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ゼルフォニア沖海戦:輝きの先へ

<オープニング>

 ゼルフォニアに向けて航海する終焉に抗う勇士号は慌ただしさに包まれていた。
 カレン・フォステリー(cn0200)はきょろりと一度、周囲を見回す。自分の背の高さをどうこう思ったことは今まで一度もないのだけれど、今日はなんだか居心地が悪かった。

 当初、偵察や紹介に来たマスカレイド達は、ラズワルドの手によって排除されていて航海は順調であると思われた。
 大魔女スリーピング・ビューティのいる燦然鉱脈ゼルフォニア沖まで至ったときは、拍子抜けするくらい簡単だったので何かおかしな事でも起こるんじゃないだろうかと、彼女の弟分(であると彼女は思っている)ベル・エンキアンサス(cn0022)が神経質そうに呟いていたのを覚えている。悪い予感は口にすれば当たる物だと彼女は呑気にそう思った。
「このまま、ゼルフォニアに上陸できればと思ったが、そうもいかないか……」
 果たして戦場カレンの視線の先にいた勇者ラズワルドも、ゼルフォニアの城壁から解き放たれた光の群れにそう言った。カレンは少し離れた後方から見ているだけなので彼女にはその表情は伺えないが、きっと険しい顔をしているだろうと思った。
 あら。やっぱり何か大変なことなのね、と目元に手を宛ててカレンは顔を上げる。ひときわ大きな光が見えてきた。それは奇怪な人型をした怪物であり、周囲の光の玉は金属でできた天使型のマスカレイドのようであった。
「燦然光獣・レイレギオか、厄介な相手だ。燦然鉱脈ゼルフォニアの守護獣は『ゼルフォニア鉱の反射器』の効果を無効にする能力がある。戦って勝てないわけでは無いが、この船が破壊されてしまえば、大魔女を打ち勝つ事は不可能となるだろう」


「カレン」
 そこで声をかけられてカレンは振り返った。視線をちょっと下に。見慣れたベルの顔に首を傾げる。
「ベルさん。私、ちょっと解らないんですけど」
 あれは何。と問うより早く、ベルはカレンの手を引っ張って集まるエンドブレイカー達の和の中に引っ張っていった。
「みんな知ってると思うけど、とりあえず聞いて」
 ベルはそう前置きしたのでカレンは黙る。紅茶を用意した方がいいだろうかと一瞬考えたが、どうやらそんなことを言っている余裕はないようであった。

「勇士号が燦然鉱脈ゼルフォニア沖まで移動したのは解ってるよね。で、ゼルフォニアから勇士号に向かって敵がやってきたんだ。なんかそいつが、ゼルフォニア鉱の防御を無効化するらしくて……このままだと船が危ない」
 ぴん、とベルは人差し指を立てて天を指さす。相変わらず世の中本当に面白くないとでも言いたげな顔で、話を続けた。
「だから、勇士号を破壊しようとしてくる『天使型マスカレイド』を迎撃して、更に勇者ラズワルドと共に燦然光獣・レイレギオを撃破して欲しいんだ」
 ちょっと慌ただしいんだけれども、よろしくお願いするね。とベルは言って、そして話を進める。
「とりあえず今回の敵になる天使型のマスカレイドは、見た人もいるだろうけど、全身金色の金属で出来てる。あの翼は燦然光獣・レイレギオのエネルギーを受けて飛行して行動する事ができる『燦然光翼』っていう特殊装備らしくて、あいつらはそれで飛行して移動することは出来るんだけれども、飛行中は攻撃してこない」
「翼というと……エンジェリックウィングを想像しますけれど?」
 カレンが首を傾げるので、ベルは頷く。
「それっぽいアビリティを使うみたいだね。後は、ちょっと見た目は違うけれどもデモニスタのお兄さんやお姉さんに似たものも使う。後は所持武器に注意すればいい。それで……」
 ささっとベルは簡単に手元にあった紙にペンを走らせた。描いたのは二人の少女のようであった。雰囲気が似ているので姉妹かと思われるが詳しい顔の造作は解らない。金色の金属に覆われているからだろうと誰もが思った。絵では色までは表現できないけれど。
「追って欲しいのはこの二体。一人が槍を持っていて、もう一人は杖を持っていた。彼女たちは勇士号の森に入り込んでいるから、見つけて倒して欲しい。……と言っても、別に隠れるつもりもなく力押しで進んでるみたいだし、目立つからすぐに見つかるだろうけどね」
「どうしてかしら……。危険だと思わないのでしょうか」
 カレンが神妙な顔で絵を持ち上げて首を傾げる。ベルは肩を竦めた。
「推測だけど。ゼルフォニアに攻めてくる敵を迎え撃つ為に出陣してきたんだから、命なんか惜しんでも仕方がないんじゃない?」
「はあ……。成る程」
「で、次」
 成る程成る程とカレンが絵を見ているのには構わず、ベルはさくさく話を続ける。
 つまり、

 燦然光獣・レイレギオは全長40mで、飛行おり、『ゼルフォニア鉱無効』能力を持ち、勇士号の防御を無効化すること。
 また自分の周囲に、あらゆる攻撃を無効化する強固なエネルギーフィールドを張っていて、このエネルギーフィールドは攻撃だけをはじくということ。つまり、飛行してフィールドの中に入ってしまえば、攻撃は可能となる。
 また、1ターンに1回だけ『攻撃のダメージを無効化』する能力もある為、一対一の戦いでは、勇者であっても倒すことは絶対に出来ない。
 そして更にそのありあまるエネルギーで天使型マスカレイドに飛行能力を付与する事ができるのである。
 故に、五将軍や勇者に次ぐ大魔女軍の決戦兵器となっているのである。

「なんだか、とってもめちゃくちゃですね」
「否定はしないよ。とにかく最初は勇者ラズワルドが足止めをしてくれてるけど、さっき言った特殊能力があるからダメージを与えることは出来ない。アレを倒すにはお兄さんやお姉さん達が、レイレギオに攻撃する必要がある」
「でも、相手は飛んでいますよね?」
「うん、だから……」
 ベルはカレンが持っていた絵を取り上げた。金の天使達を再び一同に見せる。
「彼女たちを排除した後、彼女たちが使用していた燦然光翼を使って空を跳んでラズワルドを助けに行く」
「……まあ」
 カレンが一つ、息を呑んだ。瞬きの後に、
「それでは、彼女たちから燦然光翼を頂いても」
「頂くってね」
「済みません。何しろ上品な生まれのもので。とにかく、二人しか空へ助けに行くことが出来ませんね?」
「そういうことになるね」
 まあ、まずその「頂け」なきゃ話にならないんだけれどもね。なんてベルは相変わらず憎らしい口調でそう言う。カレンはぐっと拳を握りしめた。
「きっと大丈夫です。皆さんなら出来ると私は思います。それで、ここを突破すれば燦然鉱脈ゼルフォニアへ向かうことが出来るのでしょう? 遂に、大魔女スリーピング・ビューティにお会いすることが出来るじゃないですか!」
「ん。逆に勇士号が破壊されたりなんかしたら、大魔女の元へ向かう方法がなくなっちゃうけどね」
「大丈夫です。きっと」
 きっぱりと言い切るカレンにベルは息を吐く。それから周囲のエンドブレイカー達を見返した。一人一人、きっちりと顔を見て、
「厳しい戦いになると思う」
 念を押すように、一呼吸置いた。それからいつものように淡々と、
「僕はみんなを、無闇矢鱈に信用はしない。だから気をつけて行ってきて欲しい。その上で、みんななら大丈夫だと思ってる」
 最後の行ってらっしゃいは二人声が揃って。そうして話が終わるのであった。


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参加者
陽若竹・ランシェ(c00328)
牙持つ灰色鴉・ログレス(c00473)
黒き雷神・ライズ(c02228)
懐冬・ソナタ(c03903)
反転・クラウス(c12274)
武豪ドラドの継承者・ガル(c26044)
夜が訪れる刻・シキミ(c32374)
蒼空望む神楽巫女・シフィル(c36149)

<リプレイ>

●天使
 森の中を走る影が二つ。それは人にはあり得ぬ翼をその背に負っていた。
 美しい人の形をしてはいるが、その色は金色。一人は槍を、一人は杖を持っている。森の中を駆け抜ける様はいっそ勇ましくもなんだか哀しいと蒼空望む神楽巫女・シフィル(c36149)は思う。
「ふむ、姉妹天使か……。俺も兄弟がいるから何とも言えない気分ではあるけど。倒すべき敵である以上情けは無用」
 そんな彼女の心境を知ってか知らずか、懐冬・ソナタ(c03903)が淡々と無表情で言う。思うところがないわけではない。だが感情を抑えているわけでもなく元からこんな感じではある。
「絶対に負けられません。ですが、勇者の時代から今までマスカレイド化させられ戦い続けていたのだろうと思うと少し同情しますね」
 反転・クラウス(c12274)が長い髪をかき上げる。戦闘時はいつも理由があって、彼女は女性の姿をしていた。女性のドレスを纏うクラウスに、シフィルは少し顔を上げた。
「同情……しても良いのでしょうか?」
 姉妹に見える天使。元は人かと思うと胸が痛いから、なるべく考えないように彼女はしていたけれど。少女の悩みが何となく微笑ましく、クラウスは微笑む。
「あなたの心を決めるのはあなたです。でも、強い人間であると同時に、優しい人間の方が素敵だと私は思いますよ」
 思いをはせるぐらいは自由だろうと思う。どちらが楽かは人によって違うから、どっちが良いとは言えないけれど。其処まで考えてさて自分はどちらの方が楽だろうかとクラウスが内心首を傾げかけたとき、
「捉えましたわ」
 夜が訪れる刻・シキミ(c32374)が攻撃範囲内に彼女達が入ったことを確認する。物陰から妖精を召喚した。
「天使というと、神の使いというイメージがありますわね。わたくし達はまさしく、神に挑もうという訳でしょうか? ……でも」
 よろしくお願い致します、と小さく声をかけてシキミは顔を上げる。駆ける天使達に向かって、妖精の群れを走らせた。
「例えどんな敵でも、わたくし達の未来は自分で切り開きますわ。それがエンドブレイカーですもの」
 声と共にその妖精が走る。杖を持つ天使達を追いかけて、その背後から針で突き刺した。
「……!」
 ちらりと天使達が肩越しに振り返る。飛んできた方向を確認し、しかし更に先へと進もうとした……その時、
「行かせません!」
 陽若竹・ランシェ(c00328)が立ち塞がった。得物の柄に添えられてあった紐がふわりと揺れて、それと同時に槍を持つ天使に刃を一閃させる。
「エンドブレイカー」
 即座に敵も反応した。背負っていた槍を抜き放ち、天使はその柄で刃を弾く。ランシェは目を眇めた。……その美しい羽に惑わされそうになるけれども、相当強い。
 刃が弾かれた。返すように彼女は槍衾の構えを取りランシェを突き刺した。ランシェもまたそれを己の得物で凌ぐ。
「喋れるのか」
 黒き雷神・ライズ(c02228)が淡々と言って杖を持つ天使に魔眼を放つ。しかしこれも僅かに身じろぎをするほどで留まった。構わず彼女は刀の柄に手をかける。次は、走る。
「どちらでも構わない。全身金色とは贅沢な連中だ。ならばこちらも派手に行くぞ」
 淡々とライズはそう言い放ち、天使も応じるように槍をくるりと旋回させた。
「エンドブレイカーと戦闘になるのは元から解っていたこと。……良いだろう。心積もりはしている」
 その言葉はとても無機質だった。ライズもソナタも抑揚の少ない方ではあるが、それでも人間の言葉で喋っている。けれども天使達は、人の言葉で喋っているのに人の声のような気がしない。……例えば、金属や機械が文字をなぞって音を発すればそう言う音になるだろうと、いうような声であった。
「わふっ」
 飛びかかった武豪ドラドの継承者・ガル(c26044)が逆にその槍に捉えられる。脚に瑕を負いながらもガルは一歩跳び下がり追撃を避けた。
「くぅぅ……」
 まだ小手調べだとメイガスの手を握りしめるガル。その間を埋めるように牙持つ灰色鴉・ログレス(c00473)が走った。
「いざ、参る!」
 オーラの城門から英雄の軍勢を呼び出しての突撃に、天使は押されて僅かに下がる。その背後に回り込むように、ソナタが槍の天使に近づいた。
「つかまえ、た」
 淡々と無表情の声音で何処かおどけたような口調で言ったと思うと、それが爆発する。分身であったのだ。けほ、と槍の天使が咳き込むと、杖の天使が己の得物を振った。しゃらりと鈴のような音が杖からして、
「お姉様」
 援護する、とばかりに彼女は高重力場を出現させる。それは幾重にも重なり周囲に広がり、相対するエンドブレイカー達の足を重くさせた。
「……やってくれますね」
 クラウスがディオスを召喚する。重力場は範囲を拡大し拡大しそして仲間達に負荷を与えた。傷はないが少々厄介である。反撃を使う槍使いをメインに、杖が援護や妨害を行うのが彼女達のやり方だろう。
「祓います。其方は、大丈夫ですか?」
「あ、はい、ええと……頑張ります」
 シフィルも同じように囚われていて、一瞬混乱する。杖にギアスをつけるべきか、神鏡浄霊砲でこの負荷への治癒を試みるか。
「やはり一筋縄ではいきませんわね……」
 同じように一瞬考えた末、シキミがぴっ。と指をさす。まずは、杖使いに暴走を付与できるまで放ち続けるのが最初の目的である。
「それ、妖精達よ、かの者に突撃して下さいませ」
「そうですね。まずは務めを……」
 シフィルがこくりと頷く。敵にギアスが掛かるまでは神火祓魔符だ。そこから後で、それ以外の行動になる。上手く掛かってくれれば、その分戦況は楽になるはずだ。
「その反撃……鬱陶しいな。けんけんしてる女の子は嫌われるぞ」
 次の攻撃で翼にて結界を作り出す槍の天使にソナタが相変わらず感情のない声で一度瞬いて、再び分身を作り出す。流石にここまで来るだけのことはあって、反撃による力も強いし仲間達の攻撃を受けても全く怯む様子もない。これは長期戦になるだろう。
 反撃は鬱陶しいのだけれどもそれを引っぺがせるのは残念ながらソナタしかいないのだ。だがその為には一度かかったマヒを払わなければいけない。
「……余りいい状態とは言えないな」
 ぽつりとライズは呟いた。ランシェも小さく頷く。
「嫌な感じが、します」
 二人とも数では勝っているが思った通りに運が回っていない気がした。……無論負けるつもりはないけれども、厳しい戦いになるだろうと長年のカンが言っている。無事にラズワルドを助けに行けるだろうか?
「まあいい。今はこの戦いに集中する。上を見ていては足を掬われることになるからな」
「そうですね。この先に待つ道を拓く為に、全力を尽くします!」
 二人とも顔を見合わせ頷いた。自分が空へ上がる気は……無い。ただ、今全力を尽くすのみだ。

●槍と杖
「メイガス尻尾・でーすとろーい!!」
 ガルの尻尾がぐるりと回って槍の天使に叩きつけられる。槍の防御ごと吹き飛ばすようなその攻撃に、じろりと天使は彼女を見返した。その強い目線を遮るように、ソナタの騎士槍が傾く。
「その翼、貰い受ける。にんにん」
 くそ真面目な顔でよく解らないことを言いながら、影と化した槍を投げつけた。反撃のため天使がそれを槍で捌こうとするところを、
「なんちゃって。いや、貰い受けるのは本気だけどな」
 突如別方向から槍が出現して天使の身体を貫いた。
「何だ。忍者はにんにんとかいうのが主流なのか」
「ソウデスネ」
「わかった」
 くそ真面目に頷いたライズが、黒衣を翻す。避けきれずにその槍が彼女の腕を貫くも、彼女も負けずに神火に映し出した影に実態を与え、
「お二人とも血塗れで変な会話するのは止めてください……!」
「冗談だ。にんにん」
 そのままソナタとともに攻撃した。シフィルが思わずそう突っ込みながらも、青色の衣装を翻す。
「回復、行きます!」
「ふむ……手伝おうか」
 オーラの城門を開きかけ、ログレスが肩越しに振り返り声をかけた。彼が空を飛ぶことになってはいるが、無論仲間達の危機に手を貸さないなんて選択肢はない。
「いえ、大丈夫です」
 しかしシフィルは首を振る。疲労が激しい。自分の身にとってこれ以上良くないことは解っているけれども、彼女は微笑んだ。
「私はここで倒れても良いんです。けれど約束してください」
「あぁ……何をだね?」
「青空を飛ぶ感想……後で聞かせてくださいね」
「解った。約束しよう!」
 微笑む彼女の舞に押されるように、ログレスはオーラの軍勢と共に突撃する。同時に天使が杖を振るうと、無数の火球が後衛に降り注いだ。
「!」
「大丈夫。此処まで来たのです、やらせはしません!」
 庇うようにクラウスがシフィルを抱え込む。シキミが妖精を召喚した。
「妖精達よ、皆を守って。……お願い、あと少しですの……!」
 クラウス達の傷も、シキミの妖精が即座に癒す。クラウスは顔を上げた。
「服が汚れてしまいました。……いいえ、些細なことですけれど」
 ふっと微笑む。氷細剣をすらりと抜き放ち、
「お礼をしなくてはなりません」
 優雅な口調。それと同時に放たれた吹雪は視界すら遮るほどに激しい物だった。冬の吹雪は二人の天使を飲み込んで凍らせていく。その白い嵐の中彼女は槍の天使の方へと向かって指をさし、
「今です。……お願いしますね」
「任せて! いっくよぉぉぉぉぉぉ!」
 ガルが吼えて魔獣の尻尾を翻した。赤いふさふさした尾が揺れる。
「援護しよう。渾身の一撃を頼んだぞ!」
 ログレスがすかさずオーラの軍勢と共に突撃して声を上げた。天使は槍を翻す。その攻撃が彼女に届く前に、ログレスの身体を槍が捉えた。
「ぐっ」
 しかしその隙に回り込むようにしてガルは尻尾を振って、
「ふさふさして見えても結構痛いんだよ!」
 それを叩きつけた。天使は一瞬倒れかけ……そして自分の身体を支えるように一度地面に槍を打つ。そこに、
「ほら、情けなんてかけてやらないよ。俺も大事なものがあるからね」
 騎士槍の影を実体化させて、ソナタが天使の身を貫いた。天使はたたらを踏み、それでもまだ戦おうと顔を上げる。だからソナタは僅かに目を眇めて後方を顧みた。
「任せた」
「承りましたわ。……さあ妖精さん、行ってください」
 シキミの命によって妖精達が一斉に天使に襲いかかる。それで天使は崩れ落ちるようにして倒れた。微かに無念だという声が聞こえたが、ランシェはそれを振り切るように即座に駆ける。
「同情はします。でも、それでも僕達もこの先に行かなければいけませんから!」
 『竹涼』の刃を翻しランシェは構える。一瞬、倒れた仲間に目をやっていた天使が顔を上げた。その翼が美しく揺れて、一瞬ランシェは目を奪われそうになる。
 ……けれども相手はマスカレイドだと、彼は言い聞かせて脚へと刃を走らせた。天使は後退する。しかしその頃にはライズも追いついていて、
「何処を見ている。私はここだ」
 神火と共に派手に分身を作り出して一斉に攻撃した。
「回復を……!」
「いいえ、ここは私が。貴方は天使に攻撃を」
 シフィルが言いかけるのをクラウスが制した。その疲れを見越してのことだった。
「それに言いましたからね、メディカルバレットをたらふく食わせるって」
「では、共に参りましょう」
「……はい!」
 シキミがにっこり微笑んで声をかける。妖精と神火を宿した符が同時に天使の所へ走った。
「私は、私が死ぬまで私の役割を果たすだけ」
 しかし尚天使は疲労もない顔で立っている。表情のない顔と声で手を翳すと、羽が無数の光の剣へと変わり走った。

 しかし一人になった時点でもう天使に勝ちは見えなかった。天使は淡々と攻撃を続けたが、仲間内で功を争うこともなくレイレギオに向かわない者達が惜しむことなく支援をして全力で戦ったので、それも時間の問題であった。
「後……ちょっと!」
 ガルが巨大な原始の獣へと姿を変えて突撃する。続くように紫光を纏う妖刀をライズは構えた。敢えて目を閉じ、
「翼か。面白そうではあるが、私には似合いそうにないな。私は地に落ちる稲妻で充分だ」
 彼女は稲妻のように早くその太刀を一閃させた。
 倒れそうになる身体を天使は起こす。しかし次の瞬間にはもうランシェが得物を構えていた。ランシェは弓を構える。緑色の守護文様で縁取られた、大切な物だ。
「圧し通ります。この先に……この積み上げた犠牲の先に、未来があると、信じて!」
 矢が至近距離で放たれる。それが天使の額を打ち抜いた。……それがとどめであった。
「……せめて、貴方がかつていきたかった所に行けますように」
 崩れ落ちる天使に目をやって、囁くようにクラウスは呟き両手を胸の前に組んで祈った。

●未来
「まだまだ行けますよ。さあ、たらふく食べてください」
「わ、では私も、踊ります!」
「あらあら、妖精さんの踊りもいかがですか?」
「わふ! もう大丈夫だよ、鼻血出る! それよりみんなも怪我を治してー!」
 戦いは終わらない。クラウスがガル達に回復をかけるのに続いてシフィルも申し出たりして、シキミも冗談交じりでそんなことを言うのでガルは思わず尻尾を振り回しながら言った。シキミがくすくす笑って、
「大丈夫です。ここは勇士号ですもの。倒れても素敵な殿方がきっと看病してくれますわ」
「ハンクス長老とか」
 ソナタが水を差す。
「見送りの歌歌います。空ーっ……いややめとこう。気をつけて」
 相変わらず歌おうとするところから止めるところまで真顔で言ってのけるソナタにライズも刀を鞘に納めて肩を竦める。
「まあ、気をつけて行ってこい。途中で落ちたら私が代わってやる」
 無論そういうわけにも行かぬだろうがとライズもまた真顔で言った。基本この二人はどこから何処まで本気でどこから何処まで冗談かはよく解らないのだが、多分大体は冗談だろう。
「ご武運と帰還を、信じて待っています。どうか気をつけて……行ってきてくださいね」
 送り出すのは慣れませんね、とランシェは微笑んだ。いつも前を向いて戦うのが役目だったから。……だからこそ、信じて待っている人がいると言うことがどれほど力になるのかも彼は知っている。だから信じている。……必ず、二人はレイレギオを倒し無事に帰ってくると。
「そうですね。どうか御武運を」
「あぁ、ありがとう。……本当に、仲間というものは頼もしいとこの年になっても身に染みるのう」
 翼などは少してれるがとログレスが言って一礼する。ガルもぐ、と拳を上げて、
「それじゃあ、いってくるよー!」
 二人して空へと飛び立った。

 残された仲間達は空へと向かう二人を見送る。
 不安はない。……彼等は仲間達を信じているから。だからどうか、
「無事に、帰ってきてくださいね……」
 見送るシフィルの言葉は、風に乗って空へと消えていった。



マスター:ふじもりみきや 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2015/01/23
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冒険結果:成功!
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