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氷の夢のバルーンフィッシュ・ダイビング

<オープニング>

●氷の夢
 凍りつくような殺意を抱いて夢と現を駆けていた乙女は不意に夢から覚めた。
 怠惰ゆえに櫂を操る手が覚束ない若者に激高しかけた老ゴンドラ乗りは、まるですうっと肩の力が抜けたかのように、なら儂が指導してやるかと眦を和らげる。
 冷たい湖の底で銀の鱗の上に仮面を得た小さな魚は、禍々しい衝動を顕す間もなく掻き消えた。
 萌芽するまでもなく弾かれ、あるいは芽吹いたばかりの弱々しい形代を失い、悪しき棘が拠り所を失っていく。
 誰も知らないところで、いくつも、いくつも。

 けれど薄雲のように頼りなく漂っていた悪しき棘が、少しずつ少しずつ集まり始めた。
 そうして凛と大気が澄みきった冬の朝、冷たく凍りついた氷の湖面にきらきらと曙光を躍らせる湖の上空で、ふわふわと集まってきた悪しき棘が二つのまあるい渦を生み出した。
 希薄だった棘が回って回ってまとまって、少しずつ存在感を増していく。

 くるくる。くるくる。
 ぴるぴるぽふん!

 何やら可愛らしい音が弾けた瞬間、凍れる湖の上空に顕現したのは大きなまんまる二つ。
 ちょっとした小屋くらいはある巨大なボール――に見えたそれらには、よくよく見ればつぶらな瞳やおちょぼ口、そして、ぴるぴるする愛らしい胸びれがついていた。
 つやつやボディは青緑色、だったが、それがふんわり桜色へと変わる。
 けれど何より特徴的なのは、愛らしさの極致を体現したそのまんまるフォルムだ。つまりそれらは。

●さきぶれ
「おっきなバルーンフィッシュが! アンジュ達を! 呼んでるの!!」
 夏空の狩猟者・アンジュ(cn0037)が熱烈にそう訴えたのは、吉報に沸く旅人の酒場の一角だった。
 各地の酒場を賑わせている吉報は、先の大戦と奈落での決戦の勝利が齎したもの。
 原初の災害竜『カラミティ』の撃破によって新たな災害竜が発生する恐れはなくなり、魔龍『大空を覆うもの』の撃破によって、イヴ・ザ・プリマビスタと此華咲夜若津姫が力を取り戻し、都市国家内のマスカレイドに制約を課すことが叶った。
 更に奈落の決戦で勇者ラズワルドが敗北したことを感知した『大魔女・スリーピングビューティ』が都市国家に残ったマスカレイドを見捨てたため、多くのマスカレイドが消滅していっている――という喜ばしい報せ。
 だが、マスカレイドが消滅しても悪しき棘そのものが消滅したわけではない。
 都市国家内に漂いだした棘は惹かれあうように集まり纏まって、イマージュマスカレイドとして形を成していっている。つまり、暁色の娘が言うところの『おっきなバルーンフィッシュ』もそれである。
「んでも、これってある意味チャンスだよね?」
 エンドブレイカーならマスカレイドを倒すことで悪しき棘そのものを消滅させられる。
 都市国家内の各地に点在していただろう何体ものマスカレイド。それらが抱えていた悪しき棘を、一気に纏めて消滅させる好機だと告げて、彼女は同胞達に願う。
 どうかお願い、みんなの力を貸して。
「アンジュと一緒に――おっきなバルーンフィッシュと遊、戦いにいこう?」
 今ちょっと何か言いかけた。

 おっきなバルーンフィッシュのイマージュマスカレイドが現れたのは、水神祭都アクエリオのとある湖の上。訪れる者もない湖の上空に浮かぶおっきなまんまる達は、今はまだくるくる回ったり胸びれぴるぴるしたりしているだけだが、いつ人里に移動して害を為すかわからない存在である。
「しかもね、放っておいたらこの子達、どんどん棘を成長させてって超強力なマスカレイドになっちゃう可能性もあるのね。つまり是非ともアンジュ達が行かなきゃならないんだよ!」
 どーんと言いきった。
 今から向かえば凛と大気が澄みきった冬の朝、おっきなバルーンフィッシュ達が凍れる湖の上空に浮かんでいるところに到着することができる。
 着いたらまずは、上空でふわふわくるくるぴるぴるしているまんまる達に、
「ずがんと一発遠距離攻撃! そしたらおっきなバルーンフィッシュ達は凍った湖の上にぽむぽむっと落ちてくるからね、その後は普通に地上、っていうか氷上で戦えるよ」
 彼らが落っこちるのは湖のまんなか付近、だが湖には厚い氷が張っているから、足場を気にせず氷上を存分に駆けて戦うことができる。そして彼らも思いきり氷上を転がりまくる。
 おっきなバルーンフィッシュ達が持つ能力は!
 そのいち。愛らしい外見と仕草で相手を魅了する。
 そのに。ちっちゃなバルーンフィッシュをいっぱい召喚、相手の周りでぴるぴる踊らせて魅了する。
 そのさん。思いきり転がりまくってろーりんぐあたっく!
「なかなか侮れないんだよ心してかかる必要があるんだよ! 愛らしい仕草で警戒が緩んだところに別方向からローリングアタック、みたいな連携もしてくるんだから……!」
 大きな体でのごろごろ突撃は複数の相手を簡単に巻き込んでしまう。乱戦になる可能性も高い。
 後衛にいれば安全――なんてことは絶対にないからね、とアンジュは念を押した。
 可愛いけれどマスカレイドである。
 愛らしいけれどマスカレイドである。
 きっちり倒しておかねばならない存在だ。
「んでもね、こんなに胸ときめく敵に逢えることも滅多にないと思うの! 思うの!!」
 折角の出逢いだ。この戦いを思いきり楽しまなければもったいない。

 おっきなまんまる達と存分にぶつかりあい、戯れるよう戦って、そうして夢幻として生まれた彼らを世界へ還そう。そうして悪しき棘を消滅させ、今度こそ水神祭都を悪しき棘から解き放つための光を掴むのだ。
「あのね、そうやって思いきり遊、戦えたら――また逢おうね」
 陽に透かした蜂蜜色の瞳を緩め、暁色の娘が笑みを燈す。
 いつかきっとまた、おっきなまんまる達のことを語り合いたくなると思うから。


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参加者
陽若竹・ランシェ(c00328)
大梟の樹に住む・レムネス(c00744)
ハニーフィンチ・アレンカレン(c03179)
退かない媚びない顧みない・エレノア(c04817)
翡翠四葉・シャルティナ(c05667)
トランジットパッセンジャー・ピノ(c19099)
冱てる音吐・フォシーユ(c23031)

NPC:夏空の狩猟者・アンジュ(cn0037)

<リプレイ>

●氷の夢のバルーンフィッシュ・ハプニング
 凛と大気が澄みきった冬の朝は、心まで透きとおらせる心地がした。
 けれど一歩ごとに陽若竹・ランシェ(c00328)の心も足取りも浮き立っていくかのよう。眼前に広がる氷の湖を撫で来る朝風は頬を切るように冷たいけれど、氷の湖面には清冽な曙光がきらきら踊り、吐く息すらも微細な光の粒子を世界に散らす。
 弥が上にも膨らまずにはいられない期待を胸に上空へ瞳を向けたなら、淡青に透きとおる朝空でふわふわくるくるぴるぴるしている桜色のおっきなまんまるふたつ。
「あれは……! なんて見事なまんまるフォルム……!!」
「あ! ランシェくんずるいアンジュもホークアイするー!!」
「こ、これは落下地点予測の為であって、決して逸早く愛でたかったわけでは……あ、ありません!」
 言い訳しつつも最早ランシェはまんまるから眼が離せない。
 愛らしさの極致を体現するまんまるフォルム、そして、ふんわり柔らかな桜色……!
 恐らく狩猟者達にはばっちり見えているだろうつぶらな瞳もとってもプリティ、それはかつてやっぱりこれくらい大きなバルーンフィッシュのイマージュと対峙したことのある退かない媚びない顧みない・エレノア(c04817)も良く識っている。
 が、前回との違いは、まるんっとしたおなかに白い仮面がきらんっと光っているところ。
「今回は遊びじゃなくて仕事だからね! わかってる? 特にアンジュさん!」
「んきゃー!? だだだ大丈夫だよアンジュ全力でたの、たたかいます!!」
 どきーん! と胸の音が聴こえそうな様子でわたわたしている夏空の狩猟者・アンジュ(cn0037)の姿に笑みを零し、ふと上空を見上げたハニーフィンチ・アレンカレン(c03179)も、どきーん! と胸を高鳴らせた。
 ふわふわ。ふわふわ。
 くるくるぴるんっ!
 何あのすごい楽しそうなまんまる達。だけど、
「あんなに可愛いのに、私達、敵同士なのよね……」
「可愛いけど、正体は悪しき棘だからね」
 油断は禁物、とキリッと表情を引きしめた冱てる音吐・フォシーユ(c23031)が、うちの屋敷のお嬢様達も可愛いよ、なんて思っているのは秘密。そして、
 ――いや、キリッとした拍子に猫耳帽子の耳がぴるんっとしたフォシーユも可愛いんだけど!
 黒にゃんこを相棒に持つトランジットパッセンジャー・ピノ(c19099)がひっそりそう思ったのも秘密。猫耳帽子(黒ニット)なんて超心を擽られるアイテムなのだがそれはさて置いて、
「まずはお仕事開始! いくよー!!」
 撃墜用メーサーロータスを咲かせたなら、目標:湖上空で氷の反射光にきらんっと輝くまんまる! 一度思いっきりビームを撃ってみたかったとかそんなわけじゃないんだよだってキノコから煙出したら皆にまんまるが見えなくなっちゃうからね!
 なんて誰にともなく言い訳完了すると同時、ピノは輝く巨大な蓮花から眩い光をぶっ放す。
 ぴるぴる。ぴるっ!
 ひゅるるるぽむん!
 冬の朝空へまっすぐ迸った輝きがまんまるひとつを撃ち落としたならもう一発、いや二発!
「シャル、私達もせーので行くわよ!」
「はいですよカレンちゃん! ベティさんとにゃんこさんでだぶるあたっくなのです!」
「それじゃ、せーの!!」
 弾むアレンカレンの声に翡翠四葉・シャルティナ(c05667)が頷けば二人の足許に降り立ったのは星霊バルカン達、にゃあと気合満点で鳴いた二匹が火炎弾を撃ち込めば、
 ぴるぴる。ぴるっ!
 ひゅるるるぽむん! ぽむ、ぽむぽむぽむ……。
 ぴる! ぴるぴる、ぴる!!
「お、怒っちゃったです!?」
 空から落っこちて氷上でぽむぽむ弾んだおっきなバルーンフィッシュがぷうっとほっぺを膨らませ、ちっちゃな胸びれを猛然とぴるぴるして怒りを表明した。発火によるギアスを狙ったのだけど、怒りの波動が迸ってしまったらしい。
「何かぷんすかしてるけど! 何人たりともっ、あたしを止めることなんてできないんだよっ!!」
 氷を削らんばかりの勢いでごろごろ爆走して来るまんまる! だが負けじと強烈なスライディングで滑り込んだエレノアが真っ向から激突してひっくり返す! つまり続けて華麗に氷の湖面を滑走して来たフォシーユの眼前に迫るのは、それはそれは見事なまんまるおなか!
 ――お、大きい……!!
 見上げるほどの巨大まんまるに圧倒されかけたが、おなかの仮面が瞳に映ったなら気合一閃!
 星光煌く斬撃ついでにころんっと転がされ、まんまるは胸びれで氷の湖面をぺちぺち叩いた。
「う〜ん、怒ってる姿も可愛いね♪ って、なんで僕のほうにごろごろ来るのー!?」
 それは激おこまんまるさんが暴走しているから!
 思えば乱戦の可能性は初めから示唆されていたし、思いきり転がりまくる巨大な敵に皆好き好きに突っ込んでいっているため、隊列はあまり意味を成さないようだ。巨大な暴走まんまるに突撃された大梟の樹に住む・レムネス(c00744)は慌てて星霊ノソリンに跨り迎撃、ぶんっと唸った星霊の尾がばちこーんと巨大まんまるを跳ねあげたが、
「落ちてきたー!?」
「流石の大きさです……!!」
 丸くて大きな影がレムネスとランシェの上に落ちたと思った瞬間、勢いよく落下してきたまんまるは二人を巻き込みごろごろごろん! 即座に跳ね起きたランシェもディノスピリットに跨ったが、
「……!!」
 途端、つぶらな瞳でじっと見つめてくるもう一匹のまんまると目が合った。
「今癒しの輪を贈るですよ!」
「待ってシャル! 攻撃のたびに回復してたら保たないわ!」
「僕はまだ大丈夫です、この誘惑にも……抗ってみせます!」
 どんぐりの杖を手にしたシャルティナとお姉さんらしいアレンカレンの言葉に微笑んで、ランシェは金の竜を駆りまんまるめがけて超加速! だが!!
 くるくる。くるくる。
 ぴるぴるつるんっ!
「丸すぎてディノさんの牙が滑った……!?」
 いやつまり躱されたわけだが、それはともかく――氷の湖で、波乱万丈の戦いが幕を開けた。

●氷の夢のバルーンフィッシュ・ハンティング
 凍れる湖の上をぷんすか怒れるまんまるが思う存分転がりまくり、舞い散る氷片の煌きの中でもう一匹が愛らしい胸びれをぴるぴるさせ、おっきいけれど可憐な魅力を振りまきまくる!
 片方が暴走しているため彼らが巧く連携できないのは幸いだが、
「ここは虹色の羽でもっと可愛く……じゃなくて、ごろんごろんと魅力の拡大を防がなきゃね!」
 あったかマフラーをぼふっとはためかせる冬の風にレムネスは天使の翼を羽ばたかせ、淡い冬の青空と氷の湖の狭間に虹色に煌く羽の奔流を迸らせた。
 ぴるぴる。ぴるぴる。
 くるくるぴふんっ!
「おおっと目測を誤ったぁー!」
 桜色まんまるが制約の虹色ふわふわに包まれた瞬間、氷のかけらを跳ね飛ばして滑り込んできたエレノアが思いっきりまんまるに抱きついたが、これは遊んでるんじゃないよフェイントでハイパーを貯めたんだよほんとだよ!
 羨ましさを堪えつつランシェがもう一体めがけて揮うのは極細の罠糸、見事罠に捕われたおっきな桜色のまんまるは制約を刻まれ、ぐるぐる巻きついた糸にみっちり締めつけられて、
「これは……! まるでハムのようなフォルムです……!!」
「ハムだってー!?」
 美味しそうなハムっ子になってピノへ転がってきた。
 ぶぎゅるっと押し潰されればうっかり幸せを感じかけたが、
 ――ぴよぴよ! ぴー……!!
「いや! 浮気じゃないから!!」
 何処からか聴こえてきた気がする嫁の声に気力を奮い立たせ、のしかかるまんまるハムにざっくり紫煙樹の苗木をお見舞い!
「可愛い上に美味しそうにまでなるなんて……流石はバルーンフィッシュだな!」
 紫煙樹の枝に締めつけられ更にハムっぽさを増すまんまるに楽しげに笑って、エレノアは今度こそ氷のかけらで吹雪を起こさんばかりのスライディングアタック! 強烈な蹴りを炸裂されたまんまるはばいんと弾み、その拍子にもう一匹にぶつかった。つまりおっきな玉突きです。
「来たわ! 受けて立ちましょうフォシーユ、ルーも力を貸して!」
「う、うん。容赦は……しない!」
 予期せぬ玉突きにぴるぴるあわあわするまんまるを迎え撃ったのはアレンカレンの星霊ディオス、氷上を翔けたまぁるい水球が桜色の顔面で弾けた瞬間、フォシーユの即興歌が世界を染め変えた。
 首に巻いたストールで寒さから護られ、星霊の祝福で潤された彼の喉は絶好調、天へ昇る歌声と翔けるのは逆巻く吹雪に咲き乱れる花々、砕けて迫りあがる大地、もとい凍った湖面がまんまる達を氷の山脈のごとく突きあげる。
 突如氷の山の頂へと押し上げられたまんまるはおぶおぶぴるぴる、ふとつぶらな瞳と目が合えば、まるで『助けて!』と訴えられているようで――。
「それも魅了攻撃だよフォシーユくん! 気を確かに!!」
「……!」
 まんまると二人(一人と一匹)の世界に突入しかけた彼に『頼んだよ、スゥ!』とすぐさまレムネスが星霊スピカを飛ばす様にほっと息をつき、シャルティナが召喚するのは星霊ジェナス。
 おっきなまんまるにも、彼女にも、また逢えたのが嬉しいから。
「アンジュさん、一緒にだぶるがぶがぶあたっくなんてどうでしょか?」
「わあいするするー! いつかまたトリプルもしようねしようね!」
 たとえジェナスやディノの牙が滑ったって、泣かない!
 二人は固く誓い合い、ついでに楽しい年始の約束も結んで、おっきな桜色まんまるめがけて空中と氷上からだぶるがぶがぶあたっく! 津波に呑まれてがぶっと噛まれたまんまるめがけ、ランシェも一気に距離を詰めたが、罠糸が翻るよりも速く彼の周りで何かがぽふんと弾けた。
 瞬きしてみれば、いつの間にか周囲にはちっちゃなバルーンフィッシュがいっぱい!
 ぴるぴる。ぴるぴる。
 くるくるこてんっ!
「――!!」
 愛らしく踊るちっちゃなまんまる達が揃って小首を傾げた瞬間、青年の心の中でも何かが弾けた。
「これは魅了を軽減させるためです、本当です……!」
 だが、夢中でまんまるを捕まえようとする彼の許に陽の色に輝くまんまるが飛びこんで来る!
「ランシェしっかり! 僕らには――おうちで待ってるゆずひよこがいるじゃないか!!」
「――はっ! そうです、ピノさんの仰るとおり……!!」
 何かにそっくりなピノの黄金の林檎に癒され、覚醒したランシェは心を鬼にしておっきなまんまるを罠糸で捕えた。思いきり締めつければおなかに貼りついた仮面が砕け散り、
「次に目覚める時は、棘と無縁にふっくらまるっと泳がれてくださいね……!」
 くるくる。くるくる。
 ぴるぴるぽふん!
 ふわり解ける罠糸と一緒にくるくる回った夢の魚が、ぽふんと弾けて朝の光に消えた。
 ――おやすみなさい。

●氷の夢のバルーンフィッシュ・ダンシング
 凍れる湖にも冴ゆる朝風にも煌きを踊らす曙光に仲間が消えても、残る一匹のおっきなまんまるは元気いっぱい胸びれをぴるぴるし、氷上を思いきり転がりまくる。
 愛らしい桜色にきらきらの氷片を纏わせた姿にはときめかずにはいられない。が、
「氷片の似合いっぷりならフォシーユだって負けてないんだから!」
 拳を握ってアレンカレンが主張すれば、
 ぴるっ! ぴるぴる、ぴる!
 言葉に反応したのか、はたまた良く通る声に気を惹かれただけなのか、まんまるは彼女にむかって全力突撃ごろごろごろん! 危ないカレンさん! と咄嗟に奉公先のお嬢様を庇って使用人の矜持を見せたフォシーユごと思いきり氷上に転がされたが、ギアスのおかげでダメージは彼一人が引き受けてくれたらしい。慌てて身を起こせば、
「ごめんなさいフォシーユ! 大丈夫!?」
「は……ははは!」
 普段は物静かな彼が声をあげて笑いだしたものだから、アレンカレンはびっくり仰天。
「ほ、ほんとに大丈夫!?」
「大丈夫、何だか楽しくなってきただけだから」
 そう、思いきり倒されて氷に顔面をぶつけてしまったって、もう何もかも楽しくて堪らない。
「いいね、そんじゃもっと楽しくしようじゃないの!!」
 年若い同業の頼もしい言葉に破顔して、エレノアは貯めた力もすべて解き放って凍れる湖の上に楽しく幸せな踊りを描きだす。仮面を持つ以上まんまる達を倒すことに迷いはないけれど、やっぱりおっきな夢のバルーンフィッシュ達は可愛くて楽しい存在だ。
 楽しげに弾むステップ、軽やかに回るターン、明るく誘う声、そのすべてに心を浮き立たせ、彼女が華麗にびしっとポーズを決めてくれたなら、さあ、こちらも思いきり楽しみにいこうか。
 明けの空色に開花したピノの巨大蓮から溢れた輝きを浴びて煌くまんまるめがけ、アレンカレンの楽しげな声に応えた星霊ディオスが破邪の水流を放てば、桜色のおっきなまんまるが光と水に取り巻かれて氷の上でくるくるおぶおぶぴるぴる回る。
 くるくる。くるくる。
 ぴるぴるころんっ!
 氷と光をきらきら振りまきながらごろごろ突撃されて潰されたって、楽しくて楽しくてしょうがない。
 挙句、ぽふんと弾けたいっぱいのちっちゃなまんまるに囲まれればシャルティナは大喜びで、
「お屋敷で飼いたくなっちゃうです! 飼っても良いよって言ってくれると思わないですか?」
 無邪気に瞳を輝かせておねだり開始!
「か、飼える……かなあ?」
「そうね、飼えたら素敵……って、ダメダメ! 可愛いけど敵さんなのよ!!」
 少女の周りでくるくるぴるぴる踊るちっちゃなまんまる達を見ていると、ちゃんとギアスが効いているはずなのにフォシーユやアレンカレンまで絆されそうになるから怖い。しかもアンジュまで何やら入れ知恵をした。
「あのねアクスヘイムに本物の桜色のバルーンフィッシュがいる湖があるよ! ね、レムネスくん!」
「ほんとです!?」
「うん、大きさもちゃんと握り拳サイズの、本物のバルーンフィッシュがいっぱいいるよ♪」
 暁色の扇の追い風を翼に受けて、いつかの春を思い起こしたレムネスも朗らかに笑う。
 春風と共に出逢ったバルーンフィッシュ達。本物のちっちゃな彼らも魅了の力を持っていたけれど、今の自分達にとっては微々たるものでしかないはずだ。
 ――だから、また逢えるよ。
 眦を緩め、追い風に羽ばたかせた翼でレムネスは重ねた力のすべてを虹色の羽へと変えた。
 溢れんばかりの虹色の羽に包まれ、澄んだ音を立てて仮面が砕け散る。

 くるくる。くるくる。
 ぴるぴるぽふん!

 悪しき棘がすべて消え、おっきな夢のまんまるもぽふんと弾けて消えたなら、シャルティナの胸にはやはりいつか大きなバルーンフィッシュのイマージュを世界に還した時と同じ、ほんのりした切なさが満ちた。
 本物のバルーンフィッシュ達に逢えるように、いつかまた夢の彼らとも逢えるといい。
 向こうにはきっと前に遊んだ子達もいるはずだから、その日まで。
 ――淋しくない、ですよね。



マスター:藍鳶カナン 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:7人
作成日:2014/12/31
  • 得票数:
  • ハートフル6 
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