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森梟のつまみぐい屋さん

<オープニング>

●森梟のつまみぐい屋さん
 金色のきらきら蜂蜜をそそぐような夕陽のひかりが、森の梢の合間からいくつも射し込めてくる春のはじめの黄昏のこと。立派なブナの樹の枝で春の夕陽の日光浴と洒落こんでいた森梟のクリッタのもとへ、灰色リスのプップが息を切らしてとんできました。
「ビッグニュースだよクリッタ! 時の栞の街のアガーテおばさんの店に素敵なマッシュルームがどっさり運び込まれていたんだ!」
「うーん。マッシュルームが素敵とかって、いんてりな僕にもよくわからないな」
「もう! キノコの美味しさがわからないなんて、君たち森梟はとってもじんせい損しているよ!」
 じんせい、つまり人生は、クリッタとプップが最近覚えたばかりのお気に入りの言葉です。
 時の栞フェルトフェルタの街で素敵な料理店をいとなむアガーテおばさんが作る、熱々でぷりぷりなマッシュルームのアヒージョ。それは、キノコ好きなプップにとって、じんせいをきらきら照らしてくれる一番星みたいなものでした。なのに森梟たちはキノコを食べないと言うのです。
「それじゃあクリッタ、これを聴いてもじっとしてられる? お店の前を通った人間がね、『おっ、今日のおすすめはオックステールの煮込みか』って言ってたよ!」
「えっ!」
 どきーん!!
 オックステール。それはクリッタの胸をとってもどきどきさせる魔法の言葉でした。
 ああ、オックステール!
 綺麗にカットされた円くて赤いお肉の真ん中に白い骨が輝く、素敵な牛の尻尾肉よ……!
 憧れのオックステールを想うといつもクリッタは、切なく心震わせる詩人のような気持ちになります。
 これはもう恋なのかもしれません。
「何してるのプップ! 早く行こうよ! オックステールをつまみぐいさせてもらわなくちゃ!!」
「待ってよクリッタ! もう、君たち飛べる鳥はほんと抜け駆けが上手なんだから!」
 音もなく翼を広げて羽ばたいたクリッタを慌ててプップが追いかけます。一羽と一匹は暖かな宵を迎えはじめた時の栞の街で、開いた窓からこっそりアガーテおばさんのお店の厨房へ忍び込み、忙しく働く人間たちの目を盗んで素敵なマッシュルームやオックステールのつまみぐいを楽しみました。
 海老の蜂蜜マリネ焼きに、焼きりんごの蜂蜜ブルーチーズ添えまで!
 けれど彼らは知らないのです。
 それは、つまみぐいの後でいつも飛びきり甘酸っぱい野苺をどっさり採ってきてこっそり置いていく一羽と一匹のために、お店の人たちが用意してくれているものだということを。
 彼らのために開けられた窓から一羽と一匹が忍び込み、つまみぐいをしているのを気づかないふりをしてくれているということを。
 何故お店の人たちが気づかないふりをしてくれるのかと言えば、答えはひとつ。
 つまみぐいは、誰にも気づかれないようこっそり食べるのが一番美味しいものだからです。

 それは紫煙群塔ラッドシティの農村地域をゆったり通る街道沿い、大きな森に寄り添うよう創られた時の栞フェルトフェルタの街で語られる、森梟クリッタの物語のひとかけら。
 けれど――街に寄り添う森で、仮面つきの大きな灰色リスの姿が目撃されたというのは、物語ではなく現実のおはなしなのです。

●さきぶれ
 ――ねえ、知ってる?
 春のはじめの黄昏から宵にかけて、時の栞フェルトフェルタの街の時計塔広場で森梟クリッタの物語みたいな『つまみぐい』を楽しめることを。時計塔広場に暖かな春色の布をかけたタープのお店がいっぱい並び、それぞれのテーブルに出されたアガーテおばさんのお店のそれみたいな料理の数々を『つまみぐい』して回れる、森梟のつまみぐい屋さんと呼ばれるお祭りがあることを。
 勿論それは、物語のとおりお店の人たちが気づかないふりをしてくれる『つまみぐい』なのだけど。

「海老の蜂蜜マリネ焼きに、焼きりんごの蜂蜜ブルーチーズ添え……!」
 アンジュ、恋に落ちちゃったみたいなんだよ……!
 胸を押さえつつそんなことを言いだした雁渡の狩猟者・アンジュ(cn0037)は、その恋路に水を差す仮面の説明を始めた。要するに、時の栞フェルトフェルタと呼ばれる街近くの森で、大きな灰色リスのマスカレイドが目撃されたというのだ。
「大型犬くらいおっきな灰色リスのマスカレイドだったって話なんだけど、ブナの大樹の洞ですぴすぴ眠ってたから目撃したひとは無事だったのね」
 冬眠していたのか、はたまた創世神の制約で悪さをできなくなったせいで不貞寝していたのかは謎だが、眠っているからと言って放置しておくわけにはいかない。
「ってなわけで! アンジュと一緒にこのおっきな灰色リスのマスカレイドを倒しにいこうよ!」
 眠っていたためどのような能力を使うのかは未知数だが、目撃者いわく。
『怪しげなキノコをいっぱい抱えてた! きっとあれを投げてくるんだ! そうとしか思えない!!』
 第一印象の直感はなかなか侮れないもの。多分当たっているだろう。
 ――という話はさて置いて。
「んでね、みんなと無事に倒せたらアンジュ『森梟のつまみぐい屋さん』を楽しみにいこうと思うの!」

 紅茶色の空から傾いた蜂蜜色の陽射しが射す、春のはじめの黄昏から宵にかけて。
 森梟の意匠のランプが街に蜜色のあかりを燈し始める頃合いに、時の栞フェルトフェルタの時計塔広場が暖かな活気と賑わいに溢れだす。
 幾つも並ぶ春色の布のタープをかけた店には飛びきり美味しい作りたての料理が並べられ、店の人たちが気づかぬうちにひょいっとつまみぐいすることができる。けれどそれは勿論、ルールつきのつまみぐい。
「森梟のつまみぐい屋さんを楽しむひとは、最初にバゲットを一本買わなきゃいけないのね」
 そのバゲットはお洒落なランチを楽しめるくらいのお値段がするもの。
 バゲットだと思うと高いけど、好きな厚さに切って貰ったバゲットで美味しい料理をひょいっと掬ってつまみぐい――というのを、バゲットがなくなるまで好きなだけ楽しめるとなればいい感じ。
 熱々の香ばしい大蒜の香りが食欲をそそるマッシュルームのアヒージョに、完熟トマトと白ワインとサフランでじっくり煮込まれ、ほろりと肉が崩れるオックステール。熱い蜂蜜とバルサミコの香りがたまらない海老の蜂蜜マリネ焼きに、甘酸っぱさが際立つ焼きりんごにブルーチーズの風味と蜂蜜の甘さが蕩ける焼きりんごの蜂蜜ブルーチーズ添え。
 森梟クリッタの物語に出てくるそれらの料理は勿論、採れたてのアスパラガスと薔薇色の生ハムにとろとろの卵が絡む春のオムレツに、濃厚なカシスジャムを添えた鶏レバーのリエットや、切り口からスモークサーモンやクリームチーズにアボカドムースが蕩けてくるクレープミルフィーユなど、この宵の時計塔広場はつまみぐいせずにはいられない料理でいっぱいだという話。
 食べ歩きするのも楽しいし、ひょいっと料理を乗せたバゲットをバスケットに仕舞い、熱々のうちに宿やおうちへ持ち帰ってゆっくり食べるのもこのお祭りの楽しみだ。
 みんなもどう? と誘いを向けて、暁色の娘が楽しげに笑みを燈す。
「あのね、いっぱいつまみぐいを楽しめたなら、また逢おうね」

 世界が大きく動くさなかの、暖かでささやかな楽しいひとときに栞を挟み――きっと、また。


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参加者
戯咲歌・ハルネス(c02136)
翡翠四葉・シャルティナ(c05667)
霧氷の蒼剣士・ポウ(c07468)
勿忘草の森梟・ヴリーズィ(c10269)
空とビブリア・ルカノス(c26263)
十花百花・アカツキ(c35480)
金の憧憬・ラウンド(c35833)

NPC:森梟の狩猟者・アンジュ(cn0037)

<リプレイ>

●森梟達のネコミミ大作戦!
 時の栞フェルトフェルタの街に寄り添う大きな森には、ぽかぽかと気持ちのいい春の陽射しが降りそそいでいました。大きなブナの樹のうろですぴすぴ寝息をたてている大きな灰色リスも、この上なく平和で気持ち良さそうに眠っています。
 けれど、ぎゅっと抱えている怪しげなキノコとくるりんふさふさなリス尻尾についた仮面が、この森と街の平和を乱す証です。
「ネコミ……ミ? を襲うのは可哀想ですが、目的のためにはシュダンは選ばないのです!」
「そのとおり! ネコミミを襲ってぐるっと包囲は戦いの基本だよっ!」
 ころりん四葉の森梟がどんぐりの杖をきりりと構え、眉が凛々しい森梟もくわっと嘴を開けました。
 ネコミミを襲う――それはどうやら、『獲物が眠っているスキに攻撃をしかける』ことを意味する専門用語みたいです。リスミミじゃないの的なツッコミは野暮かなと空気を読んで、図書館生まれの森梟もすちゃっとフラスコを構えました。
 鶏レバーのリエットに、焼きりんごの蜂蜜ブルーチーズ添え……!
 新緑の森梟の心は早くも街でのつまみぐいに飛んでいます。素敵なつまみぐいに恋をしてしまった若梟の情熱はもう誰にもとめられません。
「というわけで、恋敵さんにはお引き取り願いましょうってね!」
 翠菊咲く氷剣がきらりんと光った瞬間、恋路を邪魔する仮面のリスに叩き込まれる雪の嵐! 輝く吹雪に続いて真っ赤に燃え盛るドラゴンの炎にどっかんと爆発する火の玉、ばちこーんと尻尾をぶち切らんばかりのサソリの鋏が襲いかかっては、
『ぷひゅ! むっきゅー!!??』
 もちろん灰色リスも眠ってなどいられません。
「悔しかったらここまでおいで!」
 ダメ押し! とばかりにドゴォンとブナの樹のうろへ突っ込まれた世界樹の魂!
 蜂蜜みたいに甘い歌声でさえずる勿忘草の森梟の誘いが灰色リスにも通じたのかはわかりませんが、勢いよく飛び出してきた灰色リスを木洩れ日色の森梟と暁月夜の森梟が迎え撃ちます。
「けしからんリスめ! そのしゅるんとした毛並みもけしからん……って、燃えてるし!!」
 ああ、どさくさ紛れに滑らかすべすべなリス毛皮にすりすりするという野望が!
 切なさを感じつつ、それでも木洩れ日色の森梟は一角獣の氷剣で思いっきりリスを串刺しに。炎に包まれた毛皮の感触は思っていたのとはちょっと違いましたが、この炎はキノコの絨毯爆撃を封じてくれるはず。
「最初に断っておくけれど、私はキノコのエキスパートにしてキノコ品評のプロだよ?」
 嘴にくわえていた紫煙樹の苗木をリスへとぶっさした暁月夜の森梟は、灰色リスの真正面で眼鏡をクイクイして見せました。
「さあ、自慢のキノコを私に投げてみなさい! キノコ愛に言葉は不要!!」
『ふきゅっ!?』
 たちまち大樹に育つ紫煙樹! それすら凌ぐ迫力でぐいぐいリスに迫る暁月夜の森梟!
「さあ、そのキノコの全てを私にぶつけるといい! さあ、さあっ……! おぶぁっ!!」
 ばっふーん! ぼばばばばんっ!!
 キノコ愛、炸裂!!
「んもう! ハルネスさんてばキノコ好きすぎるんだよ!!」
「つまり彼とリスは身を以てキノコの素晴らしさを教えてくれてるわけだね……!!」
 迫力負けしたリスがぶん投げたキノコから煙が溢れた途端の大爆発。彼がキノコ攻撃をひとりじめもとい一身に引き受けている間にばっちり包囲も完了です。あんまりキノコを食べない僕はやっぱりじんせい損しているのかな、なんて思いつつ、図書館生まれの森梟も再びサソリをぶん投げました。
 この身でキノコの素晴らしさを感じる――という試練はどうやらおあずけのようです。
 炎や氷でキノコ攻撃のキレを鈍らされ、逃げ道も失った灰色リスは最早ジリ貧、
「アンジュさん! だぶるがぶがぶあたっくしようですよ〜♪」
「きゃー待ってましたシャルティナちゃん! がぶがぶ行くよ! 行くよ!」
 けれど、自然に生きる森梟は非情なのですよ! ところりん四葉の森梟は凛々しく星霊ジェナスを召喚、怒涛の津波がざっぱーんと灰色リスに押し寄せると同時に、上から鮫の星霊が、横合いから暁星の森梟を乗せた金の恐竜が、だぶるがぶがぶあたっくを炸裂させます。
「それならアカツキさんも! 悪いリスさんを食べちゃうぞお!」
『むきゅー!?』
 思いきり翻せば眉が凛々しい森梟の翼は大きな魔獣の手に変わって、がぶっと食べちゃう勢いで灰色リスを鷲掴み。ぎゅうっと握った手の中から怪しいキノコが飛び出しましたが、それらも愛ゆえにぐいぐい前に出る暁月夜の森梟の胸元でばっふーんと炸裂します。
「怪我のせいでつまみぐいを楽しめないなんて、そんな悲劇は――なさそうだねっ!?」
「ふふふ、はんさむ・はるねす・たふねすとは私のことだからね!」
 仲間がピンチの時には水晶結界で護らなきゃ、と新緑の森梟は気をつけていましたが、キノコ愛も体力も充実しまくりな暁月夜の森梟はまだまだ余裕みたいです。ならば攻撃あるのみ!
 春の陽に煌きながら降りそそぐ氷柱の雨の中からぐんぐん育つ紫煙樹を見て、木洩れ日色の森梟は木漏れ日みたいにきらきら舞う妖精を呼び寄せました。
「ただ倒すよりは樹にしてやりたいな」
「あ、それいいかも。手伝うよ!」
 戦いが終わった後には森の梢がリスに子守唄を歌ってくれるといいな、なんて思っていた勿忘草の森梟が彼の隣にふわりと舞い降ります。翼みたいに扇を広げれば春薔薇が咲いて、春風みたいに翔けた彼女が追い風も呼んだなら、暖かな風にふわっと羽毛を膨らませた木洩れ日色の森梟が、豊かな豊かな、世界樹のいのちの力で灰色リスを包み込みました。
 春の森に新しい樹が生まれます。
 暖かな風に優しく梢が歌う樹の中で、仮面の気配も消えました。
 この樹もいつか花を咲かせ、森の人気者になるだろうと、木洩れ日色の森梟は瞳を細めます。
「……キノコは生えませんように」
「えっ」
 仲間の誰かが残念そうな声をあげた気がしましたが、それはきっと、春の幻だったのでしょう。

 こうして、森梟達のネコミミ大作戦によって、時の栞の街と森の平和は護られました。
 けれど、彼らがほんとうは森梟ではなく、エンドブレイカーだということは――いわゆる公然の秘密というやつなのです。

●森梟のつまみぐい屋さん
 紅茶色の空の彼方から届く蜂蜜色の陽射しに、燈り始めた森梟の意匠のランプ。暖かなあかりに春色タープの波踊る、時の栞フェルトフェルタの時計塔広場には美味しそうな料理の匂いが溢れるけれど、まずは焼き立てバゲットの香ばしさから!
「何せ暁月夜の森梟は欲張りで食いしん坊だからね!」
「わあ、すごいのですよハルネスさん〜!」
 暁月夜の瞳を楽しげに煌かせた戯咲歌・ハルネス(c02136)の腕にはつまみぐい用、お裾分け用にお持ち帰り用の計三本。お年玉の残りをどきどき数えていた翡翠四葉・シャルティナ(c05667)も、
「私もハーフサイズなら買えたのですよ〜♪」
「はいシャルティナ、お裾分け」
「俺のもどうぞ。礼には及ばない。下心ありきだ」
 空とビブリア・ルカノス(c26263)からの一切れと、霧氷の蒼剣士・ポウ(c07468)からの豪気な半分お裾分けであっと言う間にバゲット長者。ありがとうです! と輝くように咲いた笑顔も木洩れ日色の森梟にとっては御馳走だ。
 こっそり乗せたバゲットごとまぁるいコロッケ頬張れば、熱々とろとろ蟹クリームが溢れだす。
 弾むシャルティナの足取りはスキップに変わり、ころりん転ばぬよう気をつけ進めば、完熟トマトとサフランが夕陽みたいに蕩けるオックステールの前で十花百花・アカツキ(c35480)と瞳が合った。
 お互いそうっと唇に指をあて、お店のひとに見つかる前につまみぐい!
 熱々のお肉が口中でほろりと蕩けたら、
「……!!」
 いつも凛々しいアカツキの眉もほにゃりと下がり、熱いオリーブオイルと大蒜香るマッシュルームも頬張ればもう頬が緩んでとまらない。滑らかな鶏レバーのリエットと濃厚カシスのハーモニーに笑み崩れる金の憧憬・ラウンド(c35833)に一口頂戴とおねだりすれば、彼の新緑の瞳もますます緩む。
 つまみぐいって浪漫だよね、と内緒話めかして囁くラウンドの声音も飛びきり楽しげで、
「小さい頃、よく浪漫を求めては母さんに叱られたっけ」
「叱る親はいないけど、何だか子供に還った気がする……!」
 密やかに囁き合えば眼差し交わし、こっそり歩み寄る店先で春の彩溢れるクレープミルフィーユを一緒にひと掬いしては、吐息より甘く淡やかに笑み交わす。
 ――だってほら、つまみぐいはこっそりするものでしょ?
 恋焦がれているのはオックステールはずなのに、豚バラ肉の黒ビール煮なんて誰かの声を小耳に挟めば、数分後には黒ビールの風味と柔らかに蕩ける豚肉がルカノスの口の中。
「……この浮気者め!」
「あはは、今宵は浮気も許されますよ!」
 思わず自分でツッコミ入れた途端に差し出されたのは、夜色カシスジャム煌く鶏レバーのリエット。
 眩暈の尾・ラツ(c01725)の笑顔に釣られて破顔しお裾分けにあずかれば、図書館生まれの森梟の美味しいものリストもますます充実するばかり。
 再びさらっとリエットを掬いとるラツはまるで悪戯に栞を攫う森梟、一口サイズに切り分けたバゲット数個分のお裾分けをもらった森梟の狩猟者・アンジュ(cn0037)が振り返れば、
「きゃーリズちゃん何それ何それすごいー!」
「ふふふー。こういうの絶対あると思ったの!」
 勿忘草の森梟・ヴリーズィ(c10269)の手には、厚切りバゲットをくり抜いてたっぷりよそった若鶏と菜の花のコーンクリームシチュー。これはお持ち帰りしてチーズ乗せグラタンにする予定だから、
「はい、シャルティナにはこっちをお裾分け!」
「そっちも美味しそうだねー。俺のオススメも一切れどうぞ」
「どっちも美味しそうなのですよ〜♪」
 春緑のアスパラガスと薔薇色の生ハム覗くとろとろオムレツを差し出せば、ハルネスからは鶏肉とたっぷりキノコの旨味がクリームと融け合うブルーチーズソース煮がお披露目された。
 私のもどうぞです、と満面笑顔のシャルティナが春キャベツとぷりぷり帆立のマリネを皆にお裾分けしたなら、
「ちょっと待った! こっちにも飛びきりがあるよ!」
「みんなも食べてみてよ、美味しいよ!」
 柘榴と新緑の瞳を輝かせたアカツキとラウンドが駆けてきて、刻みエシャロットと赤ワインマスタードのソースで彩られた鴨肉のローストが仲間入り。
 ああ、なんて贅沢なつまみぐい!
「わたしこの街に住んでしばらく経つけど、食べ物が美味しいことも自慢のひとつだよね!」
「そうそう、このつまみぐい屋さんも素敵だし、それに秘密のトラットリアってのがあってね」
「ね、良かったら今度一緒しようよ! みんなには秘密だよ?」
 時の栞に住むヴリーズィやハルネスとアンジュの口から語られる我が街自慢。プラムの花咲く夜に屋根上で食べる秘密のパスタの話はシャルティナの胸をときめかせ、まだまだ美味しいものがあると聴けばラウンドとアカツキは好奇心いっぱいの眼差しを交わす。
「次はプラムワインで乾杯は如何でしょう、森梟さん?」
「勿論!」
 再びつまみぐいの浪漫を求めて、さあ往こう。
 春の暖かさと宵の涼しさ融け合う宵風流れれば、行き交うひとびとの表情もひときわ和らいでゆく。
 完熟トマトとサフランの風味蕩けるオックステールに奏燿花・ルィン(c01263)は相好を崩し、仄かにグレープフルーツ香る真鯛とバジルのカルパッチョが陽凰姫・ゼルディア(c07051)に笑み咲かせるけれど、深い赤紫に煌くグラスを合わせた音が、何より優しい幸せを二人の瞳に燈す。
 あの春プラムの花の中で交わした約束が、煌くワインになってグラスに満ちた。
「叶えてくれてありがとう。――大好き」
 一緒に呑みたかったのと囁く彼女に彼は、ずっと一緒にな、と囁き返す。
「愛してるんだ、ゼルディア」
 ――誰よりも。
 熱いオリーブや大蒜の香りと一緒にぷりっと弾けるマッシュルームに舌鼓を打ち、喉に落とすのは春の月あかりみたいな白のプラムワイン。ほんのり甘い微酔の熱が燈る頬を夜の香り混じりの風に撫でられたなら、ヴリーズィの胸にプラムの花咲く秘密の夜が甦った。
 夢に惹かれた月が降りてきた夜を、きっとずっと忘れない。
「……また一緒したいな」
 そっと囁き傾ける、甘く暈した春の月満ちる杯。
「アンジュさん! 甘いの交換こしようですよ〜♪」
「はーい! 春っぽいのあるよ! あるよ!」
 甘夏ジュレたっぷりのココナツブラマンジェと朝摘み苺の桜アイス添えを分け合う乙女達の笑顔もつまみぐいしつつ、ポウは海老の蜂蜜マリネ焼きに、焼きりんごの蜂蜜ブルーチーズ添えへと味覚で海から山をめぐる旅。
「ポウさんにも! お裾分けのお礼なのです!」
「お、ありがとな〜」
 満開に咲いた笑みでシャルティナがくれたブラマンジェを頬張って、アンジュにはプラムワインの杯を手渡した。杯を鳴らせば滴が弾け、甘酸っぱい酒香混じりの風が春宵を渡る。
 ――なぁ。
「大切に思うから手放すってのは、やっぱ、おかしいと思うか?」
 ふと言の葉を零せば、
「……巧く言えないけど、それってすごく、すごく……」
 切ないね。
 時に傷つけ合いながらも大切なひとと一緒に歩んで、ふたりでひとつの無上の幸せに手を伸ばした娘が少し寂しげに眉を下げた。
 忘れていいぜと明るく笑って、ほら、旦那さんが待ってると背を押してやる。
 おかえりと迎えてやれば、暁色の娘がいつもよりひときわぎゅうっとハルネスの片腕にくっついた。
 一緒に食べたいとねだられ、淡雪みたいなふわふわフロマージュかけたオレンジをこっそり掬って二人でつまみぐい。ほどけるように笑みが燈れば、目元を和ませ、柔く肩を抱き寄せてやった。
「ねぇ、アンジュ。おうちに帰ったら、今日の冒険をぷーちゃんとゆずひよこさんに語ろうね」
「語る……! ね、いつか生まれてくる子供にも一緒に話そうね」
 誰より傍で幸せ囁き合えば、彼女の笑顔が暁の星みたいにきらきら光る。
 一緒に語ろう、森梟になって悪い灰色リスをやっつけた話を。
 みんなとたくさんたくさん、つまみぐいをした話を。

 完熟トマトソース蕩ける中で、香ばしく焼きつけられた肉がほろりとほどけた。
 肉汁と骨の旨味が完熟トマトと融け合うオックステールの煮込みを頬張れば、ふわりとサフランの風味もルカノスの鼻腔を擽ってゆく。
 憧れのオックステールを満喫し、バスケットに潜めた焼きりんごの蜂蜜ブルーチーズ添えに想いを馳せたなら、森梟の物語にいっそう深く入り込んでいく心地。
 ふと視線をめぐらせれば何処かでつまみぐいする一羽と一匹を見つけられそうな気がしたけど。

 ――もし見つけたとしても、気づかないふりをするのが森梟のつまみぐい屋さんのお約束。



マスター:藍鳶カナン 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:7人
作成日:2015/04/05
  • 得票数:
  • ハートフル14 
冒険結果:成功!
  • 生死不明:
  • なし
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