ステータス画面

大魔女決戦:棘の冠

<オープニング>

●棘の冠
 生きとし生けるものすべての敵、大魔女スリーピング・ビューティ。
 その名をそっと口にして、月喰いデモニスタ・ワールドエンド(cn0190)はまっすぐに前を見つめた。
「……五将軍も、六勇者も、その配下も……もう、大魔女の手駒にはいないんだね」
 六つの鍵により開かれた大魔女の城の扉から、エンドブレイカー達は矜持と武器を手に意気揚々と攻め込んだ。大魔女を倒す、そのひとつの意思を持った集合体のような仲間達を見回してから、ワールドエンドもまた自らの武器を見つめた。
「僕には、大魔女にも、真実の終焉が要るんだって、そう思う」
 エンドブレイカー達が城に踏み込み、警戒を怠らず歩を進めているそのとき、それは起こった。
 響き渡るのは高らかな哄笑。
 それが誰が上げるものであるのかを、知らぬ者はここには居ない。
「大魔女……!」
 エンドブレイカー達が口々にそう漏らす。
 一頻りの哄笑が止むと、その声は歌うように語り始める。
「数万年に渡り準備してきた全てが、私の手から溢れ、露と消え去った」
 なめらかな女の声だった。
 それは一人きりで紡ぐ言葉ではなく、明らかに城に踏み込んだエンドブレイカー達に向け放たれた、毒ある言の葉。
「五将軍、六勇者、マスカレイド……。どれ一つとっても、世界を手にするに十分な力であったというのに」
 ワールドエンドは響き渡るその声を耳に、仲間達に並び、武器を構えて周囲に視線を走らせる。
「だが、私は諦める事は無い」
「……こういうのを往生際が悪いって言うんだろうね」
 ふ、と緊張を自ら和らげるように口元に不敵な笑みを作ってみせて、ワールドエンドは大魔女の言葉に、届かずとも自分なりの答えを口にする。
「かつて、私は世界の全てを敵として、私一人の力のみで戦いを挑んだのだ」
 大魔女は語る。
「ならば、最後に頼るのは私の力のみ」
 その言葉は虚ろな自信に満ちていた。ワールドエンドは一瞬口元をきゅっと結び、銀色の瞳を寂しげに細めた。
「棘の冠を被って、孤独な玉座に座って、……大魔女が本当に欲しかったものは、なんなんだろう?」
 それすら、彼女は見失っているんじゃないかな――。ワールドエンドはぽつりとそう漏らした。
 ――生きとし生けるものすべての敵、大魔女スリーピング・ビューティ。
 そう表現するに相応しい、仇敵。それでも小さな情報屋は、悲しみと哀れみを込めた声で自分なりの考えを呟いた。似通う思いを胸にしたエンドブレイカー達も、いたかもしれない。
 それぞれの考えや言葉を胸に、時には声として放ち、大魔女の気配を探るエンドブレイカー達に、再び大魔女の声が届く。
「お前たちまとめて、全て私が相手にしてくれよう」
 木霊する大魔女の声は、告げる。
「遺失魔術『ギガンティア』。咲き誇る薔薇の花弁の如く、我が力は幾重にも重なりあう……。そして、全ての敵を葬り去る力を……」
 それきり、声はぱたりと止んだ。
 ――遺失魔術『ギガンティア』。
 大魔女の声はそう言った。果たして大魔女の告げたそれは何であるのか――エンドブレイカー達は、最大限の警戒を行いながら城の奥へ、奥へと進んだ。
 そして、大魔女はその姿を終ぞ現す。
「大魔女への一番槍、いただきっ!」
 先頭のエンドブレイカー達数名がそう声を上げ、突撃する。
 他のエンドブレイカーもまたそれに続こうとしたその瞬間、ふわりと別の方向に現れる影があった。
 その影もまた、大魔女スリーピング・ビューティ。
「先ほどの大魔女は幻術か?」
 ならば、と告げてエンドブレイカー達は攻撃を仕掛けてゆく。――だが。
 スリーピング・ビューティは次々に現れた。影ではなく実体を持つそれらは続々と増え、多重攻撃をエンドブレイカー達に向け容赦なく放つ。
「どれが本物なんだ?」
 困惑するエンドブレイカー達に、『それ』らは――大魔女達は声を揃えて答えた。
「私達全員が、大魔女スリーピング・ビューティ本人なのだ」
 わん、と高い天井にその声が響く。
「これこそ、最大最古の遺失魔術『ギガンティア』なり」
「……簡単には倒れてくれそうにないね。でも……!」
 その圧倒的な存在感に気圧されそうになりながらも、ワールドエンドは爪を構える。
「僕らはいつだって、薄氷の戦いを乗り越えてきた。理不尽な終わりを、終焉を、いくつだって壊してきた!」
 だから、と小さな情報屋は周囲の仲間達に呼びかける。
「大魔女に、終わりを届けよう。――行こう、皆!」
 そうして舞台は整った。
 大魔女スリーピング・ビューティと、エンドブレイカーの決戦の幕が、今、切って落とされる。


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参加者
竜の掌握・フリオ(c01043)
野生の戦士・マークス(c03816)
凶夢の悪魔憑き・ロイ(c22673)
境界の護り人・ガーランド(c26922)
棘喰・ガーラルド(c29038)
夜機巧少女・ルミティア(c30986)
久遠の残照・ロレンツォ(c31495)

NPC:月喰いデモニスタ・ワールドエンド(cn0190)

<リプレイ>


 とつり、というその足音すら立てずに、棘喰・ガーラルド(c29038)は大魔女の懐へといの一番に飛び込んだ。
「さあ、終焉の終焉を導く闘いを、はじめようか」
 滑らかな動きで、幾つもの仮面を宿す大魔女の肉塊のような胎に、ガーラルドはそっと触れる。棘の絡まる指先は、確かに大魔女に触れていた。しかし大魔女はぴくりとも表情を動かさず、その白い片腕を前へと伸ばす。
 瞬間、空中で魔力が渦巻くのをエンドブレイカー達は感じ取る。
「来るぞ!」
 凶夢の悪魔憑き・ロイ(c22673)が声を張った。そして空中に生まれ出でたのは炎の塊。それはまるでエンドブレイカー達の力量を測るかのように、空中から流星の如く降り注ぐ。
「危ねえ!」
「う、わっ!」
 無数に降り注ぐ炎の塊が月喰いデモニスタ・ワールドエンド(cn0190)に直撃しそうになるのを見て取って、野生の戦士・マークス(c03816)が反射的に動く。半ば突き飛ばすようにワールドエンドを庇い、マークスは赤茶の瞳を大魔女へと向けた。
「オレ達は絶対に勝つ。若津姫、イヴ、六勇者……他にも今まで出会った多くの人達の想いを背負ってここに来てるんだ。一人で戦ってるテメェには、負けない!」
「ああ、その通りだ。滅びの終焉なんざぶっ潰す!」
 炎の掠った肌から滲む血を拭って、竜の掌握・フリオ(c01043)もまた、気炎を上げるように言葉を放つ。
「悲しい事も辛い事も楽しい事も嬉しい事も。数えきれねえ位の経験を積み重ねてきた。理不尽な終焉に囚われた人達を救いたくて戦った! それも全部、皆と過ごしていく日々を護りたかったからだ。……アンタは何で魔女になった? たった一人で。スゲェ長い時間をかけて。何を成し遂げたかったんだよ。その先の未来に何を描いてた? 世界の全てを敵にしなけりゃならねえ程の事だったのか?」
 フリオの言葉に、大魔女は口の端をほんの僅かに吊り上げた。
 それは嘲笑。
「世界を手にすることを諦めない。……なるほど、奇遇だな」
 境界の護り人・ガーランド(c26922)はその笑みを見て尚、不適に笑う。
「俺達も諦めることなく歩み続けてここまで来た」
 それに、と続く言葉の中には、不安の色など幾ら探しても、決して見つからないことだろう。
「やはり獲物は大きい方が挑みがいがあるというものだ。狩猟者の誇り、見せてやろう。――行くぞ、ツェリスカ!」
 高い指笛の音が響いたその瞬間に、ガーランドの傍らに寄り添うはドラゴンスピリット。気高い咆哮が高い天井に反響する。
「――大魔女スリーピング・ビューティ」
 メイガスの中から夜機巧少女・ルミティア(c30986)は真っ直ぐに大魔女を見据え、その間合いに一瞬にして踏み込んだ。
「貴方は人の絶望を糧に生きる魔女なのかしら? だから今まで何度も何度も、ルミ達に絶望のエンディングを見せつけてくれたのよね? 貴方の望む世界には、私達にとって絶望しか無い世界なのだと、事あるごとに誇示してくれたのよね?」
 繰り出すのはリミッターの解除された重い一撃。しかしその攻撃すら何事もなかったかのように、大魔女は仮面の下の表情を嘲笑に歪めた。
「そしていつか何処かで私達は絶望に押しつぶされる、取るに足らない連中だと貴方はどこかで思ってたのね?」
 全くもってお笑い種だわ――。ルミティアは反撃を警戒し、飛び退きながらも続ける。
「その結果がこのザマよ? 貴方絶望のことを何も解ってない。希望と絶望はコインの裏表のようなものなのよ? 貴方が絶望を見せる度、私達は乗り越えた、打ち砕いた」
 それ故に。
「絶望は裏返り、希望に変わった」
「だからオレ達は、今、ここに居る!」
 ルミティアの言葉の流れをそのままに、久遠の残照・ロレンツォ(c31495)が声を張る。
「どんなにお前がこの世界を嫌おうが、憎もうが、オレはこの世界が大好きだし、ここで生きていたいんだよ。……たとえお前が何度世界をやり直したって、絶対ワルドを見つけ出して、また好きになる自信はあるけど、折角、想いが通じたってのに、お前の我侭なんかで、この幸せを壊されてたまるか!」
「……レンツ」
 堂々と言い放たれたロレンツォの惚気に、ワールドエンドは幽かに笑った。
 だが。
「『ならば、その幸せとやらを私は壊そう』」
 歌うような響くような、大魔女の声色が向けられた先はワールドエンド。声が放たれたその瞬間、身を劈くのは想像を絶する痛みだった。あまりの激痛に声すら発せず片膝をついたワールドエンドに向けて、その名を呼ぶロレンツォの声と共に、後方から投げかけられる声があった。
「ここに来るまで数えきれない絶望を打ち砕いてきましたわ。なのに何故あの魔女の言葉に膝をつかねばならないのです、ワールドエンド様? 筋が通らないでしょう」
 フィアレナ(c23015)が喚ぶのは星霊スピカ。痛みに埋もれかかった小さな情報屋の意識をこの場へと引き戻し、フィアレナは凛と声を張る。
「立ちなさい! 今私達は、世界を背負って戦っている!」
「……っ、ほ、んのちょっとだけ、休んでただけだし。これくらい……っ平気に、決まってるッ!」
 残る痛みを堪えながら口元に強がりの笑みを乗せて、ワールドエンドもまた攻撃に転じる。その身を、宿す『夜』へと変えて大魔女を覆えば、その攻撃を援護するようにエリーザベト(c20451)が後方から歌声を響かせる。
「今は、今のわたくしにできることを。進み続けること……それが、わたくしたちの力!」
 痛みを浚ってゆく援護に次いで、ナハト(c00101)もまた使い慣れたうちわを翻す。
「負けてらんない! 皆、回復はおれに任せろ! だから今は、全力でぶつかるんだ!」
「いはやは、これは期待以上に……助かるね」
 ナハトの声にガーラルドはふと言葉を漏らす。
 戦いはまだ、始まったばかりだった。


 其処此処から聞こえてくる戦いの音を耳にしながら、マークスは原初の獣へとその身を変化させる。マークスの攻撃を援護するようにロイがその身を『夜』に溶かす。攻撃にのみ集中していたロイに向け、再び大魔女は力ある言葉を放った。
「『お前たちは此処で死ぬ』」
 だが。
「それが定められた終焉ってやつか?」
 人の姿に戻ったロイは、瞳を真っ直ぐに大魔女に向け、真っ向からその言葉を跳ね返す。
「いくら絶望を説かれようが、終焉を終焉させるオレ達にそんな言葉が通じるとでも? 今まで散々あんたの目論見を潰してきたのに、まだ分からないのかな」
「そうさ。たとえオレ達が死んでも、意思は仲間が受け継いでくれる! だからオレ達人間は仲間がいるだけで、最後まで未来を信じて戦い続けられる!」
 ロイとマークスの言葉に、大魔女がほんの僅かに苛立ったような表情を見せたようにも思えた。
「残念だったね。君が僕達に与えようとしている絶望は、とっくに乗り越えてきたよ。さっきは森の中での予行練習、ありがとう。あんなものでは僕達の心を折る事なんてできないよ。……君は少し眠りすぎたね、よく覚えておくといい。僕達は絶望を打ち砕く者。君のどんな言葉も、僕達を砕く事はできない」
 城の床に杖の先端をこつりと突いて、ガーラルドは棘を放つ。
「遺失魔術『パワーワードキル』ね。ルミも使えるのよ?」
 メイガスの中で、口元に笑みを浮かべたルミティアは言った。
「……さぁ、お前が何度絶望を見せたか数えろ。何度その絶望を打ち砕かれたか数えろ」
 ルミティアが『夜』に心と身を任せ、浮かべるのは狂笑。
 その身に宿す『夜』と共に嘲笑い、ルミティアは告げる。
「『今まで絶望をありがとう』。……そっくり希望で返してやる、押し潰されて死ぬがいいわ」
「それじゃあボクは、その希望の助力になるとしよう」
 ヴィル(c27184)がルミティアと共に飛び出した次の瞬間には、光の輝きが大魔女の胎を貫く。エリーザベト(c22117)もまた野太刀を抜き放ち攻撃の態勢を整える。
「冒険ついでの寄り道も、ここで終わり。私もジニー達も手を貸してあげるんだからさ、……勝たなきゃダメだかんね」
「そうよ、お姉ちゃん達は――ううん、ここに居る皆は、貴女なんかに絶対負けないッ!」
 ジニー(c27183)もまた声を張り敵前へと飛び込んだ。裁きの光が一瞬強く輝き、放たれた斬激が光の筋となって僅かに残る。
 その一閃が消えぬうちに、サリー(c34219)もまたメイガスを操りながら声を上げた。
「世界をやり直す? ……過去を取り返す? 大魔女! キミの言うことは全く訳が分からないよ!」
 装甲の中から邪眼を放ったサリーの言葉を耳にして、大魔女の懐に再び肉薄したフリオが言葉を漏らす。
「アンタがどんな思いを抱き、世界の全てを敵にする道を選んだのかは知らねえ。だがな、絶対に譲らねえぜ!」
 肉体の限界を超えたフリオの拳から、足から放たれるのは、竜の気を宿す奥義の数々。爆発的な瞬間火力に、大魔女の動きが一瞬止まる。
 だが。
 ふわりと大魔女を包む魔力の渦があった。
 それに気付いた者が動くより先、瞬く間に、確かに今し方大魔女に与えた傷が『なかったこと』にされたのが解った。
「これが、遺失魔術……!」
 ワールドエンドの呟きに、ミラーネ(c23762)はちらとそちらを見やる。
「ワールドエンド。ボク達はいつだって絶望に晒されて、そしてそれを打ち砕いてきた。忘れちゃ無いだろうね? 今度も同じだ」
 引き絞った弓から無数の矢を一斉に放ち、ミラーネは大魔女を見据えた。
「諦めることなど、倒れることなど、けしてあってはいけません」
 桃色の髪を魔力の揺らぎにはためかせながら、マルガリータ(c21769)もまた言った。赤い宝石飾りのついた魔鍵を掲げ、開くのは楽園の門。
「ぜったいに、あきらめない。ぜんぶ、ちからにかえてきたの」
 人形のようだった少女は、過去のマシェリ(c32443)は、もういない。
「ひとには、そのちからがあるの」
 凛と響くその言葉は、人間が放つからこそ強く響く、確かな意思の音色だった。


 攻撃と攻撃の応酬は続いていた。
 辛いことがなかったわけじゃない、とロレンツォは爪を振るいながら思う。死にたくなるような絶望すらも味わった。けれども。
(「今、オレは生きてる」)
 それが何故かを、ロレンツォは知っている。
 明けぬ夜はないのだと、ひとりではないのだと――希望を、光を知ったからこそ生きているのだと、そう、知っている。
 意思を宿した瞳を大魔女に向ければ、煩い虫を払うかのように、大魔女はその手先を一振りした。
 それに呼応して降り注ぐのは、幾度も目にした流星が如くの炎の塊。攻撃に集中していたが故に避け切れずに肌を焼かれ、ロレンツォは思わずその傷を押さえる。
「レンツ!」
「ワルド、大丈夫。――きみのこと愛してるから、絶対死なない。死んでも死なない!」
 声を上げたワールドエンドに当たり前のことを伝えるようにそう言って、ロレンツォは再び爪を構えて大魔女に向けて猛進する。
 傷を受けていたのはロレンツォだけではなく、ガーランドとて同じこと。だが、受けた傷には目もくれず、ガーランドは大魔女に向けて紫煙銃の攻撃を炸裂させる。
(「常に前を見て、顔を上げろ。視線を下げれば心も折れる、恥じ入ることなど何一つない。俺は俺の行動すべてに誇りと矜持を持って生きてきた。今までも、これからも」)
 見据えた大魔女の胎の中、うっすらと透けて見える仮面は歪に嗤っている。
「……この戦場のどこかで」
 決して大きくはない声で漏らしたガーランドの言葉に、大魔女の視線が僅かに動く。
「可愛い弟分達も命を懸けている。我侭で、泣き虫で。意地っ張りで強がりばかりする子達だ。だから『おにーちゃん』が倒れるわけにいかないだろう?」
 それに、とガーランドは続けた。
「何より大事な人も、この城のどこかで戦っている。――男だからな、いいところを見せたいんだ。……お前に愛や恋がわかるかは知らんがな」
 この言葉を受け取った側が普通の人間だったならば、返る応えは別だったかもしれない。だが大魔女は波打つような白髪を後ろに払って、再び攻撃の態勢を取るだけだった。
「アンタにはアンタの信念があるんだろうよ。……だがそれもここまでだ。今ここで決着をつけようぜ、大魔女さんよ!」
 幾度も受けた遺失魔術による攻撃に、肌は服ごと焼かれ、フリオの見目は満身創痍といったところだ。だがそれでも、フリオの鋭い眼光は初めと何一つとして変わらない。
「命を懸けて戦った勇者達が繋いでくれた未来への希望、無駄にはしねえッ!」
 敵ののどぶえ目掛けて放たれたのは竜の弾丸。
 フリオの放ったその攻撃と共に、再びガーラルドが大魔女との間合いを詰める。後方から回復に徹してくれている息子や同志達を肩越しにちらと振り返り薄く笑むと、ガーラルドは再び大魔女の胎へと触れた。
 びくん、と仮面を孕む肉の塊が震えるのが解った。
「おや」
 ガーラルドの冷徹な観察者の目が、僅かに眇められる。
「聞かせてよ。それで君は、一体何をしたいのかな? ――おっと、聞いてもわからないから教えない、なんていうのは無しだよ?」
 ガーラルドの問いに戻る大魔女の答えはない。
 それに代わるように、ロイが口を開いた。
「……やり直したいことはないわけじゃないが、今大切だと思うものを手放してまで望むものでもないな。やり直した先でもそれが手に入るとは限らないし」
 影よりも濃い『夜』と化して、ロイは大魔女を一瞬にして夜闇で覆う。夜闇と化したロイを振り払った大魔女に向けて、うまく着地したロイは続けて言葉を口にする。
「あんたは困った存在だが、一つだけ感謝してるんだ。……エンドブレイカーのこの力は、多分あんたに対抗するために生まれた力だろう。この力があってこそオレが大切に思う縁が出来たんでね。それだけは本当に感謝してる」
 だから、とロイは続けた。
「お礼にあんたを、一人世界と戦う日々から解放してやるよ」
 ロイがそう言葉を結ぶよりも先に、ルミティアが一息に大魔女との距離を詰める。ルミティア自ら改造を施したバトルガントレットから放たれる一撃が、大魔女の胎に沈んだ。
「言ったでしょ? 今までの絶望、全部まるごと、希望にしてお返しするわ」
 爛々と目を光らせて、ルミティアは『夜』と共に嘲笑う。
 彼女と共に大魔女の懐に飛び込んだマークスもまた、怒涛の攻撃を仕掛けていた。魔獣化した腕が、大魔女の身体を切り裂く。
「これが希望を諦めない人間の力だ。思い知れ!」
 張り上げたマークスの声に応えるかのように、大魔女は三度、遺失魔術を行使する。だが、マークスは――否、その場に居た全てのエンドブレイカー達が怯むことは決してなかった。
 降り注ぐ火炎の塊を魔獣化した腕で砕き割り、マークスは飛び退いて追撃を避ける。
「これ以上お前にくれてやる命など、一つとしてない!」
 ツェリスカと呼ばれたガーランドのドラゴンスピリットが火炎の息吹を大魔女に向けて放つ。
 その炎を加護とするかのように飛び込んだフリオは、己を竜そのものと化して、全身全霊をかけたその拳を大魔女へと叩き込んだ。
 それが、最後の一撃となった。


 響き渡る断末魔は、この世への怨嗟に溢れていた。――その叫びが木霊すると共に、大魔女の身体は質量を感じさせる闇のようなものへと変質していった。
 人の形から崩れ、溶けていった大魔女の身体は、影の如く城の床へと染み込んでゆく。大魔女であったその影は、何かに吸い寄せられるかのように、城の奥へと急速に移動を開始した。
「……! 追いましょう!」
 ガーランドの言葉に、弾かれたようにその場のエンドブレイカー達は影を追って走り出す。
 奥へ、奥へ。
 床を舐めるように滑ってゆく大魔女であった影は、ひたすらに城の奥を目指していた。駆ける足音は徐々に増えていった。――他の分裂体である大魔女を倒した仲間達が、次々に合流を果たしているのが解った。
 そして。
「これは……」
 誰からともなく呟きが漏れる。
 そこは大魔女の城の最奥。
「大魔女の……玉座……?」
 ワールドエンドは呟いて、奥にそびえる巨大な玉座をその瞳に映した。
 そこにあったのはそれだけではない。
 数えれば五十は超えるだろうか、致命傷を負った大魔女『達』は玉座の前に倒れていた。全てが実体であると大魔女は言った。――それが真実であったのだろうことは、全ての大魔女に刻まれた傷が物語っていた。
「このうちのどれか一体でも、オレ達に勝っていたら……まだ、息があったかもしれないってことかな」
「なるほど、そうかもしれないね。……しかし僕達は勝った。全ての『本体』を倒されてしまえば、生き残る術などなかった。そういうことなんだろう」
 ロイの言葉にガーラルドが頷く。
 大魔女は死んだ。
 その事実を、真実を目に焼き付けていた彼らの耳に、どこか不快な音が響いた。それは何かが崩れていく音に他なからなかった。
「まずい……城が崩れるぞ!」
 誰からともなく、そんな声が上がった。
 大魔女と戦い、そして勝利したエンドブレイカー達は一斉に脱出を開始する。城からの脱出は容易かった。孤独に棘の冠を被り、玉座に座していた大魔女やその配下達は最早亡きものであったからだ。
 脱出を終え、城から距離を取ったエンドブレイカー達の目には、崩れ行く城が映っていた。これで終わったのだと、誰かが言った。喜びに溢れた声がいくつか跳ねるのも、誰かの耳に届いていた。
 ――だが。
 大魔女の城が存在した空間が、正しくそのとき歪んだのを、エンドブレイカー達は見た。
 滴り落ちて時間が経った血の色。
 赤黒い、そんな色を持つ巨大な『腕』が、その空間を引き裂くのを、誰もがその瞳に映していた。
 そして中空に出来た裂け目から現れたのは、巨大なエリクシルそのもの。あれは、と声が上がるより先に、エリクシルは恐ろしさを覚えるほどに強く光り輝いた。それは、誰もが思わず目を瞑るほどの光。
 再びエンドブレイカー達が目を開いたそのときには、エリクシルの前には大魔女の死体が浮かんでいた。そしてエリクシルは、無数の大魔女の死体を、その輝きの中に飲み込んでゆく。
 例えばそれは、母なるものの中に命が宿るように。
 エリクシルは脈動を始める。
 ゆっくりと、しかし確実に、巨大なエリクシルは『大魔女スリーピング・ビューティ』の姿へと――変化しつつあった。



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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:7人
作成日:2015/03/20
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