかった扉。
 身体だけでなく心の隙間も埋めるよう、ぎゅうっとハルネスの片腕に抱きついてくる命の熱。だから扉が開かれても寒くない。彼女も、きっと。
 たとえ小さな欠片になっても。
 ――アンジュ、私はここにいるよ。

●ラーラマーレ・ディレットーソ
 世界がオレンジ色に溺れる黄昏に、波に洗われては光る幾つものカナルグラス。胸迫る切なさに堪らず男が重ねた手に、女が指を絡めて想いを返す。
 死んだ兄ぃの瞳がね、こんな夏の黄昏の色だったんだ。
 軽口めかしてそう紡いだ刹那、ラウンドの視界に懐かしい彩が煌いた。
 ――ああ、この色だ。
 夕焼け色の欠片を掬えば、途端にそれが水彩のごとく滲む。
「この子はどんな旅をしてきたんだろうね?」
「これと同じ旅をして来たのかもしれないね」
 微かに眦震わせた彼が態と明るく声を弾ませるから、アカツキも気づかぬ振りで己が掌の欠片を見せた。春陽めいた、淡い金。片目を瞑って硝子を翳す。
 柘榴の瞳を、優しい金が透かせば。
「見て、おんなじ色」
「……ほんとだ、おんなじ色」
 ――アカツキさん。またこの街に来ようね。
 泣きそうなのも隠せずくしゃりと笑った彼に、彼女が小指を立てて見せる。
 ――ね、指切りでもしようか。
 黄昏の砂浜に二人足跡残し、足元を撫でる波音に重ねて声音を交わす。お望みはどんな色? と訊かれてリューウェンが微笑した。
「この色がと言うより、出逢えた時に『これだ』と思えるような予感がするな……」
「ふふ、運命の出逢いの予感だなんて、流石ろまんちすとさん!」
 ラヴィスローズが笑み咲かせれば、互いの胸に夏空の街の日々がよぎる。
 水の夏空に桟橋渡すコテージ、相棒ペンギン家族と翔けた運河、優しい雨の微睡み。
 無意識に俯いてしまっても、いつだって夏空の青を見つめていた。
 空にも水面にも夏空を抱くラーラマーレ。彼が教えてくれた、大好きな青。
「見つけた……!」
「俺の予感も、ここに」
 ふと振り返ったラヴィスローズが歩みの跡に手を伸ばす。立ち止まる爪先に触れた優しいまるみをリューウェンが掬う。泣きたくなるような、夏空の青。
 彼女の掌で鮮やかに、彼の掌で雛の産毛みたいにふんわりと、優しくひかる。
 夏の彩泳ぐ杯ふたつ。
 誘った彼と鳴らして光の滴を喉に落とせば、甘くも冴える熱がアデュラリアの裡を撫でてゆく。
 薄絹のごとく肌を包む水の匂い、波に誘われ裸足の上を、下を、柔らかに流れる砂。
「裸足で歩けるの、ちょっと感動的よ」
「この撓やかさがあんたに良く似てる」
 密やかに交わす笑みの先、波に覗いたひかりを掬えば、淡く蕩けて色づく夜明け色。まるで貴方と重ねるひとときのような色、とナルセインを振り返る。
「ふたりで居るから過ぎるのが惜しいなんて、はじめて」
 ――あなたは、どうかしら?
 男の瞳が、眩しげに細められた。
「アンジュは何処を見て自分だけのグラスだと思う?」
「あのねあのね、きっと同じ!」
 暁色の弾む声音にロータスも破顔した。
 言葉にできない、光への手の伸ばし方は多分良く似てる。だから水面に躍る黄昏の煌きが不意に凪いだ瞬間、波間に見つけた蓮花色のひかりに手を伸ばす。
 敢えて言葉にするなら、惹かれ合ったから。
 己に似ている気がして、それでいて焦がれるような輝きを秘めたそれを愛しく握る。
 決して離さない。
 もし俺が水底に沈んだ時、唯ひとり見つけてくれるひとがいれば、決して離したくないと思うから。
 君には朝焼けで、私には夕焼けかな。
 なんて笑って一杯つきあってと声をかければ暁色が駆けてきた。喉を落ちる光の滴がラツの胸に夏空の街そのものを燈す。
「結局は同じだね、心動かされるというのは」
「うん。震えて、揺れて」
 説明したいとは思わなかった。
 受け入れ、受け入れられたい。愛している、愛しい。
 軋み揺れても温かな滴のように心の泉に落ちる、不思議な心地のまま、眩さも暗さも揺らめく金も抱いたブラウンのひかりを掬って、また、と告げて。
「――何に似ていると思ったの?」
 ふと振り返って笑えば、三つ瞬いた彼女も笑みを燈した。
「アンジュ達自身。今ここにいる、みんなにだよ」

 誰かの、何処かの記憶を抱いて。
 大きな流れに抱かれ、キセキのように出逢う。
 成程これは――と眦緩めたクロービスがそっと掬った砂の下、小さな煌き見つけた娘が輝くような泣き出しそうな笑みを咲かせた。それはきっと幾つもの祈りを聴いてきた欠片。
 彼女の掌に掬われる、深い青。
 祈りのひかりを手にクローディアは、もっともっとと欲しくて堪らないひとをまっすぐ見つめる。
 美味しそうに見えているのかと思っていた気持ち。けれどそれは、恋情だった。
「ビスさん、私、貴方が好きです」
 このカナルグラスが綺麗だと思うなら、私の気持ちも覚えてくれると嬉しいな。
 ――ありがとう。……ごめん。
 僕の狡さをも洗う、大切な、可愛い娘。その恋情に返せた言葉はそれで。
 けれど続いた願いには。
「――うん。絶対、忘れない」
 胸の痛みを堪え、せめてもの微笑で応えた。

「一緒にミントジュレップが飲みたいな……」
「……ん。ここは僕に御馳走させて」
 柔い笑みと言の葉交わし、砂浜にセピアの足跡を二人で綴る。

 めぐりめぐって、まぁるくなって。
 夏空の街ラーラマーレへと辿りつき、泣きたくなるほど優しいひかりを纏ってひかる。



マスター:藍鳶カナン 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:27人
作成日:2014/12/03
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