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夏空に会いに行こう

<オープニング>

●好奇心の赴くままに
「ねぇ、アクスヘイムの上層って行った事ある?」
 酒場の椅子は、彼にはまだ少しばかり大きいらしい。床に届かない足をぶらぶらさせながら、オレンジジュースを飲み干した盾のスカイランナー・レンテ(cn0050)は幸せそうに息を吐いた。グラスの表面を伝い落ちた水滴が、木製のテーブルに丸い染みを作っている。
「僕、まだ行った事ないんだ。空を見たいんだけど、1人じゃ迷子になりそうだから」
 城塞都市で空を見ようと思うなら、都市の上層へ行くか、辺境の城壁の隙間から眺めるしかない。当然、彼としては頭上いっぱいに広がっている空が見たい訳で。
 グラスから手を離したレンテは、今度は椅子の上で不自然な格好に体を反らしている。テーブルの下から聞こえる音から察するに、靴が片方脱げてしまったらしい。
「上層まで上ったら、きっと遠くまで見えるよね。戦神海峡っていうくらいだし、天気が良ければ海だって見えるんじゃないかな、きっと」
 どこまでも逃げていく靴に業を煮やし、少年がテーブルの下に潜り込む。話し相手を勤めていた者達は互いに顔を見合わせ、口元に穏やかな笑みを浮かべた。少年の話がどう続くのか、何となく判ったような気がしたのだ。
「だからさ、もし良かったら皆も一緒に行ってくれないかなぁって。ダメ?」
 ――ほら、やっぱり。
 靴を片手に這い出してきた少年の言葉は、彼らが予想した通りのものだった。
 
 夏の空に会いに行こう。
 例えば午後の陽射しの下で。
 或いは、昼と夜の狭間で変化する色彩を眺めながら。
 更けゆく夜を、朝が生まれる瞬間を、空の下で仲間と共に。
 
 そんな休日の過ごし方も、たまには良いのではないだろうか。


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参加者
NPC:盾のスカイランナー・レンテ(cn0050)

<リプレイ>

●青空の下で
 上下の階層を繋ぐ階段を上りきると、風雨を避ける為に儲けられた階段部屋に到達した。
 何の装飾もない白壁の正面には、頑丈そうな大きな扉。
 重い音を立てて開いた扉のその先に、求めていた眩い光と、夏の空が待っていた。

 歩きながら、ただひたすらに上を見る。躓けば、そのまま草の上に寝転んで。視界には久しぶりに出会う太陽と、どこまでも広がる晴れた空。微かなアイリス色を含んだ青に自分の意識を溶け込ませ、カナリは口元を綻ばす。
「あれが戦神海峡?」
 延々と続く樹海の彼方に、空よりも更に深い青が広がっている。問うたレンテも問われたツバメも、海を見るのは初めてだ。
「この平穏な時間の為に、私の勤めはあるのですね……」
 頭上を振り仰ぎ、城塞騎士が呟く。束の間の休暇を楽しめるのも、都市の平和があればこそだ。
 行ってみたいと思わないかね? 潮の匂いさえ届かぬほど遠い、空と接するあの場所へ。
「叶うならいつか……その時はお前も傍らに……なんてね。冗談さ、冗談……」
「……本当に冗談? そう在れたらナイは嬉しい、けど」
 初めて見た空と海から視線を外し、ナイはベンジャミンの横顔を見上げた。繋いだ手に籠められた力が、言葉の真実を証しているように思えたから。
 クロシェットにとって、大好きな夏空を眺める時間は何物にも変え難い。降り注ぐ陽射しに全身を晒せば、熱くて、けれども心が満たされる。鮮烈な光に眩暈すら覚えた彼女は、慌てて木陰へ逃げ込んだ。
「うぁ……駄目だ、本気で日射病になるとこだった……」
「ねぇ、皆で一緒にお昼にしない?」
 レンテとその背後に広がる空を、スエは眩しそうに見上げた。「やはり、キミには、澄んだ空が、似合うね」と不器用に微笑み、差し出された手を握って立ち上がる。
 溺愛された日々に願ったのは、ほんの少しの自由。あの頃も今も空の色は変わらないけれど、自分を取り巻く空気は随分と変化したように思える。もしかすると、自分自身も。
 彩りも鮮やかな弁当を広げ、シャナは木陰で少年達を待っていた。お楽しみのデザートは、以前レンテと約束していたしっとりふわふわの蜂蜜ケーキ。
「お口に合えば宜しいのですけれど」
 瞳を輝かせる少年に向けられた笑顔は、温かな慈愛に満ちていた。
「レンテもこれから昼食なん? ほな、一緒に食えへん?」
 ウラハがリュックから取り出したのは、肉好きなら誰もが憧れる『謎肉』だった。「お昼ご飯が謎肉って……ウラハちゃんたら」と苦笑したラズは、ランチボックスより大きな金魚鉢パフェを持参していて。
 即座に入ったノリの良いツッコミに、笑い声が弾ける。
 賑やかで楽しい一時は、お腹も心も満たしてくれた。

「今度は大胆水着での〜さつにゃ♪」
 着替えたレンテが泉へ行くと、ウィスタリアが待っていた。「の〜さつって何?」と少年が聞けば、言った本人までもが「何だろうにゃ?」と首を傾げる。幾度かの依頼で仲良くなった彼らは、大概においてそんな感じだ。
「青空って、何だか見ているだけで安らげますね」
 冷たい水の感触を楽しみながら、リディアは陽射しに手を翳して空を仰いだ。傍らの少女を真似るように、エイルも空へと手を伸ばす。
「オレは青空見ると翔びたくなるな……」
 同時に動いた視線の先には、穏やかに笑うお互いがいて。目が合えば、それは眩しいほどの輝きに変わる。
 綺麗な泉に綺麗な青空。大切な仲間と一緒に過ごすには、最高の場所だと2人は思った。

●夕焼け〜日没
 太陽が地平に近付くにつれ、空の色は刻々と変化してゆく。青から藤色を経て藍を濃くする東の空には、既に幾つかの光が宿っている。
 そんな夜の訪れを告げる全てに背中を向けて、彼らは茜色に彩られた西の空を見ていた。

「クレスが好きだって言ってた空は、この色?」
 知っていて、それでもタオは尋ねてみる。空を眺める嬉しそうな顔を、正面から見てみたくて。
「うん。青空も朝焼けの紫も好きだけど、この燃えるような夕焼けが一番好きだな。タオの髪も茜色に染まって綺麗だよ。俺の好きな色だ」
 向き直り、クレスは笑みを一層深くした。言葉の中に少しだけ、伝えたい気持ちを滲ませてみる。
 夕日に照らされた2人の顔もまた、茜色に染まっていた。
 【夕やけ屋】にとって、夕焼けは仲間を繋いでくれた大切な縁。姿を隠し始めた太陽は昼の名残りを朱金に変えて、並び立つ2人へと投げ掛けてくる。
「……すごく、幸せな気分です」
 恋人に腕を絡めて寄り添いながら、夢見るようにソーファは呟く。優しい笑みを浮かべ、レイリーは俺もだと同じ言葉を返した。風が揺らした黒絹の髪を、愛しげに撫でながら。
「俺の記憶が始まるの、この空の色からなんだ。何でそこにいるのかも判らなくて、ずっと空を見てた」
 遠い落日を眺めるイツカの横顔に、瞬きすら忘れてエアハルトは見入った。太陽が記憶の始まりならば、伸びゆく影は記憶の長さ。想いの長さ。
(「お前にも、そんな影があったんだろうか」)
「……って、微妙な顔して何マジになってんの! 俺の話よりえっちゃんの話聞かせてよ」
「バーカ、お前なんかに俺の話は勿体ねぇよ」
 半眼で吐いた悪態に、心の揺らぎを表さずに済んだだろうか。
 逢魔ヶ刻の薄闇は、あらゆる境界を希薄で曖昧なものにしてしまうから――

●夜空の瞬き
 城塞都市で暮らす人々のどれだけが、星の存在を知っているのだろう。
 天井は夜毎、その仄かな光を集めて下層に届けているけれど。

「おお、すげぇ! 幾千にも瞬く星空……感動だな!」
 競うように空を埋め尽くす輝きを見上げ、アムオスは感嘆の声を上げた。ふと思い立ち、傍らのベガに星に纏わる物語を尋ねてみる。
「僕は、そんな大層な話できない、よ……!」
 一瞬慌てはしたものの、星追いの少年は「ああ、でも」と言葉を紡ぐ。僕はあの星の向こうに、大切な人がいると思っていると。手を伸ばしても、届かないけれど。
「大切な人が……すてき。でも、少し切ないですね……」
 あの星達に、もっともっと近付けたらいいのにとアンゼリカは呟く。そんな時、即席の盾枕から身を起こしたリヴィエラがドーナツに手を伸ばしながら口を開き。
「昔、何かの本で読んだのだけど。流れ星に願い事をすると叶うらしいの。……でも、流れ星ってどれかしら、ねぇ?」
 そして始まる星探し。【こえ】の仲間が掛ける願いは、多分、同じものになる筈だ。
 流れ星を見つけたら、何を願おうか。草の上に寝転んだ【空方】の面々も、無数の瞬きを眺めながら言葉を交わしている。
「願い事かぁ、そうだなぁ……もっと身長が欲しいとか! おいしいご飯を極めたいとか!」
「やっぱ平和な老後を送れますように、だな。後は衣食住に困りませんようにとか、毎日健康でいられますようにとか……もちろん全部、ニコさんも一緒にな!」
 拳を握って熱弁するデイやペットを溺愛するヘイゼルの言葉に、思わず噴き出してしまったイーファの願いは。
「どうせ見るなら幸せなエンディングを沢山見られますようにって。世界中、幸せいっぱいになったらいいな」
「オレはイーファとヘイゼルとデイと、空方のみんなと空見に行きたいな。今も見てるけどっ、月だけの夜空とか……もっと色々。だからまた一緒に出掛けようっ、約束ー!」
 いつの間にか、ニルバートの願い事は約束に変わっていた。仲間達が頷いたのは言うまでもない事だろう。
 久しぶりにのんびりとした時間を過ごす2人の肩には、互いが持参した上着とストールが掛けられている。イディヤが「これからも一緒にいてね?」と微笑めば、アレクシスの腕がそっと彼女を抱き寄せて。
「一緒に……ああ。いつまでも一緒だ」
 囁くように付け加えた「愛してる」の言葉には、照れ臭そうな響きが籠められていた。
 夜空の下のお茶会は、小さなランプに灯りを点して。趣味の話題で共通するものが見付かれば、楽しい気持ちは更に大きく膨らんでいく。
「誘いに応じてくれてありがとう、ルーウェン殿」
「お礼を言うのは私の方です。ありがとう、また一緒にお出掛けしましょうね♪」
 よければまた、と言いかけたファルスは、相手に先を越されてしまった。興味深そうに瞬いて、星々は彼女達を見下ろしていた。
「星遊びに興じましょうか」
 ひときわ蒼く輝く、名も知らぬ星を中心に。星々を線で繋いでゆくと、スピカの姿が浮き上がる。
「まぁ……可愛い。では次は……」
 星を結んだタユタの指を真似て、タバサの指先が夜空をなぞる。
 何て素敵な夜だろう。心許せる友と2人、童心に還る一時は愉しくて、愉しくて。初めて見る、常以上に柔らかな友の表情が、嬉しくて、嬉しくて。
「……綺麗だね。1人でなくて良かった。こんな星空を独りで見たら、きっと泣きたくなる」
「僕は1人だったら此処に来てないから、独りなら泣いてなかったね」
 想い人の笑顔に笑顔を返し、レクサスは再び空を見る。近そうに見えて、それでもやはり遠くて、手の届かない光。
「ほら、星だよ? 星。偽物だけどね」
 置いて行かれたみたいだ――そう呟いた相手に、エルナンドは金平糖の小瓶を握らせた。持つ者の思いによって、物の価値は変わる。小さな砂糖の星屑は今、本物以上の宝物。
「……空見に来たんだろうが。俺見てねぇで、上に顔向けろ」
 【大鷲の開架】ご一行は、保護者同伴であるらしい。嬉しそうに笑顔を向けられ、むず痒さを覚えたスパイクは、仲間に視線で助けを求めた。色々考えてはみたものの、結局はトマも「溺れてしまいそうな夜空ですねぇ」などというのが精一杯で。
「真っ暗なのに、なんて眩い……」
 繋いだ手に籠められた力が、シェリーローズの感動をそのまま表しているようだ。右手を預けていたラナも笑って、暖かな手を握り返す。
「心にもお星様が宿りそうだね」
 仲間のそんな言葉を聞いて、ミズハは思う。此処に集う仲間こそがオレの星――自分を導く道標だと。保護者2人に笑われそうだから、口には出さなかったけれど。
「仕事人間の兄さんの、いい骨休みになればと思って」
 僕なりに心配したんだよ? と言うアスベルに、ローラントは「胃痛と悩みの半分は、ふらついてなかなか帰って来ないお前が原因なんだがな」と溜め息を吐いて見せた。
 自分はそんなに疲れた顔をしていたのだろうか。ここ暫く、仕事に追われていたのは確かだが。
「気遣いは嬉しいが、私の心配など10年早い」
 苦笑する弟を冗談半分にやりこめて、久しぶりに見上げた夜空は小さな煌きに満ちていた。
 毛布とランタンを用意して、あの頃のように夜空を見ましょう。
 大切だった故郷も友も両親も、今はもう記憶の中にしか存在しないけれど。
(「……今日くらいは、昔の事を思い出して泣いてもいいですよね……?」)
 星々に心で語り掛け、アレクサンドラは1人、涙を流す。
「星と月が常に共にあるように。私も貴方の傍に……愛してるわ、イシュ」
 こうした方が暖かいから。そう背後から抱き締められたヴィルは、振り返り、星を見上げる夫の頬にくちづけを贈った。紫の瞳を瞬いてイシュタルは微笑み、キスを返して抱き締める腕に力を込める。
「ボクも常に傍にいて、支え守っていくよ、ヴィル。愛してるよ」
 深夜の散策を楽しんでいたティイは、城壁の傍でレンテに出会った。暫く言葉を交わすうち、話題は星へと移っていき。
「夜空が綺麗だって感じるのは、星の光が人の点す灯りに似ていて……『おやすみ、また明日』って優しく言われてるからだって、思いません?」
 なァんてね、とおどけた彼を見上げ、レンテはふんわり笑顔を見せた。
「そっか。だからお星様を見てると胸がきゅうってするんだね」

●暁光
 木々から立ち上る朝もやが、淡いヴェールのように樹海を覆っていた。
 漂白されていく東の空に、薄くたなびく雲の下端だけが仄かな紅に染まっている。
 どこからか、遠く鳥の鳴く声が聞こえた。

 様々な顔を見せる空の中でも、夜明けが一番好きなのだとジローラモは語った。今日という1日が生まれてくるように思えるからと。
「だからよ、こいつを一緒に見たかったんだ。俺のいっとう好きな空を、俺のいっとう大事なお前とよ」
「1日の始まりが息吹くのを、誰よりも大切なあんたと迎えられて、俺、幸せですよ?」
 明けゆく空を見詰めたまま、アスワドは口元に静かな笑みを浮かべた。
 太陽がようやく空の彼方に顔を覗かせ、最初の光を投げ掛けてきた。
 朝日が好きなのだとフェリーナは言った。どんな暗い夜も、必ず明けると教えてくれるからと。
「プリスは、私にとってそんな太陽のようだと思う。少し唐突かも知れないが、あの朝日のように私を照らし続けてくれないか……?」
 向き直った少女の腰を、プリスはそっと抱き寄せた。「好きだ」と告げた唇に、もうひとつの唇が重なる。
 これが答えだと言わんばかりの笑顔で、少年は相手を見詰め返した。
 クリュウが淹れてくれた濃いめの珈琲を飲みながら、【狸寝入り亭】の3人は日の出の瞬間を眺めていた。徹夜で朝を迎えた彼らの目に、朝の光は痛いほどに眩しい。
「これから同じ1日が始まるのに、こんな綺麗な夜明けがいつもあったなんてね。不思議」
 カップの中身をひと口啜り、ユイは小さな欠伸をひとつ。
 仲間達の背後に立ったボーンは、感謝の祈りを捧げている。神々しく雄大な光景に立ち会う機会を与えてくれた、彼が信奉する神への祈りを。
 城壁が途切れた場所に立っているのは、【静かなる空】の仲間達。彼らの足元に座ったレンテは、半分眠っているようにも見える。
「また、みんなで遊びに来ような」
 清々しい光を全身に浴びてナハトは笑った。もうすぐ俺は旅立たなきゃいけないけどと、心の中だけで呟いて。
「夜明け直前の星空を見に来るんもええな。毎年やなくてもええ。こんな風景は数年に1回でもみんなで見れたらええんちゃう?」
 金色にけぶる朝もやを見下ろすサリシェスに、アオは「そうだな」と言葉を返した。普段よりずっと遠くまで見渡せる世界。多くの言葉を費やさずとも、仲間と大切な何かを共有する感覚。例え離れようとも、同じ空の下に在るのならば通じるものは変わらない筈だ。
 未完成の城壁の上に腰を下ろし、まだ僅かに涼しく感じる風を髪に受けながら、ジェイは顔の前に手を翳して金色の瞳を細めた。光を受けた掌に伝わる熱が、今日もまた暑くなると告げている。
「……眩しいっての」
 遮光眼鏡を掛けて立ち上がった青年は小さく毒づき、朝の光に背を向けた。

 ――新たな夏の1日は、まだ始まったばかりだ。
 



マスター:夕霧 紹介ページ
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いまいち
参加者:56人
作成日:2010/07/24
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