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追憶のブーケ

<オープニング>

●追憶
 死者を尊ぶ気持ちは多かれ少なかれ持つもの。
 それが親しき人であれば当然のこと。理由がなくともその人の眠る場に訪れ、色々と語りたいのだ。今日の実りの話。今日のご飯は何が美味しかったのか。そんな他愛の無い話を。
 そして――今、自分が幸せであると。それはまるで故人を安心させるかのように、語るのだ。
「パパと、お兄ちゃんに、会いたいよ……」
 それが小さな少女の、ささやかな願いだった。

●君に添える
「君達に、協力して貰いたいことがある」
 アクスヘイムの旅人の酒場にて、ユリウスはエンドブレイカーに向かいそう告げた。それは少し珍しい物言い。彼は藍色の瞳を軽く伏せ、何かを考えるように暫し黙ると――再び、唇を開いた。
「アクスヘイムに入れるようになったから、時々ふらりと散歩しに行くんだけど。そこで1人の少女のエンディングを視てね」
 エリクシルの願いにより、ソーンイーターは入れなくなっていた都市アクスヘイム。けれど平和になった現在は、問題なく彼らも入れるようになっていた。だからユリウスは、時々ふらりとあの都市を訪れる事がある。――その結果が、今回のお話。
「彼女から直接、村に居るアンデッドを倒してくれないかと依頼を受けたんだけど――」
 そう語る少女の瞳から視えた終焉は、自身がその敵に殺されるものだった。
 このままでは、1つの命を失う危険性がある。だからその前に、原因を無くしに行く協力者が必要だと少年は語る。元より、依頼を受けたからには行くつもりではあったのかもしれないけれど――。

 訪れるのは、アクスヘイムにある『リラ』と云う名の村。
 植物が多く、のどかなその場は決して発展した場では無くこじんまりとした村。
 だからこそ村人たちは仲が良く、互いに協力し合い、平和に暮らしている。
「この村には、死者を弔い定期的に祈る文化があるんだけど……」
 その墓地に、アンデッドが住み着いているらしい。そのせいで村人達は死者の元へ足を運べず、困り果てているとか。――そしてエンディングのように無理して足を運び、再び死者が出るのだろう。
 そんな未来を防ぐ為にも、今敵を倒しておく必要がある。
 現在生息しているのは全部で3体。それぞれ違う武器を持つスケルトンだ。カタカタと骨を鳴らしながら、攻撃を行うがその動きは決して早くは無い。体力は高めで多少タフだが、エンドブレイカー達ならばさほど苦労する相手では無いだろう。

「全て終わったら、お礼がしたいって。……依頼主の家族が言っていたよ」
 依頼主の少女の名はヴィオ。アーサラと云う名の母と、2人暮らしだ。――父と兄がいたのだが、2人は数年前に森で死んでしまった。少女が訪れたかったのは、2人の墓だろう。
 だからこそ、墓地は大切なもの。その場を救ってくれたお礼に、ささやかだけれどお茶会を開こうと計画してくれているとのこと。
「用意をして待っているって、言われてしまったからね……」
 ここは素直に、お言葉に甘えておくのが良いと少年は想った。
 墓地に訪れるのは重いお話かもしれないが、このお茶会からは気分明るく過ごしても良いだろう。夏の近付く眩しい日差しの下、少女の家の庭には真白の夏椿が咲いている。
 出されるお菓子も夏の涼しさを感じさせるもの。瞬く星のような金粉に、青のグラデーションが美しい水羊羹は夜空のよう。紫陽花の花のように、小さな花弁が集う水まんじゅうはうっすらと色が付けられ、七変化の言葉に相応しい色の変化を見せる。みかんの中に、甘酸っぱいみかんゼリーが入ったものは、正にみかんそのものを味わっているような感覚に。
 どれもこれも、冷たい緑茶との相性がいい。この季節のお菓子だ。
「どうやら和菓子が得意らしいね。甘さも控えめで、苦手な人も味わえるんじゃないかな」
 どのようにこのお茶会を過ごすのかは、個人の自由だけれど――お友達も誘っていらしてくださいと。アーサラから言伝を貰ったとユリウスが語る通り、少しならば人数が増えても大丈夫だろう。
 まずは墓地での戦闘。その後はのんびりと、平和なひと時を楽しむのがこの日の予定。
 
「ああ、あとこれ。この花を、お墓に添えて欲しいって頼まれたんだ」
 先ほどからユリウスが手にしていたのは――ライラックの花束。
 それは少女が、大好きな父と兄の為に用意したものなのだろう。美しい花咲き誇る、この村で育てられたものに違いない。様々な想いの籠ったその花束を、平和になった証に添えて欲しいと。少女は想っているのだろう。
 だから、この花を添えてくれる人がいるのなら是非、と。ユリウスは集うエンドブレイカー達に向け語る。――誰もいなければ、僕がやるからと。最後に言葉を添えた。


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参加者
明仄をさす右手・デクスタ(c08735)
金瘡小草・コクーン(c15417)
八重桜・シュトレン(c21485)
キララ・サヤ(c23230)
ナイトランスの自由農夫・ベネディクト(c34979)
月下に翼・ノノヴァン(c35656)
醒魔剣士・アスティア(c36094)

NPC:鞭のソーンイーター・ユリウス(cn0182)

<リプレイ>

●墓闇へ
 巨大な斧のモニュメントがこの都市に戻ってきてから、月日が経った。
 あの恐怖の日々は、人々の記憶から薄らいでいく――マスカレイドが滅んだことで、アクスヘイムに限らず人々は平和に暮らすことが出来るようになったから。
 けれど。それでも生を廻る人間にとって、死と云うものは避けられない終焉。だからこそ、人々は亡き人を慈しみ、心に留め続けるのだ。

 カツン――洞窟の中に、足音が響く。
 それなりの深さのある洞窟は照明など無く、闇に包まれている。頼りになるのは、各々が用意した灯りのみ。八重桜・シュトレン(c21485)の腰に下げられた、灯篭が揺れる様を眺めながら。
「洞窟の中にお墓があるなんてちょっと珍しい、ね」
 月下に翼・ノノヴァン(c35656)は、囁くようにそう告げた。いつの時代も、死者の眠る場所は厳かで無ければいけないと、彼女は想う。
「亡き人を祈る気持ちは……何となく、解る」
 村の伝統を思い出しつつ、キララ・サヤ(c23230)は瞳を閉じ口元を和らげ語る。――祈れば、今のように瞼を閉じた時。両親が名を呼んで、微笑みかけてくれるような気がするから。
「大切な家族との語らいの場ですものね」
 水色の瞳を軽く伏せながら、明仄をさす右手・デクスタ(c08735)は辺りを見回しつつそう零した。闇に包まれた洞窟は、普通の場所とは違ってどこか神聖に感じるのは気のせいか。流れる空気も、どこか冷たく人々を導くように感じる。
 亡き人に会いに行く事。語り掛ける事。それは分かると、彼女達の会話に金瘡小草・コクーン(c15417)が頷き口を、開こうとした時――。
「しっ」
 最前列を歩いていたナイトランスの自由農夫・ベネディクト(c34979)が、口に人差し指を当て後ろを振り返りつつ零した。慌てて声を漏らさぬよう、口に手を当てるコクーン。
 突然洞窟が曲がるかと思えば、その奥は開けた空間らしい。そして、何やら影が動いている。恐らくあれが、倒すべき目標。
 灯りがある以上、姿を現せばすぐに気付かれてしまうだろう。先手取るには、すぐに攻撃に移る事が大切。視線を交わし――真っ先に駆けたベネディクトのランス、Nightriderの切っ先が敵を突いた。

●失われし、骸
 不意の攻撃に、反応が遅れるスケルトン。カタカタと骨の音を洞窟内に響かせながら、古びた刃を構えるその隙に。ベネディクトと息を合わせたデクスタが、斧を持つ敵へと駆け爪を煌めかせる。彼女に続くように、コクーンも敵を一斉に薙ぎ払った。――辺りにある墓標を壊さぬよう、注意を払いつつ長い棍を操る彼の血色の眼差しは、いつもとは違う、少し真剣なもの。
「ヴィオが此処に眠らないよーにエンディングは、壊す」
 目の前の剣を構える骨に向け、意志を告げる彼。その彼の横を、邪剣が通り過ぎた。
「肉親を喪ったつらさは私にも分かるから……その思いを消させはしない……!」
 3人が2体を抑えるように動くのを、後方から眺めつつ。奥に居る弓を持つ骨を捉えた醒魔剣士・アスティア(c36094)の声が、洞窟内に響き渡る。
 淡い花のような瞳で、奥の敵を見つめるシュトレン。桜色の竪琴white serenadeを細い指で弾けば、辺りが眩い光に包まれ激しい旋律を奏で出せば――大きな瞳が、悲しそうに伏せられた。
 倒される敵に、苦しげな表情を浮かべる。けれど、命を摘み取る事は絶対にいけないと想うから。
「どうか安らかに……おやすみなさい」
 光に包まれた弓を持つ敵を見つめ、彼女がそう零すのと同時に。サヤの放つ神符が一気に燃え上がり、敵の身を焦がす。
 カラカラと鳴り響く骨の音。振るわれる斧の傷をデクスタが受ければ、続く剣の攻撃をコクーンは棍で防いでみせた。――しゃん。衝撃を受け、鈴導に飾られた銀色の鈴が音色を奏でる。
 その音に乗せるように、ひらりと長い真白の髪を躍らせるノノヴァン。ディノスピリット共に駆ける彼女の真白は、黒衣のコクーンとは対照的。鞭を伸ばした鞭のソーンイーター・ユリウス(cn0182)が追い打ちを掛けると、ベネディクトの放つキノコの煙が洞窟を包み込む。
 幻惑にとらわれ、起こる爆発に崩れる骨。屍ゆえに、怯む事の無い敵。けれど残る1体も確かに弱っている。デクスタが魔方陣を流星の刃に施し、敵を攻撃する中。受けた斧傷をサヤが癒す。
 隙の無い彼等の動きに、崩れそうになるスケルトン。最後の対象を見据え、ノノヴァンは。
「ふふ、見送ってあげる。安らかにお眠りなさい」
 長い髪から覗く、金色を細め笑む彼女。言葉と共に三日月の護刀を突き立てる。敵は苦しげな動作をするが、声は聞こえない。けれど――確かに手応えを感じた。
「死者なら死者らしく、大人しく眠っていることね……」
 その一撃の流れを見ていたアスティアは、最後にその一言を零した。
 カラン――響く骨の落ちる音。その音を最後に、洞窟内は一気に静寂に包まれた。

●墓標に添える、想い
 静寂の中――彼等の持つ灯りの数々が、墓標を照らし出す。
 ベネディクトの意見から、傷付けないようにと入口に置いてあった花束を取って来たユリウスは。先に依頼者から聞いていた墓標に近付くと、ライラックの花束を添える。するとシュトレンも白の夏桜を、ベネディクトが向日葵の花をそれぞれ添えた。
 誰からでも無く自発的に――彼等は瞳を閉じ、手を合わせる。
「墓前騒がせてごめんなさい。これからまた、アーサラさん、ヴィオさんが来られるようになります」
 そう呟いた後、デクスタは水色の瞳で文字の刻まれた木造りの墓標を見つめる気付いた。――アクスヘイムに居る大切な人の墓とは、随分とご無沙汰だと。
(「話す事、たくさんありますね……」)
 瞳を緩め、微かに笑みそう想う。それに気付けたのは、きっと今日この日のお陰。
「メメントモリ……死を思え、忘れるなって警句があるよね」
 そんな言葉を聞いたことがあると――ベネディクトは揺れる花弁を見つめつつ零す。
 生死は誰にでも平等で、身近な事だから。この村では生前も死後も、寄り添うように暮らしていると想うと、その言葉を連想する。
 そんな彼の呟きにユリウスは。
「……そう、死があるから。忘れずに今を大切にしないといけないんだ」
 頷きと共に言葉を零す。その瞳は、どこか強い意志を宿していた。
 ――祈りが終わり、彼等は洞窟を後にする。父親の事を思い出していたアスティアも、立ち上がり仲間の後を追う。
 立ち去る間際――崩れ落ちた骨を見て、シュトレンは悲しそうに俯く。
 平和で無い世界で、沢山の命が喪われ沢山の人が悲しんだ。だからシュトレンは、平和になったらもう一度振り返り祈ると決めていた。
 今日は一区切りの日。
 全ての命をすくう事は難しい。失くしたものは悲しいと感じ、涙が滲むけれど――その心を胸に留め、進んでいこうと誓いを立てる。
 そんな、悲しそうな友人を見上げつつ。同じようにサヤも、骨に向け悲しみを向ける。――彼等も、昔は誰かの大切な人だったのかもしれない。けれど、だからこそ、願いはシュトレンと同じ。
「……おやすみなさい」
 墓標を振り返り、サヤは小さな声でそう呟いた。
 ふわりと薫る花の香は――どこまでなら届くだろう。

●溢れる涼と、夏椿に
 戦いから戻って来た彼等を出迎える、ヴィオとアーサラ。2人に導かれるまま、エンドブレイカー達は白いテーブルクロスの掛かるガーデンテーブルに近付く。
「お帰りユリウスさん」
 そこで彼等を待っていた青年、ラツ(c01725)が声を掛ければ。ユリウスは微笑み手を上げた。
「あれ、僕にはお帰り無し?」
 首を傾げベネディクトがそう問えば、お疲れさまと声が返る。――彼は夫人と少女と、共にここで待っていた。楽しいお喋りと共に彼等が整えたテーブルの上には、涼しげなお菓子がずらりと並ぶ。
 アーサラ夫人が、冷えた緑茶のグラスを目の前に置いて行くのに、デクスタは礼を述べた後ふぅ――と息を吐いた。先ほどまでの気持ちは、陽射しの中の夏椿を見ていくらか晴れた。
「本当に、ありがとうございました」
「ボクにとって骨退治は趣味の域、よ」
 深々と礼をする夫人に、ノノヴァンは首を振る。――神聖な墓を守る事が、彼女の役割だから。むしろ、このような場に招待頂けたことが嬉しいと語る。
「お花は?」
 語る夫人の横から、蜜色の髪をした少女が問い掛けた。10歳くらいのその少女に、きちんと備えてきたと答えるユリウスが。
「シュトレンとベネディクトも、花を供えてくれたよ」
 2人の名を挙げ、視線を送れば――少女は笑い、感情を表現するようにその場で跳ねた。その様子に、2人は嬉しそうに笑みを零す。
 すごく楽しみにしていたと、零すコクーンは目の前の蜜柑のゼリーに釘付け。サヤは色移り変わる花の水饅頭に惹かれるし、並ぶ色合いに宝石のようだとシュトレンの瞳も輝く。
「いただきます」
 手を合わせシュトレンが呟けば、並びコクーンとサヤも手を合わせる。
「んー! お蜜柑、だ。んまんま」
 匙を入れ一口食べれば、口に溢れる蜜柑の爽やかな香りにほにゃりと、コクーンは笑む。そんな彼の言葉に反応したのか。足元で大人しく座っていたコヨーテが、欲しいとアピールするように彼の足に鼻先を当てた。その仕草にまた、ほにゃりと彼は笑うとゼリーをお裾分けしてあげる。
 ――楽しそうな彼等の様子を見て。
「あ、あの……」
 遠慮がちに、声を掛けるのはアスティア。
 顔を上げ、小首を傾げる3人に。深呼吸した後、勇気を出して彼女は問い掛ける。
「こういう所で楽しく過ごすには、どうしたらいいか、分かる……かしら?」
 お茶会の経験が無いアスティアは、どうしたら良いのか分からない。目の前に置かれたグラスにも、色とりどりのお菓子にも。一切手を付けていない様子から、今までずっと戸惑っていたのだろう。
 緊張がゆえに両手を握りしめ。視線を泳がす彼女を見て――。
「おいしー、って思えれば、いーと思う、よ」
「和菓子は、素敵だから……」
 コクーンが語れば、サヤも頷く。美味しいものを一緒に食べることで、紡ぐ絆はある筈だから。
「あ、ありがとう……そ、それじゃ、一緒に楽しみましょう……」
 普段のクールな見た目とは違い、そう語るアスティアの顔に嬉しそうな表情が現れる。そんな隣の彼女に。ノノヴァンは紫陽花水饅頭を差し出した。
「アスティアさんも、どうぞ。おいしい、わ」
 可愛くて綺麗な水花が、隣にも咲く。――こんなお洒落な食べ物もあるのだと、感心したように、感動したようにノノヴァンは零しながらまた1口。
 並ぶ2人は少し緊張気味だったけれど。言葉を交わし、同じ和菓子を食べている間に緊張が解れていく。ふわりと風が吹くと――ノノヴァンの真白の髪と、アスティアの黒の髪。対照的なその色が、風に乗せて揺れた。

 ざくり、ぱくり。ざくり、ぱくり。
 無表情のまま紫陽花の水饅頭を食べるサヤは、相変わらずいくらでも入るよう。けれど、それはお菓子が美味しいからこそ。ひんやりつるんとした食感は、暑い夏にぴったり。七変化を見せる花弁の色合いに、ふと隣の少女を見遣る。
「……シュトレンみたい、綺麗」
「そ、そうですか? えっと、こっちもとても美味しいのですよ」
 照れたように頬に手を当てた後、シュトレンが示すのは星空の水羊羹。夜空に瞬く星に、優しい味わいはまるでサヤのようだと想うから――お返しのように勧めれば、こくりと頷き彼女は星を一口。すると、膝の上に乗って来た2匹のバルカンも、欲しいと言うように尻尾を揺らす。
 閉じ込められた金の綺羅星。色移り変わる紫陽花の花弁。
 2人の口に運ばれる星と花弁。その美しい様を、お菓子で再現できるなんてすごいと、嬉しそうに語るコクーン。だからこそ、この蜜柑の味も共有したい――シュトレンの視線に。
「おいしー、よ。みかーん」
 上機嫌でそう零していた。
 彼のその言葉に後押しされたように、シュトレンも蜜柑を1つ目の前に寄せる。匙を入れるのは、まるで蜜柑に匙を入れているような錯覚に。――1口食べれば。
「!! 丸ごとお蜜柑です!」
 大きな瞳を見開き、口元に手を当て感動を語る。一緒にサヤも、蜜柑の香りまで楽しめるなんて、贅沢と感じていた。2人のその様子に、コクーンも満足げで。
 並ぶ和菓子のような宝石を、友と一緒に食べるひと時は至福。冷茶との相性もまた、心地良い。
「俺、大好きだ、よ」
 ゆるりと瞼を閉じ、語る少年。――庭の白椿もまた、今日の日の思い出に色濃く残るだろう。

 ――賑やかな仲間の語り合いを、心地良さそうに聞きつつ。
 水饅頭を手にしながら、ラツは友に問い掛けた。今回の依頼で、どう想ったか。
 緑茶で喉を潤していたベネディクトは、言葉を探るように考えを巡らせた後口を開く。
 死は必ず訪れる。だから今別れていても、いつかは必ず同じ場所で再開できる。その時土産話をするなら、楽しい話題が多い方がいい。
「生は楽しめ、かな」
 笑い、そう零すベネディクト。同意するように頷くラツは、この日々を護り、永く続けていかなければと想う。――ユリウスは、どう思った? 問い掛けられた少年は、グラスから口を外すと。
「残される人も、心の持ち様だと……感じたよ」
 ……いつかは同じ場所で再開出来る。先ほど聞こえた言葉を、心で反芻しつつ語る。
 語り合う彼等に視線を送った後。デクスタは、緑茶のお代りを注いでくれた夫人に語り掛けた。
「お庭のお花、綺麗ですね……」
「夫が、花が好きだったもので」
 懐かしそうに瞳を細め、夏椿を眺める。特に白い花が好きだった、そう語るアーサラはやはり寂し気。けれど口に出来ると云う事は、既に死を乗り越えているのだろうか。
 花が好きな優しい旦那と、ヴィオの事を大切にしていた長男。元気いっぱいで手を付けられなかったけれど――そう、思い出話を紡ぎかけた時、はっと彼女は気付いた。
「嫌だわ、お客様に向かって。ごめんなさいね」
「いえ、嫌でないのなら……聞かせてください」
 謝る夫人に、首を振りデクスタは笑みを返す。――彼女の口から語られる、思い出話は心地良い。
「パパとお兄ちゃんの事なら、私だっておしゃべりできるわ」
 2人の話を耳にして、デクスタの隣に腰掛けるヴィオ。水羊羹を共に食べながら、彼女達は話に花を咲かせる。過去の思い出を――語る2人は、やはりとても幸せそうだった。
 その姿から、やはりこの村では『死』は特別なものであると分かる。
「どうかこの村がいつまでも幸せでありますように」
 祈るように、小さな声でノノヴァンは零す。
 それは墓守としてか、それとも幸せな光景を見ての感想か――。

 夏を告げる夏椿の香りが、届いた気がした。



マスター:公塚杏 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:7人
作成日:2015/07/28
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  • ハートフル3 
冒険結果:成功!
  • 生死不明:
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