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揺花ウィスタリア

<オープニング>

●花の滝
 桜が散り、次に視界を覆うのは淡い紫色。
 小さな花弁が房のように垂れ下がり、風に揺れる様は大変美しく。人々の心を癒していく。
 仄かに香るその香も。闇に照らされる姿も。人を――そして、人以外をも惹き付ける魅力を持つ。

●揺れる藤
 水の都市アクエリオに、藤の花が咲き誇る庭園がある。
 そう、鞭のソーンイーター・ユリウス(cn0182)は酒場のエンドブレイカー達に向け零した。
「丁度満開の時期で、人も大勢訪れるんだけど――」
 最近問題が、発生しているらしい。
 野生のリスが数匹庭園にやってきては、花を傷付けている。そう庭園の管理人から相談を受け、少年はこうしてエンドブレイカー達に声を掛けた。
「普通の藤ならば、さほど問題にはならなかったんだろうね……」
 少年が語るように、この庭園に咲くのは『硝子藤』と云う変わった品種。微かに透き通る花弁と葉は、まるで硝子のよう。握れば硝子のように砕けてしまうほど、扱いには十分注意しなければいけない花だとか。――だから、扱い方を知らないリス達が遊んでいると、花を傷付けてしまうのだ。
「まあ、相談を受けたから。きちんと解決、しないとかなって」
 それで、1人で行くには広いから。
 良かったら手伝ってくれないかと。彼は遠慮気味に、そう言葉を紡ぐ。

 広い庭園内でも、リス達がじゃれるのは長い藤が咲き誇るエリア。藤色と言われる、淡い紫色がどうやらお気に入りらしい。長い房を登ったり下りたりして、彼等は遊んでいる。
「ある程度場所は絞られるけど、そこそこ広いから。手分けして探して貰えると助かるかな」
 藤のトンネルのようになっているそこは、大体30メートル程か。歩いていれば大した距離では無いけれど、小さな存在を探すとなると少し大変かもしれない。
 けれど房に、長い尻尾が見えれば気付くだろうし。大きく藤が揺れたりもするだろう。
「まあ、さほど難しい話じゃないよ。相手はただのリスだし、驚かせれば逃げていくだろうね」
 主に人手が必要な理由は、小さなリスを探すのが大変だからだと。ユリウスは説明する。
 ――問題は、彼等はどうやら夜行性の種類らしく。夜にしか現れない事か。
 夜でも一般開放されている為、藤はライトアップされて視界に不便は無い。だが、日中よりは少し見付け難いだろう。その辺りを注意して、探して欲しいと少年は語った。

「それで、さほど時間も掛からないだろうし。……終わったら、藤を楽しめば良いんじゃないかな」
 様々な種類や色が溢れる、藤の咲き誇る庭園。広い藤棚や、リス探しを行う場所のような藤のトンネル。アクエリオらしく水辺に橋が架かり、水面に映る藤を見る事も出来るだろう。
 どこもライトアップされ、広がるのは幻想的な景色。
 静かに――平和な時間を楽しむように、散策するのが良いだろう。
 また、庭園内にはカフェもあり、藤棚の下でお茶を楽しめる。光に照らされる藤の下――藤の砂糖漬けを添えられた甘味や、紅茶と珈琲を楽しむのも素敵なひと時。夜だけ提供される、藤をイメージしたカクテルを楽しむことが出来るのは、今回の依頼が夜だから。
「まあ、羽目を外さない程度にね」
 そっと注意事項を1つ零し、ユリウスは微かに笑むと。
 良ければ手を貸して欲しいと。彼は改めて、エンドブレイカーに声を掛けた。

 心穏やかに過ごせるのは、今までのご褒美のようにも感じる。
 そんな時間を、誰かと共に過ごせれば。更に特別な時間へとなるだろう。


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参加者
藤弦の楽師・シリル(c03560)
青空に響く歌声・カイジュ(c03908)
破竹円舞・デイジー(c05482)
錦の上に添う花珠・リンジュ(c10912)
銀の塔主・トウカ(c20010)
花紡ぎの妖精騎士・ルシア(c33314)
二律背反系魔法剣士・ローウェン(c35126)

NPC:鞭のソーンイーター・ユリウス(cn0182)

<リプレイ>

●硝子藤に惹かれ
 冷気と温もりを含んだ風――日中は随分と気温が上がったけれど、天がコバルトブルーに包まれる時刻になれば、随分と気温が下がり過ごしやすい空気が流れる。
 瞬く星の下。灯る光を浴びて、きらきらと輝く何かが。
 ゆらり、ゆらり――薄紫のその房は優雅に、はらむ香を広げるように揺れる。
「綺麗だね……」
 広がる藤の花の香りが、破竹円舞・デイジー(c05482)の鼻をくすぐる。闇に照らされる透き通る花弁を見て、彼女は感嘆の息と共に素直な感想をつい口にしていた。
 一面に咲く藤を見ると、もうこの季節が巡ってきたのかと。不思議な心地になる。
「では、お話通りですわね」
 淑やかに微笑みつつ藤弦の楽師・シリル(c03560)が言葉を零せば、一同は頷く。この辺りに出たと云う、藤のトンネルまでやって来たところ。直接管理人から話を聞いた鞭のソーンイーター・ユリウス(cn0182)が此処だと言うのだから、間違いは無い。
 エリアは絞れてもある程度の広さはある。手分けをして捜索をすると、彼等は事前に決めていた。

「森の小さな隣人達にも困った物です、ねぇ」
 ゆるりと瞳を細め、言葉を零す二律背反系魔法剣士・ローウェン(c35126)。いくら困っていると聞いていても、小動物を追い払うのは気持ちの良いものでは無い。でも、きちんとこなさなければいけないと、言い聞かせるように彼は頷いた。
 そんな彼の様子を見て、隣に立つ花紡ぎの妖精騎士・ルシア(c33314)は笑みを零すと。
「ある意味、リスには感謝しないとかもね。こうして藤に花をゆっくり、じっくり見られる機会をくれたんだから」
 そう語り、光に輝く硝子藤を眺めれば。
「あ、あそこ!」
 咄嗟に零れる声と共にルシアが指差した先には――ゆらりと揺れる藤の房から覗く、もふっとした尻尾。ちょろりと素早く動くと、2人がいる場所とは反対側へと飛び移っていく。
 声が聞こえ、振り向いた青空に響く歌声・カイジュ(c03908)は少し慌てる。微かに驚いたように瞳を開いた銀の塔主・トウカ(c20010)だったが、直ぐに見えたリスへと追跡の刻印を刻む。これはリスが、本当に遠くへと逃げたかを確認する為のもの。今は無意味だが、この後効果が出るだろう。
 鋭い眼差しでリスを見るトウカの横から一歩、デイジーが踏み出せば。
「そこのリスさん、私の力を見て、恐れおののくが良い!」
 言葉を零した直後に、発するのは魔獣の咆哮。――ただ追い払う、と云う目的の今回。攻撃で驚かすより的確だったのかもしれない。ぼわりと尻尾を広げたリスが、慌てたように藤の房を昇って行く。昇り切ったところで、もう一つの尻尾を発見しユリウスは指差した。カイジュの操る棍と、駆け付けたローウェンの生み出す薔薇の花弁と共に響く刃音が彼等を驚かす。
 ――そんな、リスに奮闘する仲間の声を聴きつつ。
 藤を見上げ、探す錦の上に添う花珠・リンジュ(c10912)の足元には2匹のバルカン。炎を揺らめかせ彼女の歩に合わせるが、生き物であるリスを探す事は彼等には出来ない。
「リンジュさん、あちら」
 こそりとシリルが言葉を零した通り、ひとつの藤の房にぶら下がり遊んでいるリスの姿を見つけた。頷き合い、シリルが大切そうに抱えた白藤の弦を弾くとリンジュは眩い光を生み出す。
 びっくりしたリスは、音や光から離れる為かやはり上へと逃げていく。先に逃げていた2匹と合流したと思えば、彼等は混乱したように、藤棚の上できょろきょろと辺りを見渡す。
 あっちへこっちへ。ちょろちょろと動いた後。柱を伝い地に降り、慌てたように駆け出した。
 ――遠くへ、遠くへ。そう語っているかのように、彼等は庭園の外へと向かう。
「ごめんね、また別のいい遊び場を見つけて頂戴」
「今度一緒に別な所で遊びましょうね!」
 逃げる3匹の揺れる尻尾を見送りつつ、ルシアとカイジュはその背に声を掛ける。元々小さかったその姿が、肉眼で見えなくなるのは早いもの。リンジュは哀しそうに瞳を伏せると。
「少し、可哀想だったでしょうか……」
 そう、小さく呟いた。
 彼等にとっては、ただ遊んでいるだけ。人間の都合でそれを邪魔する事に胸を痛める者は多い。
「共存はなかなか、難しいね」
 彼女の呟きに応えるように、ユリウスは溜息混じりに言葉を零す。
 せめて、また同じような事が起きて。再び彼等に何かしらの対処をしないで済む事を祈ろう。
「これでわかってくれればいい、のだけど」
 もう見えない影の行方を灰色の瞳で見つめながら、トウカはそう零していた。

●幽玄のウィスタリアに
 零れ落ちる花弁が、光を浴びてきらりと輝いた。
 ――仕事を終え、エンドブレイカーは各々藤の中を散策する。
 夜闇の中。咲き誇る藤はどこか幻想的な姿。
 その光景は、正に幽玄と表すのだろう――。

 天に輝く星空の絵。光を浴びて輝く藤。
 その2つが美しくて――つい、カイジュは音色を奏でてしまう。人々の邪魔にならないように、音量は小さめに。心地良いメロディーに耳を傾けていた陽光香・ラフィニア(c04595)は、そっと口を開く。
「いつも、お誘い、ありがとう、ございます」
 心からの感謝を伝えたい。けれど、鼻をくすぐる香が気になってしまう。きょろきょろと辺りを見る彼女に笑みを零し、カイジュは藤のトンネルを見回しこう語る。まるでお伽話の国のよう。
 大魔女を倒し、世界にマスカレイドがいなくなった実感が、胸にこみ上げる。
 穏やかな気持ちでゆっくりと過ごせる現実。――そして、すぐ傍にはラフィニアの笑顔がある。
「本当に贅沢ですよ!」
 心からの想いを語りながら、彼は弦から手を放すと――綺麗な花を1つ手に取り、彼女の髪に挿す。漆黒の髪に映える藤色。その姿はとても美しく、花屋として人々を笑顔にしている彼女によく似合うと、彼は思う。硝子のような煌めきは、きっとラフィニアが輝いているのと同じなのだろう。
 そう語るカイジュの言葉に、瞳を瞬いた後頬を染め俯く。
 ――けれど顔を上げた彼女は、零れるような笑みを見せていた。
 その笑みにカイジュは更に幸せそうに笑い。いつも本当にありがとうございますと、想いを述べた。

 きらきらと輝く花弁。自然界ではなかなか見無い輝きに、デイジーは見惚れる。
 エルフヘイムで様々な植物を見てきたけれど、硝子藤のような花は見た事が無い。学者として、興味が湧いてしまうのは仕方の無い事。
 薫る香も、咲き誇る姿も藤と同じなのに。――夜を照らす光を反射する、その姿だけ違う。
 話に聞いた通り、硝子のように透き通る花弁と葉。光に照らされ纏う輝きは、この藤独特のもの。
「世界にはまだまだ未知の植物でいっぱいだね」
 天を仰ぐように見上げ、風に揺れる藤を見つつ。彼女は思わず言葉を零していた。
 広い世界。様々な都市国家。
 きっとまだまだ、デイジーの知らない植物もあるのだろう。
 揺れる藤をじっと見れば、透き通る花弁が煌めく。――その様は自然に出来上がったとは思えない程美しく、人の手により作られたと言われれば信じるだろう。
「硝子藤、って名前の通り、まるで硝子細工みたいね」
 存在を確かめるように、握る手を微かに強めつつ。ルシアは心に想った事を口に零す。
 空いた手が触れるのは、彼女の耳元で揺れるピアス。咲き誇る花と同じ藤を写したその耳飾りは、愛しい人に貰ったもの。この場所に彼と訪れたきっかけをくれたのも、この耳飾りのお陰。
「先の戦いで世を識った気になっていましたが、やはり、まだまだ世界は未知に溢れて居るのですねぇ」
 微かに逸る胸を、気付かれないようにと抑えつつ。ローウェンは彼女の言葉に頷き藤を見上げる。彼に倣うようにルシアも藤を見上げれば――強く吹いた春風が、彼女の藤色の裾を揺らす。
 思い出深い藤花の元へ。愛しい彼と訪れる事が出来た幸せを、ルシアは噛み締めるように微笑む。決して離れないと、想いを伝えるように手に温もりを繋いだまま。

 揺れる硝子藤――今にも壊れてしまいそうな儚さ。その危うさが、更に魅力を高めるとリンジュは心に想いつつ、ほぅと溜息を零した。
 人は儚いものに惹かれるとはよく言うけれど。実際に目にすると、感じ方も違うもの。
 通常の生花では、硝子藤のような儚さは生まれない。
 数多の種類があり、様々な地域で今時期は藤を見る事が出来るけれど。この儚さは恐らく此処だけ――シリルは闇夜に浮かぶ純白の藤の花を眺めつつ、腕の中の竪琴を撫でる。
「私の白藤も素敵ではありますけれど。自然に咲くものとは趣が違いますから、ね」
 繊細な細工がされた白色の竪琴。結び付けられた藤色の飾り紐が風に流れるその姿も美しいが――竪琴の美は、自然界を見た時に感じる美しさとは別のもの。咲き誇る藤の花々に、コヒーレント(c12616)も笑みを零す。
 こうして、リンジュと言葉を交わすのは久々だと。改めてシリルは感じる。
「以前は、憂い無く花を愛でられるとは思ってもみませんでしたが。今は……存分に堪能出来ますね」
 穏やかに微笑み、シリルはそう零した。
 風が吹けば硝子藤が揺れ、はらりと花弁を散らし3人へと降り注ぐ。
 美しさ。儚さ。――こうして藤に魅了されるのも、実際に見て心に響くものがあるから。その機会は、藤だけでは無く様々な生花に共通するのだろう。だからシリルは、色々な花を見に出掛けられたらと語り、2人へ微笑みかけた。
 舞う花弁を漆黒の髪に纏わせ、リンジュは笑みを返す。
「ふふ、何処かへ出かける際はお伴させて下さいね」
 いつも気遣って声を掛けてくれるコヒーレント。
 いつも笑顔で待っていてくれるシリル。
 2人との出会いが、リンジュにとってはとても幸せな事だった。2人と共の時はとても心地良く、再びの機会があれば幸せだし、永久に続いて欲しいと願うほど。
 改めて気持ちを実感すれば、溢れるほどの感謝が尽きず――。
「今まで本当にありがとうございました」
 深々と礼をして、リンジュはその言葉を述べた。
「こちらこそ」
 少し驚いたように瞳を瞬くコヒーレントは、シリルと視線を交わした後微笑み言葉を返す。 
 感謝の想いは、シリルにだって。長い長いマスカレイドとの戦いの旅路が終わった今も、こうして共に居られることが素直に嬉しい。
「また来年も、この藤と皆さんの笑顔が見られますように」
 ――憂い無きこの後も。縁が続きますように。
 その願いを、込めて。
 この後3人が鳴らすカクテルグラスの音色も、今日の日を祝福するように聞こえるだろう。

●硝子花の下で
 硝子のような藤の下――テーブルの上に吊るされたランプの灯りの下で、トウカはカクテルグラスを傾けた。揺れる鮮やかなグラデーションは、銀一色の彼女が持つことで尚映える。
 楽しそうにグラスを揺らす彼女を、静かにユリウスは眺めつつ珈琲を1口。
 甘く藤咲く華やかなワッフルに、薫るカクテルは大人なようで可愛らしい印象も与える。鋭い眼差しを持つトウカとは少しイメージが違うかもしれないけれど、それが彼女の素。
 ワッフルを食べ終え、カクテルを口にすれば口に広がる香りにトウカは驚いたように瞳を瞬く。初めての味わいはとても興味深く、彼女はグラスに口を付ける。
「……顔が少し、赤いけれど」
 勢いを失わずカクテルを口にするトウカの変化に、ユリウスは大丈夫かと尋ねる。髪も瞳も肌も、白い彼女。けれどだからこそ、顔が紅潮しているのが分かりやすく、ユリウスでも気付けるほど。
 その問い掛けに、グラスから口を離し彼女は語る。
「お酒飲むの、初めて」
 頬に手を当ててみれば、確かに熱を持っている。身体がふわふわとするけれど――きっと、今日の日が楽しいからだと。彼女は想った。

 メニューに書かれたカクテルの文字を、ローウェンはモノクルの奥の瞳で追う。
 その様子に気付いたルシアは、気にしないでと笑うけれど。
「貴女を差し置いて酒に酔う、と言う訳にも行きませんし」
 首を振り、彼はそう返した。
 美しいカクテルは気になるけれど、それは1人で楽しむものでは無い。けれど、その代わりに。
「今から楽しみにしておきます」
 ――貴女と一緒に飲み交わせる日を。
 微笑み、彼はそう語った。
 エルフであるルシアが、大人になる日はまだまだ先だけれど。――その言葉は、その日まで待っていてくれると云う約束の言葉でもある。
 だからルシアは、その日を夢見て頷きを返す。
 時の流れは少し恐ろしい。
 それは残す側も、残される側も同じ事。だからと言って、未来を捨ててはいけない。時の流れに残さぬように、その中に思い出を残そうと。変わらぬ笑みのまま、ローウェンは想う。
 だから語った『未来』が訪れた際には、再びこの藤の庭へと訪れようと。
 そんな契りを、交わしつつ――。

 広い庭園に咲き誇る藤は、硝子の儚さと散りゆく生花の儚さを併せ持つ。
 僅かな時しか見る事の出来ない、美しい花々に。
 確かに、魅了されていた。



マスター:公塚杏 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:7人
作成日:2015/05/23
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  • ロマンティック6 
冒険結果:成功!
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