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蕎麦屋見習いクヌギの頼みごと

<オープニング>

●男の頼み
 ここはアマツカグラの酒場。
「ちょっと皆さん、よろしいですか? この方が、手伝って欲しいことがあるそうなんです」
 虫好きの錬金術士・バズ(cn0142)が、一人の男を連れてきて、キミ達に声をかけた。
「や、どうも……俺の名はクヌギ。どうか、よろしくお願いするよ」
 クヌギと名乗った、三十路ほどに見えるその男は、にこりと笑顔を浮かべて一礼した。
「実は、俺は一年ほど前まで職に就いていなかったんだが……まあ、色々あって、もっとちゃんと生きようと思ったんだ。で、行きつけの蕎麦屋に弟子入りして、修業させてもらってな。それなりに美味い蕎麦が打てるようになった」
 しっかりとした意志を感じさせる表情のままに、彼は続ける。
「で、この間、その蕎麦屋の店主が腰を痛めてしまって。それで、店主は湯治に行くことになってな。手が空いてるのが俺しかいないんだが……まあなんだ、俺一人で店を切り盛りしてたら、客足が鈍ってしまったんだ」
 かしかし、と頭を掻くクヌギ。
「原因は……まあ、俺の蕎麦打ちの腕が店主に比べれば未熟、というのは、確実にあるだろうな。他にもあるかもな……何しろ俺は、まだまだだ。思い当たることがあれば、教えて欲しい。このまま客が離れてしまったら、店主に申し訳が立たないんだ」
 語るクヌギに、バズが横から補足する。
「もし原因が分からなくとも、できることはあるでしょう。例えば、お店の魅力を街の人達に宣伝し、お客さんを呼び込む、とかですね」
 ぱん、と両手を顔の前で合わせて、クヌギは懇願する。
「頼む! 蕎麦屋のために協力してくれ! できるなら、店主が戻ってきた時に驚くくらいに繁盛させてやりたいんだ!」
 バズが微笑む。
「まあ、そういうことです。彼のために、一肌脱いであげてください!」


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参加者
猛る烈風・アヤセ(c01136)
翔る疾風・セナ(c02046)
青空に響く歌声・カイジュ(c03908)
驟雨・キシス(c05687)
鋼嬢凱将・ニーナ(c12571)
黙っていればお嬢様・クラリッサ(c34521)
いばら姫・チサカ(c34909)
日輪の天剣騎士・レオンハルト(c35756)

<リプレイ>

●挨拶
 件の蕎麦屋の前に、エンドブレイカー一同はやって来た。クヌギが出迎える。
「あたしはチサカ! よろしくねー!」
「俺はクラリッサだ」
「カイジュと申します。絶対お力になりますよ!」
 いばら姫・チサカ(c34909)、黙っていればお嬢様・クラリッサ(c34521)、青空に響く歌声・カイジュ(c03908)が、それぞれ名乗った。
「おう、来てくれて感謝するよ。よろしくな!」
 クヌギがにっと笑顔を浮かべる。
「やあ、久しぶりだね」
「よう、久しぶりじゃねえか」
 驟雨・キシス(c05687)、鋼嬢凱将・ニーナ(c12571)が歩み出る。
「久しぶり、になるな」
 クヌギが2人を見て頬を掻き、小さく頷いた。
「クヌギさんが無事前向きになれたようでお姉さん安心しましたのよ。まさか一緒に食べたお蕎麦屋に就職してるなんて意外でしたわ」
「まあな。エンドブレイカーの皆のおかげだよ、本当にな」
 言ったクヌギと、日輪の天剣騎士・レオンハルト(c35756)の視線が合う。
「クヌギさん……ボク同様に変われたようですね」
「ああ」
「あの時交わした約束、今、ここで果たすと致しましょう」
 ――何か困ったことがあったら遠慮なく助けを求めて欲しい。
「果たして、もらうよ。よろしくな」
 にこり、笑ってクヌギは頷く。
「ちゃんと自分の道見つけられたんだったらしあわせになってもらいたいよねー」
「ええ、闇に心を囚われかけた方がこうして頑張っておられる姿を見るのはとっても嬉しいです! エンドブレイカーであって良かったと心から思います」
 チサカとカイジュが笑みを交わし合う。
「……クヌギさん、頑張っているね」
 翔る疾風・セナ(c02046)が呟き、猛る烈風・アヤセ(c01136)がそっと頷く。
 セナとアヤセは、喋る武器関連で何人かの最期を看取っている。
 だから……立ち直り、新しい自分の道を歩き始めたクヌギを見ると、感慨深い。
(「その道行きの、手助けができれば」)
 アヤセは目を閉じ、静かに微笑んだ。

●蕎麦屋会議
「まずは腕前を見せてもらおうかな」
「あなたの作ったお蕎麦、食べてみたいですの」
 と、キシスとニーナが言う。
「そう言われると思って、用意しておいたよ。さ、入ってくれ」
 クヌギに促され店に入ると、人数分の蕎麦が配膳されていた。
「んじゃ、早速」
「いただきます」
 席に着き、ぱきん、と割り箸を割る。
 つるつる麺を啜れば、ひんやりとした喉越し。
「ん、悪くねぇな……このまま客に出せそうだ。ただ……強いて言うなら、麺のコシに改善の余地がありそうだな」
 クラリッサが感想を述べる。
「そうなんだよな。後で、もっとじっくり研究してみようと思う」
 クヌギが真面目な顔で頷いた。
「お出でになるお客様は、美味しいお蕎麦以外にも、たくさんのことを楽しみにされているのかなって、私は思います」
 カイジュが口を開く。
「馴染みの主人や常連同士の語らい、そして勿論一緒に食べに来た友人や家族との楽しい時間。全部含めて味わいに来てるんです」
 カイジュは穏やかな微笑みを浮かべたまま、言った。
「和やかに楽しく過ごして頂ける、心地良いお店を目指しましょう」
「ありがとう、心強いよ。頑張ろうか」
 クヌギは力づけられた様子だ。
「まずは、このお蕎麦をいただきながら、新商品について考えてみましょう。蕎麦を中心に少し幅を広げると、きっと今まで以上に来てくださいますよ」
 ぴっとカイジュが人差し指を立てる。
「天ぷらはどうでしょう?」
「天ざるにするのか? うん、いいな。今の時季なら、山菜を使うのがいいか」
「それなら、私が提供しましょう。私が郷長を務める花咲郷は、実り豊かな土地です。山に入れば、山菜もとれるでしょう」
「お、助かる」
 すっと手を挙げたアヤセに、感謝の意を述べるクヌギ。
「それに、お蕎麦に合うお酒に、つまみの蕎麦がきも! きっとお店での時間がもっともっと楽しくなりますよ!」
「なるほど、酒に蕎麦がきか。そうだな! やってみよう」
 うんうん、とカイジュの提案にクヌギは頷いた。
「それと、お蕎麦だけではお腹が膨れない方のために、おにぎりも2個セットで付けることを提案致しますの」
「蕎麦の弱みを補う形か。それも、悪くないな」
 ニーナの案も、クヌギは受け入れる。
「あとは蕎麦湯なんていいんじゃない? クヌギちゃん。健康にもいいって父様言ってた!」
 はいはーい、と今度はチサカが手を挙げる。
「夏も近いし冷ました蕎麦湯とそばつゆいい感じに混ぜて味調節すれば……」
「健康にいい蕎麦湯か、良さそうだな。それは、金をとる商品にするよりは、無料での食後のお持て成しにするのがいいかもしれない」
 クヌギ、顎に手をやり思案。
「他にはわんこそばなんてどうかな? 物珍しさで入ってみようかなってお客さんとかいるかも」
 続いたチサカの提案に、クヌギは目を瞬かせる。
「その発想はなかったな……! 新しい客層の開拓が狙えそうだ」

●蕎麦打ちの極意
「まず、木鉢にこうやって、盆地状に蕎麦粉とつなぎを入れて……中央の窪みに、一気に水を加える」
 ここは厨房。レオンハルトが、クヌギに蕎麦打ちの仕方を教わっている。
 ランスブルグっ子のレオンハルトには、アマツカグラの料理は未知の領域であった。それでも、クヌギの手伝いをしたいと彼は思ったのだ。
「で、こうやって水回しを始めるんだ」
「ええと……こうでしょうか?」
「いや、もう少し指を立てて。回す速度をもっと上げるといい」
 一つ一つの手順を、丁寧にクヌギは教えていく。
「水の加減と水回し、練り込み、のして切り、茹で上げ……これら工程を、香りを飛ばさんように手際よく、だな」
 横で見守るクラリッサが言う。彼女としては、クヌギにはまず蕎麦打ちの回数をこなしてもらおうと考えていたのだが、クヌギがレオンハルトに教えることにより見えてくるものもあるだろう、と思い、特に反対はしていない。
 また、セナが客に出す分の蕎麦打ちを担当してくれているので、麺が足りなくなるというようなことも起きずに済んでいた。
 神社から焼け出された後、生きるために、アヤセと共に仕事をしてきたセナ。そんな彼だからこそ、給仕も蕎麦打ちもこなせるのだ。
「……と、まあ。これで一通り、蕎麦一丁の完成だ」
 クヌギは工程を教え終える。
「なかなか難しいですね……」
「いや。練りの工程での体重のかけ方はすごく良かったよ、レオンハルト」
「え……本当ですか?」
 思わぬ賛辞に驚くレオンハルトへ、クヌギは、はっきりと頷いた。
「それで、何か分かったか?」
 問うクラリッサに、クヌギは視線を向け、答える。
「ああ。問題なのは、水の加減だな」
 クヌギは語る。
 日ごとの気候や、打ち手の手の温度などによって、蕎麦粉に加えるべき水の量は、一滴単位で異なるのだと。
「こればっかりは、一年や、ましてや一週間で、急に会得できるものではない、な」
「いや、問題点が分かっただけでも、確実に上達には近づいたと思うぜ」
 クラリッサが、励ますように言う。
「蕎麦は味のパンチが弱い分、腕の違いがタイトに出る料理だ。その分、クヌギの頑張りが重要だ」
「そうだな、ありがとう。これまで以上に、頑張ってみるよ」
「それがいいぜ。ところで」
 クラリッサは、レオンハルトが打った蕎麦を見やる。
「これ、食ってもいいか?」
 彼女はハラペコであった。

●改装
「ご年配の方だけなんて、勿体ないです」
 カイジュはにこり微笑み言った。内装をお洒落な雰囲気にしてみよう、と。
「彩りを加えるのが良さそうだよねー。アクセントに季節の花を飾るとか」
 チサカが言ったのに対し、アヤセが応じる。
「それなら、ちょうど良かったです。私はこれを持参しました」
 アヤセが荷物を開くと、綺麗に咲いた花が顔を出した。
「花咲郷で取れた花です。いい店のインテリアになるかと」
「さっすがー、アヤセちゃん最高!」
 ぱーっと、明るい笑顔を見せるチサカ。
「ただいま。色々買ってきたよ」
 街に買い物に行っていたキシスが戻ってくる。
 マイスターコミュで店を探して、彼は様々な準備をしてきた。
「今は改装の相談をしていたのかい? それなら、まずはこれだね」
 キシスが荷を解くと、中から現れたのは、掛け軸に花瓶など。
「店内を清掃して、清潔感を出してから、これらを飾ればいいと思う。落ち着いた雰囲気と、居心地の良い印象が大切だろうしね」
「キシスちゃんもすごーい! でもってこっちは?」
 感心した様子のチサカが指さす先には、キシスが持ってきた別の荷物。
「これは食器。改善すれば、もっと良くなると思ってね」
 そちらを開けば、良質で上品なデザインの蕎麦皿や蕎麦猪口。
「それと酒類に、紙と筆記用具」
「紙と筆記用具?」
 不思議そうにするアヤセに、キシスは言葉を添えた。
「これから、チラシを作るんだよ。地図はマッパーで描いてきたし、建物や人の流れ、どの辺りにどんな人がいるか、も見てきた」
 それに、とキシスは笑顔を浮かべる。
「買い物の時に、あちこちの店に交渉してきたよ。チラシを、置いてもらえるそうだ。その店の場所もマッパーで記録してきたから、チラシが出来上がったら、宣伝に行く人に持って行ってもらおう」

●呼び込み
「畑仕事でお疲れの皆様ー。美味しいお蕎麦はいかがでしょうかー」
 レオンハルトが、歩きながら街の住民に声をかけていく。
 チサカは、アマツらしさを感じさせる曲を琴で奏でて、ハニーで人を寄せ、カーニバルコミュを用いる。
「さあさこれから暑くなってくるこの季節! 夏に向けておそばの新規開拓はいかがでしょーか!」
 チサカは明るい笑顔で口上を述べた。
「美味しいお蕎麦の康寧庵♪ 康寧庵へ、ようこそどうぞ、お越しくださいませ♪」
 カイジュもハニーを使いながら、店にほど近い場所で歌い上げて宣伝する。手にはチラシ、それに、ボイスブースターの魔法のスティック。なお、『康寧庵』は蕎麦屋の店名だ。
「すぐそこです、ぜひ来てくださいね!」
 人懐っこい、誠実そうな笑顔でカイジュはチラシを配っていく。
「はぁい! お蕎麦の天国までごあんなぁい!」
 ソルジャーコミュやエルダーコミュを使っていたニーナも、食事処を探していた者を数多く見つけた様子で、ハイテンションに案内をしていった。
 店の前には、少しずつ列ができ始める。並んで待っている客に、ニーナは用意しておいた一口クッキーを配っていった。
「ここのウリはなんと言っても次期に後を継ぐ者が作ったお蕎麦ですのよ。それまでお腹を空かされてくださいませ」
 へぇ、と感心の声が客の列から上がった。

●幕間
「……全く。兜だけではなく鎧もない姿を晒すなんて……昔を思い出します」
 休憩室に、鈴のごとく澄んだ声での呟き。給仕服を着たレオンハルトである。
「昔? 何かあったのか?」
 彼と同じく蕎麦打ち作業を休んでいるところのクヌギが、問う。
「――母上を亡くした後、父上は自らの財産を投げ打って、民のために一生懸命行動しました。その頃は、ランスブルグの宿屋で給仕をしていたんです」
「……なるほどな」
「……それも6年前に些細なことで人を信じられなくなりましたが――」
 クヌギは黙って、続きを促した。一拍の間の後、レオンハルトは言う。
「去年、エンドブレイカーになってからはボクは己の道を歩み続けました」
 すっとクヌギに差し出したのは、日記帳。
「これは……」
 クヌギはページをめくってみる。
 災害竜との戦い、大魔女との決戦、シャルラッハロート領主としての任命。
「……いや、自慢しているんじゃないんですよ。これまでボクが歩んだ道を客観的に残しているだけですから」
 笑顔で語りかけるレオンハルトに、クヌギは破顔を返す。
「レオンハルト。お前さんは、すごいよ」
「……! あ、ありがとうございます。だから貴方も、己を信じて頑張ってください」
「ああ。俺こそ、勇気づけられたよ。ありがとうな」
 そこに、冷たい緑茶の入った湯呑みを2つ乗せた盆を持ち、セナがやって来る。
「僕もやっと、実家の神社復興に取り掛かれたところ。お互い、道は遠いよね」
 湯呑みをクヌギとレオンハルトに渡しながら、セナは微笑む。
「神社の復興か……お前さんも、大変なんだな」
 クヌギはわずかに目を見張った。
「同じアマツカグラで、同じく新しい道を歩み出した同志。もし、神社の門前町に人が集まりだしたら、クヌギさんの蕎麦のお店のこと、話しておくよ」
「ありがとう。嬉しいよ」
「お互い、頑張ろうね」
「ああ。頑張ろうか」

●康寧庵の大繁盛
「いらっしゃいませ」
「ようこそー!」
 アヤセやチサカが、丁寧に接客を行う。
 キシス、クラリッサは皿洗いを。
 ニーナは、アヤセが提供した米を使って、おにぎりを握っていく。
 セナ、レオンハルトは、クヌギの蕎麦打ちの手伝い。
 カイジュは、店外での宣伝に集中した。
 このように、全員が各々、自分にできることを精一杯やった結果。
 いつしか、店内は大勢の客達で賑わっていた。
 それだけではない。
 店外には……長い長い行列ができていた。

●それから
「皆、今回は本当に助かった。ありがとう!」
 営業時間が終わった後、クヌギはエンドブレイカー達を労い、感謝の言葉を述べた。
 礼として、改めてクヌギは蕎麦を打ち、8人にご馳走してくれた。
 自領地のお菓子屋でクッキーに使いたいので、蕎麦粉を少し譲って欲しい、というニーナの希望も、クヌギは快諾した。
 蕎麦を食べ終えたニーナは、箸を置いて微笑む。
「きっといい2代目になれますわよ。こんなに心がこもってますもの」
「……! て、照れるな。ありがとう」
 クヌギは頭を掻いた。
 ちらりと彼が壁に視線をやれば、そこには客が書いてくれた色紙が飾ってある。『大変美味しゅうございました、また来店させていただきます』と。クヌギは、表情を綻ばせる。
(「少し心配だったけどこれなら大丈夫そうかな。また、時々様子を見がてらご馳走になりに来てもいいかもね」)
 キシスはクヌギの様子を見て、内心そう思った。彼の口元には、笑み。
「きっとこれからも、沢山の方が来てくださるでしょう。そしてどうかこれからも美味しいお蕎麦で、大勢の人をたくさん幸せに、笑顔にしてくださいね!」
「ああ!」
 カイジュの言葉に、クヌギはしっかりと頷き、にかっと笑った。
「美味い蕎麦で、人々に幸せと笑顔を与える。それがきっと、俺がこれから生きる理由だ」
 明瞭な声音で言うクヌギの瞳に、翳りの色は、もう、無い。



マスター:地斬理々亜 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2015/05/26
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  • ハートフル6 
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  • 生死不明:
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