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アンジュの誕生日 〜ラーラマーレ・フィオリトゥーラ〜

     

<オープニング>

●夏空の街ラーラマーレ
 明るい陽射しに手を翳し、遥か彼方に世界の何処よりも愛しい夏空の青を仰ぎ見る。
 春の盛りの空にはあの輝くような、泣きたくなるような夏の鮮やかさはまだないけれど、その代わりどうしようもなく心を弾ませてくれるような、どうしようもなく嬉しい気持ちにさせてくれるような、夏より明るく優しい、透きとおるように鮮やかな青が広がっている。
 ねえ、行こうよ。
 夏の輝くような歓びや幸せを本格的に感じられるのはまだ先のことだけれど、来たる夏を待ち望む春でもやっぱり、眩いくらいの愛しさも泣きたいほどの切なさもここにあったの。
 ――ね、夏空の街ラーラマーレの、春を識りにいこうよ。

 星霊の力によって映しだされた、鮮麗な夏の空。
 夏の煌きをぎゅっと詰め込んだみたいな青空のもとに広がるのは、夏空の青をそのまま映しとって輝く広大な湖だ。大地に落とされた夏空の滴を思わすこの湖の名はマーレ、明るい紺碧に透きとおる波寄せるマーレの湖畔には、緑鮮やかな街路樹と白く輝く街並みが印象的な街が広がっている。
 夏空の街という二つ名で愛されるこの街は、その名をラーラマーレと言った。
 今の季節は春真っ盛り、もちろん夏のような輝くばかりの眩さはないけれど、それでも二つ名たる夏空の街の呼び名は伊達ではないとばかりに、星霊の力で映しだすラーラマーレの空には明るくて優しい、透きとおるように鮮やかな青が広がっている。
 街から望む湖も、街に張り巡らされている運河の水面も、夏のそれよりも明るく優しく透きとおった鮮やかな空の青。夏よりも優しい陽射しを透かし、ひときわ涼やかで透明な水飛沫が世界に遊ぶ。
 街路樹の緑も、夏ほど色濃くはなくとも明るく瑞々しく鮮やかだ。眩い夕陽みたいに鮮やかな橙に実るオレンジの果実もないけれど、その代わり。
 輝くような純白の、オレンジの花が咲き溢れている。
 オレンジフラワー、オレンジブロッサム。
 純白の花弁を大きな星のように咲かせた、甘く優しくちょっぴり切ないような香りを放つ花。
 ――ね、夏空の街ラーラマーレの、春を一緒に歩いてくれると嬉しいんだよ。

 明るくて瑞々しくて鮮やかな、街路樹のオレンジの樹々の梢の緑。緑の合間には甘い香りで夏空の街をいっぱいにする輝くような純白の花が咲いていて、柔らかな木漏れ日と梢の影が街路に踊る。
 夏よりも優しい春の風は、きっと夏より涼やかで透明な水の香りと甘く優しいオレンジの花の香りを抱いている。ね、きっと足取りもふわふわ軽く優しくなるね。見慣れたのよりも明るい夏空の青を映す運河の水面の煌きも、きっと夏より柔らかで優しくて。
 ね、輝くような純白のオレンジの花のしたを歩きながら、いっぱいおしゃべりできたら嬉しいの。
 夏よりも明るく優しい、水の夏空にゴンドラを出すならアンジュも乗せてね。
 そうして街を歩いて、もしくは運河を進んで、湖畔にあるコテージに行くの。
 そこでね――。

●ラーラマーレ・フィオリトゥーラ
「あのねあのね、夏のグリーンカーテン作るためのゴーヤ植えるのを手伝って欲しいの!」
 明け初めの空色と春の暁映した薄桃色のスイートピー。
 去年から育てるようになったのだという花々を抱いて、夏空の狩猟者・アンジュ(cn0037)は旅人の酒場で顔を合わせた同胞達にそう願った。
 自分の手で花や緑を育てることは、彼女がここ数年で覚えたこと。
 鉢植えでミントを育て、時の栞のおうちでスイートピーを育て。
 そして今年は夏空の街ラーラマーレでここ数年の夏をすごした湖畔のコテージで、ゴーヤを育ててみたいのだと暁色の娘は語る。
 目指すは夏の窓辺を緑の蔓葉で覆って陽射しを和らげるグリーンカーテンだ。
「実は何年も前から憧れだったんだよね、ゴーヤのグリーンカーテン。緑が明るくて優しくて、蔓葉が繊細なレースみたいに見えるのが綺麗だなぁってずっと思ってたの」
 けれどアンジュが自分で手を出すのをためらう理由がひとつあった。
 この娘、食材としてのゴーヤが苦手なのである。
 実が生っても食べない自分がゴーヤを育てるのはいかがなものか――と思っていたのだが。
「んでもね、ゴーヤ好きなひとの話とかゴーヤ料理の話とか聴いてたら、なんだか苦手なままなのがもったいない気がしてきたんだよ! きたんだよ!」
 大好きなひと達が語るゴーヤの話やゴーヤ料理の話を聴けば俄然興味がわいてきた。
 ねえ、アンジュでも美味しいゴーヤ料理作れるかな?
 ねえ、完熟したゴーヤの実は甘くなるってほんとう?
 ねえ、完熟したゴーヤの実は弾けちゃうってほんとう?
 ねえ、弾けたゴーヤの中には真っ赤で綺麗な種があるってほんとう?
「そう思ったらもうね、これは絶対今年はゴーヤ育てなくちゃ! って思ったの!!」
 今年の夏も例年通りラーラマーレですごすつもりでいたから、それなら今年は春からラーラマーレ入りしてラーラマーレでゴーヤを育てようと思ったのだ。
 ここ数年の夏を過ごした、夏空の街の湖畔のコテージで。
 庭に直接植えるのはちょっと気が引けるから、広々としたウッドデッキのテラスに木製プランターを並べてそこにゴーヤを植えてみよう。けれど何しろ初めてのことだから、ひとりでは自信がない。
「だからねあのね、もし良かったら一緒にラーラマーレに行って、手伝って欲しいんだよ」

 輝くような純白のオレンジの花咲く、夏空の街。
 春のラーラマーレの街を一緒に歩いて、湖畔のコテージへと向かって。
 湖を望むウッドデッキのテラスで、木製プランターにゴーヤを植える。

「今年はそんな誕生日をね、みんなとすごせたら嬉しいなぁって思ったの」
 ねえ、行こうよ。
 夏の輝くような歓びや幸せを本格的に感じられるのはまだ先のことだけれど、来たる夏を待ち望む春でもやっぱり、眩いくらいの愛しさも泣きたいほどの切なさもあそこにあったの。
 ――ね、夏空の街ラーラマーレの、春を識りにいこうよ。

 あの街を想うと泣きたいくらいの愛しさで胸がつまる。胸がいっぱいになる。
 都市国家の外、辺境に暮らす、暁の空を愛しむ部族に生まれ育って、当たり前のように本物の空を享受してきた。そしてもちろん、本物の空をとてもとても大好きだと思うけれど、だからこそ。
 己が生きる都市の世界にひとびとが想いをそそいで星霊の力を与えて、そうして映し出されたあの夏空を、世界で一番好きになった。ラーラマーレの空こそが、アンジュが世界で一番愛する空。
 ねえ、行こうよ。
「あのね、もし良かったら、また逢おうね」
 ――夏空の街で、きっと、また。


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参加者
NPC:夏空の狩猟者・アンジュ(cn0037)

<リプレイ>

●ラーラマーレ・フィオリトゥーラ
 花が一斉に咲くように、春の幸せが溢れだす。
 春女神を迎えたラーラマーレの空は明るい光に透きとおるセルリアンブルー。光に潤された優しく鮮やかな青空を背に、夏空の街には輝くように真白なオレンジの花が咲き誇る。
 花香る風とふわふわ踊る彼の足取りは妖精の戯れそのもの。彼方の木漏れ日とステップ踏んで、輝く白花の下から顔を覗かせたなら、
「ふわもこフェアリーさん捕まえたー!」
「今日はアンジュだけのふわもこフェアリーの戯れやよ!」
 眩い笑み咲かせた夏空の狩猟者・アンジュ(cn0037)に捕まって、弾けるようにロータスも笑った。
 少女から大人になって、いつか母になる娘。
「今からこっちで予約しとくわ、アンジュとはるちゃんの子のふわもこフェアリーの座な」
「うん! あのね、きっと家族みんなでロータスさんの取り合いになるからよろしくね!」
 何度も瞬いた娘の瞳が潤む。大輪の笑みで語られる、必ず手が届く未来。
 俺の知る唄も生命の輝きも、全部その子に教えたるよ。
 種が芽吹いて咲いた花へ虫が訪れ、その命を支え合うように。
「全力でブッ飛ばねーと届きゃしねぇぞ」
「んじゃ全力全開で!」
 偶然装い現れたリャオタンが頭突きできるもんならしてみろとばかりに顎を突き出せば、アンジュが遠慮なく全力ジャンプ。
 ごいんっ!
「痛ってぇ! 慰謝料請求しちゃる……居んだろ、アンタが何かしでかしても助力する奴は沢山」
「寧ろ事件そのものを闇に葬ってくれると思う!」
「怖えぇなオイ!」
 甘えんぼも程々にね! と彼の捻くれをそう評した娘を追い払うようにして送り出す。
 行きやがれ、未来への夢耕す方へ。
 光る風に甘い香り零すオレンジの花の下、大好き、と飛び込んできたアンジュを受けとめて、先程いい音響かせた頭にふんわり被せる贈り物。
「お誕生日おめでとう。この夏も素敵な思い出がたくさん出来ますように」
「ゼルディアちゃんも一緒してね!」
 暁色透けるリボンに金蓮花で彩る麦藁帽子、毎日使うー! と幸せ一杯に笑う娘にゴーヤを育てるアドバイスも贈る。蔓で実が熟したら、もうその株で実は生らなくなるの。
「だからどんどん収穫してね」
 種を残すとゴーヤさんは満足してしまうから、熟した甘いのは最後のお楽しみに。
「アンジュアンジュ、乗ってかない?」
「きゃー乗るよ乗りたい乗りますともー!」
 ゴンドラにはちょっと自信あるんだから、なんて片目を瞑ってみせるキウの腕はちょっとどころではなく最上級、暁色を乗せて、嘗てアクエリオの星に輝いた娘の櫂が空に水飛沫の花を咲かす。
 心地好い風に乗せるのはゴーヤの苦みを克服する秘訣、語って笑いあって水路の先に見えた姿に二人で手を振って、白い鳥のピックを持たせて送り出す。
「ほら、乗り継ぎはこっちよぅ!」
「わあいわあいよろしくお願いしまーす!」
 軽やかにアンジュが飛び乗ってきたなら、明るい水の夏空へフィグの舟が滑りだした。花の陰から光の水面へ舳先を導く歌は、街で子供がうたう誕生日のうた。
 新しい好物に、新たな可能性に出逢いにいく娘が眩しくて、
「イイ食べ方でぞっこんになるんでしょう?」
「ぞっこんメロメロになりたいー!」
 楽しい未来を想って笑えば、飛びきり嬉しげな笑みが咲く。
 煉瓦のアーチ橋を潜った先に待っていたのは、舳先でぴっと片翼をあげたペンギンが目印の舟。
 春花と鮮やかな金蓮花で彩られた舟には柔らかなクッションと小さなテーブルが置かれ、
「アンジュ殿、お誕生日おめでとなのじゃ!」
「暫しゴンドラでのお茶会は如何だろうか?」
「歓んで!!」
 暁色が乗り移ってきたなら、リューウェンのゴンドラは特別貸切の出張花竜庵。
 林檎隠れの村に菓子店を準備中の彼お手製のケーキが並ぶテーブルで、ラヴィスローズの淹れる緑茶から爽やかにオレンジの香も溢れだす。お客様第一号が菓子と緑茶の味に笑み咲かせ、次は珈琲も飲ませてねと望めば、努力しよう、と新米店主も笑って櫂を繰る。
 明るい水の夏空を滑れば、街並みの先に広がるマーレの湖。
 実は妾もね、と少女がこっそり苦手を明かせばその時に、
「アンジュさん、お誕生日おめでとう! 苦いの嫌いな人でも美味しく食べられるレシピ集だよ!」
「きゃーエレノアさんナイスタイミング!」
 眩いオレンジの花咲き誇る水路の角を曲がってきたエレノアの舟から届けられる贈り物。美味しさ間違いなしのレシピ達に娘達は歓声あげて、
「ゴーヤは育つのがとても早いのよ。うかうかしてられないわね、色んな意味で」
 悪戯っぽく続けられた言葉に瞳を輝かす。
「夏が待ち遠しいのう!」
「んもう、どうしようもなく楽しみ……!」
 空色プレートと一緒に暁色の娘を送り届けるのは、夏には苦手が好きに変わる、魔法のおうち。

●ラーラマーレ・セミナービレ
 春の光きらきら躍る湖からの風に揺れる梢の新緑もきらきら輝いて、眩く咲くオレンジの花の香を振りまき唄う。湖を望むテラスに並ぶ木製プランター達にラツが注ぐ鉢底石も楽しげな音で唄うから、世界のすべてが愛おしくてフェイランにも笑みが咲く。
「はい、種をどうぞ♪」
「ふふ、このぴよっと出た白い芽がとても可愛い……!」
「きっと双葉も可愛いよ! 可愛いよ!」
 ふかふか培養土も注いでラツが招けば、フェイランとアンジュが並んで種まき。水に浸され発芽した根を下向きに植えれば、モニカがふんわり土のお布団をかけてやる。蜂蜜と春空の瞳を見交わせば新しいことを始めるドキドキ感まで共有する心地。
 ね、知ってる? と悪戯に笑って、
「ゴーヤとチーズって相性いいんだよ!」
「なんてことなの素敵すぎる……!」
 とっておきを明かせば途端にアンジュの笑顔が輝きを増したから、モニカも光咲くように笑って種に土を被せていく。
「逞しく育ってね!」
「ええ、きっと逞しく育って実り、そして爆発しますよ!」
「楽しみいっぱいすぎるんだよどうしよう!」
 続くラツの言葉に弾ける皆の笑み。オレンジに熟れて弾けた実の中に覗く赤い種衣は蕩けて鳥を誘うらしいから、攫われないようご注意を! なんて戯ける彼に暁色と一緒にフェイランも笑い、想い馳せるは春を紡ぎ鮮やかな夏が織り成す緑の紗。
 ラーラマーレの空と空気に育まれて育つそれは、
「ねえアンジュ、私達の成長を見るみたいね」
「だよね!」
 一生懸命生きて、沢山の人の手を借り心を育て、大きな大きな愛を咲かせて。
 それはきっと、飛びきりの奇跡。
 蒔いた種が芽吹くのも、当たり前のようできっと奇跡のひとつ。
 薬草栽培の経験はあってもゴーヤは初めてで、トゥエトリーナも慎重に間隔を見つつ発芽したての種を土の褥へ丁寧に。ふわり被せられた土に顔をあげればアンジュと瞳が合って、
「……ええと、その、ありがとう」
「トゥエトリーナちゃんがひとつ幸せに進めたなら、アンジュも嬉しいんだよ」
 樹氷の森に春招く縁を紡いだ娘に礼を述べれば、擽ったそうな笑みが返った。
 贈り物には、聞くまでもない未来への言祝ぎを。
「誕生日おめでとう。君と出逢えた事に、一緒に過ごす事が出来る事に感謝を」
 そして、君のご両親にも――と続ければ、
「あのね、アンジュからもみんなにいっぱいありがとう!」
 みんながアンジュを育ててくれたから、と暁色が破顔したから、成程なとフェイクスターも眦を緩め、ある程度大きくなったらいい物だけを残して間引きを、とアドバイス。
「多少間引いた所で、ゴーヤは凄い勢いで茂るので大丈夫だろう」
「そう、それはもう物凄い勢いなのさね」
 深く頷いたユリウスが語るのは一昨年育てたゴーヤのグリーンカーテンの話。
 元気いっぱいすくすく育った彼女のゴーヤは自由気侭に蔓を伸ばし、
「見事に窓に蔓が絡まって、窓が開けられなくなったのさね……!」
「何それゴーヤさん超かっこいい……!」
「すごく強そうなのですよ〜!」
 逞しい生命力の脅威を真顔で語れば、アンジュとシャルティナからきゃーと歓声があがる。
 プランターは建物から適度に離し、ネットを張るより格子垣を、とユリウスが続ければ二人も神妙な顔で頷き、慌ててプランターの移動開始。
「きゃーシャルティナちゃんそっち引っ張ってー!」
「はいですよ〜! ひとつ賢くなったのです♪」
 お屋敷の窓が開かなくなったら大変なのです、と今聞いた話を胸に刻み、シャルティナも一生懸命お手伝い。帰って自分もゴーヤを植えられたら、きっと幸せ。
「ちょこっと休憩もどうでしょか? チョコあるですよ〜♪」
「氷たっぷりのアイスティーもあるよ!」
 少女の帽子から魔法みたいにチョコレートが現れれば、ヴリーズィが硝子ピッチャーから一足早い夏の幸せをグラスに躍らせる。跳ねる滴に弾けるのは冷たい紅茶の香りにシトラスフレーバー。
 ――お誕生日おめでとう、わたしもいつも隣にいるよ。
 リズちゃん大好き! と娘達が頬を寄せ合う様に瞳を細めて、ガーデニングに汗したクロービスも煌く幸せご相伴。実は僕もゴーヤ苦手だったんだと語り、
「で、色々試してみたら……薄く切ってツナと和えただけで、驚くほどアッサリ食べられたんだ」
「ツナいいよね! ツナと玉葱とゴーヤでマヨネーズサラダにするときっと食べやすいよ」
「美味しそうー! わあんはらぺこタイマーがきゅーきゅー鳴きだしそうなんだよ!」
 明かした組み合わせはヴリーズィからも太鼓判。
 夏空の青にゴーヤの緑が映える頃には、マヨネーズから手作りして食べようね、なんて親友同士で約束交わす娘達にクロービスも笑み深め、そっと言の葉を溶かす。
 僕、好きだよ。
「識って変わって、豊かになってくアンジュを見るの」
「あのね、豊かって言ってもらえるの、すごく嬉しい」
 笑みが咲けば柄じゃない己が言葉に笑って、いつもの調子で言祝ぎを。
 誕生日おめでとう。そしてようこそ、23歳のアンジュ。

●ラーラマーレ・セメンツァーレ
 真新しい銀色に輝くブリキの如雨露は細工師謹製の秘密兵器。
「見て見て虹だよクローディアちゃん!」
「まさにゴーヤ日和だねアンジュさん!」
 芸術的な蓮口から溢れる甘雨が陽射しに描く七色の煌き、はしゃぐ娘達に彼は満足気に笑んで、
「今ならこの如雨露も好きな色に塗ってやるぜ」
「夏空色でお願いします匠いけめん先生!」
 懐かしい言い回しをすれば打てば響くよう返る声。確かに繋がる辿り来た軌跡、それを振り返って語り合えるほど先へと来れた今が、なんと尊いことか。
「誕生日おめでとうアンジュ。――上質を知るイイ女になれたか?」
「満ちて溢れて、零れるくらいに!」
 悪戯な笑みと返った答えに、エアハルトも思いきり破顔した。
 虹の雨を注がれたゴーヤはきっと、きらきら光を零す緑のレースみたいに育つはず。瑞々しい緑を織り成して、泣きたいほど綺麗な木漏れ日を創ってくれる。
 胸に描いた夏が眩くて、その下でお昼寝したいな、と瞳を細めてクローディアが呟いたなら、一緒にお昼寝したいー! と暁色に抱きしめられた。溢れるように笑みが零れる。貴女に逢えて幸せ。
「お誕生日おめでとう。大好き。大好きだよ」
「あのね、アンジュも大好き!」
 虹に見惚れて水のやりすぎには気をつけて、と軽やかに笑ってロゼリアは、祝福いっぱい込めつつ苗のプランターをセッティング。苗の間隔は片手分位で、土はふっくらと。
「よく見れば何が必要かわかるわ」
「アンジュでも?」
「勿論♪」
 きっと毎日が嬉しい驚きの連続で。
 そうして育っていく緑は、胸と腕で抱きたいものにとても似てるから。
「幸せに、アンジュ」
「うん、ロゼリアさんも」
 いっぱいいっぱい、幸せになってね。
「よっしゃほな苗いこか! おっさんの白ゴーヤの苗も植えたってな」
「わたしもね、白いゴーヤの苗を持ってきたの」
「白い実が生るのー!?」
 手渡されたヴァレリーとアクアレーテからの贈り物は明るい緑の彩、けれど苦みマイルドな純白の実が生るという苗達にアンジュは瞳を輝かせ、白い鳥のピックと一緒にプランターへご招待。
 緑と一緒に使えば料理もいっそう華やか、ゴーヤ料理に合わせるならこれを、と柑橘割りも美味な泡盛の古酒も抱かせてやれば、飛びきりの笑みが咲いた。
「今度ヴァレリーさんがくだ巻く時はこのお酒で付き合わせてね!」
「くだ巻くんは決定かー!」
 きゃーと弾けた暁色の笑みに釣られ、ふわりアクアレーテの笑みも咲く。その輝きがあまりに眩くてずっと言えなかったけれど、今日は勇気を。
 夏空の街を愛するひとりとして、
「――アンジュのこと、お友達って思っていい?」
「うん! あのね」
 仲良くしてもらえたら、とても幸せ。
 春の緑と陽の彩揃え、ピノから贈るのは女王の呼名も高い薬草リキュール。そして勿論、丹精した苦みの少ない品種のゴーヤの苗。そう、単体で育てるなら。
「苦い子受粉しちゃったら苦くなるけどネー……」
「何かちょっとギャンブル!?」
 まあそれはそれでどんな実が生るかお楽しみ。けれど問題は、その実が熟した時だ。
「鳳仙花なんて目じゃないくらい、弾けるから。収穫しても油断してると弾けるから」
「そう、完熟ゴーヤは奥が深いよ! タイミングを逃せば木端微塵!」
「木端微塵なの!? 容赦なく!?」
 鬼気迫る真顔で忠告するピノの隣からずずいとルルも迫る。
 ――アンジュさんは2と3歳! なんと9歳のルルのほうがお姉さんだと判明したから、ここは確りと教えてあげなきゃ!!
 と、少女は熱き使命感に燃え、
「……で、去年のルルのゴーヤは全滅し、こちら、2代目の苗でございます」
 こそっと取り出した苗で空に皆の爆笑の花を咲かせた。
 空色プレートに書かれた文字は『木端微塵☆』。
 二人の苗の前にいそいそそれを挿すアンジュと瞳が合えば、互いに弾けるのは突き抜けるように楽しい笑み。彼女と逢えばいつも楽しかった。きっと、これからも。
 誕生日おめでとうとリウェスも祝意を添えて、
「そういや、いつも聞きそびれてたんだけど」
 小さく訊けば、三つ瞬いた娘が嬉しげに笑った。
「アンジュはずっと友達だと思ってるよ!」
 一緒に嵐の歓喜を享けた、あの時から。

 夏には苦手が好きに変わる、魔法のおうち。
 その本来の借り手たる男は甘いミントティーとオレンジビスコッティを皆に振舞って、暁色と最後の種を植える。彼がフードシードで作った種は、
「ハルネスさんの子供だから、アンジュの子供だよね」
「そうだね、あなたと私の子供だ」
 同じ目線で優しい土へと植える種。大好きと寄せられた頬に感じる笑みで、互いの歓びも嬉しさも同じだと識れる。この子も、皆から貰った種も苗も、大切に、大切に育てていこう。
 ふんわり被せた土のお布団の下へ呼びかける。
 早く出ておいで。一緒に泣きたくなるほど青い空を見上げよう。
 そして君達へ、あなたへ伝えたい。
 ――生まれてきてくれて、ありがとう。



マスター:藍鳶カナン 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:26人
作成日:2015/04/23
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