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大魔女決戦:散る薔薇ヴィーゲンリート

<オープニング>

●魔女
 目の前の森が消えれば――遥か天空に『大魔女スリーピング・ビューティーの城』が視認出来る。
 六勇者を撃破し、五将軍の力も大魔女から奪った。そして、続く戦いで配下の軍勢をもエンドブレイカー達は殲滅してみせた。
 最後の頼みとなる、鉄壁の防御と信じていた黒きエンドブレイカーの森を突破された為、相手は戦力を全て奪われた状態なのだろう。
 ――今、自分以外は誰もいない城の玉座で。大魔女はエンドブレイカーが攻めてくるのを待っているのだろう。それはどんな気持ちなのか。
 今、目の前に見えるのが最終の決戦場。
 勇者から託された6つの鍵を用い、城の扉を開ける6人の人影。――この鍵と共に、勇者から託された想いを思い返す者もいるだろう。今、彼等の頑張りが報われる時が来る。

●咲き誇る
 ――開く、開く。大魔女へと続く扉が開く。
 鞭のソーンイーター・ユリウス(cn0182)はその様子を静かに見つめた。
 いつもと変わらぬ表情。けれど深い藍色のその眼差しには、珍しく闘志が燃えていた。愛用の鞭を大切そうに抱き、大魔女と相見えるその瞬間を待ちわびるように唇を引き結ぶ。
 扉が開き切り、エンドブレイカー達が城へと攻め込もうとした時。突然、哄笑が聞こえてきた。
 響き続ける笑い声――暫しの時が経ち、哄笑が止むと同時に聞こえる声。
「数万年に渡り準備してきた全てが、私の手から溢れ、露と消え去った」
 それはまるで歌を紡ぐように。優雅な声は大魔女スリーピング・ビューティーのもの。ここに集う全員のエンドブレイカーに語り掛けるかのように、大魔女は歌うように言葉を紡ぎ続ける。
「五将軍、六勇者、マスカレイド……。どれ一つとっても、世界を手にするに十分な力であったというのに」
「だが、私は諦める事は無い」
「かつて、私は世界の全てを敵として、私一人の力のみで戦いを挑んだのだ」
「ならば、最後に頼るのは私の力のみ」
「お前たちまとめて、全て私が相手にしてくれよう」
「遺失魔術『ギガンティア』。咲き誇る薔薇の花弁の如く、我が力は幾重にも重なりあう……。そして、全ての敵を葬り去る力を……」
 そこで歌声が、ふっと消える――。
「……遺失魔術『ギガンティア』」
 大魔女が最後に零した言葉を繰り返すユリウス。まだ何か、秘策がある事は確か。
 油断をしないようにと、一同は城の内部へと侵入し奥へと進む。

 ――そして、『大魔女スリーピング・ビューティー』の姿を捉えた。否、姿を現した。
 絹のような、白く波打つ長い髪。仮面が顔を覆うが、その奥の顔は恐らく美しいのだろう。
 その美しさに拍車をかけるように、大魔女の周りに咲き誇る深紅の薔薇は棘(ソーン)か。同じく紅い薔薇を作り出す事の出来るソーンイーターとしては、微妙な気持ちになる。
 けれど、その全てを台無しにするような存在――人間の下半身に当たる部分に見える、球体。
 肉の塊のように不気味な肉色をしたその中に、うっすらとマスカレイドの仮面や棘(ソーン)が見えるのにユリウスは気付いた。
 少年がじっと全ての現況たる大魔女を見ていると、遠くで駆ける人影が。
「大魔女への一番槍、いただきっ!」
 前線の者達が武器を構え、大魔女へと距離を詰める。――当然、他の者も続こうとするが。別方向に、『大魔女スリーピング・ビューティー』の姿が。
「先ほどの大魔女は幻術か? ならば」
 2番目の魔女へと、攻撃を仕掛けるエンドブレイカー。が、大魔女はそれだけでは無く次々と姿を現し、軍勢のように襲い掛かってくる。
「どれが本物なんだ?」
 溢れるように現れる大魔女に、混乱するエンドブレイカー達。どれを狙えばいいのか――そんな戸惑いも感じる中、数多の大魔女達は声を揃えて答えた。
「私達全員が、大魔女スリーピング・ビューティ本人なのだ」
「これこそ、最大最古の遺失魔術『ギガンティア』なり」
 ――それが、大魔女の策である事に気付いた者は多いだろう。
 1人では無く、多数と戦う苦労。それは確かだけれど――。
「……ああ、つまり全て倒せば良いんだね」
 面倒だけれど、自身が敵を討つ事が出来るチャンスでもあると。珍しくユリウスは想った。
 そう、ここまで来るのに様々な事件が起きた。仮面に纏わる事件は悲惨なものも多く、全ての現況たる大魔女に強い想いを抱く者も多いだろう。
 だから――今、自身の手で。
「さあ、行こう」
 真剣な表情で、大魔女スリーピング・ビューティーを見据えながら。ユリウスは仲間へ語り掛けた。


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参加者
奏燿花・ルィン(c01263)
凍月の旋律士・リコリス(c01337)
マスター番長・ガナッシュ(c02203)
陽凰姫・ゼルディア(c07051)
冰霄・セラ(c07574)
風のように・アゼス(c15084)
白秋桜・ティナ(c21185)

NPC:鞭のソーンイーター・ユリウス(cn0182)

<リプレイ>

●終着点
 辿り着いた先に現れた、大魔女スリーピング・ビューティの群れ。
 波打つ白髪に透けるように白く長い肢体、花弁のように紅い唇――その名に恥じぬほどの美しいその容姿。絡みつく瑞々しい薔薇もまた、その美しさを際立たせるよう。けれど、腰から下にあるその塊は、『生える』と云う表現が合うほどに不釣り合いなものだった。
「やっと、ここまで来たんだな」
 目の前に現れたその存在に、感慨深げに風のように・アゼス(c15084)は語る。伝え聞いた大魔女の存在を今、初めて目の前にした。様々な思いが渦巻く中――陽凰姫・ゼルディア(c07051)も同じように、辿り着いたと云う事を実感していた。
 会いたくなかった。けれど、逢いたかった。
 葛藤のような想いが、彼女の心を包み込む。けれど目の前にいる巨体は確かに存在する。数多の魔女が居るこの光景は、想定外だっただろうけれど――長く紡がれた、想いの果ては此処にある。
「貴女の元で結びを迎えましょう」
 まるで唄うかのように。瞳を細め優雅な微笑みを浮かべながら、ゼルディアはそう零す。
 全てを犠牲にし、エンドブレイカーに対抗をした大魔女。
 それが、未来を消そうと立ち塞ぐ存在の経緯。――その未来は不明だが、1つ確かな事はある。
「城にたったひとり、信じる力は己のみ」
「一人で始まり、一人で終わるか、何とも悲しいものじゃな」
 こんなに数が居ても、全ては大魔女本人。つまり独りである事は変わらない。
 いつもの明るい笑みとは違う、少し陰りを帯びた表情でアゼスが零せば。頷きマスター番長・ガナッシュ(c02203)が言葉を続ける。
 ならば――。
「すべての想いを乗せてここで引導を渡してやるのも一つの救いかのう」
 帽子のツバを整えながら、ガナッシュが言葉を零したその時――大魔女は何かを始めるかのように、手をかざす。けれど、運良く真っ先に動いたのは奏燿花・ルィン(c01263)だった。
「さてっと、始めようぜ」
 にやりと笑み、大魔女とは対照的な漆黒の瞳で相手を見据える。身を包む黒衣もまた対照的――いつもは他者よりも長身な彼が、巨大な大魔女の前では小さな存在に見えるから不思議なもの。
 相手との距離を一気に詰めると、彼は黒漆の紫煙銃。墨彩を構え零距離で弾丸を放つ。
 響くその音が、現実に呼び覚ますかのようで――凍月の旋律士・リコリス(c01337)は穏やかな表情から一変、唇を結びその顔から表情が消え去る。彼女の氷のような淡い色合いのせいか、纏う空気は冷たく変化したよう。
「最早語るべき言葉はありません。どちらかの命が尽きるまで戦うのみです」
 約束の紐を揺らし、彼女は竪琴に指を掛け音を紡ぐ。死を讃えるその音色は、いつもとは少し違うよう。だって、自身の贖罪を果たす時は今――。
 けれど続く攻撃に臆することなく、大魔女は尚も優雅なまま。
 唇を微かに動かすと、視界いっぱいに光が見えた。
 伝わる熱。響く音。――身体に走る痛みを感じたのは、一体何人だったのだろう。

●生きる道
 眼前に降り注いだのは、燃え盛る火炎の塊。
 見たことも無い紅いその物体が視界いっぱいに広がり、次々と降り注ぐ様は死を覚悟する程。
 ――空気が暖まり、肌を撫でる風が熱を帯びていることが分かる。
 冰霄・セラ(c07574)は今のが大魔女の攻撃である事を理解し、微かに身体が震えるのを感じた。――そしてそれが、死に恐怖していると云う事も。
 あんなにも生への執着が無かった自分が、今このような感覚を抱いているのは不思議なもの。あの時の自分は、独りで気高く生きる事が強さだと信じていた。
 だからこそ、今目の前にそびえ立つ美しき大魔女が。自身と重なって見える。
 強く、美しい彼女はきっと独りでも平気だと思っているのだろう。
 けれど、セラは違う。今の彼女は、大切な人と共に生きたいと思う。その未来は、自分の手で護りたいと――今彼女の右手に握られるのは、蝶の躍るナイフ。ひやりと冷たい小夜時雨の感触を感じつつ、この手で温もりを感じたいと。そう、セラは想う。
 強い眼差しで――未来を自身の手で、紡ぎたいと想いを込め――大魔女を見据えた後、辺りを見た彼女の視界に映るのは傷を受けた仲間達。微かに聞こえた咳に視線を動かせば、それは白秋桜・ティナ(c21185)だった。
 熱い空気を感じる。受けた傷は確かにあるけれど、
(「お父さん……お母さん……旅団の皆……私に、勇気を貸して……」)
 自身を包む数々の品に触れ、瞳を閉じティナは祈る。流れる銀青の髪を纏める藍色のリボンを泳がせながら、彼女は青薔薇咲く氷剣を構える。
 もう、棘に覆われた仮面の下で、涙が流れる事が無いように。――数多視た終焉が。もう二度と起こる事が無いように。
「薔薇も棘も、大魔女も……全部、ここで断ち切るの……」
 願いと、決意を込めティナが語れば。彼女の声に答えるように、妖精のプリムが宙を舞い大魔女へと距離を詰めると、その巨体に矢を放ち動きを阻害する。続き鞭のソーンイーター・ユリウス(cn0182)の刻む烙印が輝いたかと思えば、ガナッシュに力を与える。ティナと同じように魔女の動きを阻害しようと妖精を呼び出し攻撃すれば、アゼスの弓から放たれる矢と共に敵を撃つ。
 きらりと――アゼスの持つ弓の宝石飾りが輝いた。
 彼らが攻撃を行う中、支えるのは支援に駆け付けた仲間。アトロポス(c17639)の持つ銀の杖が陣を描けばティナの傷を癒し、ユミル(c28705)の創り出したケルビウムがリコリスを抱擁した。
 全体を攻撃する火炎は、いくらか避けやすいがその一撃はかなりのもの。
 体力を消耗する癒しをいくらか任せられる相手がいる事は、それだけで頼もしい。連携をし、力を高め合い魔女を討つその作戦は、悪いものでは無いのは確か――。
 並ぶエンドブレイカーからの攻撃を一手に受ける大魔女。けれど表情を変えず、こちらを眺める姿にゼルディアは、即興曲を紡いだ後思わず口を開いた。
「長い長い間眠り続けたお姫様。貴女が本当に望んでいたモノはなあに?」
 目が覚めた時には、未来が変わっていた大魔女。――彼女は何を望み、どんな未来を思い描いていたのか。それが気になるのは、きっとゼルディアだけでは無い。
『纏めて消し去ってくれる』
 けれど大魔女の口から零れる言葉は、答えでは無かった。 
 そして届く言葉は、ゼルディアの身体に染み込むように。ただの言葉に紛れるその力――避けようのない、苦痛が身体を走る。
「……っ」
 声も上げられないほどの苦痛があると、彼女は知った。
 助けたい人がすぐ隣にいる。勇者達の願いを。託されたその想いを――けれど、大魔女の力に対抗する言葉が出てこない。ゼルディアの唇から零れるのは荒い息だけ。
「ゼルディア、俺の声聞こえるだろう?」
 敵を見据えていたルィンが駆け寄ると、彼女の細い身体を抱き寄せ声を掛ける。感じる温もり。耳慣れた声が身体を包む――けれど、それだけでは強大な力に対抗は出来ない。
 勇気づけるように、繋がれた手を最後の力で握り返した後。ゼルディアの身体がずるりと崩れる。夜の扇と月の剣が床に落ちる音が響く中――長く美しい金の髪を床に広げ、彼女は倒れた。
 意識を失うゼルディアが最後に見たのは、守りたい『彼』だった。

●独りと、共に
 致命傷――そう、誰もが分かるほど張詰めた空気が流れる。
「ゼルディア!」
 崩れ落ちた彼女を抱き起こし、必死にルィンは声を掛ける。――意識を失っただけで、息はまだある。この攻撃にも耐えうるのは、エンドブレイカーの力を持つから。その事実を、改めて実感する。
 更なる攻撃を受ければどうなるかは分からないが――必ず全員で帰ろうと、皆で誓った。
 敵の攻撃は1人と全体の両極端。彼女が狙われないようにと、ルィンが彼女を後方へと移動させる間。魔女の気を惹くように、セラは巨体にナイフを突き立てる。
 零れ出る血。ナイフを伝うその鮮血の先に居る大魔女を見て、彼女は気付いた。大魔女の拘束が、いつの間にか消えていることを。
 少しでも相手からの傷を減らそうと、ティナとガナッシュが行動をしたのは確か。大魔女の腕を、足を。確かに妖精が撃ち抜いたのを見た。だが大魔女ともなれば、自然と拘束を解くことが可能なのだろう。相手の攻撃は純粋に火力に特化している為、運が悪ければ大きな傷を負うのは拘束が有っても無くても変わらない。
 逆にこちら側も拘束など考えず。ただ火力を放てば良い。
「子守唄は止み、鮮血の薔薇は散る 魔女の生命の灯火は消え行く ただ永遠の眠りへ――」
 弦を弾きつつ、リコリスの口から零れ出る唄が戦場を包み込む。
 アゼスの矢が大魔女を貫き、高まる力を込めた力強い攻撃を、ガナッシュが放つ。
 妖精の矢はまるで躍るかのように、輝く軌跡と共に魔女へと降り注ぐ。次々と重なる深手に、大魔女は仮面覆う顔に手を添えた。
「おぬしは根本的な間違いを犯しておる。おぬしが世界を戦えたのはエンドテイカーの能力のおかげじゃ」
 確かな手応えを感じ、ガナッシュの口元に笑みが浮かぶ。
 たった1人で世界を相手にする大魔女の、大魔女たる能力。その力は確かに強大なものではあるけれど、エンドブレイカーには通用しない。そして、こちらは仲間と共に戦っている。
 だから、必ず勝てると――そう強く語るガナッシュの言葉は、仲間をも鼓舞するかのよう。
「ああ、希望は今もここにある! なぁ、そうだろ?」
 胸に手を当て、力強く語るアゼス。
 多くの災いが降った。けれど小さな希望が、我々を生んだと云うのも事実。希望は、自分自身だ。
 言葉には言葉で。独りである大魔女に、絆と想いで負けるはずがない。
 そしてその力強さが、大魔女の強大な力を拒絶することにも繋がるのを、彼等はもう感じていた。
 負けないと。ティナも瞳に力を込め、セラは後方に立つジグ(c06896)の姿に勇気づけられる。
 次々と語られる言葉。仲間との、大切な人との、絆を胸に。エンドブレイカー達は今、ここにいる。
 しかし大魔女の様子は何も変わらない。ただ淡々と、自身の目的の為に戦っているように見える。彼女の能力の1つ、傷を拒絶しようとした大魔女の心を、ユリウスの放つ刻印が支配した。
 格上相手。戦が長引けば、それだけこちらが不利になることは明白。
 それを避けるためにも、彼らが選んだ作戦は相手の癒しを封じる事。
 どう作用するか。それは予測がつかなかった。――けれど傷をそのままに、大魔女は手をかざすと辺り一面に火炎を降らせる。
 それは、作戦通り。
 ――けれど、本当にこれで良かったのか。数人が避けたところで、傷の蓄積は変わらない。傾ぐガナッシュとユリウスの身体。受けた傷の衝撃に、顔をしかめるルィンを癒す為。ティナは藍色の扇を広げ風を起こす。――花弁が散り、鳥が飛び、柔らかな風と月光が仲間達を癒す。
 ――敵の回復は、全ての傷を消す術では無かった。
 僅か10秒間の間に受けた傷を消す手段だと、予測出来なかった。けれどその術を使おうとしたと云う事は、相手を追い詰めていると云う事実でもある。
 単純に火力での勝負。
 独りの魔女に対抗する手段は――やはり、心か。

●終焉を
 ティナに続くように、アトロポスとユミルは仲間を癒す。少しでも、力に――そう願う彼女達の横で、ラシード(c21578)の呪われし眼が魔女を襲い隙を作る。
 慌てて傷付いたセラを弾丸で癒すジグは、傷を拭うを彼女を見て心に想う。大切なものの為に戦うと。青空の下で笑うキミの顔が見たいと云う、心からの願い。
 そしてその願いは、体力を消耗した彼女が、この場に立つ力を与えているようにも感じる。
 力強い攻撃を繰り出す大魔女。足の震えはいつしか消え、セラは真っ直ぐに、澄んだ青瞳を向ける。俯きがちだった彼女が、前を見据える事は不屈を意味する。
 失いたくない――。
「私は、私の大切な人達と。この世界で胸を張って生きて行きたい」
 決意を語るように、彼女は言葉を口にする。その想いは、アゼスも同じ。
 護りたいと思う人が出来た。そして、護りたい世界が彼にはある。――独りでは無い。その事実が、彼を奮い立たせる。諦めないと云う気持ちも、『相手』が居るから湧き上がる。
「まるで意地の張り合いのようだが、ここで引く訳にはいかねぇよなぁ?!」
 溢れる想いを語るアゼスの言葉の後。仲間と共に戦えば、勝てると。もう十分すぎるほど知っている。そう、ルィンは口元に笑みを浮かべ語る。握る銃を操る動きに迷いは無く、羽織が動きに合わせふわりと舞ったかと思うと、戦場に広がる華麗な薔薇。――倒れた彼女を、守りたいと云う想いもまた、彼に力を与えている。募ったその想いは数多の幻影となり、力強い一閃を大魔女に与えた。
 舞う花弁の中、佇むルィン。羽織の花模様もまた、彼の美しさを際立たせる。
 風が吹く中――その風に乗せるように響く音色は、リコリスの紡ぐ葬送歌。
 風に流れる銀糸のような髪。黒衣の裾が揺れる儚さとは打って変わり、相変わらず彼女の眼差しは冷ややかだった。静かに見据えるその眼差しの先に居る魔女に、表情を変えぬまま口を開く。
「大魔女、あなたに対して感じるのは拒絶と否定のみ」
 許されない大罪を数多く犯した大魔女。犠牲にした者達に詫びろとは言わない。
「今此処で、あなたを滅ぼします」
 その、心からの言葉を。今まで想い続けていたことを、本人に語る。その機会は、今が最初で最後だろうから――悔いの無いように。例え、届かなかったとしても。
 冷徹な表情の中リコリスの瞳に宿る鋭さ。同時に戦場に広がる死へと導く音色が一層強まる。それは、リコリスの強い意志を宿した音色なのだろう――表情を変えぬ大魔女。けれど、確実に心を蝕み傷を与えている。抗うように大魔女も攻撃を続けるけれど、此方も油断せずに攻撃を続け、敵を追い詰めていく。
 妖精が走り、薔薇の幻影が舞い、弓と歌声が戦場を走る。
 力を高め、攻撃を行うこの戦い。仲間と共に居る事を意識したエンドブレイカー達の戦いに、ミスは少ない。未知の敵に対して、出来うる事はやっただろう。
 蓄積する傷は深いけれど、それでも彼等の瞳の意志は揺るがない。倒れた仲間も、今この場にいない仲間も、共に戦っているから――。
『終焉を見届けよう』
 怒りの解けた大魔女は、言葉に力を込め語り掛ける――その言葉に、胸を抑えるティナ。
「終焉は、決まってなんか、ない……」
 苦しげに息を吐きながら、彼女は意志を口にする。
 帰りたい場所があるから。笑顔で会いたい人がいる。待ちわびる親友達が、彼女にはいる。だから死ぬことは出来ない。
 ティナには。そして、共に戦う仲間達にも。世界に生きる人々にも。生きていたい、世界がある。
「私が諦めた時……それだけが、終焉を決めるんだもの……」
 菫のような大きな瞳で敵を見据え、彼女は妖精の矢を放つ。巨体を射抜く小さな存在の一撃は、確かに手応えを感じる。しかし、あと少しのところで耐える大魔女。――すぐに反撃をしようと動く相手に、割るようにルィンが動いた。
 流れるような羽織はまるで花が舞っているかのよう。漆黒の瞳に微かに感情を宿らせ、彼は花弁を舞わせ銃口を向ける。
「これで仕舞いだ!」
 力強く放たれる言葉と共に、大魔女へ最後の一撃を。
 戦いに、そして全てに終焉を――そう、語るかのような大魔女の断末魔が、響き渡った。

●溶ける、夢
「終わ、った……か」
 断末魔を耳にして、アゼスは確かめるように言葉を零した。
 響き渡る大魔女の声。それは先ほどまでの、力を込めた言葉とは違う、悲痛な叫び。全く異なるその声色を耳にして、きゅっとセラは唇を結んだ。
 今彼等の目の前に在るのは、死体へと姿を変えるであろう大魔女の姿――肉の塊から女性が生えたような存在が、悲鳴と共にごとりと床に転がろうとしたその時。突然、闇が現れた。
 否、大魔女の死体が、闇のようなものへと変化した。
「何ですか……!?」
 冷徹だった顔つきに穏やかさを戻したリコリスが、再び竪琴に指先を添える。――大魔女だった存在はそのまま崩れ、ずるりと溶けていく。まるで何もなかったかのように。
 けれどそこに、『アレ』は存在したのだと。強調するかのように、闇は影へとなる。地面に染み込むように生まれた影は、突然すさまじい速さで移動を始めた。それは、何かに引っ張られるかのよう。
「……追いましょう」
 影を見失わないうちに。
 セラが零せば皆が頷く。――傷深い仲間を連れて行く事は無理な為、ルィンは一瞬躊躇したが。更なる戦いが待っているかもしれないので、仲間と共に行くことをゼルディアに断りを入れ駆け出す。
 走っても、走っても。その影の速さは止まらない。
 追いつくことは無く。けれど離されることも無く。一心不乱に駆ければ、同じように駆けるエンドブレイカー達と次第に合流していく。皆、目指す方向が同じだと云う事に、直ぐに気が付いた。
 どれ程走ったか、もう分からない。
 荒い息を吐きながら、彼らが辿り着いたのは城の最奥だろう。玉座らしきその場に足を踏み込むと、50以上の深い傷を負った大魔女が倒れていた。
「!?」
 その光景に、ティナは驚き息を飲み込む。
「1体でも魔女が勝っていたら、生き残ってたのかもしれねぇな」
 不思議な感情が湧き上がる光景に、アゼス瞳を細めぽつりと、零した。 
「ですが全ての『本体』を倒すことが出来たのです。生き残る事は無理でしょう」
 冷めた眼差しでリコリスがそう言ったのと同時に――突然の地響きを感じた。天井が悲鳴を上げるように音が鳴り、ぱらぱらと天から屋根の欠片が降ってくる。
「城が崩れる……!? 脱出するぞ!」
 異変に気付いたルィンが叫び、彼等は元居た場所に戻る。傷付いた仲間へと手を貸し、城を飛び出す為に彼等は駆ける。生きて戻ると、共に誓ったから。

 ――崩れ落ちる、崩れ落ちる。
 大魔女の存在も含めて、全てが無かったのかのように。大魔女の城は、崩壊する。

●光の先に
 城が崩れればそこに残るのは何も無い世界――の筈だった。
 大魔女の城があった場所の空間が歪み、その奥から現れる赤黒い巨大な腕のような塊。
「何じゃ、あれは」
 傷を抑えたガナッシュが苦しげに語れば――その腕が、空間をこじ開けるように切り裂く。と、同時に。空間から何かが姿を現すと、強く光り輝いた。
「……!?」
 その光はあまりにも強烈で、眼を開ける事は出来ない。強く眼を瞑り、手で瞼を隠して――音と肌を頼りに何が起きているのかを彼等は探るが、異変は感じ取れない。
 不安が胸を満たす。
 大魔女を倒し、全てが終わる。そんな簡単な話では無かったのか――。
 早まる鼓動。光が収まったのを感じ、瞼を開けると瞳に映る何度も見た事のある存在。
「……エリクシル」
 助け起こすルィンの手に触れる、ゼルディアの口から零れたとおり。彼等の目の前にいるのは、巨大なエリクシルだった。大魔女とは比べ物にならないほど、巨大なその存在。そしてその前には、先ほど見た『大魔女スリーピング・ビーティ』の死体が集結していた。
 50を超える屍――それが一気に、エリクシルへと飲み込まれていくのを。ただ彼等は眺める事しか出来ない。何が起こるのかと、予測出来ない事態に冷や汗が伝う。
 どくん。エリクシルが脈動を始める。
 じわり、じわり――脈動に合わせ、変化していくエリクシルの姿。波打つ白髪に透けるように白く長い肢体、花弁のように紅い唇――。
「魔女……」
 何に変化したのか、気付き言葉を零したのは誰だったのか。
 けれどまだ終わりでは無いと。悟ったのは全員だろう。



マスター:公塚杏 紹介ページ
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いまいち
参加者:7人
作成日:2015/03/20
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