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七彩謳歌──秘色の森のめざめ──

   

<オープニング>

●目覚めを妨げるもの
「……おかしいな」
 すっかり雪の衣の消えた森の木々を見上げ、エルフの狩人は何度目かの独り言を零した。
 秘色の森。エルフヘイムの片隅に坐す小さな森を形作る『秘色の木』は、この時期葉も花も持たない裸木である。
 長い冬から春にかけ、銀色めいた淡い輝きで枝先を彩るものは、実は葉ではない。羽化した姿で裸木にとまり、雪と冷たい嵐に耐え、暖かな春のひかりと南風を待つ、何千もの蝶たちの翅なのだ。
 しかし、春の気配に包まれてそっと目覚める筈の眠り蝶が──今年は少し、様子が違った。
 福寿草が春を告げ、土筆が背を伸ばし、蒲公英が地面に小さな太陽を咲かせているというのに目覚めない。まだ雪のちらつくうちから何度も足を運んだが、閉じた翅はまだ深い眠りの中にあるように、ぴくりとも動きはしなかった。
「春の寝坊はいいもんだが、ちょっと度が過ぎるだろう。お前らが起きてくれねえと、森の連中も……ん?」
 どこからともなく、甘い花のような香りがする。足を止めたその時、不意に頭の中に歌が満ちた。
「……!? こいつ、は」
 弓持つ手に力が入らない。耳からというよりは四肢に直接響くような、柔くあまい歌声。強烈な眠気に視界が霞むが、狩人は経験から、なんとか藪の中に自分の身を引き擦り込んだ。
 ──きらきら、きらきら、銀の屋根。
 ──次の冬まで、お眠りよ。
 ──ここは、きれいなよいねぐら。
 歌声の中に沈む直前に掠め見たのは、頭の上に大きな紫の花を咲かせた娘たち。
 そして、ふと気がついた時には空には月が昇っていて──遠く裾引く歌の中、眠り続ける蝶たちは、ただ静かにその輝きを照り返すばかりだった。

●幸福なめざめを
「多分、あのピュアリィの歌のせいだろう。人間の俺が眠りこけちまうんだ、蝶なんてひとたまりもなかろうしな」
 酒場へ話を持ち込んだエルフの狩人は、なんとかして貰えないかと頭を下げた。
 紫色の花のピュアリィ。アルラウネだろうかと思案しながら、吹花の狩猟者・ジスン(cn0046)は先を促した。
「蝶たちの目覚めが遅れたらどうなるの?」
「色々まずい」
 狩人は腕組みをする。まず、秘色の木は件の蝶の旅立ちを待って葉をつける。本来そうあるべき時期に芽吹くことができなければ、木自体、ひいては森全体が弱ってしまいかねない。
 そうなれば、森に棲む生き物たちの生活にも関わってくる。──当然、狩人稼業にも。
 当の蝶たちも、渡りが叶わなければやがて弱って死んでしまうだろう。美しく煌めく銀色の屋根が、ピュアリィたちの歌い願うように続くことは有り得ない。
「……それに、蝶たちの渡りを見るのを楽しみにしてるのも居るんだよ」
 眠りの間畳まれて、薄銀の葉のように戦ぐばかりだった翅は、春の風にそっと開く。秘められていた内側の色は、羽戦く度に陽光を反射し、虹の色彩に変化するのだ。
「それはおおごとね。皆の春の楽しみを奪う訳にはいかないわ」
「頼むよ。森に行けば、奴らはすぐ見つかる筈だ」
 頼まれた、と頷く心強い同志たちに、ジスンは眼差しを緩めた。
「ピュアリィたちを倒すか、元の塒へ帰すことができればいいんだけど……今までとは違って、彼女たちはマスカレイドじゃない。説得も出来るかもしれないわ」
 意味ある歌を歌っていたくらいだから、言葉は通じるだろう。ただし、聞く耳を持つかは内容次第だ。
「済んだら、蝶どもを起こしてやってくれ。だいぶ寝坊が過ぎてるからな、人の熱でも目覚めるだろう」
 最初の何匹かが目覚めれば、まるで波紋を広げるように次々と覚醒は広がっていく。毎年そうして蝶たちは渡りの空へと旅立っていくと、狩人は思い起こすように瞼を閉じる。
「きっちり働いて、私たちも楽しませて貰いましょう。秘色の森の秘密の色、見逃す訳にはいかないわ」
 春の微睡みは幸せなもの。けれど、その森に不幸を招く眠りがあるのだとしたら──エンドブレイカーには、やっぱり放っておくことなどできないのだ。


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参加者
藍棘・フィル(c00044)
似紫の草衣・ケイ(c01410)
阿頼耶の狩手・ルーン(c01799)
キララ・サヤ(c23230)
赤青オルビス・アルカ(c23651)
蒼氷の瞳・アリーセ(c34080)
空蝉・オトマル(c34554)

NPC:吹花の狩猟者・ジスン(cn0046)

<リプレイ>


「エルフヘイムの森は初めてですわね」
 赤青オルビス・アルカ(c23651)の髪が春風に躍る。銀色の葉──重なる眠り蝶たちの翅の隙間に辿る空は晴れ、春らしい暖かな光を地面まで届けていた。
 どうせ森ばかりと思いつつ踏み入れた永遠の森の片隅で、すっかり頭上に気を取られている友人の袖を引き、木々にぶつからないよう誘導しながら、蒼氷の瞳・アリーセ(c34080)は自身も興味ありげな眼差しを四方へ注いでいる。
 視界は木々に阻まれ、探す花の色を目で捉えることは難しそうだ。二度目の森を迷いなく進みつつ、似紫の草衣・ケイ(c01410)が頭を掻く。
「ホークアイより耳での方が早そうだな。うっかり眠らないようにしねぇと」
 凝らす目の代わりに耳を澄ますケイに、藍棘・フィル(c00044)も倣う。先の仕事の折より和らいだ風は、銀翅をさらさら歌わせている。
「花のピュアリィであれば、甘い花の香を探してみましょうか」
 空蝉・オトマル(c34554)は風が連れる香りを探して視線を彷徨わせる。
 冬の匂いはすでになく、深く吸い込めば土の匂い。そしてその上に萌す緑の仄かな香。
 それが微かに変化した気がして、足を止めた時。
「──皆さん」
 阿頼耶の狩手・ルーン(c01799)が唇に指を当てる。息を潜めた彼らの耳──否、頭の中に、突然甘やかな歌声が響き始めた。
「これは……!」
 耳を塞いでも届く歌声はゆらゆらと心地よく、意識を保つために予め腕に刻んだ傷の疼きすら眠らされてしまいそうだ。
 それでも抗っていられるのは、彼らがエンドブレイカーであればこそ。
「現れましたわね。さあ、歌うのを止めて姿をお見せなさい!」
 アルカの声に、歌声が止まる。
 木陰から顔を覗かせたのは、三体のアルラウネ。現れた人間たちを警戒して身を寄せ合う姿は花束のようだ。
 ハイドウェポンで武器を隠したオトマルは、丸腰であることを示す。続いて空の両手を広げて見せたアリーセに、自分たちを退治しに来たのではないようだと悟った少女たちは、僅かに緊張を緩めたようだった。
(「まずは様子見ですわね。説得が滞りなく行われればそれもよし──」)
 事を構えず説得でなんとかしたい。そんな仲間の思いを汲み、アルカは過不足なく相手を警戒しながらも後ろへ下がる。
「お嬢さん方、初めまして」
 オトマルが微笑みを向けると、アルラウネたちはきゃあと笑った。ひそひそ、くすくす、ケイやルーンにも向けられる好意的な眼差しは、彼女たちピュアリィの性質なのだろう。
 けれど、娘たちも負けてはいない。
「素敵な歌が、聞こえた」
「私も歌が得意なの。少しお話いいかしら?」
 話しかけたキララ・サヤ(c23230)とフィルに、揃った瞬きが返る。興味は惹けたようだ。
「ね、貴女たち、誰かにここを教えられて来たの?」
 素直に問うフィルに、少女たちも素直な答えを返す。
「ねえさまが」
「そう、ねえさまたちが言ってた。きらきらの屋根の森」
 仲間のアルラウネに教えられ、棲む森を抜け出してきたということなのだろう。稚いその様子から、もしかしたらまだ年若いのかもしれない。サヤは眸を微かに和らげた。
「そう……。綺麗な、場所ね。お気に入り……?」
「お気に入り!」
「あたしたちのねどこになるの」
「なるの!」
 きゃっきゃと手を繋ぎ合ってはしゃぐ少女たちに、アリーセはねえ、と穏やかに語りかけた。
「貴女達がこの光景が気に入っているのなら、蝶達を旅立たせてあげてくれないかしら」
「旅、立たせる?」
 ぽかんと開けた口が、途端に尖る。
「いなくなる? あたしたちのねどこなのに」
「そんなのだめ」
「そうよ、だめ!」
 事情を問いもせず好戦的な顔を見せるアルラウネたち。歌声を紡ごうと息を吸い込むのを目にして、有事に備えていたアルカの眼がきりりと引き締まる。
「マスカレイドではないとはいえ、聞く耳持たず立ち塞がるならば容赦は致しませんわ」
 一歩踏み込み、広げた魔道書に掌を翳せば、頁がぼうと光を帯びる。
 まあまあ、もうちょっと──と慌てて間に入ったケイは、敢えての温厚な笑みを少女たちへ向けた。
「事情を聞いてくれねぇかな。元いた所はどんなトコ?」
 少女たちは膨れ顔のまま、花がたくさん咲く小さな森だと答える。
「暖かくなって草花が芽吹いたら、嬉しくならねぇか」
「嬉しい。春は仲間が増えるの」
「増えるの!」
「だろう? 何も芽吹かず、寂しいままなら……悲しいな。でもこのままだと、この森もそうなっちまうかも」
 ケイとの会話に無邪気に笑い、首を傾げ、表情を変えるアルラウネたち。ルーンは思わず目を細めた。
 歌の効力は侮れないが、人を傷つけはしていない。こうして穏やかに話すことが出来るなら、なんとか分かり合えないものか。
「貴方達も銀色の翅で彩られた木に惹かれているのでしょう? でも、このまま歌い続けると、もう二度とこの景色を見ることができなくなってしまうのですよ」
「えっ」
「どうして」
「……どうして?」
 きょとんと顔を見合わせる少女たちに、ケイは説いた。
 蝶達が春のうちに飛び立てれば、次の冬には次の命を宿すため、また必ずこの森へ戻ってくること。そうすれば毎年この景色が見られるが、ここで死んでしまえばそれまで、巡りは叶わないことを。
「……貴女達の歌でこのまま眠り続ければ、何れこの子達は弱って皆死んでしまうわ。そうすれば、この綺麗な銀の翅はもう見られなくなる」
 アリーセがそう言い継げば、サヤも穏やかに頷く。
「死んでしまったら……この銀の屋根も、なくなってしまう。……毎年冬の楽しみにする方が良いと思うけど……どう?」
「そうすれば、次の冬も、また次の冬にも逢えます。歌を止めて、元の塒へ戻って頂けませんか……?」
 オトマルの願いに、アルラウネたちはちらちらと互いの様子を窺い合っている。
「……一緒に見ても、いいんじゃないかしら」
 ぽつり、呟いたのはアリーセだった。目を見開く少女たちの前に、
「そうですね。これが新しい関係の切欠になってくれれば──」
 ルーンは視線を合わせるように屈み込む。
 これから始まる旅立ちの光景を目にし、心まで光に染まるようなその気持ちを分け合えたなら、たとえその後、彼女たちがこの森に居着いてしまったとしても、悪さをしたりはしないだろう。
 フィルがほっと安堵の吐息を零す。一緒に見たいと思うのは、我侭じゃなかった。笑みを合わせ、ケイはよし、と気を入れて進み出る。
「なあ、この辺り一面の銀天井が空に広がって輝く様を、見てみたいとは思わねぇか?」
 蝶たちの目覚め。その景色は、間違いなく自分たちも彼女たちも満たすもの。一面だ、と大きく空を掻いてみせるケイの目は、きらきらと子供のように輝いている。柔らかな七色を魅せてくれるの、と調子を合わせるフィルの目も、同じように光を湛えた。
 硝子玉を覗き込むにも似た、子供めいた顔でそれを見上げる少女たち。もう一押しは、アリーセの淡々とした、しかし温もりの滲んだ声。
「綺麗だと思うわよ。この子たちが一斉に飛び立つ姿も」
 アルラウネたちは、もう一度顔を見合わせた。
「一面、きらきらだって」
「……みたい?」
「ちょっと、みたい」
「くすくす、ちょっと?」
「ううん、すっごく!」
 今にも飛び跳ねそうな笑顔が戻る。いいかしら、と仲間たちを返り見るアリーセの眼差しに、オトマルは勿論ですと頷き、サヤの唇と眸もごく淡い微笑みに染まる。
「……よかった。……誰も傷つけずに、済んで」
 蝶も、アルラウネたちも、勿論仲間のことも。備え持つ優しさを抱えるように自身の胸に手を当てた少女に、オトマルもまた優しい笑みで同意を伝える。
「では、もう蝶たちの前では歌いませんね? いい子で見送れるのですね?」
 ぴんと立てたアルカのひとさし指に、恐れの欠片もない笑顔が返った。
「いい子にする」
「する!」
 森に響き渡る返事に、仲間たちに全てを委ねていた吹花の狩猟者・ジスン(cn0046)は笑った。
「仕事は終わりね」
 仲間たちは空を仰ぐ。
 頭上には、渡る風に微睡む銀の森。──秘めたる色の目覚めのときがやってきた。


 風に揺れる儚い銀色に、サヤは恐る恐る顔を寄せた。
 あるかなきかの触角、煙るような繊細な毛。よくよく見れば確かにそれは、
「……本当に、蝶なのね」
 零した吐息で微かに揺れた翅が、サヤの髪を彩る星のように淡く煌めく。そんな外側の彩も綺麗だけれど──大好きなマシェリと合図のように頷き合って、蝶を包み込むようにそっと、ふたり分の掌を近づけた。
 掌の、小さな小さな闇の中で、ゆっくりと、ごく微かに羽戦くもの。覗き込んだ二つの眸の間を通り、蝶は空へ浮かび上がる。霧の中に見る虹のような淡い光を、風を切る翅にやわらかく纏って。
 生まれた虹色を横目に、ケイはそっと掌の中に呼びかけた。
「おはよ、お寝坊さん」
 優しい声に醒まされたか。触れるか触れないかの温もりに、二度、三度ゆっくりと翅を広げて、蝶は慌てたように舞い上がる。まだ眠いよと訴えるようにふらつく軌跡に思わず笑い声を上げると、見守るフィルは目を細めた。
「またこの森に来れて良かった……春の彩りの始まりを、こんな風に手伝えるなんて」
「フィルはまだだろ? ほら、早く」
 取られ序でに包まれた手が熱を持つ。今度はちょっと熱いよと言うように、眠り蝶は飛び出した。
「……起きないの」
「ねえ、死んじゃった? もうきらきらしない?」
 周囲を真似ては泣きべそをかくアルラウネたちを見留め、ルーンは小さな手のひとつを取った。ひんやりとした指先に首を傾げ、
「少し冷えていますね。でも、こうすれば」
 自身の手で包み、擦ってやると、少女たちは頬を染めてきゃあと歓声を上げる。けれど、温もった掌がまたひとつ命を眠りから解き放ったのを見れば、歓声は素直な歓喜に変わる。
「あたしにもやって」
「あたしも!」
「……面倒見の良いお兄さんみたいね」
 仲間の齎した和やかな光景にふと唇を綻ばせ、アリーセも手近な枝へと手を伸べた。
 繊細な翅を傷つけないよう、細心の注意を払って包み込む指先を、上手にすり抜けて光が飛び立っていく。傍らで見送るアルカも、ほうと柔い息を洩らした。
「一匹お土産に持って行ったり……とかはダメなのかしら?」
「……アルカ?」
「分かっていますわ、無論分かっています、アリーセ。あ、ほらまた──」
 友をちろりと見た眼差しが、示す指先につられて空を見る。ひとつ、またひとつ、見送る娘の優しさを追い風に、命はきらきら飛び立っていく。

 何匹の蝶が空に躍ったか。
 そして唐突に、その瞬間は訪れる。

「──、壮観ね……」
「う、わぁ……!」
 秘めやかな歓声が湧き上がる。
 さわさわと葉擦れに似た囁きを残して、何百、何千──もの翅が一斉に空へ舞い上がる。
 一瞬、淡い白銀に染め抜かれる空。それは風が閃く度に、漣に似たうねりを生む。
 どの色ですら同じものはなく、白銀の中については消え、隠れては現れる淡い七色。その奏でも彩りも、確かにここに留めてはおけないものだ。
「魔法みたい……。すごい……綺麗ね、マシェリ」
 自分たちも旅立てるだろうか。あの子たちのように自分で行き先を決め、自分らしく在れる場所へ辿り着けるだろうか。
 微かに掠めたサヤの不安を、友の微笑みと温かな指先が拭い取ってくれる。夢も未来も、もう自分の手で自由に描けると。
「──それに、サヤといっしょだもの!」
 感情の淡いサヤの眸から、友のくれた抱え込めない程の幸せが溢れる。
 金色の眸に零れ落ちた蝶たちの光は、祝福するように煌めいていた。
「……素敵、ね」
 微笑むフィルの横顔に、ケイは頬を掻いた。──この光景を前に、彼女に望みたいことがある。
「なぁ……フィルの思う儘を、歌ってくれねぇ?」
 アルラウネの歌に想起したのはフィルの歌う姿だったと告げれば、瞬く眸に蝶たちの虹色を映して娘は笑った。
 あの子たちも歌を我慢しているから、ささやかに──この善き日に、幸せの音をひとつ。並べた肩のその片側にだけそっと届くよう、目覚めの歌をうたう。
 一方で──きらきらと空を覆う虹色に目を奪われた『あの子たち』は、微かに零れて届く歌声も気にする様子なく、ルーンの傍らではしゃいでいた。
(「大魔女を倒した事で、時代が変わっていく、という事なのでしょうか」)
 異種の者たちとの関わり方も、きっと変わってくるのだろう。こうして折り合っていける世界になるのなら──それは蝶の舞うこの空のように、光多きものになるだろうか。
「そうだ、お菓子を持ってきたんです。良かったら皆さんも──」
「お、ありがとな! こっちは蓮華蜜持ってきた」
「蓮華蜜。……どう、するの?」
「ほら、蝶たちの最初の宿りにさ」
「ふふ、長い旅の前の御馳走ね」
「それは面白そうですね」
 仲間たちの賑やかな声に、自分もと強請るピュアリィの声が融ける。
 きっとそうなる──と、ルーンは兆しのような空に微笑んだ。

(「きらきら光って──まるで春が飛んでるみたい」
 再生と誕生の季節。暖かくて優しい季節。守った世界に廻り来たこの時が嬉しくて、マニートはそっと傍らの木に触れた。
 冬の終わりにマスカレイドが残していった傷を、木々は逞しく克服してくれたようだ。ほっと胸を撫で下ろす。
(「いってらっしゃい──また冬にね)
 次の季節に廻り逢う為の別れ。手を振る娘を背に、最後の最後まで寝坊した一匹にそっと熱を与えるユリウスの横顔を、オトマルは穏やかに見守っていた。
「……また、逢えるかな」
 約束も永遠も、多くの別離を経た彼の心には未だ少し遠いのだろう。けれどだからこそ、蝶たちの門出見せたかった。
 春に別れ、冬にまた巡り逢う。その繰り返しに生きる命が、少しでも彼の心に圧し掛かるものを癒していけばいい。少しずつ、信じられるようになっていけばいい。
「ええ……きっと」
 答えを待っていたかのように、蝶は仲間の待つ空へ、巡り来る冬までを過ごす何処かへと旅立った。
 また逢えたら、その時は──物言わずそれぞれの胸に重ねた約束は、七色の翅が連れてゆく。
 少し冷えた風に蝶を案じながら、微かに身を縮めたのを見咎められたのか。ふわりと外套を肩にかけられたアリーセは、当然と言いたげなアルカの笑みにふいと目を逸らす。
 年下のアルカが吹かすお姉さん風は、年上の自分には少々決まり悪い。それなのに春風ほども暖かいのがなんだか不思議だ。
「……何れ、あの子達は帰って来るのかしら」
「まあ、帰って来るのでしょう。そういう方たちなのですから」
 もしそうであるなら、と氷の色の眸を空へ向け、最後の光を追って目を細める。
 ──その時はまた、この光景に出逢えたらいい。
 見送るいくつもの思いに彩られ、七彩は旅空へ融けていく。
 その輝きが消えるまで、彼らは賑やかに、穏やかに、見守り続けたのだった。



マスター:五月町 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:7人
作成日:2015/05/01
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  • ハートフル9 
冒険結果:成功!
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