ステータス画面

<オープニング>

●屑
 ラッドシティの、とある民家にて。
 薄汚れた格好をした中年の男が一人、部屋でじっとしていた。
「……」
 男の胸には、白い仮面が貼りついている。
 部屋の扉が開いた。
「ただいま、ブルート」
 若い女性が一人、部屋に入ってくる。
「おかえり、リディエ」
 ブルートと呼ばれた男は、黄ばんだ歯を見せて笑った。
 リディエと呼ばれた女性は、男に向かって微笑み、言う。
「パンと、トマトシチューの材料、買ってきたから。今から作るね」
 それを聞いたブルートは、瞬時にリディエにつかみかかった。
「酒は?」
「……っ」
「酒はどうしたんだって聞いてんだよ! 買ってこなかったのか!? 俺がどれだけ楽しみにしていたのか分かってんのかこのアマ! 使えねぇ屑が!」
 罵声を浴びせられたリディエは、それでも無理やりに笑顔を作り、告げた。
「……安心して。ワインも、ちゃんと買ってきたから」
 ブルートは手を放し、笑顔に戻った。
「それならいいんだ。ありがとうな、リディエ」
 彼のその笑顔を見て、リディエは安堵の吐息を漏らした。

●酒場にて
「男が誰かを口汚く罵る大声がしょっちゅう聞こえるから、窓から家の中をこっそり覗いてみたんだ」
 旅人の酒場にやって来た村人は、告げた。
「そうしたら、仮面を胸につけてるやつがいたんだ。マスカレイド、ってやつだよな」
「……まず、そう考えて間違いないですね」
 虫好きの錬金術士・バズ(cn0142)が頷く。
 村人は、話を続けた。
「マスカレイドをかくまっているのは、リディエっていう名前の嬢ちゃんだ。ブルートって名前の、年上の恋人がいるって、前に言ってたけど……よく顔にアザを作ってたりしてたから、多分、以前からブルートに暴力を振るわれてたんだろうな」
 村人は溜め息をついた。
「恋人がマスカレイドだったなんて、笑えないし、かわいそうな話だよな」
「……確かにそうかもしれません。でも、おそらく、リディエさんは……」
 バズが沈痛な面持ちで口を開いた。
「ブルートが自分を必要としてくれているのを嬉しく思っているし、ブルートを心から愛しているんだろう、と。私は、そう思います」
 少しの間うつむいていたバズは、顔を上げた。
「家の中には酒瓶がいくつも転がっていたそうですから、ブルートはそれを割って武器代わりにしてくるでしょう」
 具体的には、ナイフのアビリティ『切り裂き』と『血襖斬り』を使ってくる。
「戦場は、リディエさんの家の、部屋の中になるでしょうね。ブルートは基本的に、中から出てきませんから」
 懸念されるのは、リディエについてだが。
「毎日、決まった時間にお酒を買いに出かけるそうなので、その間にブルートを倒してしまえば、戦闘に巻き込まずに済むでしょう。もし望むのであれば、先に酒屋に行って待っていればリディエさんが来るので、接触することも可能です」
 村人は言う。
「リディエの嬢ちゃん、最近はアザを作ることがなくなってたから、マシな状況になったのかと思ってたんだが。まさか、こんなことになってるなんてな」
 バズは、わずかに視線を落とした。
「ブルートが改心したのではなく、『制約』によって、悪事を行おうとすると苦痛を感じるようになったから……でしょうね」
 村人は懇願する。
「オレには何もしてやれなかったが……エンドブレイカーさん達。リディエの嬢ちゃんを、どうか、マスカレイドから助けてやってくれ!」


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参加者
阿頼耶の狩手・ルーン(c01799)
マスター番長・ガナッシュ(c02203)
餓狼・リュウ(c15878)
折れぬ大樹・ユーフィ(c34276)
黙っていればお嬢様・クラリッサ(c34521)
エンヴィートゥモロー・レイン(c35432)

<リプレイ>

●彼らの選択
 民家から、腕に買い物かごを下げた女性が一人出てくる。
 緑色の髪の、若く美しい女。彼女がリディエだろう。
 六人のエンドブレイカー達は、彼女に見つからないように気をつけながら、その背を見送った。
 リディエに接触することはせず、彼女の外出中にブルートを殺す。それが、彼らが選択したことである。
「……しかし、分かりませんね。私には」
 阿頼耶の狩手・ルーン(c01799)が声を潜めて言う。
「何がだァ?」
 エンヴィートゥモロー・レイン(c35432)が、彼に金色の瞳を向けた。
「ひどい扱いをされていても逃げ出さない、状況を変えようとしない気持ちがです」
「そりゃァ……惚れた弱みって奴じゃねェのかねェ」
 レインはルーンに自分の考えを述べると、やれやれ、と小さく呟き、溜め息をついた。
(「こんなアベックには嫉妬心も湧きやしねェなァ。むしろ哀れにしか思えねェぜェ」)
 いつもの彼のように、爆発しろなどと茶化す……とても、そんな気にすらなれない。
「そうですね。きっと、リディエさんが彼に惚れたから、こんな関係が出来上がったんだと、私も思います」
 これも愛の形なのでしょうか、と、折れぬ大樹・ユーフィ(c34276)。理解は出来ているつもりだ、が。
(「罵声に暴力を受けてもなお、必要としてくれているから?」)
 ユーフィは思う。そんな関係は。
 ――歪だ、と。
 彼女は、『男女のパートナーは助け合うのが当然』……そんな、自然の森の中で育ったのだから。
「明らかに、屑の男なんだがな。リディエの方も、頼られてることに満足してるんだろうな」
 黙っていればお嬢様・クラリッサ(c34521)が肩をすくめる。
「幸せかどうかは俺にはわからんし、とやかく言う義理もないがな」
 呟くクラリッサ。そこで、餓狼・リュウ(c15878)が口を開く。
「利用されていることですら受け入れるのって、本当に愛なのかね?」
 仲間達が彼に視線を向ける。リュウは、静かな口調で語る。
「いつもは乱暴に扱って、時折優しさや弱さを見せるってのは、女に寄生する奴の常套手段だそうだ。これを常にやられると、女性は優しさや弱さの方に重点を置くようになり、『自分が付いていなければ駄目なんだ』と思い込むようになるんだと」
 ――さて、彼女は本当に彼を『心の底から』愛しているのかね?
 リュウはそう言った。わずかな沈黙が落ちる。
「……とりあえずリディエには悪いが、マスカレイドは倒させてもらうかの」
 マスター番長・ガナッシュ(c02203)の言葉に、全員が頷く。
(「じゃが、倒したところでリディエが幸せになれるとは思えんのう……」)
 ガナッシュはそんな気持ちを抱いたまま、リディエが立ち去った後の家へと歩き出した。
 中には、マスカレイドであるブルートがいるはず。
 今なら、リディエに邪魔されずに、マスカレイドを、殺せる。

●屑
 全員で、リディエの家の中へと踏み込む。
 ほどなくして、奥の部屋でガラスが割れる音が響いた。
 一同は顔を見合わせる。……どうやら、向こうは状況に勘付いたらしい。
 意を決し、音が聞こえた部屋のドアを開け、一斉に中へ飛び込む。
「うああああああ!!」
 割れたガラス瓶を突き出しながら、突進してくる男――ブルート。
 凶器は、間近にいたルーンの胴体に突き立つ。
 しかし、ルーンは臆することなく、威圧的な表情を浮かべて、細糸を取り出した。
「我が死弦術から逃れる術などない、貴様に待ち受ける運命は死のみ」
 烏の濡れ羽色のそれは、人間の女性の髪の毛。
 狩猟者たる彼が操る弓弦は、マスカレイドの首に巻き付き締め上げる。
「がっ、……死んでたまるか!」
 叫んだブルートに、闘気を放つユーフィが近づく。
 容赦なく振るわれた大槌は衝撃を発し、ブルートに痺れを与えた。
「マスカレイドとなり、自分の言うことを聞く女性に手を上げることしかできなかったと」
「……」
「……屑と呼んでも、いいですよね」
「なんとでも言えよ!」
 怒りと諦めの混ざったような、歪んだ笑みを浮かべるブルート。
「ぶん殴ってやるぜ。悪く思うなよ」
 クラリッサがオーラの城壁を召喚。弩砲を装備して体勢を整え、重き突進を仕掛ける。まともに一撃を受け、口から血を噴くブルート。
「やれやれ、他のマスカレイドのように消えておれば、痛い目を見ずに済んだのにのう」
 呆れたような口調で言ったガナッシュが、妖精の弾丸でブルートの脚を撃ち抜いた。
「ぐ、……消えたり死んだりしてたまるかって言ってんだよ!」
「目障りなんでとっととくたばれやァ!」
 諦めの悪い様子のブルートに苛立ったかのようなレインの言葉……されど冷静さが奪われたわけではない。彼はソーンリングを展開し、一般人介入の憂いを断つ。
「俺達は掃除をしに来た。屑は片付けさせてもらう」
 リュウもまた言い放つと、ブルートに接近。みぞおちに軽く触れ、掌から爆発的な『気』を叩き込んだ。
 バウンドし、床に転がったブルートは、起き上がりながら呻くように言う。
「なんで、……なんで俺がこんな目に遭わなきゃいけねぇんだよ」
 それに対するリュウの反応は冷たい。
「俺は、なんでアンタが仮面憑きになったか知らんし、知る気もない」
 リュウの凍てつくような視線の先には、男の胸元の白い仮面。
「アンタの今の姿を見れば、倒す理由はそれで充分だ」

●仮面憑きの死
 繰り返されるマスカレイドの攻撃の標的になったのは、ルーン。
 彼は、敵から深い傷を受けては、アスペンウインドによる自身の癒しに回った。
 それによって、彼の傷自体はただちにほぼ完治したため、他のメンバーは全員、攻撃に集中することができた。
「えぇいっ!」
 ユーフィがハンマーによる打撃を放ち、それとともに闘気を身に纏い終える。
「これでも喰らいやがれ! Burst!」
 素早くリロードを行い、片手で弾丸を二連射するクラリッサ。自身を狙わせることも考え、あえて自己強化中心の行動をとっている彼女だが、ブルートがそれに誘われる様子はない。ブルートは突然の襲撃に平静さを失っているため、そこまで頭が回らないのかもしれない。
「頼むぞい!」
 ガナッシュは妖精に命じ、彼女を矢として放つ。世界樹の弾丸は、確実にマスカレイドの動きを鈍らせている。
「受けろやァ!」
 レインの、ロックギターによる一撃。ブルートの顎をとらえたそれは、痛烈な打撃となる。
 すかさずリュウが続いて動き、足払い投げでブルートの体を宙に浮かせると、そのままバックドロップに移行した。床に思い切り頭から叩きつけられるブルート。
「……っは、あ」
 ブルートはよろめきながら立ち上がった。
「俺は! 死にたくねぇんだよ! そこをどけえぇぇぇ!!」
 再度狙いをルーンに定め、割れたガラス瓶を、彼の腹部目がけて繰り返し突き出す。
 ずしゅ、ざしゅ、と、肉にガラス片の刺さる嫌な音が響き、返り血が床に飛び散った。
「が、……っあ」
 ごぼり、と大量の血を吐き出すルーン。彼はその場に、力なく崩れ落ちた。
 度重なるアスペンウインドの使用によって消耗していた彼は、ブルートの一撃に耐えきれなかったのだ。
「ルーンさん!? ……よくも……次で決めます!」
 ユーフィが床を蹴り、闘気を解放。
 超高速で、ハンマーをブルートに叩き付けた。
 数えきれないほどの、何十度にもわたる連打。
 それが終わる頃には、ブルートはもはや、ぴくりとも動かなくなっていた。
「あばよ」
 リュウが吐き捨てるように別れを告げる。

●そして、彼女の――
「悪いがワシは長居無用じゃ、リディエが来る前に帰らせてもらうぞい」
 ガナッシュが早々に踵を返す。
「流石にマスカレイドは倒せても、依存症は治せんからのう」
「……私も行くことにします」
 ガナッシュに、ルーンが続いた。彼は腹部を押さえながら、ゆっくりと立ち上がる。
「全く救いになっていないですが……時間が彼女を立ち直らせてくれるといいのですが」
 腹部の傷による苦しみだけではない。リディエに謝罪することも、自らの行動を完全に正当化することもできないことが、彼の表情を一層苦々しいものにしていた。
「じゃと、いいんじゃがな。ワシが思うに、おそらく彼女は、またブルートのようなタイプの奴と付き合うじゃろうな……」
 そんなガナッシュの呟きをその場に残して、二人は立ち去った。
 リュウ、レイン、ユーフィ、クラリッサの四人は、その場に留まる。うち、ユーフィとクラリッサの二人は、場を片付け始めた。
「さて、彼女は目を覚ますのかね?」
 リュウが誰にともなく言った。
 しばらくして。
 リディエが帰ってきた。彼女は、顔面蒼白になって買い物かごを取り落とす。
「俺達はエンドブレイカーだ。こう言えば何が起こったのかわかるかな」
「マスカレイドは、倒させてもらったぜ」
「そういうことです。私達が、倒しました」
「マスカレイドの存在は見逃すわけにはいかねェんだよォ。エンドブレイカーとしてなァ」
「……ぁ……」
 四人の言葉に、リディエはほとんど声も出せない様子。
 リュウは続ける。
「慰める気も弁解する気もない」
「……」
「後を追うなら、それも止めんよ」
 リディエは何も言わない。
 ただ、彼女は。
 リュウが最後に言った言葉を聞いて、薄く笑った。
「あなたの愛を壊したのは、確かです。憎むなら、憎んでください」
 ユーフィが言う、彼女の憎しみを甘んじて受けるつもりで。
 だが。
「いいえ……憎みませんよ。皆さんは、エンドブレイカーとして、なすべきことを、なしただけでしょう?」
 やけに穏やかな表情で、リディエは言った。ユーフィは違和感を覚える。
 そんなリディエの正面に、レインが立った。真っ直ぐに彼女の目を見て、彼ははっきりと言う。
「てめェが本気でアイツを愛してたってんなら、アイツの分まで生きてやるべきじゃねえかねェ」
 それを聞いて、わずかにリディエの瞳が揺らぐ。
 しかし、わずかに揺らいだ、ただそれだけだった。
「そうかもしれませんね」
 リディエはにこりと力なく微笑む。
 レインは自分の後頭部をがりがり掻いた後、尋ねた。
「遺体をどうするかは、判断を任せるぜェ。お望みなら消すが、それとも埋葬するかァ?」
「それじゃあ」
 リディエは笑顔で答えた。
「このままにしていってください。私と彼を、二人きりにしてください」
「……そうかよォ」
 レインはゆっくりと外に足を向ける。
「俺達は檻の鍵を開けに来ただけ。どうするかは自由だ。じゃあな」
 リュウもまたその場を立ち去り、ユーフィやクラリッサも後に続いた。

 家の外に出るなり、レインは煙草をふかし始めた。
「ちっ、煙草が不味いぜェ……」
 不機嫌な顔でぼやく。
「……ん? どうかしたか、ユーフィ」
 クラリッサがユーフィの様子に気づく。
「……なんでしょう。すごく、胸騒ぎがするんです」
 リディエの家の方へと、振り向くユーフィ。
「ちょっと、見てきます!」
 彼女は家の中へとって返し、急いで奥の部屋のドアを開けた。
「リディエさん! ……っ」
 ユーフィは絶句する。
 リディエは、首筋を掻き切り、息絶えていた。
 傍には、走り書きの手紙が置いてある。

 ――彼のいない私の人生に、意味はありません。
 私は、彼のところに行きます。
 だって、私がいないと、彼は駄目になってしまうから。
 それでは、さようなら。



マスター:地斬理々亜 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:6人
作成日:2015/02/20
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