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≪路傍の虹≫水咲イリデッセンス

<オープニング>

●春告鳥
 輝く新緑や咲き溢れる花々を軽やかにさざめかせ、透きとおる水の香孕んだ風が翔けていく。
 光る風に明るい陽射し、春と初夏のいいとこ取りをした飛びきり心地好い陽気にゴンドラ乗り達が繰る櫂のしずくが煌き踊る水神祭都アクエリオ。
 水に遊ぶ光が煌き、水に遊ぶ鳥達が羽ばたき、光る風に舞う羽の行方を瞳で追ったなら、街角にひときわ瑞々しい花々を咲かせる小さなお花屋さんが瞳にとまる。それは玩具みたいな手押し車を色鮮やかな花々でいっぱいにした、花渫う風・モニカ(c01400)の移動するお花屋さん。
 移動するお花屋さんとは言え、毎日溌剌と花をお届けするうちに馴染みのお客様もできるもので、今日もモニカの姿を見つけた馴染み客の娘がエクルベージュの石畳を駆けてきた。
 ここまではいつもの風景だったのだけど。
「こんにちはー! あのね、今日はフリージアをメインにミニブーケをお願いできる?」
「はーい! 任せて、飛びっきり綺麗に咲いたのが――」
 あるよ、と満面の笑みで振り返って言いかけたその時、モニカの瞳に乙女の胸を高鳴らせる煌きが飛びこんできた。

 流麗な意匠で編まれた銀の鳥籠は常に開け放たれていて、そこを住処とする春告の鳥はいつでも好きな時に飛び立つことができた。
 鳥籠の縁から飛び立った小鳥が舞うのは明るい光降る空間。透きとおる硝子で作られた天井には澄んだ水が優しく流れ、星霊建築が映す青空から降る光を透かし柔らかな波紋を描き出している。
 光の波紋が水面より明るく木漏れ日より柔らかに揺らめくその空間には、春の花園のように優しく初夏の花園のように彩り豊かな宝石の輝きに満ちていた。
 波模様の銀細工がしゃらりと歌うブレスレットには紺碧の海より鮮やかなアウイナイトが煌き、淡金煌く黄銅細工の貝殻イヤリングは可憐なピンクパールを抱く。
 オパールの水滴をあしらったアンティークゴールドの舵輪はループタイのアグレット、燈火みたいに眩く輝くオレンジガーネットを閉じ込めたマリンランプ型のチャームは飛びきり可愛くて、明るい水面とその光をそのまま宝石にしたようなラリマーが模るイルカのピアスは心を躍らすよう。
 そして――フリージアを買いに来た彼女の首元を飾ったペンダントの先で揺れた、小さな銀細工の碇から零れる、波飛沫みたいなアイリスクウォーツの虹の煌き。

 ――これって、『春告鳥』の……!

●水咲イリデッセンス
 華やかに咲き誇る純白のフリージアを可愛い淡桃色のスイートピーで縁取ったミニブーケを最後に本日モニカの小さなお花屋さんは店仕舞い。
 ――だってだって、あんなエンディング見ちゃったら居ても立ってもいられない!!
 煌びやかな貴石でなく、優しくきらめく半貴石達を主にしたカジュアルジュエリーを扱うあの空間は、この春に水神祭都アクエリオでオープン三周年を迎えた『春告鳥』という名の宝飾店。
 春空の瞳に飛びこんできた素敵なエンディングは、春告鳥の初夏の新作お披露目会だ。
 早く、早く知らせなくちゃ!
 星降る裾を翻し、エクルベージュの石畳を翔ける足取りは加速する。
 けれど春と初夏のいいとこ取りをした水都の街の煌きのひとつひとつを乙女の瞳は見逃さない。
 ぴかぴかに磨きあげられたウィンドウのなかで夏を咲かせる、明るいホワイトにレインボーカラーの細いストライプが走るプリーツスカート、細い路地の先にちらり見えた大人の隠れ家めいたバールのメニューボード。
 春のエディブルフラワーと帆立のカルパッチョに、仔牛のラグーを詰め込んだイカのトマト煮込み、桜鯛のアクアパッツァに、ジンジャーワイン!
 夜には星あかりでふんわりと光るように見えるだろう、淡紫と純白のライラック咲き零れる散歩道を駆け抜けて、飛び乗ったマイゴンドラでそのまま向かった夏空の街、まっすぐ駆け込んだ某イケメン細工師の工房でモニカは開口一番に幸せを告げた。
「大変たいへん大事件! 春告鳥で新作大発表だよ、これは見逃せない!!」

 ねえ、もしもお休みを取れるなら一緒にいこうよ。
 春告鳥の新作を買って、水にも風にも光咲く街を歩いて、それからそれから――!


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参加者
花渫う風・モニカ(c01400)
昏錆の・エアハルト(c01911)

<リプレイ>

●水咲アベンチュレッセンス
 光が遊ぶ、風が踊る、水が咲く。
 さあ、眩い光と水の煌きに彩られた初夏の水都で、虹色煌く幸せを掴みにいこう。

 眩い夏を待つ夏空の街ラーラマーレ、朝の光で白に輝くその街並みを彩る水の夏空から水飛沫の花咲かせ、花渫う風・モニカ(c01400)のゴンドラが漆喰彫刻のアーチを潜って細い水路へ滑り込む。
 今朝咲いたばかりのアザレアに朝市で買ったばかりの甘夏、朝の幸せたっぷり抱えて向かう先はもちろん彼の工房。色鮮やかな硝子に陶片、モザイクの小さなパーツが宝石みたいに煌く作業場の奥にある寝室を覗けば、
「エアさん、やっぱり寝てる」
 何時も自信たっぷりな彼の意外に可愛い寝顔に、ふふ、と零れた笑みが吐息と跳ねた。
 春眠暁を覚えず。
 ――なんて言ったの誰だ初夏になったって全然暁は覚えやしねぇぞ……。
 休日の朝寝は飛びきりの心地好さ。昏錆の・エアハルト(c01911)も存分に耽溺していたけれど、
「朝ですよー……」
 耳元に愛しい声が燈れば一気に意識は覚醒。頬を枕に埋め目蓋も閉じたまま、寝台の傍に感じる温もりへ腕を伸ばし――。
「!! エアさん起きてるでしょ!!」
「…………やっぱバレたか」
 大きく跳ねたモニカの声にぱちりと目蓋を開けて、エアハルトは彼女を抱き寄せようとしたその手で恋人の柔らかな髪をくしゃりと掻き混ぜた。
 明るい光射すキッチンは彼らしく機能的に整えられていて、その片手で次々卵が割られていく様も軽くバジルがちぎられていく傍から鮮やかな香りが増す様も、新鮮マッシュルームが軽快にスライスされていく様もモニカにとっては魔法のよう。
 可愛いココット皿に、黄粉塗した黒糖グラノーラと甘味濃厚なレーズンを合わせ、きらきら煌く桃やキウイのドライフルーツも混ぜたオリジナルのミューズリーを取り分けて、好みでかけられるようにと永遠の森の朝露と新鮮なミルクで作られた朝露のヨーグルトを硝子の器で添えた――ところまではモニカも乙女力を発揮したのだけれど。
 甘夏の皮剥きが、難敵。
「ぐ、ぐにににに…………ってエアさん! も、モニカ真剣なんだからね!!」
「いやコレ『俺のために頑張るモニカが可愛くてたまらない』って心情の発露だぜ? いやホント」
 ぷしっと弾ける果汁、彼がぷっと吹き出す気配。
 愉しげに喉を鳴らしたエアハルトはさらっと本音を吐き、くるくる中身を掻き混ぜたフライパンの柄を軽くトントン、綺麗に焼き上げたマッシュルームとバジルのオムレツを真白な皿にぽんっと躍らせた。エアさんすごい……! とモニカが瞳をまんまるにするけれど。
 夏空色のミントティーグラスに明るいピンク色に咲いたアザレアの花を挿して、さり気なくテーブルに飾るだけで空間まるごと幸せ色に染め変える彼女も、エアハルトから見れば魔法の使い手だ。
 ふんわりオムレツには生ハムと水菜のサラダを添え、バゲットとほっくりとしたナッツのような風味を持つチーズも並べれば、
「ほら、シンプルだけど旨いぞ」
「見るだけでもう美味しいよ……! 匂いもだけど!!」
「モニカの花やミューズリーだって瞳にもう御馳走だけどな。その前衛的な甘夏も」
「げ、芸術は爆発なんだからー!!」
 明るい笑みが弾けるブランチの始まり。
 お前専用のシトラスカッターでも作って置いとくか、なんて悪戯な笑みで彼に言われたならぽふっとモニカの頬に薔薇色燈り、そそそそれってまた朝ごはんしに来ていいってことだよね!? と彼女がテーブルに身を乗り出せばエアハルトの笑みが深まって。
 ――こんな朝食が、毎日ならいい。

●水咲イリデッセンス
 夏空の街を出て、運河を飛ぶように翔けるゴンドラで向かうのは春告げの鳥が住まう街。
「さあ、エスコートは任せろよ俺の姫さん」
「勿論、頼りにしてます!」
 芝居がかった仕草で伸べられたエアハルトの手を取って、ふわりゴンドラから羽ばたく心地で飛び降りたなら、エクルベージュの石畳に降り立ったモニカの足元で空色ビジューの煌きが咲く。
 真っ先に目指すのは透きとおる翠に虹を秘めた梢に小鳥がとまる、美しいエマーユの看板戴く扉。硝子と水の天井から明るい光の波紋降る空間に飛び込んで、
「三周年おめでとうレイチェルさん!」
「いやだもう、貴女達ったらどうしてそんなに私を喜ばせるのが上手いの……!」
 春告鳥の店主に祝いの品を差し出せば、二人を迎えたレイチェルがこの上なく嬉しげに破顔した。
 飛びきりの祝意を籠めた贈り物は、細工師エアハルトが腕によりをかけた銀の鳥籠。
 鳥籠には可愛らしいフェルトの金糸雀がとまり、光が咲くような白薔薇や乙女の胸をときめかせてやまないピンクのガーベラ、涼やかな水を思わすブルースターと、花売り娘モニカが選んだ飛びきり瑞々しい花々が咲き溢れる。
「白とピンクと水色、これがあたしが想い描く春告鳥の色なんだ」
「不思議、私も貴女達と旅した時のことを思い出したわ」
 幸せそうに笑み交わすモニカ達の様子に眦緩め、エアハルトも改めて祝意を伝えた。
「春告鳥は理念と実力を兼ね備えた俺の好敵手だしな」
「いやだ、そう言ってもらえるなんて光栄よ。それなら一度共同戦線でも張ってみない?」
 途端に商売人の貌になったレイチェルが、これとかこれとか貴方の作品でしょ? とモニカの指に煌く空色輝石の指輪やシフォンレースの花に青瑪瑙光るチョーカーを見てきらりと瞳を煌かす。辣腕商人侮れない。
「うちで個展なんてどう? ラッドシティの細工師展とかきっと話題になるわ」
「面白そうじゃねぇか、考えとく」
「何それ夢のコラボ……!!」
 それが実現したらどう考えたって世界で一番歓ぶのはモニカに決まってる。
 ――けれど今日は極上のデート日和だから、仕事の話はまた今度!
「今日は楽しみに来たからな」
「ねー! いっぱい満喫してこうね!」
 宝探しに出向くような顔で笑い合った二人は、恋人さん達は上客よとくすくす笑みを零す店主にさあどうぞと促され、初夏の花園のように彩り豊かな宝石達の煌きの海へ泳ぎ出す。
 海の泡みたいなエンジェライトの珠が白から水色へグラデーションを描くラリエット、海の青と雲の白のボーダーラインが可愛いリボンの芯に真珠をあしらった髪飾り、優しい緑に煌くクリソプレーズの魚が跳ねるペンダント、どれもこれもが初夏の光と水の煌きをめいっぱい溢れさせ、どうしようもなく胸を躍らせる。
「エアさんにはこれがいいかも……!」
「俺の姫さんにはほら、こいつが似合いそうだ」
 探すのはお互いへの贈り物。涼やかな銀鎖が漣を編むアンクレットを手に取れば、モニカの手許で巻貝とタイマイ、モンステラのチャームが軽やかに唄う。ころんとした巻貝の中に覗く煌きは虹瑪瑙、眩い夏陽にきっと極上の虹で応えてくれる。
 南の海が似合う生き物達、鮮烈な陽射しに揺れる南国の葉。
 七色の虹がかかる、二人だけの真夏の島――。
「ね、そんなところですごす気分になれると思わない?」
 内緒話めかす笑みでモニカが囁けば、いいな、と自然にエアハルトの笑みも零れて煌きに跳ねる。彼が彼だけの姫君に選んだのは、軽やかな銀細工の貝殻がアイリスクォーツの水滴を抱く耳飾り。足取りが弾むたび貝も水滴も揺れて躍って、きっと明るい虹の煌きを振りまいてくれる。
「虹が耳朶で鳴るってのもいいだろ?」
 ――きっと、潮騒まで聴こえてくる心地になれる。
 愉しげに嘯くエアハルトの声がひときわモニカの胸を弾ませ、心を常夏の楽園へ攫ってくれる。
 ああやっぱり、あたし達は夏の申し子なんだ。
 誰より傍でお互い飛びきり幸せな心地で破顔して、虹の煌きお買い上げ。
 お祝いのお礼にとレイチェルが二人に揃いで贈ってくれた、夏空色したアウイナイトの瞳煌く小さな銀の海鳥チャームも連れ、夏の申し子達は春と初夏のいいとこ取りをした水都の街へ飛び立った。

 午後の陽射しが、街路樹の新緑と運河の水面に宝石にも負けない煌きを踊らせる。
 光る風と噴水の霧雨がかける幾つもの虹を潜り、エクルベージュの石畳に軽やかに靴音響かせ、次に向かうのはぴかぴかに磨きあげられたウィンドウの中でモニカを待ってる虹のもと。
「見て見てエアさん、ほらあそこ!」
「ああそうだこの店だ、良く見つけたなモニカ」
「だってエアさんの話がすごく素敵だったから!」
 水みたいに煌く硝子の中で夏を咲かせるプリーツスカートを最初に見つけたのは実を言えば彼のほう。モニカに似合いそうだなと思った――と彼が話してくれた時に胸に思い描いた光景があまりに鮮やかだったから、ちらりと見ただけですぐに判ったのだ。
 明るいホワイトにレインボーカラーの細いストライプが走るプリーツスカート、すぐに出してもらったそれをモニカは待ちかねたように抱きしめて、初夏の光と風の煌きが今にも溢れだしそうな服飾店をめいっぱい泳いで回る。
 鮮やかなネイビーのボートネックにも瞳が行ったけど、光る風をより心地好く感じさせてくれそうな檸檬色のジョーゼットブラウスを手に取って、ふんわりプリムがロマンティックな生成のキャプリーヌも併せて一緒に。
「これ買って今来て帰ってもいいですかっ!?」
 勢い込んで訊ねれば店員も満面の笑みで頷いてくれ、早速飛びこむフィッティングルーム。
 真新しい光と風と虹を身に纏ったモニカがそっと足を踏み出せば、
「思ったとおりだ。良く似合う」
 眩しげに瞳を細めて破顔したエアハルトが迎えてくれた。
 さてお会計を――と思えば、着替えている間にさくっと彼が支払ってくれていて。
「ええっ!? いいのエアさん!?」
「いーんだよ、可愛いモニカが見られるのが俺にとっちゃ御褒美なんだから」
 なんてキャプリーヌ越しにぽふりと頭を撫でてくれ、替えた服を入れた紙袋までさらりと持ってくれるあたりも実に乙女心をときめかせてくれたから、ありがとう、と素直にモニカも降参した。
 眩い陽射しのもとでも、街路樹の木漏れ日の中でも、今日の彼女は飛びきり輝いて見える。
「次はエアさんの買い物だね!」
「ああ、靴が欲しいんだよな」
 真新しい装いでいっそう綺麗になった彼女と街を歩けるのは彼氏冥利に尽きるというもの、自身の機嫌もいっそう上向くのを感じつつ、エアハルトは運河の対岸に見つけた靴屋へ足を向けた。
 真っ先に瞳を惹いたのは白のスエードサンダル。
 細身のダブルストラップは機能美に満ち、試しに履けば成程調整しやすさとフィット感が心地好い。好みに合わせてソールを張り替えてくれるというのも――。
「……って、モニカ自分の見てていいぞ」
「宝物の靴があるからいいの! それに靴よりエアさん見てる方が幸せだもん!」
 試着中の彼と瞳が合えばモニカはふるふる首を振り、以前贈ってもらった空色ビジューパンプスを指して主張する。真剣に靴へ見入ったり、履き心地にふと笑みを洩らしたりする彼をどきどきしながら見つめることが今は乙女の最重要事項!
 よし、と彼が心を決めたなら、
「それじゃ、今度はモニカがお会計を……」
「っと、そうはさせるか此処だって当然俺持ちだ」
「きゃーエアさんずるーい!」
 弾けるように笑い合いつつお買い上げ。
 極上の虹が幾つもかかっては弾け、七色の煌きを数えきれないくらい咲かせて今日を彩る。
 さあいこう。手を繋いで、一滴も零さないように。

●水咲アデュラレッセンス
 明るい初夏の陽射しもいつしか甘やかな彩を燈し、世界がとろりと甘い薔薇酒に溺れていくような夕暮れに、細い路地の先でひそり扉を開く大人の隠れ家めいたバールへ辿りつく。
 葡萄酒色に染まる街にひとつ、またひとつとあかりが燈っていく様を望める席についたなら、甘い月色に透きとおる影をテーブルに揺らすジンジャーワインで乾杯を。
「わあ、美味しい……!」
「旨いな。ジンジャーの利きっぷりが特にいい」
 月色のジンジャーワインを更に淡金色のジンジャーエールで軽く割ってもらったモニカは爽やかに弾ける気泡と甘さに瞳を輝かせ、ストレートを傾けたエアハルトも口許を綻ばせた。
 普通の白葡萄酒ならもっと辛口が好みだけれど、これはぴりっと利いたジンジャーの刺激が甘さも爽快感に昇華してくれる。
 可憐なプリムラの花びらが眩い黄や明るいピンクの彩で新鮮な帆立を彩るカルパッチョ、たっぷり濃厚に蕩ける雲丹が春菊のほろ苦さに絡む様が絶品のパスタ。今にもほっぺが落ちちゃうと言わんばかりに幸せそうなモニカの笑顔だけでもエアハルトには御馳走だけど、
「ねえねえエアさん、さっきのゴンドラ乗りさんが言ってた裏メニューってどっち?」
「フリットだな、外は熱々さくさく中ふんわり。食ってみるか?」
「やったぁ! くださーい!」
 春告鳥の煌き服飾店の虹柄スカート、靴屋のスエードサンダルに、偶々行き合ったゴンドラ乗りが教えてくれた話。今日見たもの聴いたものを語り合いつつ食べるディルを使ったイワシの香味揚げをシェリービネガーでマリネしたエスカベッシュに、辛いトマトソースを絡めて頬張る鰆の熱々フリットは格別な味わいだ。
「そうだモニカ、ちゃんと別腹は空いてるか?」
「え? うん、余裕あるけど……って何これすごく可愛い!」
 楽しくて幸せな食事の終わり、悪戯に瞳を煌かす彼の言葉に瞬きすれば、そこに運ばれてくるのは彼が秘密で頼んでくれたらしいデザートプレート。
 鮮やかなオレンジソース、南の海の黄昏にはまぁるいレアチーズケーキの島が浮かび、ふんわりとココナツフレーク降る島にはチョコレート細工の椰子の木が茂り、三日月ライムの舟が寄り添って。

 ――ねえ、これ以上望むものなんて、ある?

 濃厚な夜を落としたようなエスプレッソまで堪能し、大人の隠れ家めいたバールを後にしてみれば、街は深く澄んだ夜闇にすっかり覆われていた。
 艶めく夜空にはきらきら煌く気泡が弾けたような無数の星、ジンジャーワイン気泡も甘さもまだ胸の奥に踊るようで、運河を渡って優しく潤う風がほろ酔い心地を夢見心地にもしてくれる。
 けれど迫る別れの時を思えば胸が締めつけられてしまいそう。
 これ以上望むものなんて、あるに決まってるからモニカは傍らの恋人を募る想いで見上げた。
 ――今日は帰りたくないって言ったら、あたしを攫ってくれる?
 心は言葉にならなくて、けれど想いが溢れそうな瞳を見返した彼が殊のほか柔らかに笑んで腕を伸ばす。
「――な、今日は帰さないって言ったらどうする?」
「……同じ事考えてた」
 抱き寄せた恋人がはにかむように吐息で笑って、エアハルトの背に手を回す。
 誰より傍で燈る甘い熱、愛しいぬくもりを肌で感じれば答えなど聞くまでもなくて、その耳元にただ、出逢ってくれてサンキュ、と囁きを落とした。
 世界で唯ひとり、彼を光のもとへ連れ出してくれた娘。
 出逢って手を取り合って――二人で羽ばたきその手に掴んだ、虹の幸せ。



マスター:藍鳶カナン 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:2人
作成日:2015/05/11
  • 得票数:
  • 笑える82 
  • 泣ける21 
  • 怖すぎ37 
  • ロマンティック6 
冒険結果:成功!
  • 生死不明:
  • なし
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