ステータス画面

暗闇で嗤うモノ

<オープニング>

 ――今では幽霊屋敷と化した廃墟には、地下室があった。
「ここに幻の書物が眠っているというウワサがあるのよ!」
 ふんすふんすと鼻息荒く語る女性――シャルに、弟の青年・ユアンは呆れたように肩をすくめる。
「高く売れると良いんだけどね」
 盗品の売却で生活を成り立たせているこの姉弟が『この屋敷に幻の書物がある』という噂を聞きつけたのは一週間前のこと。高く売れる稀覯本であれば良い――そんな期待をしながら、二人は廃屋の地下室へと進んでいく。
「しかし、暗いわね」
 廃屋には多少の明かりがあったのだが、地下には窓もないし、廃屋だからランプ等もない。昼間だというのに、二人は暗闇に包まれていた。
 二つのランタンを揺らすが、それでも心許ないほどの暗さ。階段から転げ落ちないように注意しながら階段を下り、二人は地下の書庫へとたどり着く。
 ――書庫に本はまったくなかった。代わりに、床の上には一冊の本。
「……って、これ……子供の手書きの絵本じゃない!」
「金にはなんないね」
 世界に一つしかない本ではあるものの、売れるような本ではない。シャルは絵本を拾い上げ、腹立ちまぎれに床へ叩きつける――。
 ――妙に大きな音を立てて床に絵本がぶつかったのだと、そう思った。
 しかし、それはバットハーピーの羽ばたきのせいでそう思えただけのこと。二人の目前には、赤い瞳を輝かせたバットハーピーの姿があった。
 バットハーピーの放つ超音波の前に、二人は倒れ込む。バットハーピーはそのまま廃墟の階段を滑空し、廃墟を飛び出て――、
 ――廃墟近隣の村で人が襲われる事件が起こったのは、それから数分後のことだった。

 バットハーピーはとある廃墟の地下にある、かつて書庫だった部屋にいます。人が侵入すると、攻撃を仕掛けてくるようです。
 書庫は広く、物は床に絵本が一冊落ちているだけですが、明かりは昼間でもまったくありません。そのため、問題なく戦うためには、それなりの量の光源が必要となるでしょう。
 階上の廃墟は昼間ならば問題ない程度に光が差し込みますが、書庫と廃墟を繋ぐ階段は狭く、一度に一人しか通ることは出来ません。
 今回遭遇するバットハーピーは三体。三体全てを倒すことで、悲劇を阻止することが出来ます。
 バットハーピーは遠距離からの超音波攻撃のみを行い、『プラスワン』『毒』『暴走』を発生させることがあります。
 マスカレイドが関わっていなくても起こる悲劇のエンディング――それを未然に防げるのは、エンドブレイカーだけです。
 この悲劇を阻止しましょう。


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参加者
阿頼耶の狩手・ルーン(c01799)
火群綴りの・アクス(c02064)
竜剱・ノイズ(c08532)
三節棍の赤い群竜士・アヤカ(c14761)
世界樹に踊る妖精・シル(c25139)
青空を見上げる・ラッシュ(c35589)

<リプレイ>


 空には星が瞬き、少しだけ欠けた月も煌々と明るい。
 それは廃墟の中に入っても同じこと。ガラスの取り去られた窓や崩落した天井から、月明かりは差し込んでいた。
 それでも彼らは手に明かりを持っていた。地上での戦いとなれば、バットハーピーが逃げ出すかもしれないと考え、彼らは地下で戦うことに決めていたのだ。
(「マスカレイドはいなくなった、けれどこういった悲劇はなくならない、のね」)
 竜剱・ノイズ(c08532)は無表情のまま考えながら、ランタン『白雪灯標』のシャッターを開き、光量を最大にする。
 マスカレイドがいなくとも、悲劇を見たら潰す――やるのは、いつもと同じことだった。
 火群綴りの・アクス(c02064)もランタンに火を灯す。
 世界の危機が去ろうとも、アクスらの手に力は残ったまま。まだやり残したことがあるということだろう、とアクスは思い、目の前の理不尽な終焉を破壊する気持ちを新たにした。
 阿頼耶の狩手・ルーン(c01799)と青空を見上げる・ラッシュ(c35589)、それに世界樹に踊る妖精・シル(c25139)は手荷物タイプではなく腰に吊り下げる形のランタンだ。
 腰のランタンを確認しながら、ルーンは今後のことに想いを馳せる。
 悲劇の数はこれから減っても、なくなりはしないだろう。ならば、今後はどう生きていくべきなのか――思うルーンの手元、ランタンは輝く。
「経路は、ここだけね」
 真っ先に明かりをつけて廃墟の階上を歩き回っていたノイズが言う。サードアームからぶら下げられたランタンの表面、描かれて星霊が揺れている。
 念のため、地下室に繋がる経路が他にもないかを調べていたのだ。
 バットハーピーが一体でも残れば悲劇は起こってしまう。もしも経路が他にあるならば事前に塞いでおきたかったのだが、杞憂に終わった。
「さぁ、張り切って、理不尽なエンドをブレイクしにいきましょっかっ!」
「ああ。悲劇を打ち砕くだけだ」
 シルの言葉にラッシュが返し、一同は階段を降りることにした。
 狭い階段だったが、降りる順を決めていたこともあってそう手間取りはしなかった。前衛と後衛が各三名、最初に降りるのは前衛だ。
「なら大丈夫だね。行こうか!」
 三節棍の赤い群竜士・アヤカ(c14761)にラッシュ、そしてアクスが続く。後衛の戦闘はノイズが務め、ルーンとシルが後ろにいた。
 一段一段降りるごとに地上の明かりが薄れ、闇が濃くなっていく。
 とはいえ、全員が明かりの用意をしている。多少見えにくいくらいで、問題は――、
「ひゃぁぁっ!?」
 頓狂な声は最後尾のシルから。驚いてルーンが振り向くと、段の上にへたり込むシルがいた。
「……転んだのですか?」
 シルを照らしながら、ルーンが問う。
 この廃墟にいるのは地下のバットハーピーだけだから、敵に襲われたということはないらしい。
 シルの表情も驚きや恥ずかしさはあるが痛みをこらえるようなものではないから、戦闘に支障はないだろう。
「さ、幸先が悪いよう……」
 よろよろと立ち上がり、ちょっと恥ずかしそうにシルは地下へと進む。
「負けることはないと思うがな」
 足元に気を付けながら、ラッシュは答える。
「戦力差が違いすぎる」


 バットハーピーは、決して強大な敵ではない。
 むろん、油断しきっていれば敗北することもあるだろう。だが、もしも今回の悲劇に向かったのが三名だけだったとしても、勝ち目は十分にある――その程度の敵だ。
 今回集まったエンドブレイカーは六名、悲劇を阻止するための最低人数の倍もいる。
 おまけに。
 エンドブレイカーの中でも手練ればかりが、揃っていた。

 全員が階段を下り、真っ暗な書庫に明かりが揺れる。
 ランタンではない妖しい輝きは六つ。赤く、粒のようなそれは、バットハーピーの双眸だった。
 ごう、と風を切る音がして、やや遅れてから六名の頬を地下室の冷えた空気が撫でる。
 天井に止まっていたバットハーピーは地上に降り立ち、こちらを見てにたりと笑みを浮かべた。
「行くぞっ!」
 初めに動いたのはアクス。アクス自身が鍛え上げた斧『断魔斧ヴァルガリウスブレイカー』を掲げると、煌めくエネルギーが部屋中を照らした。アヤカは群竜乱舞でその後に続く。
「仕掛ける……!」
 ラッシュは棍をぐるりと頭上で回してから手近なバットハーピーを薙ぎ払った。ラッシュが床に足をつくたび、フットプリントによる足跡がつく。
 足跡は目印が見える程度の弱い光で、戦場を明るくするには物足りない――ぼんやりと光る地面を蹴り、ノイズは『無二』と名付けられたハンマーに神火の狼を宿した。
 力任せに放たれたノイズのひと断ちを受け、バットハーピーは苦悶の表情を浮かべつつ口を開く。くわん、と空気が歪み、バットハーピーは超音波を放つ。
 刃弓【天駆ける神速の螺旋】に矢の代わりに太刀の刀身を撃ち出すのはルーン。狙う先はバットハーピーではなく、天井だ。
「これで灯りは十分だな、貴様らが隠れる闇は最早ない」
 星の力を宿した矢が天井を貫通する。廃墟になってから長いのか、天井はあっけなく崩れた。廃墟そのものが崩落するほどではない穴からは、外の星明りが僅かに覗く。
「ニルちゃん、みんな、突撃よろしく〜♪」
 バットハーピーが逃げ出そうとしても逃がさないようにと階段の前に立ちふさがり、シルはフェアリーストームで妖精のニルティア率いる妖精の群をバットハーピーに突撃させる。
 静かだった地下室を、賑やかな羽音が満たす。


 脚を一閃、その細さからは想像もつかないような強烈な蹴りをアヤカは放つ。
 ぶわりと短い赤のスカートが翻るが、武装紅衣―アンブレイカブル・パワーは黒のボディスーツもセット。肌の露出を嫌がるアヤカは、その辺りも抜け目なかった。
 アヤカに追随するのはノイズ。フェアリーストームを喰らいシルに攻撃しようとしたバットハーピーに肉薄して、至近距離から神火斬妖剣で斬りつけた。
 ラッシュの掃撃棍を受けたバットハーピーが身体をよろめかせ、体勢を整えようと羽を広げる――その一瞬の制止を、ルーンは見逃さない。
 バットハーピーに殺到したのは矢――矢の代わりにルーンが使う太刀。薄い羽は貫かれ、バットハーピーは床に縫い付けられてしまった。
「羽ばたけなければ避けることも叶わまい、往生せよ」
「こっちもいっぱいだよっ!」
 シルのフェアリーストームにより、妖精のニルティアらがそのバットハーピーに殺到する。
「これで……終わりだ!」
 すかさずアクスはエンドオブイヴィルを放つが、それはバットハーピーにトドメを刺すには至らない。
 牙もむき出しにバットハーピーが口を開ければ、そこから放たれた超音波がアクスの脳を揺らす。
 じわりと蝕まれるような痛みに耐え、アクスはつきそうになった膝を持ち上げる――この力への誇りのために、膝をつくことは出来なかった。
 竜そのものと化したアヤカの一撃によって、バットハーピーは一体、息絶えた。


 バットハーピーが一体倒れたのを確認して、ノイズは闇に溶けそうな黒い外衣をはためかせつつ神火斬妖剣を仕掛ける。
 ざん、と音を立ててバットハーピーの脚が裂け、同時に使用したバトルトークのためにバットハーピーの気持ちが流れ込んでくる――バットハーピーに逃げる意志はないようだった。
 傷は負ったが致命的ではない。そう判断し、アクスはエンドオブイヴィルでバットハーピーの身を焦がす。
 宿した星の力が地下室を一瞬真っ白に染め上げ、それからバットハーピーの胸に吸い込まれる――心臓に矢を受け、バットハーピーは力なく倒れ込んだ。
 残るは一体となったバットハーピーは地面を蹴り、超音波を発する。シルは青い髪を揺らして少しふらっとしたが、すぐに体勢を整える――だが、その表情は平素のシルとは違う。
 大剣『ディアボロスブレイド』を床にがんっと叩きつけ、シルは顔いっぱいに笑みを浮かべる。その笑顔は、なんというか――。
「……樹になって、目一杯反省してもらおっか?」
 ――はじめこの地下室を満たしていたものと同じくらい、暗黒だった。
 小さな音を立てて世界樹の雫がシルの顔に落ち、シルの暴走状態が解除される。それに安堵しつつ、アヤカは竜の弾丸を射出した。
 竜の弾丸はバットハーピーの眉間めがけて撃ち出されたが、逸れて肩口に喰い込む。痛みのためにかバットハーピーの眉間に皺が寄る――今度こそそこを貫いたのは、ラッシュの棍だった。
「終わりだ……!」
 ひとつ、大きな声で啼いて。
 バットハーピーはそれきり、息絶えた。

「世界の危機は去っても、不幸が消えるわけじゃないもんね」
 今日の戦いを思い起こしながらシルが言えば、アヤカも頷く。
 ノイズは何も言わなかったが、何も考えていないわけではない。先ほどまで荒々しく戦っていたとは思えないほど大人しい雰囲気を纏うノイズだったが、彼女の頭の中には様々な思いが渦巻いていた。
「俺が戦いに身を投じて五、六年……でも、これまでと同じようにやっていく」
 赤い瞳に闘気を宿し、アクスは呟いた。
「そうですね。我々の使命はなくなりません」
 言い合ううちに、戦場の清掃は終わり。一同は廃墟を出ることにした。
(「…一体どんな気持ちでこの絵本を書いたんだろう、な?」)
 絵本をつまみ上げ、ラッシュは絵本を読んでみる。
 そこに書かれた物語は――。
 ――それは、彼らだけが知っている。



マスター:志賀にんし 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:6人
作成日:2015/04/06
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  • カッコいい6 
冒険結果:成功!
  • 生死不明:
  • なし
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