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奈落最終決戦:妙なる花を守りて

<オープニング>

 ラズワルド大戦は、エンドブレイカーの勝利に終わった。
 健在であった最後の五将軍『大空を覆うもの』を失った大魔女スリーピング・ビューティは戦場に姿をあらわす事無く、配下のイマージュマスカレイドと共に、東の空へと撤退していく。
 大空を覆うものの眷属達はほぼ壊滅していた為、戦場に残ったのは勇者ラズワルドの軍勢のみであった。

「大空を覆うものがいなければ、撤退もままならぬか」
 勇者ラズワルドは、愛馬、天空駿馬サテライターにまたがり、戦場をみやる。
 騎士姫隊長リンレイは、ラズワルドの決断を静かに待つ。
 氷魔参謀アイザーレイがいれば、なにがしかの献策を行ったであろうが、彼女は既にエンドブレイカーに討ち取られていた。

「我々は確かに敗北したかもしれぬが、敵もこれ以上戦う余力は無いであろう」
 ラズワルドは、勇者としての直感で、エンドブレイカーが更なる戦いを行う余裕が無い事を見抜いていた。

「ならば、我は、予定通り、此華咲夜若津姫の身柄を押さえさせて貰おう。これより全軍、奈落へ向かう」
 その言葉に、ラズワルド配下の軍勢は、一斉に鬨の声をあげた。

 それは敗北し、奈落へ逃げ込もうという軍勢の姿では無く、意気揚々と敵地に攻め込む軍勢であるかのようだった。

●奈落の挟撃作戦
「ラズワルド大戦、お疲れ様でした!」
 と、魔鍵のデモニスタ・フロリンダ(cn0196)は言った。戦いは激戦であり、薄氷の様に危うい勝利であったけれど、大空を覆うものを討ち取り、る全ての密告者、そして原初の災害竜までも撃破する事が出来たのだ。その戦果は素晴らしいものであった。大空を覆うものの軍勢は壊滅し、大魔女の軍勢も東の空に逃げ去っている。大空を覆うものを撃破したことで、創世神イブ・ザ・プリマビスタの加護も得ることが出来たのだから、ラズワルド大戦はエンドブレイカー側の大勝利と言っても過言ではない。

 ただ……ラズワルド大戦の主敵の一人であったラズワルドが充分に強力な軍勢を維持したまま、アマツカグラに残り更なる攻撃をしかけてきたのだ。

「ラズワルドの目的は奈落に居る『此華咲夜若津姫』だよ。もうあの人の軍勢は奈落に向かっていて此華咲夜若津姫の配下達と戦いを始めちゃっているの。奈落側は守りを固めているからラズワルド軍を押しとどめているよ。だからラズワルドが此華咲夜若津姫の目の前に行くまでにはまだ時間がある……今なら、今なら勝機はまだ残ってる」
 フロリンダは藍色の瞳に力を込める。
「お願い! 奈落に攻め込む勇者ラズワルドの軍勢を背後から攻撃しよう! そして勇者ラズワルドを撃破……あるいは、救い出してあげたいの。勇者ラズワルドはとってもとっても強いから、エンドブレイカーの助けが無ければ此華咲夜若津姫でも負けちゃうかもしれない。そうなったら……」
 フロリンダはうつむいた。もし、此華咲夜若津姫が勇者ラズワルドに敗北し大魔女の五将軍に戻るような事があれば、ラズワルド大戦の勝利で得たものは全て水泡に帰すかもしれないのだ。

「ラズワルドがどうして逃げずに奈落に攻撃を仕掛けたのかはわからない。全軍での撤退が不可能になったから、自分だけ逃げるわけにはいかないって思ったのかもしれないし、大空を覆うものを失った状況で、イヴだけでなく、此華咲夜若津姫も自由になったら大魔女側は困ると思ったのかもしれない」
 フロリンダは顔をあげて小さく首を振る。この状況で敵将の本心など思ってみても仕方がない。
「昔からピンチはチャンスって言うよね。勇者ラズワルドがすっごく強くても、此華咲夜若津姫の軍勢とエンドブレイカーが挟み撃ちにしたら、こっちが勝てるかもしれない……でしょ? だから……どうぞよろしくお願いします」
 フロリンダはぴょこっと上体を倒してお辞儀をした。


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参加者
紅月の双眸・ユン(c00020)
バーガンディレース・ラーレ(c02476)
雪下山水・ソフィア(c02845)
日緋色金・スゥイン(c12448)
和装の令嬢・アキホ(c19159)
マリヤ・ルア(c28515)
万里流浪の義士・イーグル(c32873)
強欲の緑深・ルン(c35111)

<リプレイ>

●冥き路を征け
 戦いは全ての場所で既に始まっていた。奈落の入り口付近に展開していた騎士姫隊長リンレイと天空駿馬サテライターが指揮する軍勢へと別動のエンドブレイカー達が勇戦している。戦況は明らかにエンドブレイカー達優勢だ。
「……奈落、か」
 日緋色金・スゥイン(c12448)の深い緑の瞳に蔭が落ちる。身体でなく心に刻まれた慟哭は薄れも消えもしない。
「……よかった」
 雪下山水・ソフィア(c02845)はホッと胸をなで下ろした。友軍の善戦に勇気を貰ったような気もしてくる。
「彼等のお陰で迂回できそうですわね、ソフィア様」
 移動の速度を緩めることなくバーガンディレース・ラーレ(c02476)が言い、うなずくソフィアと共に前を向く。そこには多数のエンドブレイカー達が此華咲夜若津姫のいる場所を目指しては進む姿が見える。ラズワルド直属のマスカレイド達の大軍が見えてくると、味方の一団がこれに向かって動き出した。同時に残る味方も幾つかに散開し進むがそこにも敵が群がっている。
「アマツカグラも姫も世界も絶対に、護ります」
 名女優ソァラの紋章が描かれ、強欲の緑深・ルン(c35111)は力に満ちた声を張る。歌は英雄を言祝ぐ勇壮な歌を紡いで敵を撃ち、騎士の歌がルンの胸に闘志を灯す。
 たおやかにも美しい黒髪をなびかせ和装の令嬢・アキホ(c19159)が愛刀洸々偃月之小太刀を操ると、斬り裂かれた空間を清しい魔力がこもった月光が遠く奥へと道を拓く。
「参りましょう」
「ウラー!」
 雷光を帯びた神馬の如きグランスティードに騎乗したまま雄叫びをあげ、マリヤ・ルア(c28515)が突っ込む。その勢いはいささかも衰えず、アキホが拓いた道を塞ごうと迫るインセクタ型のマスカレイド達を蹴散らしてゆく。しかし、有象無象に広がるマスカレイド達はジリジリと迫ってくる。
「何ともしつこい輩どもではあるが、我らも此処で退く訳には参らぬ。故に全力で押し通る!」
 愛刀に鬼の気を宿し万里流浪の義士・イーグル(c32873)は敵を真っ直ぐに斬り捨てる。か細い花のマスカレイドが四散し、桜吹雪の様に風に流れ消える花びらの様な身体を無造作に掻き分け前に出る。もうあちこちで戦闘が始まっていた。ラズワルドへと突撃したエンドブレイカー達はさすがに苦戦しているが、一歩も引いていない。
「私達は私達の道を、先を急ぎましょう」
 後ろ髪引かれる思いを押さえ紅月の双眸・ユン(c00020)が言う。此華咲夜若津姫がマスカレイドにされてしまえば全ての希望が絶望へと変わる。戦場を迂回しつつ先へ奥へと進むしかない。

●花の守人
「女性の寝所に押し入ろうというなら、勇者であろうとなかろうと相応に痛い目を見て頂きましょう!」
 夜空を駆けるという流星の如くよどみない真っ直ぐな軌跡を描き、目的地へと到達したソフィアはその勢いそのままに銀鉱石の槍でマスカレイド達を薙ぎ払い、アキホのムーンブレードからは二筋の月光が破邪の輝きを放って敵ごと空間を引き裂いてゆく。
「ここより先はご遠慮願います。どうぞお引き取りを……」
 典雅な舞いの様に武器を手にしたアキホの黒い装束の裳裾が揺れる。ラズワルド配下のマスカレイド達は此華咲夜若津姫へと迫っている。
「ご無事か、始祖母! こたびの遅参、どうぞご容赦されよ!」
 不思議と九龍公・シーヴァー(c03034)の声が朗々と聞こえてくる。此華咲夜若津姫にこれまでの経緯を話すと姫は晴れ晴れとラズワルドを殲滅すると宣言した。しかし、それではラズワルドセイヴァーは使えない。何より、ラズワルドには再び此華咲夜若津姫をマスカレイドに堕とす策があると言う。
「遅参なれど私達がたどり着いたからには、此処より先は一歩も進ませんぞ!」
 奈落の底でもなお銀色に輝く髪を無造作に振り、イーグルの放ったワッパがマスカレイドを捕縛しそのまま引き擦り倒す。
「僕達が援護します! 遠くはあるけどお母さんだから……護りたいんです」
「……此華咲夜若津姫! 何かあれば直ぐに俺達エンドブレイカーに報せてくれ!」
 ルンとスゥインも続くように声を上げると、此華咲夜若津姫は衣擦れの音もなく後退を始めるが、彼女の手勢を押し潰すようにマスカレイド達も前進しエンドブレイカー達が防御の形に散開してゆく。 
「今まではギリギリまで力を温存してきたんだもん。ここからは全開で行くわよ!」
 堪えてきた力を解放出来る喜びがルアの赤茶の瞳に揺れる。優美なあ銃身を持つ紫煙銃から放たれた強大な魔力は奔流となって敵を射抜き、紙の様にあっさりと屠ってゆく。
 今この瞬間にもこの奈落の何処かで戦いは続き、勇者ラズワルドとその配下のマスカレイド達は迫り、その穢れたソーンから未来を護るため、此華咲夜若津姫を助けようとエンドブレイカー達は戦い、傷つき、倒れゆく。彼等が決死の覚悟で命を削るようにして3度その猛攻を退けても、圧倒的なまでにバランスの取れた攻守に渡る能力と不屈の魂を持つというのか、ラズワルドは戦場に踏みとどまる。
「幾度試みても同じ事、最後には必ず我が勝つ。無駄なあがきは止め早々に去るのであれば深追いはせぬ。我が望みは此華咲夜若津姫の身柄ゆえ」
 抜き身の愛剣は禍々しい血色に輝きながらまるで創世の時からラズワルドの腕そのものでもあるかのように、重さを感じさせる事もなく縦横無尽に振りさばいては唸りをあげ、一振りごとに激しい力の余波を放つ。
「ラズワルドがまた来ました! お願いです、誰か……誰でも良いから姫をお守り下さい!」
 ユン悲痛な叫びが戦場に響く。最後の一滴まで力を振り絞って倒れた仲間達の行動は決して無駄でも徒労でもない。彼等が作り出した大事な『時間』が奈落を迂回したエンドブレイカーの到着を間に合わせたのだ。そうではなければ此華咲夜若津姫がラズワルドの手に落ちるか、僅かな確率で姫がラズワルドを屠っていただろう。
「また来ましたわね。本当にしつこい方ですわ……味方ならそのしぶとさもステキだなって思ったかもしれませんけれどね」
 複雑な思いを滲ませる台詞がラーレの乾いた唇から漏れる。紅石の様に輝く瞳が遠く、けれど圧倒的な存在感を放つ『その人』の姿を映す。見間違えるはずはない。
「僕達が絶対に通しません! 子供はね、絶対にお母さんを護るんです」
 ルンは周囲に群がるラズワルド配下のマスカレイド達へと見えない衝撃波を放ちながら言う。しかし、立ち塞がるエンドブレイカー達など歯牙にも掛けぬと言外に示すかのように、勇者ラズワルドの剣は此華咲夜若津姫を狙って繰り出される。けれど、白銀の槍と同じきらめきを放つ鎧をまとった少女がそれを阻んだ。
「奈落に落ちた勇者……その無駄に仰々しい鎧、この騎士槍で打ち砕きます!」
 似合いもしないごてごてした過度な装飾など、棘と一緒に取り払ってやりたいから……渾身の力を込めたソフィアの突撃。冥き奈落の虚空に浮かぶ幻の城門がゆっくりと開き、神々しい英霊の姿がソフィアに背を護るかのように降り立ち、そのまま得物を手にラズワルドの剣へ打ち鳴らされる。ラズワルドの剣が止ま……らない。英霊の力をもってしてもあと僅かに力が足りないのか止まらない!
「退け!」
「……っつ」
 嵐の様な威風に抗うソフィアごと突進しようとするラズワルドだが、がくっと速度が落ちた。
「……だが、此処は通す訳には行かないな。俺は城塞騎士だ。仕事はしよう」
「スゥインさん」
 ソフィアに並ぶようにしてスゥインは大剣ほどもある太刀をもってラズワルドの剣を押しとどめている。スゥインのオーラが創る戦旗がひるがえり、自分をそして一番近くで戦うソフィアの戦意を更に強く高揚させる。更にアキホの攻撃が奈落の底に夜空に架かる淡い月の光を放ち、ルンとラーレ、2人の力を強化してゆく。
「あなたの長い戦いをここで終わりにしてあげます」
 再度はなったユンの見えない衝撃、それはアキホの力を一層高め、同時にソフィアとスゥインに押しとどめられたラズワルドの剣を持つ手を打つ。それを嫌ってみじろぐ勇者へイーグルが放たれた銀色の矢でもあるかの様に突進する。
「これまでにない強敵なれど、難に臨みて退かず! いざ!チェストォォ!!」
 彼我の力の差を解っているから捨て身で攻勢に出る。心が決まれば動きにためらいはない。鬼の闘気をまとった一撃必殺の剣はラズワルドの身体へと向かって真っ直ぐに繰り出され……しかし寸でのところで当たらない。しかし、無理に身体をひねって放つ返す刀が僅かながらも傷を負わせる。
「何?」
 当たるはずのない攻撃と思っていたのか、表情の見えないラズワルドの声音に意外に思う感情が揺らめく。
「今ね! ウラーーッ!」
 動きやすい騎乗用の戦装束をまとったルアが更に雄叫びをあげて突撃する。しかし、この攻撃はあっさりとラズワルドに回避されてしまう。
「私達に負ける理由なんて何一つありません! 覚悟なさいませ!」
 ラーレの思いに応えるかのように、奈落に出現した星霊ディオスは破邪の水をラーレとラズワルドへと向かって放つ。聖なる水は姿を変え味方を鼓舞し敵を撃つ。
「翼があるのに空ではなく地の底を目指すなんて皮肉じゃないですか。そうは思わないんですか?」
 見えない衝撃を放ちながら落ち着いた声でルンが言う。攻撃は当たらなくても、自分の攻撃が近くで戦う誰かに届けばそれだけでも、価値がある。
「邪魔だて無用!」
 ラズワルドが振り回す愛剣は風を生み竜巻を起こす。ソフィアとスゥインが強烈な風にまかれ圧に押しつぶされて吹き飛ばされる。
「まだ、まだです」
「……通すわけにはいかない!」
 内蔵が軋み身体がバラバラになりそうな衝撃に気が遠くなる……けれど消えていった命に誓ってまだ倒れるわけにはいかない。

 勇者ラズワルドとの戦いは僅か数合のうちにエンドブレイカー達を著しく疲弊させた。奈落には多くのマスカレイド達が勇者の下部として従軍し、此華咲夜若津姫を狙っている。その寄せ手を押し返そうとするエンドブレイカー達との壮絶な混戦となり、攻撃の手はラズワルドと戦う者達にも容赦なく浴びせられる。けれど、有象無象の敵の挙動に目や心を奪われていては勇者と謳われるラズワルドの前進を阻む事もその血色の剣は受け止めることは出来はしない。全身全霊を傾けて尚足りない絶対的な差を気力や体力の限界を超え全てを凌駕した何かで持ちこたえていた。それでも、その全身は絶え間なく降り注ぐ様々な攻撃に晒され、前衛も後衛も等しく満身創痍であった。既に戦いを続けられる状況ではない。
「良く戦った、アウィンの子等よ。さあ、まとめて黄泉路に送ってやる!」
 連戦の疲れも見せない勇者の手は血の穢れと罪に染まった真紅の剣を手に、逆巻く烈火の炎を立ち上らせ、唸りをあげて迫ってくる。
「今まで抗い続けてくださってありがとうございます。でも、終わりを迎えるのはあなた……アウィンの末裔は決してマスカレイドや魔女の思い通りにはなりません」
 猛攻の気にあてられまいと古く重厚な魔道書を掲げて身を隠しながらもユンは施療院の紋様を描き、傷の深いスゥインとイーグルへと愛の力で治癒を使う。どちらも引く気は微塵もない。
 いつしか戦い続ける両者の……勇者と姫との間は2人の実力からすれば無いも同然の至近距離となっていた。ラズワルドの猛攻を完全に止め押し返す事は出来ていなかったのだ。
「ここまでなの?」
 ルアは呟く。銃をとる手にさえ力が入らない。
 全てを凌駕して戦ってきたけれど……それもここで終わるのか。
「いいえ!」
 驚くほど大きな声でラーレが叫んだ。金色の髪は乱れ白い肌は傷だらけだったけれど、その赤く燃える瞳の色は消えていない。
「仮面が齎す終焉なんて叩き壊しますわ! そして思い報せてやりますわよ。嘗ての勇者に、志は絶えていない事を……彼らが望んだ、終焉砕くこの力を!」
 これ以上回復の力を使えばどうなるか、一番解っているのはラーレ自身だったが高く魔鍵を掲げて楽園の門を開く。めくるめく楽園の光景が暗いに奈落に広がってゆき、降り注ぐ暖かい光がイーグルとソフィア、そしてスゥインの傷を劇的に癒してゆく。
「姫様! 嫌です、絶対に護りたい!」
 痺れたように効かない全身のその小さな身体から最後の力を振り絞ってルンは施療院の慈悲を具現化させた紋様を描いてゆく。
「此処から先は一歩も進ませんぞ!」
 圧倒的な勇者の力を持ってしても……ラズワルドは突破出来なかった。仮面に覆われた顔に浮かぶ表情は見えなくても驚きは伝わってくる。
「何?」
 業火をまとった赤い剣ごしにイーグルが、そしてスゥインが嗤う。
「……流石は勇者。だが言った筈だ。此処は通さない、と」
「強引な殿方は願い下げです!」
 それは最後の攻撃だった。ソフィアはナイトランスを回転させ至近距離からラズワルドへと容赦なく繰り出し、スゥインの戦旗とイーグルの太刀が鬼の闘気をまとって必殺の『零の太刀』で斬りつける。3つの攻撃は僅かな時間差で絡み合うようにラズワルドへと放たれ、さしもの勇者も後退しても回避しきれず浅くもない傷を鎧の下の身体に刻む。赤い、赤い血が滴り流れる。
 その赤い血潮は……いままでラズワルドと戦った者達の、数多の行動――たとえ僅かな傷、それさえ出来なかったとしても――が彼の自由な時間と空間を与えず力を奪ってきた成果であった。そしてこの一撃もこの先ラズワルドと戦う者達の一助となるのだと信じたい。
 しかし……攻撃を放った3人は誰1人としてその血の色を見ていない。凌駕しても越えられない本当の限界が訪れたのだ。そして己の命を削って治癒の業を使ったラーレも既に意識を手放している。
「私が出ます。その隙に下がって、早くお退き下さい」
 完全なる『夜』となったアキホが深淵なる闇で勇者に追撃を仕掛けてゆく。それがどれ程無謀なことか解っていても他に手がない。
「それじゃあアキホさんが」
 倒れた仲間達の傍らでルアは首を横に振った。ルンもユンも半ば意識がない。目の前が真っ暗になった――そうではない。次の攻撃を仕掛けようとするラズワルドとの間に割って入った者達が作る優しい影だ。リーゼロッテが槍を、セシリアの歌も聞こえる。
「牙持つ灰色鴉が参る! ラズワルド殿。一手お相手いただこう!」
「大丈夫ですか!?」
 頼もしいログレスの背とミミのの声にアキホとルアは決断する。
「ここは我々が押し返す。任せておくがいい」
 ライズとシーヴァーも前に出ている。
「ありがとうございます」
「助かりましたわ」
 ルンとユンは動けない者達を引きずる様にして強引に後退する。追っ手を阻んでくれたのはヴェルナーのムーンブレードから放たれた月の光だ。

 遠くで声がした。ラズワルドは此華咲夜若津姫をソーンに染めることなく撤退した……その報せであった。



マスター:神南深紅 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2014/12/15
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