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花霞の彼方の海

<オープニング>

●花霞の彼方の海
 明るく爽快に晴れ渡る青の空、輝くほどに真白な夏の雲。
 何処までも飛んでいけそうな青空のもとには大地に広がる薄い水面の空鏡。
 そこには眩いくらい鮮やかな南国の花が咲き溢れ、時に華やかな花吹雪を見せてくれる。

 ――ねえ、その彼方にある海を探しにいこうよ!

「っていっても本物の海じゃないのね、明るい南国の海と空みたいな宝石の話!」
 水神祭都アクエリオの酒場で陽に透かした蜂蜜みたいな色した瞳をとびきり楽しげにきらめかせ、夏空の狩猟者・アンジュ(cn0037)が取っておきの秘密を明かすようにそう語る。
 事実彼女は、依頼人さんの意向だから他のひとには内緒にしてね、と前置いて話を続けた。
 それは明るい水色に光の波紋めいた模様が揺らめく宝石。
 明るく透きとおった南国の海の中から見上げた空のような、あるいは麗しき水神祭都の水の流れをそのまま切り取ったような美しいその宝石は、ラリマーという名で知られている。
 鉱物としての名はペクトライト。これ自体はそれほど珍しいものでもないけれど、明るい南国の海と空みたいな色合いと模様を持つものはやはり希少なのだという。
「んでもね、ラリマーが採掘できるかも……って場所が新しく見つかったんだって」
 優しくきらめく半貴石を主にしたカジュアルジュエリーを扱う宝飾店『春告鳥』の店主が聴きつけた話によれば、アクエリオの外縁部に近いところにある山の洞窟からそれらしき石が見つかった――というのだが。
「あくまで噂、それもちらっと出たばっかりの話でね、『春告鳥』の店主さんもそこで採れた現物を見たわけじゃないのね」
 けれど、もし本当にラリマーが採れるならぜひ採掘権が欲しいという話。
 春告鳥の店主レイチェル・マクリーンは若いながらも商売人としてはかなりの辣腕家で、その辺りを治める領主に早速渡りをつけた。が、彼女としては当然のことながら、本格的に話を進める前にその洞窟で本当にラリマーが採れるのかを確認しておきたいところ。
 何しろその山は広範囲に浅い水面が広がる湿原に囲まれた山で、あまりひとが訪れる山ではなく、噂の石が見つかったのは本当にたまたまだったのだ。しかも発見した者もその石を持ちかえってはいないというから、現物がない。
「レイチェルさんの商売人としてのカンは『きっと質のいいラリマーが出る!』って言ってるんだって。んでもね、やっぱり本格的な商談に入る前にそこで採れる石のサンプルが欲しい――ってことでね、こっちに話がきたの」
 何故アンジュに話が来たかといえば、今の季節、件の山の周りに広がる湿地に咲き溢れる花が、少し危険な花だからだ。

●さきぶれ
 明るく爽快に晴れ渡る青の空、輝くほどに真白な夏の雲。
 その空を映す鏡のごとき水を湛えた美しい湿原には、眩いくらい鮮やかで南国的なピンク色の花を咲かせるブーゲンビリアの群生地であるという。
 そしてこの湿原のみで育つ種であるらしいこのブーゲンビリアは、その鮮麗な色の花びら――厳密には花びらではなく、葉が変化した苞――を一斉に辺りに舞わせる華やかな花吹雪を見せることがあるのだが、
「それって飛びっきり綺麗なんだけど、実は毒のある攻撃なんだって」
 花咲く大切な季節に身を護るためのものらしく、元々その湿原に住んでいる生き物達が攻撃されることはないのだが、たまたま渡りの途中で湿原に降りた渡り鳥など、外部からやってきた者は攻撃の対象になるらしい。
 花の季節が終われば危険はなくなるのだが、レイチェルとしては同業者がこの話を聴きつける前にサンプルを確認して商談を進めてしまいたい。だが、今の時期は一般人が向かえる場所ではない。
「ってなわけでアンジュ達の出番なの! ね、アンジュと一緒に、ブーゲンビリアの咲く湿原を渡って、その先にある山の洞窟に空と海の宝石を採りにいこうよ!」

 眩いくらい鮮やかなブーゲンビリアの花吹雪。
 それは戦いの心得のない者には危険な攻撃なのだけど、
「アンジュ達にとってはね、少し熱っぽさを感じる程度のごく弱いものでしかないのね。んでもってそのブーゲンビリアは湿原にいっぱい群生してるけど、山のすぐ周りには生えてないらしいからね、少し熱っぽいのをちょっと我慢して、群生地を通りぬけちゃえばもう大丈夫!」
 ただ、そこは空鏡のごとき水を湛えた湿原だから、渡るためにはゴンドラが必要だ。
 戦うための鍛錬を積んだ冒険ゴンドラ乗りに頼んで乗せてもらう、という手段もあるが、
「もし今ここにゴンドラ乗りさんがいれば、ゴンドラ出してくれると嬉しいんだよ。レイチェルさんはこの情報を知るひとは最小限にしておきたいみたいで、出来れば信頼できるエンドブレイカーのみで事にあたってもらいたいって話なの」
 ブーゲンビリアの花咲く湿原をゴンドラで渡り、その先にある山の麓の洞窟で石を採掘する。
 洞窟といっても実際は大きな洞穴といった程度のもの。
 中で石を掘るのは難しいことではないだろう。
 そして、もし一般の冒険ゴンドラ乗りを頼むなら必要最小限の時間の滞在しかできないが、自分達エンドブレイカーのみで向かえるなら、好みの模様のラリマーをのんびりと探すのもいいだろう。今回採れた石は、レイチェルが確認したあとなら自分でもらってもいいし、彼女に頼めばアクセサリーにもしてくれる。
 それに、一晩くらいそこで過ごして星空を映す湿原を眺めるのも楽しいかもしれない。
 そのあたりはみんなで話し合ってもらえれば嬉しいんだよ、と続けて、暁色の娘が笑みを燈す。
「あのね、もし素敵なラリマーを見つけられたなら、また逢おうね」

 花霞の彼方で見つけた海のことを、きっとまた語り合ってみたくなると思うから。


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参加者
花渫う風・モニカ(c01400)
花紺青・ユウ(c01588)
燻る焔・ハルク(c01816)
昏錆の・エアハルト(c01911)
アゾートアズール・キウ(c06943)
陽凰姫・ゼルディア(c07051)
勿忘草・ヴリーズィ(c10269)

NPC:夏空の狩猟者・アンジュ(cn0037)

<リプレイ>

●花霞の彼方の空
 瑞々しい緑と水薫る風に頬を擽られれば、心躍らずにはいられない。
 蒼穹の瞳輝かせるアゾートアズール・キウ(c06943)の眼前に広がるのは、涯てなき青空とそれを映した水の空鏡。ゴンドラの舳先が空鏡を分けるたび溢れる水の香も、湿原に咲くブーゲンビリアの花吹雪も、その先に待つだろう空と海の宝石も、キウの指先まで歓喜で満たしてくれるよう。
「キウちゃんすっごいキラキラしてるー!」
「だって嬉しくて頬が緩んじゃって仕方ないのよ。――いざ、蒼い空の欠片を目指して!」
「目指して! 突撃ー!」
「突撃なの!?」
 舳先から軽く身を乗り出すキウに肩を並べた夏空の狩猟者・アンジュ(cn0037)の声が弾ければ、淡い歌声を紡いでいた陽凰姫・ゼルディア(c07051)にも笑みが弾けた。それでも空と水に途切れず響く歌声は、櫂を操る勿忘草・ヴリーズィ(c10269)のもの。
「ゴンドリエーレさんは歌上手さんも多いけれど、今日の漕ぎ手さんはとびきりだものね」
「ゼルディアに言われると照れちゃうな。――あ、見えてきたよ、ユウ!」
「うん、折角舟を出させてもらったんだもん、気合入れて行くよ!」
 水の空鏡の先で眩いくらい鮮やかに咲き溢れるピンクの花に瞳を細め、もう一艘のゴンドラを操る花紺青・ユウ(c01588)も櫂の先から滴の花を咲かす。回復は任せて、と蒼穹の滴抱く魔鍵を握った花渫う風・モニカ(c01400)の傍らでは彼女の半分近くまで膨れた鞄がぽふんと揺れ、
「……何泊する気だ」
「えっ! 荷物多すぎかな!? そのツッコミ出発前に欲しかったです……」
「お前達双子は今日も仲いいよな」
 ぽふんと凭れかかってきたそれを燻る焔・ハルク(c01816)が呆れ顔で妹の許へと押し戻してやる様に、昏錆の・エアハルト(c01911)が愉しげに喉を鳴らす頃――空鏡の湿原に咲き誇る南国の花が一斉に花嵐を吹きつけてきた。
 空と水の青を瞬く間に染め抜く南国の花の色。
 鮮やかに舞い吹雪く花びらは実のところ葉が変化した苞で、その質感は薄絹というよりは紙細工、それゆえ、眩いほど鮮明なピンクの花嵐はパレードの紙吹雪めいた華やぎも纏う。
 まるで天と地の青空から降りそそぐ夏の祝福。
 掌に花が跳ねる感触も頬を擽っていく感触も軽やかな紙風船のように楽しいけれど、
「う、確かに顔が熱り出した気がする……」
「風邪ひいた感じにちょっと似てるかも。けど確かに普通のひとにはキツいよねこれ」
 確かに含む毒が齎す微熱。淡く薔薇色差した頬にモニカが手を遣り、微熱を含んだ吐息で気丈に笑ってユウは花霞の彼方を見遣った。戦うすべを持たぬ者なら倒れてしまうだろう花嵐、けれど水を掻く櫂の手応えやゴンドラの舳先が水面を分けていく感触が、毒の熱以上の高揚をユウにくれる。
 ――ブーゲンビリアも、生き延びたいだけなんだよね。
 花吹雪の中、微熱の疼きを堪えて涼やかにヴリーズィが響かせる歌声が、空鏡を南国の緑と花で彩るブーゲンビリアの森を傷つけぬよう彼女のゴンドラを導いていく。
 はふ、と軽く息をついた漕ぎ手に交代しよっかと手を伸べたのは、三年前のアクエリオの星。
 水神祭都のゴンドラはドローディオスを施した星霊建築。乗り手とともに成長する舟ゆえに、他人の舟では本来の実力発揮とは行かないが、
「キウの華麗な操舵、見てみたかったの……!」
「私も! 私も楽しみにしてた!」
「嬉しいな、ご期待に添えるように頑張っちゃうね♪ さ、皆も歌でご一緒に!」
 歓声とともに櫂を受け取って、キウは軽やかに舟を水の空鏡へと滑らせた。口遊むのは水の滴が跳ねるように楽しい水神祭都のわらべうた、誰の口にも馴染む唄はたちまちカルテットになって舟を満たし花吹雪く青空へも明るく咲き誇る。
「あのっ! モニカも一緒に歌いたいです!」
「いいなあ、私も一緒していい?」
「ええ勿論! それじゃもう一度始めから!」
 熱でなく歓喜に頬を紅潮させたモニカと、楽しげな様子につい誘われたユウも加われば乙女達の華やかなセステット、けれど花吹雪に添える華やぎはまだ終わらない。
「ね、アンジュさん、ヴリーズィさん、一緒に花鳥風月扇で彩りを添えてみない?」
「きゃー水上で扇乙女会したいしたいー!」
「すごく素敵な予感しかしないんだよ! じゃ、せーの!」
 悪戯に瞳を煌かせたゼルディアの夜昊恋う月の扇に続き、群青の彩滴る扇に宝相華鮮やぐ扇が舞えば、南国の花舞い吹雪く世界が一気に華やぎを増す。
 鮮麗なピンクの花々に重なり舞う光の花、毒の霞を浚って翔ける風と一斉に羽ばたく鳥達が唄えば真昼の青空から月の光が射し――、
「待ってまだ消えないで! モニカも一花!」
「わあ……!」
 蒼穹に掲げられた魔鍵が楽園の門を開けば、空と水に輝く虹の間を二艘のゴンドラが翔けた。
「こりゃ見事だ。まさかこんないいもの観られるなんてな」
「ああ、本当に――見事だ」
 一瞬の絶景を確り胸裡のデザイン帳に描きとめたエアハルトが破顔し、ハルクが知らず眦を緩めた次の瞬間には再び南国の彩花の嵐が押し寄せる。眩暈がしそうなほどに鮮やかで美しい花の雨に包まれれば、花の香がするわけでもないのに甘く濃密な香りに酔う心地。
 熱い吐息とともに覚醒させた獣の血がすぐ向かいのエアハルトへ感染する。昂揚を共有するにも似た感覚にひそり彼と笑み交わし、ハルクは花霞の彼方へ瞳を向けた。
 外敵を拒む花はさながら山の番人か。
 それでも俺は――その先に眠る光に、触れたい。

●花霞の彼方の海
 鮮麗な南国色の花霞を抜ければ再び世界は涯てなき青空とそれを映した水の空鏡。けれど眼の前に聳える山裾にぽっかり口を開けた洞窟が今は何より蠱惑的に皆を誘う。
 砂の浜辺に寄せたゴンドラから降りて足を踏み入れたそこは、洞窟というより巨大な岩穴。
 それでも奥まで陽射しは届かず、ハルクが灯りを翳してみれば、
「絶景――ってな。まさに宝の山だ」
「ええ!? アンジュには普通の岩に見えますせんせい!」
「ふふふ、私も宝石商の血が騒ぐの間違いないわ。ここ絶対良い石がいるわよ!」
 微かに濡れて艶めく岩壁の様子にエアハルトが口笛を吹き、ぎゅっとケルビウムに抱擁されていたキウも嬉々として駆けだした。たちまち岩壁に鳴り楽しげに反響していくノミと槌の唄。
「宝石質のラリマーを採るのは結構難しいんだよな」
「そうなのよね〜。んんー……この辺とか出そう、かなぁ……」
 細工師エアハルトの言葉に頷きながら、宝石商の娘キウの瞳と指先は夢中で岩盤を辿り、これと見定めた岩肌へと慎重にノミを打ち込んでいく。雫が跳ねた頬を拭えば刷毛でひいたような泥の跡、艶やかな髪にも細かな石屑が絡まっていくけれど、キウの瞳は歓びの予感に輝きを増すばかり。
 黒とも灰銀とも思える岩の欠片が零れればその奥に――。
 明るく透きとおった南国の海の中から見上げたような、空の青。
「――見つけた……!!」
 大輪の光の花を思わす笑みがキウに咲く。
 ――こんにちは。計り知れない程の年月を越して来た、青空の塊。
「こんな暗い洞窟に青空が眠っているって、不思議ね……」
「不思議な話だ――というか、何かの奇跡のようにも思えるな」
 岩盤に覗いた空と海の輝きがまるで武骨な岩の中で護られてきたかのようで、何処か眩しげに瞳細めたハルクも口許を綻ばせた。槌を握る手は軽やかに、けれど空と海眠る岩の周囲を穿つノミの刃先はいっそう慎重に、優しい青を目覚めさせていく。
「宝石の採掘って繊細な作業なんだね、石に傷がついちゃったらどうしよう……!」
「大丈夫、私も不器用だけど、こういう時は無心で掘ってたら上手くいく。気がする……!」
 兄の見よう見まねでおっかなびっくり岩盤に向き合うモニカの隣で、胸を高鳴らせたユウも採掘にいざ挑戦。灯りに煌く空と海の青には柔い光が射すかにも見え、私はどんな模様に出逢えるかな、なんて胸を躍らせてくれるから、真実無心になるのは難しそうだけど――きっと、飛びきりの空と海に出逢えるはず。
 採掘は決して楽な作業じゃないけれど、新たな空と海に出逢うたびにキウの疲れも吹き飛ぶよう。
「むむ、良い石……これなら店主さんも大満足なはず」
「ほんとね、とっても綺麗……!」
 こんな素敵な鉱場を真っ先に識れた店主さんに嫉妬だわ、と悪戯っぽく紡いだキウの掌を覗けば、泥を被りつつも光揺れる水面を透かしたような空の青。瞳を瞠ったゼルディアも笑み咲かせ、きっと何処かにキウさんを待ってる鉱脈があるわと囁いた。
 だって世界は広くて、そして自分達は何処にだって行けるのだ。
「アンジュ、それ……!」
「えへへー。持ってきたよ! きたよ!」
 暁色が携えてきたミモザ色の光燈すランタンに頬も眦も緩め、ヴリーズィも優しい灯りに照らされる空と海の青を親友と一緒に掘り出してみる。まだ磨り硝子を透かした淡い青と見えるそれも、すべて顔を覗かせたなら――。
 この模様、同じものってないんだよね。と娘達が交わす言葉にエアハルトも微かに笑み、柔らかな光を封じた水面をまたひとつ岩の褥から掘り出した。ひとつひとつ異なる顔を覗かせるそれはまさに一期一会。
「なあ、ハルクならどんな装飾品にする?」
「装飾品とは異なるかもしれんが、俺なら白金製の儀礼用短剣の鍔に飾るかな」
 鍛冶職人を志す者らしい応えを返し、掘り出した石を手にしてハルクは、細工師と肩を並べて洞窟の外へ出た。
 墨色の双眸を初夏の陽射しが射る。
 水の空鏡の片隅で石を洗えば――覗いた空色の美しさと燈す波紋の優しさに息を呑む。
 磨かれれば更に美しくなり、そして何時しか誰かの心を癒す宝石となる。求められるほどに輝きを増すその姿は、まるで――。
「……綺麗」
 兄の眼差しの先で、妹がその手で掘り出した原石を掌に包み込んだ。
 明るい南国の海、透きとおる水面に煌く波紋。瞳を閉じれば目蓋の裏に椰子の葉が揺れる遥かな海の光景が浮かんで、笑みを零してモニカが目蓋を開けば、眼の前に幾つも増えた南の煌き。
 どれがいい? と殊更愉しげに瞳を煌かせたエアハルトが彼女の顔を覗き込む。
「ちゃんと本気で選べよ、お前のウェディングティアラに使うんだから」
「……ウェディング、ティアラ?」
 不思議そうに丸くなった瞳。
 けれど響きの意味が胸に染み渡れば、途端にその芯から歓喜が光に潤んで溢れだす。
「な、何でそういうことしれっと言っちゃうの! 順序が違うでしょプロポーズが先でしょぉ!」
 今にも泣きだしそうな、けれどどうしようもなく幸せそうな顔のモニカがエアハルトの胸をぽかぽか叩く様に微笑んで、ゼルディアはそっと己が掌の宝石に瞳を落とした。
 ――愛と平和を象徴する石。
 陽射しに透かせば明るい水と空の彩に光が踊った瞬間を切り取ったよう。瞳を細めれば真珠薔薇咲く湖中から引き上げてもらった、あの瞬間に見た光景が再び煌く思いがした。湖から、独りの世界から掬いあげてくれた大切なひとと一緒に胸に映した景色。
 胸元でひかりを握り込む。心の底に怒りや嫉妬が蟠る時、それを鎮めてくれる石。
 お願いしてペンダントにしてもらうから。
 皆が大切で大好きと想えた今の気持ちを忘れないよう、これからの世界を一緒に歩んでね。

●花霞の彼方の星
 涯てなき空の青が淡く透きとおっていき、眩く蕩ける夕陽の橙、柔く滲む薔薇の彩、深く澄んだ水に落としたような菫と様々な色を融け合わせ、やがて何処までもなめらかな黒絹の闇に金剛石の欠片めく煌き鏤めた星の夜がやってくる。
 汀に立てば天穹と水面の星空の只中へ来た心地。涼やかな夜風に艶やかな黒髪煽られれば身も心も星空へ連れていってもらえる気がして、ユウは解き放たれる想いで瞳を細めた。
「空、広いなあ」
「気持ちいいわよね……!」
 星空映す水面をゴンドラで渡るのもきっと飛びきりの心地好さ。
 想い馳せれば自然とキウも笑顔になって、ふうわりと風に遊ぶ髪を押さえながら振り返る。
「そうだ、アンジュも良い石に逢った?」
 砂塵まみれの服や手も、そんなのなんてことないと思える、空と海。
「うん! 見るー?」
「見せて見せて!」
 彼女がいそいそと水面のひかりを取り出せば、たちまち始まるお披露目会。
 明るい光射す水中世界から仰ぎ見た空、透きとおる珊瑚礁の海の浅瀬に寄せる波、揺らめく光が幾重にも波紋を描く水面、ひとつとして同じもののない空と海に笑み綻ばせ、ゼルディアが柔らかな香気と湯気をふわり溢れさせるお茶を皆へ配る。
「こんなに色んな子がいるのね、ほんとうに個性豊か……!」
「だよねー! ね、この夏はラリマーのアクセつけて、皆で辺境の海へ遊びに行けたらいいねぇ」
 リズちゃんやアンジュちゃんは石をどうするか決めた? と弾む声音でモニカが水を向ければ、何も考えてなかった、と初めて気づいたように暁色が瞳を瞬かせた。その様に眦緩め、
「わたしはイヤカフにしてもらおうと思ってるの」
 ――きっといろんな物語を耳元で囁いてくれる、そんな気がしない?
 ふふ、と知らず零れる笑みに乗せてヴリーズィが紡げば、アンジュもリズちゃんとお揃いがいいなと片腕にぎゅっとぬくもりがくっついてきた。掌の中には空と海のたったひとつの青、そして隣には掛け替えのない親友。
「あ。ほら見て、流れ星」
 ふと仰いだ夜空に尾を引く輝きを見つけ、ヴリーズィはひときわ明るい笑みを咲かす。
 天の星に同じものがないように、ラリマーに同じ模様がないように。
 誰もが、世界にたったひとりの掛け替えのない存在。
 ――大好きだよ。

 水面と山裾の境界に立ち、夜空と湿原を見霽かせば、天地もなくただ闇と星の煌きのみが広がる空間に揺蕩う浮遊感さえ覚える心地がした。奇跡のような光景。けれど、想い馳せるだけでもっと心震わす奇跡がここにある。
「奇跡みたいなもんだよな、お前とモニカは」
 確り向き合いともに成長してきた自分と妹をエアハルトはそう評したけれど、そうではなく。何処か遠い存在のように感じていた彼と二人で語らうこの瞬間でもなく。
「否、本当の奇跡は――」
 偶然の出逢いから惹かれ合い、苦難から逃げずに支え合った御前達が、今日まで寄り添い合って笑い続けていることだろう。
 ハルクが心からの想いを言葉にすれば、夜空と水面でひとつの星が強く煌いた。
 娘達の楽しげな声からは少し離れた星の世界の片隅。
 胸にすうっと染みいるような静けさに柄にもない緊張を融かして、エアハルトはゆっくり息を吸った。勿論親御さんにも挨拶にいく。けれどその前に、生まれる前から彼女と一緒だった双子の兄、魂の半身へ頭を下げた。
「――お前の妹を、モニカを、俺にくれよ」
 幸せにしてやってくれ、とは言うまでもないと思うけれど。
 考えるよりも先に、ハルクも彼に向かって深く頭を下げた。
「どうか、妹を頼む」
 ――そして、二人で、幸せになってくれ。



マスター:藍鳶カナン 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:7人
作成日:2015/06/03
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