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月虹の祝宴

<オープニング>

●月虹の女神
 夜を優しく照らす月が時折空に描くのは、昼間のそれより淡い月の虹。
 白虹とも呼ばれるけれど決して色を持たぬわけではない。彩り抱く虹が見えるか否かは月と夜空の気分次第、稀に見られる七色の月虹は、桔梗や濃藍の夜空に優しい七色を透かす、極上の幻のようだと言われている。
 ――気まぐれな女神がその日の気分で色をつけるのさ。
 街路より水路が多いと謳われるディーアレイの街のひとびとは月虹が出るたびそう言って、七色が見えても見えなくても、口々に女神の気まぐれを誉めそやして酒杯を掲げた。月虹の女神は信仰の対象ではなくて、街の誰もが親しみを持つ大衆劇の登場人物のような存在だ。
 幾つもかさねられていく階層に街が沈み、本物の夜空も月も見えなくなった今でもそれは同じ。
 ディーアレイの月虹女神。
 気が短くて気分屋で、それでも夜空に淡く架かった虹だけは、水牛の背に揺られてのんびり渡る。

 春の街が夜を迎えたなら、優しく潤んだ瑠璃色の闇が訪れた。戦神海峡アクスヘイムの中層部に位置するディーアレイも瑠璃の闇に沈み、街には次々とあかりが燈されていく。けれど今宵燈されるあかりは普段のそれでなく、遥かな空に昇る満月を模ったまぁるいミモザ色のランプ。
 深い濃藍を湛えて流れる街の水路には繊細にきらめくひびを入れた硬い硝子の覆いが被せられ、澄んだ水流れる路は今宵一夜限りの硝子の路となる。瑠璃の闇に抱かれた街のあちこちには満月みたいなミモザ色のあかり、優しくて何処か甘やかな月あかりを浴び、ひび入り硝子の路は行き交うひとびとの足元に、まるで気まぐれのようにきらめく虹をかけていく。
 ディーアレイのひとびとが自ら作りだした月の虹。
 街のひとびとは気まぐれに足元を跳ねる月虹を求めて一夜限りの硝子の路へと繰り出して、更なる女神の気まぐれを求め、華やかに賑やかに春の夜を祭のひとときへと変えていく。

 今宵の女神がもたらす気まぐれは、極上の海の幸に山の幸、飛びきり美味なる世界の恵み!
 春の朧月みたいにほんのり白くてまぁるく柔らかな、紗のようにうっすらと透けるライスペーパーを手に取ったなら、月虹の女神の気まぐれのまま溢れんばかりに用意された飛びきり美味なる世界の恵みを、どうぞあなたのお気の向くまま、たっぷり気まぐれに召し上がれ。
 鮮やかに茹で上げられたぷりぷりの海老に紹興酒香る蒸し鶏に、瑞々しいしゃきしゃきのレタスや香菜、色鮮やかな赤や黄のパプリカと、極上の海の幸に山の幸を春の朧月めいたライスペーパーに気まぐれに包み、鮮やかな夕陽みたいに煌くスイートチリソースをつけ、飛びきり美味で気まぐれな生春巻きをひと齧り!
 気泡がきらきら楽しげに煌き昇る金色の麦酒に発泡米酒、ライチやキウイのソーダで乾杯したなら飛びきり幸せな、極上の世界と未来を語り合おう。

 ――ねえ、明日から何をしようか。

●女神の祝宴
 譬えて言うなら、遥か地の彼方に蒼く霞む高峰、あるいは、蒼穹を背に神のごとき威容で聳えたつ白銀の未踏峰、登りたいとずっと希っていた、まだ誰ひとり頂に至ったことのない遥かな高峰へ登り、涯てなく思える挑戦の末にようやくその頂が見えて来た――そんな心地。

 大魔女の城へ辿りついた時、七花の狩猟者・アンジュ(cn0037)の胸に萌したのはそんな感覚。
 だからこう思ったのだ。

 ねえ、あの頂を越えればきっと、まだ誰も見たことのない世界が広がってるよ。

「――ね、とうとう辿りついたね、涯てを越えたその先にある、まだ誰も見たことのない世界へ!!」
 感無量。感慨無量。
 ああ、他にどんな言葉があるだろう。
 遠い伝説の時代から命を、想いを、意志を継いで、まだ誰ひとり頂に至ったことのなかった遥かな未踏峰の頂へと至り、まだ誰も見たことのない、悪しき棘から解き放たれた世界へ辿りついたのだ。
 ねえどうしよう、心が跳ねて弾んでとまらない。
 ねえ何をしよう、今ならきっと何だって、遠い夢だと思ってたことだって出来るはず!
「行ってみたいところもやってみたいこともいっぱいあるよね! んでもその前に」
 ――まずは美味しいものいっぱい食べにいこうよ!

 暁色の娘が皆を誘うのは、戦神海峡アクスヘイムの街、ディーアレイ。
 かつてアクスヘイム崩壊を耐え、崩壊に乗じたマスカレイドの暴虐からもエンドブレイカーによって救われ、無事に復興を遂げたこの街で、春の朧月みたいなライスペーパーに極上の海の幸に山の幸を好きなだけ包んで食べられる、生春巻きを皆に振舞う祭りがあるという。

 瑠璃の夜闇にはミモザ色した月のランプ、華やぐ祭を泳げば足元には跳ねる虹。
 虹色硝子のような建材で水路に架けられた『月虹の橋』と呼ばれる大きなアーチ橋を越え、足元のひび入り硝子からきらきら虹が跳ねる硝子の路へ繰りだそう。
 何処か陽気な夜風の流れる硝子の路には籐で編まれたテーブルセットがあちこちに設えられて、女神の気まぐれを享受するひとびとは思い思いの卓について祝杯をあげる。
 金色の麦酒に発泡米酒、瑞々しい果汁と果肉たっぷりのライチやキウイのソーダ!
 きらめく気泡弾けるそれらで乾杯したなら、あちこちのテーブルに用意された女神の気まぐれたる極上の海の幸に山の幸、飛びきり美味なる世界の恵みをたっぷりどうぞ!
 色鮮やかなぷりぷり海老も紹興酒香る蒸し鶏もいいけれど、戦神海峡ならではの新鮮なマグロや甘辛いタレを絡めて炙った牛肉だって堪らない。茹でたビーフンもたっぷり、瑞々しいレタスに千切りきゅうりや人参、鮮やかに香るレモングラスやニラに香菜、青紫蘇だって好きなだけ!
 照り焼きの鶏やバターを絡めて軽く炙ったホタテも美味だし、スモークサーモンとクリームチーズにアボカドなんて鉄板の組み合わせも忘れずに。
「春の朧月みたいなライスペーパーにこれを包んでスイートチリソースで――ってのは絶対美味しいと思うけど、アンジュはねどーしても、マンゴーチリソースで食べてみたいの!」
 夕陽みたいに煌くスイートチリソース、眩い夏陽思わす鮮やかな陽色のマンゴーチリソース。
 そして大蒜とナンプラーを効かせたヌクチャムや、独特の風味がクセになるブルーチーズソースと生春巻きのタレもよりどりみどり。
 極上の海の幸に山の幸、飛びきり美味なる世界の恵み。女神様の気まぐれたっぷり堪能しながらいっぱい笑っていっぱい話そうか。

 行ってみたいところ、やってみたいこと。
 明日のこと、これからのこと、将来のこと。
 ねえどうしよう、心が跳ねて弾んでとまらない。
 ねえ何をしよう、今ならきっと何だって、遠い夢だと思ってたことだって出来るはず!
 たとえば都市間を行き来できる街道を作りたいとか、滅びの大地の地図を作りたいとか、薔薇の痕に街を作りたいだとか。今ならきっと、飛びきり遠い夢にだって手が届くよ。
「だってね、涯てを越えたその先にある、まだ誰も見たことのない世界へも辿りつけたんだもの!」
 ずっと信じてた。ずっと言い続けてた。
 世界は必ず自分の手で変えられるって。
 本当に手が届かないものなんて、限りなく少ないんだって。
 ――だから。
「あのね、また逢おうね」
 皆の手で掴み取った、まだ誰も見たことのない幸せと可能性に満ち溢れた世界で――きっとまた。


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参加者
NPC:七花の狩猟者・アンジュ(cn0037)

<リプレイ>

●月虹の祝宴
 瑠璃の春宵渡る風は陽気で気まぐれ。女神の微笑めく風に揺れるミモザ色した月から零れた光は硝子の路に跳ね、七色の煌きを手許の杯まで届けてくれた。
「皆で今日を迎えられたことに……って、誰だ口上終わる前に飲んだのは!」
「悪いアンズ、聞いてなかった」
「大丈夫大丈夫、それじゃ改めて──乾杯!」
 瑕を越えた街の姿に綻ぶ笑みごとカラが酒を乾した途端のアンブローズの声。すかさずプティパが注ぎ足せば、杯の音に皆の笑みが弾けて滴が躍る。
 海の幸に山の幸、数多のタレが並べばテーブルも虹模様。ライスペーパーに世界の恵みを包んで陽色のマンゴーチリでプティパが飾れば、
「掌にも虹がきらきら! リューウェンさんのなんて芸術ね!」
「そう言われると照れてしまうな。このキウイのソースも色合いが綺麗だと思うのだが」
「食べたい食べたい! いただきまーす!」
 見目麗しく恵み包む生春巻きでリューウェンはオーロラソースを掬い、彼お手製の橄欖色の煌きに七花の狩猟者・アンジュ(cn0037)が手を伸ばした瞬間、海老が舞った。
 皆はこれからどうする、なんて訊いたアンブローズの許から旅立つ海老。
「思いが溢れ過ぎて収まらん!」
「……アンブローズさんはしっかり者の奥さんをもらったらどうですか」
「そりゃ難題だ、頑張れよアンズ」
「おわっ!?」
 男の生春巻きから飛び出した海老はプティパが美味しく頂いて、噴き出したカラが彼の肩を叩けば再び海老がこんばんは。キャッチした小皿を差し出しつつリューウェンが、
「俺は林檎隠れの村でお菓子屋をしつつ、夏はラーラマーレでゴンドラ乗りを──と」
 微笑して語れば、誰もの胸に無限の未来が燈る。
 巨大魔獣化とかできないかしらと瞳を輝かせるプティパに、そりゃ魅力的だと笑ってカラはアンジュお勧めブルーチーズソース絡めた生春巻きをひと齧り。
 のんびり先を想える今が不思議な心地で、
「初めてゆっくりそれを考えるのが、あたしの最初の予定になりそうだよ」
「ま、変わり行く世界の上手い歩き方など判らんが……」
 きっと生春巻き作るより簡単だ。
 笑い返した男の手許から、ぴょこりと海老が飛び出した。
「やれやれ、大魔女とやらも俺様の前では大したことなかったな!」
「えへへ、ナヅキちゃんかっこよかったよ……!」
 得意気に足を組んだナヅキが掲げた杯から跳ねるライチの滴。お行儀悪いよ、なんて彼の手許や口許を甲斐甲斐しく拭きつつサーシャも上機嫌で、故郷の復興を想いながらも、恋人が語る未来の展望に心躍らせずにはいられない。
 華やかな光と音溢れる大舞台に立ち、皆の心を思いきり盛り上げて。
「そんときお前は俺様の付き人だからなっ!」
「むー。付き人じゃなくて恋人、だもんっ!」
 満面の笑みでナヅキがわしゃわしゃ頭を撫でれば、ぷうと剥れたサーシャにも笑みが咲く。
 皆に明るい歓び咲かせる旅に、さあ往こう。
 ミモザ色の月から零れるあかりに跳ねる虹。
 七色連れてくうるりターンすれば親友が駆けてきて、海老の甘さとキウイの瑞々しさ分け合ったなら発泡米酒でさあ乾杯! まるで幸せ芽吹いた翅で羽ばたく心地。
 ──鉄壁街をもっと発展させたいの。
 彼の地の芸術振興協会長たるヴリーズィは未来へ羽ばたく夢を語り、
「アンジュはどうするの?」
「あのね──」
 囁かれた暁色の幸せに破顔する。
 硝子の虹に踵を乗せ、未来へ続く次の一歩を。
 甘辛い夕陽の煌き絡めて頬張れば、ぷつり弾ける紹興酒香る鶏に海老の甘味。野菜の瑞々しさと噛みしめ夫と瞳を見交わせば、自然とカタリナの瞳が緩む。これがきっと、平和の味。
「ねぇ、ダーリン、私と一緒にいてくれてありがとう」
「こちらこそありがとうだよ。はに……カタリナ」
 ハニーと呼ぶのは気恥ずかしいけれど、ひときわ柔らかな妻の笑みにティムスも勝ち得た平和を噛みしめた。二人で旅も良いわねなんて彼女の声が、春風みたいに彼を誘う。
 これからは──何処までも、君と、一緒に。
 めでたしめでたしの、その後に。幸せになったら、平和になったら、何をすれば良いだろう。
 ──だって仮面が無いのなら、道化は何処で踊るのさ。
「お腹がいっぱいになったら、素敵なことを思いつくかも」
「そうだよねぇお嬢さん! 今は食べよう!!」
 戯けた風に嘆いたジャバウォックにシュリティエが微笑んだなら、彼の手にはライスペーパー三枚使いの大きな夢が出来上がり! 乾杯して頬張れば、少女の裡にも海の幸と花の夢が溢れだす。
 世界に咲く花全てを見てみたい。
 なんて少女の無謀な夢も、その手を道化が取ればきっと愉しい挑戦に変わるはず。
 許されるなら手を取り合い、夢を描いて物語を創りに往こう。
 故郷で挙げる祝杯から真珠色の滴が跳ねた。
 ライチの杯掲げて語るモニカの未来は世界に花を、夏空に水花咲かせる羽ばたきの夢。蒸し鶏と香味野菜に甜麺醤絡む味わいに麦酒の杯を重ねつつ、ハルクは妹の羽ばたきを祝福する。
 己が目標は変わらず、父を超える職人になること。
 林檎隠れで得た放蕩者ながら鍛冶の腕は確かなエルフの師について語り、
「って事は、ハルクの旅はここでお終い?」
「終いになると思うか?」
 覗き込んで来た妹と悪戯な瞳を交わし、双子ながらの呼吸で同時に笑みを零し合う。
 生まれる前から一緒だった手を、そうっと優しく自然に離して。
 ──誰よりも幸せになってくれ。
 春空と墨染の瞳持つ魚が二人の胸裡でふわり尾びれを翻す。
 比目の魚は光を得、其々の流れを往けるようになったけど。
 ──幸せでいるよ。幸せでいてね。

●月虹の未来
 久々に再開叶った顔も昨日の続きみたいに馴染む絆が愛おしい。
 冷えた米酒をアオがゆるり注げば感慨と共にヴァレリーの眦緩み、瞳輝かせたアンジュに薔薇色鮮やかなローゼルを分けてやったネモは皆へも爽やかな酸味をお裾分け。
 春色サーモンとアボカドを包み、マンゴーチリの陽色で彩ったリチェリーが頬張れば、是非とも家で作ってみたい味。
「旦那様と仲良くなって欲しいから、お父さんを呼んで良い?」
 飛びきりの笑顔向ければ、皆が新しい家族連れて逢いにくるのを楽しみにする隠居生活をなんて語っていたヴァレリーの視線が遠くなり、
「……一番はリチェのトコやろうなー」
「生春巻きじゃなく、クダ巻いてるなら付き合うぜ?」
「アオ殿は相変わらず甘、優しいな」
 一気に空いた彼の杯に笑って米酒を注ぎ足したアオが、ぽつり零したネモの言葉にまた笑う。
 希った日が、今、この手に在る。
 胡麻だれで食べる蒸し鶏、タラの芽。ローゼルの酸味香るスモークサーモンにディル。食べ盛りな彼らが次々頬張る様にリチェリーも破顔し、
「あたしはお母さんも増えるって信じてるからねっ!」
「そうじゃな、誰より寂しがりが家族を成す事じゃ」
 まだまだ若い父に水を向ければネモにも頷かれた『お父さん』が、ほな隠居前にもう一回新しいことしてみるかと呟いたから、アオも笑みを深めて先へと想いを馳せた。
 また新しい風を探しに往こう。
 ──皆の先にも、佳い風が吹き続けることを祈ってる。
 瑞々しい野菜に菜の花で春の香添えて、新鮮なマグロを乗せ軽くレモンを一絞り。さっぱり風味で仕上げたオニクスからの労いに舌鼓を打ち、ヴフマルからはたっぷりの野菜にレモングラスの香りを利かせ、スモークサーモンと巻いてマンゴーチリを一掬い。
 どうぞ召し上がれ、と差し出された彼と女神からの御褒美を頬張れば、ふとオニクスの胸に想いが萌した。何をしてもいい明日が来るなら、
「故郷を探しに出かけるって言ったら、アンタは来てくれる?」
「俺でよければお供しますよ」
 涯と、その先へだって。
 零れた願いに迷わずヴフマルが紡いだ答え。望みのものを望みの場所へ。
 己が斧戴くこの故郷を愛するように、彼女を、彼女が愛せる故郷へと。
「終わったというべきか、これからが始まりというべきか」
「終わりは次の始まりなんだよ!」
 鶏ハムとレタスにはカシューナッツのアクセント。ユリウスが生春巻きをあーんしてやれば、きゃーと歓声あげたアンジュから甘辛い牛肉に筍と水菜を巻いてはい、あーん。確かに始まりよね、と悪戯に笑んだキウは足元の虹に透かし彫りの蝶を踊らせて、煌き溢れる未来の夢を紡ぐ。
 泥だらけになりつつ岩塊の中から掘りだす、自分だけの煌き。
 自分で探し出した宝石で装飾品を作れたら素敵だと思うから。
「そんな夢が叶うなら、アンジュも一緒に来てくれる?」
「いいの!? 連れてってー!!」
 たちまち瞳を輝かせる娘に、あたいとも一緒しようさねとユリウスも笑う。
 変わりゆく世界で芽吹く命を、見に往こう。
「まずは決戦で聴いたように、彼との間に新しい命を……になるのかな?」
「うん、すごく子供欲しいの!」
 ファニファールさんも? と満面の笑みで訊き返されれば途端に騎士の頬に薔薇の色。
 私は気持ちを確かめ合うところからだな、と熱持つ頬を掻きつつ語り、何にせよ家庭は持ちたいと瞳を緩めた。そうして未来へ想いを繋ぐ。
「伝えていく大切さも、勇者達から教わったしな」
「素敵なお話なのですよ〜♪」
 年頃の娘達の語らいに憧れの眼差し向け、恋に恋する少女は海老さん生春巻きに陽色のソースをたっぷりと。けれど綺麗でマンゴーの香りが甘いそれは。
「……〜〜〜〜!!」
「シャルティナちゃんライチ! ライチソーダあるよ!」
「だ、大丈夫です、これもオトナの第一歩です!」
 甘さも辛さも学んで、きっといつか、大切な誰かに出逢う。
 悪戯な甘酸っぱさとピリ辛はきっと確かに恋の味。美味しかったのと笑んだマグノリアが語る夢は領地の未来。水鳥達の架け橋たる街を、美しく活気溢れる街に。
 力及ぶか不安もあるけれど、
「少しへたれだけれど、優しい人が隣に居るから」
「おめでとう! おめでとうマグノリアちゃん……!!」
 左手の指輪をそっと見せれば、思いきりアンジュに抱きしめられた。
 一番に知らせたかったのと囁けば、ますます娘の声が潤む。
 おめでとう。一緒に遠い楽園を見たあなた。

●月虹の祝杯
 高らかに鳴らす杯から零れる気泡の滴も陽気に弾け、こんなノリも私らしいねとヴァルイドゥヴァが喉を鳴らす。器用に包まれる山海の美味、折紙の要領ならきっととサクラも挑んでみたけれど、
「……ヌイ、巻いてもらえる、かしら」
「任せて、どんどん巻いてあげるよ!」
 ぱらり解けた海老入りのそれに小鳥さんお勧め生姜の甘酢漬けを加えてヌイがくるり。
 ありがとう、と瞳を細めたサクラはふと商人を見遣り、
「ナルセインは、これからも旅を続けるの?」
「勿論。御用命ならいつでもどうぞ」
 スフィクス領にも寄ってくれると助かるわ、と彼の地の司書に戻る娘が紡ぐ。
「あたしは故郷に戻って、結婚、かなぁ」
 思わず手が止まる友二人に、婚約してるの、とあっさり告げるヌイ。許嫁のしきたりに反抗した日もあったけれど、今なら悪くないかなと思えるから。
「私も同じく結婚、かな?」
 正式な求婚は決戦の後でと約束したから、今のヴァルイドゥヴァは最後の恋人期間をめいっぱい満喫中。指輪煌く手で膝の愛猫を撫で、
「お前はどんな子と一緒になるのかな」
 ──ずっと共に在りたいってお嫁さん、見つけるんだよ。
「あたしも頼りにしてもいいかしら、商人さん?」
「とことん頼りにしてくれ」
 あんたの望むもの何もかも、林檎隠れまで運んでいくさ。なんて嘯くナルセインに、お見通しね、と軽くリリが噴き出した。生まれ故郷はもうないけれど、あそこが二つ目の故郷に、きっとなるから。
 あの村に縁をくれて、ありがとうね。
 林檎隠れで幸福を紡いでいくだろう娘の言葉に嬉しげに笑った男の瞳が、差し出された生春巻きにひときわ緩む。おなかの巨獣さんも意気揚々、と笑みを転がすアデュラリアのお勧めは、ひよこ豆のテンペとアボカドの気まぐれ包み。
 極上だと舌鼓を打った彼が、往くか、と誘うから。
「どこまでも一緒に往かせて。わたくしもあなたを連れていくわ」
「どこまでも攫っていくから、どこまでも攫ってくれ」
 無限の彩花開く心地で、共に生きていく男に笑みを咲かせた。
 世界の果てに断崖絶壁があるのなら、そこから流れ落ちる滝を見に行ってみたい。
 ──そんな気がするんだ。
 柔い吐息落とすような彼の言葉に、菜の花と春野菜にバジル香る生春巻きをそっと置いて、リラは淡い影落ちるコヒーレントの髪をふわりと撫でた。
 水都のクチュリエールの夢は小さな街でお店を開くこと。
 けれど、ホントは囚われていたいんだ、と紡ぐ彼の言葉の隙間が心地好く、抜けだしたくないなんて彼女も思ってしまう。
「ね。コヒーさま。花は褪せてしまうから」
 浚うのなら、どうか一思いに。
 瑠璃の夜にミモザの月燈ればラツの気分は上々、今宵は誰もを褒め称えたいなんて言えば女神が妬くかなとの言葉に、ならその頬に口づけ贈ればいいのよとフェイランの声も弾む。
 皆が包む恵みはどれも美味しそう!
「欲張りな諸君に提案です、今日を分け合いませんか!」
「賛成! あれもこれも、ほしいもの」
「美味しいものは欲張ってこそっすよ!」
 悪戯な提案に皆の笑みが弾けたならあちこちでお裾分けしあいっこ。たっぷりの海老とサーモンにレタスとアボカド、アルカナの飛びきりをあーんと差し出され、バター薫る帆立とレモングラスやレタスにクリームチーズ潜めたシゾーのとっておきを勧められ、アンジュから二人へは、ルッコラたっぷりの照り焼きチキンをはい、あーん。
「ね、これって王道かしら?」
「ん、王道だってわくわくしちゃうのよ♪」
 披露されたフェイランの海老と茹で豚、レタスと長葱の取合せにロゼリアは瑞々しいフルーツトマトを足し、お勧めタルタルソースと頬張れば途端に幸せ溢れだす。
「あぁ、すごいなぁ。頑張ったよね、私達……!」
 気泡弾ける杯で乾杯したなら、眩い歓びも溢れてとまらない。
 愛する彼と幸せになろう。けれどそれだけじゃ足りない、この世界で皆と一緒に幸せに!
「大街道は浪漫だからね! 物と人を集め保障する事業を考えてるんですが!」
「今は大言壮語かもしれないけど、きっと叶うさ!」
 大風呂敷広げた友の生ハムと春雨に香菜特盛をルカノスがぱくりといけば、だよねと笑ってラツも彼のサーモンとクリームチーズに野菜たっぷりの王道をぱくり。
 幸せ配達人としてまだ見ぬ土地まで羽ばたくシゾー、紡ぐ音楽で愛と光を伝えるフェイラン。皆の夢聴くたび胸の中でも虹の煌き跳ねるよう。
 気ままに旅に出るのも、いいかも──。
 ふわり言の葉零せば、アルカナも? とルカノスが笑んだ。
 空虚な旅でなく、希望と欲張りに満ちた旅。
 不意に萌した想いはきっと似てるから、二人は小さく頬笑み合う。
 いつか皆と離れる日がきても──きっと、また。

●月虹の女神
「──ほら、来い」
 見慣れぬ海鮮に瞳を輝かせる義弟はやっぱり今日も不器用で、ひょいと慣れた所作で義弟を膝に乗せたゼルアークは彼の選んだ具を朧な月で二包み。
 お揃いにして貰った生春巻き頬張って、やっぱり義兄と揃いの金色麦酒で喉を潤せば、リウェスの胸にようやく勝利の実感が染み渡った。
「……終わったんだなあ」
「あぁ」
「俺ね、あのね」
 行きたいところいっぱいあるんだ、と紡ぐ声は幾分甘え気味。
 滅びの大地で見た卵樹の森、世界の瞳に映らないところ。
 全部見たいんだと語る龍に、随分と長旅になりそうだと獅子は緩く笑むけれど、
「同じものを見られるのは悪くない」
 それこそ彼も望むところ。
 一緒に行こう。刻んだ足跡の、その先へ。
 朧な月に世界の恵みをたっぷり詰め込んで、苦手と思っていたマンゴーにも挑戦したくなったのは気まぐれゆえか、遠大な夢を見たからか。
 心から切り離せぬ地、三塔戒律。
「……三塔の領地同士の仲を良くしたいって」
 遠大過ぎるかな? とクロービスが零せば唐揚げと香菜巻きを勧めるアンジュが笑みを燈す。
 今は遠く見えても、
「全力で翔けた後に振り返ってみたら、思ったより近いかもしれないよ」
 鮪と長芋とサラダ菜巻いたゼルディアは暁色推薦のブルーチーズソースを一掬い、しゃきしゃきの野菜と甘辛い牛肉を巻いたルィンと味見し合えば、発泡米酒の気泡みたいに楽しい笑みが咲く。
 けれどこれからを想えば娘は曇り顔。
 仕事と私と──なんて訊けないと思い悩めば、
「あのな、ゼルディア。俺に相談してくれねぇのか?」
 頬杖ついた彼が彼女を見つめて切り込んだ。一緒に考えよう。今在る地位はいわば名誉職、時々連絡を入れれば大丈夫だから。
 一緒に各地の唄や文献を調べる旅に行かねぇか?
 心に優しく染みる言葉に娘の眦が震えた。
「ルィン君の傍にいたい。……一緒に探してくれる?」
 未だ識らない唄を。
 ──閉じた門の先、異界へ行く方法を。
 女神の街は甦り、涯ての頂をも越えた。その歓びを分かち合えることに乾杯を。
 いっぱい食べて飲んで、いっぱい笑おう。ハルネスやピノが杯を掲げれば次々皆の杯が鳴る。
 女神様の恵みは誘惑色。たっぷり葉野菜と桜色に透ける小海老を巻いて、陽色のマンゴーチリで彩ったなら、クローディアは最初の一口をアンジュへと。
 ──私の桜の、お姫様。
「大好き……!」
 幸せ咲かせて頬張る娘の皿には生ハムとクリームチーズ巻きに誰かさんのお手製キウイソース。
「一口頂戴!」
「食べて食べてー!」
 興味津々にティアナが頬張れば溢れる幸せ、キウイソーダの気泡も跳ねたなら、何処までも翔けていけそうな心地。そう、星空まで翔びたいし、崩落のマリアンヌと遺跡巡りもしたい。
「それに、このディアボロスブレイドとギルタブリルの残骸を使って挑戦したいわ!」
「ヴィータのいる異界と行き来できるか──だよね」
 彼女の言葉にヨゼフが力強く頷いた。
 街道整備や交易の夢語るヨゼフやピノも繋ぎたいのは領地と領地だけじゃない。マスターデモンとなり異界に封じられた少年を、この場の仲間は誰も諦めていない。
「他の方法だっていい。何か手立てを探して、ヴィータに逢いたい」
「うん、試す手があるなら何度だって伸ばしたい」
 未来は決まってないんだから、と強気な笑みを浮かべるピノに、クローディアの迷わぬ声が続く。
 これからを想えば心に浮かんだのは、新しい家族のことと、異界に消えたあの子のこと。
 希望が、可能性があるのなら。
「もう一度、この手を伸ばしたい。──みんなと、一緒に」
「そう辛気臭い顔すんなよ。これから願うのは心残りの始末じゃなく、未来への希望だ」
 微かに眉を下げて笑んだハルネスの背を、景気付けのように軽くエアハルトが叩く。暁月夜に星を燈した娘が眦に触れて笑みを燈した。欲張りな貴方が、とても好きだよ。
 何ができるかは判らない。
 けれど手が届くかどうかは、伸ばさなければ分からない。
「だから──やろう」
「諦めるのはまだ早い。そうだろ?」
 俺も逢いたいからと言うヨゼフに笑み返し、エアハルトは皆に嘯いてみせた。
 道行は確かに前に拓いてる。探求すべきことは、世界には無限に広がっているのだから。

 朧な月に美味しい幸せを包み、たっぷり楽しんだなら硝子の路へ踏み出そう。
 足元に跳ねる虹はきっと、あの日のカナルグラスを透かせば七色よりももっと沢山の輝きを見せてくれるはず。万華鏡みたいにきらきら光る世界。けれどそれは、
「ゼロさんの隣でいつも見てた世界なの」
 ね、覚えてる?
「カナルグラスの約束、忘れるわけないさ」
 優しい硝子と同じ彩の瞳で覗きこまれ、彼は込み上げる愛おしさのままシャルロットを抱きしめた。
 互いの鼓動を融かして誓い合う。いつも笑顔で傍にいるから。
「俺のお嫁さんに、なってください」
「うん。シャルのこと、お嫁さんにしてね」
 二人で見るから輝く世界を、ずっと、ずっと──共に、生きよう。



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参加者:50人
作成日:2015/04/13
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