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ゆずひよこゆずひるね。

   

<オープニング>

●ゆずひよこゆずぷるり。
 優しい春の陽射しに彩られたミルフォリ村は柚子の村。
 眩い黄の色に熟した薫り高い柚子の収穫はもうすべて終わったけれど、ミルフォリ村やその周りの柚子の果樹園、そして辺りに広がる野山には、爽やかで甘酸っぱい、心くすぐるような柚子の香りがほんのりふわふわ漂っている。光風にそよぐ柔らかな春草の草原を見れば、握りこぶし大のまるくて黄色い柚子の実みたいな何かが幾つも幾つも転がっていて、柚子の香りはその黄色のまんまるからほわほわふわふわ漂ってきているらしい。
 柚子の実そっくりなそのまんまる達は春草の上をころころ転がり、ぽんぽん跳ねて、
『ぴよ?』
『ぴよ、ぴよぴよ!』
 可愛く鳴いた。
 握りこぶしサイズの黄色いまんまるの名前はゆずひよこ。
 眩い黄色の羽毛がほわほわする柚子の実みたいなまんまるボディに黒くてつぶらなちっちゃな瞳、そしてちまっと愛らしいオレンジ色の嘴がキュートな、この辺りにのみ生息する鳥だ。
 愛らしくて人懐っこいゆずひよこはミルフォリ村周辺のひとびとのアイドルで、ゆずひよこたちがその辺を転がったりびよびよ跳ねたり、ぽふっとひとの掌や肩や頭に飛び乗ってきたり、柚子の木の枝ですずなりになって柚子の実のフリをしたりしている姿は皆の心をほっこり和ませてくれる。
 けれども一番の幸せは、自分の掌にぽふっとおさまったゆずひよこにそっと頬ずりしてみることだ。
 眩い黄色の羽毛のほわほわ、小さないのちの優しい温もり、頬に感じるそれらに笑みが零れれば、ゆずひよこからふんわり溢れる柚子の香りが胸いっぱいに満ちていく。
 小さくてあたたかで、けれどたっぷりと心を満たしてくれる幸せに溢れるミルフォリ村。
 そんなミルフォリ村は――この春ちょっとだけ困っていた。

 春の幸せそのものみたいに優しい陽だまり溢れるミルフォリ村は、ここ数日飛びきり幸せな香りに包まれていた。ふわふわした熱と一緒に感じる甘い卵にバターの香り、そして花咲くように溢れだす甘酸っぱい柚子の香り。
 焼きたての菓子特有の、どんな塞いだ気持ちも一瞬で幸せいっぱいに染め変えてくれるこの香りの正体は――ミルフォリ村のひとびとが村の新名物にしようと鋭意試作中の柚子スフレだ。
 ころんとしたマグカップに入れて焼かれる柚子スフレはふんわりまぁるく、金色にふくらんで、まるでマグからゆずひよこが顔を出したかのように焼きあがる。
 熱々ふわふわのそれを匙で掬って口に運べば、たちまち口いっぱいに広がる柚子の香り――。
 柚子好きには堪らないそのスフレを飛びきりの逸品にすべく、村のひとびとは日々スフレの改良に勤しんでいるのだが、

 籠いっぱいに盛られた柚子の実に手を伸ばせば、
「よし、まずはこの柚子の実を搾って……」
『ぴよっ!』
「ああっ!? 柚子じゃなくてゆずひよこじゃないか! また擬態してたんだな、こ〜いつぅ☆」
『ぴ〜よ〜♪』
 柚子の実に擬態していたゆずひよことのいちゃいちゃに突入し、

 いざスフレを焼こうとすれば、
「さあ後はカップに生地を入れて焼くだけ……って、あら? もう柚子スフレが完成してる!?」
『ぴよぴよ!』
「まあ、ふっくらまんまるに焼き上がった柚子スフレかと思いきや、ゆずひよこさんじゃないの!」
『ぴよぴよ、ぴよー!』
 すっぽりマグカップに収まって柚子スフレに擬態していたゆずひよことのいちゃいちゃに突入する。

 勿論ちゃんと見ればすぐゆずひよこだと判るのだが、あまりのその可愛さに『ゆずひよこの擬態を褒めてあげたい!』と、そして褒められたゆずひよこの歓びように『一緒に遊んであげたい!』という気持ちが抑えきれなくなってしまうのがミルフォリ村のひとびとだ。
 こんな調子で、試作はなかなか上手くいっていなかった。

●さきぶれ
「その気持ちよくわかる! ものすごくよくわかる!! だって相手はゆずひよこさんだもの!!」
 紫煙群塔ラッドシティの酒場で、雁渡の狩猟者・アンジュ(cn0037)がゆずひよこ愛を炸裂させた。
 だってゆずひよこならしょうがない。
 可愛いゆずひよこさんがそこにいたら、いちゃいちゃせずにはいられないのだから!
 もちろんミルフォリ村のひとびとはゆずひよこを愛でるプロだから、普段ならゆずひよこときゃっきゃうふふしながらばっちり作業もこなせるのだが、今回は柚子スフレの試作が難航しており、ちょっぴり困っているのだとか。
 しかし、そこにゆずひよこがいる限り、彼らのゆずひよこ愛を止めることはできない!
「ってなわけで、村人さん達がスフレ作りに集中できるようお手伝いに行こうと思うの! 思うの!」

 村に遊びにきて村のひとびとと戯れていくのは、ペットではなく、村の周りの柚子の果樹園、そして辺りに広がる野山に暮らしている野生のゆずひよこだ。
 人懐っこいゆずひよこ達は、村から漂ってくるスフレの香りや新しいことが始まるわくわくした気配に惹かれ、毎日ぴよぴようきうきと大勢でミルフォリ村に遊びにいっているらしい。
 つまり、ゆずひよこ達が村に行かないよう、足止めすればいい。
 だが力尽くは可哀想だし、すべてのゆずひよこを相手してやれるだけの人手を集めるだけの時間もないのが難しいところ。何せゆずひよこはヤキモチやきだ。ひとりが何羽も相手しようものなら、
『ぴ、ぴよぴよ、ぴよー!!』(う、浮気者ー!!)
 と泣いて駆け去って、そのままミルフォリ村に遊びにいってしまうに違いない。
 ならどうするかというと!
「ここはね、お昼寝大作戦でいこうと思うの!」

 たとえば、光の滴みたいな木漏れ日の降る果樹園の柚子の樹々にハンモックをかけて。
 たとえば、光風にそよぐ柔らかな春草の草原で、春陽と芽吹いたばかりの草の匂いに包まれて。
 麗らかな春を満喫しながら、飛びきり幸せにお昼寝して見せたなら――辺りでぴよぴよ弾んでいるゆずひよこ達が幸せな気配に惹かれてやってきて、そのままうとうとしてしまうに違いない。
 もしも運命のゆずひよこに出逢ったなら、そうっと頬ずりしながらお昼寝してもいいし、既に運命のゆずひよこに出逢っているなら、里帰りついでに一緒にお昼寝を楽しめばいい。
 あったかなお昼寝の幸せが溢れだしていたなら、他のゆずひよこ達もヤキモチやくより前に思わずうとうとしてしまうだろう。
 何しろ春だ。うとうとさせてしまえば、たっぷりお昼寝タイムに突入間違いなし。
「んでも、ただお昼寝してるだけじゃスフレの誘惑に負けるかもしれないから、色々工夫して飛びきり幸せなお昼寝を演出する必要があると思うの! 思うの!」
 おひさまの匂いたっぷりのふんわり毛布を用意するとか、優しい香りのポプリを忍ばせたふかふかクッションを用意するとか。あるいは、誰かがヒーリングやリラクゼーション的な音楽を奏でる傍での幸せお昼寝空間を演出するのも良いかもしれない。
 そうしてたっぷりお昼寝を満喫して、幸せな目覚めを迎える頃には――。
 絶品の柚子スフレが出来上がっているはずだ。

「ぜひ試食を! って言われてるから、ゆずすふれも食べていこうね! いこうね!」
 ゆくゆくはミルフォリ村の新名物になるだろうゆずすふれは二種類ある。
 濃厚な卵とバターの風味にクリームチーズと柚子の酸味が爽やかに利いたふわふわすふれ。
 そして、植物性の食物を好むゆずひよこと一緒に食べられるようにと作られた、アーモンドミルクとココナツオイル、そして豆乳ヨーグルトと柚子を使ったほわほわすふれだ。
 お昼寝を満喫して、ゆずすふれも堪能できたなら、
「あのね、また逢おうね」
 こんな幸せがすみずみまで広がっていくだろう、この世界の何処かで、きっと、また。


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参加者
陽若竹・ランシェ(c00328)
花紺青・ユウ(c01588)
翠狼・ネモ(c01893)
ハイパーゆずひよこ系ハンサム・ハルネス(c02136)
陽凰姫・ゼルディア(c07051)
勿忘草・ヴリーズィ(c10269)
ローリング毛刈り系狩猟者・ルル(c36499)

NPC:ハイパーゆずひよこ系狩猟者・アンジュ(cn0037)

<リプレイ>

●ゆずひよこゆずだまり。
 春草の草原は陽だまりというより幸せだまり。
 優しく降るおひさまの光は飛びきり柔らかな綿毛で心まで包んでくれるようで、ふうわりと心地好く流れる風は明るい萌黄色の春草をそよそよと唄わせてくれる。
 光の珠のように咲く白詰草やタンポポも可愛くて、歓声あげた勿忘草・ヴリーズィ(c10269)は、
「わあ、すごく大きなタンポポが咲いてる! って、あれ……わたしのゆずひよこだったよ!!」
『ぴよぴよ、ぴよー!』
 もっと可愛く草の上でぷるぷる擬態していたゆずひよこに飛びつかれ、おひさま柚子色のふんわり毛布を広げた花紺青・ユウ(c01588)も、
「のんびり出来るといいね、ゆずっこ……が、いない!? ――と思ったらこんなところに!!」
『ぴよぴよ〜♪』
 ふわふわの波間でおんなじ色してころころしていたゆずひよこと幸せきゃっきゃうふふ。
 春陽でひときわ羽毛をふっくらさせたお婿さんを掌に乗せた陽凰姫・ゼルディア(c07051)は、黒くてつぶらな瞳を真摯に見つめ、
「あのね、お婿さんの見事な真似っこ力で助けて欲しいの」
『ぴよ!』
「気持ち良くころりとお昼寝のふりして、ね?」
 気合を入れた拍子にぽふっと柚子の香りを溢れさせた婿に、ちゅ、と口づけ。
『ぴよ……!』
 ちっちゃな嘴から返るキスに頬を緩め、肩に婿を、膝に二胡を乗せて弾きはじめたなら、遠い日を愛おしむような音色が春草の草原に流れだした。
 春草の波にやわらかに寄り添う、きっと初めて聴くだろう優しい音色に興味を惹かれ、
『……ぴよ?』
『ぴよっ!』
『ぴ〜よ〜♪』
 草原のあちこちからぴよっと顔を出したゆずひよこ達がころころ転がって来れば、辺りはあっと言う間にゆずひよだまり。ゼルディアと瞳見交わせば二人同時に笑みが零れ、ヴリーズィが笑んだ唇で子守唄を口遊めば、二胡と弓を置いたゼルディアも唄声を重ねて柔らかに響き合わせていく。
 魔曲使いに歌劇女優、本職の二人ほど歌に自信はないけれど、ぴよっと膝に弾んできたゆずっこに聴かせるよう、ユウもそうっと子守唄を歌いはじめた。
 甘酸っぱい柚子の香ほんのり含んだ風が、柚子の果樹園に木漏れ日を踊らせる。
 大切に手入れされている果樹の森、光を撒いたような新緑にも、ふっくらとしはじめた小さな蕾にも翠狼・ネモ(c01893)は目元を和ませ、陽若竹・ランシェ(c00328)も瞳を細めつつ樹々にハンモックをかけていたが、そこへ村の方から魅惑の香りが漂ってきた。
 甘い卵にバターの香り、そして熱を帯びてふわっと花開く柚子の香り――。
「流石ゆずすふれ、なんて魅惑的な香り……! けれど今は無事完成のため、誘惑に抗います!」
「そうじゃな、わしらの徹底抗戦と足止めが勝利に繋がる――と」
 何とも贅沢な戦いもあったものじゃ、と小さくネモが笑みを零せば、きりりと誓ったランシェもすぐにほんとです、と笑み崩れ、ハンモックのクッションでぴよぴよ呼ぶゆずひよこの隣に腰掛けた。
 柄に布を巻いた剣琴を抱き寄せれば梢の葉ずれの唄と遠い二胡の音色に耳を擽られ、合わせてランシェも涼やかな音色を紡ぎだす。
 彼とゆずひよの睦まじさに微かな羨望抱きつつ、ネモも己のハンモックに横になった。ぽふっと頭を乗せた枕から溢れだすのは、穏やかで清涼な香り。
 ラベンダーにミント、薔薇をほんの一匙と、砕いたレモンユーカリ。
 香草は幾つか混ぜた方がよりよく香る、と昔教わった通りに。
『ぴよ?』
『ぴよぴよ……ぴよ?』
『ぴよ!』
 見上げた梢には鈴なりのゆずひよこ達。甘いスフレの香りにそわそわしていた彼らが新しい香りと涼やかな音色にぴよぴよ興味を示す。
 ――ああ、やっと逢えたな、野に生きるおぬしらに。
「さあ、お昼寝大作戦開始だ」
 果樹園からふんわり伝わる幸せに笑って、ハイパーゆずひよこ系ハンサム・ハルネス(c02136)が陽だまりにたっぷり干したブランケットを広げれば、春草の草原にひときわぽかぽかしたおひさまの匂い。そこに霧吹きで淡い虹を描けば、
『ぴ、ぴよ……!』
「オレンジミスト……!」
 夏空の街香るオレンジフラワーウォーターの霧雨がふんわり春陽に溶けて、おひさまの匂いを甘くシトラスな花の香りで優しく潤した。ぷるぷる感激するゆずひよこさん、歓喜に顔を輝かせるハイパーゆずひよこ系狩猟者・アンジュ(cn0037)。
「あはは、アンジュもゆずひよこさんもシュッシュするかい?」
「したいー!」
『ぴよぴよ、ぴよー!』
 春の陽射しに優しく響く子守唄。そして幾つも生まれる小さな虹が心地好い風に乗せる花の香り。今にもとろり目蓋が落ちそうになるけれど、ローリング毛刈り系狩猟者・ルル(c36499)は、
「たとえどんなに眠くとも! 寝ろと言われたら全力で拒絶する! それがちびっ子!!」
『ぴよぴよ!』
 先程意気投合したゆずひよこと一緒にシャキーンとポーズを決めてお昼寝大作戦に抗った。
「ふふふ、油断したなエンドブレイカー……酒場でおとなしくしていたのはこのためよ!」
「ってかルルちゃん酒場で注目度ナンバーワンだったよ!」
「ええ、みんなのアイドルだったわ」
「……………酒場でアイドルしていたのはこのためよ!!」
 無邪気にツッコミ入れたアンジュとゼルディアの眼差しが何だかとってもあたたかい気がしたけれど気にしない! 反抗期に突入した9歳児は意気揚々とお手製の絵本の読み聞かせを始めた。
 これでゆずひよこも眠気を忘れて夢中に!
 ――と、思いきや。

●ゆずひよこゆずひるね。
『ゆずひよこ銭湯 作・絵:ルル』
 暖かな陽射しにクレヨンの筆致も豪快、もとい元気な絵本を広げて、春草の上に寝そべっての読み聞かせ。柔らかな春草もルルの頬も優しく擽っていく風に吹かれる中でのそれは、
「ゆずひよこゆずぷかり……今日は銭湯、ゆず、日和……」
『ぴよ、ぴよぴよ……ぴー……』
 ルル自身とゆずひよこの意識をひなたのバターみたいにとろとろ溶かしていった。
 うつら、うつら。
「くう……ルルはもう駄目だ、同士ゆずひよこよ、ルルの分まで戦っ……」
『すぴー……』
「……爆睡しと、る……」
 9歳児、沈没。
 すぃよすぃよと聴こえてきた寝息に眦緩め、ハルネスもぽふっとふかふかクッションに沈む。
 あったかおひさまの匂いにオレンジミスト、そして極めつけの武器は。
 ――オレンジフラワーの石鹸でお風呂に入ってきたばかりのこの私!
「ささ、ゆずひよこさん、私の背中でいつものころころマッサージお願いします!」
『ぴよ!』
 ブランケットもかけていそいそとうつ伏せになれば、ぴよっと背に飛び乗ってきたゆずひよこさんがころころローリングを始め、
『ぴよ、ぴよ……ぴー……』
 幸せな香りと春の陽気、そして風呂上がりな彼の体温の心地好さにそのままお昼寝の国へ。
「そこなゆずひよこさん達もおいでおいで」
『ぴ、ぴよ!』
 遠巻きに見ていたゆずひよこ達も呼ばれれば次々ぴよっとハルネスの背に乗り、ぴよぴよころころおやすみなさい。背中のゆずひよだまりに天国気分で、
「アンジュも一緒にお昼寝どうだい?」
「……! 狡いんだよ抗えるわけないんだよ!!」
 クッションをぽふぽふしてみせれば、小声で叫ぶという小技を披露した娘が、大好きな香りを纏った世界で一番大好きなひとの隣に潜り込んできた。誰より傍で重ねる眼差しが、暖かに蕩けて。
 すごく、しあわせ。
 柔らかな春風みたいな子守唄を唄っていたユウの口からも、ほわ、と零れる小さなあくび。ちっちゃな嘴からもぴよ〜とあくびが洩れればそっと目と目で通じ合い、
 ――ほら、ふかふかお昼寝気持ちいいよ!
 と周りのゆずひよこ達にアピールすべく、ふかふかクッションと毛布の波間にぽふんとダイブ。
 ふんわり毛布にころんとくるまれば演技するまでもなく――おやすみなさい。
 ふふ、皆だいすき。
 お昼寝の国へと旅立ったユウの唇がそう紡いだ気がして、ヴリーズィとゼルディアが微笑み合う。優しく響き合う互いの子守唄は春草にきらきら踊る光の粒子みたいで、
「こうして一緒に歌ってみたかったの。だからありがとうだよ」
「私もありがとう。ふふ、とても幸せ」
 幸せ囁き合えば胸の中でも優しい光が跳ねた。
 周りでぴよぴよすやすや眠り始めるゆずひよこ達にもひときわ幸せな子守唄を。
 ――どうか夢の中でも仲良くしてね。
『ぴよ……!』
 ほわほわほっぺをくっつけてくれるゆずひよこ。
 嬉しいね、幸せだね。夢の中でも、大好きだよ。
 彼女が微睡みに揺蕩いだす様は結んだリボンがふんわりほどける様を思わせ、きっと張りつめていたのね、とゼルディアの眦が緩む。二胡を置いて空いた膝には奏燿花・ルィン(c01263)を膝枕。
 ころんと転がった婿なゆずひよの柚子色ほわほわを撫で、この上なく幸せそうな笑みで寛ぐ大切なひとの夜色くせっ毛を柔らかに指で梳き、一羽と一人にそうっと落とす、大好きの口づけ。
 ――なんて、幸せ。
 優しく涼やかな風渡る果樹園では、細波めいた梢の音色も子守唄。
『ぴよ……』
『ぴよぴよ、ぴー……』
 木漏れ日揺れる果樹の森のあちこちでお昼寝の国に旅立つゆずひよこ達。南国の花ふんわり香る枕元にいつのまにか転がっていたほわほわに頬を寄せ、馥郁・アデュラリア(c35985)はちっちゃな嘴がぴよぴよ寝言を紡ぐのに合わせて揺籃歌。
 可愛い嫁の実家の危機なら! やらねば!!
 と熱い意気込みで彩茜樹・ピノ(c19099)はふんわりゆうらり穏やかにハンモックに揺られ、おひさま色のブランケットにぽふぽふ落ちてきた柚子の実達をお昼寝の国へと誘う。
『ぴよぴよ……』
『ぴ……よ……』
 ふわり、きらり、と木漏れ日揺らして吹き抜けていく風が心に光の幸せ満たしてくれるよう。
 隣の木にかけたハンモックにできたゆずひよだまりが皆幸せそうに微睡む様にも、ゆうらり揺れる自分のハンモックでぴよぴよ寄り添ってくれるゆずひよこの温もりにも頬を緩め、ランシェも心からの幸せとともに瞳を閉じる。
 お裾分けのオレンジフラワーウォーターで軽く喉を潤して、ネモは小鳥のさえずりにも似た口笛で、梢のゆずひよこを誘う。
 ――此処で共に昼寝をしよう。
『ぴよぴよ……ぴよっ!?』
「なんじゃ、いい匂いさせおって」
 ぽふんと鼻に落ちてきたいのちの温もりに笑って枕に乗せてやれば、頬にも感じる幸せほわほわ。
 満ち足りた心地で瞳を閉じれば、目蓋の上にも優しい木漏れ日が踊る。

●ゆずひよこゆずすふれ。
 柔らかでほわっとあったかい、光の羽毛に埋もれていられる天国があるなら、きっとこんな心地。
 幸せな香りに揺蕩い、ふうわり鼻先を擽った甘いゆずすふれの香りにゆるり意識が浮かびあがる処に、左右からゆずひよこさんとアンジュのほっぺちゅーサンドイッチ。
 ハルネスがどうしようもなく幸せな目覚めを迎える頃、春草の上に突っ伏して力尽きていたルルもがばっと身を起こした。うっかりばっちり熟睡してしまうとは、ああ何たる不覚……!
 反逆の9歳児は無念と悔しさにぐぐっと春草を握りしめた。が。
「だがしかし忘れるな、反抗期は何度でもやってくる……って、何この超絶いい匂い!」
 村からお届けされた焼きたて柚子スフレの幸せで何もかも吹っ飛んだ。
 反抗期、陥落。
 ゆずひよこ達の突撃隣のゆずすふれに見舞われることなく、無事に完成を迎えたゆずすふれは、ころんとしたマグカップから顔を覗かせるゆずひよこにそっくりの、ほわっとまぁるい金色ふわふわの焼き上がり。
 卵黄でひときわ濃い色のがふわふわすふれ。
 すりおろした柚子の皮で優しい金に色づいたのがほわほわすふれだ。
 迷わずネモが頼んだ冷たい牛乳はどちらにも良く合って、濃厚な卵とバターにクリームチーズが熱く蕩ける中に華やかに柚子の風味が咲くスフレも、熱くとろりと優しいアーモンドや豆乳ヨーグルトの味わいにココナツの香りがふうわりと、柚子の風味が鮮やかに咲くスフレも至福をくれた。
『ぴよぴよ!』
 ほわほわをお裾分けされたゆずひよこも嬉しげに弾む。
 悪しき棘との戦いに身を投じ続けていた間は心を決められずにいたけれど、今ならば、もしもこのゆずひよこが仲間と離れられる冒険心を持っているのなら。
「共に、来るか?」
『ぴよぴよ、ぴよー!!』
 ひときわ嬉しげに、ゆずひよこがネモの膝で弾んだ。
「はい、ゆずひよさん、どうぞ」
『ぴよ……ぴよぴよ、ぴよっ!』
 とっても美味しいです、とランシェが差し出した匙のほわほわすふれを啄ばみ、ゆずひよこは彼に大好きと美味しい幸せをいっぱい御報告。
「ふふふ、ランシェ君のトコも変わらずらぶらぶね」
「はい! こんな美味しいスフレをゆずひよさんと一緒に味わえて、すごくすごく幸せです!」
 そう、ゆずひよことのいちゃらぶに何ひとつ照れることなど、ない!!
 彼の屈託ない笑顔にゼルディアも破顔し、ほわほわを婿に、ふわふわをルィンに、はい、あーん。
「ゼルディアにもお返しに、はい、あーん」
『ぴよぴよ……ぴよ!』
 大切なひとが口許へと運んでくれるふわふわすふれ。匙を持てない婿はしばし悩んで、ほわほわすふれを一口摘まんだ嘴を彼女に届けてくれた。
 ああ、何処もかしこも幸せ御褒美づくし!
「いちゃらぶでは私達も負けてないよ! ねー、ゆずひよこさん?」
『ぴよ〜♪ ぴよぴよ、ぴよっ!』
 お土産用のほわほわとふわふわもばっちり確保しつつ、ハルネスもほわほわすふれでゆずひよこさんといちゃいちゃらぶらぶ。嘴や口許のお弁当をぴよぴよらぶらぶ啄ばむ技は今日も健在だ。
「思ってたのよりずっと美味しい……!」
「だよね、かくべつとくべつ!!」
『ぴよぴよ〜♪』
 ほわほわすふれの味に幸せ心地でユウが瞳を細めれば、紅茶を味わっていたヴリーズィの声音もひときわ弾む。あったかすふれを啄ばんで御機嫌で膝にころころ転がるゆずっこをユウが撫でれば、ほわっと羽毛からも溢れだす幸せな柚子の香り。
「ねえアンジュ、夢にゆずひよこは出てきた?」
「あのねあのね、ゆずひよこさんがオレンジになる夢見たよ! 見たよ!」
『ぴよぴよ、ぴよー!』
 ふふ、と笑み零すヴリーズィの悪戯な問いに、オレンジフラワーの香りの中で眠った一人と一羽はそんなお返事。優しい光の中で温もりも美味しさも笑顔も皆やゆずひよこと一緒に楽しんで。
 ――ああ、しあわせ。
 緩む頬、下がる眦。
 ヴリーズィの匙からほわほわすふれを啄ばんだゆずひよこも幸せそうにぷるぷるして。
「またゆずひよこと一緒にお茶しようね、アンジュ」
「するするー!」
 小指で幸せ結んで交わす、優しい約束。
 焼きたての甘い幸せたっぷり満喫し、身体の芯からもあったかな幸せが溢れてくるよう。
 春のひかりと甘い香りに包まれる皆の笑顔を見れば、ランシェの胸に幸せな世界の未来が燈る。
 ――ひとびともゆずひよこ達もみんなみんな、これからもずっとずっと、幸せでありますように。



マスター:藍鳶カナン 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:7人
作成日:2015/04/27
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  • ハートフル7 
冒険結果:成功!
  • 生死不明:
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