ステータス画面

隣人

<オープニング>

 ラッドシティの貧民街まで逃げてきた彼女は、ボロボロであった。
 詳しく説明するならば、足を撃ち抜かれ、綺麗であった顔にも斬り傷が深く刻まれている。
 そして、その胸元にはハッキリとマスカレイドの仮面が浮かび上がっている。
「こりゃー、俺はついているっすね」
 彼女は怯えるように身構えたが、近づいてきた男は彼女の予想に反する反応を見せた。
「おねーさん、困っているんすよね。ちょっと、用心棒がいなくなって。手伝ってくれたら俺が優しく介抱してやるっすよ」
 甘く誘惑するように、細い身体の青年は黒い笑みを浮かべた。
 それが、気に入ったというわけではない。
 どこか危なっかしくも、引き付ける妙な魅力が彼にはあったのだ。
 だから、行き場のない彼女は、彼の手を取った。

 彼と彼女が出会ったのは、ある意味運命であった。
 ツクバと名乗った彼に、キサラと名乗った女マスカレイドはついていった。
 用心棒を失ったツクバは、リーダーのために新しい盾を探していた。そんじょそこらの安い盾では無い、仮面という丈夫な盾である。
 裏家業を行う者にとっては、ボディガードが必要になるのは当然の事。
 ツクバの仕える主も、屈強な護衛を常に望んでいた。策を練るだけでは足りないのだ。
 だからキサラは護衛として捧げられた。マスカレイドである彼女以上の護衛はいない。
 ツクバの仕事は、闇を蠢くダルクと武具の売り買い。それに仕える護衛の一人である。
 キサラは、どこかで物怖じしないツクバを気に入っている。
 ツクバは、キサラを便利な道具であると思っている。
 それが彼らの今。

 いつの間にか隣人であった若い男は、とても危険な男だと気付いた彼女は、そっと密告に訪れた。
 危険な商売というだけならば、珍しくはないが。仮面を住まわせているとなれば、話は別である。
 いってらっしゃいと見送る彼女は可愛らしく、まるで新妻のようであった。
 だが、時折見える胸元に仮面がちらつき。
 背を向け出かける彼は、社交的に見えるが直ぐに表情を消すような、普通の仕事の者では無い。
 マリーと名乗った彼女は、怯えながら隣に住まう隣人はマスカレイドと化け物だと告げたのである。
 マリーの家の隣に住み始めたツクバが、キサラという女性を連れ込みはじめた。だが、そのキサラはマスカレイドのようである。
 それが、今回の話の発端。
 ツクバは明らかに全うな仕事をしていないようで、常にヘラヘラと受け流し底を見せない、気味の悪い青年である。
 黒猫の星霊術師・フリュニエ(cn0175)は、扇の裏で渋面を作った。
「キサラは、仕込み杖を仕える魔法剣士らしいね。後は戦うかは分からないけど、ツクバさんは暗殺シューズを扱える忍者みたいだね」
 思ったよりアクティブだと、その表情は言っている。
 接触するタイミングは、集合住宅でキサラが留守番をしている時か。もしくは、仕事のためツクバがキサラを隠れ家に連れて行く時のどちらかだろう。
「留守番している時間は分かっているんだけど、出かける時間は見えていないんだ」
 マリーの証言では、三日に一回くらいは連れだすようなので、見張っていれば遭遇できるだろうが、そこそこ根気と準備が必要になりそうだ。
 襲撃するのであれば、留守を狙えばいいだろうが、周囲を巻き込むリスクは否めない。
「とにかく、隣にマスカレイドが住んでいるなんて耐えれません。どうか、早く退治してください!」
 マリーは切実に懇願した。
「マスカレイドの考えは分からないけど、住宅街に潜んでいるなんて危険だからね。出来るだけ被害を抑えて、穏便にこの場を制してほしい」
 深く頭を下げるフリュニエは、どこか申し訳なさそうお願いするのであった。


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参加者
阿頼耶の狩手・ルーン(c01799)
主・イェフーダー(c03663)
灰白小鳩・ロシェ(c06958)
骸紅竜爪の機廻曲・オウ(c19501)
ラッドシティのピースメイカー・グレンフォード(c26732)
黒紫紅蝶舞散斬・シキ(c30853)

<リプレイ>

●来訪
 コンコンコン。
 灰白小鳩・ロシェ(c06958)は、ドアをノックした。
 住宅街のただ中。隣にも、その隣にも、周囲には人の住んでいる家がある。そんな場所に、マスカレイドが隠れて……いや、隠されているのだ。
「清濁併せ呑むと言えば聞こえがいいですが、マスカレイドをあえて利用しようとする神経が理解できませんね」
 普通の者ならば、見えるようになったマスカレイドの仮面を不気味に感じ、遠ざけたり怯えたりするものだ。そう、依頼に訪れたマリーのようにと、阿頼耶の狩手・ルーン(c01799)は小声で眉間に皺を寄せる。
「獅子身中の虫を飼うとはよほど神経が図太いのか、小悪党ではなく大物なのか……」
 部屋の主の姿を思い浮かべると、益々複雑な心情になる。
「……裁くべきは、悪党か仮面か……どちらだろうな」
 この事態に、違和感を感じながらラッドシティのピースメイカー・グレンフォード(c26732)は、表情を隠すように帽子を深く被った。
 コンコンコン。
「キサラ、中にいるんでしょう? 僕達は、ツクバからの使いの者だ。彼からの伝言を……」
 ロシェが言い終わるより早く、細くドアが開けられる。
 警戒するように視線が向けられる。
「ツクバ、さん……に、何かあったのですか?」
「ここでは……ちょっと……」
 周囲の家を気にするように視線を動かすと、キサラは慌てた様にドアを開き彼らを招き入れた。

 バタン……。

 部屋のドアが閉じてしばらくすると、主・イェフーダー(c03663)が姿を現す。
「マスカレイド……やつらも地に落ちたわ。チンケな脅威とはいえ脅威は脅威。民のため」
 残さず潰しましょうと、燐とした笑みを見せる。
「では、俺はマリーの方から……」
 黒紫紅蝶舞散斬・シキ(c30853)が右隣の部屋に向かうと、骸紅竜爪の機廻曲・オウ(c19501)は左の部屋に向かった。
 隣の部屋に悟られないように、小さくノックをすると直ぐに住人はドアを開けた。
 ちょっと身体の大きい、力仕事などをやっていそうな筋肉男子だ。
「何だよ……ツクバの家は隣だぜ」
 女性だと見るや否や、面倒そうにあしらい彼はドアを閉めようとした。
「待ってください。私はエンドブレイカーです。マスカレイドが、隣の部屋から出たと通報がありました」
 男は一瞬だけ目を丸くし、すぐに愉快だと笑みを浮かべる。
「何、ツクバの奴ついにマスカレイドになったのか? あいつ、やっぱりやばいことやっていたんだな」
 相当嫌いなのか、男は嬉しそうに前のめりになってくる。
「お静かに。窓を借ります、あなたは危ないため逃げてください」
 本当はツクバを捕らえるためではないが、細かい説明は省いてもいいだろう。男は納得したのかすんなりと、オウに協力し彼自身は素直に避難するのであった。

●執着
 後ろ手でドアを閉じ、しっかりと施錠をする。後は、こちら側を突破されないよう立ち回るだけだ。
 周囲の目を気にしたとはいえ、キサラは無用心過ぎる。いや、物腰柔らかな彼の口調に気を許しているのだろう。
「ねぇ、ツクバはどうしたの。何かあったの?」
 本当に仮面が見えないと、彼女はただの彼を案じる恋人のよう。それ程、ツクバが大事なのか。いや、それだけ依存しているのか……。
「いえ……」
 さて、どこから話すべきか。
「貴女はマスカレイドですね」
 ザワリと彼女の纏っていた空気が変わった。
 ロシェが耳を澄ますと、外では女性人達が動き出したのが聞こえる。
「違いますよ。誰がそんな怖い冗談を言ってるんですの?」
「ツクバが言っていましたよ。そして、貴女はもう用済みだと……」
 カッとなったキサラは、衝動が抑えきれなかったか、バチリと電光が奔る。威嚇するように、掌に電光を集め。
 軽い痺れによろめいたロシェの肩ごしに、グレンフォードが引き金をひいた。
 寸前にキサラが浮かべたのは、動揺。
 攻撃されたこと以上に、電光を放ってしまったことに彼女自身が驚いていたのだ。
 ターンと響いた銃声をきっかけに、窓を割って女性陣が入ってくる
「乙女を舐めたら怖いのよん?」
 荒っぽいことになっちゃったわねぇんと、言いながらも遠慮なくオウは飛び込んでくる。
 両側の部屋の住人を避難させ、窓づたいに部屋を包囲する。退路を断つという意味では、全ての出入り口を抑え挟撃という完璧な状態である。
 唯一の誤算があるとすれば、それは窓に鍵がかかっていたことだろう。
 知らない人が見れば、強盗にも間違えられかねないが、のんびり待っていられるような状況では無かったので仕方がない。
「な、何ですかあなたたちは。不法侵入ですよ!」
「ごめんなさいね。私達、エンドブレイカーなのよ」
 シキの衣服から柄のように張り付いていた、二匹の蝶が飛び立った。
 同時に彼女は軽く口角を上げた。柔らかだった笑みが、獲物を前にした獣かのように楽しそうなものへと。
「ずっと、逃げてきたようだが、ここで終わりだ」
 部屋の中を跳ね回るように、シキが創造した絶対車輪が走る。
 騙されたと振り返りながら、懐から短刀を取りだし斬り付けようとするが、キシリとその腕が何かに引っ張られ彼女は動きを止める。
 細い糸のようなもの、いや髪か。それが部屋中に張り巡らされていた。
「我が死弦術から逃れる術などない、貴様に待ち受ける運命は死のみ」
「いつの間にっ!?」
 驚愕を浮かべるキサラの先では、弦の張ってない弓を背負ったルーンが糸を手繰っていた。
 絡み締め付ける糸に、キサラは更に表情を歪ませる。ナイフを取り出したときに、緩んだ胸元からは、しっかりと仮面が覗いている。
「諦めなさい。あなたは、もう逃げられないわ」
 イェフーダーの歌声が、吹雪を呼ぶ。
「少々鬱陶しいぐらいよ、この程度のマスカレイド。問題はそれを利用しようとする人間ね」
「……違う」
 糸に縛られたまま、キサラは力無く否定を口にする。
 攻撃と一緒に、ツクバに利用されているだけだと言葉が重ねられる。
「本当は気づいているんでしょう、彼は貴女を道具としか……」
「違う、違う、違う!!」
 キサラは、力任せに糸を引き千切る。その柔らかそうな肌に傷がつくこともいとわず、信じている者が正しいと声を高らかにして。
「あの人は私を裏切らない……私のモノだ……」
 好意とは少し違う。マスカレイドらしい執着が、キサラから滲み出る。
「キサラ、君、解っててナゼ傍にイられンノ?」
 アルティメットビーストで、オウは肉薄しながら彼女に話しかける。
「あの人が拾ってくれた。だから私は彼を喜ばせてあげるの! もう二度と棄てられたくないのよ!!」
 独りは嫌だとキサラは叫ぶ。傷付いて、逃げ続けた日々はもう嫌なのだと。
 愛が欲しい、側にいて欲しい。でも化け物だから、人は離れていく。離れていくから捕まえて、足をもいで、そして彼らは死んで逝ってしまった。
「この身体になって、初めてなのよ。ツクバだけが、側に居てくれる!!」
「でも道具としか見ていない。僕は貴女をちゃんと見ます」
 可哀想な人だったのだ。人が恋しくて、逃げながらも、街から離れ切れないほどに。
 瞬麗鳩を構え、ロシェは絃を弾く。
 奏でる音色は、彼女の愛への渇望を光彩と映し煌く。
 道具だと判っていても、渇望する姿が哀しいと想いをこめてロシェは絃を弾き続けた。

●人と仮面
 部屋から響くリサイタルばりの音色に、ツクバは足を止め割れたガラスを見つめた。
 はっきりとは見えないが、中でキサラが数人と戦っている姿が垣間見える。
「あーらら、見つかっちゃったっすかー」
 そういう声は、どこか他人事のように乾いた音を響かせる。
 イェフーダーとロシェは、声に気付き窓の外へ視線を向けた。
 つられるようにキサラの視線も窓外へと、向けられる。
 飄々と、ツクバは笑みを浮かべ。キサラに手を振る。そして、彼は踵を返すように背を向けた。
 声が聞こえてなくとも、その口の形で何を言われたか十分キサラには伝わっただろう。

 ――バイバイ。

 簡潔で、これ以上無い別れの言葉。浮かべたのは酷薄な笑み。
 道具だからどうなっても関係ない。例えエンドブレイカーに倒されたとしても。
「あははは……そう……棄てるんだ。やっぱり、棄てるのねっ……!」
 キサラの周りにクリスタルが守るように浮かび上がり、傷を癒していく。
「捕まえたら平手でも打ってあげるのにねぇん」
 派手にギターの音を掻き鳴らしながら、オウはヒーリングフェザーを撒き散らす。
「見捨てられたようだな」
 哀し気に暴れるキサラを糸で絡めながら、ルーンは一気に締め上げる。
「あんた達を倒せば、彼は許してくれるわ!」
 それでも信じたい。信じるということに執着したいと、キサラは哀しい声をあげる。
「ツクバねぇ。あれは、牢屋にぶち込んでも反省しないでしょうね」
 清々しいほどの、屑っぷりを見せたツクバに呆れながら、イェフーダーはカオスカデンツァを歌い響かせる。
 小さな部屋の中に激しく電光が弾け、音が踊る。
「振られたから自棄になっているのか?」
 痺れを断罪ナックルで祓いながら、攻撃の手を強めたキサラに、シキは拳を叩き込んだ。
「……恨み言でも言いたいなら、幾らでも言うがいい。……始末者と周囲の恨みを買ってでも、都市と市民を護るのが……俺の仕事だ」
 理由があろうとなかろうと、仮面は仮面。
 静かに銃口を向けるグレンフォードは、無数の跳弾を撃ち追い詰めていく。
 ずっと一緒にいれば、いつかは彼女の衝動が彼を殺すことになっていただろう。
 利用できていたとしても、回復仕切ればマスカレイドは、その狂気を抑えきることはできない。
 鎮めるように奏で続けていたロシェの絃が一本千切れ、小さく指先に傷を作る。
「……っ!!」
 痛みに顔をしかめるも、ここで演奏を止めるわけにはいかない。
「私は彼の物……彼は私の物……」
 哀しく。そして愉快そうに、くすくすと笑い声を漏らす。
「貴方も、私のモノ……頂戴その命……」
 制約の苦しみに襲われながらも、キサラはその手にナイフを握り切りかかってくるが、後のなくなった者の動きは単調で読みやすい。
 オウが不協和音を響かせ、キサラの動きを縛る。
「……ここで散るのも、定めだ」
 静かな笑みを湛え、ゆっくりとシキのジャッジメントセイバーが彼女を貫いた。

●願い
 ツクバの背後に繋がる物をと部屋の中を調査したが、そこは抜け目無いというか。さすがに手がかりになるような物は、何も出てこなかった。
「穏便に進めたいと思ったけど、そうもいかないものね」
 顔は覚えている。人ならば人の裁きで、何れツクバは追い詰められるだろう。果たして、彼は賢い狐だったのか……と、散らかった部屋をイェフーダーは眺めた。
「マリーやお兄さんへの報告は終わったわよん」
 戻ってきたオウが、中を見回し皆の表情から。やっぱり何も出なかったかと、少し残念そうな表情を浮かべた。
「近隣住民には、もしツクバが戻ってきたら俺達のことを素直に話すよう言ったが……」
 戻って来ないだろうと、ルーンは零した。
 復讐を考えるぐらい執念深い相手であれば、何か出来たかもしれないが、こればかりは他にどうしようもない。
 最後の仮面が無くなるその日まで、事件は繰り返されるのだろう。
「せめて……安らかに」
 深く哀しみの色を包み、優しく澄んだロシェの歌声がそっと響く。
 最後まで、報われることのなかった彼女への鎮魂歌。
 彼女の哀しみが、癒えますように。
 この街が、幸せになりますように……。



マスター:凪未宇 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:6人
作成日:2015/03/10
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