ステータス画面

翡翠ノなみだ

<オープニング>

●2つの翡翠
 イタイ、イタイ、イタイ――。
 今まで通りの生活が送れない。人に見つかればすぐに存在が知られてしまうし、その話が広がらないように対処しようとすれば苦痛が襲う。
 けれど僕が生き延びる為には、その苦痛を我慢しなくてはいけない。
 なるべく外に出なければ良いのだろうが、昂る感情を抑えるのもまた苦痛。本当に、住みにくい世界になってしまった。僕を受け入れる人などそうはいない。
「ただいま、クィン。ご飯を買って来たわ」
「……ありがとう、ローザ」
 たった1人の僕を支えてくれる彼女、ローザは家族のようなもの。1人身になった彼女と共に、僕は歩んできた。そしてそれは、これからも変わらずに――。

 輝く頭の仮面にちらりと視線を送った後。
 少女は変わらず笑い、玄関の扉を閉めた。仮面があることなど、気にした様子も無く。
 ――しかし彼らは、その様子を眺めていた人の姿を知らない。

●共に
「姿を消していた街の男が、マスカレイドだと分かったんです」
 ラッドシティの酒場にて。金色の髪を持つ少女がエンドブレイカーに向かいそう言った。
 詳しい事をと、鞭のソーンイーター・ユリウス(cn0182)は話を促す。少女は頷くと、どこから話せばいいかと考えを巡らせた後、再び口を開いた。
「最近、ローザの姿をあまり見なくて。不思議に思って、買い出しに来た彼女の後を追ったんですけど……」
 雑貨屋で働く彼女は、パンやチーズなど。時々調理のいらない食材を買う友の様子をおかしく思ったらしい。いつも通り買い出しに来た彼女の後をこっそりと着けてみると――自身の住んでいる家ではなく、街外れの無人の家屋へと入って行った。そして中から現れた男も、見覚えのある人物。
「彼――クィンは、ローザを育ての親なんです。1年前位に、彼女の両親は何者かに殺されて」
 それ以来、青年が彼女を育ててきたのだと彼女は語る。
 友人の身内がマスカレイドなど、信じられない。けれど、確かに仮面を見たのだと強く語る。
「……私の街では最近。忽然と人が姿を消す事件が続いていたんです」
 暫しの沈黙の後、られる事件。それは、マスカレイドが起こしていたのではと――彼女は小さな声で零した後。ローザを助けて下さいと、エンドブレイカーに深々と礼をした。

「――さて。今聞いた通り、マスカレイドの事件だね」
 少女が立ち去った後の酒場にて、ユリウスは1つ溜息を零した後に口を開いた。
 場所はラッドシティの街外れ。
 人の住まないエリアに建つ小さな廃屋に、隠れるように敵は住んでいる。
「敵自体は、今の僕達ならさほど困る相手は無いはず。問題は……ローザのほうだね」
 相手がマスカレイドだと分かった上で匿っている事は確か。ならば、彼を殺そうとするエンドブレイカー達に対してどのような行動に出るかは未知数。
 ならば方法は2つ。説得するか。いない隙を狙って事件を片付けるか。
「まあ、彼女が買い出しに行っている間に終わらせるのが無難だろうね」
 その時間がどれ程かは分からないが、クィンとの接触が確実に可能になる事は確か。素早く終わらせるか、何かしら一般人を避ける策を用意すれば良いだろう。
「彼女は謂わば一人身。だからこそ、身内が大切なんだろうね。……けれど」
 その原因となった両親の死。それは恐らく、マスカレイドとなったクィンが起こしていた事件だったのだろうと。ユリウスは推測する。この事実でローザを説得出来るか否かは分からないけれど、胸に留めておくと良いかもしれない。
 大まかな流れは、ローザが家を出た隙を狙ってクィンと接触。彼を倒せば任務は完了。
 その後か戦闘の最中かは分からないが、ローザをどのように説得し希望を与えるかは各自の自由。――必須の任務ではないが、彼女を救うことが出来れば良いことは確かだ。
 戦場は廃屋の中か、外の通りに誘き出すかの2択になるだろう。
 戦いやすさならば勿論外が向いている。けれど遠くからでも視認出来るその場所は、ローザが戻って来た時にいち早く知られる危険を併せ持つ。屋内は狭く戦いにくいが、人目を気にすることは基本不要となる。敵が1人しかいない今回は、作戦によっては不利は無くなる可能性はある。
 どちらも一長一短。エンドブレイカー達の定めた方針に則り、選ぶのが良いだろう。

 イヴ・ザ・プリマビスタと此華咲夜若津姫の力により新たな棘(ソーン)は生まれず、マスカレイドも消滅したりその力を制限されるようになった。しかし、まだ都市に残っている存在がいるのは確か。そしてその存在は、残ることが出来ただけあった相応の力を持つ。
「だけど今僕達が行動を行えば……マスカレイドを、滅ぼせる」
 いつもの淡々とした物言いでは無く、どこか感情の籠った少年の言葉。
 ――だから今回は、自身も同行すると告げる。
「何か、僕にも出来る事があるかもしれないから」
 何時も持ち歩いている鞭を強く握り締め、ユリウスは強い眼差しでエンドブレイカー達を見た。
 あともう一歩を――共に、解決して欲しいと。言葉を添えて。


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参加者
眩暈の尾・ラツ(c01725)
雲外蒼天・リシェル(c13724)
ダンシングブレード・エリーシャ(c15180)
荊の身体・ルシック(c35349)
NPC:鞭のソーンイーター・ユリウス(cn0182)

<リプレイ>

●残る棘
 人の賑わう声も聞こえぬ街外れ。
 闇を払う灯りが途絶えた此処は、天に輝く星空がよく見える。ドロースピカの力により瞬く星空。それは何時も通り美しいが――この先に起こる未来は、美しいとは限らない。
(「クィンさんは何を思ってローザさんと一緒にいるのか。ローザさんが、事実を知った上でクィンさんと一緒にいるのか、あるいは知らずにいるのか……)」
 この事件の根本の問題は、恐らく生と死。
 仮面に憑かれた男と、仮面と共に過ごした少女。その闇に包まれた関係に、ダンシングブレード・エリーシャ(c15180)は疑問を覚える。
 5つの人影が闇の中を歩けば、温もり感じる灯りがぽつりと見えた。
 その灯りに惹かれるように、導かれるように――彼等は歩みを進める。灯りが鮮明なものに変われば、そこに古びた家がある事を視認出来た。
 屋根が剥がれ、壁の塗装も剥がれ落ちた家。
 それは人が住まわなくなってから、どれ程の年月が経ったのか……。けれど、その小さな家屋に損傷は少なく、穴などの崩壊は見られない。人が十分、住む事の出来る範囲だろう。
 外から見る限り、部屋数は多く無い。1つか、多くて2つ程度だろうと眩暈の尾・ラツ(c01725)は推測する。考えていると、扉が開いたのが見えて彼らは慌てて木陰に隠れる。暗闇の為、大きな樹の陰に隠れてしまえば人の目に付くことも無いだろう。
「じゃあ、買い物に出掛けてくるわ」
「……いってらっしゃい」
 微かに聞こえる2つの人の声に耳を澄ますエンドブレイカー達。小走りに草の生えた道を駆けていく少女の姿が見え、鞭のソーンイーター・ユリウス(cn0182)はきゅっと唇を結んだ。
 握る鞭に力を込めた為、手が震える少年にラツは微笑み、闇に煌めく橙の瞳を少年へと向ける。
「熱が入るのも当然だ。でも私も仲間も君には在るよ」
「……そうだね。ありがとう」
 友のその言葉に、ユリウスは手の力を緩め改めて廃屋へと視線を向けた。
 扉は締められている。横を通り過ぎた少女はもう、物音の届かない場所まで移動しているだろう。
「帰ってくるまでに」
 仲間へと意志を告げる雲外蒼天・リシェル(c13724)。彼女の言葉に、彼等は頷き一斉に木陰から出て目の前の廃屋を目指す。
 ――少女、ローザがいない間に、全てを終わらせるのが彼等の結論だから。

●笑みを纏う
 木造の扉の取っ手を握り、押せば何の抵抗も無く開いた。
 ギィィィィ――重い音がするのは、恐らく鉄が錆び付いているから。けれど見た目以上に保存状態は良いらしいと、荊の身体・ルシック(c35349)は感じた。
「なんだ、お前達」
 ランプに照らされた室内の奥から聞こえる男の声。
 見渡せば室内はどうやら一部屋しかないようで、テーブルやベッドなど。生活に必要な物が視界に映る。元の主が使っていたであろう家具はボロボロだけれど、掛かっている布が真新しい事から清潔感は伝わってくる。恐らく、全てローザが手入れをしているのだろう。
 室内灯に照らされる人物を探せば、部屋の隅に座る男の影。頭部にある仮面を隠そうとしているけれど――そんなことは、全く意味が無い。
 だって、こちらがエンドブレイカーだと云うことに。彼は薄々感づいている。
「お前達は、僕を殺しに来たのか」
 苛立ちを滲ませた声と共に、ゆらりと立ち上がるクィン。懐に忍ばせていた紫煙銃を構えた時――バタンと扉を閉める音が響いた。同時に、リシェルが紋章を描きその扉を封じる。
「ユリウスさん、お願いします!」
 ラツの掛け声に頷くと、ユリウスは輝く棘(ソーン)作り出し室内を囲った。
 全ては、ローザがこの場に辿り着かないようにとの策。棘(ソーン)が邪魔をすれば、この場に近付くことは無い。万が一姿を現しても、扉が開かなければ、身内が命を落とす瞬間を見なくて良いかもしれない。――どうするのが良いのか。彼らが考えた結果の行動だ。
 その行動が、どのように未来を描くかはまだ分からないが。
 2人が戦場へ策を施している間、ラツは前線に飛び出すとそのナイフに魔方陣を籠めクィンへと振り下ろす。援護するようにルシックの作り出す黒きオーラが室内を包み込み、エリーシャの放つ邪剣の群れが次々と敵の身体を切り裂いた。
 確かに傷を与えている。けれど尚も余裕気があるのは、やはり消滅せずに残ったマスカレイドだからか。それともただの強がりか。
 真意の読み取れない、笑みが彼の顔には張り付いている。銃口を向ける際も勿論戸惑いなど無く――目の前に立つラツへ自身から距離を縮めると、ナイフの刃を弾き弾丸を放った。
 戦いの最中。攻撃を行いつつも、ルシックが気にするのは背にある扉。
 いつ、ローザが現れるかが分からない。彼らの施した策が完璧であるかが、分からないから。
 もしも、もしもこの状況を彼女が見てしまったら――きっと、悲しむだろうから。
(「あまり傷ついて欲しくないです」)
 何時も通り感情のあまり出ない顔つき。けれど、大きな青い瞳を伏せる彼女の姿は、少女を傷つけたくないと云う強い想いが感じられる。
 そしてそれは、リシェルも同じ。扉を気にしつつ、構えた青白い氷鍵で氷の戦輪を作り出せば、冬の室内を巡る。ランプの光に照らされた結晶は仄かな橙に染まり、仲間を援護する。
 ――全ては、一刻も早く決着を付けようと云う想いから。

●語る真実
 敵が逃げぬようにと、隙を伺い印を施したいとラツは想うが――前線で戦うのが1人では、その隙を作るのは難しい。後衛から攻撃が続こうとも、やはりすぐに動けなければ敵はするりと逃げてしまう。
 唯一の扉は紋章で塞いだ為、直ぐに出ることは出来ない。
 あと、クィンが逃げるとしたら1つだけある窓からか――踏み台も無いその窓から、逃げるのはするりと簡単にはいかないように思える。けれど、油断はしないようにとラツは退路を塞ぐことを第一に考える。その動きを察したユリウスは、前線に出ると敵に大輪の紅薔薇を咲かせた。
 戸惑い無く。貼り付けた笑顔のまま、銃を操るクィン。
 例え傷付こうとも、身体から血が零れようとも。彼は意に介さず戦う――けれど訪れる苦痛に、微かに顔を歪めたのをエリーシャは見逃さなかった。
 だからなのか。疑問に思っていたことが、口から零れる。
「なんで、ローザさんと一緒にいるんですか?」
「さあ? なぜだろうね?」
 血塗られた頬を拭いつつ、クィンは嘲笑するように笑う。からかっているのか、それとも語りたくない事なのか――エリーシャの問い掛けに、応えは返ってこない。
 けれど彼女は、諦めずに言葉を紡ぐ。
「ローザさんの両親を、殺したのは本当なのでしょうか」
「……あれが、そうだったのかな。もう何人も殺したからねえ」
 変わらない笑みと飄々とした言葉。――それはまるで、誤魔化すかのように。
 だからラツは、彼の真意を知りたいと思う。銃を構える彼の紺碧の眼差しが、力強いことが分かるのは恐らく対峙している彼だけ。
「貴方はローザさんが気付いて無いと思ってるんですか? それとも気付いた上で見逃されていると?」
 両親を殺したことも。クィンがマスカレイドである事も。
 仮面に気付いている事は確か。だからこそ、このような人の寄り付かない場所に共に住んでいるのだろう。けれど両親の死は、恐らく気付いていない。
 ――どちらも、彼はどう捉えているのか。それが気になると、橙の瞳でじっと彼を見る。
「彼女は今も昔も変わらない。僕と共に居る事を、選ぶんだ」
 それは情か、甘えか――。
 けれど今、その選択が消え去ろうとしている。彼が死ぬと云う事で、ローザの未来が変わる。リシェルの作り出す氷結晶がクィンを凍て付かせた。
 彼の事より、彼女が想うのはローザの事。
 現実は甘くないと伝えなければいけない事が、苦しいけれど――今、クィンを倒さなければ被害が出る事は確かだと。彼女は想い、容赦の無い攻撃を繰り出す。
 傷を抑えるクィン。エリーシャの邪剣が、ユリウスの鞭が。その身を襲えば、余裕のある表情が一変苦痛に満たされる。
「……生き辛いでしょうね」
 まるで同情するかのように、刃を向けつつラツがそう言い放った。
 その言葉に――もう、何が原因で仮面に憑かれたかは分からない。
 けれど人を殺すことで、心が晴れていた記憶だけはあると。クィンは零す。
「僕は、俺は……! マスカレイドだから……!」
 荒い息と共に吐かれる堂々としたその声は、仮面に憑かれたことに後悔は無いと語っているかのよう。その姿にユリウスは冷たい眼差しを送るが――ルシックがデモンと共に放った一撃で、彼はついに膝を着いた。
「ああ、死ぬって……こういう気持ちなのか……」
 今まで彼が殺してきた人々の想いが、やっと分かったかのように。クィンは笑いながらそう零す。
 いくつもの事件を視て、解決してきたエンドブレイカーにとって、比較的死は近いもの。けれどそれは、自身で体験するのとは全く違う。それを突き付けられたようで、微かに動揺する者も。
 けれどクィンは笑みを崩す事無く――荒い息をしつつ、口を開く。
「何故、ローザといるか。気にしていたね……?」
 長い金の三つ編みを揺らし、魔剣の魔曲を生み出すソードハープを抱くエリーシャを見ながら。クィンは笑顔で語り掛けた。その言葉に、彼女は静かに頷きを返す。
「……彼女の泣き顔を見て、殺せなかったからさ」
 当時を思い出すように、紺碧の瞳を閉じ彼は静かにそう零した。
 そして彼は、それ以上は語りたくないと言うかのように――抵抗無く、リシェルの放つ最後の一撃を、その身に受けた。

 ――相手はマスカレイド。
 ――憎悪や欲望に満たされた彼の、仮面に憑かれる前の本当の想いは分からないけれど。
 またひとつ。都市に残る棘が排除されたことは、確か。

●目に映る真実
 残るは静寂。
 人の寄り付かぬこの地。冬の夜中は動物や虫の鳴き声も無く、静寂だけがこの場を包む。
 まず行うのは、扉の封印の解除。幾らかダメージを与え、開くことを確認しようと開けた瞬間――。
「きゃあ!」
 悲鳴と共に、扉の前に少女が立っているのにリシェルは気付いた。
 ――恐らく、戦闘が終わったことで棘の効果も消えたのだろう。それまではなんとなく、帰るのに躊躇していた彼女も、走って戻って来たに違いない。荒い息と共に、室内にいる人影に大きな翡翠色の瞳を見開く。 
「こ、こんな所にお客様だなんて……」
 動揺を隠せない様子で零す言葉。――けれど平静を装う努力は感じられる。袋を抱え直しつつ室内に足を踏み込んだ瞬間。
「――――っ!!」
 上がるのは、声にならない悲鳴。
 目の前の惨状を、目の当たりにすれば当然か。エンドブレイカー達と遺体を交互に見つめ、瞳に涙を溜めた彼女は何があったのか問うような眼差しを向けた。
「……彼がマスカレイドだった事は、気付いていたよね」
 どう切り出すか――仲間達の微かな迷いを破るように、淡々とユリウスが口火を切った。
「でも、彼は……!」
「ローザさん」
 遮るように、言葉を零したのはラツ。
「失う事は哀しい。もう沢山だと思ったでしょう?」
 1度だけでなく、2度も死を目の当たりにした彼女。苦しい気持ちは察するけれど、いずれ我慢出来ずに、クィンはローザを殺すことをラツは教える。
 そのほうが良かったと、彼女は零すかもしれない。けれど。
「友人や街の人々。貴女を忘れなかった人が貴女には在る」
 ――だから、生きて。
 辛いだろうけれど、それがエンドブレイカー達の望む事。
 友も街の知人も大切。――けれど家族とは違う、彼等がどれ程彼女の支えになるのか。図ることが出来ずに、気持ちを癒したいとルシックは想うが、上手く言葉が出てこない。
 それはエリーシャも同じで、視線を泳がせ迷った
「頑張って、生きてください」
 ――それしか、言葉が出ない。
 ローザを奮い立たせることが出来るのか――戸惑っていると、しゃがみ込む少女にリシェルが視線を合わせ語り掛ける。
 現実が非常である事は確か。目を背けたり、真実を知らずに過ごす事は楽だけれど、クィンの死をローザは知る権利があるだろうから。
 棘に憑かれれば、救う手段はただ1つ。いずれは、誰かがやらなければいけない事。
 恨んでも、憎んでも良い。けれど前を向いて進んで欲しいと云う願いは、静かに彼女の胸に落ちる。けれど、前を向いてなんて――難しい事を、と返そうとした時。リシェルは続けるように、口を開き。
「貴方は一人ではないから。心配してくれる人がいるから」
 そう、語った。 
 意志を無くしたローゼの翡翠色の瞳に、力が宿る。
 1人ではない。
 それは、両親を亡くし1人になり。再び家族を亡くした彼女にとって大きく響く言葉だった。ローザはこの一言を、待っていたのかもしれない。飾らない、その一言を。
「……私には。まだ、いるんだ……」
 自分に言い聞かせるように言葉を零すローゼ。
 その後彼女の翡翠の瞳から零れる涙は、強い感情を抱く熱いもの――。

「私は、彼の遺体を消すことが出来ます」
 ――少し落ち着いたところで、ルシックはどうするかとローゼに尋ねる。
 どのような結末を選ぶのか。それは、彼女が選ぶべきだと思うから。
「……本当は、供養したい」
 涙の奥から零れる言葉。
 擦れつつも必死に紡ぐその言葉は、彼女の本心。
 1人になった自分と、共に居てくれた存在だから。血は繋がっていないけれど、大切な存在。
「でも、説明が難しいから……。疑われ、クィンの秘密を知られるくらいなら」
 ここで消えてしまった方が、きっと彼の為。
 その決断に、どれ程の葛藤があっただろう。言い出したは良いが、やはり少し心苦しい。けれどそれを望むのならば――遺体に刻印を刻む間、彼女はクィンに別れの言葉を掛ける。
「……ありがとう」
 それは、彼女の両親を殺したのが彼だと。知らないからこその言葉なのか――これ以上の真実は、伝えるべきか躊躇う。知るべき事と、知らない方が良い事がある事は確かだから。
 今でも彼女は、1人では抱えきれない程の悩みを抱えている。
 けれど、1人では無いから。
 人が、時間が。その心を癒してくれると信じて――。
 今は、口を閉ざそう。



マスター:公塚杏 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:4人
作成日:2015/03/04
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