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【草帆光風】風翔る

これまでの話

<オープニング>

●草帆光風
 初夏の陽射しと翔ける光風、風翔けるたびに波打ちきらきら光る金緑の草原、草の海に抱かれて眠りについた、巨大な帆船めく姿の都市国家。この旅路で最も青空へと近づいた山の頂から眼下に望む光景は、胸いっぱい、はちきれんばかりに膨らんだ期待を悠々と抱きとめてくれる。
 遥か昔に滅びた都市国家。けれど滅びているのは初めから判っていたこと。
「ほんとにあったのね! 草帆光風フラセイル……!!」
「ありましたね! ほんとに帆船の姿だったんですね……!!」
 伝説の勇者の記憶のひとかけら、唯そこだけに残されていた都市を自分達で見つけ出せた歓びに刺青華・リリ(c11948)の声も輝くよう。天空に紡ぐ詩・シアン(c28363)の瞳も未知の都市への更なる期待に煌きを増す。
 ずっとずっと、世界をこの瞳で見たいと願っていた。
 勇者によれば、草帆光風フラセイルはふたつの帆船を合わせたような外観の都市だったというが、その片割れは瓦礫の山と化したらしく、帆船の形を留めるのは唯ひとつのみ。
 山の頂から見下ろす今のその光景は、草の海の浅瀬で座礁した帆船が瓦礫の岩礁に凭れかかる姿のまま放棄された様を思わせた。誰に知られることなく、ゆっくり朽ちてゆく巨大な帆船。
 けれど、
「……綺麗だ」
 眩しげに瞳を細めた光明の虎・リム(c11279)が知らず洩らした呟きは、心からのものだった。
 栄華を誇ったろうものが朽ちゆく姿が浪漫をかきたてるからか、その中に遺されているだろう歴史のひとひらひとひらを探すのが宝探しにも思えるからか。
「不思議……物語に出てくる光景みたい、だね」
 蕾が綻ぶような笑みで眼下の世界を眺めるのは、咲きそめ・デジレ(c18812)。
 光る風に煌き波打つ金緑の草の海。そこに眠る都市は座礁した帆船のようで、草原にぽつぽつと点在する木立や林は草の海に浮かぶよう。帆船みたいな都市国家のマストに張られた帆は瑞々しく青々とした草の緑。
 破れたりしてはいるがボロボロではなく、怪奇物語の幽霊船のごときおどろおどろしさはない。
 滅びてから永い年月を経ているはずなのに、いまだ形を保っているということは。
「あの帆も星霊建築だと思うのですよ〜!」
 胸いっぱいのわくわくが七色の星になって弾けそう。
 見るもの感じるものすべてを大好きなみんなへ話したくて、ひとつも零さず覚えて帰ろうと意気込む翡翠四葉・シャルティナ(c05667)が迷わずそう言いきった。弱冠十二歳の少女も星霊術士としてはとっくに一人前。
 星霊建築の力は恐らくもう消えているか相当薄れているだろうが、それでもきっと時の流れから長く都市国家を護っていたのだろう。
 悠久の時に想いを馳せ、スプートニク・ニエ(c08103)が淡く瞳を細めれば、光風に煌く金緑の草の海がひときわ眩い。一目見た時から微かに覚える違和感。けれどそれが言葉になる前に、黎明色の瞳が新たなものを捉えた。
 巨大な帆の陰から、甲板にあたる部分の村や街から、ふわり舞い上がる鮮やかな黄。
「……鳥、でしょうか」
「いや――ありゃ、鳥のピュアリィだね」
 草の海に同じ違和感を覚えていた風を抱く・カラ(c02671)はひとまずそれを脇に置いて、鷹の瞳で捉えた鮮やかな黄の翼持つ娘達の姿に瞳を眇める。初めて見るピュアリィに思えるが、さて、ひとの営み絶えた帆船の都市国家の今の住人は、どんな存在だろう。
「敵対してくるような相手だとしたら……面倒だな」
 夢壌の壁・エルヴィン(c04498)が微かに眉根を寄せた。今見える鮮やかな黄の翼持つピュアリィ達の数はざっと十。そして、それがすべてではあるまい。個々の力でなら自分達か勝るだろうが、数を武器にされればかなり厄介な敵になるだろう。
 けれど、未知の都市国家を前に――探究者の知識欲が臆するはずもない。

●風翔る
「取りあえず、木陰に身を隠しつつ、草原まで降りてみる……っていうのは、どうかな?」
 可能な限り戦闘を避ける方針と、黄の翼持つピュアリィの性質が判らぬ現状ではデジレのこの案が最良だろう。あのピュアリィの視力がどの程度のものか判らないが、木陰に身を隠しつつ慎重に山を降り始め、中腹あたりで火を使わず月あかりのみで夜を明かし、初夏の陽が中天に差し掛かる頃、山裾の草原に辿りついた。
 ――否、
「山裾の草原って言うより……草の海の水際、って感じだよね」
「本当、光と草の波が寄せてくるみたいです」
 山頂からは見下ろしていた帆船の姿の都市国家も、ここからはかなり距離があるのにその巨大な威容を見上げるばかり。その大きな都市の向こうにピュアリィ達の姿が消えた間にデジレは木陰から顔を出し、ニエが草の海の波打ち際へ歩み寄る。輝き波打つ草の海は美しいけれど。
 違和感の一端が判った。
 金緑に煌く草の海、それは青々とした瑞々しい草に枯れかけた草が混じってそう見えるのだ。
 だが恐らく、草帆光風フラセイルが栄えていた時代には、草原全体が青々とした瑞々しい緑の輝きに覆われていたはず。
「都市国家が滅んだことでこの辺りの土地も力を失った……とか、そういうことかしら?」
「その割には大分深いよね、この草。あたしの背丈は優に超すと思う」
 自由農夫らしい観点でリリが草原を見回し、風に唄う槍の穂先を草の海に突っ込んだカラも所見を口にした。彼女が覚えていた違和感もニエと同じ。
 この草の海は――もっと鮮やかに輝く緑の彩が相応しい。
 そう。帆船に残る、あの草の緑の帆のような。
「都市が滅びる前はもっともっと綺麗な草が大きくいっぱい茂ってたんでしょね。すごいのです♪」
 皆の言葉ひとつひとつにシャルティナが瞳を輝かせる。
 少女はぽふぽふと草の海の上で手を弾ませ、『今もすごいのです!』と歓声をあげた。
「この草、みっちり生えてて何だかほんとにこの上に浮かべそうなのですよ〜♪」
「……ほんとだ。草の上に立つってのは無理っぽいけど……もしかして」
 爪先を入れてみた感触にリムが瞬きする。
 確かに他では見ない草だ。密集して生えるその上から触れれば感じる不思議な弾力。
「ああ、筏や船なら草の海に乗せられるかもしれないな」
 吐息で笑いつつエルヴィンが呟けば、それに応えるように雄大な風が吹いた。
 輝き波打つ草の海、まだ見ぬ彼方へ心を攫ってくれるような風。
 どうしようもなく誘われる心地で草の海を見霽かすカラの唇から、ぽろりと言の葉が零れ落ちた。
「エルヴィン、当たりっぽいよ」
 草を編んだ筏に、草を編んだ帆を張る、とても簡素で不思議な舟。
 光風の中、それが草原を滑るように翔けてくる。
 乗っているのは鹿の頭と長身痩躯を持つバルバ――ディアホーンだ。
 相手は一体、戦いとなっても遅れを取ることはない。そして何より好奇心が勝って、そのまま眺めていると、此方に気付いたディアホーンが驚いた様子で手を振ってきた。

 ――どうしましょうか?


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参加者
風を抱く・カラ(c02671)
夢壌の壁・エルヴィン(c04498)
翡翠四葉・シャルティナ(c05667)
スプートニク・ニエ(c08103)
光明の虎・リム(c11279)
刺青華・リリ(c11948)
咲きそめ・デジレ(c18812)
天空に紡ぐ詩・シアン(c28363)

<リプレイ>

●風翔る
 涯てなき青空を渡る太陽の輝きを抱き、光る風が山肌を翔け降りる。
 ぱんと帆が張る音も威勢よく、草の舟は金緑に輝き波打つ草の海へと飛び出した。
 透きとおる水の香りの代わりに瑞々しい草の匂い、彼方に聳える草帆光風フラセイルが栄えていた頃には恐らくもっと鮮やかな草の香りがしたのだろうけど、それでも天空に紡ぐ詩・シアン(c28363)の胸も声も弾まずにはいられない。
「すごいですね! まるでお伽噺の冒険みたいです!」
「風に乗ってるみたいです! すっごく気持ちいいのですよ〜♪」
 跳ねるのは水飛沫でなく光の飛沫、翔る風に草原が波打ち、草の舟が弾むたびに小柄なシアンや翡翠四葉・シャルティナ(c05667)の身体も弾み、それが楽しくてたまらない。
 光の波飛沫に瞳を細めつつ、風を抱く・カラ(c02671)と光明の虎・リム(c11279)が鷹の眼で巨大な帆船のごとき都市国家を見遣れば、その威容がひときわ迫るよう。
「閉じてるのか草に埋もれてるのか――船腹には都市の入口らしきものは見当たらないね」
「うん。瓦礫の山になってる方から登って、甲板っぽい辺りから入るのが確実だと思う」
「ねえ! あっちの、瓦礫の方まで行ける……!?」
「任セロ!」
 帆柱に掴まりながら咲きそめ・デジレ(c18812)が見上げれば、ディアホーンが歯を見せた。鹿頭の表情は判りづらいが、きっと破顔一笑に違いない。舟に乗せてもらう対価にとデジレが贈った茶色のマントが風に翻る様も何処か嬉しげだ。
 光る風に帆が鳴り、銀の髪が煽られるたびに心が翔る。
 どうしようどうしよう。
 大きく開いた未知の世界の扉にデジレの鼓動は跳ねて、身体まで飛び跳ねてしまいそう。
「流石はバルバというか、いっそ清々しいくらいに――明快だったな」
 単純という言葉は呑み込んだ夢壌の壁・エルヴィン(c04498)も、先のディアホーンとの遣り取りを思い返して顔を綻ばせた。未知の土地で未知の舟に乗るためにバルバと交渉、なんて冒険が待ち受けているとは、これだから世界の探求はやめられない。
 皆で手を振り返して呼びかけたこのディアホーンとの交渉は、吃驚する程とんとん拍子に進んだ。何しろ初めて人間を見たらしい相手の思考回路は、
『見タコトナイ奴ラ! ケド、ぴゅありぃジャナイッポイ! ジャア――ナカマ!!』
 という簡潔極まりないものだったのだ。
 多分バルバの一種と思われているのだろうが、どうやら友好的でないらしい黄の翼のピュアリィの仲間と思われなかったのは幸いだ。
 甘味といえば野生の果実しか知らなかったのだろう彼にはシャルティナの星霊さん型チョコレートやデジレの蜂蜜飴が衝撃の美味だったようで、それらの贈り物に大喜びした彼は意気揚々と皆を舟に乗せてくれた。
 それに、
「誠実に、素直に、丁寧に。やっぱこういうのも大事だよな」
「だねぇ。駆け引きとかよりあたしはこっちの方が好きだな」
 舟に置かれていたディアホーンの木の槍を見て、騎士槍を背負ったままリムも笑う。武装は特別なことではないのだろう。武器を構えず、かと言って隠すのでもなく、言葉も捻らずに伝えたからこそ、思考の単純なディアホーンがすんなり受け入れてくれたのだ。
 威勢のいい帆風、草の海が波打つ様を舟越しに感じる躍動感、そして胸躍る奇縁にカラも笑って、額に金の花揺らしてディアホーンを仰ぎ見た。うん、あの立派な角も好み。
「そうだ、名前なんて呼べばいい?」
「ナマエ?」
「私はニエです。……貴方は、どう呼べばいいですか?」
「あたしはリリよ。ね、なんて呼べばいいかしら?」
「アア、りーだーハ俺ノコト、『カイ』ッテ呼ンデタ!」
 彼が首を傾げる仕草が微笑ましく、柔く笑み咲かせたスプートニク・ニエ(c08103)が、興味津々に瞳を輝かせた刺青華・リリ(c11948)が続けて訊ねれば、ディアホーン――カイが歯を見せた。それが笑顔だともう判る。
「? リーダーさん、今はいないんですか?」
「空の色ガ変ワル少シ前、トツゼン、イナクナッタ」
「……そうか」
 過去形の言葉に瞬きしたシアンは、カイの答えにひそりエルヴィンと目配せを交わした。
 ――恐らく、彼の群れはマスカレイドのディアホーンに支配されていたのだ。
 その『リーダー』は大魔女にエリクシルへの願いの代償にされて消えたというところか、と声にせずカラとリリも頷きあう。赤き空が青空へ変わった前後での変化を訊ねてみたかったが、彼にとってはそれが一番の大きな変化だろう。
「ええと、リーダーがいなくなって、悲しい?」
「イヤ、何ダカ今ハ、トッテモ気分ガ、イイ!」
「……そっか!」
 あんまりカイの声が晴れやかで、デジレにも大輪の笑みが咲いた。
 これからずっと、彼も、自由だ。

●風戦ぐ
 風が薫り、草が薫る。
 大きく風孕む草の帆も楽しげに波打つ草の海も煌いて、加速する草の舟が草の波間に躍るたび、草の青い香りに淡い水気と土の匂いも風に躍ってニエの鼻先を擽っていく。
 背を押す風とともに翔ける心地で向ける鷹の眼差しの先には巨大な帆船めいた都市国家、甲板の部分には幾つもの風車に彩られた村や街――と瞳をめぐらせた瞬間、鮮やかな黄が舞った。
「――来ます! 貴方と舟は私達が護ります、ね」
「ふらうりぃ達ノ風、強イ! ガンバレ!」
 蒼穹に舞う鮮麗な黄色の翼、腕代わりのそれで飛翔するピュアリィ達は『フラウリィ』という種であるらしい。彼女らが草帆光風フラセイルに住み着いたのは空が青くなってからというから、
「あの子達も、マスカレイドの支配から解放されて、自由になったのかな」
「それで旅してきたのかもですね〜。けど、仲良くできないなら……ごめんなさいですよ!」
 ある意味、自由に世界を謳歌する同志とも思えたけれど。
 少しでも縄張りに近づく者を攻撃し、繁殖相手を攫うピュアリィだというなら、デジレは灼熱の焔迸る紅蓮の門を開き、シャルティナはどんぐりの杖の先から跳ねる星霊ヒュプノスで迎え撃つ。
「キャー!?」
「近ヅクナ! 近ヅクナ!」
「ケド、おすハ、チョウダイ!!」
「オスは頂戴……って、まあ、それが奴らの本能なら撃退するしかあるまい」
 地獄の焔と眠りの羊に撃墜された一体が逃げ去るが、それには構わず猛然と空から襲い来る翼の乙女達。苦笑しつつ思う様エルヴィンが腕を振り抜けば、風を裂いて翔けた斧刃が乙女を薙いだ。
 襲い来る乙女達が揮うのはカイの言葉どおり強力な風。
 彼女らの襲撃を受けるたび帆風も草の海も荒れるが、相手が舟を攻撃するという知恵まで回らぬ様子なのは幸いだ。黄色の翼が巻き起こす風の技も三度目の襲撃を受ける頃には読めてきた。
 暴風圏を生む大きな竜巻、双頭竜のごとく襲い来る竜巻、強烈な衝撃を伴う疾風。
「でかいのはこりゃ、差し詰めブレイドタイフーンってとこだね!」
「分裂する奴はトルネードシュートに近い技だと思うぜ!」
「そしてもうひとつ――天翼烈風、よ!!」
 猛る大風に怯まず笑うカラの槍の穂先が風に唄った刹那、光り輝く麒麟が風を翔け上がり、リムが騎士槍を突き上げる勢いのまま迸った影の槍が乙女達を貫いていく。頭上から叩きつけられた風に挑むよう藁と千花の翼を広げ、リリも翼の烈風を蒼穹へ吹き上げた。
 未知のピュアリィ。だが、その揮う技は既知のアビリティに酷似したものとなれば、散発的な襲撃が頻発になり、その都度敵の頭数が増えてもこちらが惑うことはない。
「ってことは、ブレイドタイフーンもどき使いを優先ってことですね!」
「そして、指示を出す者や士気の高い者を!」
「つまり――こういう奴だな!!」
 光る風より眩く輝くシアンの紋章、描かれたそれから溢れる創世の輝きを浴びた暴風使いが堪らず逃げを打ち、礫のごとく放たれたニエのマキビシが腹に喰い込むのも構わず突っ込んできた乙女は大きな弧を描くよう放たれたエルヴィンの斧に背から脇腹を裂かれて悲鳴を上げる。
「デカイ風、来ル!」
「うん、わかった! みんな、揺れに気をつけて……!!」
「新手のお客さんもおいでだよ!!」
 皆に護られながら舟を操るカイはデジレが頼んだ通り、草原の風が勢いを増す直前に声を張った。耳元で大きく唸る風に帆が鳴り舟が翔け、草の波に跳ねる。軽く帆柱を掴んでやり過ごし、鷹の眼を凝らしたカラが次なる戦いを告げる。
 一気に迫り来た乙女を風に広がったニエの捕獲網が捕えれば、
「キャア!? 何コレ何コレ、ヤダアアア!!」
 黄の翼が網に包まれた瞬間、フラウリィが涙声で絶叫した。
「ええ、と……?」
「アイツラ、翼ヲ広ゲラレナイトカ、羽ニ何カ引ッカカルトカ、スゴク、嫌イ」
 泣いて逃げられるほどの手応えじゃなかったような、というニエの戸惑いをカイが笑い飛ばす。その気質ゆえか、草原に点在する林の中にあるディアホーンの集落までフラウリィ達が来ることはないのだとか。
「へえ、捕獲網が面白いくらい効くわけだ」
「じゃあ私がニエさんの隣にいくです! ジェナスさんでばっちり援護するですよ〜!」
 軽く瞳を瞠ったリムが撃ち込んだ影槍がその強大な威力そのもので乙女を退けた隙に、ぴょこんと弾むようにニエの隣へ位置取ったシャルティナが白き鮫を召喚すべく術力を凝らせた。
 少し申し訳ない気もするけれど。
 ――でも、フラセイルに入らせてもらうのです……!
 草の海に星霊ジェナスの津波が押し寄せる。
 怒涛の勢いに乗せて次々空へと放たれた罠が残敵を蹴散らせば、間髪を容れず次の集団が襲いかかってきた。
「オマエラ、帰レー!!」
 草の波間すれすれの低空飛行で突撃してきたフラウリィが、真正面の至近距離から巨大な竜巻を炸裂させる。激しく荒れ狂う風の渦が華奢なニエやシャルティナを蹂躙するが、
「そんな風程度では、この城壁は越えられまい!」
 即座にエルヴィンが意識を向けた瞬間、青い輝きが聳え立って彼女達を護る壁となり、翼の乙女の眼前に突きつけられたデジレの魔鍵がその場で紅蓮の門を開け放った。
 迸る焔の奔流、響き渡るフラウリィの悲鳴。
 しかし同時に、一瞬で舟の上を翔けた乙女が逆側から舟へ舞い降りる。
「コノおす、モラウ!」
「無断で乗るならもっと慎ましくして欲しいもんだね!」
「ええ、まったくです。無賃乗船はお断り!」
 一番弱そうと踏んだらしいカイへと翼を伸ばす乙女。けれど勿論触れさせるはずもなく、鋭い翠の斬撃を奔らせたカラの魔獣の鎌に怯んだフラウリィの首にシアンの鞭が絡みつく。
 舟へ降りてきた相手には滞空中ほどの大打撃は与えられない。
 だが、小柄なシアンが可憐な白花咲く鞭で揮う絞首鞭は、この場で最強の威力を持つ技だ。
「――ご退場、願います!!」
 大きく宙に舞い、舟が跳ねるほどの勢いで草の海に叩きつけられた乙女は、一瞬で戦意を喪った。
 ここまで撃退したフラウリィ達は既に二十を超える。先に襲撃した仲間が逃げ去る様も見えていただろうに、そして今眼の前で仲間が叩き伏せられたというのに、それでも構わず乙女達が突っ込んで来る様に、リリが呆れと憤り混じりの溜息を洩らす。
「ほんっとこの子達、しょうがないんだから……!」
「カイ達が手を焼いてるのも、わかるね」
 襲い来るフラウリィにリリの烈風が激しい逆風となって喰らいつき、風に煽られひときわ大きく解き放たれたデジレの紅蓮の門から翔けた焔の竜が乙女達を蹴散らし、運良く竜から逃れた者達へは、リムの撃ち込んだ影槍が黒き花火のごとくに襲いかかった。
 鮮やかな黄の翼に無残な大穴が開いた姿を見れば心が痛んだが、
「俺達のことは覚えておけよ!!」
「キャー!!」
「コワイ! コワイー!!」
 後のことを思いつつ強く威圧すれば、フラウリィ達は震えあがって逃げ出し――やがて、青い空の彼方へと消えた。彼女達がどれほど恐怖を覚えていてくれるかは分からないけれど、暫くは、滅びの眠りについた都市にもこの草原のディアホーン達にも穏やかな時間が訪れるだろうか。

●風眠る
 草の舟が、誰にも捕われず、何にも遮られぬ風となって草の海を翔る。
 翼の乙女達を撃退してしまえば後は、威勢良く帆を鳴らし、限りなく楽しげに背を押してくれる風と一緒になって、あの巨大な帆船めいたフラセイルへ翔るだけ。
「やっぱり水上の舟とは乗り心地が違うな!」
「この弾み方が、楽しい、です……!」
 金緑に煌く草の波から弾ける光の粒にエルヴィンが瞳を細め、波を越えた拍子に舟が弾む感覚に思わずニエも笑みを零す。水より弾力があるせいか弾んで落ちる感覚まで軽快だ。
 瞳を閉じればきっと、自分自身が草の海に遊ぶ風になった心地。
 けれど巨大な帆船の威容が刻一刻と迫る様を見逃すのは惜しい。眼前にあるのはもう帆船でなく瓦礫の山の方だけど、瓦礫の向こうに見える瑞々しい草緑の帆やマスト、甲板部分の村や街の光景だけでもリムの心は浮き立った。
 草の海を翔る舟を操る――とは言え、やはりバルバ。知的好奇心を満たすという意味ではカイとの会話は物足りなくもあったが、
「あんた気のいい船頭だもんねぇ、あたしゃほんと楽しいよ」
「俺モ、オマエタチ、面白イ!」
 心のままにカラが破顔すれば、彼も歯を見せて笑う。
 草帆光風フラセイルに関してはカイより寧ろこちらの方が知識を持っていた。彼はフラセイルの名も知らず、中へ入ったこともないらしい。
「りーだーガ、入ルナッテ、言ッタ」
「そう、なんだ……」
 零れた自分の声を掬うよう、デジレは無意識に口元へ手をやった。
 何か理由があったのか、それとも単に勝手な行動を禁じただけか。
 視線を戻せば目的地はもうすぐ眼の前にあった。草の海を翔る舟が、草の波寄せる瓦礫の山へと辿り着く。そっと降り立てばシアンの靴の下で瓦礫の音がした。ここはまだ瓦礫の山。
 けれど、フラセイルの地に立ったのだと思えば、胸に迫るものがあった。
「ほんと楽しかったです! ありがとうございました、カイさん!」
「ええ、乗せてもらえて嬉しかった。ありがとうね、カイ!」
「アア。ジャアナ!」
 改めて感謝を伝えるシアン、手を振って彼を送り出すリリ。応えたカイの言葉はあっさりとしていたけれど、鹿頭の飛びきりの笑顔が胸に残った。だから、自然の山を越えるよりも余程厄介な瓦礫の山登りも楽しくて。
 登りきった時には世界が茜に染まり、誰もが汗だくになっていたけれど――。
 声もなく見惚れていた彼らを誘うよう、心地好い風が吹いた。
「近くで見るとますますスゴいのですよ〜」
「……廃墟とはいえ、よくも残ってくれていたものだ」
 どうして声が震えちゃうんでしょかとシャルティナが呟く。
 感動か、感慨か。そういったもののためだろうなと眦を緩めてエルヴィンが応える。
 塔よりも高く巨大なマスト、夕陽に煌く草緑の帆。そのもとに広がる地に彼らは立った。
 ここが、草帆光風フラセイル。
 遥か遠い昔に滅んだ、いにしえの都市国家。



マスター:藍鳶カナン 紹介ページ
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いまいち
参加者:8人
作成日:2015/05/23
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