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≪Marella≫ルーヤ・トゥルンジュのさざなみ

<オープニング>

●ルヤ・トゥルンジュの夕暮れ
 甘い眠りに蕩けて溺れて溢れだす。
 とろとろ目蓋が落ちてゆくよう楕円に蕩けた夕陽から、とろりと甘いオレンジリキュールの微睡みがとぷんと溢れてたぷんと世界を満たして、閉じた目蓋の裏に柔く眩いひかりがひろがるかのような、夢の淵へと誰も彼もを誘いこむ。
 ひとつ、ひとつとあかりが燈ってゆく街並みを映す水路の水面も甘い紅茶色に蕩け、ゆうるり行き交うゴンドラや街ゆくひとびと、まぁるいアーチを描く煉瓦橋の影は飛びきり甘いカシスリキュールの彩に揺れ、初夏の夕刻のひかりに融けて、揺らめく水面に見入っているうちに、まるで柔らかな水の流れと融けて揺れる光と影がこちらまで溢れだしてくるかのような感覚に溺れてゆく。
 優しい水の流れがあふれくるのにも似た、柔らかで淡く気だるく甘く涼やかでなまめかしい、初夏の極上の夕風にふわり泳ぎだす心地で向かうのは、ルヤ・トゥルンジュの夕暮れ市。
 紅茶色した水路沿いを、ミルクティー色した石畳がゆうるり下る坂道のマーケット。
 たぷんと世界を満たした眩く甘いオレンジリキュールの微睡みと、飛びきり甘いカシスリキュールの影なすひとびととその密やかなささやきささめきさざめきが、さざなみのように緩やかにひたひたと、石畳の路をくだりゆく。
 水の気配が滲むなまめかしい風に、頭の芯を甘く蕩かす南国の花の香り。
 世界が眩く甘いオレンジリキュールの微睡みに溺れる中、坂道に連なる店先に吊るされたランプを彩るプルメリアの花が――夢の中でみる夢のように、ひときわ眩く、白い。

 ルヤ・トゥルンジュの夕暮れ市。
 甘橙の微睡みが薔薇の彩に融け、菫色の宵に抱かれれば閉じる、初夏の夕暮れのひとときだけ溺れる、夢のようなその市を、本来の名で呼ぶ者はもういない。
 甘くて濃密な果実酒にとろりと酔う、夢見心地で、歌うようにこう紡ぐ。
 ――ルーヤ・トゥルンジュの、さざなみ市。

●ルーヤ・トゥルンジュのさざなみ
 さあ。
 閉じた目蓋の裏に柔く眩いひかりがひろがるかのような、夢の淵へと溺れにゆこう。

 たぷんと世界を満たす夕暮れの水面に足を踏み入れるように、坂道を下り始めれば熱く賑やかに跳ねて弾ける油の音。空いた小腹が堪らずきゅうきゅう鳴いてしまう揚げたての匂いを溢れさせるのは極薄ほろほろのパイ生地めいたフィロにぎゅっと美味を包んで揚げた熱々ブリック、肉汁たっぷり甘辛スパイシーなひき肉か、旨味も塩味もディルの風味も濃厚なフェタチーズか、甘い蟹のほぐし身たっぷり含んだベシャメルか、中からどんな美味が溢れだすかは齧ってみてのお楽しみ。
 こんがりまぁるくころんと揚げられたファラフェルも忘れちゃいけない飛びきりの美味。
 ひよこ豆を潰してたっぷりの大蒜と香辛料を混ぜて丸めて揚げるそれは、たかが豆と侮るなかれ。熱々を頬張ればほくほく食感の中から溢れる豊かな滋味と旨味のもう虜、濃厚な練り胡麻の風味が後ひくタヒーナソースを絡めて食べても、瑞々しい香菜や玉ねぎと一緒にピタパンに挟んで、甘辛いスイートチリソースで食べてもきっと、その夜の夢にまで見そうな極上の味。
 甘いぷるぷるレーズン入りの、飛びきりスパイシーなカレーピラフを詰めた花ズッキーニのフリットを頬張れば、熱くてほろ苦い、初夏の夕刻の夢が再び溢れだす。
 初夏の夕刻のひとときだけの夢。
 だからお行儀もあんまり気にせずに、好きなように摘まんで泳ぐように食べ歩き。
 夢の淵の中頃で弾けるのは飛びきり甘酸っぱくて瑞々しい果実の香りに果汁のしずく。
 透明感いっぱいの真紅に艶めくさくらんぼ、淡く透きとおる真珠色にぷるぷるするライチにマンゴスチンに、夏陽のように輝くパイナップルや夕陽みたいに蕩ける完熟マンゴー、きらきらフルーツ達をきらきらグラスに詰めてもらってそのまま頬張るのも絶対の幸せだけど。
 淡雪のように口の中でふわっと融ける雪花氷――ミルクと練乳を凍らせたかき氷をふわふわと降り積もらせた夢の雪や、ふるふるとろりとこれまた夢のように優しくなめらかな豆乳プリン――豆花に初夏のフルーツをたっぷり乗せて口へ運べば、きっと天上の夢を知る心地。
 大き目な硝子のストローでぷるんとタピオカを吸い込む感触も楽しいタピオカミルクティー、官能的なくらい甘酸っぱい完熟パッションフルーツのジュースに、ホワイトラムに完熟パイナップル果汁とココナツミルクを加えた飛びきりトロピカルなピニャコラーダ、冷たいそれらで心地好く喉を潤す頃には夢の淵の底まで辿りつく。
 舌もおなかもたっぷり楽しませたなら、今度は瞳もめいっぱい楽しませて。
 夢の淵の底に煌くのは、貝殻細工や銀細工に黄銅細工、それらにきらきら輝くカラーストーン達や硝子のビーズがあしらわれたお手頃価格のアクセサリー。
 涼やかな白銀の蝶の指輪から手の甲へ流麗な蔓花模様広がるパンジャ、真珠色の白蝶貝の雫と森の朝露めいたクリソプレーズの珠が連なるラリエット、さざなみのようにしゃらしゃら歌う繊細な黄銅細工の二連鎖に夕陽の煌きみたいなタンジェリンクォーツをあしらったアンクレット――。
 もっと眩く、もっと深くと煌きの波間に溺れていけば、誰のものでもない、あなただけの煌きにだって出逢えるはず。
 閉じた目蓋の裏に柔く眩いひかりがひろがるかのような、夢の淵。
 たっぷり溺れて、さざなみのように緩やかにひたひたと石畳の路を下り、夢の底へと辿り着く頃にはきっと菫色の宵が訪れて、ルーヤ・トゥルンジュのさざなみ市は店仕舞い。坂道をゆうるり下りたさざなみはもう夢には戻れない。――けれど。
 振り返ってみればきっと、店仕舞いの時にようやく燈された店々のランプの光と、それに照らされるプルメリアの花が、菫色の宵に描く星の河。

 ――ルーヤ・トゥルンジュ。
 蕩けるように甘い声音で紡ぐ、幸せなエンディングの響き。
「あんたが口にすると本当に魔法の呪文みたいだな」
「まあ。ほんとうに魔法の呪文なのよ? 愛らしい乙女達と素敵な殿方達にね、そうっと秘密めかして囁いたなら――乙女の夢と初夏の浪漫が叶ってしまうの」
 冒険商人の指が愉しげに藍の髪掬う感触にころり笑みを転がして、馥郁・アデュラリア(c35985)は柔い波間に沈む心地で陶然と銀の瞳を緩めた。

 さあ、愛らしい乙女達と素敵な殿方達へ、早速魔法の呪文を唱えにいかなくちゃ。
 そうして、乙女の夢と初夏の浪漫を詰めた極上のひとときに溺れるの。


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参加者
奏燿花・ルィン(c01263)
漆黒ノ竜・リューウェン(c02487)
万華響・ラヴィスローズ(c02647)
陽凰姫・ゼルディア(c07051)
馥郁・アデュラリア(c35985)

<リプレイ>

●ルーヤ・トゥルンジュ
 甘い眠りに蕩けてゆく夕陽の光に瞳を射られたなら、思わず瞬きをしたその瞬間からきっと魔法のとりこ。蕩けるオレンジリキュールのようにとろりと溢れてたぷんと世界を満たす、甘い微睡みの夢、そのさざなみに足元浚われて、気づけば陽凰姫・ゼルディア(c07051)はもう夢の淵。
 夕闇の切なさが不意に胸の裡を撫でたけど、
「――ルーヤ・トゥルンジュ。欲張りに愉しみましょうね」
「ええ、たっぷりと!」
 振り返ったなら目蓋の裏に柔らかにひろがるひかりのような夢の波に、とぷんと頭まで身を沈めた馥郁・アデュラリア(c35985)が悪戯に片目を瞑ってみせてくれたから、ゼルディアも笑みの花咲かせ暖かな夢の波に手足を掬われ泳ぎだす。
 ――みんなと一緒なら、夢の底の底までたっぷり沈んで溺れていける。
 ほんとじゃよね、と夢見心地で笑み零し、万華響・ラヴィスローズ(c02647)もたぷんと世界を満たす夕暮れの水面に足を踏み入れるよう、華やぎさざめく坂道のマーケットへ足を踏みだした。ひとりで溺れるのはきっと心細いけど、皆と一緒なら歓喜の海に沈む心地。
「るぅや・とぅるんじゅ……」
「甘く響く魔法の言葉だな」
 大切な姫君の唇で紡がれれば、よりいっそう。トリプルデートとはどのように振舞うべきものなのかと真剣に考え込んでいた漆黒ノ竜・リューウェン(c02487)の意識も、ラヴィスローズの囁きひとつで甘やかな夢の淵へ浚われる。きっと褪せることのないひとときに――と思い馳せた瞬間、賑やかに弾ける揚げ油の音や空いた小腹を刺激する熱々の匂いが飛び込んできた。
「リュー殿、あそこ!」
「ほら行こうぜ、ゼルディア!」
 夕暮れ時の涼やかな風、坂道に連なる店先にランプと揺れる純白のプルメリアの花の香り、それに出来たて熱々のブリックの匂いに誘われたならラヴィスローズも奏燿花・ルィン(c01263)も破顔して、それぞれ大切なひとの手を取り美味なる夢へ。
 次々と積み上げられていくこんがり狐色のブリックは、葉巻のようにくるり具を巻いた細長いものにぽふんと三角形に具を包んだものまでよりどりみどり。熱々の湯気と溢れる香辛料たっぷりの肉やチーズの香りにたちまち輝くゼルディアの瞳があちこち彷徨い、次いで向こうの花ズッキーニにまで飛ぶけれど、
「あちこち目移りしても、ちゃんと此処に戻って来てくれよ」
「大丈夫、戻るのも隣りも貴方でないとダメなのよ」
 鳥の羽包むようにふわり彼女の肩を抱き寄せたルィンのもう片手から二人分のダルクが売り子の手に躍ったなら、ありがとうと彼に身を寄せて、ゼルディアは選びとった熱々の三角に三日月レモンひとしぼり。ぽふんと齧れば爽やかなレモンの香りにほくほくのお芋の甘味とツナの塩味に、とろりとまろやかな半熟玉子が溢れ来て、
「……〜〜!!」
「ちゃんと半分こだかんな?」
 思わず頬を押さえれば隣からぱくんとルィンに齧られて、間近で瞳が合えば互いに笑み崩れずにはいられない。ほら、とルィンが差し出す熱いチーズとディルの香り溢れる細長いブリックも半分こ、懐いた小鳥のように迷わず啄ばむゼルディアが可愛くて、ルィンの機嫌もますます上向き加減。
 出来たてブリックを受け取ればその熱さにラヴィスローズの指先が踊るけど、
「お腹の星霊さんがもうきゅるきゅるぴんちなの……!」
 星霊さんのぴんちには抗えず、お行儀もそっちのけでかぶりつけば――ほろほろと崩れるフィロの中から甘い蟹のほぐし身たっぷりの熱々ベシャメルソースが溢れだした。口いっぱいに蕩けて広がる美味、口の中が火傷しそうな熱さにはふっと息をつくのも楽しくて、
「ね、リュー殿のは何のお味?」
「ん、これはひき肉のようだ。一口如何だろうか?」
 幸せに頬を紅潮させて見上げれば、穏やかに瞳を細めたリューウェンが笑み返す。
 熱い肉汁とエキゾチックな香辛料の香りとともに溢れ来る甘辛いひき肉入りのブリック、姫君へ差し出せば当たり前のように返るお裾分け、蟹の身たっぷりのベシャメルも堪能したなら、リューウェンのおなかは満たされるどころか目覚めるよう。
 愉しげに油の音が弾ける揚げたてのファラフェルも買い求めれば、
「ね、タヒーナとヨーグルトを混ぜたソースもお勧めよ?」
「ほい、夢の彩りももうひと振り」
 柔く優しい胡麻色の夢がアデュラリアの手から足され、砂鷲の魔想紋章士・ナルセイン(cn0172)が夕暮れにも鮮やかなパプリカパウダーをぱらり。
 おなかの巨獣さんがきゅるりと共鳴しちゃうの、なんて少女みたいに笑ってアデュラリアも揚げたて熱々のファラフェルを頬張れば、途端に溢れだすほっくりひよこ豆と大蒜の無敵のハーモニー。
「ナルセイン様もほくほく熱々する?」
「実はさっきからずっとお待ちかねです」
「まあ」
 ころりと転がす笑みと吐息でふうっと冷まし、口許へ運んでやれば愉しげに笑んだ男の口がぱくり。これもいけるぜとピタパンを差し出されれば、眼の前に咲いた瑞々しい香菜と玉ねぎと、夕陽の色のスイートチリソース纏ったファラフェルに、アデュラリアの顔にも歓びが咲く。
 瑞々しい香味と熱々の美味に細めた瞳に映ったのは、ごく自然に腕を絡めたゼルディアがルィンを花ズッキーニのフリットへ誘う姿。
 好きなひとが大好きなひとと笑いあう、そのひとときが堪らない極上。
 ――沢山沢山、幸せになってね。

●ルーヤ・メイウェレル
 たぷんと世界に満ちて溢れる甘いオレンジリキュールの微睡みに溺れて、紅茶色に揺れる水路の水面を見下ろせば、夢の中の夢に溺れるのにも似た不思議な気持ち。さざなみのようにひたひたと坂道をくだる皆のさざめきや人波に身を委ねるのも、愛しいひととならルィンにもこの上なく愉しくて、さぁんと割れた波の先にフルーツを見つけたゼルディアの眼差しがぱっと華やげば、笑ってその背を押してやる。
 淡い真珠色にぷるんと弾けて揺れるライチの実、鮮やかな色も甘く芳醇な香りも咲かせる花切りの完熟マンゴー、そして、
「きゃー! バンレイシ!!」
「へぇ、それが探してたって果物か? どんな味かねぇ」
 ぷるぷるの豆花に宝石みたいなフルーツをたっぷり乗せていたゼルディアがごつごつとした突起に覆われた不思議な果実に歓声をあげた。覗き込むルィンの眼の前でぱかりと割られたそれから覗く、白い果肉の房。
「ふふ、ふわふわのようなねっとりのような、不思議な甘さよね。ね、分けあいっこしてもいい?」
「妾も分けあいっこしたいのじゃよ! 見て、これなんかほんとずるい……!!」
 店先のプルメリアの花のように白い果実が並ぶマンゴスチンを手にしたアデュラリアと、ふわふわ雪花氷に黄金に蕩けるようなマンゴーをたっぷり乗せた硝子の器の誘惑に負けたラヴィスローズが自然とゼルディアを挟んで額を寄せあえば、乙女会議が始まる気配を察したルィンが男性陣に軽く目配せひとつ。
 姫君が言うところの『けむくじゃらのらんぶーたん』のぷるぷる果肉を味見していたリューウェンにもアデュラリアの手に咲くマンゴスチンを摘まんでいたナルセインにも当然異論はなくて、意味ありげに視線を交わした彼らはふうわりさざなみを渡り、氷煌く硝子にラム酒とココナツとパイナップルの香り弾ける飛びきりトロピカルなグラスを手に取ったなら、
 ――乾杯!
 硝子が鳴る音に続いて男性陣の愉しげな笑声が弾けたなら瞬きしたゼルディアも破顔して、甘い果汁煌くパイナップルを彼らに差し入れた。
「殿方達も内緒話? 思い切りどうぞ!」
「そりゃオトコ同士で語ることだってあるさ。――お互いの姫様が一番ってな」
「まあ。それは是非聞き耳を立てたいところだけど……ね?」
「乙女会議はきゃっきゃうふふで大忙し! なのじゃよ!」
 夏の陽色の果肉を摘まんでルィンが嘯けばアデュラリアやラヴィスローズも笑みを綻ばせ、けれどこちらもすぐに意味ありげな眼差し交わし、再び乙女会議のはじまりはじまり。
「さあ、可愛い乙女達に、はい、あーん」
「お姉様方、あ〜んなのじゃよ」
 甘い花めくマンゴスチンは口に含めば官能的な甘さと気品ある香りを柔らかに蕩けさせ、こちらも蕩けるようなマンゴーたっぷり乗せた雪花氷は、ねっとりした果実の甘味と飛びきりふわふわ優しいミルクの雪が重なる至福の味。
 けれど大好きな二人からのあーんが何より擽ったくて幸せで、
「私もお返ししちゃうんだから! はい、あーんして?」
 初夏のフルーツの宝石箱みたいに贅沢に装った豆花も分けあいっこ。
 溢れる果汁と練乳にちゅるんと蕩ける豆花に乙女達の幸せな笑みが咲き溢れれば、リューウェンも釣られるように口許を綻ばせ、
「これは、あれだな。女性陣が楽しそうにしているのを近くで愛でるというのも醍醐味なのだろうか?」
「愛でながら『俺の前じゃもっと可愛いんだぜ』って自慢しあうとこまでがセットだろ?」
「だよなぁ。そうやって惚気あうのも特権ってもんさ」
 緩めた眼差し向ければ、ナルセインもルィンも眼差し緩めて杯を掲げるから、この夕暮れの幸せに再び笑って乾杯を。
 藍の花や金の唄姫もそれぞれ魅力的だと思うが、やはりリューウェンの瞳は自然と薔薇色真珠の姫を追うし、彼らの眼差しもそれぞれの姫君を追うのだろう。そっと男性陣を窺ったアデュラリアが、歓喜に揺蕩う相貌がかわいいのよね、なんて囁いたのは乙女達の秘密の話。
「はい、お兄様方にはこっち!」
 満面に笑みを咲かせたラヴィスローズにグラスいっぱいに煌くさくらんぼを差し出されれば、更なる幸せにリューウェンの笑みが深まるけれど、
「小鳥さんとも今夜は休戦なのじゃ」
「畏まりました、姫。明日からまた『俺のリューウェン』って呼べばいいんですね?」
「ナルセイン殿、それは……!」
「う、うわあぁぁぁぁん! ナルセイン殿のばかばかばかー!!」
 何処か芝居がかった仕草で一礼したナルセインが悪戯に瞳を煌かせれば、思いきりリューウェンが狼狽して、可愛い握り拳でラヴィスローズが冒険商人の胸をぽかぽかしだしたから、皆にもひときわ愉しい笑みが弾けて咲き溢れた。
 眦に涙が滲むくらい笑ってゼルディアは、ふと瞳が合ったルィンとそっと手を繋ぎ合う。
 手を伸ばすことを躊躇っていたあの頃にはもう戻れない。
 大好きなひと達とこのひとときを共有できる今が、切ないくらいに――幸せすぎるから。

●ルーヤ・ユルドゥズ
 眩いオレンジリキュールの微睡みは、いつしか薔薇色の波に呑まれて深みを増す。
 たぷんと甘く揺れるココナツミルクの湖にぷるんと震えるタピオカに舌鼓を打てばラヴィスローズの瞳は緩むばかり。けれど夕闇に蕩ける視界にふと、石畳に落ちた自分と彼の影が並ぶ様が映れば、今更ながらにトリプルデートの響きが胸に染み渡り、少女の鼓動が大きく跳ねた。
 ――妾、リュー殿のお隣に居てもおかしく見えない?
 深いカシスリキュールの色に伸びる影の先にはもう、夢の淵の底で煌く宝物達が見えている。眩い煌きで胸が苦しくなる前に深呼吸、せめて背丈くらいは釣り合うようと背伸びをすれば、そこへ当たり前のようにリューウェンの手が差し出され、溢れそうな幸福とともにその手を取った。
 夢の淵の底は煌き溢れる宝箱。
 けれど眩いさざなみももうすぐ引いてしまうと知っているから、皆で一緒に夢見た証を。
「ね、みんなでこれを買うのはどうかしら?」
「成程、これなら女性も男性も着けやすそうだ」
 彩り溢れる煌きの波間からアデュラリアが掬ったのはラッププレスレット。縁と煌きを繋ぐような環にリューウェンが頬を緩めれば、素敵、とラヴィスローズも声を弾ませる。
「俺のはゼルディアに選んでもらうかね」
「任せて。ね、私にも見てくれると嬉しいな」
 一番傍で見てるからさ、と笑うルィンに甘く胸を締めつけられる心地になりながら、煌きの波間へと視線を彷徨わせたゼルディアが瞳を留めたのは、眩い光の滴めく金の珠の合間に、夜色や真紅に薔薇色、藍や銀のビーズが編みこまれた品。
 皆の色と、何より自分の色を傍に置いて欲しいと願う、ささやかな我儘。
 二人だけのお揃いも買っていこうか――と彼らが小さな真珠貝の鳥が羽ばたく銀細工を手に取る様を微笑ましく見遣り、緩やかな夕風に笑みを溶かしたアデュラリアが指に絡めるのは、三つ編みのレザーコードが柔らかな極光思わすオパールを六つ抱き留めたもの。
 ほんのりと皆の色を宿した石と、留め具にアンティーク調のボタンをあしらったそれはナルセインに似合いそうだと思ったから、
「あのね、贈ってもいい?」
「勿論。けど柔らかな色はあんたにも似合うからな。――俺からも」
 擽るように囁けば嬉しげに破顔した男が、形と石は揃いの、けれど留め具には優しく煌くエマーユの睡蓮咲く銀細工をあしらった品を女の手首に絡めてみせた。
 皆の手首に幸せな縁と今宵の夢の証の連なりが煌く頃には、薔薇の彩に融けた世界も涼やかに寄せ来た菫色の宵にとぷんと沈む。
 緩やかにくだる坂道の終わりに、とんと降り立てば、水辺の涼気深めた宵風に撫でられたけれど、微かに瞳を揺らしたゼルディアが温かなルィンの手に肩を抱かれて振り返ったなら、瞳に映ったのは皆で一緒に辿りきた星の河。
 深い菫の宵に燈された幾つものあかり、あかりに輝き照り映える、真白なプルメリアの花。
 戻りたい、という衝動がラヴィスローズの胸を貫いた。
 けれど彼女が選んだラッププレスレットを愛しげに指でなぞったリューウェンが、これを見るたびに今日の事を思い出しそうだ、と微笑むから、彼が選んでくれた煌きに触れた少女も微笑み返す。
 ――寂しくなんてないのじゃよ。だって皆と一緒だもの。
 けれど願わくば、夢の涯てでいつか、また。
 そう望むのはきっと皆おなじ。夢の淵の底を潜りぬけた現でもう戻れない星の河を振り仰いていたアデュラリアが、柔らかな藍の髪をさざなみのように翻して振り返る。
「ね、楽しかった? 幸せだった?」
 ――また一緒に夢を見てね。
 唇に指を当ててのひめごとに、誰もが自然と手首の夢の証に触れて頷いた。
「また一緒の夢を、きっと……ね?」
 夢の余韻といまだ繰り返し寄せる幸せの波の中、皆の幸いを願いながらゼルディアは、ふうわりと手の温もりをルィンと重ね、どちらからともなく微笑み合う。
 手を繋いで帰りましょうかと柔くナルセインの指先に触れれば、アデュラリアの胸で乙女心がとくりと音を立てた。掌が掬われ、指が絡めば、はにかむ乙女のように淡く笑んで、ほうっと溢れた至福の吐息に言の葉を乗せる。
 ――ルーヤ・トゥルンジュ。
 吐息に溶かしてひそやかに、魔法の呪文を唱えたら。
 きっと再び、柔らかな夢のしじまへ溺れていけるから。



マスター:藍鳶カナン 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:5人
作成日:2015/06/08
  • 得票数:
  • ロマンティック6 
冒険結果:成功!
  • 生死不明:
  • なし
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